「はぁっ」  
夜の虫がさざめくサファリパーク。俺の下に組み敷かれている雄が、快楽に耐え切れずに吐息を漏らす。  
その紅蓮に光るボディの視覚情報が、俺の情欲を刺激する。  
 
奴はハッサム。俺達ストライク族が進化した固体だ。  
通常、俺達は人の手に渡らねば進化することは出来ない。だが、俺達は進化せずとも他のポケモンと比べて、引けを取らないほど十分な実力を持っている。  
それ故にか、ひどく保守的な奴らが多いのがこのストライク族だ。  
かく言う俺もその保守派の代表格で、こいつの一番の親友だった、と思う。  
だが、こいつだけは他のストライクとは違った。こいつは俺達とは違う視点で世界を見ていた。  
「俺はもっと広い世界を見てみたいんだ。こんなハリボテの閉じた公園じゃなくて、もっと広い――」  
それがこいつの口癖だった。そんな時、俺達は価値観の相違からいつも口論になり、バトルにまで発展した。  
それは元々俺が保守的で、今の生活や同族を守る事を考えていたから、というだけじゃない。こいつが俺の見えない遠いところまで行ってしまう、それが許せなかったのだ。  
そしてこいつは俺に黙って人間にあっさり捕まった。このサファリパークで生きていく為、俺達は人間と遭遇することを極力避ける傾向がある。  
だがこいつは、恣意的に捕まったのだ。こいつが居なくなった時、俺は直感的にそう感じた。  
許せなかった。こいつはずっと俺の傍にいて、一緒に妻を娶って、子供の事で悩みを相談しあったり、時に剣を交えてお互いを称え合ったり、そんな当たり前の幸せを享受するものだと、そうしなければならないと思っていた。  
裏切られたとさえ思った。こいつへの憎しみを糧に、俺は喪失感を埋めながら数年を過ごした。  
そして今日、こいつが帰ってきたのだ。  
 
「先生さよーならー!」  
「ああ、気をつけて帰るんだぞ」  
俺に武術を習う教え子達が、夕日を反射して元気一杯に帰宅していく。  
そんな子供達を見送りながら、ふと後ろに殺気を感じ、俺は背後に向かってエアスラッシュを放った。  
派手な赤い色彩と、しなやかで硬質なボディ。ハッサムだ。  
直感で俺はこいつが俺の親友だったあのストライクだと分かった。  
「やあ、元気にしてたか?頑固頭君」  
そんな第一声を吐いたこいつに、俺は斬りかかった。  
こいつは俺がどんな思いでいたかなんて知りもしないのだ。この馬鹿野郎。  
鋭い刃がこいつの光沢に輝く身体に切り込むかと予見していたが、表面上の傷を与えただけで致命傷には程遠かった。  
 
――こいつは長期戦になる。  
 
だが、勝負は呆気無くついた。  
スピードでは俺が圧倒的に上回っていたが、攻撃力は遥かにこいつの方が上。  
アイアンヘッドを食らった俺は、情けなくも倒れこみ、こいつに組み敷かれたのだ。  
「く、はははは。やはり、ハリボテの世界で生きる奴は弱い。弱すぎる」  
乾いた笑いで俺を見下すこいつに、俺は何も言い返すことが出来ず、歯をかみ締めた。  
「そう、俺は強いんだ。お前とは違って、俺は・・・・・・」  
敗者への辱めにそんな事を言うのかと思っていたが、それがこいつが自分自身に言い聞かせるように呟いていることに俺は気付いた。  
その顔が――例え容姿が変わっていようとも、俺と一緒に居た頃のこいつと変わっていなくて、俺の中にある憎しみは、驚くほど涼やかに深く沈んでいった。  
俺は穏やかな口調で疑問をぶつけてみた。  
「・・・・・・お前、何かあったのか?そもそも、お前がどうしてここに――」  
「何もあるわけ無いだろ!分かったような口を利くな!」  
途端に猛り狂ったこいつは、その巨大なハサミで俺の顔を殴りつけた。  
「そうだ。あるわけ無いと言えば、お前、こっちの経験はあるのか?くくく・・・・・・不器用なお前の事だ。どうせメスともろくにしてないんだろう?」  
頬に走る痛みに意識が向いていた為、こいつの言っていることの意味がよく理解できなかった。  
だが、俺の股間をそのハサミが撫で上げるように擦り付けてきた時、俺はその刺激に震え、かあっと顔に血が上ってくる。  
同時に、更なる期待を刺激して、欲求不満を体現した俺の性器が脈動しながらその姿を現した。  
「ふ、図星か。残念だが俺はあるよ。俺の主人に育て屋へ預けられた時にな」  
こいつは何でも俺より先に行ってしまうのか。不思議と劣等感よりも寂しさが湧き上がってくる。  
「っ・・・・・・!同情はやめろ!」  
 
