ジョウト地方の冬は遅い。  
 十二月に入っても雪一つ降っていないことに、僕は少し寂しさをおぼえた。  
 僕が半年前まで暮らしていたシンオウ地方では、これくらいの季節になるともう雪が降  
り積もり、普段は人前に姿をみせないユキカブリやユキメノコなんかが現れだして、『あ  
あ、もう冬なんだなあ』って思うような季節なのに。  
 船で数時間程度の距離しか離れていないジョウト地方では、まだ雪の訪れを告げる雪虫  
の姿もみない。  
「……はぁ」  
 僕はさんさんと照りつける太陽を反射する池の水面を見ながら、思わずため息をついて  
しまっていた。  
 すると、僕の隣に控えていたリオルのリオンが心配そうに僕のことを見上げていた。  
 その視線に気づくと、僕はなんでもないというように笑みを浮かべ。  
「リオン、どうしたんだい?」  
 そう問いかけた。  
 すると、リオンは小さく鳴き、抱きついてきた。  
「わっ、ちょっと、どうしたのさ……もうっ」  
 産まれてから一年しか経っていないリオンは、まだ人間でいえば子供と同じだ。  
 それにレベルも、殆ど戦わせていないから産まれたときから殆ど変わっていない。  
 僕にとってリオンは友達で、友達のリオンを戦わせたくなんかなかったし、リオンも戦  
うことは望んでいない。  
 だから僕たちは戦わない。  
 リオルはとてもなついた状態でレベルが上がると、ルカリオというポケモンに進化する  
そうだけど。僕のリオンは、きっとずっとリオルのままだろう。  
 それが幸せかどうかは分からないけれど、きっとリオンも僕と同じ考えのはずだ。  
「……甘いな」  
「えっ」  
 最初、その声がどこから聞こえてきたのか分からなかった。  
 僕たちのそばには先ほどまで誰もいなかったというのに、その声は僕たちの間近から聞  
こえてきた。  
「リョウ、とかいったな」  
「え、ええと、どこにいるんですか?」  
 左右前後、どこを見ても、その声の主らしき人影は見えない。  
 すると、リオンが僕の腕を引っ張り、上を指差した。  
 上?  
 ――そうか、空!  
「正解だ」  
 空を見上げると、ハクリューが飛んでいた。  
 その上に人影を見つけた。  
 その人影は悠然とマントを風になびかせながら、ハクリューの上から飛び降りた。  
「わっ、危ない」  
 僕の危惧を他所に、その人はこともなげに着地してみせた。  
 その人の顔を見て、僕は気づいた。  
「……あ」  
 僕の目の前に現れた人はとても有名な人だった。  
 それはポケモンを戦わせるようなトレーナーではなくても、この町に住んでいる人間な  
らば誰しもが知っている人だ。  
「あなたは、もしかして……」  
 フスベシティのジムリーダー  
「イブキさん……?」  
「知っていたか、ならば名乗る手間も省けるというものだ」  
 そういうとイブキさんはハクリューをモンスターボールに戻した。  
「だが、まあ、お前と会うのはこれが初めてだからな」  
 イブキさんはこほんと咳をした。  
「私はイブキ。竜使いであり、フスベシティのジムリーダー。そしていずれワタルを超え  
るものだ」  
「え、あ、わたる?」  
 その名前は聞いたことがなかった。  
 どこかで聞いたような記憶もあるのだが、いまいちポケモントレーナーの世界のことは  
分からない。  
 僕がぽかんとしていると。  
 
「ん? お前、ワタルを知らないのか?」  
「え、あ、……はい」  
「く……ぷっ……ははッ……ハハハハハハハ」  
 なにがおかしかったのか、イブキさんはいきなり笑い始めた。  
 それも余程おかしいらしく、お腹を押さえ、目元に涙を浮かべの大爆笑だ。  
 そんなにおかしいことを言ってしまったんだろうかと不安になっていると、イブキさん  
は満足したのか、それでも笑顔を崩さずに言った。  
「いや、気にするな。ワタルという男のことなど気にしないでいい。私が竜使いでトップ  
だ、そう覚えておけ」  
「え、はい」  
「ところで、お前は見慣れないポケモンを連れているな。なんというんだ?」  
 リオンは僕に抱きついたまま離れようとしない。  
 いきなり現れた見知らぬ人に戸惑っているのだろう。  
「ええと、この子はリオルっていう種族のポケモンです」  
「ふむん? 先ほどは少し違う名で呼んでいなかったか?」  
「え、ああ、それはニックネームです。リオルからリオをとってリオン――って、いつか  
ら覗き見してたんですか?」  
「うん? それはお前がこの湖の前に現れてからずっとだ」  
「ええっ!!」  
 僕がこの湖に来たのは一時間ほど前だ、ということはそれからずっと覗かれていたとい  
うことか。  
「どうしてそんなことを」  
「なに理由は単純だ」  
 イブキさんはにやりと笑って言った。  
「この湖の向こうには竜使いが修行に使う竜の穴という場所があるのは知っているか?」  
 僕は頷いた。  
 そのことはこの町に引っ越してくるときに、父さんから聞かされていたからだ。  
「そう、竜使いが修行に使う場だ。故に、竜使いとなりたいものは、この地を訪れる。お  
前もそうしたものの一人かと思っていたが――違うようだな」  
 僕は再び頷いた。  
 イブキさんは笑みを浮かべたまま、僕とリオンの頭の上に手を置いて、撫ではじめた。  
「そうか」  
「あ、あのちょっと」  
「くすぐったいか?」  
 言いながらもイブキさんは手を止めず、僕の髪を撫でている。  
「……すこし」  
 リオンは気持ちよさそうに目をうっとりとしていたが、ポケモンじゃない人間の男の子  
である僕としては、綺麗な女の人にいきなり頭を撫でられたら、気恥ずかしい。  
「すまなかったな」  
 イブキさんはそういうと、僕たちから手を離してくれた。  
「そうだ、シンオウから来たのだろう? あちらの地方の話を聞かせてくれないか」  
 僕は、イブキさんに求められるがまま、色々な話をした。  
 シンオウ地方の話。そこに暮らす人、ポケモン。そこにある文化とか、そういうことを、  
気づいたら日が沈んでいて、僕はイブキさんに家まで送ってもらった。  
 母さんとイブキさんはどこかで会ったことがあるのか、親しげに話していた。  
   
