「竹細工君、私がどのポケモンに挑戦状を送ったか分かるか?」
こいつ、送ってからずっとこんな感じで上機嫌なんだよなぁ……
長い尻尾振りまくって、ドンだけ楽しみかっつー話だ。
「…ああ、そうか、さすがに絞れないか。ならば三択にした上に三日分で、どうだ?」
「え、いいのか。」
「ああ、今日の私は気前が良いからな。
1.チームリーダーのザングース
2.チーム隊員のサンドパン
3.同じくチーム隊員のストライク
さあ、どれか分かるか?」……こいつ、俺の事を馬鹿にし過ぎじゃないのか?実質二択じゃねーか。
まあ、俺は勘が良い方だから、二択なら間違いなく当てられる。そうだ、間違いない。
ちっぽけなことでも俺はこいつに勝てる。
流れを変えることが出来る。
よし、たぶんこっちだ。
「おまe「残念、ハズレだ。私はあえて選んだのだ。答えから外したのはお前自身だ。」
………ちくしょう。こいつが負けを求めてるのを考えていれば…
「私は行かなくてはな…『竹製ハブネー君』。
「…くおぉぉおっ!!」
もうこいつの飯の中にベリブの実を混ぜてやろうか、
駄目だこいつ何でも美味しく食べられるんだった。
俺が食えない渋すぎる野菜とか
俺の大好きな甘い果実とか
……俺も好き嫌い多いんだよな…まずはスープの中のパセリから克服を……
・
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「のいたのいた〜っ!」
まさに虫のように自由自在に飛び回り、しかし腕と化した鎌を一切使わず、
その羽と強靭な脚でひたすら襲い掛かるポケモンの攻撃を避け、蹴りで弾き、大型ポケモンの頭を踏み台に使ったりもする。
とにかく戦いから避け、逃げ、階段目指して一直線に進む。
持ち前の速さと諸事情で鍛えられた技術、何より速く挑戦状の送り主に会いたいという気持ちでさらに加速する。
腕比べのために鎌を念入りに手入れし、最善の状態を保つため途中ではなるべく使わない。
出来るだけ依頼人を待たせない。
ストライクの中で決められた独自のルールは、雑念その他を完全に消し、
(黄金の林檎っ──!)
……心を唯一つの思いに集束させている。まあ、間違いではない。
階段を登ることを生き甲斐としてるかの如く駆け上がる、
襲い掛かるポケモンから逃げる、転がっている林檎やグミなども目もくれない、
「いらっしゃ〜…ありがとうございました……」
そしてまた階段を風のように登ると、何時もより随分と変わった場所に出た。
一つ目に、ここには石くれも何も転がったりしていないこと。
二つ目に、ここのフロアは遮蔽物も何も無い、
少し大きめの部屋のような立方体に近い形をしていること。
三つ目に、ここにはストライク以外には一体のポケモンしかいなくて、
そのポケモンが今現在ストライクを見ていて、
「随分と早かったな……こちらが遅れてしまう所だったよ。」
それが新しい玩具を見つけたような、
好奇の眼をしていること。
「お前が送り主……か?」
「ああ、その通りだ。他に質問は?」
ストライクは短時間のうちにそのポケモンに様々な疑問を抱いていた。
まずストライクはそのポケモンを見たのは始めてで、
何が得意なのか、タイプは何なのか、全く分からない。
とりあえず、紫がかった体色からエスパー、あるいはゴーストと推測した。
体の表面が何かで覆われていないのも気にかかる。
リーダーのようなもふもふも無いし、サンドパンのような棘も見当たらない。
つまり見れば見るほど怪しいポケモンが目の前に立っている。
"……もしかして、騙されちゃった?"
ストライクの中に疑念が広がる。
「…本当に、黄金の林檎、くれるの?」
もし嘘だったら、自慢の鎌で格子模様を体に彫り込んでやる。
「……まあ、当然の事だろうな。ほら、これだ。」
そのポケモンの手の中に、いつの間にか光輝く金の鞠、
否、確かに林檎の形をした物が、球がくっついたような手に握られ、その金色に反射した光が零れていた。
「……!…ホント!?本当にくれるの!?」
ストライクはこの林檎はまさしく黄金の林檎だと確信した。
以前別チームの探検隊が持っていた黄金の林檎。
それから溢れる輝きと全く輝き方が同じだったから。
「ああ、本当だとも。……腕比べをしてくれたらな。」
そのポケモンは、手の中の林檎を何処かに消し去り、少し重心を落とした、安定感があるような構えをとる。
「…さて、質問はもう無いか?」
聞きたい質問自体はなにもかも消え去ってしまった。
もしストライクが首を横に振ったら、それが腕比べ開始の合図になる。
お尋ね者を目の前にしたり、モンスターハウスに直面した時のように、
ストライクは戦闘時における身体の変化が表れていた。
ザングースは瞳孔が開き、全身の毛が逆立つ。
サンドパンは背中の棘を震わせ、…………背中の棘が奮い立つ。
ストライクも身体を大きく見せるために背中の羽が限界まで開ききり、
両腕の鎌を振り上げて、自身の顎が曲げた膝につきそうなくらい前に屈み、地面の土を足で少し掴んだ。
「………無い。」
─このまま真っ直ぐ踏み込んだら、相手は避けるだろうか。
ストライクは僅かな時間で先手の最適な取り方を考える。
─もし毒など使われたら後に響くし、麻痺したら格好の的、眠らされたら何をされるか分からない。
相手より先に仕掛けるか、
相手の先手を潰すべきか?
