青紫色のまだら模様があちらこちらに流れていく空間の中に、僕は仰向けの体制で大の字に寝ていた。  
不思議なことに、手足を何かで固定されているわけでもないのに、全く身動きがとれない。  
何とかしてこの状態から逃れようと必死になってもがこうとするが、まるで金縛りにかかったかの如く、腕と足が命令を聞かず、その状態を保っているのだ。  
“もがく”を繰り返し繰り出していると、頭の方からだろうか。かなり遠くの方から薄気味悪い笑い声が聞こえてきた。  
しかも、その笑い声は時間が経つに連れて、だんだん大きくなってきている。  
それなのに、僕の気持ちは恐怖、ではなく、よくわからない緊張で満たされていた。  
理由は大の字で動けないというこのシチュエーションであれば、明らかにどんな立場に立っていることくらいは鈍感な僕でもわかる。  
僕の予想が間違っていなければ、これから僕は何者かによって犯される運命にあるのだ。この状況下であれば雄雌問わず誰だってそう考えるに決まっている。  
笑い声の主が、丁度僕の頭の辺りで止まる気配がした。同時に笑い声もピタリと止む。しんと静まりかえった中、急にそれは僕の顔を覗き込んだ。  
「お、お前は……!」  
僕はその顔を見て驚きの声をあげた。なぜなら、今僕が顔合わせしているのはキレイハナなのだが、姿形が全く僕と同じキレイハナだったのだ。  
僕は、池に映った自分を見ているような、そんな錯覚に捕らわれた。  
「だ、誰だお前は! お前が僕をこんな目に遭わせたのか!?」  
僕は目の前のキレイハナに問うた。  
次から次に起こるわけのわからない展開に、拍子抜けしそうになり、頭がどうにかなっちゃいそうだ。でも、それでも僕は脱出しなければならない。自分に似た輩なんぞに犯されるなどまっぴら御免だ。  
自由に体が動けないのなら、この先どうなるか分からないストーリーであるのなら、口を使って相手から情報を聞き出し、状況を把握しよう。  
冷静沈着が僕に脱出のロードを切り開いてくれるのを信じて。  
 
「そうさ。僕がお前をそんな目に遭わせているんだ」  
声まで僕に似ていた。黒いオーラか何かを背中に纏っているそのキレイハナはにやにやした顔で言う。  
「ふざけるなっ、お前なんかのために何故僕がこんな目に遭わなければいけないんだ。早く僕を自由にしろ!」  
本当にふざけるな、だった。  
上から僕を見下すように見るキレイハナ。正体はどうせメタモンが変身しているに違いない。  
紫色のスライム状のポケモンは、変身という技を使うことができると言われているのを思い出した。それは自分が変身したいと思った標的のポケモンを一目視ただけで、姿、形、声、性格、口調までを変身でそっくりそのまま真似ることができるのだ。  
奴等は別名生殖族とも言われ、己の子孫を残すためだけに、標的にするポケモンを定めると必ず犯し、己の遺伝子、もとい子孫の遺伝子を残すので、多くのポケモンたちから恐れられている。  
「お前の期待を裏切って悪いけど、僕はメタモンなんかじゃないよ」  
別に僕はお前がメタモンであって欲しいなんて願っていたわけじゃない。僕は犯される前に脱出することこそが、今の僕の願いなのだ。  
それよりもこいつ、今僕が思っていたことに対して答えたぞ。僕の口が気がつかぬうちに声を出していたのかな。  
「残念ながらそれは違うよ。僕はお前の考えていることが何だってわかるんだ。だからお前の心の声は全て僕に筒抜けなのさ」  
ふふん、とキレイハナは笑った。  
「う、嘘だ。そんなのありえない」  
「嘘じゃないよ。その証拠に、僕がここに辿り着くまでにお前は僕に犯されると予想していたじゃないか。だから僕に話しかけて、隙あらば脱出を試みようとしているんだろう?」  
逃がしはしないから安心してよ、とキレイハナはからからと体を反らしながら笑った。まさかとは思うがここまで正確に読まれているとは。こいつは一体、何者なんだ。  
「僕かい? 一目見たときにわからなかったのかな。僕はお前自身だよ。心の裏に住む、もう一匹のお前さ」  
目の前のキレイハナは、澄ました顔で僕に言う。  
 