   
***  
   
   
 僕は学校が終わると真っ直ぐ竜の穴がある湖へと向かった。  
 初めて出会ってから一週間、僕は毎日イブキさんに会いに行っていた。  
 フスベシティに来てから友達ができなくて、いつもリオンと二人きりだったけれど。イ  
ブキさんと出会ってからは、イブキさんとそのポケモンたちが僕たちと遊んでくれるよう  
になった。  
 気のせいかもしれないけど、ジョウトに来てから沈みがちだったリオンが、前より明る  
くなったような気がする。  
 イブキさんがいつもトレーニングしている場所につくと、イブキさんのマントや鞄が置  
かれていて、それを守るようにハクリューが湖に浮かんでいた。  
「やあ、ハクリュー。イブキさんはどこだい?」  
 
 ハクリューは頭を振った。  
 知らないんだろうか?  
 でも、大切なマントを置いてどこかへいくとは思えないから、きっと傍にいいるはず。  
「イブキさーん」  
 大きな声で呼びかけてみると、岩陰のほうから返事があった。  
「む、リョウか?」  
「はい」  
「ま、待て。五分ほどそこで待っていろ」  
 イブキさんがいるほうへ行こうとすると、ハクリューが僕の服の裾を咥えてとめた。  
「どうしたのハクリュー。遊んでほしいの? あとで遊んであげるからね」  
 そういってハクリューの鼻を撫でであげると、ハクリューはおとなしく放してくれた。  
 僕はイブキさんを驚かせようと思って、忍び足で岩陰のほうへと向かった。  
 どうやら細いが滝が流れているらしく、水音が聞こえてくる。  
「そうか、もう学校が終わる時間だったか」  
 イブキさんの声が聞こえてきた。  
 僕は声で驚かせようか、抱きついて驚かせようか迷い、抱きつくことにした。声だとポ  
ケモンたちまで驚いちゃいそうだし。  
 そう決めて岩陰から飛び出し、抱きつこうとして、僕の動きは止まった。  
「へ」  
 そこにはイブキさんが立っていた。  
 それは間違いない。  
 流れるような青い髪、白い肌、健康的な肢体。  
 だけど、そこに立っていたイブキさんはいつもと違っていた。  
 その違いは明確だった。  
 いつものイブキさんは服を着ていて。  
 今目の前にいるイブキさんは、きていない。  
「えっ」  
 背中を向けていたイブキさんが、体ごと振り返った。  
 白い肌、おおきくてやわらかそうな胸、くびれた腰、その更に下へ目をやろうとした  
瞬間――  
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」  
 イブキさんは甲高い悲鳴をあげて、その場にうずくまってしまった。  
「え、あ、い、イブキさん」  
 僕はなんとか言い訳しようとしたのだけれど、頭が真っ白でなにも考えが浮かんでこな  
い。  
 どうしよう、どうしたらいいんだろう。  
 そう思いながらも、僕の目はどうしてもイブキさんの艶かしい肉体を見てしまう。  
 見たら駄目だと分かりながらも、どうしても目が追ってしまう。  
「そ、その違うんです、ぼくは、そのっ」  
 もごもごと口を動かしていると、イブキさんは真っ赤に染まった顔で僕を睨みつけて言った。  
「いいから、あっちへいって!!」  
「は、はいっ!」  
 僕は言われたとおりにした。  
   
