そのポケモンは、ほぼ毎日を暇潰しで浪費している。  
高い知能と有り余る力を備え、その上自分の力量を熟知している。  
だからこいつの頭脳が俺より遥かに高いことをこいつは知っているし、  
こいつの出した謎掛けが俺の頭を抱えさせるのを見ることこそこいつの暇潰しだとは分かっているんだが。  
「…どうした、『レックウザ殿』?もうすぐ時計の砂が無くなってしまうぞ?」  
「黙れッ…!畜生……」  
「問題の聞き逃しはないか?  
『とあるフローゼルが、首に丈夫な紐をかけて死んでいた。場所は完全な密室。  
殺したのは誰か、また犯行の手口は?』  
…おっと、言っている間に落ちきってしまったな。」  
「なっ……!」  
「また駄目だったな、『竹細工君』?まあ、次を頑張るが良いさ。」  
「…クッソォォ……!」  
最近こいつがハマっている遊び。まず俺に謎掛けを出す。  
砂時計の砂が落ちきるまでに答えを言い当てたら俺の勝ち。  
こいつはここから出ていく。  
言い当てる前に砂が落ちきったらこいつの勝ち。  
一週間俺がこいつに実にムカつく激しく屈辱的なアダ名で呼ばれる。  
ちなみに謎掛けの答えを聞くとプラス二日。  
「…そういえば、最近、勢いがすさまじいチームを見つけてな……」  
「ああ、そうか…」  
こいつはやたらと好戦的でもある。  
何処かから情報を集め、時折戦いたい相手に挑戦状を送りつける。  
それが相手をこの馬鹿高い俺の住みかに呼び寄せるから相手はたまったものじゃない。  
でも相手も相当強いみたく、  
「今まで挑戦状を送った中で来なかった者は一人もいない」らしい。  
その後こう付け加えた。  
「同様に私に勝った者も一人もいない」と。  
「ちなみにどんな奴なんだ?」  
「一般的な三人編成のチームでな…」  
こいつは調べた奴の情報は笑みを浮かべながら快く教えてくれる。期待をしているのだろうか、  
こいつを負かした上頂上の俺の元まで来る奴がいることを。  
「…まずチーム全員が鋭いカマ・爪を持っていて、  
未開の地の開拓などが得意と自負している。  
基本的にはトレジャータウンを拠点としている。チーム名は、"かまいたち"。  
今回は"チーム"でなく"チーム中の一体"に限定して挑戦状を送る。  
送る者の名は───」  
 
そのドリンクスタンドとリサイクルショップは、  
何時ものように常連、少しの興味本意の新顔、誰とでも等しく接する店員、で構成されていた。  
 
「さて、今回の探検についてだが、最奥の宝を見つけ、収穫も多かった。しかしだな……」  
「うん。リーダーが復活の種をいつもより多く使った。  
バッグの中の食料ももう無い。  
せめて唯の種でも良かったから残して欲しかったなあ……」  
「………」  
「リーダー、何から何まで食べちゃうんだから。」  
「……お前ら、何をしたのか忘れたのか?」  
三体のポケモンが椅子に腰掛け、丸テーブルを囲い、話をしている。  
どうやら探検から帰ったばかりで、その反省を行っているようだ。  
「まずな、サンドパン。お前、カクレオン出張販売店で、何した?」  
リーダーと呼ばれた白と赤の体毛で全身包まれたポケモン、ザングースがその手の黒く鋭い爪を  
サンドパンと呼んだ茶色の棘が背中にびっしり生えた同じく爪を生やしているポケモンに問う。  
「えーと、通過スカーフと白いグミが売っててカクレオンに薦められたからスカーフを首に巻いて……」  
「それで?」  
「遠くに階段を見つけたから、一目散に走った。」  
「ソ、ノ、ト、キ、俺を、どう、した、?」  
ザングースはサンドパンをびきびき、等と音のたちそうなくらい鋭く見据えている。  
「……あっ」  
カクレオン出張販売店は、ダンジョン内で取得物や役立つものの売買が出来る便利な場所であるが、  
万が一商品の代金を踏み倒して逃げた場合、カクレオン達は容赦しない。  
何十、何百ものカクレオンが犯人とその仲間までも執拗に追跡、捕獲、リンチを行い、  
最終的には犯人には何も残らない。  
今回の場合、何を買うか迷い状況把握に遅れたザングースが標的になったのだろう。  
「お陰でどれくらいボコられたと思ってんだ!久々に死を覚悟したぞ!」  
「……でもサンドパンはリーダーの事を思ってそんなことしたんじゃないのか?」  
今までやり取りをずっと聞いていた、  
緑色の外骨格に覆われ、背中に四枚の羽がくっつき、  
両腕の部分が鎌になっているポケモン、ストライクがそう呟いた。  
 