「……分かった。」
多分これだ─
「では……」
おそらく勝てる──
「腕比べを…」
─オレは勝てる
「始めようか」
黄金の林檎──
刹那、ストライクの身体は地に足をつけていなかった。
全力で角度十五度程で跳躍し、接近しながら、エアスラッシュを放つ。
「これは…始めて見たな……」
言いながらもその顔は笑みを浮かべていて、
そのポケモンの体格より大きい半透明の板を出現させ、放たれた空気の刃を受け止める。
「…少し、壁越しにも手が痺れるな……
まともに当たったら、動けるまで時間が少しかかりそうだ……」
冷静に分析するポケモンにストライクが跳び近づいている。
もしこのまま壁を出したままなら、壁が砕かれ、手痛い反撃を受けるだろう。
雷で撃ち落とそうかと思ったが、このエリアは晴れ。
ならばこれで撃ち落とすか。片方の手で壁を維持し、
もう片方の手に力を込め、エネルギーの発現、
命中しても大事に至らぬくらいのエネルギーを凝縮、球形に纏める。
次の瞬間、両耳孔から実に不快な耳鳴りと直接頭を殴られたような衝撃が走り、
凝縮したエネルギーが手から逃げ、拡散する。
尚も耳鳴り衝撃は続き、地に膝を着けてしまう。
「これは……少し…予想外だな……」
揺らめく視界をストライクに向けてみれば、ただ羽をばさばさとせわしなく動かしながら、空中に静止している。
しかしはばたきが異様に速く、普通に羽を飛行目的で使っているとしたら、遥か彼方まで飛んで、空に飲まれているだろう。
「……それも、始めて見た……いや、受けたな…」
ストライクの羽は空中に静止する分と、相手方にダメージを与えるくらいの波を発するため、羽自体の動きがゆっくりに見えるほど素早く動き、
そこから放たれる音波はそのポケモンの耳孔から入り込み、無茶苦茶に頭を揺らす。
むしのさざめき。
味方側にも五月蝿さから小規模なモンスターハウスでも使用を控えるように忠告され、
音波を放つことに不馴れなためあまり使わない技である。
「凄いな……あっという間に……ここまで塞がれるとはな……」
片手で耳孔を押さえるも、あまり頭の衝撃は消えず、あまり意味が無い。
さらに、防御用として張った壁はこの攻撃を音として認識し、ごく当たり前のように通り抜けてくる。
しかし壁を解いたら真っ直ぐストライクが飛び進んできて、鎌を喉元にあてがわれてこちらの負け。
もしくはあの刃を繰り出されて当たって怯んでいる内にこちらに飛び進んで以下略。
壁をもう一度飛び進んで来る短時間に張ることなど不可能。
「……ならば、迎え撃つしかないか。」
空いている片手を耳孔から離してしっかりと握り、現在の状態から振り絞れる分の力を拳に込める。
耳鳴り他に耐えながら膝を震わせながら再び両足で立ち、壁を解いた。
「……来い。」
そのポケモンの表情は、頭の中に衝撃が走っていると分からないくらい笑っていて。
その笑顔にストライクが反応したかの如く飛び進み、
鎌を振り上げながら、
そのポケモンの数歩手前の地面に落ち、土を身体で掘り返し、足元まで進んだ後、止まった。
「……?」「……お腹…すいて…動けない……」
ストライクは撃退も収集も『食事』も忘れてここに赴いた。
さざめきを放つために羽を過度に動かし、不馴れなために余計に羽ばたき、
その結果、相手にダメージは与えた。
「…もう……無理…まいっ……た……」
ついでに、自身の体力にも。
「…………」
そのポケモンは、力を籠めた拳をそのままに、しばらく茫然と地面に転がるストライクを眺める。
「…終わり、か?」
きゅりりるぎゅぅぅ。
ストライクの腹部から空気を押し出す音。
「……おなか……すいた………」
身体を動かす余力も無いのか、力無く呟く。
「…色々と楽しかったな。あまり何もしてない気もするが……」
拳を胸元に当て、溜まっていた力を解放、
全身に循環させると残っていた頭痛と平衡感覚の異常が綺麗に無くなる。
