彼女はあの頃からずっと変わっていない、確かな根拠はないが私には確信がある。  
そして彼女は私を待っている。  
そうでなければこのように挑戦的で狡いマネはしないのだから。  
私は彼女と再開し話し合うため、今日までどんな辛い試練でも乗り越えてこられた。  
全てはこの日のためにやってきたことであり、今の私に選択肢は一つしかないはずだ。  
だがどうしても決心がつかないでいる。  
落ち着かないのでカフェの隅で一匹立っていると、予想通りカモがやってきてくれた。  
「アノー……、貴方ハギャロップサン、デスヨネ?」  
無機質な声の正体はジバコイル保安官。  
正にギャロップである私はほくそ笑み嘲笑しているのを内心に留めておき、毅然とした態度で、  
「ええ、そうです」  
と返した。  
「ヤッパリ、アノ有名ナ探検家ノ」  
そう、私は探検家となり早くして腕を上げ、警察の信用を得てきた。  
「実ハ、ヘルガー逮捕ニ協力願イタイのデス」  
やはり来たか。  
ギルドの掲示板に掲示された、私の過去の親友であると思われるヘルガーのポスターを思い出した。  
 
特徴を掴み、細部まで描かれてはいるが、お尋ね者ポスターはあくまで手描きのポスターである。  
彼女が私に覚えのあるデルビルの進化後の姿であると判断に急ぐことは出来ないはずだ。  
だがあの似顔絵から向けられる不敵な笑みは、間違いなく私に向けられている。  
全く根拠のないことを理由にし、探険家になるなどばかげた話だろう。  
結局はヘルガーが私の親友でなければそれが一番いいのだ。  
後は探検の際に手に入れた数多の財宝を糧にして優雅に暮らせればいい。  
 
私は何事もなかったかのようにジバコイル保安官と話を続けた。  
「ヘルガー……、今世間に名を馳せている凶悪犯のことですね」  
――放火魔ヘルガー、世間ではそう恐れられている。  
異名の通り、時には家々を放火、またある時にはポケモンを焼身する。  
私の知る限り、今まで狙われた者達は暴力団や盗賊などの犯罪者ばかりであったはずだ。  
善良なポケモン達に手を加えているわけではなかったが、それは犯罪を犯していい理由にはならない。  
警察や探検家達が今まで立ち向かってきたが、全く歯が立たず苦戦を強いられているとのことだ。  
「ソウデス。ヘルガーハ恐ロシク強ク、ソシテ非道デス。ソコデ優秀ナギャロップサンニ協力シテホシイのデスガ」  
「私もどうにかして逮捕したいと思っていたところです。是非私にも協力させてください」  
「オオ、心強イ!アリガトウゴザイマス!」  
ジバコイル保安官はヘルガーのポスターを取り出した。  
「昨日、ヘルガーノ潜伏場所ヲ突キ止メマシタ。今ガ絶好ノチャンスナノデス」  
今日ヘルガーのポスターが新しく貼りかえられていると思ったが、やはり進展があったか。  
再びポスターを見る。  
吸い込まれてしまいそうな闇を連想する彼女の深紅の瞳、私の目よりもずっと深い色をしている。  
私は既にこの瞳の囚われの身となってしまった。  
もう後戻りは出来ない。  
 
ジバコイル保安官はポスターをしまい、  
「デハ、他ニモ探検家ノ方ニ来テモラッテイマス。呼ンデキマスネ」  
と言ってカフェの外へ出て行った。  
他の探検家も加わるのか、居場所だけを教えてくれればいいのだが。  
だが警察側にとってを考えれば至極当然のことで、早く捕まえないと被害はどんどん大きくなる。  
ここで方を付けるためにはフェアだの考えている場合ではなかった。  
首にかけられたトレジャーバッグの中身を確認する。  
大丈夫だ、私以外にも協力者がいることを想定して必要なものは揃っている。  
暫くしてジバコイル保安官と二匹の探検家がやって来た。  
 
ジバコイル保安官はパッチールの方へ行き、残りの二匹は私のいる近くの席へと腰を下ろす。  
探検家はフローゼルとドクロッグ、どちらも、特にフローゼルの名前はよく耳にするほどこの世界では有名だ。  
「よぉ、アンタがギャロップか」  
「ククク、ギャロップさんよォ、よろしくゥ」  
「皆さんにお会い出来て光栄です。今日はよろしくお願いします」  
みずにかくとう、なるほど、どちらもヘルガーの苦手とするタイプだ。  
ジバコイル保安官がパッチールに注文したと思われるジュースと共にこちらへ来た。  
カラフルでよく冷えたコップに入ったジュースが並び、テーブルの上が華やかになった。  
フローゼルがそれを一口だけ飲み、一息ついた。  
「では挨拶もこれくらいにして、早速だが今から作戦を立てよう」  
フローゼルが指揮を執るようだ。  
私は木のイスに座るのに適した体型ではないため、無理せずそのままテーブルに寄っただけに留めた。  
「まず、今回はあまごいがキーポイントとなるだろう」  
「アマゴイ、デスカ……?」  
「ああ、ジバコイル保安官のタイプはがね、ドクロッグも特性のかんそうはだでほのお攻撃のダメージが大きくなってしまう。だが雨が降る  
ことでほのお技の威力は弱くなる、それだけでヘルガーを弱体化出来るんだ。そして……」  
「そしてェ?」  
「雨はオレのベストコンディションだ。みずタイプの威力が増加、特性の効果で普段よりも素早く移動できる」  
「ククク、なるほどなァ。おれの特性も火にゃ弱いが雨で傷を癒すことも出来るんだよォ」  
雨は確実にこちらの有益となるに違いない。  
だがほのおタイプに共通すること、私も雨は好まないのだ。  
「デモソレダト、ギャロップサンモ不利ニナッテシマイマスネ」  
ジバコイル保安官の言う通りだが、大方フローゼルの言うことに検討はついていた。  
「うむ、元々ほのお同士は相性が悪いから無理に攻撃することもないだろう。ギャロップにはサポート役になってもらう。いいかい?」  
予想通りのことをヘルガーは言ってくれた。  
「分かりました。スピードには自信がありますので、ヘルガーを追い込みます」  
「だがヘルガーもなかなかすばしっこいが大丈夫か?」  
「その点はこうそくいどうでカバー出来ます」  
もしかして彼らはヘルガーの特性を知らないのだろうか。  
どちらにしても大雨の中で炎技を使うことはないと思うが。  
「ほのおタイプの他にもう一つ、あくタイプの技も厄介だ」  
「ソレハ大丈夫。ドクロッグサント私ノタイプガ有利デスカラ」  
 
