「ヒビキおそいなぁ…」  
 
此処はジョウト一番の大都市コガネシティ。  
眠ることを知らない街は、自然の光が存在しない世界においても、なお、色とりどりの光を放っている。  
大通りから一本外れた路地には酒を出す店や小さな飲食店が並び、さらに奥に進むと、地下街や怪しい商店までも存在している。  
そんなコガネシティの目抜き通りに面した一角に、ポケモントレーナーなら誰もがお世話になるであろう施設、ポケモンセンターがある。  
ポケモンセンターはポケモンの治療以外にトレーナーの宿泊所も兼ねている。  
そのポケモンセンターの一室に主人の帰りを待つ一匹の炎ポケモンの姿があった。  
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「暗くならないから帰って来ないのかなぁ? いつになったら夜になるんだろう?」  
 
僕はワカバタウンってところからトレーナーのヒビキといっしょに旅をしてきた。  
ワカバタウンは静かなところで、通りに沿うように樹木が立ち並び、町のいたるところで草花が生い茂っていた。  
そんなところで育ったから、高い壁ばかりのこの街の風景は見慣れないもので、  
大きな家の明かりも看板についている赤とか緑のチカチカするのもみんな知らないものばかりだった。  
 
「僕もいっしょに行けばよかった…。」  
僕はこの街の明かりがニガテだから、遊びに行こうって誘ってくれたヒビキの誘いを渋った…。  
…でも、今となってはそのことを後悔していた。  
 
「そのうち帰ってくるよ。」  
「っ!? 起きてたの?」  
ベッドに腰掛けながら窓の外を見つめていた僕は自分の後悔の念を知らないうちに声に出していたみたい。  
そのつぶやきを聞いて僕に声をかけたのは、ピンクの身体に白い綿毛のポケモン。  
 
「心配しないでも帰ってくるよ。 きょうぐらいは自由に遊ばせてあげたら?」  
「そんなことキミに言われなくてもっ…」  
このピンクのポケモンはモココっていうらしい。  
少し前までは白いモコモコだったのに、この街でのジムバトルの後、ちょうど進化したところだ。  
きょうのジムバトルで疲れたのか、ポケモンセンターについたとたん、ずっとこの部屋のベッドの上で眠っていた。  
僕ははっきりいうとこのポケモンがキライだ。  
よくわからないけど勝手にヒビキについてきて、特にヒビキがゲットしたわけでもないのにいつの間にか旅の仲間になっていた。  
もっとも僕はこいつのこと仲間なんて思ってないけど…。  
 
「キミはずっと眠ってればいいのに…」  
「…何でそういうこと言うの?」  
僕がこいつを嫌いな理由は…、こいつがヒビキに勝手についてきたこと…。  
ううん、それよりも…こいつのせいで僕がずっとヒビキに甘えられなくなったから!  
今まで僕がヒビキの後ろをついて歩いていたのに…、最近ではそこにこいつが割り込んでくる。  
そしてこともあろうか僕のヒビキに擦り寄ったり、飛びついたりっ!  
 
「…理由は言わなくてもわかるでしょっ!」  
「…そんなのわかんないよ。」  
さらにこいつはメスらしい。  
ポケモンにはオスとメスがあって、オスとメスが一匹ずついるとけっこんができるらしい。  
けっこんっていうのはスキな相手とずっといっしょにいられるすごくしあわせなことだって…  
昔、ウツギ博士の研究所でそんな話を聞いたんだ。  
けっこんしてしあわせになったらタマゴができる?なんかそんな話だったと思う。  
僕は幼馴染のチコリータ、ワニノコといっしょにその話を聞いていた。  
 
オスとメスの違いを見分けるのはすごく簡単で、おなかの下におちんちんがあるのがオス、ないのがメス。  
けっこんの話を聞いたあとに僕らは研究員の人にオスとメスの違いをたずねてみた。  
その人がこういうふうに教えてくれた。  
教えてもらったあと、すぐに僕らはお互いのおなかの下を食い入るように見つめていた。  
僕もチコリータもワニノコもみんなおちんちんがあるからオス。  
ワニノコは身体の中におちんちんがはいっていたから、最初はメスだとおもったんだけど…  
よく考えればいっしょにおしっこするときにいつもみていたはずだった。  
でもメスはおちんちんがないのにどうやっておしっこするのだろう?  
ってみんなで考えたけど…結局僕らはメスのポケモンに出会うことはなかった。  
 
人間にもポケモンと同じでオスとメスがあるらしい。  
見分け方もポケモンといっしょで、ヒビキはおちんちんがあるからオス。  
いっしょにお風呂に入ったときに何度もみてるから間違いないはず。  
 
