太陽が砂に霞む。青いはずの空も砂に埋もれる。白い雲も砂に紛れる。見渡す限り、どこまでも砂、砂、砂。  
砂塵が絶えることなく舞い上がるこの砂漠で私は生まれた。生きていくだけでも大変なこの環境に私は生まれた。  
群れの皆と共に巣穴に隠れ、そのすり鉢状の、いわゆる蟻地獄に落ちてくる獲物を捕らえて生きていく、はずだった。  
いつかは進化して、皆と一緒に砂漠を飛び回って、皆と笑い合って生きていく、はずだった。  
――なのに。  
 
「また逃がした……っ! あんたのせいよ! どうしてくれんの?!」  
群れの仲間の目線は一斉に私に集中する。もう獲物の姿は砂嵐の奥へと消えて行ってしまった。今日はまだ一匹も捕まえていない。  
私のせいじゃない、私のせいじゃないのに。そうやって誰かしらの救いを求めても、私に救いの手をさしのべてくれる仲間はいない。  
「一体あんたのせいでどれだけ私たちの群れが苦労してるか分かる?! ……ほんと、気持ち悪いのよっ!」  
群れを取り仕切る一匹。ずっと前から私は目の敵にされてきた。だから今更何を言われようとも気にならない。  
私は何も悪くない。ただ、私は運が悪かっただけ。生まれたときからこの運命は決まっていたんだから。  
もう慣れた。ずっとだ。元々友達なんて寄りついてくれなかった私。狩りを始める年齢になってからは誰からも邪魔者扱いされ続けた。  
「……何とか言いなさいよ!!」  
渾身の「すてみタックル」。彼女のいらだちは頂点に達している。何度も何度も、気の済むまで私に身体をぶつけてくる。  
群れの皆も止めようとはしない。もちろん彼女が怖いからという理由もあるかもしれない。けれどそれ以上に、きっと皆も少なからず私に侮蔑の意を抱いているはず。  
いつもならこれで終わっていた。後はもう一度獲物を捕らえるまで私は待機。皆が獲物を食した後のおこぼれを頂いて終わり。  
でも今日は違った。昨日は一匹も獲物が捕れず、今日もそうなりそうだと分かった途端に皆の怒りは爆発した。  
お前のせいだ、お前さえいなければ、あんたがこの群れに生まれてくるから、さっさとどこかに消えて――。  
言葉と暴力の矛先は全部私。失敗したのが私じゃなくても、逃がしたのが私じゃなくても関係ない。彼らにとって私がお荷物なのだから。  
身体を横に倒されて、砂までかけられて、上から叩かれて、あるいは体当たりで吹き飛ばされて、傷つけられて。  
反撃も許されず、群れの皆に攻撃された私は動くことさえ出来なくなっていた。日はまだ天高く昇っている。普段日の当たらないお腹の部分にまで日が当たって熱い。  
砂塵の霞の中へと離れていく群れの皆。オレンジ色は砂の黄土色と見事に混ざって溶ける。そう、こうやって身を隠して獲物を捕らえるのが私たち。いや、「彼ら」たち。  
「今日であんたとはお別れするわ。一匹でやっていく事ね、『汚らわしい色の』ナックラーさん?」  
完全に姿は見えなくなった。砂しかないその場所に、私はひとりぼっち。結局私は最後まで認めてもらえなかった。  
 
――私だって、好きでこんな姿で生まれてきた訳じゃ、ないのに。  
「青い」身体が重くなる。もう動かない。節々が痛い。お腹が空いた。のども渇いた。  
だけどもう、私を助けてくれる仲間はいない。群れから見放された私に、この状況を打破することなんか出来ない。  
ふっと気が遠くなる。砂の舞う音が小さくなる。日の光が届かなくなる。静寂と闇が私の意識をかき消していく。  
――どうして私は、皆と違うの?  
 
