願いをかなえるジラーチへの頼み、それは…  
 
「トレーナーとえっちしたい?」  
「そう言ってくれるな」  
はっきり言われて私は赤面した。  
伝説のポケモン、ジラーチ。  
チナツがハンバーガー屋でゲットした小さなこのジラーチが本当に願いを叶えてくれるのかとみんなでハラハラしていたが、  
どうやら1人一つずつ、ちゃんと望みをかなえてくれるらしい。  
あまりに酷い願いは却下らしいので、皆頭を抱えて悩んでいたようだった。  
が、私の願いはただ一つだった。  
「へー、真面目そうに見えてムッツリなんだねぇ」  
「それでどうなんだ、叶うのか叶わないのか」  
「そうだなぁ…禁忌だよねぇ人間とポケモンがえっちするなんてさぁ」  
うーん、と大げさに悩むような仕草をして、ジラーチは私を焦らす。  
「でも、おもしろそうだからいいよ!」  
「…は?」  
「だからおもしろそうだから良いって言ってるの。  
まあそれなりのお手伝いはするけど、トレーナーさんの気持ちまでは変えられないからね」  
呆気にとられている私などかまわず、ジラーチは一気にまくしたてた。  
「あとは自分で頑張ってのしかかりからー気合いをためてー!わわわー僕もう言えなーい!」  
「き、きあいだめ?」  
「あとね、特別に教えてあげるよ。  
トレーナーさんのお願いは、君たち手持ちポケモンさんとお話がしてみたいんだって」  
「話とは…会話か?」  
「そう。折角だから君とは今日お話できるようにしとくね。  
ただし日が沈んでから日が登るまでの間だけだよ」  
とふんふんと鼻歌混じりのジラーチは上機嫌なようだ。  
胸から下げているチナツからもらったらしいかいがらのすずをチリチリといじりながら、独り言のように言う。  
「君のトレーナーさん、いい子っぽいから一緒にいてもいいなかって思ったんだけどさ、あんまりバトルとか好きじゃないんだ、僕」  
「…バトルが嫌いならここに来た意味がないのではないのか?」  
「いやね、ゆっくり休みたかったんだよ。変なトレーナーに捕まると色々大変なわけ。  
僕って稀少種だからね。分かる?  
んで、正直に話してみたらひみつきちってとこにいたらどう?ってすすめられてさ、  
なかなか良さそうだし、そこに行くことにしたんだー」  
ひみつきち、かせきほりの副産物であるあれか。  
チナツはかせきほりだいすきクラブに所属するほどなかせきほりマニアなのだ。  
ヘルメットメガネと頭蓋の化石の滑らかさがなんたらとか爪の鋭さがなんたらとかうっとりと話し合う様は正直ついていけない。  
ちらりと聞いたが相当素晴らしい秘密基地を所有しているらしいとの話だが…  
そのひみつきちなら、ジラーチも静かに眠っていられることだろう。  
「それにさ、君たちみんなあのトレーナーさんにメロメロだもん、下手にまざったら噛み殺されちゃいそう」  
「…よくしゃべるな、お前…」  
「『何かあったらすぐに行くからねっ!連絡するんだよ!』てさぁ、お人好しすぎない?」  
ちりん、とささやかな音を立てて、ジラーチがふわりと浮かび上がった。  
「だから、そんなお人好しトレーナーさんと、仲良しなポケモンたちに小さな願いを叶えて上げるっ」  
そういって彼は飛び去ろうとしたが、いきなり戻ってきて、わざわざ目の前で言ってくれた。  
「ちなみに君のお願いが一番エグいから」  
「噛み付くぞ」  
威嚇するように口を開くと、ジラーチはひえーと大げさに笑いながら、高く飛んでいった。  
「それじゃあねー!」  
私はジラーチが見えなくなるまでその姿を見ていた。  
ジラーチには、ジラーチの苦労があるんだな、としみじみ痛感し、チナツの人の良さにもまたため息を吐いた。  
かいがらのすず、あげてしまったのか…私も少し欲しかったのに…  
いや、なんでもない。  
 
