「やあ、今日は雨でとっても良い天気だね!」  
 緑色の肌を持つ太ったポケモンが、人好きのする笑顔を浮かべて話しかけてくる。  
「お客さん見ない顔だねえ」  
 俺はグレッグル特有の悪い目つきを、更に悪くしながら言った。  
 正体不明の客。油断は出来ない。  
 
「はじめまして。僕はニョロトノっていうんだ。君は?」  
 警戒感たっぷりな俺に構わず、自己紹介してくる。  
 自分から名乗るとは礼儀を知る男だ。  
 こちらも名乗らなければ無礼になるだろう。  
「俺はグレッグルだ。で、何の用だい? ニョロトノさんよ」  
 答えはわかりきっているが、一応用件を聞いておく。  
 
「君の縄張りが全部欲しい! 嫌だっていっても無理矢理貰っちゃうから」  
 軽い口調で、ニョロトノが答える。  
 それは、俺の予想した通りの答えだった。  
「面白い冗談を言いますねえ。緑色の頬笑みデブにしては上出来だ」  
 静かに降りしきる雨の中、互いに挑発し合う。  
 戦いの予感に身が引き締まる思いだ。  
 
「冗談なんかじゃないよ。だって僕強いもん。野生の世界だと、強ければ何しても良いんでしょ?」  
「はは、確かにそうだな。じゃあ舐めた口をきくお客さんをもてなしてやるか……もちろん暴力的な意味でなあ!」  
 卑怯はグレッグルの常套手段。奴の不意を突いて飛び掛かる。  
 渦巻き模様のついた腹に、毒を滲ませた右手を喰らわせた。  
 柔らかい肉が潰れる感触。手ごたえは確かに有った。  
 
「ふーん、これが噂に聞くグレッグルのどくづきか」  
 俺の全力の攻撃を受けたはずなのに、奴は悠然としている。  
「馬鹿な、効いてないだと!」  
「君の攻撃弱いよ。攻撃っていうのはね……こうやるんだよ!」  
 ニョロトノの両手が俺の顔に近づけられた。  
 目に見えないが、奴の手からは力が発生していた。  
 不可思議で、精神的な力。エスパーの力だ。  
 それは俺の最も苦手とするものだった。  
 きけんよちによって体が震える。  
 両手に溜まった力は衝撃になって俺を襲った。  
 
「ぐああああ!」  
 叫び声を挙げながら、ぬかるんだ地面の上を転がる。  
 透明な力を叩きつけられ、体力を大幅に消耗してしまう。  
「僕のサイコキネシス強いでしょー。それに引き換え君は本当に弱いなあ、あはは」  
 泥水の中に倒れこむ俺に侮蔑の言葉を投げかける。  
「畜生……」  
 悔しいが、奴の言うことは本当だった。ニョロトノに比べて俺は格段に弱い。  
 それを身をもって知らされてしまった。俺は縄張り争いに敗れたのだ。  
 ――結構気に入ってたんだがなここ。  
 豊かな水草、常に湿り気を帯びた大地。そのすべてはもうニョロトノのものだ。  
 恨み事は言うまい。これも大自然の掟。  
 敗者は去るのみだ。  
 俺は愛しい我が家に別れを告げ、歩きだした。  
 
「ねえグレッグル、どこ行くの?」  
 後ろから間抜けな声が聞こえる。  
 敗者に声をかけるとは、勝負の心がわかっていない奴だ。  
「お前とくっちゃべってる暇はねえ。新しい住み家を探さないといけないんでな」  
「ここで良いじゃん」  
 ネチネチと嫌味な野郎だ。  
「俺はお前に縄張りを奪われたのよ。せいぜい達者でやんな」  
 手を振りながら歩み去る俺を、ニョロトノが捕らえた。  
 肩を強い力で掴まれる。  
 
「嫌だ、行かないでよ!」  
 懇願するかのような、か細い声色だった。  
 ニョロトノの様子は普通ではない。  
「お前さっきから、何わけわかんないこと言ってんだ?」  
「僕はグレッグルに勝ったんだもん。もうグレッグルは僕のもの! だから行かないで!」  
 
 ――ああ、そういうことか。  
 俺はニョロトノに向き直る。  
「わかった。お前、俺を舎弟にしたいんだな?」  
「シャテイって何? 技の効果範囲のこと?」  
「その射程とは違えよ。そうだな……舎弟っていうのは弟分とも言うな」  
「うーん……つまり弟ってこと?」  
「……まあ、当たらずも遠からずか。兄貴の命令が絶対。兄より優れた弟など居ない。そういう歪んだ兄弟さ」  
 捕食関係に無いポケモン同士の戦いは縄張り争いの他に、群れの権力闘争がある。  
 勝ったポケモンが負けた奴の上に立って偉そうにする。  
 ニョロトノがしたいのはそういうことなのだろう。  
 確かに新しい縄張りに詳しいポケモンを側に置いておけば何かと便利だ。  
 