「もう一匹の僕!? ということはここはもしや……」  
「心の裏世界へようこそ。ここは心の表であるお前が寝ている間、裏の僕が自由に活動できるように造り出した遊技場。表世界のお前たちはこれを夢と呼んでいる。  
お前が自由に動けないのは、お前が僕の支配する世界の中にいて、僕がお前の体を支配しているからなんだ」  
ゲンガーの言っていたことは本当だった。こいつが僕に夢精を起こさせていた犯人だったのだ。とはいえ、犯人が僕の心の裏なるポケモンだなんて。迷惑極まりないし、何だか滑稽にも思える。  
「何とでも思え。ここは僕が支配している世界であることを忘れるな。何もできないお前に何を言われようが構いやしない」  
「それなら言わせてもらうけどね、お前がこの世界でいやらしいことをしているお陰で僕はありがた夢精に迷惑しているんだ。どうにかしろよ、このド変態鬼畜ひねくれ野郎めっ!」  
今まで夢精に対して思い続けてきた、溜まっていた怒りを込めて、彼に渾身の台詞をぶつけてやった。言葉の暴力は体ではなく、心の方を傷つけてしまうということを僕は知っている。  
どうだ参ったか、この性欲の固まりが。何とも情けない奴だ。自分の心の片割れがこんなにもエロスだったとは。僕も落ちたものだ。  
「五月蝿いね。自由自在に操れるこんな世界を性欲に使わずに何に使えと言うんだ。現実世界でルールと他人ばかりに気をとられているお前に何がわかる。  
表のお前の気持ちと行動を通して、ある日僕は気づいたんだ。世の中快楽が全てなんだ。気持ち良ければそれで良いんだ、と。だから、僕は常に欲求不満なんだ」  
彼がそう言い終えると、彼の隣の空間に、僕の姿をしたキレイハナが現れた。  
「いつもの通りやっちゃって」  
そのキレイハナは彼から聞いた言葉を無言で頷き、それから僕の前の方に回り込んだ。無表情の顔をしたキレイハナの手が、僕のフリルに手を伸ばし、それをサッと捲りあげた。  
当然、隠していたモノが露になるわけで、僕の性器は晒け出される形となった。  
「まさかお前本当に……や、やめろよ!」  
動けない体制で性器を晒す。間違いない。これは典型的な犯されるパターンだ。恥ずかしいからやめろって。  
「犯されるって思ってたんでしょ? だからその願いを叶えてやろうと思ってさ」  
クフフ、と彼は笑った。  
 
「なんてね。さっきも言っただろ。ここは快楽と性欲が全ての世界。僕はお前をしこたま犯したい。ただそれだけさ。だから思いっきり乱れて盛大に喘いで僕を満足させてね」  
言い終えると同時に、前の方にいる無表情のキレイハナが、僕の性器を握り、上下に動かし始めた。  
「くぅっ。夢の中なのに、何で……」  
ここは夢の中であるはずなのに、体がモノの刺激を感じてしまった。お陰で性器は少しずつ肉棒へと成長していく。  
「今のお前は完全に裏の世界を認識してしまっている。だから感じるんだ。これまでは認識できてなかったようだけどね。言っておくけど、表の心のお前と裏の心である僕たちの住む本体は感覚を共有しているんだ」  
「つまり、ここで僕が射精したら……」  
「寝ている本体も射精する。しかも、お前が逝った瞬間にな」  
背筋が凍りついたような感覚に、僕は身動き一つできなかった。  
実際は夢を支配する裏の僕が、体を動かすことを許さないだけだし、完全に肉棒と化した性器を上下に動かされると、呼吸が早まり体が芯からじんじん熱くなる。これなら凍りついた背筋など溶かせてしまう勢いだ。  
いやばか違う。早くも思考が壊れてきてるな。  
裏の僕が言った言葉。表の僕を夢の中に引きずり込み、犯し、逝かせる。まさにこれこそが夢精のメカニズムであり真相だったのだ。  
そして分かった真相がもう一つ。これは何と世にもおぞましい拷問なんだ。これから僕は、夢精を起こさないためにも、様々な性攻撃に耐えなければならないのだ。  
時には逝きたいと折れるかもしれない。いや、もう折れてしまいそうだ。刺激が大き過ぎる。  
「どうだね。自分自身に犯される気分は」  
今にも逝きそうな感覚になっていたので、答える余裕もなかった。  
やはり、無言無表情に僕を犯し続けるこのキレイハナは僕自身だった。大方裏の僕が造り出した幻影の分身に過ぎないのに、それに逝かされようとしているなんて。  
更に分身の行為はエスカレートした。僕の股間で聳え立った肉棒を分身は口でくわえ、上下のピストン運動を繰り広げる。  
「そ、そんな……んあぁ……自分に、う゛っ……フェラされ……い゛あっ……」  
口の中に酸っぱい味が染み込んだ。あまりの屈辱に目が流した分泌液か。熱い行為により火照った体が流した分泌液か。何であろうと不快とは思わなかったが、刺激を受けた体が、更なる快楽を求めようとすることだけは不快に思った。それでも、分身の口内は暖かかった。  
 
