女は愛玩生物など飼ったこともなかったし、寧ろポケモンはあまり好きではなかった。  
それなのに今女の住む部屋の片隅には小さなメスのイーブイがちょこんと座っている。  
こうなったのも女の知り合いのせいであった。  
女には友達も恋人もいなかったが、その知り合いの女だけは彼女にやたらと馴れ馴れしく接してきた。  
疎ましいと思われていることにも気が付かないで、いつも女の部屋に遊びにやって来る。  
今朝早くに突然尋ねて来たかと思えば、  
「急用が出来たから何日か預かって!」  
とイーブイを女の部屋に置いて行ってしまったのだ。  
女は寝巻き姿のまま寝惚け眼を擦り、適当にあしらって帰した後に二度寝をした。  
再び起きて歯を磨いている時、視界に入ったイーブイを見て彼女の普段の無責任さを思い出したのだ。  
置いて行ったのはポケモンだけで、エサや育て方の本すら持って来てくれはしなかった。  
台所にある冷蔵庫の中を見ると、萎びたレタス、期限の切れた開封済みのミルク、干乾びたハム……それだけだった。  
「どうしろってのよ、ねぇ?」  
と女がイーブイに話しかけても大きな瞳が揺れただけであった。  
女は苦々しく笑いながら冷蔵庫の扉を閉める。  
部屋の真ん中には小さく丸い白のテーブル、後は棚がある程度で他に目ぼしいものはなかった。  
部屋自体に不自由はないが、女にはそれ以上の金をかけることが出来なかったのだ。  
そんな女にイーブイ一匹だって養う余裕はなかった。  
 
 
女は体育座りをしながら隅にいるイーブイをじっと見ていた。  
二対の潤んだ瞳も女を見つめている。  
女とイーブイはこれが初対面ではなかった。  
知り合いの女は部屋に遊びに来る際、よくイーブイと一緒にやって来るのだ。  
彼女は小さく可愛らしく、柔らかなブラウンの毛並みを持つイーブイをいつも自慢していた。  
だが情など起こらなかった女は無愛想に接していたため、イーブイもあまり懐かなかった。  
そんなポケモンとどう接すればよいか分からなかったので、女はイーブイを見ながら様々な思いに耽った。  
あのふわふわな毛はこれからの季節暖かそうだ、とか、柔らかそうな体をしているなぁ、など。  
このまま眺めていては腹癒せに、マフラーとイーブイシチューでも作ってしまいそうだったので、女は小さな台所に立った。  
ミルクを皿に注ぎ、零れてしまわないよう慎重に運び、それをイーブイの目の前に置いた。  
最初は匂いを嗅ぎ警戒していたものの、一度舌を浸すとその後は何の不満もなさそうに全て飲んでくれた。  
女はミルクの安全性を確認してから、底に溜まったものをラッパ飲みで処分した。  
 
皿を片付け、カーテンを開けると差し込む陽の光。  
日も高くなってきたようだ。  
毒見をさせられたイーブイの白い目もそこそこに、眩しい光を女は睨んだ。  
こんな暖かい日には太陽に当たりながら、読みかけの本でも片付けるのが一番だ、と普段なら女は思うのだが。  
言葉の通じないポケモンがいると言うのは落ち着かないものだ。  
喋る人間にしても苦手ではあるが、何を考えているのか分からないのはそれ以上に得意でない。  
放置してそこら辺をトイレにされるのも堪ったものではないし、世話を放棄して死なれては困る。  
勿論女の部屋にはパソコンなどないし、携帯電話も所持していなかった。  
公衆電話で連絡を取ろうにも無責任女の番号を書いたメモは捨ててしまったのだ。  
仕方なく女は出掛けることにした。  
イーブイの世話に必要な物一式を買うために。  
どちらにせよ残飯のようなレタスとハムでは体が持たないので、買い物には行かなければならないのだ。  
女はテーブルの下に置いてある草臥れた鞄を引っ張り出し、中に入れてある財布を開いた。  
今回は乗り切れそうだが、果たして広い視野で今月を見た場合にはどうだろうか。  
計算の面倒な女は、何とかなると呟き、財布を鞄にしまった。  
 