「まったく」  
 三十分程して、ようやく岩陰から出てきたイブキさんは、僕の頭を一発殴りつけると。  
「ハクリューに止められたでしょ」  
「……はい。すいません」  
「反省しなさいよ」  
「……はい、反省します」  
 顔を紅潮させたイブキさんの言葉を聞きながらも、先ほどみたイブキさんの裸が忘れら  
れそうになかった。  
 すごく綺麗だった。  
 湖の上に浮かぶハクリューみたいに綺麗だった。  
「……」  
「リョウ?」  
「はい」  
「さっき見たの、忘れなかったら……」  
 なかなか先を言わないので見上げると。  
「忘れなかったら?」  
 
 頬を引きつらせて笑うイブキさんは言った。  
「ハイドロポンプ食らわせるわよ?」  
「わ、わわわ、忘れます! 記憶から完全に消去します!!」  
 本気だ。  
 もし、僕が覚えていることが分かったら、本気で僕を撃つ。  
 イブキさんの目はそう言っていた。  
「なら、よし。約束よ?」  
「はい」  
 答えると、イブキさんはいつものように笑ってみせてくれた。でも、どこか少し恥ずか  
しそうではあったけれど。  
「さて、今日はなにをして遊ぶ?」  
   
***  
   
 学校が終わり、いつものようにイブキさんのところへ行こうとしたら。  
「おい、転校生」  
 クラスメイトに呼び止められた。  
「僕?」  
「お前以外に誰がいんだよ」  
 小太りのクラスメイトはそういった。  
 それがおかしいのか、何人かがくすくす笑った。  
「……それで、なに?」  
「なにじゃねーよ」  
「お前、イブキさんと仲がいいんだって?」  
 転校してきて半年、まだ学校に馴染めていない僕は、クラスメイトたちとも雑談したこ  
とがない。  
 だから、イブキさんとのことを話したこともない。  
 どこから聞いたんだろう。  
 だけれど、僕がイブキさんと友達なのは事実だ。  
「そうだけど」  
「『そうだけど』じゃねーよ」  
 クラスメイトの一人が僕の肩を突き飛ばした。  
 床に尻餅をついた僕の腰から、リオンのはいったモンスターボールが落ちて転がっていった。  
 それを、誰かが出したゴーリキーが掴んだ。  
「なまいきなんだよ」  
 誰かが言った。  
「え?」  
「『え?』じゃねえ!」  
「グッ!?」  
 クラスメイトの一人が、僕のお腹に思い切り蹴りを入れた。  
 給食が逆流してきそうだった。  
「お前、勘違いしてんじゃねーよ」  
 前髪を掴まれ、頬を叩かれた。  
「イブキさんがお前と仲良くしてたのはなあ、お前の母ちゃんが、お前が友達一人もいね  
ーから。イブキさんに頼み込んだからなんだよ」  
「……え?」  
「ギャハハハハ、やっぱ知らなかったぜ、こいつ」  
 教室中に笑い声が響いた。  
「な、言ったろ、こいつ馬鹿だって」  
「勘違いしすぎ。イブキさんが、お前なんかの相手すると思うなよ」  
「だいたい、こんな変なポケモン使ってる奴が、竜使いに認められると思うなよ」  
「いっつも黙っててきもいんだよ、お前」  
 僕は、言葉と暴力の渦の中で、考えていた。  
 イブキさんのことを。  
 イブキさんが仲良くしてくれたのは、僕の母さんが言ったから?  
 僕が一人だったから同情したの?  
「お、このちっこいの戦う気みたいだぜ?」  
「ええと、レベルは……二だってよ」  
 リオンが僕の前に立っていた。  
「やめて」  
 
 だけど、リオンは聞かず、クラスメイトたちが呼び出したポケモンたち相手に、一人で  
戦おうとしている。  
 リオルは戦わせていないから、勝てるわけがない。  
 なのに、クラスメイトのポケモンたちは容赦なくリオンを攻撃する。  
 リオンも、直ぐに僕の隣にうずくまっていた。  
 なおも攻撃を加えようとするポケモンたち、僕は我慢できずリオンの上に覆いかぶさっ  
ていた。  
「ギャハハハハ、ポケモンがトレーナーに守られてるぜ」  
「なら、転校生が最初から戦ったらよかったろ」  
 僕とリオンはひたすらに耐え続けた。  
 クラスメイトたちが飽きるまで――。  
   
 家に帰ると、僕は自分の部屋へ真っ直ぐに行き、鍵をかけて閉じこもった。  
 母さんや父さんが何度か呼びかけてきたけど、僕は全部聞こえないふりをした。  
   
***  
   
 そんなことがあってから一週間が経った。  
 僕は学校へも行かず、何もせず、部屋に閉じこもっていた。  
 リオンはモンスターボールから出てこようとせず、話しかけても、動いてもくれなかった。  
「リョウくん、起きてる?」  
 扉の向こうから、母さんが声をかけてきた。  
「なに?」  
 あの後母さんに聞いたら、母さんは本当に、イブキさんに僕と仲良くするよう頼んでい  
たらしい。  
 母さんとイブキさんは遠い親戚にあたるのだそうだ。  
 それを聞いて、僕は誰も信じられなくなった。  
 なんでそんなこと頼むんだよ。  
 そういって母さんに物を投げつけた記憶があるが、よく覚えていない。  
「イブキさんがね、リョウくんと会いたいそうよ」  
「……うそでしょ」  
「ううん、本当よ」  
「……どうせ、母さんがそうお願いしたんでしょ」  
「違うわ、本当に、イブキさんが言ってきたの。リョウくんと遊べなくて寂しいって、最  
近来てくれないけど、どうしたんだろうって」  
 僕は、イブキさんの笑顔を思い出した。  
 ポケモンたちと共にいるときの厳しいけど優しい笑顔。  
 僕に話しかけてくれるときの楽しそうな顔。  
 でも、  
「…………うそだよ」  
 僕はそういって布団の中にこもった。  
   