「もうやめて! 出ちゃう! 出ちゃうよ!」  
限界寸前だった。肉棒ははち切れんばかりに怒張し、分身の口内で暴れようとヒクヒク動くのが感じられた。夢精を防ぐためにも、どう肉棒の力加減をすればいいのか分からず、無意識のうちに小さく小刻みに力を出し入れしていた。そして我慢の境界を越えた僕は遂に――  
「はっ、あ゛あ゛っ! ……ぁ」  
情けない声と共にオーガズム、快楽的絶頂を迎えてしまった。肉棒がポンプのように、分身の口内にどぴゅどぴゅと精子を叩きつける。  
「ヒャハハハハッ! イッたみたいだね。おーよく出るよく出る。まさに快楽に誘われて肉棒が踊っているようだ。そんなに溜まってたのかい?」  
裏の僕は、コクンと喉を鳴らしながら肉棒の先端から吐き出される精液を飲んでいる分身を見て笑う。  
「どうだい。自分自身にフェラされて逝かされた気分は? 気持ち良かっただろう」  
僕は呼吸を整えるのに精一杯だった。逝った体は力が入らず、酸素を求めて空気を吸い込み、そして吐き出す。唯一反応できたのは、時間と共に萎えていく肉棒を綺麗にするまで、分身がそれを舐める度に体を振るわることだけ。  
「しっかりしなよ。これからどんどん盛り上がっていくんだぜ。さて、次はアナルセックスタイムだ。その前にアナルを挿入しやすい環境にしなきゃね。準備体操がてらにフィストをしてあげよう」  
その台詞は嫌でも頭の中に印象づいた。  
「アナルセックス……フィスト……だと……!」  
アナルも犯す気なのか。それに準備がてらにフィストをするだなんて。指のあるポケモンならまだマシとして、キレイハナに指などない。  
どうやら僕のアナルはそのまま素手全てを受け入れなければならない定めにあるようだ。  
夢だからとはいえ、僕は本体と感覚を共有しているんだぞ。本体のアナルに何かあったらどうするというんだ。そう思っている内に、裏の僕と分身は行動していた。  
分身に広げられた足を頭の方に持ち上げられ、裏の僕がそれを取り固定する。すると、僕は尻を分身に突き出す体制となった。アナルにふわりと空気が触れ、なんとも言えない羞恥心がこみあげてきた。  
 
さらに悪いことには、この状態から自分のアナルが犯されるのを見れるのだから、尚更恥ずかしいいことこの上ない。  
「大丈夫。お前の意識にとってはこれが初めてかもしれないが、僕は今回で八回目なんだ。安心してアナルの力を抜いて良いよ」  
そう言われても、その手の大きさだとアナルに入るわけがない。無理に入れたら激しく痛いに決まっている。いやだ、絶対そんなのいやだ。そんな快楽と肛門破壊の等価交換なんて。今すぐ穴の中に堕ちて死にたい。  
「ぁ……」  
――感じる。僕のアナルに分身の手が触れているのを。  
「はうぅ……」  
僕のアナルを分身がマッサージして肛門活約筋をほぐしているのを。  
「あう゛っ!」  
僕のアナルの中に、少しだけ分身の手が侵入した。異物感に、自然とアナルに力が入る。  
分身は片方の手でアナルの周辺をマッサージして筋肉をほぐしつつ、もう片方は僕のアナルをじわじわと慎重に開発する。  
周辺の筋肉をほぐされた僕のアナルは油断し、一瞬だけ力が抜けて広がる。そこを分身はすかさず、さっと手を押し込んだ。あまりにも大きいその手は、遂に僕のアナルの中に消失した。  
同時に、僕の体中に異様な気持ち悪さが増していった。  
「よしっ。まずは第一段階を突破したな。次は第二段階にいくぞ」  
アナルの中に入った手がじわりじわり奥へと侵入していく。動く手が直腸と擦れて痛い。奥まで入れた手が止まったかと思えば、出入口近くまで引き抜かれる。また奥へ。引き抜かれ。また奥へ。引き抜かれ。最初はゆっくりだったそのスピードも、だんだん早くなってきている。  
異物を感じた僕の中がヌルヌルの分泌液を分泌して、それが潤滑油の役割を果たしているのだろう。ある程度痛みが柔らいだ気がする。  
「うひゃあうっ!」  
全身に快感の電流が伝達したのを僕は感じた。よくわからないが、僕の中の手が中を擦るのを止めて、しきりにある一点を刺激している。その度に、下腹部の奥が気持ち良くなる。  
 