恐ろしいくらい話がスムーズに進んでいる。  
だが本当にそれで対処できるのか。  
自分を追う敵の包囲網を潜り抜け、敵を返り討ちにしてきたヘルガーを。  
それ以前にもまだ私にしか知らない壁が彼らには立ちはだかるはずであった。  
「以上が作戦だ。これだけオレ達に有利に働くのならきっと勝てるだろう」  
「ククク、今日はやけにやる気満々じゃねェか。フローゼルさん」  
「当たり前だぞドクロッグ。今日こそは雪辱を果たし必ずや捕まえる!」  
フローゼルはみずタイプでありながら一度ヘルガーに惨敗したらしい。  
その分だけ気合も入っている、ということか。  
話は終了し、フローゼルはテーブルのジュースを一気に飲み干し、力強くコップでテーブルを叩いた。  
「よし!今回を放火魔ヘルガー最後の日とする。皆、共に戦おう!」  
ドクロッグは喉袋を膨らまし、ゴボゴボと不気味な声を発しフローゼルに賛同した。  
私も前足を使いコップを傾け中身の赤いジュースを喉に流し込む。  
ジュースはまだ冷たく、熱い喉を急激に冷やし、腹へ流れるのが分かるくらいだった。  
「ギャロップ、行く準備は出来ているかい?」  
「ええ、いつでも探検が出来るようにと準備はしてあります」  
「そうか、じゃあ今すぐ行こう!ジバコイル保安官、案内してくれ」  
私達はジバコイル保安官に誘導され、まずはカフェを出た。  
潜伏場所はここからそう遠くはない場所にあるのだそうだ。  
一歩一歩を踏みしめる度にヘルガーに近づく、だが私と生活との均衡も徐々に崩れ去っていく。  
緊張のために胸が酷く高鳴る。  
彼女は私を待っている、逃げることは出来ない。  
 
「次ノフロアガ潜伏場所デス」  
洞窟の壁に等間隔に設置されている松明、そして私の纏う炎だけが薄暗い洞窟を照らしている。  
見え辛い階段を下りきった時、ジバコイル保安官がこの洞窟の地図を確かめた。  
「いよいよこの先にヘルガーが……皆、用意はいいか?」  
先頭に立っていたフローゼルは全員を見渡す。  
ぼんやりと浮かぶ眼は僅かにおののいていたが、燃える闘志に掻き消されそうになっている。  
「ククク、いいけどよォ、ちっとばかし嫌な予感がすんだよなァ……」  
ドクロッグは体を身震いさせ、ゴボゴボ、と喉袋を鳴らして笑った。  
「ヘルガーの位置が近いってことか……」  
「いやァ、これはヘルガーじゃないね。何か別の……」  
「どういうことだ?」  
「残念ながらこれ以上はおれにも分からんね、ククク」  
ドクロッグの言葉の意味が分からなかったフローゼルは顔をしかめたものの、すぐに気を取り直した。  
「まぁいい、いくぞ。油断するなよ……」  
「ちょっと待ってください」  
歩を進めようとするフローゼルを私は呼び止めた。  
「どうした?」  
燃える眼は一瞬だけ私を怯ませたが、ここで引くわけにはいかない。  
「このまま全員で行っては機動力に欠けますし、ヘルガーの警戒も大きくなると思います。ですので、まずは私一匹で行かせてください」  
「何だって?」  
「皆さんを危険な目に遭わせるわけにはいきません。ここで待っていてください」  
フローゼルの顔に陰りが見え始め、ジバコイル保安官も戸惑いを見せていた。  
「なあ、ヘルガーはそんなに甘い相手じゃない、それはオレが身を持って分かっていることだ。チームワークを大切にした方が……」  
パリン、何かガラスが割れたような音がした瞬間、辺りは眩い光に包まれた。  
暗闇であった瞼越しからは白い閃光が感じ取れた。  
目を開けるとその場で蹲った三匹の姿、大口を叩いた割には実に無様で滑稽だと思った。  
 
私は脚の下で砕けているガラス片をひづめで蹴り散らかした。  
「ギャロップ……アンタ……」  
フローゼルが蚊の鳴くような声を搾り出す。  
ギリギリと歯軋りをして、地に這いつくばりながら私を睨みつけていた。  
「コレハ一体……」  
「ククク、しばりだま、か。こりゃざまあねェな」  
私は少しの間彼らを見下ろし、立ち去ろうとしたが、フローゼルは私に向かって吼えだした。  
「グルだったの、か……オレ達をっ!騙したのかよ!!」  
私ははたと足を止まらせ、彼らへと振り返った。  
「ヘルガーとはグルじゃないですよ。それと騙すも何も私は貴方達を仲間だと思っていませんでしたから」  
そして再び暗闇の向こうへと体を向ける。  
「暫くここで待っていてくださいね。もし罠が解けても私が帰ってくるまで来てはいけませんよ」  
言い終わってから私はふと首にかけてあるトレジャーバッグに付いているあるものの存在に気が付いた。  
それは探検隊バッジだった。  
普段は特に見ることもないそれを剥がし、改めて見て見た。  
ゴールドランク、短期間で私はそこまでやってきた。  
だがこれはもう必要ない、ただ警察に信用させようというだけの証、紙っぺらの張りぼてに用はない。  
バッジの支えをなくすとそれは垂直に落下し、いかにも安っぽいような音を立て、石ころのように転がった。  
そのついでに大したものは入っていないのでトレジャーバッグも捨てた。  
「私の脚の下にあったふしぎだまの存在にも気が付かないなんて、ヘルガー逮捕など聞いて呆れます。では」  
洞窟にはフローゼルの怒号とドクロッグの不気味な笑いが響く。  
私は気にせずに彼らを振り切り、更に地下への階段を探した。  
 
私はこの後逮捕されてしまうのだろうか。  
少なくとも警察や他の探検家達からの信用は消失するだろう。  
これからのことをどれだけ想像しても、先にヘルガーの問題がある今では何も考え付かない。  
もしヘルガーがデルビルでなければそれこそお笑い種だ。  
ヘルガーの元へと行き着く間、私は昔の頃、まだポニータだった時のことを思い出した。  
 
私が親から独立し始めた頃、私には友達のデルビルがいた。  
デルビルもまた親離れしたばかりで、私達は一日中共に暮らしていた。  
彼女とはとても仲がよく生活も楽しい、だが一方で私には悩みもあった。  
「ねぇっ、ポニータ、ちゅーしていい?」  
「う、うん……」  
私はデルビルの体長に合わせるため首を下げると、デルビルは私にキスをした。  
触れるだけのキスをしてしまうと次が更に欲しくなる彼女は、私を横に寝かせてキスを続ける。  
彼女は私のことが好きだった。  
私も彼女のことが好きだったが、それは恋心からのものではない。  
一方でデルビルは本気で私を愛し、恋をしていた。  
彼女に好かれて私はとても嬉しい。  
だが、彼女に恋心を持たなかった私は、女の子と関係を持つことが酷く不自然でならなかった。  
 
「ん……」  
デルビルが私の口に舌まで入れ、私と繋がろうと必死で絡めている。  
嫌われたくない、その一心から私も彼女に答える。  
口の僅かな隙間から漏れる甘い吐息がいじらしく可愛らしい。  
だが私は常にこのことが誰かにバレやしないかとヒヤヒヤしていたものだ。  
夜の草原の上でいやらしく戯れ合う私達。  
見つからないようにたてがみの炎を極力抑え、息を殺すかのように行為に耽った。  
まだ幼く、キスしか知らない私達はずっとくっ付き長い夜をそうやって毎日過ごした。  
 