「うわぁ、凄い夕焼けー!眺めもいいよー」  
窓越しに見やる美しい夕暮れに夢中になっているチナツ。  
そしてそれを少し後ろから見守る私。  
先ほど早めの夕飯を済ませた所だ。満足して部屋へ戻ったら日が沈もうとしていた。  
「レンもおいでよ」  
声をかけられ、いそいそとチナツの隣に立つ。  
確かに水平線に沈みゆく夕日は美しかった。大きな太陽が海のなかに沈んでいくような、そんな姿だ。  
しかし、私は隣のチナツが気になってしょうがない。ジラーチとの約束が頭から離れてくれないのだ。  
夕暮れのホテルレイクランド、更に一番の特別に遠い部屋、なぜか部屋にはタウリンがおいてあり、そしてチナツと二人きりだ。  
 
何でこうなったのかというと、チナツがデパートのくじをたまたま引いたら、特賞のホテルレイクランドロイヤルスイートルームペア宿泊券が当たった。  
当然大騒ぎになったのだが、たまたま近くにいたその部屋にどうしても泊まりたかったのに、端っこの部屋しかとれなかったらしいカップルが交換してくれと申し出てきたそうだ。  
別にもともと泊まる気はなかったチナツは快諾した。  
お礼に彼がやっている会社のポケモンマッサージなどというエステをチナツの持ちポケモン数分プレゼントという太っ腹なお返し。  
もちろん遠慮したが、その評判の良さから非常に行きたがる面々。  
なら行っておいで、と笑うチナツ。私はもちろん護衛に残る。  
ムクホークの背中にみんなで乗ってヤッホーと旅立つのを二人で海辺で見送る。  
怒濤の展開に言葉もない。  
ジラーチ…彼のすごさを垣間見た気がした…  
 
日が沈む前にお風呂入ってくるね!と備え付けの風呂へとルンルンと向かっていったチナツを見送って、私は沈みゆく夕日を見ながら一人ため息を吐く。  
確かに食事は素晴らしかった。私のスペシャルポケモンフーズとやらも豪華でまるで人間が食べるような盛り付けをされていた。  
デザートのポケモン用ケーキに、そんなのあるんだびっくり、と彼女は言っていたが、実際あれは見ただけのケーキであって、  
中身はうまいこと成形されたポケモンフーズなんだが。  
まあ、それなりに楽しむことができた。  
私は私でそのジラーチとの約束がどうなるのかが心配で食事のことなどどうでも良かったのだが…  
またため息をついてベランダ前に座る。日は沈み行きベランダの窓越し、太陽はほとんど隠れ、その残照だけが残っている。  
日が沈んでから日が登るまでの間だけ、チナツと人の言葉で会話が出来る。  
伝えなくてはならないこと、おそらく守られないほうが良いだろう約束。  
しかし、今日しかその願いは叶えられないのだ―  
 
切る  
 
寝室に用意されたベッドはいつも泊まるポケモンセンターのものを2つくっつけた位の大きさだった。  
人間が二人で交尾するにはこのくらいのスペースが必要なんだろうか?とそのベッドの脇で、伏せの態勢で悶々としている私。  
大きな窓の外はすっかり日が沈み、真っ暗だ。  
今日は月も出ていないようだった。  
と、そこへ、んー、と大きく伸びをしながら風呂上がりのチナツが愛用のウリムーお風呂セットを片手にやってくる。  
「気持ち良かったー」  
いつも使っている、少しくたびれてきたバッグに荷物を詰め、窓のカーテンをシャッとしめる。  
「レンはずっとここにいたの?  
夕日が綺麗だったもんね、見てたのかな」  
ベッドに腰掛け、髪を櫛で軽く梳かしながら、足元の私を見ながら話し掛ける。  
「ついでだし、レンも洗ってあげたいな。朝にしよっか。  
そしたらきっと1日がさわやかに過ごせるよ」  
そう、いつだって言葉がなくとも私たちはうまくやってきたのだ。  
 
