ビーッ!ビーッ!  
 
ミツハニーが何やら騒いでいる。  
彼らが騒がしいのはいつものことだが、今日は様子が違っていた。  
「女王様!女王様!」  
一匹のミツハニーが慌てて飛んできた。  
何やら捲し立てているが、慌てて早口で話すので聞き取れない。  
「落ち着いて話しなさい」  
一言命じてやると、ミツハニーはすぐさま深呼吸をし、今度ははっきりと話しだした。  
「女王様!我らの縄張りにスピアーが一匹、迷い込んだようです!追い払うか、ひっ捕らえるか、どうぞご指示を!」  
「スピアー、ね。……オスならば追い払い、メスならば捕らえなさい」  
「はっ!了解いたしました!」  
また慌てて飛んで行こうとするミツハニーを止め、一言付け加える。  
「メスならば、なるべく丁寧にもてなすこと。いいわね?」  
「はっ!我等が偉大な女王様の御心のままに!」  
飛んでいくミツハニーを見送りながら、メスならばいいと考えていた。  
 
その思いが通じたのか、私のもとに一匹のスピアーが連れてこられた。  
「……」  
腕を後ろ手に縛られ、スピアーは無言でこちらの様子をうかがっている。  
ミツハニーとスピアーに疲弊した様子や傷がないのを見ると、大人しく捕らえられてくれたのだろう。  
「御苦労。私は自室でスピアーと話をする。お前達は、私が呼ぶまで決して自室に近付くんじゃないよ。」  
「「はっ!我等が偉大な女王様!!」」  
ミツハニー達の返事を背に、スピアーを自室へと案内する。  
 
「どうぞ。お入りなさい」  
私の群れは巨大な樹木の洞に巣を形成している。  
その入り組んだ巣の一番奥、一番広い場所が私の自室だ。  
「……失礼します」  
ここへ来て、初めてスピアーが口を開いた。  
落ち着いた、女性らしく澄んだ声だ。  
私は彼女の後ろへ回り、腕の拘束を解いてやった。  
拘束に使われた蔓は強度はあるが柔らかく、締め付けも強すぎるということはなかった。  
ミツハニー達は『危害を加える危険性』を考え拘束したが、『丁寧にもてなすという命令』もできるだけ守ろうとしたのだろう。  
「外しても、よろしいのですか?」  
戸惑ったようにスピアーが尋ねてきた。  
他種族の群れに迷い込み拘束され、その群れのボスの前に引きずり出され、二人きりに。  
何をされるのか、内心では恐れていたのだろう。  
「ええ、いいのよ。私はあなたとお話がしたかっただけだもの。あなた、蜜はいかが?」  
そう言い、部屋に常備してある甘い蜜を手に取る。  
ぼんぐりや木の実をくり抜いて作った蜜入れは、ちょうど手に収まる大きさだ。  
「は、はい。いただきます」  
蜜入れを差し出した私の手から、スピアーは器用に両腕の毒針で挟んで受け取った。  
しかし飲もうとはしない。  
「ふふ……そんなに緊張しないで。本当に、お話がしたいだけなの。敬語も使わなくていいのよ?」  
そう笑いかけてやり、まず私が蜜を口に含んだ。  
ミツハニー達が集めてくる蜜は、とても甘くて美味しい。  
「い、いえ!群れは違えど、あなたは女王蜂で私は働き蜂ですから……」  
スピアーは慌てて答え、誤魔化すように蜜を啜った。  
「働き蜂……ねえ。スピアー、あなたの群れにオスはいる?メスは?」  
「え!えーと……働き蜂はメスですが、群れにはオスもいます。オスは働きませんが」  
突然の私の質問に、スピアーは戸惑いつつ答えた。  
私の群れとは違い、オスもメスもそれなりの数がいるようだ。  
スピアーのオスは働かないというのには少し驚いたが。  
「そう……私の群れの働き蜂はみんなオスなのよ。この群れに、メスは私ただ一匹……」  
ふう、と溜息を吐く。  
そう、私がスピアーを捕らえた理由。  
「ねえ、私、メスの蜂とお話しするのは初めてなの。ずっと、お話ししてみたかったのよ……」  
少し顔を伏せ、寂しげに呟いた。  
スピアーの緊張が取れないのは、私が何か失敗したせいなのだろうか。  
落胆していると、スピアーが呟く声が聞こえた。  
「あ、あの……私でよろしければ……お話、しても……」  
顔を上げ、スピアーの照れたような表情を見たとき、私の胸の内に温かい何かが流れ込んだ。  
 