「今の…何……?」
「自分の力を使って、自分のダメージを回復する技だ。」
「そんなの……ずるい………」
「…あまり喋らない方がいい。」
鎌の無い自分には、あの刃を生み出すのにどれ程の負担が腕にかかるのか、
羽を持たない自分には、どれだけ羽ばたくとあの音波が発されるのかは分からないが、
ストライクは今相当危ない状態だ。数歩歩いただけで倒れてしまうくらいに。
「……何故、自分を危険に曝してまで技を放った?」
ただ、浮かんだ純粋な疑問が口からこぼれ出した。
「…だって……勝ちたかったから……あ…?」
ストライクの身体が宙に浮き、ポケモンのいる方向に引き寄せられ、
手を羽の付け根に回す形で、優しく抱き留められた。
「えっ……な…に…?」
「報酬の一部だ。…食べるか?」
手の中には鈍く輝いている黄金の林檎が、ストライクの口元に近づけられる。
と、ストライクはそれにゆっくりと口を大きく開け、かぶり付いた。
「…固い……」
旨味が凝縮され、見た目以外にも質量も黄金のように重い林檎。
その外皮は中の果肉を守護するかの如く固く、普通のポケモンでは食べ難い。
もしハッサムなら、鋏で掴んで全力で鋏同士を打ち合わせることにより割ることが出来るが
ストライクは出来ないし、ハッサムだったとしてもそれをする分の力は残っていないだろう。
「仕方無いな……」
林檎を手から浮かせて回転、皮を念力により剥き、手ごろに等分したそれを一端口の中へ。
「あ………むぅぅっ?」
念入りに咀嚼し、
どろどろにおろしたそれをそのままにストライクの口を塞ぎ、口内の林檎を流し込む。
ストライクは空腹も手伝ってか、抵抗する様子もなく飲み下していった。
「ふうぅっ……え?…うわあっ!」
流し込まれた林檎は、その輝きに等しい味と爽やかさ、それと質量。
空っぽの腹はわずか四半分で十分に動けるくらい満たされ、ストライクの体力があれよあれよと戻っていく。
「ななな、何で?」
「自分では食べられなかっただろう。だから手伝ってやっただけだ。…何か質問は?」
そのポケモンは未だストライクを抱えていて、
具体的には王子様的位置にいるのがそのポケモンで、お姫様的位置にいるのがストライク。
そういう抱き方をされて、さらにキスまでされた。
「あわわわわわ………」
鎌で火照る始めた顔を覆い、どくどくと高鳴る鼓動に耳を背ける。
「もうっ…離して……!」
「駄目だ、まだ完全に癒えてないからな……あまり動かないでくれ。」
鎌で顔を隠しながら、必死に身をよじり、ポケモンの腕から逃れようとする。
だが念力で浮かせている身体は
仮に手から完全に離れたとしてもストライクは宙に留まり、結局そのポケモンからは離れられない。
(ダメ、ダメだこいつから考えを離すんだリーダーが頭を抱えてたことの内容とか……)
──始めて、他のポケモンと口を触れ合わせた。
口に柔らかい感触が伝わってきて。そのまま甘くて爽やかな感じがするリンゴを口移しで、
しかもすり潰されていたから唾液も飲んでしまって……
(ダメ!そんな風に考えたら……)
「興奮してるのか?」
次の瞬間、ストライクの動きがネジの切れた玩具のようにぴたりと止まる。
顔を隠している鎌をずらし、自分の下半身を覗くと、
まだ純情さが残る薄いピンク色の性器が粘液で濡れ、ちょこんと外気に露出していた。
「違うっ……これは…!」
再び鎌で隠した眼に涙が滲む。恥ずかしい。露出した性器を見るのは始めてではない。
何度か処理(サンドパンの持っていた本で得た知識で)もしたこともある。
しかし、あの時は自分だけで、今では誰かに見られている。
「…見ないでよぉ……」
自分以外のポケモンが側に、しかもそのポケモンに抱き留められていると言うのに性器を露出している自分に、
情けなさを覚えていた。
しかしそのポケモンは怪しい眼をして小さく笑う。
まるでぜんまい仕掛けの玩具の仕組みが解った子供のように。