「これはだね、前立腺を刺激しているんだよ」  
これが前立腺の気持ち良さなのか。何だか不思議な感覚だしクセになりそうだ。と思っていると、裏の僕が鼻の下を伸ばして僕を見ていることに気がついた。いかんいかん。危うく奴の罠にはまるところだった。どれ程いやらしい表情を僕はしていたのだろうか。  
いやはや、ここが夢だからといえど侮れない。感覚を認識しているのだ。ここで逝けばまた夢精を起こしてしまうことを忘れるな。耐えに耐え続けよう。裏の僕の成すがままにさせて堪るものか。  
「えてしてその心意気はどこまで続くかねぇ。心ではそう思っても、体は本当に素直だな」  
裏の僕が何を言っているのか、ちんぷんかんぷんだ。  
「おいおい、自分が逝ったことにすら気づかないとは。よっぽど気持ち良かったんだな」  
そう言われ、視線を裏の僕から下半身にやると、僕の肉棒は溢れんばかりの精を噴火し終えたあとだった。気づけば前立腺の刺激もなく、手もアナルから抜かれていた。  
ぬかった。二度目の射精を許してしまうとは。あまりの気持ち良さに逝ったことに全く気づかなかった。なんたる屈辱  
羞恥と己の弱さを目の当たりにした僕は、抵抗することもできない。  
ただ裏の僕のやりたい放題に犯されているだけ。抵抗も何もできない。乱れに乱れて、快感をままに感じて絶頂し射精する。それしか今の僕にはできなかったのだ。考えを読まれているとはいえ、肉体だけでなくじわじわと地味に心まで犯されている。  
「次はほら、本番のアナルセックスだぜ」  
裏の僕が言い、無表情の分身は自分のフリルを巻き上げて、僕のアナルに自分の股間から飛び出しているピンク色の巨頭をつける。  
そして戸惑うことなく腰を落とし、それを突き刺してきた。  
「ひぃっ……うく……んっ……んあ……」  
分身の太くて熱い肉棒が僕の中に入り、アナルは何の抵抗もなしに、ぐぷぅと分身の肉棒を飲み込んだ。下半身が麻痺したかのようにぴりぴりする。先程フィストされていたから少々の痛みだけで留まったのは不幸中の幸いだった。  
新たな異物に気づいた僕の中は、肉棒に反発して、ぎゅっ、ぎゅっ、とそれを締めつけ、潤滑油の代わりになる分泌液が肉棒に染み込んだ頃を図って、分身は腰を軽く動かし中を掻き回した。既に分泌液を纏ったそれは、滑らかに中を擦る。  
 
アナルギリギリまで肉棒が滑って、さっきまで肉棒があった空間がヒリヒリするし、何だか気持ち悪い。それなのに、体は素直に感じてしまう。  
再び肉棒は押し込まれ、中と擦れ合う。それを僕に休む暇も与えずに繰り返していく。この流れが短い間に起こっているのだ。それでいて次第に早く、間隔も短くなっていく。終には肉棒が前立腺までも突いてきた。  
「あぁ……くっ……ふぁっ、あ……あっ……」  
感じて乱れた喘ぎ声を聴かせて奴を喜ばせまい。そう思い、声を洩らさないよう口をがっしり閉じていたけれど、それを制御できなくなっていた。自然に喘ぎ声が出てしまう。  
今頃気づいたのだが、僕は分身の肉棒でアナルを犯されているだけなのに、どうして僕の肉棒もこんなに気持ちが良いと感じるのだろうか。あり得ないことにこの感覚はまるで、自分の肉棒を自分のアナルに挿入してピストン運動しているかのようだ。  
「両方感じれて気持ち良いだろう。お前は犯される側だが、犯している側のキレイハナはお前自身も同然なんだ。お前なんだから感覚を共有していても何ら不思議ではないだろう」  
だからもっと喘ぎなよ、気持ち良いだろ、我慢しないでお前の全てを出しちゃいなよ、出すまでは止めないんだからさ。誘惑の声がかけられる。屈したらダメだ。屈した時点で負けなのだ。  
でも、犯されている時点で体はもう奴に屈している。いや、まだ心は屈してない。裏の僕の思い通りにさせてはいけないのだ。  
体の感覚が逝きそうだ、と肉棒に伝えたそのとき、分身が大きく腰を引いたのが見えた。それから勢い良く、肉棒を僕のアナルに突き刺し、前立腺に追突した。  
「あ゛あ゛ぁっ!」  
今までに感じたことがない感覚だった。これはそう、朝の日差しを受けて目覚めた時の気持ち良さよりも気持ちが良い。  
射精と呼ぶ名の白いハイドロポンプは中と外で同時に起きた。中は分身の射精で外は僕の射精。暖かい液体が僕の中を充たしていくのが嫌でもわかる。  
その上分身とも感覚を共有しているわけだから、分身も射精したということは本体は二倍射精したということになる。誰も夢精した僕を見ていませんように。快楽の意識の中、そう願うことだけが精一杯だった。  
 