それから、私たちはたくさんお話をした。  
好きな香りのこと。好きな蜜の種類のこと。群れのこと。いろいろ、たくさん、たくさん。  
こんなにも誰かと話していて楽しいと思ったことはなかった。  
彼女の話はどれもキラキラと輝いているようで、彼女の声が心地よかった。  
誰にも話したことがないことも、彼女になら話せた。  
それに答えるスピアーの優しい眼差しを好きになった。  
今日出会ったんばかりだというのに、私は彼女にどんどん惹かれていった。  
 
「──ビークイン様、そろそろ……」  
時間も忘れて話し込んでいたら、そろそろ陽が落ちてきたようだった。  
「もう?もう少しお話しましょうよ、ね?」  
「すみませんが……一度、巣へ戻らねばなりませんので」  
スピアーは名残惜しそうに言った。  
それでも、真面目な働き蜂らしく巣へ戻るという。  
「迷い込んだ私に良くしてくださって、ありがとうございました。それでは……」  
そしてスピアーは背を向け、そのまま部屋を──  
「──待って」  
考える前に呼び止めていた。  
「あなた、私の群れに入る気はないかしら?」  
私の突然の提案にスピアーは振り向いた。  
驚いているようで、困惑した様子が伝わってくる。  
それもそうだろう、私自身驚いているのだ。  
ほんの一時を共に過ごしただけの、出会ったばかりの他種族の働き蜂に、こんなことを言い出すなんて。  
しかし、私の言葉は止まらなかった。  
「あなたは働き蜂でしょう?いつも命令されては蜜を集めに飛び回っているのでしょう?  
 でも、私はこの群れであなたにそんなことはさせないわ。私と一緒にいるだけでいいの」  
スピアーは未だに困惑した様子だったが、口を開いた。  
「お誘いは嬉しいのですが、私は私の群れに帰らねばなりません」  
はっきりとした口調で、微塵の迷いも感じられない答えだった。  
その返答は、自らの群れの女王蜂に絶対の忠誠を誓う一介の働き蜂として、当然のものだった。  
しかし私は訳のわからない焦燥に襲われ、声を荒げて言葉を連ねた。  
「私と同じ生活をさせてあげる!ミツハニー達に命令だってしていい!  
 望むのなら、女王蜂にのみ許されるロイヤルゼリーだって与えてもいいのよ!」  
「……失礼します」  
再びスピアーが私に背を向けた。  
行ってしまう。  
彼女が、行ってしまう。  
彼女とのあの一時を失いたくない。  
 