 
そんなある時、私は風邪を引き数日間寝込んでいた。  
苦しさに喘ぐ私を見たデルビルは、私を誰もいない洞窟まで連れ、一匹で何処かへ出掛けてしまった。  
日も暮れる頃、デルビルは鞄から落ちそうなほどたくさんのきのみと、あかいグミの入った紙袋を持って帰ってきた。  
私が驚いていると彼女は、  
「町に行ってね、買ってきたんだよ。あかいグミもチーゴもすきでしょ?」  
遠く離れた町、子供の持っているお金ではチーゴのみはまだしも、グミなんて気軽に買える代物ではなかった。  
「ごめんね、さびしかった?早くかぜがなおるといいね!」  
やはり持つべきものは友、デルビルの気持ちが本当に嬉しかった。  
「ありがと、デルビル……。わたし、デルビルの友だちでよかったよ」  
互いに体を摺り寄せ、彼女が買ってくれたものを仲良く分ける。  
風邪であまり味は感じないはずだったが、普段のグミやチーゴのみよりも格段に美味しく感じた。  
 
だが数日して風邪も完治した頃、草原の上でいつもお決まりの、そしてデルビルが私に教えてくれた夜が訪れた。  
「ちゅーしよっ」  
「うん……んんっ」  
デルビルが私の口を塞ぎ、ゆっくりと押し倒す。  
深く奥まで私を求め、小休憩でもするかのように浅く、互いの乱れた呼吸が落ち着く頃には、再び深く潜っていく。  
デルビルのペースに乗せられている私は自分の意志を持たなかった。  
彼女が好きなようにやってくれればいい、私の中に入られるときは実に不思議な感覚に襲われた。  
「ふうっ……」  
デルビルが私を解放した際には、つぅっと月明かりを浴びた一本の糸が尾を引いた。  
「ねぇ、交尾って知ってる?」  
突然彼女は真顔になり、私に尋ねた。  
「こーび?」  
私はまだそんな言葉を知らなかった。  
そして結果的に言えば知りたくはなかった。  
「うん、セックスとも言うんだって」  
「せっくす……」  
どれも聞いたことのない言葉だが、デルビルは何処からそんな情報を仕入れたのか。  
今になっては、彼女が町に行った時に危ない誰かにでも教えられたのでは、と不安だが。  
「それをしたらね、もっと仲良くなれるんだって。ポニータ、いっしょにしない?」  
何が何だか分からなかったが、デルビルの望むことなら何だって構わない。  
頷くと彼女は嬉しそうに笑った。  
 
微かな風が私の肌を撫で、辺りの若草をなびかせる。  
揺らめく炎がデルビルのはにかんだ表情を浮かび上がらせた。  
「何だかきんちょーしちゃうなぁ……。わたしも本当はよくやり方が分かんないんだけど」  
「ねぇ、こーびってどんなの?」  
「えっと、まずねー……」  
デルビルが私の首筋を甘噛みした。  
突然のことに私の体はビクリと反応し驚いた。  
「あ……!?」  
とてもくすぐったく、我慢のし難い行為、どことなくキスと同じようなものの感じがして、私は興味を持ったことに少し後悔した。  
「ひはっ、やめて……」  
そこが急所であるせいか本当に触られていたくなかった。  
だがデルビルは行為の中断をしてくれることなどなく、私の首筋に熱い舌を押し付ける。  
「んんっ、はぁっ……」  
「好きっ、ポニータぁ……」  
デルビルは私を愛してくれている。  
健気な彼女を拒むことは出来なかった。  
零れそうな涙を月明かりに照らされまいと必死で堪えた。  
 
デルビルは私の首筋をじわじわと解すように刺激し、持て余している前足で私の腹部を触りだした。  
ぞくぞくと這う彼女の前足が何だか彼女でない気がする。  
その上、自分が自分でないような気もした。  
前足が私の下腹部の一点に触れ、未知の感覚に私は身震いした。  
「っああ!?」  
私の反応を見たデルビルは、甘噛みを止め、そこを弄ることに専念した。  
「そこはっ、いやっ!」  
恥ずかしい部分を見られることでさえ嫌であるのに、触られてしまうだなんて。  
触られたくないはずなのに、体の奥底ではこの刺激の虜になっていた。  
上り詰める何かに上り詰める自分が情けない。  
堰が切れたように涙が溢れた。  
「もうちょっとがまんして……そしたらすごく気持ちよくなるんだって」  
「ああっ、だめぇ!」  
気持ちいい……とは、そよ風が吹いた時、暖かい天気の時、普段感じる心地よさとは似て非なるものだった。  
これほどまで未経験のことに恐怖を覚えたことはない。  
追い討ちをかけるかのように、徐々に不思議な気持ちは強くなってくる。  
「なにこれぇっ、でるびるぅ……」  
今すぐにでも逃れたい、だけどそうすればデルビルは傷つくだろうか……。  
考える暇もなく脳内はこの気持ちがいいとやらの感覚に埋め尽くされ、彼女の前で痴態を見せることしか出来なかった。  
 
「あっ、あんっっ、なにか、きちゃうよぉ……ふぁぁ」  
デルビルに擦られるほどにそこはぬめり、彼女の前足がスムーズに滑る。  
そこから何かが来そうな恐怖に怯えた。  
「ポニータ、もうちょっとだからね……」  
私に優しく言葉をかけるデルビルの声も次第に遠くなっていく。  
こんなにも傍にいるのに体が彼女から離れてしまうような、自分が崩れてしまいそうな気がした。  
「やあっ、もうだめっ!で、でるびるぅ……っ!はぁあああっああん!!」  
声が抑えきれずに辺りに嬌声がこだまする。  
ビクビクと震える体を庇い、快感と呼ばれるものの余韻に浸った。  
「だ、だいじょうぶ?」  
ぐったりと倒れる私をデルビルがさすってくれた。  
私から出た体液がぬるりと肌に付着する。  
「あの、ごめん……こんなになっちゃうって知らなくて……」  
デルビルが私の眼から雫を拭い取り、私の頬を撫でた。  
「ううん、ちょっとびっくりしただけ」  
これはやっていけないことだと思う、だがデルビルが望めばしてあげたいとは思った。  
私はデルビルがやってくれたように、彼女の首にもキスをした。  
「ポニータ……?」  
「デルビルにも、してあげるね……」  
本意ではない、だが彼女が喜んでくれれば、私はそれだけで嬉しかった。  
 
私達はその後も何度か交わった。  
それは数えるほどもなかったと思うが、その頃の私には衝撃が強すぎた。  
デルビルには嫌われたくない、だが正直我慢の限界。  
誘われる前に今夜こそは、と私はデルビルに話しかけた。  
「ねぇ、デルビル……」  
「なあに?」  
屈託のないデルビルの笑顔、気が引けるがここで言わないわけにはいかない。  
自分の意見を押し殺してばかりいるのもよくないことだ、と。  
私は一呼吸間を空けて心中を明かした。  
「デルビルがわたしのことを好きっていうのはすごくうれしいよ。だけど、これからもデルビルとは普通の仲でいたいの……」  
「ポニータ……?」  
「あ、でもっ、デルビルはわたしの一番の友達だからね!ずっと親友だよ!」  
デルビルの顔が一瞬歪んだように見えた。  
だがその一瞬を除いて彼女の顔は笑顔に変わった。  
「よかったー……わたし、ポニータにきらわれちゃったかと思ったから」  
ああ、何も心配をすることなどなかったのだ。  
私もほっとして、  
「そんなわけないよ。こーびなんてしなくてもずっと最初から仲良しでしょ?」  
と言った。  
「うん、ごめんね、今までいやだったのにむりやりしちゃって」  
デルビルも意外にすんなりと理解してくれた。  
「じゃあ、おやすみ。ポニータ」  
「おやすみ」  
私は目を瞑ると、いつもにない深い眠りへと落ちた。  
 