俺の顔色を哀れみと判断したこいつは一瞬不機嫌になったがすぐさま機嫌を取り直して歪んだ笑みを湛えながら言った。  
「そうだ。俺がお前の筆おろしをしてやろう」  
俺は硬直した。こいつは何を言っているんだ?こいつは雄で、俺も雄で――。  
「うっ!」  
でかいハサミで傷つけないように俺の性器を挟み込んできた。硬質な感触と、切れるか切れないかの狭間の緊張感が、感覚を鋭敏にする。  
「よ、よせって・・・・・・あ、あっ!」  
俺の制止など存在しないかのように、奴は上下に俺の我慢汁が漏れ始めた肉棒をこすり上げる。  
その快楽に肉棒は悶え、さらなる期待への証を垂らす。  
ストライク族の手は鋭利なカマで出来ている。自慰行為など自傷行為に他ならない。  
メスの事よりも武道に励む俺は、度々起こる夢精によってしか、精子を吐き出すことが出来なかった。  
しかも、その夢精というのがこいつが出てくる夢で起こるのだから、性質が悪い。  
これは夢じゃないのか。俺の上に乗っかるこいつの重み。こいつのハサミの感触。それに、それに。  
こいつの顔がこんなに近くに――  
 
そこまで考えた時に、俺の肉棒は我慢できずに重く溜まった白濁を虚空に放った。  
「うわっ、うぁ!くぅ・・・・・・くああ・・・・・・」  
どぷっどぷ、と絶え間無く溢れ出るそれが、こいつの固い肌にポツ、ポツと降り注ぐ。  
「ちっ。錆びるだろうが。出すなら出すって言うべきだろう。全く」  
ぶつぶつと文句を言いながら、自身に付いたゼリー状の固体をハサミに取り、俺の肉棒にこすり付ける。  
ぐああ、出したばかりは敏感なんだぞっ。  
痙攣する俺を尻目に奴はどんどん塗りたくっていく。ぬらぬらと光る肉棒を見つめ「こんなもんか」と言い、こいつは俺のそれに跨った。  
「おい!何をするつもりだ?」  
「鬱陶しいな。喋んな・・・・・・」  
こいつは腰を下ろした。硬質な外見に反した柔らかい肉壷に、俺は震えた。  
だがこいつは辛そうに、痛みを堪えながら俺の一物をゆっくり飲み込んでいく。そんなこいつを見ると、無性の罪悪感に駆られてしまう。  
「ふぅ・・・・・・どうかなー?初めての感想は。といっても、メスとは少し勝手が違うだろうがね」  
「何故、だ?どうしてこんな・・・・・・っ」  
「理由なんてどうでもいいだろ?俺の中にたっぷり吐き出しな」  
こいつは腰を動かし始めた。最初はゆっくり。徐々に早く。と思ったらまた緩やかに。  
俺の反応を楽しんでいるんだ。  
事実俺はこいつの動き一つで面白い程に感じてしまう。  
「ははっ、凄いな。笑えるよ。俺が初めてした時だって、お前程には感じてなかったというのに・・・・・・ィっ!?」  
やられっぱなしでいては、男が廃る。俺はこいつの言葉が終わる前に全身全霊を込めて突き上げてやった。  
鍛え上げた肉体が、こんな時に役立つとは思わなかった。  
「こ、この・・・・・・舌を噛んじまっただろうがっ!」  
知るか。お前が悪い。  
動きが止まったこいつの代わりに俺が下から押し上げるように動く。  
こいつも好きにしろと言わんばかりに俺の動きを受け入れる。  
「くっ、ぅう」  
時折洩れるこいつの声。動きを反復していくうちに、こいつの感じる場所が大体分かってきた。  
ぐりぐりと押し付けるように何度も何度も擦り上げる。  
「はっ・・・・・・あぁ」  
堪えるような声が嬌声に変わり始めた。もう少しだ、もう少しでこいつも。  
「くっ」  
しかし、すんでのところで噴きあがる快楽に負け、俺は吐精した。  
 