でもヒビキがオスだと…、僕もオスだから…どんなにヒビキのことスキでもけっこんはできない。  
僕はダイスキなヒビキとずっといっしょにたいのに…。  
 
「……ねぇ…? …マグマラシ?」  
急に名前を呼ばれてはっとわれにかえった。  
 
「…何?」  
僕は不機嫌そうに返事をしてみる。  
 
「前から思ってたんだけど? …マグマラシって…、ボクのこと……、キライ……なの…?」  
………  
「…っ!? …うっ…う……う…ん…。」  
キライ? キライじゃない? どっちにもきこえそうなヘンな返事をしてしまった。  
急に思っていたとおりのことを聞かれたから、ちゃんとキライって言えなかった。  
 
そうだよ、僕はキミのことがダイキライだよ!  
図々しくも勝手についてきた上に、ヒビキに馴れ馴れしく甘えるしっ!  
おまけにメスでヒビキとけっこんができるなんてっ!  
僕のほうが絶対にヒビキのことスキに違いないのにっ!  
僕のほうがっ!  
僕のほうがっ!  
………  
………  
 
「ねぇ…? 今の返事チョットわからなかったんだけど…?」  
 
モココが僕の背中を擦りながら言った。  
そして僕の肩に手をかけて、  
 
「ねぇ…? マグマラシ…? …聞いてる? …ね…っ!?」  
「っさわるなっ!!」  
 
次の瞬間、僕はモココに勢いよく たいあたり をしていた。  
モココは不意をつかれたのか、僕の たいあたり の勢いのままベッドの上から転げ落ちた。  
 
「っ!?」  
僕がずっと鬱々していた自分だけの世界はモココに当たって一瞬にして弾けとんだ。  
僕はすぐにモココに駆け寄った。  
 
「ごめん…モココ…。…だいじょうぶ…?」  
こわごわながらモココに聞いてみる。  
 
「…う、…うーん…。」  
仰向けに倒れたままのモココがゆっくりと目を開けた。  
「もぉ…、いきなりなにするの!?」  
「…ごめんなさい。」  
いくらキライな相手とはいえ、バトルでもないのに突然こうげきをするのは許されることじゃない。  
また、僕の体当たりを受けたモココが予測できないほど派手に転がったため、そのダメージが気になっていた。  
僕はモココのほっぺたをなでながら、その手を頭の後ろ、肩へと動かしていった。  
「…だいじょうぶ? どこかケガしてない?」  
僕の口からは自然とこんな言葉が漏れていた。  
 
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ、マグマラシ。」  
モココは少し身体を起こして僕にそう入言ってくれた。  
「…ごめんなさい。…どこか痛いところはない?」  
僕は泣き入りそうな声を出しながら、モココ身体をなでる手を背中からおなかに移した。  
 
「だいじょうぶだよ、もうだいじょうぶだよ。それ、くすぐったいから。ねぇ?」  
モココはまた少し身体を起こして、伸ばした手で僕のほっぺたをなでてくれた。  
それだけで僕は気持ちが落ち着いた。  
僕はモココのお腹をなでていた手を止めて、あらためてモココの身体全体に目を向けた。  
当たり前のことだけど、進化したばかりのモココの身体をこんな間近で見るのは初めてだ。  
進化前の白いモコモコしてたときでも、こんなにじっくりと見たことはない。  
まあ、それは僕がモココを嫌って避けていたからだけど…。  
僕はもう一度頭からゆっくりとモココってポケモンを見てみたいと思った。  
 
…ピンクの身体に白い綿毛。…つぶらな瞳にやさしそうな口元…  
モココは僕がみても可愛いポケモンだと思う。キライなはずなのに……可愛い……  
モココが可愛く感じるのは…やっぱり、メスだから…? …ヒビキは僕じゃなくてモココとけっこんしちゃうのかな……  
 
ん…メス…?  
僕は仰向けに寝てるモココのおなかの下に目を向けた。  
 
「あっ………、あれ…? なんで……?」  
オスとメスの違いはお腹の下におちんちんがあるのがオス、ないのがメス。  
あの研究員の人は僕らにそう教えてくれた……はず。  
これは何なんだろう…?  
ぷっくりふくれたモココのピンクのおなかの下に、不自然に見えるちいさな突起物が、ぴょこんと飛び出ていた。  
 
僕は無意識のうちにその突起物に手を伸ばしていた。  
「…やわらかい……」  
さっきまでなでていたモココのおなかと同じ手触り。でもそれ以上にふにふにとしたやわらかい感触。  
最初は指先で軽くつまんで見ただけだったけど、いつの間にか僕はその突起を手のひら全体で握りこむように触っていた。  
 