「決めた! グレッグルは今日から僕の弟! これで良いよね?」  
「俺はお前に負けたんだ。拒める立場じゃねえよ」  
「やったー! 僕、ずっと弟欲しかったんだ! よろしくね、グレッグル!」  
 満面の笑みを浮かべ、俺の手をつかんでブンブンと振るニョロトノ。  
 その態度は下の立場のポケモンに接するものとは思えない。  
 ニョロトノというポケモンは皆こんな感じなのだろうか?  
 とにかく、俺は今日からこいつの舎弟だ。言葉づかいには気をつけるべきだろう。  
 
「ではニョロトノさん。俺は食べ物を取って来ますんで、待っていて下さい」  
 敬語を使って丁寧に話す。  
「僕も行く!」  
 ニョロトノは俺の手を離さない。  
「脱走なんかしませんよ、ニョロトノさん」  
「それでも行く!」  
 俺に縄張りを案内させるつもりなんだろう。  
 良質なエサ場の在処がわかれば、即オサラバってやつだな。  
 人の良さそうな顔して狡猾な奴だ。  
「わかりました。わかりましたから、そんなにくっつかないで下さいよニョロトノさん」  
 こんなにベタベタされる位なら、偉そうにふんぞり返ってもらった方が気楽だと思う。  
 新しいボスの登場に自然とため息が出る。  
「あ、ごめん……」  
 ニョロトノがようやく手を離す  
 
「じゃあ行きますよ。えー、右手に見えますのはー」  
「こっちから見ると左なんだけど」  
「……とにかく、あれが実のなる木です!」  
 ニョロトノを連れて湿原を歩き回り、おいしいエサ場を余すことなく教える。  
 これは奴のためではない。   
 さっさとお役御免になって、こんな変なポケモンと縁を切りたいだけだ。  
 
「ねえ、一つお願いがあるんだけど……」  
 不意にニョロトノが話しかけてくる。  
「何でしょう、ニョロトノさん」  
「僕のこと、さん付けで呼ぶの辞めてくれない?」  
「しかし、上下関係はしっかりさせておかなくてはいけないので」  
「敬語も辞めて! これは命令だよ!」  
 これじゃあ命令というよりわがままだ。  
 子守をさせられているような気分だ。嫁さんも居ないのに……  
 ため息が出るのは、今日で何回目だろう?  
「はあー……わかったよ、ニョロトノ」  
「よろしい、余は満足である! ねえ、あっちには何があるの?」  
「ああ、そっちはヌオーの縄張りだ。そぉい! と叫びながら泥を投げてくるから気をつけろ」  
 結局、日が暮れるまでニョロトノの世話係をさせられた。  
 体力ではなく精神的にどっと疲れた気がする。  
 
 太陽が沈み、ニンゲンの作った街灯というものが光りだす。  
 俺たちは、昼間の収穫である木の実を街灯の光の中に広げた。  
「いただきまーす!」  
 ニョロトノが両手を合わせて何やら叫ぶ。  
「なんだそれは?」  
「ご飯を食べる前はこうするんだよ」  
「ふーん、ニョロトノってのは変わった習慣があるんだな」  
 木の実にぱくつくニョロトノを見つめる。  
「グレッグル食べないの?」  
「俺は、お前の食べ残しで良い。舎弟っていうのはそういうもんだ」  
「駄目。グレッグルは僕と一緒にご飯食べるの! これ命令」  
 木の実を押しつけられる。命令と言われたら拒めない。  
「……いただきます」  
 一応、ニョロトノの習慣に従って食事の前に手を合わせた。  
 こんなことしている間に、食べ物を横取りされたらどうするのだろうと思う。  
 疲れた体に、オレンの実の甘さは染みた。  
 
「ごちそうさまでした!」  
「……ごちそうさまでした」  
 これもニョロトノの習慣だそうだ。  
 無意味だと思うが、兄貴分がすることには従わなければならない。  
「グレッグルはすごいねー。僕より年下なのに、色んなこと知っててさ」  
「お褒めにあずかり光栄です」  
「……敬語禁止」  
 ニョロトノが桃色の頬を膨らませる。  
 基本的にニコニコしているコイツが怒った顔をするのは、不気味だ。   
 