「おやおや、表の僕は草タイプであるはずなのに水タイプの技を使えるとはなかなかやりますな」  
裏の僕からの皮肉の雨。五月蝿いだまれ。僕や水タイプだけでなく、他のタイプの雄や雌だって水タイプの技を使える(エロスの意味で)くらい知ってるくせに。  
ぬぷ、と滑るように分身は僕のアナルから肉棒を抜いた。白い液体が僕のアナルからなみなみと溢れ、荒い息遣いだけが広い空間の中に伝う。射精したというのに、分身は呼吸すら乱れておらず、無表情のまま。  
「三度の……いや、四度の射精も抑えきれないとは、表の僕はやっぱり僕と同じエロいキレイハナだ。最初の気持ちはどこへやら。ああ、そうか、快楽に溺れてしまったんだね」  
ははは、と裏の僕は嘲笑っていた。  
「くそっ……たれ……!」  
それでも僕は屈しない。ひねくれ鬼畜野郎に負けてなんぞいられないからだ。だから禁句は絶対言わないのだ。  
「あん? その状態でまだ僕を愚弄できる余力があるとは。まだまだお仕置きが足りないみたいだな。流石は表の僕だ。素直じゃないなぁ。……そうだ、やおい穴をつくってあげよう。心配はご無用、ここは僕が思ったことをなんでも形にすることができるのだから」  
愚弄されたことよりも、むしろ裏の僕はただ性欲に満足し足りないようで、僕にやおい穴を付けると言い出したのだ。やめろ、ばか。冗談じゃない。これで本当に付いたら僕は本当に変態だ。変態中の変態、変態ばかだ。  
「はぐぅっ!?」  
時既に遅し。直後、股間に物凄い痛みが響き渡った。  
肉棒とアナルの間辺りにじわじわと、第2の穴が開いていくのが手に取るように分かる。この下腹部に感じる痛みは、穴だけがつくられているだけじゃなく、子宮や卵巣といった雌の生殖器もできていることなのだろうか。  
なんという醜態。そしてそう考えているうちにも、僕の下半身は痛みと共に更に変態と化しているのだ。裏の僕は、股に雌の生殖器が体内に発生中、ぴくぴくと僅かに下半身を動かして激しい痛みに悶える僕を見て、黒い笑顔を浮かべている。こいつとことん最低な変態だ。  
やっと痛みが治まったころには、もう体はヘトヘトだった。先程肉棒とアナルを犯されたことも原因に入るのだけれど。  
 
