真夜中の自然公園は静まり返っていた。
昼間はトレーナーで賑わうこの場所も、今は真夜中。
草むらで小さく鳴く虫の声と、仲間を呼ぶホーホーの声だけが静かに響く。
噴水から少し離れた大きな木のかげに、人影があった。
燃えるような赤い髪の男が、草のじゅうたんの上に寝そべっている。
バクフーンの背をまくらに目を閉じている彼の傍らには、少女がちょこんと座っていた。
栗色の髪をふたつに結った少女は、ご機嫌斜めのように見えた。
「せっかく会えたのに」
少女―コトネは拗ねたように唇を尖らす。不機嫌の原因は、隣にいる"ライバルくん"のようだ。
バトルもしないでさっきから寝てるだけじゃない。
非難を込めてつぶやくと、コトネは両腕でかかえた膝の上にあごを乗せ、そっぽを向いてしまった。
だが、男は寝ていなかった。
唇を尖らせている彼女の横顔をしばらく見つめていたかと思うと、
彼は唐突に腕を伸ばした。
「コトネ」
いきなり名を呼ばれた少女がおさげ髪をぴょこんと揺らして振り向くのと、
彼が彼女の腕をつかんで自分のほうに引き寄せるのはほぼ同時だった。
バランスを失ったコトネは、きゃっと高い声をあげて彼の身体の上に倒れこんだ。
「ちょっと!急にっ」
コトネは抗議しながら彼の身体の上で身を起こしたが、
黒いシャツから伸びる両腕にとらえられ、再び倒れてしまった。
「なによ、起きてるんじゃ…ないっ」
胸元に抱かれる格好になったコトネは、
寝ていたと思った彼がその髪と同じ赤い色の瞳でじっと自分を見ているのに気付き、
かっと頬を赤らめた。
そんな目で見られることに、まだ慣れなかった。
まるでくろいまなざし。逃げられなくなる。
コトネは吸い込まれるように、彼の炎の色の瞳を見つめた。
暗い闇に満ちていたかつての眼を、コトネは知っていた。
行く先々の街で幾度も邂逅を重ねるたびに、その眼は色を得ていき、
それにつられるように彼女自身の想いも変わっていった。
自分を見つめる彼の目が、激しい感情を抑えつけているかのように思われて
コトネは思わず息をのんだ。そうこれは勝負をしかけようとするときの目。
密着する身体と身体の間にある体温が、急に生々しい感情を伴って彼女を襲った。
「…何その気になってんだよ」
からかいを含んだ声ではっと我に返る。
男は笑っていた。
コトネは素早く瞬きすると、がばっと身を起こした。
「な、なんのことかわかんない」
いかがわしい妄想をしてたなんて言えるわけないわ。
だが、強がりもむなしくあっという間に体の位置が入れ替わり、
コトネは地面に組み敷かれる形になった。
そして彼はコトネの耳元に顔を寄せ、低く囁いた。
「おまえ…」
言葉を切った彼の口元が、いじわるそうに笑う。
コトネから見えない位置で、彼の指がつつ、と彼女の首筋をなぞる。
コトネは思わず息を止めた。
「欲しいんだろう」
「なっ…」
一瞬で顔全体を真っ赤に紅潮させたコトネだったが、
抵抗することも言い返すこともできなかった。どうしようもないところで、素直なのだ。
「しかもこんなところで。困った女だな」
「い、いきなりひとの服脱がすヤツに言われたくないわよっ」
唇をとがらせて抗議するコトネにお構いなしで、彼は服の中に指を滑り込ませる。
声が変わる。なめらかなチョコレートのような甘い声。
「でもちゃんと着せてやったじゃないか」
からかうような紅い視線が、露わにされていくコトネの身体の上を
舐めるように動いていく。
「それにそんな昔のこと…早く忘れちまえよ」
何か言おうとしたコトネの唇は、彼の唇によって素早く塞がれた。
大人のキス。もう歯をぶつけてくることも、間違って鼻に食いつくこともない。
あごに手をかけられ開かされた唇の隙間から、蛇のように狡猾に動く彼の舌が滑り込む。
媚薬を飲まされたかのような甘い感覚に、コトネは小さく呻いた。
「んんっ…」
夜の空気に、火照った身体がさらされていく。
服を脱がすの、早い。自分が脱ぐのも、早い。
コトネは言おうとして、やめた。彼の赤い瞳は、また別の色を映していた。
人間の原始の色。欲望と本能の色だった。
「おまえは…ポケモンは強いが、こっちはばかみたいによわっちいからな…」
まさに言葉の通りだった。
身体を這う指先の感触に敏感に反応して、コトネはまた喘いだ。
彼は彼女の白い乳房の先端を口に含み、ざらついた熱い舌で転がす。
コトネが可愛らしい反応を見せるたび彼の炎は昂った。
つんと尖ったつぼみを弄ぶ一方で、片手は別の乳房を揉みしだく。
彼の手の中で自在に形を変える柔らかな肉は、身体を重ねるたびに僅かずつ体積を増していた。
「やぁっ…」
コトネは彼の動作ひとつひとつに反応して声をあげた。
濃厚な愛撫でしっとりと汗ばんできたようだ。
彼は鎖骨に沿って舌を這わせ、彼女の汗の味を堪能した。