「グレッグルさあ、妙によそよそしいよね。僕ら兄弟になったのにさあ」  
「気に入らない所があるなら改める」  
「そういうこと言ってるんじゃない! もっと仲良くしようって言ってるの!」  
 ニョロトノが怒鳴る。  
 勝手に縄張りを奪っておいて、仲良くも何も無いだろう。  
 甘ったるいニョロトノの態度に虫唾が走る。  
 抑えていた怒りが燃え広がっていくのがわかる。  
 喉から湧きあがってくる言葉は、もう飲み込めそうにない。  
「今更仲良しもくそもあるか! お前は俺から何もかも奪ったんだぞ!」  
「あ……ごめ……ごめんなさい」  
「謝る必要なんて無いさ。お前は俺より強いんだからな! 無力な俺を顎でこき使えば良いだろ!」  
「ねえ、グレッグル落ち着いて……」  
「俺は命令には従う。だが、馴れ合いはしない! お前なんか……嫌いだ」  
 溜めていた怒りをぶちまけた後は、後悔しか残らない。  
 気まずい沈黙。  
 ニョロトノの目には涙が決壊寸前まで溜まっている。  
 こうなるのが嫌だから、敬語を崩したくなかったんだ。  
 
「嫌……。お願い嫌いにならないで……ねえ、グレッグル……ねえ」  
 ニョロトノが縋りついてくる。その声はわずかに震えていた。  
 俺は途方に暮れるしかない。  
 
「……そうだ、こうしたら仲良くなれるよね……」  
 そう言うと、ニョロトノが俺の体を撫で始めた。  
「おい、何するんだよいきなり! 気持ちわりいな!」  
「グレッグルは命令には従うって言ったよね?」  
「それがどうした!」  
「だったら、僕の下のお世話をして。これは命令だよ」  
「そういうのはメスにやれ! やめろ、触んな! うあああ!」  
 ニョロトノ手が、俺の肌にやや強めに押しあてられる。  
 湿り気を常に帯びているその手は冷たい。  
 三つに分かれた丸い指がワキワキと動き、いやらしく俺の胸や背をこねくり回す。  
 滑らかな手の感触に皮膚が粟立つ。  
 俺の腹に奴が触れた時、その動きが突然止んだ。  
 
「グレッグルのお腹の白いのって取れるんだね」  
「勝手に触るな!」  
 グレッグルの腹には分離できる白い皮膚を巻きつけてある。急所である腹部を守るためだ。  
 カイリキーやルージュラも同様な体の作りをしていると聞いたことがある。  
「……グレッグルは帯回しって知ってる?」  
「はあ? 何だそれは?」  
「ニンゲンの産み出した文化の極みだよ。僕、グレッグルのお腹の帯を見ると……はあ……はあ」  
 ほつれた帯の先端がニョロトノの右手に握られる。  
 奴の鼻息は荒く、目は怪しい光が宿っている。  
 尋常じゃないニョロトノの様子に俺はあらためて、危機感を覚える。  
「ごめんグレッグル……もう……我慢できない!」  
 帯の先端が強い力で引っ張られる感触。  
 次の瞬間、世界が高速で回り始めた。  
「うわああああ!」  
 脱げる帯の力で、回転をつけられたのだ。  
 きつく締めこんだ帯が、グイグイと脱がされていく。  
「よいではないかー、よいではないかー」  
 ニョロトノは訳のわからない事を言いながら、帯を引っ張り続ける。  
 その声は、すけべオヤジそのものだ。  
 俺の体はくるくると回り続ける。  
 倒れないように必死で踏ん張るが、足元がふらつく。  
 こんなことして何が楽しいのだろう?  
 回転に翻弄されながらもそんな疑問が浮かぶ。  
 
「あー楽しかったあ」  
 ようやく帯が全て脱げ、回転が収まった。  
 俺はしばらくふらついた後、背中から地面に倒れてしまった。  
 眩暈をこらえて、上体を起こしニョロトノを睨みつける。  
「てめえ……何しやがる!」  
「何って、男の夢だよ!」  
 悪びれる様子もなく、堂々とニョロトノは宣言した。  
 ここまでくるといっそ清々しい。  
 ニョロトノの手に握られた白帯が、はらりと落ち、泥にまみれた。  
 
「さあ、グレッグル続きをしよう! ここなら髭が長いお爺ちゃんも、入れ墨のおじさんも来ないし」  
「ちっ、近寄るんじゃねえ!」  
 ニョロトノが、泥を踏みしめる湿った音をたてながらゆっくりと歩いて来る。  
 立ち上がる程の時間的な余裕は無い。  
 俺は尻を地面につけたまま後ずさりした。  
 だが、それでは遅すぎた。  
 