 
……朝起きるとデルビルは私の隣にいなかった。  
初めはきのみを採りに行ったり水を飲みに行ったりしているのかとさほど気にはしなかった。  
だが昼になっても、夕刻を過ぎてもデルビルは帰ってこない。  
ああしまった、私は大切な友達を失ったのだ、とようやく理解した。  
誰かに連れ去られたのではという考えも過ぎったのだが、それ以上に思い当たることが昨夜にあったばかりだ。  
「デルビル、デルビルーっ!!」  
私は必死になって名前を叫んだが、返事はなかった。  
不気味に紅く染まる夕焼け、広大な草原にただ一つだけ落ちている私の影。  
恐怖から逃げようと、何処かにデルビルはいるのではないかと、私は無我夢中で走り出した。  
何処にいても夕焼けと影は私に付き纏う。  
振り切ってもなお離れようとはしない。  
 
やがて紅い空は紫色に変化し、夕闇へと形を移していく。  
いつの間にか気味の悪いほど長く伸びていた影の姿は闇に溶け込んでいた。  
その状況に気が付くと、急に走り続けたせいで脚は軋み、喉が焼け付くように熱くなった。  
息を荒げて歩いていると、小さな池を見つけた。  
水を飲もうと水面に口を寄せる。  
だがその時、たてがみの炎が暗い水面に周りの景色を映した。  
私は独りだった。  
いつも傍にいてくれるはずのデルビルはいない。  
絶望に打ち拉がれた私からは止め処なく涙が溢れた。  
立ち上がる気力もないままその場に座り込み、一生分泣いた。  
涙が枯れても嗚咽は止まらない。  
今までデルビルは幸せだっただろうか。  
私は彼女といられるだけで、それだけで楽しかった。  
私もデルビルに恋をすればよかったのに。  
そうすれば互いが、ずっと幸せでいられただろうか……。  
 
それから私は大人になり、放火魔ヘルガーは最近になって有名になった。  
私はデルビルが私に恨みを持ち、逆恨みとしてこのような事件を起こしたと考えた。  
そして現在に至る。  
ようやく見つけた階段を取り囲む壁には松明がなく、闇へと誘うかのように下へと続いていた。  
自らが纏う炎の明かりのみを頼りにし、一段一段ゆっくりと下りていく。  
ある程度まで下りると、この先に階段は見当たらない。  
どうやらヘルガーの潜伏場所のフロアまで辿り着いたようだ。  
フロアは暗闇に覆われ何も見えない。  
炎の光は私の周辺のみを照らしていた。  
「ヘルガー!そこにいるのは分かっている!」  
私の声がフロア中に反響する。  
どうやらここは迷路のような地形でなく大部屋のようだ。  
歩くとひづめが地面にぶつかる音がカツン、カツン、と響いた。  
その時、前方に青白い火の玉が出現した。  
青白い光の中に誰かの影が浮かび上がる。  
――そう、あれは……、  
「……待ってたのよ、ポニータ」  
姿と声色が変わろうとも昔のままの彼女がそこにはいた。  
「久しぶりね。……デルビル」  
私は真っ直ぐ彼女を見据えた。  
 
 
ヘルガーは物音立てず静かにこちらへと寄ってくる。  
それにつれ、互いの炎が互いを照らしていく。  
おにびを纏う彼女の顔はほんの少しだけ青白く見えた。  
「変わらないわね、ポニータは。やっぱり背も全然追いつけない」  
ヘルガーは笑いながらそう言った。  
昔のデルビルも背の高い私を羨望の眼差しで見ていたことを思い出した。  
「デルビル、何故こんなことを?仕返しするなら私だけにするべきであって被害に遭ったポケモン達に関係はないわ」  
私の言ったことに、ちょっと他人行儀じゃない?とヘルガーは笑い、更に、  
「別に私はポニータを恨んでなんかいないわ」  
と私に縋りついた。  
「あ……」  
「こうでもしないと他に伝える方法はない、だから私は放火魔として世間に注目してもらえるよう仕向けた……」  
「…………」  
「いつかポニータが私の所に来てくれるって信じてたわよ」  
「私……」  
私は一度縋りつくヘルガーを押し退けた。  
「デルビルがいなくなちゃった時すごく寂しかったけど、悪いことして周りが皆敵になるのはもっと悲しいよ」  
私の口調もいつの間にか子供の時のそれに戻っていた。  
デルビルがいなかったために、今まで感情が曝け出して喋ることなど皆無だった。  
 
再びヘルガーは私に擦り寄る。  
私には払いのける気などなかった。  
「そうよね、どうせなら賞賛されるようなことして有名になれたらよかった」  
「デルビルが悪いやつばかり狙ってたの、本当は私もすっきりしてたけど周りはそう見ないからね……」  
「うん……」  
私を待つためには捕まるわけにいかない、子供の時、彼女が強いポケモンだと思う節はなかった。  
それだけ今まで作戦を練り、並々ならぬ努力もしてきたのであろう。  
私をここまで誘導するためにリスクを犯し、わざわざ警察にこの場所の情報を与えようとしたのか。  
見つかったことなど彼女の想定内、計画通りのことなのであろう。  
そう言えばこの後であの三匹に私は逮捕されるのだろうか。  
業務の妨害と暴行と……詳しいことは知らないが。  
最初からそのことは覚悟していたが、よく考えれば私も犯罪者ではないか。  
ヘルガーのことを言っている場合ではないなと、私は僅かに口元を歪めた。  
 
「ポニータから……」  
暫くの沈黙の後、ヘルガーは口を開いた。  
我に返り苦笑いをする顔を元に戻し、ヘルガーに視線を戻す。  
「ポニータから振られただけで逃げ出して人生をダメにするなんてね。若気の至りってやつかな?」  
まぁ若くはないけど今も似たようなものだよね、と付け加えた。  
「夜は狸寝入りをして、ポニータが寝たのを確認してから当てもなく走り続けて。ポニータを愛せない自分なんていなくてもよかった。私に  
とってはそれが全てだったから」  
ヘルガーは続けた。  
「でもばかよね、私。親友をなくしたら元も子もないのに。……こんなこと言ったら嫌われちゃうかもしれないけど、私、まだポニータの  
ことが好きなの」  
ヘルガーの両前足が私の後ろ首へと回され、僅かに体重をかけられる。  
少し俯く形となった私は、この先のことを予期し目を瞑った。  
「ギャロップになっても、ずっとそう」  
彼女に自分の深くまで触れられることに前ほど嫌悪感と罪悪感はない。  
私の薄い唇に柔らかいものが触れた。  
 