「クフフフフ。どうだ。更なる変態になった気分は」  
頭の花を鷲掴み、持ち上げられる。頭を引っ張られる痛みと慣れない生殖器による痛みに耐えて、うぅ、と呻き声をあげることしかできない。  
「そうかそうか。相当嬉しいようだな。ならばもっと犯してあげよう。気持ち良くさせてあげようじゃあないの」  
パッと鷲掴みにされている手を離され、抵抗もなく首からゴトリと地に落ちる。  
分身を見ると、僕の股をまじまじと見つめている。その視線の先には、できたてほやほやの縦線があるのだ。  
分身が手を僕の股に伸ばし、ぴとっとその線の上に乗せる。それからゆったりと線に沿って上下に動かされて、くすぐったい感覚が生まれた。無いはずのやおい線を擦られているだけなのに……。  
「んっ……んんっ……」  
無意識に出てしまう喘ぎ声。手のスピードが早くなって行く度に、喘ぎ声も呼吸も比例して回数が多くなる。火照っていたからか、頭がボーっとしてきた。今までのことがどうでもよくなってくる。このままずっとこの感覚に浸っていたい、そう思ってしまう。  
「クフフフフッ。良い子だ。目がトロンとしている」  
分身の両手がやおい線を開き、やおい穴をまじまじと見つめる。やおい穴からは、たっぷりと愛液が溢れていて、分身はそこに顔をうずめてその愛液を舐めとった。  
「ちょ、やめ……あぁん……」  
我ながら可愛い声を出してしまった。分身が愛液を舐めた時に穴の中、つまり舌が肉壁が当たったのだ。くすぐったいし恥ずかしいけれど、雌ってこんなに気持ち良いんだ。雌に生まれたかったな、と僕は思った。  
無表情の分身は、僕のやおい穴から出てくる愛液を舐め続けた。止まるどころか分身は積極的に愛液を求めて穴の奥深く、膣奥まで舌を侵入させて、肉壁を舐めて愛液を搾りとった。  
「はぁ、あぁん……気持ち……良いよぉ……」  
限度を知らない愛液は、分身に舐められてさらに膣壁からの分泌量を増し、それを一滴も漏らすまいと分身は舌を動かし、口に含んでは飲み込んだ。  
「こっちの刺激も忘れてないかい?」  
裏の僕は嬉しそうな声で言い、分身が膣を舐めながら僕の肉棒を握って上下に動かし、忘れかけていた刺激を無理やり蒸し返したときに、はっと我にかえった。  
ここでやっと、僕は自分の心が快楽に浸っていたことに気がついたのだ。  
 
「気づいてももう遅いよ。お前の心はもうすぐ素直になるんだ。この体のようにね」  
ぴたりと分身は動くのを止めた。顔と手が僕の股から離れるが、それでも視線は股にある二つの生殖器から離しはしなかった。  
「犯せるところは全て犯すんだ」  
裏の僕は、分身に命令を下すと、何もない空間からまた僕の分身が一匹現れた。その無心で空っぽである分身は、手に持っていた電動式のローターを、僕のアナルの中に無理やり詰め込むようにして入れた。  
二度も犯されたアナルは、少しは抵抗したものの、開発されていたことと精液と中の分泌液で滑りが良くなっていたので、すんなりそれを受け入れて飲み込んでしまい、甘い声だけが僕の口から溢れた。  
その分身は僕に跨がると、絶えず勃起している僕の肉棒をくわえ、更には、裏の僕が僕の口を開き、その口に、抵抗すらできないこの口に、いつの間にか勃起していた自分の肉棒をくわえさせた。とてつもない熱さが口内に広がり、硬いそれはちょっと生臭い臭いがする。  
いわばシックスナインの体制だ。この体制により、分身のフリルで視界が遮られたのを良いことに、アナルを犯した分身は僕のやおい穴の入り口――つまり膣口に肉棒の先端を添えた。ぶるっと身震いをしてしまう。  
「良い反応じゃない。これからたっぷりと犯してあげるから快楽に溺れるのを楽しみに待っててねっ!」  
と裏の僕はまんべんの笑顔で言うのだった。  
さっきから口調がコロコロ変わっては恐ろしいことばかり言いやがる。こいつ、相当鬼畜なキレイハナだ。いや、鬼畜変態過ぎてキレイハナじゃなくなっている。キレイハナの姿をしたこのポケモンは単なるエロスポケモン、その名もエロイハナに違いない。  
キレイハナの僕も進化すればこのような変態になってしまうのだろうか。絶対に嫌だ。こんなポケモンの存在冗談じゃないし信じたくもない。  
やおい穴で痛みを味わいながらも感覚を共有している肉棒は、分身の熱い口の中で喜んでいた。いや、少し痛い? 痛気持ち良いが正しい表現なのかもしれない。  
やおい穴の中の肉棒はどんどん突き進み、処女膜のような膜を突き破って(ここで悶絶したのは言うまでもないが)、とうとう根本まで入った。  
腰を少し動かされると痺れたような感覚が全身を駆け巡り、ぴくぴく体が反応してしまう。視覚がフリルで阻害されているので、見えていない下半身の部分の感覚が鋭くなっているのだ。  
 