「捕まえたあ!」  
「くっ……!」  
 ニョロトノは、地面に投げ出された俺の足の上に馬乗りになった。  
 どっしりとした体重を乗せられたら、もう逃げられない。  
 頬を両手で挟まれてしまう。  
「グレッグルの頬袋ってぷにぷにだー!」  
「おはえ、ひゃめろよ!」  
 オレンジ色の袋を好き勝手に揉んで感触を楽しんでいるニョロトノ。  
 必死の俺の抗議も功をなさない。  
 
「グレッグル……キス……しても良いよね」  
 ニョロトノは目を細めながら、突きだした口を寄せてくる。  
「待て! 早まるな!」  
 奴の突き出た口が近づき、俺の唇に熱い吐息がかかる。  
 あまりの嫌悪感に身の毛がよだつ思いだ。  
 ニョロトノの胸を押して拒絶しようとした。  
 ふくよかな体に手がめりこむ。  
 だが、頭を奴の手でしっかりと掴まれて逃げられない。  
 目をきつく閉じ、醜い現実を視界から追い出した。  
 
「うっ……んんー!」  
 不本意だが、しっとりと濡れたニョロトノの唇は柔らかくて触り心地が良かった。  
 これがメスだったらとつくづく思う。  
 一回、二回、三回と小刻みに口づけされる。  
 ニョロトノは僅かに口を開き、俺の唇を挟むように刺激してきた。   
「んん!……くぅ!」  
 唇の愛撫に、喉を鳴らしてしまう。  
 オスにされて良くなってる自分が信じられない。  
 口がふさがり、息ができなくて苦しい。  
 だが、すぐには終わらない。  
 唇同士をしっかりとくっつけられる。  
 ニョロトノの舌がこちらの口をこじ開けてきた。  
「んぁ……あうう……!」  
 欲情した奴の吐息が送り込まれる。  
 長い舌が俺の歯ぐき、内頬をまんべんなく舐めつくす。  
 なめらかな舌で口の粘膜をなぞられると、体の力が抜けてしまう。  
 倒れてしまわないように、ニョロトノの肩に手をかける。  
 これでは、抱き合う恋人同士みたいだ。  
 唾液と出口を失った俺の吐息が口の中で混じりあって、目が眩むほどの熱を持つ。  
 俺の口内を蹂躙するニョロトノが俺の舌に狙いを定めるのにそう時間はかからなかった。  
「う……!ぐふぅ!……うー!」  
 ニョロトノの舌が、絡みついてきた。  
 奴の舌が俺の舌に絡みつき、ニョロトノの生臭い味を伝えてくる。  
 お互いの舌が纏う唾液が一つになり、濁った水音を立てる。  
 舌をすり合わせる感触は俺を掻き立てた。  
「あっ……はあ……ん……んぁあああ!」  
 ついに俺は、ニョロトノの口の中に甲高い喘ぎを送り込んでしまった。  
 奴はそれに満足したのか俺の舌を解放しゆっくりと顔を離す。  
 太い唾液の筋が引かれ、俺たちをつなぎ、やがて切れた。  
 キスだけで、ここまでやられるなんて信じられなかった。  
 半ば呆然としてしまう俺にニョロトノが嬉しそうに語りかけてくる。  
 
「ね、どうだった? どうだった?」  
「え? あ、うん……すごかった。って違ああああああああう!」  
 我に返って叫ぶ。  
 ニョロトノにされて感じていた、なんて認めるわけにはいかなかった。  
 
「キスだけじゃ満足できないんだね? 僕もっと頑張るよ!」  
 右手をニョロトノに掴まれる。  
「グレッグル、ちょっと手を借りるね」  
 ニョロトノは俺の指を口に含んだ。  
 指が熱い体温と唾液に包まれる。  
 丹念に舌を這わせ、熱心に俺の指をしゃぶるその様子はいじらしい。  
 何だか、ニョロトノにご奉仕させているみたいだ。  
 他者を支配するような、後ろめたい興奮を覚える。  
 ――って何考えてるんだ俺?  
 俺の頭の中に生まれた嫌らしい感情を頭を振って散らす。  
 
「うん、これだけ唾をつけておけば大丈夫だね……」  
 ようやく指から口を離した。  
 ニョロトノはよだれにまみれた手を取り、自分の尻に導く。  
 ぷりっとしたニョロトノの尻の感触が伝わってくる。  
 尻の割れ目に俺の指が滑りこむ。もちろん俺の意思じゃない。  
 全てニョロトノが俺の手をとってやったことだ。  
 
