「…実に無様だな、レックウザ殿。」  
「ちくしょう……」  
コイツは基本俺を倒すことを目指してるヤツに対しては絶対ちょっかいを出さない。  
俺も最上まで誰か来ると内心ワクワクしてるから特に問題は無いがなぁ……無いけどなぁ………  
「ところでレックウザ殿」  
「……何だよ?」  
「実に無様だな。」  
「…何で二回言ったんだコラァ!」  
もうキレた、コイツとの縁もこれで終いだ!  
バラバラに砕け散ってしまえこのヤロ……冷たァァァァ!?  
「コラッ!見ず知らずのポケモンに攻撃したら駄目だろっ…あれ」  
「すいません、どうにも気性が荒いみたいで…」  
ああ、俺をぼこぼこにしたちびっこい奴等の面が見える……寒い…  
「いや、私はこのポケモンの『心の友』だ。」  
てめぇ何大嘘ついてんだ?  
「本当?」「本当ですか?」  
…見ず知らずのポケモンを何でそんな信じられる?  
その胸のボタンみたいなの二つとも毟り取ってやろうか?  
「……彼はどんな味が好きなんですか?」  
「確か…少し味覚が心配になる程苦い物が好きだったな……」  
「教えていただいてありがとうございます!早速用意しますっ!」  
テメェ何笑いながら答えてるんだぁぁっ!気付け!オイ!額の小判叩き割るぞ!  
「それじゃあ新入メンバーの歓迎会の用意がありますので…」  
「ラブタの実を沢山用意するからね!」  
「分かった、ごきげんよう。」  
ちょっ…凍って…動かん……助けて…  
 
 
 
竹串君の所に頻繁に遊びに来ても、迷惑だろうな。  
長い紫色の尻尾を揺らしながら、そのポケモン──ミュウツーはあても無くぶらぶらと歩いている。  
住み処の主であるレック……竹串君がとうとう負けてしまった。  
宝を獲られた上、倒したチームは竹串君を仲間に誘った。  
それを嫌々受け入れた竹串君は晴れて住居を離れる事となった。  
(今あのチームに挑戦状を送っても構わないが、竹串君が絡むとなると…)  
ミュウツーは数秒考え、下らないとばかりに頭を振った。  
「まあいいか、暇潰しに山にでも…」  
「ひぇえぇぇぇっ!」  
「…ん?」  
ミュウツーの目の前から、何か赤い斑が散りばめられたクリーム色の小さなポケモンが、短めの足を必死に動かして走っている。  
「………!」  
そのポケモンはミュウツーを見上げると、素早い動きでミュウツーの背後に隠れた。  
「し、暫くかくまってくださ─「何処だぁぁ!」  
「ひぇっ…!」  
ポケモンの後を追うように、柄の悪そうなポケモンが走ってくる。  
 
ミュウツーを壁にして隠れているポケモンは見つかるかもしれない恐れからか震えている。  
と、エビワラーとサワムラーがミュウツーに近づいてきた。  
「おい、そこの白いの。パッチールを見かけなかったか?」  
「……パッチール、とは?」  
粗野な言葉に少し憤りを感じたが、十分に我慢できる範囲だ。  
「クリーム色に赤いブチ模様で、こんくらいの大きさのヤツだよ。」  
サワムラーが自分の腰辺りまで腕を下げる。丁度ミュウツーの後ろのポケモンと同じ程の高さだ。  
「で、知らない?俺らマジ怒ってんだけど……」  
「知らないな。他を当たってくれ。」  
言葉を発した途端、後ろのポケモンの震えが止まった。  
「……オイオイ、嘘ついてないよなぁ?もしついてたらヤっちゃうかもよぉ?」  
ふざけた様子でエビワラーは嘲るように笑いながらミュウツーの胸を小突く。  
サワムラーはそれをヘラヘラした様子で見る。  
「俺らここら一帯じゃ結構有名なのよ、分かる?」  
「お前みたいなの見たこと無いなぁ!余所者なら俺等には逆らわない方が…」  
「…おい!後ろにパッチールとか言うポケモンが……」  
「「何っ!?」」  
海老沢はほぼ同時に後ろを振り向いた。  
が、該当するポケモンはおろか、ムックル一匹いない。  
「何処だよ、まさか嘘──「も゛っ」  
次の瞬間、サワムラーは後方から強烈な衝撃を受けた。  
エビワラーは、相棒が星となったのが端から見えた。  
「あ……あ………」  
「知らないなぁ……解ったか?」  
「ぎゃあぁぁぁ!」  
エビワラーは拳を大きく振りながら、サワムラーを追うように逃げていった。  
「さて、一体何があったのか……」  
「あわわわわわわわわわわわわ…」  
ミュウツーの後ろのポケモンが、腰を抜かして震えている。  
「大丈夫か?」「あわわわわわ…」  
「何があったのだ?」「あわわわわわ…」  
結局、まともに話せるまでに十分程かかった。  
「ありがとうございますっ!」  
追われていたポケモン──パッチールはミュウツーに向かって御辞儀をする。  
「あの方達に見つかってしまったら、手前は…ひぇぇぇ…」  
その場合を想像したのか、頭頂部の耳が垂れる。  
「このご恩は、是非とも手前の店で……」  
「それより何故追われていたか、その理由を聞きたいのだが……」  
「え……?…手前の身の上話を聞いてくださるとは……」  
パッチールは感動からか、息を詰まらせる。どうにも渦巻き状の目から感情が読めない。  
「では、語らせていただきますっ!」  
 