   
 その夜のこと、寝ていた僕は物音で起こされた。  
 窓ガラスを叩く音。  
「なんだろう?」  
 そう思って体を起こし、窓のほうをみると、窓の向こうにイブキさんのハクリューがいた。  
「あれ? ハクリューどうしたんだ?」  
 そう思ったのも束の間。  
 ハクリューは窓ガラスを突き破って部屋の中に進入した。  
「えええっ、ちょ、どうしたんだよ、ハクリュー」  
 ハクリューは僕の胴を咥えると、掴みあげた。  
「わっ、え、ちょっと待った、待って」  
 僕は枕元においたリオンの入ったモンスターボールをなんとか掴んだ。  
 ハクリューは飛び込んできた時と同じように、勢いよく窓の外に飛び出した。  
「ハクリュー、どこへ連れてく気だい?」  
 だが人ならざるハクリューが、僕が理解できる言葉で話してくれるということはなく。  
 僕はハクリューに連れて行かれるまま、空を飛んだ。  
 空の上からフスベシティを見下ろして、僕はなんとなくだがハクリューがどこへ行こう  
としているのか気づいた。  
 
 湖が炎上していた。  
「まさか、あそこにイブキさんがいるの?」  
 僕の言葉に、ハクリューは速度を一段速めることで答えた。  
   
   
***  
   
   
 湖の手前でハクリューは僕を地面に降ろした。  
 僕はイブキさんはどこだろうと周囲を見回したが、探すまでもなかった。  
「キングドラ! ハイドロポンプ!!」  
 炎上した湖の上でイブキさんは戦っていた。  
 もう一体のハクリューの上に立って、パートナーであるキングドラに指示をだしていた。  
「イブキさんっ」  
 僕が声をかけてもイブキさんはこちらに気づかない。  
 イブキさんは眼前にいる敵を睨み据えて厳しい表情を浮かべている。  
 いつもはおっているマントはなく、衣服は所々焼け焦げているようだった。  
「相手は、イブキさんはなにと戦っているんだ?」  
 僕はハクリューの上に乗ると、飛ぶようにお願いした。  
 湖の上空から見ると、イブキさんの相手が誰かは直ぐ判った。  
 湖の上にはリザードンがいた。  
 それも通常の赤い体色ではなく、真っ黒な体色の異常に体の大きいリザードンだった。  
 リザードンはキングドラのハイドロポンプを受けても平気そうな顔で、大きく息を吸い  
こむと巨大な火の渦をイブキさんたちへと放った。  
「イブキさん!」  
 炎の渦に飲み込まれたかにみえたイブキさんたちは、間一髪で避けていたようだったが、  
ハクリューが避け切れなかったのか、地面へと落下した。  
「ハクリュー、イブキさんのところへ」  
 僕がそう命じるとハクリューは従ってくれた。  
 炎上する湖の傍で、イブキさんたちは横たわっていた。  
 キングドラはまだ戦えるようだったが、ハクリューは一刻も早くポケモンセンターへ連  
れて行かないとならないだろう。  
 そして、なにより、イブキさんの容態はというと。  
「イブキさん!!」  
 呼びかけると、イブキさんは微かにうめき声を漏らし、目を開いた。  
「……リョウ、か?」  
「はい、そうです、イブキさん」  
 地面に横たわっていたイブキさんは、体を強引に起こそうとして、再び倒れてしまった。  
「イブキさん、無茶したらだめですよ」  
 僕はイブキさんの隣に膝をついた。  
 だが、イブキさんは聞こえていないという風に、再び強引に体を起こそうとする。  
 見ていられず、それを助けるためにイブキさんの体を支えると、イブキさんの体の軽さ  
に気がついた。  
 最強のジムリーダーを自負するイブキさん。  
 でも、まだ僕とそう歳の離れていない女の子なんだ。  
「無茶? ふっ、これしき。あの男ならば……くっ」  
 どこかに傷を負っているのか、イブキさんは苦しげにうめき声をあげる。  
 これ以上、イブキさんに戦わせていたら、死んでしまうかもしれない。  
 嫌な考えが浮かんでしまう。  
 僕は傷ついたハクリューをボールの中に戻し、僕を運んだハクリューにイブキさんを運  
ばせようとしたが。  
 イブキさんは僕の手を振り解き、立ち上がった。  
「私は、ジムリーダーなんだ」  
「イブキさん、やめてください」  
「ジムリーダーは、その町を守らなければならない……いや、違うな。私は、守りたいん  
だ、この町を。だから、止めるな」  
 イブキさんはそういうと、焼け焦げた衣服を破り捨て上半身をあらわにした。  
「……イブキさん」  
「征くぞ! キングドラ!」  
 イブキさんの声に、キングドラは一際猛々しく吼えた。  
 