すぐ後にヘルガーが私から離れたことを確認してから目を開ける。  
「ごめんね」  
衝動に駆られたのではなく、彼女は私に触れることをずっと懇願していたのだろう。  
俯き目を逸らす彼女が欲しているこの先を許すことも私は常に考えていた。  
決して慈善を施すわけでない。  
「デルビル」  
過去の名前を呼ばれ顔を見上げた彼女の唇を私は強引に奪った。  
「ふっ……ぅ」  
ヘルガーの口を抉じ開け、中に舌を進入させる。  
熱を持った彼女の舌がうねり、私のものと熱く絡み合う。  
唾液の混ざる淫猥な音が耳に届くその都度に恥ずかしさを感じていた。  
今となっても行為自体そんなに好きというわけでない。  
もう逢えないと思っていたヘルガーがこんなにも近くに、私と時間を共有していると思うと嬉しかった。  
興奮しきった私の鼻と口から息が抑えきれずに漏れる。  
彼女の牙を一本ずつ舐め、口の側面、上部を突付く。  
その度に彼女の体がピクリと反応し、震える舌で私を小突く。  
「んっ、むぅ……っ、ふ……」  
後ろ足で体重を支え、背の高い私まで体を懸命に伸ばすことにそろそろ疲れてきたようだ。  
ヘルガーを解放すると、小さく咳き込んだのと共に、彼女の口からどちらのともつかない唾液が零れた。  
私は首をヘルガーの体長に合わせて下げ、口の周りについた唾液を舐め取る。  
「けほっ、はぁっ、はぁ……」  
私からこのように深くするのは初めてだった。  
昔は私を先導してくれたヘルガーの反応や喘ぎが全て愛しい。  
「私はもう縁が切れただなんて思ってないよ?何があってもデルビルのこと嫌いにもならない」  
私はヘルガーに、  
「話さなくちゃいけないことはたくさんあるけど今日だけは、ね?」  
と言い、そして、  
「デルビルがいなくなってから気付いたけど、私もデルビルのこと本当に好きなのかもしれない……」  
私は初めて彼女に告白した。  
 
深呼吸をすれば昔の彼女の匂い。  
それと共に炎で温まった空気が私の体内に染み入る。  
もらいび、私達に共通する特性だ。  
相手のほのおタイプの攻撃を受けた時、その火を自分のものとし自らは更に高く燃え上がる。  
ヘルガーの炎は私に燃え移り、私の炎はヘルガーに飛び火する。  
種類の違う炎は混ざり合い、私達は互いを共有した。  
混ざり合った瞬間には熱さを感じたが、それも過ぎると静かで温かな火となった。  
その後の瞬間は恥ずかしさも相まってあまり覚えていない。  
気が付いた時に私はヘルガーに身を委ね、地面に寝そべり、彼女と肌を重ねていた。  
 
冷たいはずの地面は熱を帯び温かくなっている。  
横たわった私の背中をヘルガーは前足で撫で、舌で腹を舐めた。  
久しぶりの感覚に戸惑い、そして昔のようなデルビルの存在を感じた。  
「ポニータ……」  
ヘルガーに進化したことに対しては違和感などないが、私の中では彼女はいつまでもデルビルであり、彼女も私をそう思っているだろう。  
昔の名を呼ばれる度に実感する。  
現在私をポニータと呼ぶ者など誰もいない。  
デルビルのことばかり考え過ごした今までの人生での私は、ギャロップでなくポニータとして生きてきた。  
ヘルガーの舌が、子供の頃に比べ膨れた乳腺に触れた。  
「んあっ、デルビル……」  
幼い時はくすぐったいだけであったが、体も成熟してか今はそれが小さな快感となる。  
そうだ、これが心地いいということなのか。  
好きだから尚更のことなのかと思っていた時、ヘルガーが乳腺の一つをむしゃぶった。  
「あんっ、あっ」  
ぬめった舌が舐め転がされ、ちゅううぅぅぅと長く伸びる音と共に吸われる。  
我慢も出来ずに思わず嬌声が出る。  
「きゃっ!?ひゃぁん!あっ、ぅうう……」  
目を瞑り体を捩るとヘルガーが私の体を支え、決して離さずに行為を続ける。  
「ちょっ、でるびっ……ああん!そんなにだめだってぇっ!……ふぅっ」  
ヘルガーが不意に弱く歯を当てると、私の体が勝手に反応し、ビクリと背が反り返った。  
目を薄く開けると、ヘルガーと目が合った。  
この様子を見て、体で感じたヘルガーは満足そうに小さく笑い、前足を背中から腹へと移動させた。  
それを私の後ろ脚の付け根へとかけ、私の脚を開かせる形となった。  
 
脚を広げ仰向けとなった私は、急所を全てヘルガーに曝け出していた。  
普段は見せまいと思うこの姿も彼女の前であれば落ち着かないこともない。  
だがとても恥ずかしい。  
ヘルガーが大事な所に前足をかけ、わざとらしく音を出してみせる。  
「もうこんなに濡れてる」  
ぐちゅぐちゅと立つ音が嫌でも耳に響いてくる。  
危険をいち早く察知するために欹てている耳を、なるべく音が聞こえないようにと倒したが、その程度となると安易に耳に入ってしまった。  
「ん、嫌、恥ずかしい……」  
「今更言っても遅いわよ、そっちが誘ってきたんじゃない」  
とヘルガーは楽しげに言い、私のそこに舌で優しく触れる。  
「やあっ!?」  
敏感な核に触れられ私は悶えた。  
昇りかけた気持ちよさが更に欲しくなり、勝手に腰が動いてしまう。  
「はっ、あっ、くぅぅ、ん」  
私の期待に応えるかのようにヘルガーはより強く押し付け、そこを捲るようにねっとりと舌で絡みあげた。  
「ふぅう、デルビルっ、……あぁっ!」  
体の先から貫かれるような感覚がした瞬間、私は早くも絶頂に達した。  
ぎゅっと目を瞑り、何かを求めるように口の開閉を繰り返す。  
「ポニータったら、ちょっと早すぎない?」  
私が達したことにヘルガーは気付き、私を整えるかのようにさすりながら笑って言った。  
「だ、だって、久しぶりなんだからしょうがないでしょっ」  
だがヘルガーはそのことが嬉しく、満足したようだ。  
それと私も暫くはご無沙汰というわけで、最近の私に経験などないという事実もばらすこととなった。  
「ポニータって彼氏とか旦那さんとかいないの?」  
「……い、いないわよ」  
「よかったー、彼なんていたら泣いちゃうとこだったわ」  
「デルビルは?」  
「まさか。私はポニータしか好きになったことがないから」  
私も彼女が処女だということに安堵した。  
彼女にも好きな男性が出来れば喜ぶよりも嫉妬の念を抱くだろうな、と自分に多少の嫌悪感を感じつつも、やはりよかったと思う。  
 