「ねぇ…? マグマラシ。…キミ、何してるの?」  
「何って…いわれても?」  
モココが僕にこう尋ねたけど、僕にはモココの問いかけの意味がわからなかった。  
 
「っ…ふふっ。」  
僕の返事を聞いてモココは目を閉じてクスっと鼻で笑った。  
僕にはその笑いの意味もわからなかったけど、  
ひとつだけ、どうしてもモココに聞かなくちゃいけないことがあった。  
 
「ねぇ?モココってね?」  
「なぁに?マグマラシ?」  
「モココって…もしかして? ………オス…?」  
………  
………  
「…っ!? ……ぷっ。…なんで…ふっ…クスっ………。」  
僕の問いに対して、モココは一瞬目を丸くしたが、すぐに目を閉じてさっきよりもうれしそうに笑った。  
 
「ねぇ。マグマラシ?キミはボクのことオンナの仔だと思ってたの?」  
「オンナノコ…?…オンナノコって何?」  
モココはチョット不思議そうな顔をしたけど、すぐに僕におしえてくれた。  
「うーんと…、オスがわかるなら…。オンナの仔っていうのは…メスっていったらわかるかな?」  
「あっ!メスは知ってるよ。」  
「オンナの仔っていうのはメスの別の言い方って言えばいいのかな…?うん、まあメスのことだよ。」  
 
そうだったんだ…僕は研究員の人から聞いた言葉しかしらないから…  
「…それでね、オスのことはオトコの仔って言うんだよ。」  
モココは僕の知らなかったことをもうひとつ教えてくれた。  
 
「マグマラシはオトコの仔とオンナの仔の違いは知ってるよね?」  
僕は無言でうなずく。  
「マグマラシはオトコの仔だから…」  
モココは完全に身体を起こして僕のおなかの舌を指差していった。  
「ココに、おちんちんがあるよね。」  
僕はモココの指の先に目を向けた。普段から見慣れている僕のおちんちんがぷるんとゆれた。  
 
「あっ…。」  
「これでおあいこだよ。でも、マグマラシもそろそろ手を離してほしいなぁ。」  
手って…?  
……ああっ、そういえば…、ずっとモココのおなかの下を触ったままだった。  
 
「っ…ごめんっ。」  
「いいよ、気にしてないから。」  
モココはさっきからの笑顔のままでそういってくれた。  
そして、うれしそうな顔で僕に尋ねた。  
「マグマラシはどうしてボクのことオンナの仔だとおもってたの?」  
 
…どうしてだろう?ただ単にモココのおちんちんを見たことがなかったから…  
うん…、進化する前はたしかにおちんちんがなかったはず?  
 
「………モココに、おちんちんがついてないと思ってたから…。」  
 
モココはまた目を丸くして、不思議そうな顔をして僕を見つめた。  
きょうだけでモココのこの表情を見るのはもう何回目になるんだろう。  
 
「そっかぁ、メリープのときは毛で隠れてたしね。」  
モココはそういってうなづいた。  
 
「モココは進化する前はおちんちんついてなかったよね?」  
僕は率直な疑問をぶつけてみた。  
「前からずっとあったよ? そうそう、メリープのときは毛があったから、マグマラシには見えなかっただけだと思うんだ。」  
…進化前の白いモコモコはメリープって言うんだ。  
でも僕も毛があるけどおちんちんがついてることは見ればすぐわかる。  
僕はメリープの白いモコモコはそういう身体のポケモンだと思っていた。  
現にメリープが白いモコモコを動かして技を繰り出しているのを何度も見ている。  
あの白いモコモコが全部毛だったなんて? その毛の中におちんちんがついてたなんて?  
僕の幼馴染のチコリータもワニノコも毛がないつるつるの身体のポケモンだった。  
僕も全身に短い毛が生えているだけ。  
でもメリープはおちんちんが隠れちゃうほど毛の長いポケモンだったなんて…  
 