「ハクリュー! ギャラドス! 準備はできているな!!」  
 僕を運んだハクリューが吼えた。  
 ボールの中から傷ついたハクリューが勝手に飛び出し、イブキさんの隣へと。  
 湖の中から咆哮をあげギャラドスが飛び出した。しかし、その体にはいくつも傷がつき、  
鱗は焼けただれ、満身創痍の体だった。  
 いや。  
 イブキさんたち全員が、そうなんだ。  
 僕を運んだハクリューも、体のあちこちに傷を負っているようだった。  
「……なんで、」  
「ギャラドス、奴を縛り上げろ! キングドラ、いつでもハイドロポンプを撃てるように  
準備を整えておけ!」  
 炎上する湖の中、イブキさんの咆哮が木霊する。  
 僕はそれを聞きながら、どうすることもできず立ち尽くしていることしかできない。  
「なんで、そんなに戦えるんだよ……そんな、傷ついてまで」  
 僕は、ここにいてもしょうがない。  
 なにもできない。  
 僕は戦えない。  
 なんでハクリューは僕を連れてきたんだろう。  
 僕は、湖に背を向けると、立ち去ろうとした。  
 その時だった。  
 僕の手から、モンスターボールが落ちた。  
 中からリオンが現れた。  
「……リオン?」  
 リオンは湖を見ながら、立ち尽くしている。  
「リオン、危ないよ、こんな所にいたら。ほら帰ろう」  
 だが、リオンは言うことを聞かない  
「なんだよ、どうしたんだよ、おい、リオンったら」  
 リオンは低いうなり声をあげながら、湖を見つめている。  
 リオンも戦いたいのだろうか?  
 イブキさんのように。  
「駄目だよリオン、強いイブキさんたちが戦ってああなんだ、僕らじゃどうしようもな…  
…あれ?」  
 リオンはイブキさんたちと黒いリザードンの戦いを見ているわけではないようだった。  
 リオンが見ているのはその先、炎上する湖の向こうのようだった。  
 目を凝らし、見てみると、そこには僕と同じくらいの子供たちが。あれは、僕のクラス  
メイトたちのようだった。  
「あいつら、なんであんなところに……」  
 リオンは僕の目を真っ直ぐに見据えた。  
「え?」  
 リオンは人間の言葉を喋れない。  
 でも、僕はリオンが何が言いたいのか、なにをしたいのか、その瞳をみるだけで理解で  
きてしまった。  
「……嘘だろ? だって、あいつら」  
 ギャラドスがリザードンに巻きつき、締め上げたのが見えた。  
「お前に、僕らに、ひどいこと……」  
「ハクリュー、破壊光線! キングドラ、ハイドロポンプ!!」  
 ギャラドスが拘束した黒いリザードンに高威力の技が次々に打ち込まれていく。  
 しかし、リザードンは倒れず、ギャラドスを振りほどくと、破壊光線の反動で動けない  
ハクリューたちを湖へ叩き落していった。  
 イブキさんでも、いつまであのリザードン相手に持ちこたえられるか。  
 時間は残り少ないように思われた。  
 湖の向こうに取り残されたクラスメイトたち。  
 彼らは放っておけば、黒いリザードンによって殺されるだろう。そうでなくても、いつ  
かは炎を浴びて死んでしまう。  
 僕は、強くない。  
 リオンもイブキさんのポケモンたちのように強くはない。  
 それでも、僕は。  
「行こう、リオン」  
 何もせず、じっとしていることなんてできなかった。  
「あの子たちを助けるんだ!」  
 