「せっかくだから一緒に入ろうか」  
彼女ののんきかつ大胆なセリフにびっくりして思わず顔を上げる。  
「嫌?」  
「嫌ではないが」  
「…レン?」  
…それは咄嗟に出た言葉だった。  
「今、嫌じゃないって言った?」  
チナツが元々丸い目をさらに丸くして言う。  
「ああ、嫌ではないと言った」  
「もっと、しゃべってみて?」  
「チナツ、私の声が聞こえるか」  
「うん、聞こえるよ、聞こえる、レンの声!」  
彼女はベッドから降り、私の頭に抱えるように抱きつきながら喜びを顕にした。「すごい…レンの言ってることが判るよ…!」  
ぎゅ、と抱き締める力を強くして、チナツは続ける。  
「ジラーチにお願いしたの、みんなとお話ができるようにしてほしいって…  
まさか今日もうレンとお話が出来るとなんて思ってなかったから、すごく、嬉しい…!」  
「…その前にだ、チナツ、苦しいぞ…」  
暖かい胸に抱かれるのは好きだが、いかんせん息が出来ない。  
「あっ、ごめんね!」  
チナツはその言葉を聞くとぱっと離れて、私の隣に座った。  
ベッドを背に、並ぶ私とチナツ。チナツは膝を抱えるようにして、えーと、と繰り返す。  
「何から話したらいいんだろう…聞いてみたいことがたくさんありすぎて」  
「それは私も同じだ」  
「でも今日はレンと二人だけだから、ゆっくりお話ができるね」  
私に寄り添うように、えへへ、と笑うチナツ。風呂上がりだからか、頬がいつもより赤い気がした。  
「じゃあ…レンは私のことどう思ってるの?」  
「…どう思ってるとはどういうことだ?」  
「その、いつも…頼りないトレーナーでごめんね」  
照れ笑いをしながらチナツは下を向いた。  
「レンだけじゃないけど…無理させすぎちゃったりとかあるじゃない」  
その小さな声がなんとも可愛らしくて、私はチナツの頬に自分の頬をすり寄せた。  
「君はよくやってくれている」  
くすぐったそうに肩をすくめながら、チナツは少し笑った。  
「本当?」  
「確かに少々甘すぎるとは思うし、判断力にかけるところもあるが」  
「…やっぱり」  
「だが、誰に対しても等しく優しい。真っすぐな心で前をしっかり見据えている。私の自慢のマスターだ」「レン…」  
「私だけでなく、君のポケモン、皆がそう思っている」  
素直に、普段私が思っていたことを伝えたつもりだった。  
彼女のポケモンであることを誇りに思い、互いに助け合う。ポケモンとトレーナーの正しい姿だと、私はそう思っていた。  
聞きはしないが、本当に皆がそう思っていることを伝えたかった。  
「そうなんだ…」  
少し、驚いたように私を見ていたチナツが少し笑って、呟いた。  
「嬉しいな、すごく、嬉しい」  
膝に顔を埋めるようにして、わざと視線をそらす。その瞳が潤んでいるのを見逃したりはしない。  
「しかしだ、チナツ。個人的には…私にとって君は特別な存在だ。  
私は君のポケモンで良かったと、本当に、心から、思っているんだ」  
その言葉に嘘や偽りなど一切なかった。  
だからこそ、これからの行動がより背徳的に感じるのだろう。  
 