「そんなエロい声で啼いたら人が来るぜ、コトネ」
名前を呼ぶかすれ声が、しびれごなのようにコトネの理性を麻痺させていく。
キスを求める唇に、呼吸さえ忘れて応えるコトネの身体は、
すべて彼の思うまま無意識に反応するようになっていた。
気づくと、彼女の身体を隠していたはずの小さな布切れが、
いつの間にか足首に引っ掛かっていた。
甘い匂いを放つ秘部は、これから与えられる快感への期待で濡れ、
あふれだした多量の愛液は、太股をつたって地面に卑猥なしみを作っていた。
コトネは彼の名を呼んだ。
催促ではなかったが、懇願していたかもしれない。
どちらも、これ以上前戯を楽しむ余裕を持てるほど、まだ成熟してはいなかった。
愛液で濡れたコトネの入口に己の硬く熱い剛直をあてがうと、彼は躊躇なく一気に貫いた。
「ひぁぁぁぁぁあンッ!!!」
細かな襞が小刻みに震え、彼を締め上げる。
最奥へ導こうとしているのか、それとも侵入をはばんでいるのか、
コトネの膣壁は激しく細かく収縮を繰り返していた。
彼は硬く張りつめた自身の剣で、彼女の中をえぐるように繰り返し突いた。
「あっ!あっ!ぁぁんっ!」
一突き毎に嬌声を上げるコトネは、すでに恍惚の表情だった。
くちゅくちゅと纏わりつく卑猥な水音に紛れて男の名を繰り返し呼び、快感を訴える。
「おいおい、まだ挿れただけだぞ…」
彼はコトネの両足を持ち上げ、太腿をぐいと強引に開かせた。
ピストンの音がずちゅっと低くなり、挿入の角度の変化を感じ取ったコトネは、
ひときわ大きく喘声をあげた。
「ひぁぁんっ!きもちいぃっ…!」
ずちゅっ。腫れぼったく膨らんだ割れ目にそそり立つ剛直が突き挿さる。
ぐぷっ。絶妙な角度で出入りするのが丸見えだ。
結合部から溢れた愛液が泡立ち、性器同士が擦れ合う音の上に更に別の淫音が重なる。
のどかで健全な自然公園にはまったく相応しからぬ光景だったが、
行為に没頭する若い二人は互いの姿しか目に入っていなかった。
コトネは激しく揺さぶられながら、
自分に覆いかぶさる男の整ったあごに指を伸ばした。
息をつくために口を開き、瞳にうっすらと涙をためた彼女の姿は、
まるで許しを乞うように見えた。
「ダメっ、ダメっ、イっちゃう… イっちゃうよおっ」
だが彼女に快感を与え続ける男の声は容赦がない。
やや息が荒いが、からかうような口調には余裕さえ感じられた。
「勝手にイくなよ…オレが許す前にイったら…わかってるだろ」
その言葉とともに、彼は結合が解かれる寸前まで大きく身をひいた。
そして次の瞬間、
「ひあぁぁんッ!」
最奥まで一気に貫かれ、コトネは絶叫とともに細い体をびくんと仰け反らせた。
誇らしげに突き挿さる太い肉棒が、コトネの中で熱く脈打つ。
「あぁぁぁ…!」
ぐったりと弛緩するコトネのとろんとした表情を見下ろした彼の中に、
抑えようのない征服欲が湧き上がり、彼は再び腰を引いた。
「まだ、わからないのか」
再度。
奥をえぐる肉の衝撃に、またしてもコトネは甘い声をあげ
電撃を受けたかのようにはねた。
「言えよ… イきたいんだろ」
乱れた赤い前髪の隙間から見える彼の眼は、甘く激しい獣の眼だった。
彼が与える快感の責め苦は、繰り返し逢瀬を重ねるごとに
少しずつコトネを妖艶な大人の女へと作り変えていくようだった。
「お…ねがい…っ」
荒く息をつく胸が上下し、桜色の先端を掲げた白い乳房が誘うようにぷるぷると揺れた。
しかし、彼はコトネの瞳から目をそらさなかった。
見つめあう。無意識に足をからめる。
「ゆる…して… い、いかせて…」
そして、彼女は恋人の名を呼んだ。
名を呼ばれた男は、言葉のかわりに唇で許しを与えた。
決壊した欲望が濁流とともに理性を押し流し、
彼は彼女のすべてを壊してしまうほどに強く激しく愛した。
「あぁぁぁぁっ…!!!」
「コト…ネ…ッ」
彼はコトネが達するのを待って、同時に登り詰めた。
全身を痙攣させて絶叫するコトネの肉壁に強く締めつけられながら、
ためらいなく解き放った欲望の液体の、最後の一滴までもを体内に注ぎ込む。
コトネの本能はそれを一滴も逃すまいと、腰を押しつけて膣を収縮させた。
自らの中でびくびくと脈打つ彼自身を感じながら、コトネは幸福な倦怠感に包まれていた。
彼も同様だった。
だが、彼はかろうじて彼女の額に口づけを落とすのが精いっぱいだった。
つながったままぐったりと身体を横たえようとする彼を、コトネは腕を広げて受け止める。
恋人が無防備な姿を見せるのは、このときだけ。
コトネは彼の赤い髪の頭をぎゅっと抱きしめると、彼にだけ聞こえるよう小さな声で囁いた。
「…!」
驚いた彼の表情が、次の瞬間真っ赤に染まっていたのは、
ふたりと、はた迷惑な主人たちの敷物になっていたバクフーンしか知らない。
おわり