「行くわよ」  
立ち上がった女はイーブイに声をかけるが、イーブイは動こうとしない。  
「あんたが来てくれないと何買えばいいか分からないのよ」  
そう言う女をイーブイはしげしげと見るばかりであったが、  
「早くしないと育て屋にぶち込むけど」  
女がドスを効かせた声で言うと、  
「きゅぅ……」  
イーブイは切なげな声を出し女に従った。  
 
女は店でポケモンフーズを少し、そしてシート状のポケモン用トイレを購入した。  
購入する物はイーブイが商品を前足で軽く叩いて知らせてくれたので、何とか買うことが出来た。  
それと女が食い繋ぐための食料も買った。  
買い物を極力少量に抑えたので、今回は思ったほどの出費は嵩まなかった。  
それは本当にその買い物の時だけであったのだが。  
 
 
帰り道、女は商品を入れたビニル袋を手に提げていた。  
ビニルの擦れる音が女にとって耳障りであったが、その音を掻き消すかのように、  
「きゅん!」  
と鳴く高い声が聞こえた。  
女は自分の周りを見るが、今までついていた声の主の姿は何処にもない。  
後ろを振り返るとイーブイは少し後ろの方で留まっている。  
イーブイは何やら落ち着かない様子で辺りを見回しており、時折女に強請るような視線を向けるのであった。  
その場から動く気配がないので、女は仕方なくイーブイへと駆け寄ると、イーブイは一層激しく鳴いた。  
「きゅう、きゅーきゅー!」  
「一体何よ?」  
と女が中腰になって尋ねると、イーブイはある方向に真っ直ぐ目を向けた。  
それはケーキ屋であった。  
店の外から手動のガラス戸とショーウィンドウ越しに、様々な種類のケーキが見える。  
普段ケーキなど食べない女には、またショートケーキ位しか知らない女にはそれらが未知の物質として認識された。  
女にとってケーキは高嶺の花、いや、もはや食べ物としての認識は殆どなかったのだ。  
女は言った。  
「ケーキなんて許されるのは誕生日とクリスマスだけよ。  
言わばそれほど神々しいお菓子であって、普段から口にしていては万物に対するありがたみが薄れて……。」  
と、女の話はくどくど続く。  
つまり、あんた風情がケーキを口にするなどおこがましいわ!ということだ。  
 
だがイーブイには女の言っていることを理解する様子も、諦める様子もなかった。  
甘えた声で鳴きながら女の足に擦り寄り媚びるのだ。  
普段は近寄ろうともしないのに、ああ、これがあの飼い主の躾の賜物かと女は納得した。  
しかし幾ら納得しても譲歩するのとは違う。  
我慢なさい、女が言わんとした瞬間、イーブイはケーキ屋へと駆け出した。  
女の制止も聞かずぴょこぴょこと跳ねながら店の前まで行き着き、小さな体をガラス戸にへばり付けた。  
立った状態で前足を広げ、腹をガラス越しに店内に晒すという大胆な体勢で。  
ふさふさの毛を持つ尻尾を千切れんばかりに振り回す後姿は、これ以上ない興奮を率直に表現している。  
「ぶいいぃぃぃ〜」  
きっとイーブイは店内のケーキにさもしい目を向けているに違いない。  
女は慌ててイーブイを追いかけ、戸からイーブイを引き離す。  
ビニルの袋を肩にかけ、脇腹を両手で挟み持ち上げたが、このポケモンは小さな体の割りに意外と重い。  
すぐにでもイーブイを下ろしてしまいたかったが、下ろさずに腕でイーブイを抱きしめる。  
「帰りは抱っこしてあげるから感謝しなさい」  
「きゅー!きゅいー!」  
女の声が震えてきたのを気にも留めず、イーブイは女の腕の中で暴れ続ける。  
「いい加減にっ……」  
一度怒りに任せ怒鳴ってしまおうかと思ったが、視界に入ったあるものを見て女は我に返った。  
それはこちらの一部始終を店内から見ていた、若い女性店員の顔である。  
息を呑む女の視線が合った店員は、微笑みを浮かべた顔で女に会釈した。  
これではこの店でケーキを買ってあげる他ないではないか。  
「……これからいい子でいること、いいわね?」  
「きゅう!」  
急にイーブイは大人しくなり、そして溌剌とした声で返事をする。  
女はイーブイを片腕に持ち替え、ガラス戸の金色の取っ手に手をかける。  
扉を開けると、女の気持ちとは裏腹に陽気なベルの音が鳴り響いた。  
「いらっしゃいませ!」  
そして女の鼻腔に甘ったるい菓子の匂いが広がると同時に、店員の朗らかな挨拶が店内に響いた。  
 