少しの静寂。  
チナツが前を見つめたまま、小さな声で言う。  
「…あのね、レン。私もレンに言いたいことがあるの」  
「なんだ?」  
「私がトレーナーになるって決めたときもレンは隣にいてくれたね。  
会った時から、いつもいつも私たちは一緒だった。  
つらいときは励ましてくれたし、悲しいときは慰めてくれた」  
そう、私は小さなコリンクの頃からチナツの側にいた。  
言葉は互いに全て伝わらなくとも、確かに二人に通う物は確かにある、そう信じていた。それは今でも変わらない。  
「今、いろんな事があるよね。世界が大変だとか、ギンガ団の事とか、大変なことに巻き込まれちゃったけど、  
レンが側にいてくれたら何でも出来るような気がするの」  
チナツは顔を上げて、目頭を拭いながら微笑んだ  
「更に他の皆がいるわけでしょ。だから、私はいろんな事に立ち向かえる。  
レンがいるから、今、私はここにいるんだよ」  
「チナツ…」  
万感の思いだった。ああ、私はなんて愛されているんだろう。  
その姿や形は違えども、こんなにも、私たちは繋がり合っていたのだ。  
「こうやって、ちゃんとレンに伝えることができて良かった」  
「ああ、私もだ。君に私の、私たちの思いを伝えられて良かったと思う」  
「私、レンが大好き…!」  
またぎゅっと抱きつかれる。その温もりに私は少し罪悪感を覚えながら口を開いた。  
「…私には、他にも君に伝えたいことがあるんだ」  
「何?」  
「私はポケモン、君は人間だ。わかるな?」  
「うん、もちろん。どうしたの、急に」  
 
「チナツ、私は君を愛している」  
「私もレンが大好きだよ」  
私の首筋にしがみつく、いつもの彼女の癖。彼女はなぜか、いつも甘い匂いがする。  
私は彼女のこの仕草が大好きだ。チナツの体温が一番感じられるから。  
しかし、今回は名残惜しいが、鼻先でとん、と彼女を押しやり、離れさせた。  
「違う、そうではない、私はレントラー…ポケモンだ。君をメスとして愛している」  
「…え?」  
チナツの目が丸くなるのがよくわかって、私の心が少し痛む。  
「君と、会話ができる今日しかないのだ」  
これを話したらきっと我らの今までの関係は壊れてしまう。  
幸せだった日々、愛されている実感。素晴らしいトレーナーに出会ったポケモンとしての喜び。  
しかし、今の私には目の前の快楽しか目に入らない。飼い馴らされたとはいえ、私も十二分に獣だ。  
堪え切れず、口を開いた。  
「…君の傍にいられるだけで幸せだった。しかし、一度でいい、君を抱いてみたいと思っていた」  
「…抱く?」  
抱き締めるとは違うニュアンスの言葉。チナツの顔から表情が消えた。  
「ちょっと、レン、よく分からないよ…どういうこと?」  
「私はポケモンだ。獣としての欲求を君で満たしてみたいと願っていたのだ」  
チナツの顔が見れずに、顔を背けてしまう。彼女はどんな表情をしているのだろうか、不安でたまらなかった。  
 
「愛している、チナツ。君を愛しているのだ」  
吐き出すように、告げる。  
「どうかこの思いを遂げさせてはくれないだろうか。チナツ」  
「待って、ごめん、説明、ちゃんとして」  
チナツの声が震えていた。  
怯えさせてしまったのだろう。もちろんその自覚がないわけではない。  
慎重に選んでいるはずの言葉が、何故かうまく口に出せない。  
「チナツのすべてが欲しい」  
「欲しい?何…を?」  
「人という種族のメスの君と交尾をしたい」  
ああ、ついに口に出してしまった。禁断の言葉を、浅ましい祈りを。自己嫌悪が私を貫くようだ。  
「人とポケモン、不自然であることはわかっている。ただ…」  
一歩、彼女に歩み寄る。今ではチナツに近づく事すら怖かった。なにより、勝手にこの頭が彼女に拒絶されることを想像してしまうのだ。  
「トレーナーに向けてではなく、一頭のレントラーがらの君という、チナツという人間への、愛の形として」  
私は顔を彼女の胸に押し当てた。  
私の愚かな願いはかなうのだろうか、それは分からないけれども、彼女の胸は相変わらず暖かかった。  
「…レン」  
落ち着いた声だった。うつむく私の頭に、彼女の手が触れ、優しく撫でさすってくれていた。  
「レンは、私が好きなの?」  
「ああ」  
優しい手。何よりも気持ちが良くて、何故か泣きたくなる。  
「愛してくれているのね?」  
「ああ」  
どうしようもなく、狂おしいほどにいとおしい。顔を上げると、目の前の彼女が真っすぐに私の瞳を見据えていた。  
 