な、情けない――。  
どくっどくっどくっ。  
「あ・・・・・・」  
「・・・・・・すまん」  
「いいさ。童貞君の筆おろしだ。こんなもんだろ」  
自分はイかずに俺を2度も射精させたことに満足したのか、上機嫌で言う。  
ずるりと俺から離れ、一物を抜く。一瞬生じた快感に暴れる、敏感な俺のそれは満足げに雫を垂らし、萎えていく。  
反対に、こいつの肉棒はイきそびれた不満に怒張を維持している。  
「だが、お前は満足して無いだろうが」  
「俺は適当にメスでも落としてヤるから心配ご無用。・・・・・・じゃあな」  
そう言ってこいつはその場から立ち去ろうと夕日が透き通った翅を広げた。  
 
だめだ。またお前は俺の前から消えてしまうのか。  
お前は分かってるのか?お前が居ない間、俺がどんな気持ちでずっと過ごしてきたのか。  
そして、夕日の陰になるこいつの背中。ストライク族のはみ出し者で、皆から異端者として蔑まれていたこいつ。  
俺がもっと上手くやっていれば、こいつは俺の元から居なくならなかったんじゃないのか。  
焦りとも悲哀ともつかない感情が押し寄せてきた。  
行くな。行くな。行くな!  
「行かないでくれ!」  
パッションの赴くままに俺はこいつに飛び掛った。  
カマで抱え込むように背後から抱き伏せる。  
「な、何お前!?放せよっ」  
「俺はっ!ずっとお前が、好きだった。お前をどんなに憎んでも、何度もお前の夢を見て・・・・・・」  
「・・・・・・」  
「もうどこにも行くな」  
腕の中のこいつは何も応えてはくれない。  
鋼の冷たい感触だけが伝わってくる。それでも。  
「ここに居ろ」  
 
俺がそう言ってからどれくらい時が流れただろう。  
夕日は沈み、空は濃藍に染まっている。  
抱きしめる俺の体温が移り、鋼からは既に冷たさが薄れていた。  
「――昔」  
ぽつり、とこいつが語り始めた。  
「昔、一匹のストライクが居ました。そのストライクは変わり者で、皆が笑って暮らしているハリボテの世界に、不満を持っていました。  
そんな彼にたった1匹の、友人が居ました。そいつはそのストライクが大嫌いな古臭い考えの石頭でした。ストライクはある日、一人の人間と出会いました。  
人間に捕まえられれば、広い世界に行けるし、進化ができるかもしれない。そうしてそのストライクは人間と一緒に、外の世界に抜け出したのでした。  
外の世界は過酷だけれど、確実に自分に力が付いていくのが分かりました。そして、人間の力を借りて、進化することが出来たのです。  
ストライク、いや、ハッサムは幸せでした。けど、ある日から人間はそのハッサムに不満を抱き始めるようになりました。力が他のハッサムに比べて弱かったのです。  
そして人間はメタモンとそのハッサムを育て屋に預け、何度も何度もタマゴを作らせました。何度も何度も。  
そして、やっと解放されたと思ったら、その人間はハッサムを捨てました。お前は弱いからいらない、と。ハッサムは自分の全てを否定されたように思えました。  
やがて深い絶望の淵に、ハッサムはかつての友人を思い出したのです。そして、ハッサムは自身の故郷に帰ってきたのです。  
古臭い石頭の、自分とは正反対の友人を見下し、否定することで、自分の存在意義が間違っていなかったと思い込むために。そして、そして・・・・・・俺は」  
「・・・・・・」  
「俺はもう、俺を信じられない」  
 
俺は唖然とした。こいつにそんなことがあったなんて。  
こいつは、俺とは考え方も生き方も違う。けど、その意志の強さは変わらないと思っていた。しかし、俺の腕の中に居る親友の志は、既に折れていた。  
「・・・・・・分かったか?お前が心配しなくとも俺はここに居るさ。けど、お前は俺みたいなクズ野郎と一緒に居ちゃ駄目なんだよ」  
「ああ、お前は本当にクズ野郎だな」  
俺の言葉にハッサムがびくついたのが肌を通して分かる。  
「お前にそう言われたからって、俺がお前を放すと思っているのか?」  
「あ・・・・・・?」  
「どんなにクズだろうが、放って置けないのが親友ってもんじゃないのか」  
こいつが居なくなった時、俺はこいつへの想いを憎しみに変えてまで想い続けていた。  
どんなに擦れ違おうが、切っても切れないものが情なんだろうと思う。  
「お前は、ほんと古臭い奴だよ」  
かすれ声でこいつは言った。  
「そんなこと言われたら・・・・・・甘えてしまうだろ」  
俺とハッサムは口付けを交わした。  
 