「高い……」  
部屋の中で嬉しさのあまり飛び跳ねるイーブイを余所に女は同じ悪態を何度も吐いた。  
近頃のハイカラなケーキは平気で五、六百円もするのかと溜息混じりに呟く。  
「きゅっ、きゅ〜……」  
先ほどからイーブイはテーブルの上に置かれたケーキの入った白い箱が気になって仕方ないらしい。  
何度も女に擦り寄り催促している。  
実はもう昼食を終えたどころか時刻は夜なのである。  
高いケーキなど買わされて損ばかりしている女は、少しは楽しませてもらおうとイーブイにお預けさせているのだ。  
好物のケーキを目の前にイーブイはよく我慢した方だ。  
そろそろいいかと女はそれを認め、小さなケーキの箱を開けてやることにした。  
箱の中にはチョコレートケーキが一個、イーブイの分だけが入っていた。  
ドーム型のケーキに生チョコがコーティングされ、上にはアーモンドやらキャラメルやらが乗って……。  
まぁ女にはよく分からなかったが、とにかくイーブイがあれこれ悩んだ末に選んだケーキである。  
目を輝かせ箱の中身を覗き込むイーブイから喜びが伝わってくる。  
 
女は皿にケーキを移しイーブイの目の前に置くと、イーブイはすぐさまケーキに食らいついた。  
夕食に少しポケモンフーズを与えたのだが、ケーキは忙しなく動く小さな口にどんどん詰め込まれていく。  
チョコレートを舐め溶かし、アーモンドを噛み砕き、スポンジ生地を頬張り……。  
イーブイの大きさで比べてみれば、ケーキは随分大きく見えるのではないかと思う。  
だがチョコレートはケーキごと溶けてしまい、あっという間にそれを完食してしまった。  
 
今イーブイは口の周りと中に残っているチョコレートを舐めている最中だ。  
口をもごもごと動かし、小さく赤い舌が口の周りを懸命に掃除している。  
「美味しかったの?」  
女が問うとイーブイは何度も頷いた。  
「そう、良かったわね」  
そんなイーブイの様子を見ながら女はふと考える。  
イーブイは満足したようだが今日自分は損してばかりで、別に愛情も何もないイーブイが満足しても自分は満たされないのだと。  
女は皿を綺麗に舐めるイーブイの背後に回った。  
ふわふわとした尻尾、その根元に触れるとイーブイの尾が反射的に持ち上がる。  
尾に隠されていた場所には、毛の薄いピンク色の溝が顕になった。  
「きゅ?」  
突然そんな場所を触られたものだから、イーブイは気になり女に振り返る。  
何も知らない幼いイーブイの潤んだ無垢な瞳に穢れた自分が映っているのが見えた。  
女は極力優しい手招きでイーブイを呼ぶ。  
「おいで」  
迎え入れるよう両手を広げると、すっかり心を許したイーブイが女の胸に飛び込んで来た。  
イーブイを落としてしまわぬよう女はしっかりと腕に抱く。  
ケーキ一つ、最初は不服であったがこんなにも容易く手懐けられるだなんて。  
腕に抱えたイーブイを両手で持ち直し、ゆっくりと仰向けに寝かせる。  
人差し指の爪先で仰向けになったイーブイの性器を軽く弾いてみせた。  
「きゅぃん!」  
今まで触れられたこともなかった場所なのであろう。  
高く悲痛な叫びを上げ咄嗟に逃げようとしたイーブイだが、横腹をがっちりと押さえ込まれる。  
「きゅっ、きゅー!」  
足をばたつかせ抜け出そうと暴れるが全て空回りしてしまう。  
ポケモンとは言え、自分の何倍も大きい成人の女には敵いもしなかった。  
 