 リオンは大きく頷いた。  
「その意気だ、少年」  
「え」  
 気づくと、僕の傍に一人の男の人が立っていた。  
「久々に故郷に帰ってきてみるとこの有様だ。全く、イブキの奴も修行が足りないな」  
「あの、あなたは」  
 その人はイブキさんとどこか似ていた。  
 炎のように真っ赤な髪を逆立て、漆黒のマントを羽織った男は、口元に笑みを浮かべると。  
「ただのポケモントレーナーさ」  
 そう答えた。  
「それよりきみ、向こうにいる彼らを助ける気のようだけれど。水の上をいけるポケモン  
はいるのかい?」  
「あ」  
 僕の手持ちはリオン一体だけだ。  
 波乗りも空を飛ぶこともできない。  
「なら、こいつを使え」  
 そういって僕の手にボールを握らせた。  
「そいつはギャラドスって言ってとても凶悪なポケモンだが、案外付き合ってみるといい  
やつだ。おっと、そうだ、ボールを開く前に」  
 そういうと、その人はイブキさんが脱ぎ捨てていった服を探り、何かを取り出すと、そ  
れを僕へと投げた。  
 それはバッジだった。  
「これは?」   
「それはライジングバッジ。他人のポケモンでも命令できるようになる優れものだ、それ  
をつけていたら、俺のギャラドスもきみの言うこと聞くようになる」  
「あ、はい」  
 僕は渡されたバッジをつけると、ギャラドスをボールからだし、その上にまたがった。  
「あの、ありがとうございます」  
「ん? いや、気にするな」  
「でも」  
「俺もきみと同じく、この町の人間だ。この町を守るのは、その住人の役目だろ」  
 至極当然のようにいうその人に、僕は思わず頷いていた。  
「よし、じゃあ、気をつけろよ」  
「はい。あ、あなたは」  
「俺かい? 俺は、あの黒いリザードンを倒すのを手伝ってくるさ。それじゃあ!」  
 いうや、その人はモンスターボールからカイリューを呼び出すと、その背中に乗り、次  
の瞬間には空の人となっていた。  
「よし、僕らも行こう、ギャラドス」  
   
   
***  
   
 湖上で戦っていた孤独な戦いを続けていたイブキだったが、勢いの止まらぬ荒れ狂う暴  
龍を前に、限界を感じ始めていた。  
 自らを最強のジムリーダーだと、リョウには言ったこともあったが。しかし、その実力  
は四天王たちや彼のいとこであるチャンピオンには及ばない。  
 こうして黒いリザードンを抑えていることはできても、倒すことはできないだろう。  
 そう思っていた時だった。  
「カイリュー、破壊光線!」  
 よく知った声が聞こえた。  
 そちらを見ると、そこには――  
「ワタルか!」  
「ああ、イブキ。久しいな」  
 真紅の髪の最強の竜使いは、このような場であっても悠然と笑ってみせた。  
「ところで、イブキ」  
「なんだ?」  
「随分といい格好だな」  
「む?」  
 いわれて、イブキは自らが上半身を晒していることを思い出し。戦闘中でありながらも、  
思わず両腕で胸をガードしていた。  
 
「み、みるなっ!」  
「妹のように思ってきたお前の胸を見たところで、どうも思わないさ」  
「誰が妹だ!」  
 顔を紅潮させ怒鳴るイブキを見て、ワタルはクックと喉を鳴らした。  
「さて、な。それよりも始めるとしようか、最強のコンビによる黒き龍の討伐戦を」  
「ああ!」  
「しかし、イブキ、成長したな」  
「黙れ!!」  
   
***  
   
 イブキさんたちの戦いの邪魔にならないように、湖の端のほうを移動して、僕は竜の穴  
の前に取り残されていたクラスメイトたちの元まで向かった。  
 クラスメイトたちはギャラドスを見た瞬間、助けが来たと喜んだが、その上にいるのが  
僕だと気づくと、一様に黙った。  
 クラスメイトたちの顔には恐怖が浮かんでいる。  
 どうやら、僕へしたことの罪悪感は感じているらしい。  
「きみたち」  
 僕が声をかけると、彼らはすくみあがった。  
「逃げるよ。早くギャラドスに乗って、ここにいたら危ないよ」  
 そういうとクラスメイトたちはざわめき、信じられないというような表情で僕のほうを  
みていたが。  
「僕はきみたちのことを恨んでるさ、でも今はそんなこと関係ない! 早く逃げないと死  
ぬんだから、早くこっちに来いよ!」  
「本当に、助けてくれるのか?」  
 誰かが聞いた。  
 僕は頷いた。  
「当然だろ、同じ町に住む仲間なんだから」  
 そういうと、クラスメイトたちは我先にというようにギャラドスの体によじ登り始めた。  
 そうして全員がギャラドスに乗った、その時だった。  
「危ない!」  
 上空から声がした。  
 なぜ聞こえたのかはわからないが、それはイブキさんの声だった。  
 見上げると、黒いリザードンがカイリューを抱えて、こちらへ急降下してきていた。  
「ギャラドス、逃げろ!!」  
 僕が命令すると、ギャラドスは壁面を尾で叩き勢いをつけて、水上を移動し始めた。  
 だが、突然のことに、僕とリオンは振り落とされてしまった。  
 僕たちの上にリザードンが落ちてくる。  
 僕は避けられないと思い、目を瞑った。  
 その瞬間だった。  
 僕の体は突き飛ばされ、水の中へ落ちた。  
 もがきながらも水上に顔を出すと、リザードンはカイリューを地面に叩きつけたあとで、  
カイリューが地面に横たわっていた。  
 リザードンは再び飛翔し、イブキさんたちのほうへ向かっていく。  
「あれ?」  
 おかしい。  
「おい」  
 いない。  
 みえない。  
 どこにも姿がみえない。  
 カイリューは持ち前の頑強さで、直ぐに立ち直ると、浮上し戦場へと戻った。  
 そして、カイリューが飛び去っていた場所に、それを見つけた。  
 横たわり、動かないリオン。  
 僕は泳いでリオンがいるその場所へ戻ると、リオンの傍に駆け寄った。  
「リオンっ、おい、リオンっ!」  
 だが、リオンは動かない。  
「なんとかいってよ、冗談だろ」  
 リオンの体を揺さぶっても、声をかけても、リオンは動かない。  
「うそ、だろ……」  
 