「ふうー……息を吐いて力を抜いて……」  
 深呼吸しながらニョロトノが言う。  
「なあ、お前何する気なんだ?」  
「ほぐすんだよ」  
「何を?」  
「僕のお尻の穴」  
 そう言うやいなや、ニョロトノは俺のオレンジ色をした中指を尻の穴に突きいれた。  
 グレッグルの指はかなり太い。そんなものが入るなんて信じられなかった。  
 指がニョロトノの体によって締め付けられる。  
「……んっ! はあー……くう!……はあー」  
「おい! 痛いだろそれ! 抜けよ!」  
 慌てて指を抜こうとする。  
「痛! 指……動かさないで……」  
「え? ああ、ワリィ……」  
「ここ何回も使ったことあるから……じっとしてて」  
 無理に抜こうとするとニョロトノを傷つけてしまいそうだ。  
 俺には、ニョロトノを見守ることしかできない。  
 でも何回も使ったってどういうことだろう……  
「はあー……はあー……ん!……ふー……ううん!」  
 息を吐きだすタイミングに合わせて、俺の指が吸い込まれていく。  
 その動作はやたら小慣れていて、スムーズだ。   
「ああ!……はあ……ああん!」  
 指が奥に行く度に、ニョロトノの声に甘さが増していっているように思える。  
 肛虐に酔うその姿は、オスのくせに妙に色気がある。  
 ――って何考えてるんだ俺は……  
「……はあ……はあ……これで根元まで全部」  
 ついに中指が穴の中に全部収まってしまった。  
 だが、ニョロトノは更なる凌辱を自分に与えた。  
「ん!……はあ……ああん! ……はあ! ……ああ!」  
「お、おい!」  
 受け入れた指をなおも動かし、穴を押し広げていく。  
 動く度に、ニョロトノは甲高い声を上げる。  
 俺にはそれが苦痛の叫びなのか快楽の喘ぎなのかは、わからない。   
 ただ、自分で尻の穴を犯すニョロトノにはどこか痛々しさを感じた。  
 
「……手、ありがとね。これで準備できた」  
 ニョロトノはようやく指を抜いて俺の手を離した。   
「どうして……そこまでするんだよ!?」  
 俺は溜まりに溜まった疑問をぶつけた。  
 
 ニョロトノはうつむき、黙りこくる。  
 俺たちの間に重苦しい沈黙が横たわる。  
 弱弱しく降る雨音がやけに大きく聞こえる。  
 やがて、ニョロトノの顔がゆっくりと上げられた。  
 その表情は硬直している。  
 いつもとは打って変わって、抑揚のない口調で話し始めた。  
「寂しいからだよ」  
「え?」  
「僕ねニンゲンに捕まって、色んな人の手に渡ってこんな遠くまで来たんだ」  
 道理で、見かけない顔だと思った。恐らくニョロトノの生息域はここから遥か離れた場所にある。  
 ニンゲンの乗り物を使わなければ行けないほど遠い所だ。  
 それと、こいつがやたらと強い訳もわかった。ニンゲンに育てられたからだ。  
 ニンゲンの手が加わったポケモンの能力は野生とは比較にならない。  
 でも、一つだけ分からない事がある。  
 ニョロトノの飼い主はどこだ。  
 随分長く一緒に居るが、ニンゲンの気配なんかしない。  
 その疑問はすぐに解かれることになった。  
「マスター、僕に飽きちゃったみたいでさ……僕…………捨てられちゃった」  
 その言葉を聞いた瞬間、全てが頭の中で繋がった。  
 何故、俺を舎弟にしたか。何故、やたらと縋りついて来るのか。  
 何故、無理矢理にでも俺と交わろうとしているのか。  
 すべての疑問が氷解する。  
 ニンゲンの元でぬくぬくと育ってきたポケモンがいきなり野生に放されたのだ。  
 まともでいられるわけがない。   
「どんなに鳴いてもニョロモもニョロゾも来てくれない……寂しいよ……誰でも良いからそばにいて欲しい。  
ねえ、グレッグル。僕の事、欲しいって言ってよ! 体だけでも必要だって!」  
 ニョロトノが悲痛な叫びをあげる。  
 