二ヶ所フェラ、やおい穴セックス、アナルに入れたローターによる前立腺攻め。総計五ヶ所もの性感を受けるのだ。何度も逝く僕の姿が目に浮かぶ。これじゃ、超早漏れだ。自然と目に涙が充ちてきた。体を地の底まで犯されば、心も屈するという見解なんだろう。  
今になって後悔の念を抱いてしまった。こうなるのなら、既に奴に屈しておけば良かった、早く気を失って現実の世界に戻してもらえば良かった。  
やおい穴からヌチュっ、とイヤらしい音が聞こえ、僕の心がさらに汚されているような気分になる。準備が整ったらしく、裏の僕が合図を二匹に送る。  
「壊れるまで犯しちゃって」  
果たして本当の地獄が始まった。二匹の分身は動き出し、素早い腰の動きと巧みなフェラチオを繰り出してきた。  
「ん、ん゛ーっ! ん゛ん゛ーーっっ!!」  
開始してまもなく、一斉に押し寄せてきた初めての快感に僕は悶絶し、あまりの気持ち良さに果ててしまう。それでも分身たちは行為を止めず、四ヶ所から僕を攻めて二度目の絶頂に追いやろうとしていた。  
それから十秒も経たない内に、雌の性器の膣が、がんがん突いて刺激してくる肉棒に悲鳴をあげて絶頂に達し、キュッと肉棒を締め付けて、分身の雄と僕の雄は同時に昇天。それでも分身達は腰を振り続け、運動は目まぐるしい速さで、性器は物凄い性感を感じてイッてしまう。  
それでいて、前立腺の刺激により絶え間なく刺激がきて、休む暇さえ与えてもらえず、気持ち良さと体の震えが止まらない。  
もう何度射精したのか分からない。もう精は搾り出されて出ないというのに、肉棒はしつこく舐められ、雌肉は雄棒に激しく突かれて、なおもそれを求めるように締め付けた。体がだるくて重い。でも体は感じてぴくぴく蠢いて。  
思考も感覚も、快楽に痺れてめちゃくちゃに掻き回されていた。  
「だぁぁああああ!!」  
刹那。何かの叫び声と黒い影(シャドーパンチ?)と共に、裏の僕と分身たちは吹っ飛ばされた。  
その吹っ飛ばしたであろう張本人は、僕のところに駆け寄って、いきなりアナルのローターを抜いた。ひゃんっ!と腰を浮かして反応してしまう。  
 
「大丈夫か、キレイハナ!?」  
なんとか、意識だけは(多分強制的に裏の僕に)保たれていたから、重たい視線をその物体に向ける。  
「俺だよ、ゲンガーだよ!」  
「げ……んがー……?」  
僕は我が目を疑った。なぜ僕の夢の中にゲンガーがいるのだろうか。裏の僕が作り出したこの世界にどうやって入ってきたのだろうか。僕には働かない頭を使っても、検討もつかなかった。  
「……くっ、これもやつに邪魔を……。ゲンガー、なぜ僕の邪魔をしたんだっ!」  
裏の僕が怒号し、ゲンガーは僕を背負いながら、  
「なぜって、こいつと俺は友達なんだぜ? 友達が友達を助けるのは当たり前だろ?」  
えっへん、と偉そうに言うのだった。  
「友達……じゃなくて……親友……だろ」  
僕が付け加えるようにポツリと突っ込んだら、ゲンガーは、あっ、それもそうだな、と言って、キシシ、といつもの笑いを飛ばす。  
「友達? 親友? 下らない。下らなすぎるっ。世の中の全てはなぁ、性欲なんだよォオッッ!!」  
裏の僕は分身と共に、高々と飛翔した。  
凄まじい風が巻き起こり、大きな竜巻が現れた。あれに吸い込まれたが最期。中では大量の鋭い葉の刃が侵入してきた者を容赦なく切り刻むのだ。それだけでなく、竜巻自体が周りに真空の刃を飛ばしているので、かまいたちから避けるのも考慮して戦わなければならない。  
リーフストームはみるに恐ろしい技なのだ。それが今、僕たちに矛先を向けて向かってきている。  
僕は犯され、逝かされた影響で体に力が入らず、風で飛ばされそうになる。が、必死にゲンガーにしがみついた。  
「大丈夫だぜキレイハナ。俺がいるから安心しな」  
優しい声でゲンガーが僕に言う。  
「何か策でもあるの?」  
「あるぜ。っていうかあるからここに来たんだぜ」  
ゲンガーの表情は随分と落ち着いている。そう言えば、なんだか風が弱くなった気がする。そう思った矢先のことだ。  
「リーフストームが、消えて行く……?」  
「そんなバカな!? 僕の技まで……」  
だがこれは事実。リーフストームは何も関与はしていないのに、消え去てしまったのだ。僕よりも驚いたのは、裏の僕の方だった。さっきから意味深な台詞ばかりを言っている。  
 