***  
   
   
 ワタルが加わったことによって、劣勢だった黒いリザードンとの戦いは互角にまで持ち  
直していた。  
 そう、現ポケモンリーグチャンピオンのワタルであっても、黒いリザードンは脅威の存  
在だった。  
「くそ、こんな時に彼がいたらな」  
 ワタルはぽつりと呟いていた。  
「彼?」  
「いや、なんでもないさ。それよりも、そろそろなんとかしないとまずいな。こちらの手  
持ちも疲弊しだしている」  
 ワタルが誇る最強の龍軍団も、カイリューが一体戦闘不能なまでの傷を負わされていた。  
「策はあるのか?」  
 イブキの問いに、ワタルは即答した。  
「ない」  
 イブキは舌打ちすると  
「頼りにならんな」  
 と吐き捨てた。  
 ワタルは口元に苦い笑みを浮かべた。  
「そういうな、それよりも子供たちが逃げおおせたことをひとまず喜ぼう」  
「え?」  
「気づいてなかったのか、下を見ろ」  
 言われて見ると、おそらくワタルのものであろうギャラドスにのって取り残されていた  
子供たちが、民家のほうへと逃げていくのがみえた。  
 しかし、  
「おい、まだ一人残っているぞ」  
 竜の穴の前に一人、少年の影があった。  
「む、本当だ。しかし、あれは、先ほどの」  
 イブキはその姿に見覚えがあった。  
 それはよく知る少年の姿に似ていた。  
 あれは――  
「リョウ!?」  
   
   
***  
   
   
 リオンと友達になったのは、雪が降る季節のことだった。  
 僕は父さんがシルフカンパニーシンオウ支社から本社へ移転するという話を聞かされ、  
憂鬱な気持ちで日々をすごしていた。  
 引っ越して、その先で新しい友達を作れるんだろうか?  
 不安で不安でしょうがなかった。  
 そんなある日、父さんがポケモンの卵をもって帰ってきた。  
 シルフで実験のために捕まえたポケモンが持っていたらしい、その卵を父さんは僕にプ  
レゼントしてくれた。  
 そうして孵ったのがリオンだ。  
 それから僕はどこへいくにもリオンと一緒で、学校へ行くときも、お風呂に入るときも、  
寝るときも、ずっとずっと一緒で。  
 それはジョウトに来てからも変わらなくて。  
 リオンだけは僕の傍にいてくれる。  
 ずっと、ずっと、いつまでも一緒にいてくれる――そう思っていた。  
 なのに。  
「リオンっ、おい、リオン、答えてよ」  
 リオンの体温がどんどん冷たくなっていく、リオンは僕の呼びかけに答えてくれない。  
「なんで、うそだろ。どうしてだよ、リオンっ!」  
「リョウか?」  
「え?」  
 声をかけられて気づくと、僕の隣にイブキさんが立っていた。  
「リョウ、早く逃げろ、ここは危ない」  
 
「でも、リオンが、リオンが、リオンが」  
「リオンが?」  
 イブキさんはようやく気がついたのか、顔を青ざめさせた。  
「回復薬は?」  
「持ってないんです。僕、普段から戦わせてなかったから。だから、そういうのもってな  
くて」  
「そうか……」  
 イブキさんは胸元をまさぐって、自分が今上半身になにも着ていないことを思い出すと  
「くそっ」  
 と呻いた。  
「わたしも手持ちの道具はない、ポケモンセンターまでいけば……いや、待てよ」  
 そういうと、スカート部分のポケットから何かを取り出した。  
「それは?」  
「不思議な飴だ、ポケモンの細胞を活性化させ、レベルを一つ上昇させる。この効果で、  
リオンの細胞を活性化させれば、或いは……」  
 イブキはそういうと、リオンの口を開き、飴を与えた。  
 だが――  
 なにも、変化は起こらなかった。  
 リオンは起き上がらなかった  
「……」  
 リオンを見つめた。  
 もう、リオンを助けてやることはできないんだろうか。  
 自分には何もできないんだろうか。  
 そう思うと悔しくてしょうがなかった。  
 その時だった。  
「二人とも危ないぞ!!」  
 上空から叫びが聞こえた。  
 見上げると、再びリザードンが落ちてきているところだった。  
「リョウっ」  
 イブキさんに引き寄せられ、僕は抱きしめられた。  
 だけど、僕の目はリオンに集中していた。  
 リオン。  
 ごめんよ。  
 助けてやることができなくて。  
 一度も一緒に戦うことができないままで。  
 リザードンの巨体が落ちてくる。  
 僕はこれが最後になるとわかって、思わず叫んでいた。  
 これまで一緒にいてくれた友達の名前を。  
 これからも一緒にいたいと思っている相手の名前を。  
 いつまでも一緒に在りたいと考えている相棒の名前を。  
「リオンっ!」  
 その瞬間だった。  
 リオンの体に異変が起きた。  
 光に包まれたかと思うと、その身体は一回り大きいものに変わっていて、その瞳には漲  
るような意志が宿っていた。  
 リオンは立ち上がると、主を守るべく、急速に周囲の波動をかき集め収束させ増幅し指  
向性を与えられるのが分かった、それをリオンは放った。  
 この場に満ちていた並々ならぬ竜の波動は、リオンにより指向性を与えられ、落下して  
くる黒いリザードンを打ち上げた。  
 打ち上げられたリザードンをカイリューが受け止めるのが見えた。  
   