──どうすればいい?──  
 
「なっ……!?」  
スピアーの体がバランスを崩した。  
床に倒れこむ前に、優しく受け止めてやる。  
「あっ……こ、これは一体……」  
私の腕の中でスピアーが呟く。  
「『あまいかおり』よ…スピアー。女王蜂のフェロモンに抗える働き蜂が存在すると思う?」  
クスクスと笑いながら言ってやる。  
すっかり力の抜けたスピアーが、私の腕の中で呻いた。  
「な、何故ですか……ビークイン様……」  
「あなたが行ってしまうからよ」  
私はスピアーを床に仰向けに寝かせ、上に覆いかぶさった。  
背の翅を押しつぶして痛めてしまうかもしれないが、今の私にそんな気遣いをする気はなかった。  
まずは彼女の触角を爪で弄ってやる。  
「ひゃあっ!や、やめてくださいビークイン様!!」  
私の下でスピアーが身じろぎするが、そんなものは抵抗にはならない。  
触角を撫で上げ、擦り、摘む。  
香りによって彼女の体が発情するまでの時間つぶしだ。  
「あ、あぁっ……!ひぅっ!」  
だんだんと反応が良くなってきた。  
まだ触角を弄っているだけなのに、なかなかいい声を上げてくれる。  
右の触覚に口をよせ息を吐きかけてやると、体ごとビクンと揺れた。  
触覚の先端を舐め上げてやり、そのまま口に含んで奉仕してやる。  
口内にたっぷりと唾液を含ませ、わざと音を立ててやった。  
まるで私がフェラをしているようだ、ふとそんなことを思った。  
「ん、はふっ……ぅん……」  
ぐちゅ、じゅぽっじゅくっ……  
「ひあっ!はあ、あ……んうううっ!」  
執拗な触覚への刺激で、もうスピアーはすっかり発情したようだった。  
更なる刺激を求めて体を熱くしている。  
ぬちゃ……  
触覚から口を離す。  
ピクピクと震える触角からは私の唾液が伝い、ぬらぬらと厭らしく艶めいている。  
スピアーは刺激から解放されて、荒い息を吐いている。  
その顔は上気しているが、未だに快楽に押し流されまいとしているようだった。  
彼女に顔をよせ、囁いてやる。  
「女王蜂にご奉仕された気分はいかがかしら、働き蜂さん?」  
スピアーはキッと私を睨みつけ、怒鳴り付けた。  
「あなたは私の女王蜂ではないっ!!こんなことをして、どうするおつもりかっ!」  
……なんとも忠誠心の強い、理想の働き蜂だこと。  
何としてでもその気持ちをこちらに向けさせたい。  
「あなたは私の働き蜂になるのよ、スピアー。誰があなたの女王蜂なのか、その体に教えてさしあげるわ」  
妖艶に笑んだ私が、スピアーの赤い瞳に映った。  
 
スピアーの尾の毒針は両腕の毒針とは違い、体色と同じ黄色である。  
そして常に鋭い両腕の毒針とは違い、尾の毒針は非戦闘時には意外と柔らかくなる。  
その違いは、尾の毒針が産卵管を変化させたものだからだろう。  
蜂の群れは女王蜂しか卵を産まないので、働き蜂の産卵管は通常は必要ないものなのかもしれない。  
しかし、女王蜂が突然いなくなった巣やトレーナーのもとでは、働き蜂も卵を産むという。  
 
行為に及ぶため、自分とは異なる種族の働き蜂であるスピアーの性の構造について考察してみる。  
他種族とはいっても蜂ではあるのだから、まあ大体は分かるだろう。  
そう考え、私は彼女の尾の前まで下がり、尾の毒針──産卵管へと手を伸ばす。  
「ひ、いぃっ!?」  
香りによって弛緩した体はその部分も例外ではなく、戦闘時とは比べ物にならないほど柔らかかった。  
外側を両手で包み、上下に擦りしごいてやる。  
ビクビクと尾を持ち上げ、腹側へ丸まろうとする姿が可笑しかった。  
「ひっ……!や……やあ、ぁっ!くっ、ふぅ……!」  
「なんだかさっきから、私がフェラや手コキでご奉仕してるみたいだと思わない?  
 女王蜂からこんなにご奉仕される働き蜂なんて、きっとあなただけよ。光栄に思ってくれるかしら?」  
「誰、が、思うもの、ですかっ……!」  
口ではそんなことを言うが、体は正直なものだ。  
ぽた、ぽたっ……ぐちゅ  
戦闘時には毒針として毒液を出す器官。  
しかし今は産卵管としての機能をしっかりと果たし、蜜を溢れさせている。  
溢れた蜜は床に染みを作っていき、それは外側を擦る私の手にも触れて、粘着質な音を立てた。  
「……すごいわね、スピアー。あなたのココから、どんどん蜜が溢れてくるわ」  
「はっ……はぁっ……!」  
一旦手を止め、蜜が溢れてくる様子を眺める。  
なんだか花の香りがするような気がした。  
そっとその先端に口をつけた。  
そして、花の蜜を吸う時のように吸い上げる。  
「やああああぁっ!!ひゃ、ああ、あ!!」  
……甘くて美味しい。  
花の香りと蜜の味だ。  
「あなたの蜜、美味しいわ。あなたもいかが?」  
そう言ってまたスピアーの上に覆いかぶさり、キスをした。  
彼女に自らの味をしっかりと味あわせるために、何度も角度を変え、舌を絡め、唾液ごと飲ませた。  
「んんっ……ん」  
「美味しい?」  
「…………」  
もうスピアーは何も言わず、ただ私を睨みつけるだけだった。  
彼女の濡れた赤い瞳が美しい。  
 