「所詮お前は裏の存在でしかないんだ。だからお前は表からの攻撃にはからっきし抵抗力がないに等しいんだぜ」  
「くそっ、やっぱりこれは悪夢か。油断した。あの会話でお前は僕の存在を知っていたが、方法までは知らないと言っただろっ! なぜなんだっ! くそぅ……」  
裏の僕は悔しそう嘆いていた。分身は消え失せ、たった一匹のキレイハナが顔を被って泣いている。  
ゲンガーは、裏の僕のところまで行き、僕を下に降ろした。だいぶ僕も体力が回復していたので立つことはできた。精神の方はズタズタにやられていたが。  
「それはお前が……」  
ゲンガーが裏の僕にその黒紫の手を伸ばし、頭に乗せ、そしてこう言い続けた。  
「俺を信じていたからなんじゃねぇか?」  
キシシ、と笑い、裏の僕の頭をくしゃくしゃに撫でまわした。  
「そろそろ朝だ。夢から覚めなくちゃあな。行くぞ、キレイハナ」  
「あ、……うん。でもどうやって……」  
「ばか野郎。夢なんだから、強く念じるだけで良いんだよ」  
ゲンガーは目を瞑ると、白い光に包まれ始める。本当にそれだけで良かったの、と突っ込みたくなったけど、もう何も言う気にはなれなかった。  
「裏の僕は?」  
僕も白い光に包まれながら、ゲンガーに問う。  
「こいつはお前の片割れだろう? お前が大丈夫なら、こいも大丈夫だよ」  
それだけ言うと、ゲンガーを包む光が一層強くなり、やがて光は小さくなり彼の姿は見えなくなってしまった。  
裏の僕の方を見たら、裏の僕は、ほろほろと涙を流して、それでいて僕をしっかり見つめていた。散々犯されたけど、結局のところ、このキレイハナは僕に変わりはないのだ。とりあえず笑っておこう。笑顔で“今日は”さよならだ。  
「また会おう。今度はゆっくり話せたらいいね」  
夢をみれば、いつだって会うことはできる。  
全体を白い光に包まれると、次第に僕の意識は遠退いていった。  
 
はっ、と目が覚める。  
空は薄い青色が拡がり始めていて、それを見たときやっと夢から覚めたんだなと僕は思う。  
横を向くと、隣にはゲンガーがニコニコしながら僕(特に下半身)を見ていて、つられて下を見ると、地面に白い水溜まりができていた。フリルは一部が出っ張っていたし、そこから白い雫がポタリと落ちた。  
「遅よう」  
やっぱりキシシ、と笑ってゲンガーは僕に早朝のあいさつをしてきた。その後、あまりの恥ずかしさでゲンガーをリーフストームでやっつけたのは言うまでもない。  
別に本当にやっつけてはいないけど。  
 
「これで本当に夢精は防げたのかな?」  
確認のため、もう一度ゲンガーに問う。  
「心配ないぜ。また起こるようなことがあれば、何度でも悪夢で撃退してやるよ」  
にぃー、とゲンガーは口をつりあげて、僕の頭をぽんぽん叩く。  
ゲンガーが言うには、裏の僕は、表の僕は裏の僕と共感しているのだから、裏の僕も、基本的に表の僕の考え方に何ら変わりはしないのだと言う。  
だから、裏の僕はゲンガーのことを信じて、何一つ疑わなかったのだ。表の僕が、いつもゲンガーを信頼しているように。  
だが、唯一の違点は裏の僕の価値観が相当なエロに歪んでしまっていることだ。エロスに目覚めた裏の僕は夢の中で僕を犯し、夢精を促していた。  
今回はゲンガーが助けにきてくれたから良かったけど、これからは僕が、表の僕が裏の僕としっかり見つめあわなければならない。そして共に未来を歩んで行こう、と思った。  
「ありがとうゲンガー」  
感謝の気持ちを込めて、改めて僕は彼にお礼を言う。  
「当たり前だろ。なんてったってお前は最高の……」  
「最高の?」  
「……最高の親友なんだからなっ!」  
シュビッ、と親指を上に立てて、キシシ、といつもの調子で笑うゲンガー。言葉を詰まらせた部分がちょっと気になったけれど、同じく僕もゲンガーは最高の親友だと思う。  
ただの友達とは比べ物にならないかけがえのない存在だ。心から友のために尽くし、尊敬し、そして助け合う。本当に僕は幸せなキレイハナだ。これからもこのゲンガーとずっと親友でいたい。  
にこやかに笑うゲンガーを見ていると、僕は自然と嬉しい気持ちになるのであった。  
 
>すばらしき夢  
 
終わり  
 
 

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