砂漠とは違う、堅い地面。ひんやりとした空気。呼気に混じる砂粒も感じられない。身体に吹き付ける砂嵐の感触もない。  
「……起きたか」  
意識が戻ってきたのを確認してから、私は目をゆっくりと開ける。暗い洞窟、だろうか。ごつごつした岩が壁を作っている。  
周囲を見渡せば、そこが一匹のポケモンの住処であろう事が判明した。綺麗に整頓された木の実、人間達が捨てたであろう透明な容器とそこに入れられた水。  
「とりあえずこれでも食っておけ。身体が楽になる」  
そういって目の前に差し出されたのは黄色い木の実。群れの皆が食べていたのを見たことがある。確かオボンの実、だったような。  
そして差し出したそのポケモンは、尻尾に赤い炎を灯している。頭部の出っ張りがあるこのポケモンはリザード、と言う……はずだ。  
昔母親に連れて行ってもらった砂漠の外。ヒトカゲとリザード、そしてリザードンの群れを遠くから眺めた記憶がある。  
そんな昔の出来事を無理矢理頭から引っ張り出してみるが、どうも何か違和感が残る。一体何だったか。  
「あ、あの、え……と」  
「安心しろ、毒なんて入れてない」  
「あ、は、はい」  
ともかく、私に好意的に接してくれているみたいだから、それに甘えることにした。目の前の木の実を一口かじる。  
甘酸っぱいけれども、どこかに渋みと苦みが残る味。しかしこれが意外とおいしい。二口、三口。気がつけばもう木の実はなくなっていた。  
暫く私を黙ってにらんでいたそのリザードは、なにやら透明な容器を持って私から離れていこうとしていた。  
「あの、私は……?」  
「どうせ群れに追い出されたのだろう? ここに住むと良い。幸い他には誰も住んでいないし、この洞窟は広い。好きなところに寝床でも作っておけ」  
そういって足早に離れようとする彼を私は引き留める。いきなりそんなことを言われても何が何だかさっぱりだ。  
第一どうして私が群れを追い出されたと知っているのだろうか。まず此処はどこなのか、どうして此処に連れてこられたのか。  
「待って下さい、その、此処はどこなんですか?」  
「砂漠の一角、複雑に隆起した岩が作ってくれた自然の洞窟だ。入り口をほとんど塞いであるから、誰にも気づかれていないがな」  
まさか砂漠の中にこんな立派な洞窟があったなんて、全然気づかなかった。いくら砂漠が広いとはいえ、隅から隅まで回ったつもりだったのに。  
岩の出っ張りこそ多々あったが、その中にこんな立派な洞窟を構えたものがあったとは驚きだ。  
「……どうして私を助けてくれたんですか?」  
素朴な疑問だった。砂漠では生きていくのも大変だ。まして砂漠に適応していないようなポケモンが生き抜いていくのは並大抵の苦労ではないはず。  
それでも彼は私を此処まで連れてきてくれた。それがどうも私には信じられなかったのだ。  
まさかこの固い身体を持つ私を食べることは難しいだろうし、相性的にも私は炎に有利だ。まかり間違っても私を標的にはしないだろう。  
「俺と同じだったから連れてきた、それだけのことだ」  
「……同じ? それって……」  
「水を汲んでくる。好きにしてろ」  
私の質問にもそれ以上は応じてくれず、彼は明かりの漏れる方へと去っていった。私は独り取り残される。  
 
同じ。彼も群れを追い出されたのだろうか、いや、それとも――。  
違和感の原因。彼が同じといった理由。幼少時の記憶。全てが繋がるにはこれしかない。  
――私は初めて「仲間」に出逢えた気がした。  
 
「リザードさん、ありがとうございました」  
両手に水の入った容器を抱えて帰ってきた彼に、私は感謝の意を伝えた。彼は少し面倒そうな顔をしつつ私から目を逸らす。  
「……礼なんて要らない。お前が『その』生まれじゃなかったら助けてない」  
彼は洞窟の奥へその容器をドサリと置くと、はぁ、とため息を一つついてから地面に座った。  
そんな彼に何とか恩返しがしたい。その一心で私はまたその目線の先へぐるっと回って彼と話を続ける。  
「でも、貴方が私の命を救ってくれたのは事実ですから。出来ることがあったら何でもお手伝いさせて下さい」  
「別にそんなのを求めてるわけじゃない」  
彼はとことんまで私に無愛想を貫き通すつもりらしい。それでも私はめげない。これ以上足手まといでいることが、どうにも耐え難かったのだ。  
「じゃあ、勝手について行きます」  
「……好きにしろ」  
 
彼との生活は大変だった。まず毎日の水汲み。これだけでも大変な重労働だった。それというのもオアシスが遠いのだ。普通に往復するだけでも数十分はかかる。  
容器4,5個をまとめて運ぶ彼は本当に大変だと思う。爪のついた手で器用に容器のふたを開け水を汲む。それを数回繰り返して今度は住処に戻る。  
帰りはもっと大変だ。数個を抱えるだけでも大変なのに、これに水が入るのだから考えるだけでも重たそうだ。  
私が手伝えるのは口にくわえた一個だけ。それもふたの開け閉めはやってもらわないと到底出来ない。  
寧ろ足手まといになっている気がしたが、それでもやれるだけのことはやろうと精一杯努める。  
 
次に木の実の採集。水汲みと同時に木の実を物色して、いい木の実がなっていたらそれを取りにまた歩いてオアシスへ。  
これも私には運ぶ手段がなくて大変だった。どうしようかと考えていたら、彼が口で運んでもいい、と一言言ってくれた。  
結局それ以来私は口の中に木の実を沢山詰め込んで運んでいる。唾液でべとべとになった木の実を、彼は嫌な顔一つせず整理していた。  
 