「ねぇ、マグマラシ?」  
「っ!? …あっ…ごめんチョット考え事を……。」  
「マグマラシってね、あまり他のポケモンのこと知らないのかな?」  
 
モココの問いは的確だった。  
「うん…」  
僕はそうひとこと返事して、ヒビキに出会うまでのこと、僕がどういうところで育ったのか、モココに話し始めた。  
 
僕はジョウトのスターターポケモン、ヒノアラシの一進化になる。  
当然生まれたときの僕はヒノアラシで、ヒビキと出会ったときもヒノアラシだった。  
僕は新人トレーナー用のポケモンとして、幼馴染のチコリータとワニノコといっしょに、ずっとワカバタウンの研究所で管理されながら育った。  
これはヒビキと旅に出ることが決まった後で、ウツギ博士から教えてもらったことだ。  
ワカバタウンは前に言ったとおり、自然に囲まれた町だから、町中にも僕らが自由に走り回れるような草原がたくさん存在している。  
野生のポケモンは基本的に整備された町の中に入ってくることはない。  
僕らが町中の草原で遊んでいる時に野生のポケモンに出会ったことはなかった。  
ヒビキと出会って旅に出るまでは、僕はチコリータとワニノコ以外の他のポケモンに会ったことはなかった。  
正確には、たまに研究所に運ばれてくるポケモンを目にする機会はあったけど、本当に遠くから見る程度で、顔を合わせて話したことは一度もなかった。  
 
その後、ヒビキとの出会い…  
チコリータ、ワニノコと僕は研究所の机の上に並んで誰かを待っていた。  
研究所に入ってきたちいさな人間は遠くから僕らをひと目見たと思うと、すぐに僕の前に立っていた。  
その人間の顔を見ようと僕が顔を上げ、二人の目が合った瞬間、僕はその人間に抱き上げられていた。  
 
「ヒノアラシっ、キミに決めたっ!」  
 
その日初めてあったにもかかわらず僕はその人間の胸に顔をうずめ、今まで経験したことのない温もりを感じていた。  
 
そうそう、ヒビキとの旅に出ることが決まった後、ウツギ博士に教えてもらったことがもうひとつあった。  
研究所では博士も研究員の人も ホンヤクキ というポケモンの言葉がわかる機械を使っているらしい。  
これを使って僕たちのようなスターターポケモンの教育をするとか…、僕が研究所で何を教えてもらってきたのかはよくわからないけど。  
研究所以外の人間はこの ホンヤクキ が使えないために僕らポケモンと話しをすることはできないらしい。  
それはヒビキもいっしょで、僕の声はヒビキには届かない。  
 
「じゃあ、どうすればいいの?」  
僕は博士に聞いてみたけど、博士は、「それは自分で考えなさい。」って。  
でも、それに加えて、自分が思っているとおりのことをヒビキに伝えれば、きっとヒビキは答えてくれるはず。  
っていうことを教えてくれた。  
 
博士に教えてもらったからかどうかはわからないけど、僕はヒビキの後ろをついて歩いて、  
ことあるごとにスキンシップを求めていた。  
ズボンの裾を引っ張ったり。足にすりついたり、時には抱きついてみたり。  
ヒビキはいつも笑顔で僕のことを抱きしめてくれる。  
僕の中ではそれだけで辛いバトルのことなんかどこかにいってしまう。  
ただ、しあわせな時間だけを感じることができた。  
 
「ごめんね。ジャマするつもりとかじゃ…」  
ずっと黙って僕の話に耳を傾けていたモココが突然口を開いて言った。  
 
「ボクがヒビキについてきたのは…、キミがすごくしあわせそうだったから。」  
モココは続けてそう言った。  
「マグマラシがやっぱりボクのこときらってたんだよね…? ヒビキをとられると思ったから…?」  
モココの言葉はやっぱり的確だった…  
でも僕はなぜかうなずくにもうなずけなかった。  
「ボクが気になっていたのはヒビキじゃなくて…、うん…マグマラシなんだよ…。草原でヒビキに甘えるキミの笑顔を見たときドキッとしたんだ。」  
モココは何を言ってるんだろう?  
さらにモココは言葉を続ける。  
「何であのポケモンはあんなにしあわせそうなんだろう? 何であんなにいい顔で笑えるんだろう? そう思うとボクは知らないうちにキミたちの後を追っていたんだ。」  
なるほど、それでヒビキについてきたんだ。  
「キミがしてるようにボクもヒビキに甘えてるけど…、確かにヒビキはやさしいし、抱きしめられると温かい。」  
それは当たり前だよ、ヒビキは僕の大切な人だから。  
「でも、あの日キミを見たときに感じたあの感覚とは何かが違うんだ。」  
違うって? …何?  
モココは一呼吸おいて、また話し始めた。  
 
「ねぇ、マグマラシ。ボク、さっきキミにたいあたりされたでしょ?」  
「あっ…う…うん、…ごめんね。」  
「ううん、もぉおこってないよ。そうじゃなくて、あの後すぐにキミがボクのこと心配してそばに来てくれたでしょ?」  
「う…うん…。」  
さっきからモココの口調がいつもと違う気がする?  
 