「もうちょっと続けても大丈夫?」  
彼女はそう言いながら、私に体を押し付けてきた。  
「うん」  
「じゃあ……」  
ヘルガーの言葉が途切れたかと思っていると、彼女の口から紅蓮の炎が漏れたのが見えた。  
私の体を支えるように腹を軽く噛み、ずれない程度に固定すると、彼女の口から勢いよく炎が噴出された。  
「っ!?ああぁぁぁ……こ、これは……?」  
「ふぅっ、大人になってから思いついたんだけど、こうしたらもっと熱くなれるでしょ?」  
灼熱の炎は私を取り巻き、あっという間に私達の間を燃え広がる。  
私の全体を這うようにして火は嘗めていき、肌がジリジリと焼かれるかのような錯覚を覚えた。  
もちろん特性もらいびとほのおタイプであるおかげで、火傷をする前に炎を自分のものとしてしまった。  
それでも熱さは変わらず、熱が私を貪りつくすような感覚がする。  
「っ、ポニータもして……」  
ヘルガーに促されるまま、背部に力を集中させると、背中から噴出す炎が更に大きさを増した。  
それがうねりながら他の炎を呑み込み、辺りを火の海へと変化させる。  
轟々と燃える音を聞きながら、互いが抱きしめ合い、勢いが静まるのを待った。  
先ほどまでは急に燃え出した火に驚いたが、今はその焔が体内で燃え、私の中の血を熱く滾らせている。  
血が送り出される度に疼くような熱を感じ、それが敏感に反応していた部分を熱く蘇らせた。  
もっと、早くデルビルが欲しい、と催促すると、彼女は私の上に乗り、後ろ足の側を私の頭へと向けた。  
いわゆるシックスナインというやつだと理解すると、自分でも分かるくらい顔が赤らんだ気がした。  
「私も……お願い……」  
とヘルガーは弱弱しい声で私にねだる。  
下腹部に流れ込む熱さで相当参っているらしい。  
体長差が大きいので、上に乗った彼女ごと体を横たえ、背中を少し丸めた。  
これで互いに届くはずだ。  
 
ヘルガーのそこは熱く、弄ってもいなかったのにもかかわらず潤んでいる。  
私自身も熱に疼いていたが、彼女もヒクヒクと痙攣させ私を迎えようとしていた。  
「あんっ……」  
舐めてみると漏れるヘルガーの声。  
独特なテイストの奥に微かに感じる甘み、液を掬うようにして舐めると、嬌声が更に大きくなった。  
「やっ、んんん!」  
私の方にもどうにかして舌を這わせようとしているが、込み上げる快感のせいで上手く出来ないようだ。  
私自身も大した刺激が与えられていないはずなのだが、先ほどの余韻と熱さのせいで舌が上手く回らない。  
彼女の痙攣が大きくなり私の体にも伝わってくる。  
断続的に弓なりに仰け反る所、核を潰すかのように強く舌を押し付けると、  
「ああん!」  
と大きく仰け反り、喘ぎ声がフロア内に広がった。  
「うっく、はぁっ!あぁぁぁああ……」  
ヘルガーが私の腰にするりと前足を絡めてくる。  
私もきつく抱きしめてもらえるよう、腰を彼女に押し付ける。  
少し動かしただけでも、体の響きが下腹部付近に伝わった。  
彼女も限界に近いと知り、貪るように舌を蠢かせた。  
腰を抱く力が強くなり、快感から逃れるよう体がより大きく反らされた。  
「ふぁああっぁぁぁ、ぁ……」  
声に力がなくなり始めたかと思うと、そこがビクビクと不規則に震え、熱く滾った愛液が止め処なく溢れ出た。  
前足の力も緩くなったのを見るとどうやら達したらしい。  
溢れた液がヘルガーの太腿にゆっくりと伝った。  
口を離し、肩で荒く呼吸をする彼女をくるりと回転させ、私の目をしっかり見させる。  
「デルビルも、随分、早いじゃない?」  
「はぁ、はぁ、……久しぶり、なんだもの」  
外見だけでは大分落ち着いてきた互いの炎だが、体内では衰えることを知らないようだ。  
私の呼吸も乱れていた。  
恥ずかしさからか目を逸らしたヘルガーは、そのまま体を私の下方へずらした。  
結局シックスナインの体位は意味を成さなかったが、どうやら次へと移るようだ。  
 
私のそこに顔を向けるヘルガーを見やると、立派に生えた二本の角が見えた。  
むしろそれに邪魔をされてなかなか彼女の顔が見えなかったが。  
「挿れてもいい?」  
ヘルガーの前足がそこを撫で繰り回す。  
動きの滑らかさからも迎え入れるのに十分と判断した私は、  
「来て……」  
と承諾した。  
そこは挿入し易くするために濡れるのだと大人になってから知った。  
子供の時、交尾を知っていた彼女でもそれは知識外のことで、この行為に至ることは今までなかった。  
私のひづめでは彼女をさすがに傷つけてしまうだろうが、彼女のであれば何とかなりそうではある。  
誰にも許したことのない分、愛している彼女のでも恐怖心は大きかった。  
それでもヘルガー……デルビルにであれば構わない。  
ここでの初めてはオスとのものとは意味合いが違うのかもしれないが、私にとってはこれを初めてとしたい。  
……私は今の状況で言えば性別問わず誰とも交わる気はないのだが。  
 
一旦前足を退けたヘルガーは私のそこに顔を埋めた。  
力が入ったことにより少し強張った舌が私の中にぬるりと進入する。  
「んっ、くぅ……」  
まだ先しか入っていないと思うが、それでも私にとってはきつい。  
指一本通したことのなかったためか息苦しく、なんだか自分の中と言われると変な感覚であった。  
ぐいぐいと押し込まれるようにされているが、果たしてこれより奥まで入っていくのか分からない。  
私は苦しさで重く喘ぎ、迎え入れ易くするよう脚を開くことしか出来なかった。  
結局入りきらなかったか、ヘルガーは舌を一瞬引き抜いたのだが、すぐさま私のそこに齧り付き口から炎を噴射した。  
灼熱の炎が今度は直に私の体内へと入る。  
それも心臓と同じく最も熱くなっていた部分に。  
「デルビル!?デルビルっ!!」  
火柱が膣内を貫き子宮にまで到達、私の最奥に熱の塊が渦巻いた。  
「熱っ……あつひっ、でるびる……はっ、ぁぁん……」  
熱で蕩けさせられた私のそこに、ヘルガーの前足の爪が捩じ込まれた。  
だが決して手荒なマネはしない。  
じわじわと慣らしていくよう優しく内壁を引っ掻く。  
まぁ、決して火傷をしないとは言え、いきなり炎を吹き込まれるのは少し乱暴かもしれない。  
「くっ、はぁ……」  
「苦しくない?」  
「うっぅぅ……」  
ヘルガーの気遣いにも返事を返す暇がない。  
彼女が少しずつ私に侵入を始め、まるで熱せられた鉄が入ったかのように熱い。  
「あぁ、ポニータの中、すごく熱い」  
「はぁっ、はぁっ、は、入ったの……?」  
おそらく殆ど、指先程度しか入っていないだろう。  
ヘルガーは、  
「慌てなくていいわ。これから少しずつ慣らしていけばいいから」  
と優しく言った。  
私達は今日限りのはずだと思ったが。  
――これから……またヘルガーと一緒にいたい、これからもずっと。  
彼女の指先が熱さで溶けた中で蠢く。  
痛くはないが息苦しい今でも、いつかは快感に変わるのだろうか。  
今はそうでなかろうとも、デルビルが私の中に入る、そう考えると不思議と楽な気持ちになった。  
「……もう抜くわよ」  
「待って」  
そろそろ引き抜こうとするヘルガーを制止する。  
「もうちょっと、続けて……?」  
恥ずかしいが少々甘えた声で彼女にねだってみると、彼女も諒解してくれたようで、そのまま引き抜きはしなかった。  
 