眼光の鋭さは自分のほうが上のはずだが、チナツの目は確かな輝きを秘めているような気がした。  
「…レン、私もレンが好きだよ。昔、ポケモンと人が結婚できたって話、知ってる?」  
「ああ、私は羨ましいと思って聞いていたな」  
どこかの街で聞いた昔話だ。他愛のない、しかしその話は現在ではタブーとなっていることであることが気になっていた。  
「…私はね、恋したことないの。気が付いたらポケモンたちと一緒に遊び回ってて、そういうの、知らなかったんだ」  
私がコリンクだったころ、いつも一緒に外を転げ回っていたのを思い出す。  
池のコイキングと一緒に飛び跳ねて遊んだり、庭に来るムックルに餌を上げたり、森に住んでいるカビゴンの腹に乗せてもらってみたり…  
話しはじめたらキリがないほど二人での思い出があった。  
私は捨てられた存在で、やがてその辺の野原で朽ちゆくのだと思っていた。  
チナツと出会ったことで、こんなにも世界は広く、沢山のできことがあるのだと知ったのだ。  
だからこそ、私はチナツを愛したのだろう。彼女は私の唯一無二の存在であり、何物にも替え難い、光なのだ。  
 
「人との恋を知らない私に、私がレンを好きなのか…ううん、好き、大好きだけど、恋愛として好きなのかはまだ…よく分からない」  
うつむいていた彼女が顔を上げる。その顔は、少し泣きそうな笑顔だった。  
「だけど、確かに分かるのは私はレンの事が大好きだって事。  
レンが望むなら、私はなんでも受け入れられるよ」  
「チナツ…いいのか?」  
「レン、でも、私、どうしたらいいかわからない。レンが私に何をしたいか、何をするかもよく分からないの。  
でも、レンが私に何かしたいなら、何でもしていいよ」  
チナツは床に膝をついて私の首にしがみ付く。ぎゅっと、強く。彼女の髪がさらりと私の頬に触れた。  
「ちょっと怖いけど…レンとなら我慢する」  
えへへ、と泣き笑いの声。  
嬉しくて、私は表現できないほどの不思議な感情が溢れて、気の聞いた言葉の一つもかけられなかった。  
「…嬉しい、言葉にならない」  
万感の思いをこめて、彼女に擦り寄る。  
「出来る限り優しくする」「ごめんね、お願いします」  
チナツの頬摺りに、思わず目を細める。ああ、私はなんて幸せなんだろうか、と。  
 