「…キミがね、ボクの身体をやさしくなでてくれてるとき……、ボクはあの日…キミに初めてあった日…、そう、あの時と同じ感覚がした。」  
 
モココのピンクの顔が赤くなってるように見える。  
「今までキミに避けられていたから、自分でもわからなかったみたいだけど…。」  
僕はいつの間にかモココの顔から笑みが消えていることに気づいた。  
「今…、…キミが隣にいることでやっとわかったよ……。マグマラシっ…」  
 
………  
………  
………!?  
 
モココの口が僕の口を塞いだ。  
それはほんの一瞬のうちの出来事だった。  
でも、僕にはすごく長い時間に感じた。  
 
「…モココ…!?」  
「ごめんね…、イヤだったよね?」  
モココは潤んだ目で僕を見た。  
僕はそんなモココを見て、胸の鼓動が早くなるのを感じた。  
ヒビキにじゃれつくときとは違う、胸がドキドキする不思議な感覚。  
 
「…ねぇ…モココ? …今、何したの…?」  
モココは僕の言葉を聞いた後、ゆっくりと目を閉じて、少し俯いたと思うと、また、クスッと鼻で笑ってこう言った。  
 
「…マグマラシは、ほんとうに…、何も知らないんだね…。」  
少しだけ、またモココの顔に笑みが戻っていた。  
………  
少しの静寂が訪れた後、モココが重い口を開いて言った。  
「…マグマラシは…やっぱりボクの事キライだよね…?」  
………  
………どうなんだろう? 自分でもわからないけど昨日までは口も聞きたくなかったけど、今はそんなことは全く思っていない。  
逆に今はもっとモココと話していたいし、できればさっきみたいな………  
 
「ごめん、ヘンなこと聞いてこまらせちゃったかな…。」  
モココが僕から顔を背けて言った。  
 
「キライ…じゃないよ…。」  
僕は素直な気持ちでそう答えた。そしてキッチリと今までのことをあやまろうと思った。  
「今までは…、…モココのこと、勝手に嫌ってて…、ずっと、避けてたけど…。……ごめんなさい………っ!?。」  
僕が謝罪の言葉を発したとほぼ同時に、飛びついてきたモココに僕は押し倒された。  
 
「ありがとう、マグマラシ…。」  
「…モココ…痛いよ。」  
「あっ…ごめんね。でもさっきの たいあたり のお返しだよ。」  
「じゃあ僕もさっきのお返し…」  
「…っ!?」  
………  
………  
 
今度は僕がモココの口を塞いだ。  
唇と唇を合わせるだけのこの行為は、なぜだかよくわからないけど、不思議な感覚になるみたいだ。  
それは少し恥ずかしく、でもすごく気持ちがいい。  
さっきはほんの一瞬だったから、今度はずっと続けていたいと思った。  
そう思った次の瞬間、ぬるっとした生暖かいものが閉じていた唇の間から僕の口内に滑り込んできた。  
それは器用に僕の歯の表面を撫でながら奥に奥にと侵入し、ついには僕の舌と重なり合った。  
それがモココの舌だということはすぐにわかったけど、お互いの舌を舐めあうことが、こんなにも気持ちのいいことなんて……  
歯茎をなぞり、お互いの舌先を合わせる、そのままねじりこむように互いの舌を絡めあう。  
僕は今まで味わったことのない、また味覚では味わえない感覚を堪能していた。  
 
僕の息が乱れてきたことを察知したのか、モココは僕の口内から舌をもどし、唇を外した。  
僕は息遣いが激しくなっていて、自分で呼吸を整えることができなかった。  
 
モココはそんな僕を抱きかかえ、ベッドの上に寝かせてくれた。  
 
「…モココって小さいのに意外と力があるんだ? それとも僕が軽いのかな?」  
「ボクだって、お姫様を抱っこするぐらいはできるんだよ。」  
モココは笑いながらそう言った。  
オヒメサマってなんだろう?  
 
ベッドに寝かしてもらうとすぐ、僕の呼吸は元に戻ったような気がした。  
モココはボクの顔の前に座り、僕の頬に手を伸ばす。  
「だいぶ落ち着いたかな? マグマラシ?」  
モココの手が僕のほっぺたにやさしく触れたとき、僕はヒビキに抱きしめられるのとおなじような温かさを感じた。  
「ありがとう、モココ。」  
本当は当たり前のことだけど、僕の口から自然とこぼれた感謝の言葉に、はっとさせられる。  
何だろう? まだはっきりとはしないけど、僕はモココに、ヒビキと同じような気持ちを感じている?  
 