「ふふっ……大丈夫よ。もっと気持ち良くしてあげるから……」  
先程の体勢に戻り、左手で産卵管を掴む。  
そして右手の爪を一本、蜜の溢れる入口へと押し当てる。  
「……ぅ、んっ……」  
小さくスピアーが震えた。  
産卵時には卵が通るほど広がるとはいえ、今の産卵管は大分狭い。  
それに、真面目な働き蜂である彼女のことだ、経験もないのかもしれない。  
私の爪一本を入れるだけでも、かなりの圧迫感があるだろう。  
「力を抜いて……じゃないと、裂けちゃうわよ」  
「う、あっ……」  
蜜で既にドロドロに解けきっていたことが幸いして、なんとか先端を入れることができた。  
きつくて熱い中を慣らすように、掻き混ぜながら押し進める。  
「ひあっ!あ、んっ……!ふ、うぅ……!」  
「ん……もう一本、いけそう……爪、全部いれるわね」  
「っ……!ひ、ぅっ……!は、ぁ……っ!」  
ぬぷ、ずっ……ずっ  
二本目の指が、産卵管に飲み込まれていく。  
スピアーは声も出せず、ふう、ふう、と辛そうに息を吐いている。  
「……すごいわね、スピアー。こんなになるのね……」  
スピアーの産卵管は私の爪を全て飲み込み、その形を浮かび上がらせている。  
これがあの鋭い毒針だとは思えないほどだ。  
「もっ……!だめ、え……!動か、さ……ない、でえっ……!」  
ビクビクと体を痙攣させながら、スピアーが懇願した。  
その瞳からはボロボロと大粒の涙を流している。  
よほど辛いのだろう。  
「動かさないでほしい?」  
聞き返すと、スピアーは何度も頷いた。  
「……働き蜂の命令を聞く女王蜂が、どこの世界にいるのかしら?」  
「っ……!ひ、あ、あああああっ!!か、はっ……!あっぁあっ!」  
二本の爪をバラバラに動かす。  
内壁をなぞり、引っ掻き、突く。  
スピアーの尾が激しく暴れるのを押さえつけ、より強く。  
「ああぁ!ひゃ、あっ!んっ……ひ、あ、ああ、あっ!あぁーっ…!!」  
スピアーの尾がビクビクと跳ね、痙攣を繰り返した。  
私の手によって翻弄され絶頂に導かれた彼女を、愛おしく思った。  
「気持ちいい?スピアー……もっと、もっとしてあげる」  
痙攣する産卵管の中を更に広げるように、内壁を擦りながら二本の爪を開いた。  
「ひっ……!やっあ!やあああああっ!!」  
達したばかりで敏感になっているのだろう。  
気持ち良すぎて、それが辛いのだろう。  
「ああ……好きよ、スピアー……」  
私の言葉は、悲痛な喘ぎに掻き消された。  
 
それから幾度も絶頂に導いてやり、『あまいかおり』の効果が切れるころに漸く刺激から解放してやった。  
「は、あっ……は……はぁー……」  
スピアーの荒い息が少し落ち着いてきたのを見計らい、爪を引き抜いた。  
どぷっ、と蜜が溢れる。  
その光景が嬉しくてたまらない。  
私はスピアーに問いかける。  
「スピアー。あなたの女王蜂は、誰?」  
私はスピアーの瞳に、快楽の余韻が残っていることを期待した。  
私こそが自分の女王蜂だと、私に忠誠を誓う瞳を期待した。  
「……私のっ、女王蜂は……我が群れの女王蜂、ただ一匹……っ。……離れなさい、ビークイン」  
息も絶え絶えにそう言うスピアーの赤い瞳には、軽蔑の色がありありと浮かんでいた。  
「……っ!」  
私は反射的にスピアーから身を引いて立ち上がった。  
彼女の瞳を見た瞬間、私の胸の内に何かが這い上がってきた。  
 