「大丈夫か?」  
先程とは代わって、今度は俺が上になる形で言う。  
「ああ。ていうか、焦らされて苦しい」  
俺はびくびくと期待に震えるこいつのものを見た。  
「すぐ楽にしてやる」  
「うわあ!?」  
俺はこいつの肉棒をしゃぶり、唾液を絡め刺激を送り込む。  
先走りがとろとろと漏れ出て舌を刺激する。  
「す、ストライク、出るって・・・・・・で、るっ!」  
突如放たれたこいつの精液を口で受け止める。  
散々焦らされたせいか、量が多い。独特の匂いが俺の喉を掠める。痙攣しているこいつのペニスからゆっくり口を離していく。  
そのまま俺自身に口の中のものを吐き出し、塗りたくった。こいつの精液で俺の一物が濡れてると思っただけでまたイきそうだ。  
「ストライク、早く入れてくれよ」  
足を広げ、俺を誘ってくるこいつは最高にエロい。  
「入れるぞ」  
「うん」  
「今度は一緒にイこうな」  
「お前がまた先にイかなきゃな」  
「うるせぇ」  
俺はゆっくりとこいつの中に挿入する。さっきしたばかりとはいえ、こいつは初めてだったのだろう。きつきつに締め付けてくるそこを俺の形に慣らすように腰を進める。  
「ん・・・・・・はあっ、お前の、熱い」  
「お前のここも、な」  
「もう、動いても大丈夫だ」  
「おう」と俺は応え、こいつの腸内を蹂躙した。  
こいつの中は先程俺が放ったものと、こいつの精液でぐちょぐちょだ。  
それらをかき混ぜるように抽送する。  
腰を引くと俺を引きとめようと肉壁が纏わり付いて最高の刺激を与えてくる。  
腕を俺の肩に回して悦びの声を上げている。こいつも気持ち良いのだろうか。俺のチンポで感じてくれているのだろうか。  
それを確かめ合うように俺たちは何度も何度も口付けと抽送を交わし、悦楽を貪っている。  
ぐちゅぐちゅと鳴り響く結合部の音。そして交じり合う吐息。  
もう堪えられない。また先にイってしまうかもしれない。壷は肉棒に容赦なく快感をもたらし、俺の限界を徐々に食らい尽くしていく。  
精子が腰から這い上がってくる感覚に身震いする。もう駄目だ。  
「あ、あっあああああ!!!!!!」  
叫んだのはハッサムだ。限界を迎え、触れてもいない肉棒の先端から、どろどろと止め処なく精液を垂れ流している。  
「っ・・・・・・!」  
こいつの絶頂による強烈な締め付けで、俺は欲望を吐き出した。唐突な熱量にこいつの内部は脈動して射精中の俺を楽しませる。  
お互い全てを出し終えた時、どちらともなくゆるゆるとまた動き出した。  
俺たちの夜は、まだこれからだった。  
 
ピジョンやポッポ達の声で目が覚めた時、あいつの姿は無かった。辺りを探してみたが、どこにも居なかった。  
「ねえ先生ー!」  
振り返ると俺がいつも武道を教えているストライクの子供が居た。  
「お前、ハッサムを見なかったか?ああ、ハッサムっていうのはだな、身体が赤くて――」  
「身体の真っ赤なポケモンならさっきサファリパークから飛んでったよ?」  
やっぱり。あいつはそういう奴だ。自由気ままで規範なんかに捕われない。  
俺は物悲しさを感じたが、それ以上にあいつが自分自身を取り戻した事の方が嬉しかった。  
空を見上げてみる。例えこのサファリに居なくなったとしても、この空の下に居るということは同じだ。価値観や生き方の差異なんて、全部ひっくるめて「同じ」なんだ。  
「ねえ、それより今日も武道教えてよ!僕もいつか外の世界に行けるようになりたいんだ!」  
せかすように、それもあいつの様なことを言う。  
「ああ、いいだろう」  
今日もまたいつもと同じ生活が始まる。同じことの繰り返し。  
だが、それでいい。もしあいつとまた会えた時、胸を張っていられるように。  
 
俺は教え子の刃をいなし、地を蹴った。  
 

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