僕は寝転んだままモココの顔を見上げた。  
モココのピンクの顔はやっぱり赤くなっている。  
つぶらな瞳はまっすぐに僕をとらえ、その優しそうな口元は…ううん、さっきまで僕が塞いでいたやわらかい唇は、キュッとかみ締められていた。  
僕はそのままモココの身体を眺めるように徐々に視線を下げていく。  
さっき僕の身体と重なっていた、モココのピンクの身体を見ると、僕はなぜかドキドキする。  
ふっくらとしたそのおなかはモココが息をするたび、火にかけたおもちがぷくーっと膨らむかのような、収縮を繰り返す。  
僕はそのおなかの動きから、モココの息遣いが大きくなっていることがすぐにわかった。  
 
モココのおなかをチョットつついてみたいな。僕がそう思ったとき、  
ふっくらとしたモココのピンクのおなかの下で、モココの身体と同じピンク色をした指みたいなものがモココの呼吸に合わせて上下していることに気づいた。  
 
僕の好奇心は自然とそちらのほうに向かっていた。  
…ツンッ……と僕の指先がそのピンクの指にふれる。  
モココはビクッと身体を振るわせる。  
 
「…マグマラシ?…そんなに…、ボクのココが気になるの?」  
僕にはもうそれがモココのおちんちんだということはわかっている。  
でも、さっきさわったときよりも大きくなっているように思った。  
「モココのおちんちん…、大きくなってる?」  
僕の口からは、今思ったとおりの小さな疑問が声となり漏れていた。  
モココは優しく微笑んだ。  
「マグマラシのおちんちんも、大きくなってるよ。」  
 
そういうとモココは僕のとなりに寝そべった。なぜか僕の頭と逆の向きで。  
「オトコの仔はね、スキな相手に胸がドキドキすると、おちんちんが大きくなるんだよ。」  
そうなんだ…?僕のスキな人はヒビキ…。でも今は…  
「…モココのスキな人って?」  
返ってくる答えはなんとなくわかっていたけど、僕はなぜかこんなことを聞いていた。  
モココはまた優しく微笑んだ。  
「スキな人はきっとキミと同じだよ。」  
…ヒビキのことってすぐわかった。  
「でも一番スキなのはマグマラシってポケモンだよ。」  
モココは間合いを置かずにこう言った。  
………僕もきっとモココのことが…  
 
「…あっ………!?」  
モココの手が僕のおちんちんにふれる。  
「オトコの仔のおちんちんはね…、スキな相手に…、ダイスキって気持ちを伝えるために…あるんだよ。」  
………そんなこと…、…研究所ではおしえてくれなかったよ……  
「ねぇ…モココ…どうすれば、ダイスキってことが伝えられるの…?」  
この体制だと顔が見えないけど、きっとモココはまた優しく笑って言ってくれたと思う。  
「…今から、教えてあげる。」  
モココはそう言うと僕のおちんちんを優しく撫で始めた。  
 
…モココにおちんちんを触られている。こんなところ今まで他の誰かに触られたことはなかった。  
以前、チコリータやワニノコとふざけてつつきあったことはあったけど、こんなにもゆっくり、じっくりとは……  
…自分でふれるのとはぜんぜん違う、不思議な感覚に僕は自分でもすぐわかるぐらい息が荒くなるのを感じていた。  
 
モココは僕のおちんちんの先っぽに指を当てて、側面を優しく撫で上げる。  
おちんちんを軽くつまんだその指が上下するたびに僕は何ともいえない快感に小さく身体を震わせる。  
 
「マグマラシのおちんちん、まだ赤ちゃんと一緒で可愛いから、優しくしてあげないと。」  
モココが何かつぶやいた。  
 
そう言うとモココは両方の手で僕のおちんちんを挟みこみ、すり合わせるように優しく僕のおちんちんを手のひらで転がした。  
「…んっ!?」  
「マグマラシ、気持ちいい?」  
うん、なぜかよくわからないけど気持ちいい…  
…モココからダイスキって気持ちが伝わってくるからかな?  
それなら、僕もモココにこの気持ちを伝えないと…  
 
ちょうど僕の目の前で、ピンク色したモココのおちんちんがぷるぷるとふるえていた。  
モココのおちんちん…僕のとは色も大きさも違うけど、形は……たぶん、大体いっしょかな?  
 