「……そうだな、確かにあの時持ってる金は少なかった。  
グミ一つ買えば何も買えなくなっていた。だから俺は念入りに考えていて、その結果打ちのめされた。  
でも、白いグミが手に入ったのは事実だ。」  
「でしょう?だからサンドパンはリーダーの事を思って…」  
「…しかしストライク、」  
「…えっ?」  
何もやらかした覚えの無いストライクはいきなりの指摘に戸惑う。  
「お前はサンドパンの後を追って俺を置き去りにした。  
だがな、その後、お前は、サンドパンに、何を、していた、?」  
ザングースは体毛を逆立て、自分がどれだけ怒っているか示す。  
「えっと……サンドパンに自分の分の食料を分けてあげました!」  
怒りに気づいてないのか、元気よくストライクは答える。  
「……それだけか?」  
ザングースはあの冬の日のように毛が逆立ち過ぎて見た目が毛玉のようになっている。  
「……リーダーが抜け出したかと思って、リーダーの食料全部あげちゃった。」  
言った途端にザングースはテーブルの上に乗り、ストライクの小さめの頭を凄まじい力で掴む。  
「なあ、ストライクくーん。なんでそんなことしたのかなぁ?」  
「だ、だって!」  
頭からミシミシと嫌な音が出て、ストライクは圧迫感を堪えながら必死に弁明する。  
「つ、通過スカーフは、お腹が減りやすくなるって、か、カクレオンが言ってたもんっ!」  
次の瞬間、ストライクの頭から爪が離れ、ザングースは呆れ果てたように椅子に座った。  
「……言っておくが、腹が減るのは、壁を通り抜ける時だけだ…それ以外は、普通のスカーフと変わらない」  
「え!?そうなの?…でもサンドパンはお腹減ってたみたいであげたもの全部食べたぞ。」  
「ストライクから貰ったものなら水瓶に一杯でも食べられるさ〜♪」  
「……頭痛ぇ…」  
サンドパンは発達しきった大人のポケモンよりかは、むしろ未発達、発達しかけの子供のポケモンが好みらしくて、  
ルカリオよりリオル、ミミロップよりミミロルをタイプと言い張るような性癖を持っている。  
一方ストライクはチーム内では一番若い。見た目より遥かに若く、言動に若干あどけなさが残っていて、  
 
要するにサンドパンの好みなのだ。  
 
「なんか、もう疲れた……」「そういえば三日前に、カメールに道を尋ねられたんだ〜♪可愛かったなぁ〜♪」  
「……さっきの言葉、どういう意味?」  
「…え、三日前に可愛いカメールに道を尋ねられたって話で……」  
「いや、その前の『オレから貰ったものは水瓶に一杯でも食べられる』って…」  
「…あぁ、それは〜♪」  
「…オレの事を……」  
「そうそう!たぶん予想通りだと思うよ!」  
「……餌として見ているんだなっ!」  
「大当……え?」  
「だからオレを見るたびにお腹が減って…」  
「……いや、食べたいのは本心だけど、  
そういうマニアックなのは範囲g「うわぁぁっこっち見るなぁっ!」  
「……1ポケ川に落としたのを二時間かけて探したなぁ」  
ストライクとサンドパンが話に華を咲かせ、ザングースが頭痛と胃痛、その他諸々の理由で机に顔を伏せる。  
この光景は、主に探検が大失敗したときにたまに見られるもので、  
周りのポケモン達はストライクとサンドパンのお気楽さも相まって  
ザングースがひたすらに不憫に、場合によっては哀しみのオーラを背負っているのが見える。  
その哀しみの大きさ、見るに見かねた心優しいポケモン、  
あるいはドリンクスタンドの店員のパッチールがドリンクを奢ってくれたりする程である。  
 
そうして、曲がりなりにもチームかまいたちの時間は平常運転している。  
次は探検スポットの選択、  
その次は選んだスポットへの探検、  
その次は反省会、  
のように活動は一定のリズムで行われる、筈だった。  
「…すいませんが、チームかまいたちでしょうか?」  
「「え?」」  
一体のニューラが鉤爪で封筒を器用に持ち、サンドパンの隣にポツンと立っていた。  
「…そうだよ〜♪俺達がチームかまいたちだよ〜♪」  
「あ……そうですか…じゃあこれを、ストライクさんに……」  
持っていた封筒をテーブルに置くと、速やかに去っていった。  
「…ストライク宛だってさ。フフッ……ラブレターかな?」  
「ラッ、ラブレター!?」  
爪で封筒をストライクの方へ押しやり、笑いながら茶化す。  
「どんな子がストライクの事を好きになったのかな〜♪  
あのニューラだったらかまいたちに入ることは許されるだろうな〜♪」  
「…何でオレより嬉しそうなんだろ……」  
腕の鎌で封をビリビリと破き、中の手紙を引っ掛け、引きずり出す。  
「こっ、コレはっ!」  
その手紙の内容とは、  
 