   
 そこで、僕の記憶は途切れた。  
   
   
   
***  
 
「ルカリオというそうだ、そのポケモンは」  
 事件から二日ほど経ってようやく、リョウとイブキが入院している病院まで見舞いに訪  
れたワタルは、まだ目を覚まさない主の傍から動こうとしないルカリオのリオンを見てそ  
ういった。  
 イブキはむすっとした顔で「そう」というと、不機嫌そうな顔でワタルを睨みつけた。  
「うん? どうしたんだい、イブキ」  
「いえ、別に」  
 そう答えながらも、気が治まらないのか言った。  
「流星群」  
「……うん?」  
「そんな奥の手があるのなら、最初から使えばよかったんじゃないの」  
 黒いリザードンを倒したのはルカリオの竜の波動ではなかった。  
 リザードンはワタルのカイリューが繰り出した流星群によって瀕死のダメージを受け、  
落ちていたところだったのだ。  
 つまり、あの時すでにリザードンには戦う力は残されていなかった。  
 ワタルは睨みつけてくるイブキの視線を真っ向から受け止め、苦笑した。  
「すまなかった。しかし、こちらにも事情があった」  
「事情?」  
「そう、あの技は未完成だったんだ。いや、正直なところをいうと、僕のカイリューでも  
まだ制御しきれていない。もしあの時、あの技が暴走していたら、黒いリザードンがもた  
らす破壊よりも、更に凄まじい破壊を生み出していたかもしれない」  
「……そう」  
 ワタルの説明を聞いても、イブキはまだ納得できないという様子で、舌打ちした。  
 ワタルは小さくためいきをつき。  
「嫌われたものだ」  
 ぼやくように言うと、部屋を後にした。  
「ああそうだ」  
 出て行く直前、ワタルは言った。  
「リョウくんのクラスメイトたちが見舞いに来たいといっていた、謝りたいことがあるそ  
うだ」  
「……そう」  
 その言葉を聞いて、リョウの母から友達になるように言われていたイブキは、リョウも  
自力で友人を作れたのだと安心した。  
 だが、そうなると自分の出番はもうないのだな、と少し寂しくもあった。  
「あと、私はこれからこの事件を追うことにする。どうやらロケット団がかかわっていそ  
うだからね」  
「あっそ」  
「冷たいな」  
 ワタルは苦笑すると、今度こそ部屋を後にした。  
 病室に一人残されたイブキは、リョウの寝顔を見ながらどうしたものかと考え、そして  
笑った。  
   
   
***  
   
   
 目を覚ますと、見慣れない天井がそこにあった。  
 あれ? ここ、どこだろう?  
 見渡してみると、どうやら病院のようだった。  
 病院?  
 ああそうか、あの戦いのあと自分が病院に運ばれたのだろう。  
「……リオン?」  
 だが答えるものはいない。  
 リオンを探そうと決め、身体を起こそうとしたが。  
「あ、あれ?」  
 身体は起き上がらなかった。  
 まるで重たい鉛でもまきつけられたかのように、身体が重く動かない。  
 どうしたことだろうとじたばたしていると。  
「あまり動くな」  
 耳元で声がした。  
「えっ」  
 横を向くと、そこにはイブキさんの顔があった。  
「おはよう、リョウ」  
「え、あ、おはようございます」  
「ようやく起きたか」  
「あ、はい。そうだ、リオンは、リオンはどうなったんですか」  
 イブキはにっこりと微笑み。  
「無事だ。今は長時間外に出ていられないから、モンスターボールの中で休ませているが  
な」  
「そうですか……」  
 ほっと一安心できたが、まだ疑問はある。  
「ところで、イブキさん」  
「なんだ?」  
「なにしてるんですか?」  
 そう聞くと、イブキはにやりと笑った。  
「なに、この前お前に私の裸を見られただろう? だから、今度は私がお前の裸をみよう  
と思ってな」  
「み、見たんですか……?」  
 イブキは満足げに微笑んだ。  
「まだ、ミニリュウだな」  
「――――っ!!?」  
「おや、ハクリューへと進化していってるぞ」  
   
   
   
完  
 

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