「モココ…?僕もモココのおちんちん、触ってもいい?」  
…  
一瞬モココの動きが止まった。  
「うん…いいよ…、でも、やさしくしてね。」  
 
モココの返事が先だったのか、僕の手がモココのおちんちんに触れたのがはやかったのか、  
僕はモココの答えを待たずにそのピンクのおちんちんに手を伸ばしていた。  
こんなに間近で誰かのおちんちんを見たのは初めてだ。  
僕はモココがしてくれたとおりに、ゆっくりと…そして、できる限り優しく、モココのおちんちんを撫で上げた。  
ぎこちない手つきだったと思うけど、モココは時々、僕と同じように小さく身体を震わせた。  
僕の手はモココの一部分から伝わる、さっきとは違う、温かさを感じていた。  
 
「モココのおちんちん…、あったかいんだね…。」  
「…ん…、マグマラシのも…、あったかいよ…。」  
僕らはお互いにおちんちんから伝わる温もりを感じとっていた。  
………  
 
不意にモココは僕のおちんちんから手を離し頬を擦り付けた。  
「マグマラシのおちんちん、可愛いから食べちゃうね。」  
 
次の瞬間、僕のおちんちんは生温い空間に包まれていた。  
その空間の主であろう、さっき僕の唇をこじ開けて、僕の口内に侵入してきた、あのぬるっとした生暖かいものが…、今度は舌ではなく、僕のおちんちんに絡み付いていた。  
自由に動くことができない僕のおちんちんは、その生温い空間内で、そこの主であろうぬるっとした存在、そう、モココの舌の上で一方的にもてあそばれる。  
モココは舌の上で僕のおちんちんを転がし、時々、舌先で先っぽを刺激する。僕はそのたびに身体をビクッとのけぞらせた。  
 
「マグマラシは、ここがいいみたい?」  
「…っん…ん………」  
僕は声にならないあえぎ声を出していた。  
 
モココはちゅぱちゅぱと音を立てて、僕のおちんちんを吸い続ける。  
僕は全身の力が抜けたように、頭がボーっとしていた。  
そんなとき、いっぱいまで大きくなったモココのピンクのおちんちんがぴょこぴょこと動いては僕の頬にこすれる。  
僕はなんとなくそのピンクのおちんちんを手にとり、その先っぽに舌をはわせた。  
「…あっ……」  
モココが小さな声をあげる。  
僕はお構いなしに舌先でつつくように無心のままモココのおちんちんの先っぽを撫で続ける。  
そのとき僕の舌はモココの先端の穴…、ちょうどおしっこの出るところに…ぬるっと滑り込んだ。  
 
「…ン…あっ……っん……」  
急にモココが高い声を発した。  
突然耳に響いた高い音波は僕の肩をビクっと大きく震わした。  
今まで朦朧としていた意識が一瞬にして戻ってきたようだった。  
僕はすぐに身体を起こしてモココの顔を見た。  
ほぼ同時にモココも身体を起こしてきて、潤んだ目で僕を見つめたかと思うと…  
モココは僕の口を塞いでいた。  
 
「うん…モココ?」  
「マグマラシ…。」  
モココはすぐに唇を離して、そして、うれしそうに笑いながら言った。  
 
「…いまのキスは…、キミのおちんちんの味がしたかな…?」  
…キスって言うんだ、…お互いの唇を合わせるだけで不思議な気持ちになる。  
「でも、ボクもマグマラシにおちんちん舐められちゃったから…ふたりの味がまざっちゃったかな?」  
……モココは…、さっきからなんでヘンなことばかり言うんだろう。  
 
……  
「ねぇ、マグマラシ。」  
少しの間を置いてモココが僕に呼びかける。  
「なぁに?」  
またヘンなこと言うのかな?  
「…次はね、お口の中じゃなくて……」  
…ぽふっ、と言う音とともに、モココの たいあたり を受けた僕はまだベッドに押し倒される。  
「…ボクのおちんちんとマグマラシのおちんちんを………直接…」  
押し倒された僕をまたぐように、モココは僕の上に腰を下ろす。  
僕らの身体が最初に触れあった部分はおなかの下の突起物、ではなくて、さらにその下についている…  
きっと僕の身体で一番柔らかい部分。バトルのときには、守らなければならない、きゅうしょ っていわれる場所だ。  
僕の身体と同じように、モココのおちんちんの下にも、モココの身体と同じ色をしたピンクのぷっくりした きゅうしょ がついていた。  
モココはこの きゅうしょ どうしが合わさるように僕の上に腰を下ろした。  
ふにっとしたやわらかい感触とひんやりした心地よい冷たさが僕の きゅうしょ を通して伝わってくる。  
やっぱりそこはモココの身体でも一番柔らかい部分に違いないだろう。  
モココは きゅうしょ を合わせたままのそのままの姿勢で、片方の手で僕のおちんちんつかんで…  
もう片方の手でモココ自身のおちんちんをつかんでいた……  
 