「わかった! 事情は大体飲み込めたから……落ち着けって!」  
 何とか冷静になってもらおうと、必死に声をかける。  
 しかし、今のニョロトノにはどんな言葉も届かなかった。  
「グレッグルのソコ……このままじゃ、駄目だよね……」  
 俺の股に顔を寄せるニョロトノ。  
 チンコに熱い息が吐きかけられる。  
 その根元を掴み、唇を近づけていく。  
「こんなフニャチンじゃできないよ。だから……しゃぶってあげる」  
 根元まで一気に飲み込む。  
「お、おい! そんなトコ咥えるな!」  
 ニョロトノは口の中に唾液を大量に溜めていた。  
 つばを口内でくちゅくちゅさせて、チンコを洗っていく。  
 ニョロトノの口から、よだれが零れていくのが見える。  
 俺の中心が、温かい唾液の海に溺れる。  
「おい……本当に……やめろってば! ……怒るぞ!」  
 足をばたつかせながら、ニョロトノの頭を必死に叩く。  
 だが、逸物を愛撫されて力が出ない。  
 弱弱しくニョロトノの頬に触れるだけ。これでは、奴は止められない。  
 逃げる腰をしっかりと掴まれ、ひたすらしゃぶられる。  
 ニョロトノの頬が、肉棒の形を浮かび上がらせる。  
 舌が先端の穴をこじる。陰茎が柔らかい内頬で擦られる。  
「やめろって……言ってるだろぉ……! 嫌だ! こんなの……」  
 口淫の甘さに逆らえず、俺のモノが痛いほど勃起する。  
 それを確認したのか、ニョロトノはやっと逸物を吐きだした。  
 俺のチンコは、赤く充血し、尖った先端を空に向け更なる刺激を求めて細かく振動している。  
 
「やっと大きくなった。これで、グレッグルも準備完了だね!」  
「何だよ準備って!」  
「グレッグルが僕のお尻をズコバコ掘る準備だよ」  
「だ……誰がそんなことするか!」  
「大丈夫。僕が優しくリードしてあげるからね。グレッグルは寝てるだけでいいよ」  
 
 ニョロトノが俺の肩を押して、体を地面に押しつける。  
 背中に感じる、ぬかるんだ地面の冷たい感触。  
 完全にニョロトノに乗られて、身動きが取れない。  
「さあ、これからが本番だよ!」  
 そう言うと、ニョロトノは足を大きく開き腰を浮かせた。   
 そして、尻を俺のチンコめがけてゆっくりと降ろしていく。  
 尻たぶの柔らかい肉がチンコに吸いつく感触。  
「僕のケツマンコ……たっぷり味わってね!」  
「待て! もっと自分の体を大事に……」  
 制止の言葉はニョロトノに届かない。  
 ニョロトノは左手でチンコを掴んで、尻の穴にあてがう。  
 息をゆっくりと吐きながら、俺を受け入れていく。   
 
「うがああああ!」  
 今まで感じたことの無い程の強い締め付け。  
 本来は出す場所なのに、それを無理矢理ほぐして挿れているのだから当たり前だ。  
「はあー……んん! やっぱおちんちんは良いなあ……指より感じるよぉ……」  
「やめろ……抜けってば!」  
「……大丈夫……たっぷり精液抜いてあげるからね……ああ!」  
「そっちの……抜くじゃないって!……くぁああああ!」  
 唾液のぬめりを借りてズブズブとチンコが飲みこまれていく。  
 始めは先端だけだった締め付ける箇所がどんどん勢力を広めていく。  
「……全部入ったね、根元までずっぷりと……ふふ……グレッグル、僕の中でビクビクしてる……」  
「くっ! ぐぅううううう!」   
 歯を噛みしめ、必死に昇ってくる放出感に耐える。  
 
「穴なら何でも良いんだよね? オスのお尻の穴でも。エッチで淫乱で変態なグレッグル……  
でも大丈夫、僕がいつでも相手してあげるから」  
「うう……くっ……あああ!」  
 耐えることしかできない俺を、勝ち誇ったような目で見下ろすニョロトノ。  
「動くよ」  
 そう言うと奴は、俺の腹に手をつき、腰を上下に動かしはじめた。  
「うぉあ!……ああああ!」  
 内壁にチンコを擦られて情けない悲鳴が出る。  
「グレッグル……こんなに気持ち良いこと知らないでしょ?」  
 完全に抜け切る寸前で止め、奥まで一気に行く。  
 これを何度も繰り返され、いやがおうにも高められてしまう。  
 
「ねえ、突いてよ! 下からガンガンさあ! マグロってたら面白くないでしょ!」  
 乱暴な言葉に首を振って答える。  
「情け無いなあ。それでもオスなの?」  
「い……嫌だ……そんなことしたら、痛いだろ?……お前が……」  
「フン! 痛みなんてもうとっくの昔に感じなくなったよ」  
「ニョロトノ……もうやめろ。こんなの間違ってる」  
「うるさい! 僕にはこれしか無い! これしか無いんだ!」  
 腸壁の圧力が増す。チンコを食い破る程の強い圧力。  
「う……がはあああああ!」  
「おら、とっとと出しちまえよ! 僕の中に汚いザーメンをドクドクとさあ!」  
 淫らな律動のペースが上がる。  
 互いの肉がぶつかりあい、パンパンと大きな音が響いた。  
 