えー、手前があんな怖い方々に追われていた理由はですね。  
手前はこう見えて、ドリンクスタンドなるものを経営してるわけですよ。  
お客様が持ってきた木の実やグミを手前が独自に編み出したシェイクによって美味しいドリンクにするんです。  
どうです!ユメとロマン溢れると思いませんかっ!たまに凄い調子の良い時があって、  
その時のドリンクを飲みほしたお客さんの顔といったら!  
…しかしながらっ!手前は客商売の厳しさを思い切り味わった訳でして……  
手前の店は結構人気がありますので、集団のお客様も多いのです。  
チームが全員集まって、手前の作ったドリンクを飲みながら今後の予定を話し合ったり……  
それで、先程のエビワラー様やサワムラー様を含んだ…四体ぐらいですかねぇ……  
全員、格闘持ちのお客様達がいらっしゃって、カウンターに着くと、  
手前に向かって「皆同じ木の実を出すから、全員分のドリンクを一気に作れるか?」  
と聞いてきたので、快く承ったんですよ。  
 
…そしたら全員カイスの実を出してきたんです。大体一個一個が手前と同じ大きさの実ですが、  
とてもとても出来そうにない。だが一度言ったからには引き下がれない訳です。  
特大サイズのシェイカーをドンと置いて、うんうん言いながらその中にカイスの実を全部入れて、  
全身全霊をかけて……  
〜♪、〜♪くるくる〜っ…と、振ろうとしました。  
 
そしたら案の定けたたましい音と一緒に店内にぶち撒けちゃったんです……  
 
その光景といったらあのアーボックの……ひぇぇぇ…あ、大丈夫、です。  
…で、「絶対に許さない」と、皆さま方は言いました。  
なので誠心誠意謝るしかないと思って、「申し訳ありませんっ!」と深いお辞儀をしながら言ったのです。  
 
しかし次に皆さま方は言いました。「お前の身体で払え」と。  
何を言ってるのか解らない内に、えと…ドグロッグ様が「グッヘッへ……」と笑いながらこちらに手を伸ばしてきました。  
それで身の危険を感じた手前は、慌てて店から逃げてきて、今に至るわけです。  
 
……え?ドリンクを作るときの動きを?  
〜♪、〜♪、くるくる〜っ、はいっ!  
……と、いつもこんな風に作ってますけど、何か気になる所で「見つけたーっ!」  
ひぇぇっ!と、とりあえず逃げなくては!  
…え?助けてくれるって?一体どうやっ「べぶっ!」  
………あわわわわわわ。  
 
「ああああ、ありがとうございます……」  
尚も震えながら感謝の意を表すパッチール。先程星になったゴーリキーが気になるのか、  
ちらちらと飛んでいった方角を見る。  
「…さて、一度決めたことは最後まで突き通したいのでな……」  
腕を回しながら呟くミュウツー。  
「ドリンクスタンドとやらに行くぞ、案内してくれ。」  
「……えぇぇっ!?」  
パッチールはその奇抜過ぎる発言に、耳をピンと立たせて驚いた。  
「何でそんな事を…もし見つかりでもしたら…あぁぁぁ……」  
「…簡単な心理だ、パッチール君。」  
独特の癖となってしまったのか、某緑色をからかうようにミュウツーは語りかける。  
「あるポケモンが逃げ出して何時間か経った。そのポケモンは足が速い。  
自分はそのポケモンを追わなければならない。自分は何処を探すべきか?  
 