「世の中何でもタダで済むなんて甘くはないわ。しっかりと見返りは貰うわよ」  
女はイーブイ目を見てやりそう言い放つ。  
その言葉はイーブイの目を一瞬で怯えた色へと変えた。  
一旦暴れるのを止めた体から、手へと小刻みの振動が伝わってくる。  
女にとってイーブイは可愛いものでなかったが、この瞬間だけはイーブイを手に入れたのだとそこで初めて笑った。  
 
女は片手で白い毛の生えている首を押さえ、イーブイの性器を片方の手で捏ね繰る。  
「みゅっきゅうぅぅ!きゅー!」  
開始されるとイーブイは再び暴れだしたが、女にがっちりと押さえつけられてしまう。  
そこの端と端を指で摘み、乱暴に擦り合わせたり引っ張ったり等していると、淡いピンクが充血し始めた。  
徐々に湿り気を帯び、膨張したクリトリスが突出してくるのが分かる。  
全体的に柔らかい中で硬くなった一部を解すように捏ねていると、比例するかの如く愛液が溢れてくる。  
「びゅ、ぃぃ、きゅぅう!きゅぁあ……」  
イーブイは歯を食い縛り懸命に耐える。  
女は健気なイーブイを見下ろしながら冷笑する。  
「何、結構感度がいいじゃない」  
イーブイは違う、とでも言いたげにふるふると首を振り動かした。  
瞳からは一粒の涙が零れ、毛が僅かに濡れる。  
女は確認をするのに指を突きたて、そのままクリトリスに潰すように押し当てた。  
「きゅいぃん!」  
泣き叫ぶ声と共に後ろ足が大きく跳ねた。  
押し潰したままきつく女が指で擦る度に、後ろ足は翻弄されるかのようにびくりと動く。  
足をどうにかして閉じ、女のいたずらを止めさせようとするが、何の効果もない。  
そもそも弄る女の手が邪魔で完全にに閉じることが出来ないのだ。  
 
虐めるのはこれ位で勘弁してやってもいいと女は思っていたが、一度すると止めるのが惜しくなってしまった。  
ここで中断してしまってはイーブイにも悪いであろう。  
実際にイーブイは早く止めて欲しいだろうが、気持ちいいのはあっちだからいいでしょう、と女は開き直る。  
そこは赤く充血し切り、慣らしたせいか、摘み上げると伸縮性が増しているように思えた。  
毎日開発を進め玩具にするのも面白いだろうが、このポケモンは自分のでないことが悔やまれる。  
だからと言って飼いたいとも女は思わなかったが。  
互いに今まではほとんど無関係であったので、このようなことが出来ることであろう。  
「んきゅぅぅ……」  
イーブイの鳴き声が落ち着きを戻す。  
この刺激には少し慣れたのかと、女は再び指をそこにぐりぐりと押し付けた。  
「みぃぃぃ!?ふゅぎゅうぅ……!」  
まるで断末魔かのように部屋に響く。  
夜であるから周囲を気にして声を抑えるのも我慢するのもよし、気にする暇もなく喚いてくれるのもまたよし。  
強く、ひたすら刺激を求め、繊細な粘膜に爪を立てる。  
クリトリスは抗うほどに膨らみ硬化していた。  
「きゅー!」  
刺激があればあるほどイーブイは必ず体を震わせ、腰を捻り足をばたつかせ逃げようとする。  
暴れるほどに女の指が柔らかな部分に食い込む。  
自らが押し付けているとも知らずイーブイは喘ぎ泣き叫んだ。  
 