私の中に短い爪と指が更に押し込んでくる。  
無理はしないよう、指の腹で内壁を押し広げているようだ。  
「辛かったら言ってね」  
「ん……」  
返事も自分の口から漏れる溜息になってしまい、それがヘルガーを心配にさせないかと思った。  
今度がそれを我慢しようと呼吸もするまいとしていたが、彼女は私を見上げ、  
「もっと声出していいわよ」  
と私を笑った。  
ある程度押し進められた指が中を触れるだけのように引っ掻き、出し入れを始める。  
「ひゃぅぅ」  
擦られた部分が自分の核に僅かに響く。  
私の反応を感じたヘルガーは核の丁度内側部分をぎゅうぎゅうと圧迫した。  
「あっ、んん」  
緩やかなピストン運動が時々私の中の何処かを圧迫して回り、中の一部分を捉えた。  
「っ!!」  
「ここがいいの?」  
「くぅぅん……ひゃぁあ!」  
私の声色を変えた部分をヘルガーは集中的に擦りつける。  
少しだけ奥にあるそこを刺激するため、膣の出口が無理にも広げられる。  
先に達するのか千切れてしまうのか、不安で気が気ではなかったが、  
「ぁっあんっ!」  
触れられる度に快感が不安の霧を払い、脳内を満たしていく。  
 
ヘルガーの動きに連動してそこから愛液が溢れ出る。  
「うわっ……すごい出てきた」  
彼女がそういうと、股に熱いものが伝った感覚。  
それを彼女が舐め取り、くすぐったさに私は身震いした。  
「あっ、あっ、デルビルっん!」  
そのついでかどうか知らないが、ヘルガーは核の部分に舌を小突き、私は同時に攻められた。  
粘膜のみで覆われたそこを這う熱い舌に焼け焦げてしまいそうだ。  
時折彼女の口から僅かな炎が漏れ出し、熱を持って疼きだすのはそう遅くなかった。  
「っひゃん!ひっ、あああぁん……!」  
じくじくと疼く核に気を取られている暇もなく、中をピンポイントに弄られる。  
ヘルガーの焼けつくような吐息が神経を麻痺させ、私を狂わせた。  
そのことにより体内で弾け飛んだ火花が火種をより燃え上がらせ、行き場を失った炎は体外へ放出された。  
思わず噴出したたてがみが一挙に肥大化し、ヘルガーごと包み込む。  
「ふふ」  
苦しそうに笑ったヘルガーは私と同調するかのように口から熱を放ち続ける。  
「ああああー!」  
脚の先から脳髄まで溶かされ、全てが下腹部に注ぎ込まれる。  
ヘルガーから的確に突かれる度に溜まる血と熱によって下腹部が重くなる。  
 
恋しき彼女に身を焦がし、私は浮かされている。  
視界が歪み朦朧とする意識の中ではっきりとしているのは、私の傍にヘルガーがいるということだ。  
熱すぎるが暖かい、直接繋がっている部分は僅かであるが、そこから全身に彼女を感じられる。  
下腹部を流れ全身を駆け巡る血は、心臓を蹴り上げ半ば強引に脳へと流れ込む。  
響く彼女の存在と官能を一瞬で享受する私は、狂おしく彼女が欲しくなる。  
私には強すぎる熱と刺激には逃れたくなるが、体は正直にそれらを求めている。  
「デルビルっ、もっとぉっ!」  
溢れる愛液は蒸発もせずにマグマのように私から流れ落ちた。  
中のぬめりが良くなり、徐々に狭かった所にもゆとりが感じられるようになった。  
ヘルガーの指先が大分滑らかに出し入れを続け、敏感な箇所の刺激も忘れない。  
ごりっと鈍く舌が擦れることで、私の核も最高に硬化していることが分かった。  
閉じていても目の前に瞬く白の閃光、絶頂への合図を示している。  
「あっ、ふぅっ、で、デルビル!デルビル!わたし……わたしぃっ!いっ……あ!!」  
下腹部が痺れ、もどかしい感覚がした直後、私は至高の喜びの念に襲われた。  
意識が真っ白になりながらも、私は確実にヘルガーの中のデルビルを感じていた。  
 
「大丈夫?」  
ヘルガーは指を引き抜くと、そこからはどぷりと液が出た。  
見なくても分かるほど、そして音まで聞こえそうな位大量に。  
顔を覗き込む彼女に私は目で答えた。  
「それにしても……また早かったわね」  
「久しぶりだったから……」  
「さっきもしたばかりでしょ!」  
「だって!あの炎が……!」  
他愛もない言い争いを続け、討論も尽きてしまうと、互いが声を出して笑った。  
本当にいい、この関係は。  
ずっと続けばいいのに。  
そう思っていると、ヘルガーは自身を私のそこに押し付けた。  
「こんなに元気だったら、まだ平気そうね?」  
まさか、まだやると言うのだろうか。  
「ええ!?もう無理よ」  
「だって私はまだ一回しかイってないのよ?」  
「じゃあ私がしてあげ……あぁん!」  
「んんっ、だめー!」  
私ほどではないが、それでも十分に熱いヘルガーの秘部が私に押し当てられる。  
脚が絡み、愛液も絡む。  
彼女が腰を振る度にひどく濡れたそこはいとも簡単に滑り、刺激をし合う。  
激しく振付ける彼女の体に私も押され、私も腰を振ってしまった。  
いや、本当を言えば疲れきった体はまだヘルガーを欲していた。  
自らも思い切って擦りつけた方が、より気持ちよくなるようだ。  
「やぁっ、もう!」  
「あんっ、ポニータぁ!好きぃ!」  
無我夢中で互いを感じ、そして私達は愛し合った。  
 