彼と共に暮らし始めて暫くして、その変化は突然に訪れた。その日の水汲みと木の実の採集を終えて、洞窟に戻ってきた時だった。  
「あ、な、なにこれ……」  
身体が輝く。身体の中から沸々と何かエネルギーがわき上がる。身体が張り裂けそうなほど、そのエネルギーが身体で暴れる。  
痛みはない。ただ不思議な感覚。まるで水の中で浮かんでいるような感覚とでも言えばいいのか。  
「……進化、だな」  
一層光が強くなる。自分自身も眩しくて目が見えなくなる。そうして身体の中の力がはじけ飛んだ。  
「……あった、金属の板の破片だ。自分の姿、分かるだろう?」  
見たことがある。群れの中から巣立っていった仲間の姿と同じ。四枚のはねが背中には生えて、長い尻尾も生えている。目の周りにはカバーがあって、足は虫ポケモンのような形。  
けれども決定的に違うのはその色。仲間達の緑色とは違う、夕焼け色に染まった羽とカバー。  
「よかったな、お前もこれからは『ビブラーバ』、か」  
「私にだって、お母さんが付けてくれた名前もあるんですよ? ……呼ばれたことはないですけど」  
「……そういえば、名前を聞いてなかったな。俺の名前はドラク。お前は?」  
「ゼルア、です。……改めてよろしくお願いしますね、ドラク」  
「……ああ、よろしくな」  
 
その夜、寝床で私は物思いに耽っていた。彼とこうして生活を共にしてきてから、私は段々と彼のことを考えることが多くなっていた。  
今日は彼が「よろしく」と言ってくれた。最初、私が勝手について行こうとしたときとは態度がずいぶんと違う。  
「ドラクも私のこと……少しは認めてくれてるのかな」  
ドラク。今までずっと聞けなかった彼の名前。何度も聞こうとしたけれど、どうも言い出せなくて聞けずじまいだった。  
それを今日は自然な流れで聞くことが出来た。彼との距離が縮まっていく気がして嬉しかった。  
ドラクを見ていると、私は何か変な気持ちになる。好きだとか愛しているだとかいう感情じゃない、最初はそう思っていた。  
きっと彼に対する感謝の気持ち、恩が膨れあがっているだけなんだと思っていたけれど、今はそうじゃない。  
好きだ。彼のことを考えるだけで胸が一杯になる。かっこよくて、強くて、物知りで、無愛想にみえて優しくて――。  
進化した時、ふっと頭に浮かんだこれは本能からくるものだろうか。分からないけれどとにかく、もう我慢が出来ない。  
熱い。身体が熱い。抑えきれないこの欲望を吐きだしてしまいたい。  
 
少し出っ張った丸い岩。この高さならちょうど良い。  
「よし……っと」  
私の寝床はドラクの寝床とはだいぶ離れている。最初にどこにするか聞かれたとき、何だか怖くて離れた場所にしたのを今でも思い出す。  
好きになってからはそのことをだいぶ後悔していたが、今この時点ではやっぱり正解だったかも知れないと思い直す。  
初めての経験。本能に任せて、とにかく私はやってみることにした。  
「あっ……ん……」  
冷たい岩の感触が秘部に走る。彼の事を考えるだけで、すでに秘所は湿り気を帯びていた。くちゅ、と淫猥な水音が寝床に響く。  
「はっ…………あぁ……」  
そのまま身体を前後に揺すれば、岩のざらざらした感触が秘部をこねくり回して刺激を起こす。よく分からないが、どうやら気持ちいい。  
やめられなくなるようなこの不思議な刺激に酔いしれながら、一心不乱に身体を揺する。頭の中にはドラクの姿。それもいつもの姿ではなくて――。  
「あ……やぁっ…………ど……らくっ……」  
段々と滑りがよくなってきた。ますます動きを早めていく。その快感におぼれながら、私はドラクの名を呼び続ける。  
「だめっ……だめだよっ…………なんかっ……でちゃう…………!」  
秘所にあった謎の出っ張りに岩が擦れる。その瞬間、限界を超えた刺激が身体に走る。  
「どらくっ……やぁぁぁっっ!!!」  
ぷしゅ、と盛大に液体をまき散らして私は快感のピークを迎えた。どばっと押し寄せる疲労。心の隅に残る罪悪感。  
頭の中とはいえ、勝手にドラクを汚してしまった気がした。だけどそれ以上に、初めての快感で頭はほとんど一杯だった。  
「好きだよ…………ドラク……」  
眠気が私を襲う。未だ液体が垂れている秘所も、濡れた岩もどうでも良かった。  
私はそのまま寝床の隅、洞窟内の砂をかき集めて作ったちょっとした柔らかい地面に寝そべって、夢の中へと旅立つことにした。  
 

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