どうしても引き止めたかった  
自分の傍にいてほしかった  
 
己の所業を見下ろす。  
弛緩した身を床に転がし、産卵管から蜜を垂らしているスピアー。  
力ずくで体を開いたのだから、相当辛かっただろう。  
体の下敷きとなった背の翅も、見るからに痛めている。  
そして、彼女の軽蔑の眼差し。  
その眼差しに射竦められて、私は胸の内に這い上がってきたものの正体を悟った──恐怖だ。  
生まれて初めて心の底から欲したもの、それが絶対に手に入らない恐怖。  
……いや、それよりも。  
彼女の優しい眼差しが、もう何をどうやっても己に向けられることがないという事実。  
向けられるのは軽蔑の眼差しだけだという事実に気がついた、恐怖。  
 
ふらふらと起き上がるスピアーを、私は茫然と眺めていた。  
「……さようなら、ビークイン」  
その声に弾かれたように、私はスピアーの腕を掴み──  
 
「──ごめんなさい!!」  
 
生まれて初めて、他者に許しを乞うた。  
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」  
女王蜂の私が、他種族の働き蜂に縋りついて謝罪を繰り返した。  
みっともなく涙を流し、己よりも小さなスピアーに縋りついた。  
スピアーがどうやっても手に入らないことが分かってしまった。  
己に縛り付けても、彼女の群れに返しても、私の欲しかったものは手に入らない。  
私は彼女に嫌われたかったわけでも、体だけが欲しかったわけでもない。  
ただ彼女と過ごした優しい一時を終わらせたくなかっただけなのに、私は手段を誤った。  
でも、どうすれば良かったのか分からない。  
これから、どうすればいいのかも分からない。  
もう私には何も分からなかった。  
 
「ごめっ……なさ……ぃ」  
グスグスと泣きながら謝罪を繰り返していると、はぁー、と溜息が聞こえた。  
「…………」  
恐る恐る顔を上げ、スピアーを見る。  
呆れたような、困ったような、そんな顔だった。  
瞳に軽蔑の色が浮かんでいないことに、ほんの少し安堵した。  
「……ビークイン、あなたは何がしたかったんですか?」  
スピアーが私の瞳を見つめて尋ねた。  
私がしたかったこと──  
「……また一緒に蜜を飲んだり、お話ししたり……」  
はぁー、と再び溜息が吐かれた。  
今度は呆れの色が強い。  
「……それだけのことで」  
その言葉に、つい反論してしまった。  
「だっ、だって、あなたは私の群れに入ってくれないって言ったじゃない!もうお別れだって、ことじゃ、ない……」  
また涙ぐんでしまった。  
泣きたいのはスピアーの方だろうに、私が泣いてどうするのだろう。  
「……お願いですから、泣かないでください……」  
スピアーが腕の毒針の側面で、私の頭をよしよしと優しく撫でた。  
毒針で傷付かないように、ひどく優しく。  
頭を撫でられたのは、生まれて初めてだった。  
「……ビークイン、あなたは手段を間違いました。あなたがすべきことは、たった一つだったんです」  
「私が、すべきこと……?」  
 
「『私とお友達になってくれませんか?』……たった一言です」  
 
「あなたはこの群れの女王蜂で、私は私の群れの女王蜂に忠誠を誓う働き蜂です。  
 あなたは私の女王蜂にはなれない。私はあなたの働き蜂にはなれない。  
 それでも……」  
スピアーが、澄んだ赤い瞳で見つめてくる。  
私の言葉を待っている。  
「私と、お友達になってくれませんか……スピアー」  
蜂蜜色の私の光。  
もう二度と向けられることがないと思った優しい眼差し。  
初めての、お友達。  
「喜んで、ビークイン。お友達から、始めましょう」  
 
 

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