「グレッグル……出せ……出してよ! ……、このままじゃ……ああ!……ひゃあああ!」  
 体を激しく動かせば、ニョロトノもただでは済まない。  
 俺を攻める動きで、逆にニョロトノが追い詰められているようだ。  
 このまま、耐えることに集中すれば、最後まで出さずに済むかもしれない。  
「イって……イっってよ!……じゃないと……僕……僕」  
 どうやらニョロトノの限界が近いらしい。  
 顔が紅潮し、声が上ずっている。  
 俺の上で必死に腰を振るニョロトノを撫で、丸い尻の感触を楽しむ。  
 これなら、ニョロトノにだけ快楽を送り込める。  
 
「そんなことより……突いてよぉ!……ああ……いやぁ……出ちゃう……やあああああああん!」  
 高い声をあげながらのけ反るニョロトノ。  
 最後まで耐えきったことに安堵感を覚える。  
 だが、それは間違いだった。  
 
「うわ、何だ……これ?」  
 俺のチンコが熱くてぬめる液体の感触を伝えてくる。  
 そういえば、ニョロトノはイったのに股からは何も出ていない。  
 というより、奴の股には何も無い。  
 混乱する俺に当人が種明かしをする。  
「僕ねえ……お尻から精液出るんだあ……」  
「何……だと……」  
「あとね……僕の特性はちょすいっていうんだよ。水があればいつでも元気。……今日は雨でとっても良い天気だね」  
 上下運動が再開される。しかも今度は、精液のぬめり付き。  
「がはあ! 熱い! ……チンコ熱い!」  
「僕の精液、ヌルヌルで暖かくて気持ち良いでしょ? 今度こそ絶対にイカせてやるんだから!」  
 精液による潤滑はニョロトノの動きをさらに速く、強く、大胆にした。  
 ニョロトノの腰使いはとどまることをしらない。  
 動く度に、じゅっぽじゅっぽと湿った音が響き渡る。  
 もはや、ソコは尻の穴では無くオスを受け入れる立派な性器だ。  
 復活した強い締め付けが俺を搾る。  
 ヌルヌルした肉壁に抱擁され、悲鳴が出る。  
 自分自身の体からせりあがってくる熱い欲望をもう抑えられない。  
 
 劣情に流された俺は、ニョロトノの雄液にまみれたチンコを突きあげてしまう。  
「ああああ……ニョロトノォ!」  
「あはは! やればできんじゃん! それでこそ男の子だよ」  
 チンコが腸壁をめくり上げながら行ったり来たりを繰り返す。  
 纏わりつく肉の感触は一度味わったら、病みつきになってしまうのだ。  
 それが欲しくて欲しくてたまらない。  
 ニョロトノの腰をしっかりと掴み、ひたすら突く。  
 
「ひゃ……はあ……ひゃん!」  
 頭の巻き毛を振り乱しながら嬌声をあげるニョロトノ。  
 自分の行動で、こいつが喘いでいると思うと実に奇妙な気持になる。  
 自分より遥かに強いオスが、俺に犯され乱されているのだ。  
 俺がニョロトノより強くなったような錯覚すらしてしまう。  
 泥をつけられた屈辱と劣等感を晴らすように、ニョロトノを辱める。  
 
「グレッグル、頑張ってるねえ……良いよぉ……僕も、もう少し頑張っちゃおうかな」  
 緑色の尻が窪み体内の圧力が増す。  
 まるで、尻の穴でチンコを握られるかのようだ。  
 俺がニョロトノを突く度、御褒美のように圧迫感を与えられる。  
 二匹の共同作業で産まれた快感は、俺の許容量を遥かに超えていた。  
「ニョロトノ、出る! 出る! 出ちまうよおおおお! 」  
「あはは! グレッグル可愛いー」  
 一回出したせいなのか、ニョロトノは余裕たっぷりだ。  
 これでは、どちらが犯されているか分からない。  
「うあ……あああ! ニョロトノ! くああ!」  
 雄叫びをあげながら、ニョロトノの体を必死に求めることしかできない。  
 頭の中はもう、溜まったモノを吐きだすことで一杯だ。  
 チンコの中をオスの証が昇っていく。  
 欲望の行進を止められそうには無い。  
 腰が自然と反り返り、俺自身がニョロトノの最も深い所に押し込まれた。  
 
「うあああああ!……ひっ!……ひあああああああああ!」  
 オスの尻の中に、決して実を結ぶことのない子種を叩きこむ。  
 体をくねらせ悶えながら、切ない放出感に耐える。  
 誰のものとも分らない精液が漏れ出し、湿原にオスの臭いを撒き散らした。  
 初めて体験するオスとの交接は、背徳感を伴った。  
 自分のしたことに対する後悔が湧きあがる。  
 