1.そのポケモンの住み処  
2.近くの小川  
3.遠くの実のなる木  
 
さあ、どれだ?」  
「え!?えーっと…」  
パッチールは頭を傾け、暫くの間思考、そして意を決したのかゆっくりとその口を開けた。  
「…喉が「今、1番を勝手に答えから外していなかったか?そういう事だ。分かったら案内してくれ。」  
「……あー!はいっ!」  
言いたい事を理解したのか、パッチールは勇み足でドリンクスタンドへの道を歩いていった。  
(後は、根も葉もない噂を…北部辺りが良いかな…)・  
・  
・  
(誰かこれどうにかして、ナノ……)(…ソーナンス……)  
「あの、マニューラ様」「…………」  
「ひぇっ…すいませんっ……」  
ユメとロマン溢れる、ドリンクスタンド兼リサイクルショップ。  
現在ドリンクスタンドの店主であるパッチールはおらず、  
しかもリサイクルショップ店員であるソーナンスとソーナノは隅で小さくなっている。  
「…これはこれは、いかにも雄と遊びたい放題に見える絶倫兎じゃないか。」  
「あらあら、そういう貴女は雄一匹すら寄り付かなそうな泥棒猫さんじゃありませんか。」  
片や、黒を基調としたポケモンから成る盗賊団、MAD。  
片や、美しげな二足歩行の雌ポケモンから成るチーム、チャームズ。  
隣り合わせのテーブルに着いた、それぞれのリーダーであるマニューラとミミロップが、  
「…………」  
「…………」  
熾烈な火花どころか、チャージビームを飛ばし合っている。  
(助けてお腹痛い、毒キノコにやられた)  
(……お前毒持ってるだろ)  
(………あっ)  
 
「…そういえばアンタ、『スカーフすらロクに巻けない探検家だ』って噂されてるよ。」  
その言葉にミミロップの長めの耳がぴくんと動いた。  
「救助依頼の報酬がリボンの類いの相手の救助は滅多にしないらしいねぇ……  
マスターランクの探検隊が、聞いて呆れるよ。」  
「……ウフフ♪」  
(……サーナイト、ミミロップは今どんな感情を持ってる?)  
ふと気にかかって聞いてみるが、  
サーナイトは胸に手を当て、嫌いな木の実を大量に食べてしまったような表情をしている。  
(……言いたくない。動作で察して。)  
チャーレムがミミロップの方を見てみると、テーブルの下でおぞましいほど拳を固め、  
手首に生えたクリーム色の毛が逆立っているのが見えた。  
「…貴方こそ、随分と有名になっていますよ♪」  
ニッコリとわざとらしいくらい満面の笑みを浮かべながら、ミミロップは喋り始める。  
「『過去にお金持ちな依頼人に頼まれた道具を渡す時、その依頼人の身ぐるみを剥がした』とか……」  
「ふぅーん…」  
盗賊団を自称してる以上、達の悪い噂は勝手に沸いてくる。  
マニューラはそのような噂には慣れっこだった。  
「他には『雌っぽいと仔供の時言った相手に復讐するために盗賊団になった』」  
「!?……」  
マニューラの顔に驚きの色が現れた。  
「『平然と雌用の物が使える生まれながらの変態』、  
『雌のように胸を大きくしたいから毎日揉んでいる』…あと……」  
「……!」  
赤い襟巻き状の毛が逆立ち始める。マニューラが怒っている証拠だ。  
(泣きたい)(好きなだけ泣け)  
(今泣いたら泣き止むまで殴られる気がする)  
(違う。泣き止むまで斬られるんだ)  
「あとは…『少し膨らんだ胸とクールな性格なオトコノコは堪らない』と、  
スリーパーさんが仰ってましたよ、良かったですね♪」  
「…ナア、ミミロップ。ヒトツ、勝負ヲシナイカイ?」  
若干ぎこちない笑顔でマニューラは語りかける。しかしながらその背には鬼のオーラが浮かんでいる。  
「今からこの店に入った客に私とアンタ、どっちが『雌』として良いのか、決めてもらう。  
より多くの客に指示された方が勝ちってのは、どうだい?」  
(多分ミミロップを選んだ客を……)(やめろ)  
「…もし私が勝ったら、何をくれる?」  
「一日私を好きにしていいってのはどうだい?」  
「ええっ!?」「ちょ、マニューラ様!?」  
「……あぁ?」  
「…すいません……」  
 
ドラピオンとアーボックは ちいさく なった!  
 
「…私の命令を、なんでも聞く?」  
「アンタが勝ったならね。」  
「ベッドで一夜をご一緒してもいいかしら。」「……勿論だとも。」  
(マニューラ様とミミロップがベッドで……)  
「べぼっ!」「…!…オイッ何考えて……」  
「べががががぎがぎぎゅえっ!?」  
ドラピオン は たおれた!  
 
「何だかうっさいねぇ……で、どうする? 勝負を受けるのかい?」  
「……ふふふ♪」  
ミミロップは余裕過ぎるとばかりに深く息を吸い込み席から立って体をくるりと回転させ  
「……よろしくてよ!」  
そう、高らかに宣言した。  
(…参考までに聞くけど、サーナイトはどっちを選ぶ?)  
(……チャーレム)  
(え?何だって?)  
(……やっぱりミミロップかな……あはは)(………??)  
 