『拝啓 チーム かまいたち隊員 皆さま方  
気温もそれほど高くなく、湿度も程良い中、いかがお過ごしでしょうか。  
腕利きの探検隊と評判になっているのを耳にして、筆を執った次第でございますです。  
さて、私は同居しているポケモンからお前は強いと腕比べのちに何度も言い聞かされ続けていますが、  
私もそのポケモンも住んでいる場所は最果てと言い切っても何の問題も無い所。  
 
無論、世間の情報等全く流れることなく、私の強さが世間にどれ程通用するのか、ひょっとしたら平凡より遥かに下かもしれない、  
と自分に疑念を抱いていました。  
しかしとある探検隊が私の住居に訪れ、様々な情報を教えてくださりました。その情報の中に、  
あなた様方が腕利きの探検隊であることも含まれていたのでございまです。そこでどうか御願いがあります。  
隊員の中で最も若いストライク様と私とを腕比べをさせてもらいたいのです。腕比べをさせて頂いたならば、  
結果に関係なく黄金の林檎 10個を報酬としてお渡しいたしでます。K愚』  
「な、な、何だってーっ!黄金の林檎!?」  
黄金の林檎──金色に際限無く輝き、  
香りは林檎畑の真ん中で深く息を吸い込んだように強く、  
その味はまるで爽やかな風が口内へ吹き込んだような旨味が溢れて──  
「ストライクー、涎が溢れてる。」  
「え、あっ、ジュルッ!ごめん…」  
「全く、どんな内容だったのかなぁ、見せてー」  
爪を使ってサンドパンはやや強引に手紙を奪い取り、ストライクは封筒にもう一枚手紙が入っていることに気付く。  
「…うんうん……な、何だって─っ!黄金の林檎!?」  
二枚目の手紙を引き寄せ、文面を見る。  
『腕比べについて  
 
報酬:黄金の林檎 10個  
 
場所:天空の階段 中腹よりやや下  
 
条件:ストライク様一体で来ること。』  
「ねぇサンドパン…涎、涎。天空の階段って何処?」  
「ん、ああ…ズビッ!挑戦状、みたいだね……」  
「うん。そうみたい。負けても報酬貰えるって。」  
この時点でザングースが内容の怪しさに待ったをかけるのだが  
 
「坂道で転んで……泥沼に突っ込んで…  
皆に笑われて…誰も手助けしてくれなくて……」  
今のザングースの背中にはこの世の終わりのような色をしたオーラが纏わりついている。  
 
「でも、ストライク一体だけで大丈夫?…ついていってあげようか?」  
「平気平気!だってオレも『かまいたち』の一員なんだから!」  
自分の胸を鎌でポンと叩き、威勢良くいい笑顔でストライクは高らかに言い放った。  
「!?!??ウン、気ヲツケテネ…」  
サンドパンに こうかは ないようだ …… ?  
「分かった!じゃあ、行ってきまーす!」  
そうしてストライクは元気良く羽をブンブンと動かしながら、騒がしく外へ駆け出していった。  
「…何だ、今のストライクは……」  
「ったく、何でガキがここに来てるんだか……おい、そこのネズミ。  
今すぐ席をゆずりやがれ」  
「…………」  
「…聞いてんのか?三秒以内に椅子から立ち上がらねーと痛い目に合わせ「ごぼろひゅっ」  
鼻孔から血が流るること、ハイドロポンプの如し。  
たちまちに床を真紅に染め、水音をたててその上に倒れ、  
しかし尚も血の溢るること、  
湧水の如し。  
「う、うぉああっ!?」  
「どんなカクテルを作ってもらおうか…ん、どうし……わああぁっ!?」  
「五月蝿いねぇ…屋内でいちいち大声張り上げてんじゃ……」  
「マ、マニューラ様、これは…」  
「……アーボック、あんた一体何をs「ぴぎゃぁぁぁあぁっ!!?血がああぁぁっ!」  
「キャ──ッ!店内殺サンドパン事件ナノーッ!」「ソ───ナンスゥゥッ!!」  
「まさか殺っちまうなんてねぇ…」  
「ち、ち、違いますっ!断じて手を出してはいませんっ!  
…あ、ほらっ!こいつかまいたちの一員で、こいつがリーダーの筈です!  
…おい、イタチ!てめぇ俺が手を出してないことを見てる筈だよなぁ?」  
「…まず背中の肉を抉り取りぽっかりと空いたそこに砂鉄を詰める。痛さと重さでうずくまるのを無理矢理仰向けにし、腹の上に乗っかり、  
ふざけて飛び跳ねたりもする。そうして口周りに溢れた吐瀉物を目一杯綿に吸わせ、再び口に詰め込む。  
呼吸困難になり、あまり動かなくなったことで飽きたのか、終に心臓を抜き取って……」  
「そんな…アーボックが…あぁぁぁ……きゅう。」  
「ドラピオンッ!……アーボック、なんて事を…!」  
「俺は無実ですぅぅっ!」  
このあと、パッチールが赤色恐怖症になったり、  
ドラピオンがアーボックに話し掛けられる度涙目になるようになったのは、  
 
別のお話。  
 
 
つづく。  
 

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