「う……ああ……なんで……俺、こんなこと……」  
「ほらほら余計なこと考えてないで、もっとしようよ」  
 俺を咥えこむ穴の脈動は止まない。  
 一回の放出に飽き足らず、容赦なく腰を上下させるニョロトノ。  
 役目を終えて弱り切ってるチンコが腸壁で乱暴に扱かれるてしまう。  
「痛い! 痛い! もう……やめ……やめてくれぇ!」  
「グレッグルが、生意気なこと言うからいけないんだからね。赤玉出すまで許してあげないよ」  
 俺の懇願が一蹴される。俺の上に君臨するニョロトノは残忍な笑顔を浮かべていた。  
「夜は始まったばかりだよ。たっぷり楽しもうねえ……気が狂うくらいにさあ!」   
「ひ……ああ! うあああああああ!」  
 その後は、地獄絵図だった。  
 俺に跨り、壊れたように笑いながらイキまくるニョロトノ。  
 求められるまま、腰をズコズコ上げ下げする俺。  
 互いの粘膜を血が出るまで擦り合わせる暴力にも似た行為は、俺の正気を蝕んだ。  
「あうう! うあああ……うああ」  
「もっと……もっと……突いて……もっとおちんちん欲しいよぉ……ねえグレッグル」  
 度重なる絶頂に、頭がどうにかなってしまいそうだ。  
 このままだと、本当に狂う。そう思った時、視界がぼやけ始めた。  
「グレッグル……ごめんなさい……」  
 意識が消える直前、そんな声が聞こえた気がした。  
 
 しばしの眠りから覚めると、雨は上がっていた。  
 腰に力が入らない。下腹部に激痛が走る。  
 あの行為の後遺症は相当なものだった。  
 痛む体に鞭打って、体を起こす。  
 どおりで重いと思ったら、ニョロトノはまだ俺の上に乗っかったままだった。  
 しかも、俺のチンコも入れっぱなしだ。  
 奴は、円らな瞳を両手で隠しながら、話しかけてきた。  
「グレッグル気持よかったでしょ? またしてあげるから僕の事……嫌いにならないで……お願い……お願いします」  
 泣きたいのはこっちの方だ。  
 無理矢理オスと交尾させられたのだ。もうお婿に行けない。  
 だが、愚痴を言っていても始まらない。  
 
「もう良いから。とりあえず抜こう」  
「ヒック……うん」  
 ニョロトノが腰を浮かし、俺のチンコを解放する。  
 それが栓になっていたようで、抜いたとたんに大量の白濁液が漏れた。  
 あの中に、自分の出したものが混じっていると考えると死にたくなる。  
 俺の体の上でニョロトノがぽつりぽつりと話す。  
「僕、捨てられてからずっと独りぼっちでさ。だから、グレッグルが兄弟になってくれてとても嬉しかった。  
でも、グレッグルに嫌いって言われて何とかしなきゃって……。あれするとマスターも喜んでくれたから……だから……」  
 その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような思いを味わった。  
 俺が怒りに任せてぶつけた言葉は、ニョロトノを深く傷つけていた。  
 今、こいつが泣いているのは俺のせいなんだ。  
 それが分かった以上、放ってはおけまい。  
 
「ほら、もう泣くのよせって」  
「ヒック……うぇええええ!」   
 泣きじゃくるニョロトノ。  
 その涙を止める方法は一つだ。  
 こいつの望み通り、仲の良い兄弟ってやつになってやるしかない。  
 少し、いやかなり恥ずかしい。だがやるしかない。  
 俺は、ニョロトノの両肩に手を乗せた。  
 すると、驚いたニョロトノは目を大きくして見返してきた。  
 意を決して言葉を吐きだす。  
 
「あんなことしなくても……俺がそばに居てやるから。だから、泣くのやめてくれよ。  
お……お兄ちゃん」  
 慣れない単語を言ってしまい、顔が赤くなる。  
 柄じゃないことをしたと思う。  
 ニョロトノは呆気にとられた表情を浮かべてこちらを見ている。  
 その鼻から赤い液体が……  
 
「ぐふっ! ……お兄ちゃんって……グレッグルが……お兄ちゃんて……ぐほぁ!」  
 盛大に鼻血が噴き出る。もちろん目の前にいた俺も巻き添えを食う。  
「うわあああ! 下を向いて鼻の付け根を指で圧迫しろぉおおお!」  
「ねえ、もう一回言って! もう一回、お願い!」  
「血まみれの顔を近づけるなああああ!」  
俺の叫びが湿原に響き渡った。  
                    完  
 

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