「イーブイ」  
女が声をかけると、きつく閉じていたイーブイの目が開かれた。  
「こんなの覚えちゃったら、帰った時に大変ね」  
わがままなイーブイのことであるから、強がってこちらを睨みつけてくると思ったが、意外にも怯えたままであった。  
女は緩慢に、だが手を止めることは決してない。  
じわじわと押し寄せる感じを与えるようイーブイの反応を窺いながら撫で続ける。  
「きゅ、ぃ……」  
イーブイの喉から搾り出される脆弱な声が聞こえる。  
「止めたい?」  
女が言うとイーブイは気力なく頷いた。  
正気を失いかけたイーブイに女は、  
「ダメよ」  
と言い放った。  
女には犯されるイーブイの気持ちなど分からない。  
愛液をたっぷりと塗った親指をクリトリスに擦りつけてやった。  
イーブイの悲痛な叫びも何もかも、女は聞きながらも聞こえてはいなかった。  
 
「きゅふっ、けふぅ……みきゅー……」  
イーブイの顔は涙で濡れ、開きっぱなしの口の周りの毛も唾液で濡れている。  
嫌がっていたイーブイもそろそろ限界だろう。  
そこをずっと弄んでいたので、不規則な痙攣の間隔が早くなっているのが女には分かっていた。  
「いくわよ」  
「きゅうー!!」  
女の言葉を皮切りに、イーブイのクリトリスを摘み激しく捏ね繰り回した。  
万力のように締め上げたり、極力優しく触れたりと刺激を調整していく。  
イーブイは押し寄せる不規則な波に強い快感を覚えていることだろう。  
途端にイーブイの体が跳ね、絶頂へ向かうサインを示したところなので、女も弄る速さを高めた。  
「きぃゅ、ああぁ!いぃいい!」  
一際大きく鳴き声を上げたところで、女は摘み上げていた指を離し、代わりに指を三本押し付ける。  
小さなイーブイの性器はそれにすっぽりと覆われる。  
そのまま何度も全体を掻き混ぜた。  
「きゅぎぃいい!きゅっ!きゅーっ!」  
イーブイの腰がびくびくと跳ね絶頂に達そうとした瞬間――女は中指だけを少し曲げ、イーブイの中へと突っ込んだ。  
未だに誰も迎え入れたことのなかった場所はきつく女の指を締める。  
「きゅいっー!?」  
慣れていない場所に突然挿れられたのだから、当然イーブイには痛みが走っただろう。  
だがそれよりも思考を犯し続けた快感が勝ったようで、イーブイの痙攣の度合いは大きくなっていた。  
女は波が途切れないようすぐさま中を蹂躙した。  
激しく出し入れをする毎に愛液が飛び散り、指が締め付けられる。  
「ふ、きゅっ!きゅいぃあ!きゅぁああ!!」  
イーブイの体が大きく跳ねた瞬間に女は中を貫いた。  
イーブイのそこから粘り気のない液が噴出し、ぐったりと床に体を横たえる。  
女の指には脈打つイーブイが感じられ、女は満足した。  
 