「…っん…ん………」  
自由を奪われた僕のおちんちんは、モココの手の動きに合わせて、モココのピンクのおちんちんと擦れ合う。  
ふたりのおちんちんの先端が擦り合わされる度に、僕はよく耳を澄まさないとわからないぐらい小さな声で喘いでいた。  
 
「やっぱり、マグマラシも僕といっしょで先っぽスキなんだね。」  
そう言ってモココはふたりのおちんちんの先っぽを合わせて、少し力をこめて、ぐにぐにと擦り合わせた。  
「…あ…っんんっ…っん………」  
僕の口から自然と喘ぎ声が漏れる。  
ふたり重ね合わせた きゅうしょ の冷たさと対照的に、僕らのおちんちんは体温以上の熱を帯びているような気がした。  
………  
………  
やがて、僕の顔に疲れが見えたのか、モココは手を止めて、そのまま倒れこむように僕の上に覆いかぶさった。  
 
「マグマラシ…」  
モココの手が僕の頬に触れる。  
「…モココ…」  
僕が手を伸ばしモココの頬に触れようとした………そのとき、  
 
…カチャ  
 
不意にドアのロックが外れた。  
僕は反射的にモココを突き飛ばしていた。  
 
「ただいま〜。」  
ドアが開くと同時に小さな人間が部屋の中に入って来た。  
手にはなにやら荷物を下げている。  
 
「ごめんね、遅くなっちゃったっ。」  
言うまでもない、僕らのトレーナーのヒビキだ。  
 
部屋に入るなり、ヒビキは表情を曇らせた。  
きっとシーツの汚れと僕らの姿のせいに違いない。  
モココを突き飛ばしたのも何でかわからないけど、この状況は本当は見られちゃだめなような気がした。  
僕はとなりのモココに目で合図を送る。  
モココは目を閉じて首を横に振った。  
 
「もしかして…、ふたりとも…、お漏らししちゃったのかな?」  
そう言うとヒビキはいつもの笑顔に戻り、  
「シーツを取り替えてもらうから、ふたりは身体洗っておいで。」  
ヒビキは手際よく汚れたシーツを丸めて、部屋から出て行った。と思ったけど…  
「あっ…シャワーの使い方はわかるよね?」  
完全に閉まる前の少し開いたドアの隙間から、ヒビキは僕に尋ねた。  
僕は無言で首を縦に振り、その合図を汲み取ったヒビキも僕に微笑を残してドアを閉めた。  
 
「ヒビキに見つかっちゃった…」  
身体の汚れを落としながら僕はモココに語りかける。  
「別に気にしてないみたいだったから…」  
モココは笑いながらそう言った。  
「でも、お漏らししたと思われるのもねぇ…ボクはマグマラシと違ってそんなことしないから…」  
「僕だってしないよっ。」  
笑いながらモココが続けた言葉に、僕はチョットむきになって言いかえした。  
「可愛い、マグマラシ。これからもふたりきりのときだけにしようね。」  
僕はモココの顔を見ないように、小さく頷いた。  
 
シャワーの水を止めて、僕は温風を出しふたりの身体を乾かした。  
バスルームから出ると、ヒビキはすでにベッドに新しいシーツを張り終えたみたいで、その上に座って、僕らが出てくるのを待っていた。  
 
「どう、さっぱりした?」  
僕とモココは同時に頷いた。  
「そう、よかった。チョットふたりともこっちにおいで。」  
ヒビキに呼ばれて僕らはベッドの上に飛び乗った。  
ヒビキはさっき持ち帰った荷物の袋の中から何かを取り出し、僕とモココの首に順番に巻きつけた。  
「おそろいだよっ。よかった、ふたりともよく似合ってる。」  
僕とモココはお互いの首に巻かれた白い布を不思議そうに見つめていた。  
「ホントはデパートで何か買ってあげたかったんだけどね。あまりお金がなかったからゲームセンターで…」  
ヒビキはこの布のためにこんなに遅くまで…?  
「キミたちふたりはあまり仲がよくなさそうだったから、おそろいにしたんだけど…」  
やっぱりヒビキは僕がモココのことを嫌ってたのわかってたんだ。  
「…でも、いつの間にか仲良くなったみたいだし要らなかったかな?」  
そう言うと、ヒビキは満面の笑顔で、僕ら二匹を同時にその小さな胸の中に抱き寄せた。  
 
僕はヒビキの胸の中で、その温かさを感じながらこう思った。  
…やっぱり僕はヒビキのことがダイスキっ…。  
…でも…、モココのこともキライじゃないよ…  
ううん………きっと…、  
 
 
ヒビキの胸の中で、小さな僕の右手は、モココの左手にふんわりと優しく包まれていた。  
 
fin.  
 
 

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