 
ドリンクスタンド兼……の店内の出入り口付近に、二体のポケモンが立っている。  
向かって右側にはマニューラ、左側にはミミロップ。  
「…今なら降参しても許すけど?」「ハッ…ほざけ……!」  
と、足音が扉に近づき、爪がかけられたのか、かつ、と小さな音が響く。  
「…うふふ♪」  
「おお………」  
その音を聞き取ったミミロップは、両腕を首の後ろで組み、自身の豊満な胸を強調させるポーズをとる。  
「…畜生……」  
マニューラは歯噛みした。自分も同じポーズはとれるが強調する分の胸が無いからである。  
そんな店内の状況を知らない客が  
「ただいまーっと……あれ?パッチールは?」  
呑気そうな声を出しながら入ってきた。途端にその客にミミロップが近づく。  
「ねぇアナタ、私とこのマニューラとどっ「あーちょっと、邪魔。」  
「えっ…」(えっ)(!??)  
爪でミミロップを押し退けると、真っ先にその客はソーナノ達が経営しているリサイクルショップへ向かう。  
「久し振りだね〜、パッチールはどうしたのかな?」  
「い、今はいないノ…あと、リサイクルは都合上今は出来ないノ……」「ソーナンスゥッ……」  
「なーんだ、しょうがないな……」  
客は落胆したのか背中の茶色い棘が下がり、しょんぼりした様子で出入り口へ向かう。  
「ちょっと貴方?この私と「邪魔。…確か、ヨマワル銀行前で待ってるって…ヨマワル…くふふふふふ…」  
ぶつぶつ呟き薄ら笑いを浮かべながらその客は、店内から出ていって、  
呆然とする二体の雌だけがぽつねんと。  
(…アイツ、生きてたのか……)  
誰にも気付かれないように、ほっとアーボックは息を吐いた。  
 
「…ふふっ!無視されてるじゃないか。」  
「…貴方こそ空気に見間違われていたようね。」  
「………」「………」  
実に、フワライドが地面に張り付く程の重苦しい空気が店内を埋め尽くす。  
出入口の扉を開けてすぐ両脇に猫と兎が目からチャージビームを飛ばしていることが分かるならば、  
誰もこの店に入りたがらないだろう。  
(早く来てくれ…誰でも良いから……)  
(息苦しい……)  
(怖いノ…)  
 
…ぱた、ぱぱた、ぱ、ぱた…  
まばらな足音が扉の前で止まる。  
「!…ふふっ♪」「…うわぁお!」  
それを感知したミミロップは、直ぐ様腰を曲げ、両手を床につけた。  
四足歩行のポケモンの基本姿勢のような。床にくっ付きそうな程豊満な胸が揺らされ、  
高く上がった臀部を挑発するように軽く振る。  
 
そして扉が開かれ、  
「スイマセンッ!お待たせしましたぁ!」  
店内の客が誰も見知ったドリンクスタンドの店員であるパッチールと  
「結構広いな……」  
店内の誰も知らない、見たこともないような白と紫のポケモンが入ってきた。  
(何だアイツ……)(…誰ナノ?)  
パッチールは足早にカウンターへ入っていった。  
「……ねぇ貴方、一つ質問があるんだけれど」「…ん?何だ?」  
(あの体勢で普通に話しかけた!?)  
チャーレムに電流のようなものが走る。  
(驚いたチャーレムの顔……)  
「…この私と」  
ミミロップは尚も手を床につけたまま上目使いでそのポケモンを見ながら話す。  
「あのマニューラと」  
ミミロップはマニューラを指差す。  
「…どっちが雌としてイイと思う?」  
「雌として、か…ふーむ……」  
そのポケモンは手を口元に当て、まじまじとお互いを見る。  
「……♪」  
ミミロップは見られる事を楽しんでいるのか、セクシーポーズをバッチリと決める。  
「………」  
マニューラにはそうする事の出来ない自分の肉体が不甲斐なかった。  
「…オイ、ドリンクは作れるか?」「あ、私も……」  
「はいっ!早速作らせていただきますっ!」  
くるり、とポケモンの視線がシェイカーに木の実を入れるパッチールに向けられる。  
「ねえ、どっちが好みなの?」  
「…すまない、今はそんな事はどうでもよくなった。」  
「え……」「…〜♪、〜♪、はいっ!」  
「……ふふ…」「………」  
 
 
…最悪の目覚めだ…畜生、アイツは悪魔だ……  
「ねぇレックウザ、この依頼に行ける?」  
「『遭難した、助けて、ゼロの島北部72階、ドグロッグ』だってさ。」  
 

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