 
余韻に耽った後、体を引き離すと混ざり合った愛液が伝い、地面を濡らした。  
腰が砕けて動けない私のそこに余った愛液を、ヘルガーが吸い出すと我慢し切れずに吐息が漏れた。  
「デルビル……これからどうするの?」  
「……私は今からポニータに逮捕されて、それで刑務所で過ごさなくちゃ」  
だが私はもう……。  
「私、さっき探検家を辞めたからデルビルを逮捕する義務なんてないのよ」  
「辞めた?」  
「罪は償わなくちゃいけないけど、私は捕まって欲しくない」  
何が正しいか分からない。  
ここで捕まるのが彼女にとっていいことなのかどうなのか。  
もし捕まれば放火という重罪を重ねた彼女は一生帰ってこられないかもしれない。  
そうすれば今度は看守に転職かしら、と少しだけ笑った。  
「ポニータ……私と一緒に逃げよっか?」  
ヘルガーの一言で急に現実が突き刺さった。  
逃げる、私とデルビルの実力があれば逃げ延びるのはそう難くないはずだ。  
そうすればずっと一緒にいられる。  
だが、  
「何てね、ポニータを犯罪者にするわけにはいかないわ」  
ヘルガーが自分で断った。  
「じゃあね、ポニータ」  
ヘルガーはこれで行ってしまう。  
私は返す言葉に詰まったが、唯一これだけは。  
「私、デルビルのことずっと愛してる」  
「私もよ、ポニータ」  
体に纏った炎を消したヘルガーは、暗い闇に溶け込み、フロアには私だけが取り残された。  
私を照らす炎、それも徐々に勢力が衰え、明るさも弱くなっていく。  
意識も段々と遠のいていった。  
 
 
……冷たい、冷たい大粒の雨が私の肌を強く打つ。  
おかしい、ここは洞窟の中であるはずなのに。  
消えかける意識の中、不意に降ってきた雨の正体、それは、  
「ヘルガー!ギャロップ!そこにいるのは分かっている!」  
ああ、フローゼルの声だ。  
ぺたぺたと階段を下りているであろう音とフローゼルの怒号が耳に届いた。  
そうかこれはあまごい、ヘルガーと予想外に出現した敵一匹を潰すための作戦だ。  
丁度よく雨がシャワーとなり、行為で汚れた体と地面を洗い流してくれた。  
これでもう何も心配することはない。  
さぁどうぞ、残念ですが本命のヘルガーはもうここにいません。  
ですが私は抵抗する気も逃げる気もございませんのでどうぞご自由に。  
緊張で取り乱すかと思った心臓はやけに落ち着き、そして私を強い眠気と疲労が襲った。  
こんな状況で眠るだなんて、だがその方が結末までの面倒な過程を見ずに済んで結構かもしれない。  
私の意識はそこで途絶えた。  
 
 
目が覚めた時、私の視界にはフローゼルの険しい顔つきが広がっていた。  
うわっ、と短い叫びをあげると彼は急いで飛び退き、顔を逸らせた。  
「ふっ、ふん!やっと起きたか、ギャロップ!」  
辺りを見回すとジバコイル保安官とドクロッグもいた。  
当の私は藁の上で横たわっていた。  
どうやらここは牢獄の中ではなく、救護室の類であるらしい。  
「大丈夫デスカ?下ノフロアデ倒レテイタンデスヨ」  
欺き裏切った彼らに合わせる顔などなかった。  
だが現実逃避するわけにもいかず、私は彼らと向き合った。  
「全く、何が私に任せてください〜だ!おかげでせっかくの作戦は台無しになるしヘルガーには逃げられるし……」  
「申し訳ございません」  
「そんなんで済むかーーーー!」  
フローゼルの口から叱咤と唾が飛んだ。  
「ったく……、ああこれ、忘れ物だぞ」  
しぶしぶ言ったフローゼルは私の目の前に向かって何やら物を投じた。  
それは私が捨てたトレジャーバッグと探検隊バッジだった。  
だが探検隊バッジは何だかチープな見た目になっている。  
「大人の社会のルールを知らん者は、頭を冷やしてノーマルランクからやりなおすんだな」  
「そぉだよォ、フローゼルさんがわざわざ拾ってきてくれて、バッジの再発行もしてくれてェ」  
「シャラーーップ!」  
フローゼルは顔を真っ赤に染めながらドクロッグに鉄拳を放ったが、軽い足取りで避けられてしまった。  
そんな彼らを余所に、ジバコイル保安官は妙に犯罪者の私に優しかった。  
「怪我ガナイヨウデ何ヨリデシタ」  
「はぁ、ご迷惑をおかけしました」  
私がそう言った所で、フローゼルが急に首を突っ込んできた。  
「そうだぞギャロップ!怪我がなかったから良かったものの、大怪我されちゃオレ達にも連帯責任があるんだからな!」  
「はい……」  
「そぉだよォ、一番心配してたのはフローゼルさんなんだからなァ」  
「そぉいっ!」  
次はフローゼルからローキックが飛び出したが、脚の短い彼ではドクロッグに届きすらしなかった。  
ドクロッグは楽しそうに笑い、フローゼルは怒りで肩を震わせていた。  
どうやら届くはずだと過信していたようだ。  
「ふんっ!行こう、ジバコイル保安官!ヘルガーの情報を集めないと」  
「ハイ」  
仏頂面のまま大股で歩き部屋を出て行くフローゼルをジバコイル保安官は追いかける。  
部屋には私とドクロッグの二匹だけになった。  
 
ククク、と不気味に笑っているドクロッグを前に落ち着かなかったが、彼が口を開いた。  
「アンタは見事におれ達を裏切った。だけど皆まだアンタの力を見込んで信じてるんだぜェ?」  
「信じている?この私を?」  
「ヘルガーに倒されている所を見るとアンタはグルじゃないみてェだし、よほどの事情があったに違いないってなァ」  
甘い、本当に甘い。  
私は彼らを信用などしていないのに、この方々は。  
「フローゼルに感謝しなよォ。アイツが『今回のことはなかったことにしてくれ』って頼み込んでたからなァ」  
「フローゼルさんが?私は彼とお会いしたのは今回が初めてですし、それに彼が一番私に不振を抱いていたじゃないですか」  
「さァ?何ででしょうか〜?」  
ドクロッグは意味深にククク、と笑った。  
後味は悪いが彼のことは私に関係ない。  
危機は免れたのであれば、不本意ながらよしとしよう。  
私は立ち上がり、トレジャーバッグや探検隊バッジを拾わなかった。  
「皆さんには悪いですが、私は探検家を引退したので、これで」  
「まァ、おれは別に構わんがね。ところで、この先どうすんのかなァ?」  
「…………」  
「もしかしてヘルガーを探しにいくとかァ?」  
私は彼に後姿しか見せなかったが、一瞬動揺してしまった。  
振り向くと、な〜んてねェ、と呟くドクロッグ。  
明らかに図星だと感づいているだろう。  
「……失礼します」  
逃げ出すようにして部屋を飛び出すと、ククク、と聞こえたドクロッグの笑い声が耳にこびり付いた。  
私はこうして、社会の居場所を捨てた。  
 
 
これでまた私とヘルガーは離れ離れになってしまった。  
だが私達は互いの炎を共有し、交換した。  
ヘルガーの炎は私のものと混在し、昏い炎となり、私の最期まで尽きることはないだろう。  
一方でヘルガーも私の炎を体内にいつまでも宿している。  
運命だなんて陳腐な言葉は使わない。  
だが、もらいびのように私達はまたいつか惹かれ合い、そして一つとなるはずだ。  
私はそう彼女と何処かで逢えると信じている。  
 
命尽きるまで絶えない焔はいつか私達を導き、そこで再び新たな命となって、私達の中で生き続けていくだろう。  
 
 
その後放火魔ヘルガーは、二度と社会で姿を現し、罪を犯すことはなかった。  
 
 
――end  
 
 
 
 

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