「全部脱ぐの?」  
「すまないが、そうしてくれるとありがたいな」  
さすがに恥ずかしいんだけど…ともごもごする彼女にふいっ、と首を背けてつぶやいた。  
「破りそうで怖いんだ」  
勢いあまってしまって彼女をメチャメチャにしてしまいかねないから、までとは言えない。  
「そっか。レンのひっかきすごいもんね!  
あ、あ、うん。後ろむいてて、やっぱり恥ずかしいから…」  
なんでだろうなぁとつぶやきながらチナツは上着を、Tシャツをスカートを脱ぎ去っていく。  
すとん、と落ちたスカートの音につい反応して振り向くと、  
上下短い下着だけになったチナツが頬を赤らめ立っていた。  
「や、レン…!えっち!」咄嗟の言葉なのだろうがつい笑いが漏れた。  
淡い水色のボーダーがかわいらしい姿だ。風呂上がりに無防備にこの格好ですたすた歩いていたりするから色々困ることもあったり、なかったり…  
チナツは運動量が多いのでいわゆるブラトップと言われる下着を着用しているらしい。  
胸が大きくなると少し辛いよ?などとシロナ女史と温泉に行った際に言われたのを聞いたことがある。  
まあ、多分そんなに大きくはならなそうだから大丈夫ではないかとは思っているが…  
「そ、それじや、寝ればいいのかな?」  
「頼む」  
恥ずかしそうにベッドに上がり、膝を抱える。  
「駄目だ、横になってくれないと困る」  
「ええー、もうっ、レンだけなんだからね!」  
顔を赤らめて渋々と身を倒し、横たわり目を閉じた。  
「レンもっ!早くっ!」  
恥じらいを隠したその言葉に、私の胸は高鳴る。  
あえて、ベッドの上に一気に飛び乗る。私が乗ったことでみしりとスプリングが揺れた。  
チナツをまたぐようにして組み敷く形だ。  
ゆっくりと、チナツが目を開いた。  
「わぁ…」  
私の下の暗がりで彼女の何を思うのだろうか?  
「…下からレンって、あんまり見ないかも」  
彼女は手を精一杯伸ばして、私を抱き締める。  
「そうだな、そうかもしれない」  
「ふかふか」  
「君がいつもきれいにしてくれているからだ」  
鼻先でチナツにじゃれつき、唇を舐める。ここまではいつもの範疇だ。  
これからは、いつものじゃれあいではないのだ。  
 
私は起き上がり、チナツを見下ろす。  
「始める?」  
「ああ」  
チナツはそっと目を閉じた。力を抜いて、すべてを私の預けたような、そんな姿だ。  
私は爪をたてないよう気を付けながら、前足で下着を捲り上げる。  
あらわになったなだらかな胸を舌でぺろりと舐めた。やはり、チナツは甘い味がする気がする。  
何度もぺろぺろと舐めていると、くすぐったいよと苦情が飛んだ。  
「気持ちはいいか?」  
「わかんない…なんだか不思議な感じがする」  
とても甘くて、いつまでもこうしていたいような、そんな気持ちだ。  
体重をかけすぎないよう、確かめるように肉球でぷにぷにとやわらかな胸を揉む。  
小さな乳首を転がすように刺激してみると、チナツはふ、とぎゅっと目を閉じてしまう。  
小さな身体でしっかりと感じているのだ。  
片方を舌で、片方で乳首を刺激する。チナツの顔が確かに赤らんで、少し息があがっているように思える。  
見れば、唇を強く噛んで声を殺しているようだった。  
「チナツ、できたら君の声が聞きたいんだが…」  
「だ、だって、レンが、やだ、私、おかしくなっちゃいそうなんだもん」  
そう、ろれつが回らない声で言うなり、チナツは両手で顔を覆ってしまった。  
恥ずかしいのだろう、淫らな姿をポケモンとはいえ他人に晒しているのだから。  
だが、私はそれを許すことはできなかった。首をのばして、その手を退けるよう促す。  
「顔をかくさないでくれ、君の表情が見たいんだ」  
ゆっくり、両手を外した彼女の顔は耳まで真っ赤で、瞳は涙で潤んでいた。  
「なんだか身体が熱くて、レンの手が熱くて、ふわふわして、きゅんってしちゃうの」  
「大丈夫か?気持ちいいか?」  
「わか、んない…これが、気持ちいいってことなの?」  
不安げな顔。涙を掬うよう瞳に口を寄せる。  
チナツが私の両頬を包むように手を伸ばし、その唇で私の鼻先に触れた。。  
少し赤い目で、ふんわりとした笑みを浮かべて小さくつぶやく。  
「レンは優しくしてくれてるんだよね…だから、気持ちがいいんだね…」  
その唇がとてもやわらかくて、私は思わず動揺してしまった。  
私はレントラー、獣だ。チナツとはいわゆる人同士が行うキスはできない。  
愛し合う人同士はキスをして愛を確かめ合うのだという。  
異種の我々にできることといえば精々口と口を触れ合わせることだけくらいだ。  
昔も今も。何度も行ってきた些細な行為なのに、何故こんなにも満たされるのだろう。  
 

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