 
この行為の後女はイーブイを風呂に入れてやった。  
果たして意識があるのかないのか、始終イーブイは何の声も発さず抵抗もなかった。  
ぐしょ濡れのままでは困るので、女は滅多に自分には使わないドライヤーでイーブイを乾かした。  
面倒くさがりの女であるが、今回ばかりはその気は起こらない。  
ただイーブイはずっと無言であった。  
乾かした後、シルクのような毛並みを持ったイーブイはおぼつかない足取りで部屋の隅へ行ってしまった。  
女に背を向け丸まり、顔を体に埋めている。  
女も今日はやることがなく、明日はバイトがあるので寝ることにした。  
おやすみと言ってもイーブイは何の反応も示さなかった。  
 
 
翌日も起きてはいるようだがイーブイは部屋の隅から動こうとしない。  
女は深めの皿を三枚用意し、一枚に水、残りの二枚にポケモンフーズを入れた。  
「お腹が空いたら食べるのよ。もう一つはお昼になるまで食べちゃダメよ」  
と女はイーブイに喋りかけたが、これらに手を付ける気配はない。  
女は一応昼の分の皿に剥がし易い程度に軽くラップをしておいた。  
「バイトに行ってくるわ。あんたのケーキ代稼がないといけないから」  
――ケーキ、女の言ったその単語にイーブイが一瞬だけぴくりと体を反応したように見えた。  
よく見ると片耳だけを少し立てているような、そんな気がする。  
その様子に女は少しだけ笑うと上着を羽織り、鞄を手に持った。  
女は、  
「夕方には帰るからいい子にしてんのよ」  
と言い外に出た。  
 
今日は気の晴れない曇天で、木枯らしが吹き荒ぶ憂鬱な日である。  
徒歩でバイト先へ行く途中、女はイーブイのことばかりを考えていた。  
だがイーブイが心を開かなくなった原因に関して、自身を苛む気はなかった。  
まぁ、人が寄って来ない理由の一つかは別として、そういう人間なのだ。  
寒さに身を縮ませ背を丸くしながら、女はイーブイをどうするか、それだけを考えながら歩いていた。  
 
 
「ただいま」  
夕刻、女は帰って来た。  
部屋の気温は高くないはずだが、風を防ぐことの出来るこの場所は屋外と比べればずっと暖かい。  
薄暗い室内に明かりを点けると、まだ拗ねて隅に収まっているイーブイを見つけた。  
イーブイは片耳を立てて多少の反応は見せたが、すぐに耳を伏せた。  
だがポケモンフーズが入れられていた皿は綺麗に二枚とも空であり、水を飲んだ形跡やトイレをした形跡もある。  
女は所持品をテーブルの上に置き、それらを片付けた。  
そして手を洗いうがいをし、上着を脱いでテーブルに着いた。  
 
そこで女はテーブルの上の鞄と共に所持していた小さな箱を開けた。  
中身はあのケーキ屋で売られている、フルーツタルトが一つだけ入っていた。  
さくさくタルト生地に、新鮮たまごがたっぷりのなめらかカスタード。  
その上には瑞々しい果物が盛られ、薄いゼリーのコーティングによって一層華麗に彩られている。  
それだけでも美しいが、金粉まであしらわれている。  
バイトの帰り、この店に寄ってみたのだ。  
ケーキに詳しくはない女は多くの種類から選ぶのに苦労した挙句、店員にお勧めを聞いてみた。  
するとこれが店の一番人気、なのだそうだ。  
素材がいいだけ値段も高ついたので、女は店内で眉をひそめていたが。  
その甘い香りにイーブイはぴくりと体を動かす。  
「早く来ないとなくなっちゃうわよ」  
女は常にイーブイに気を払いながら、付属のプラスチックフォークの縁でタルトの端を切り崩した。  
イーブイは首を伸ばして女とタルトに視線を向ける。  
フォークに大きな欠片を乗せ、女は口へと運んだ。  
久々に食べる菓子の味、女はこの洋菓子を少し甘すぎると感じたが悪くはないと思い直し、果物にフォークを伸ばした。  
「きゅいー……」  
あんなにも頑なだったイーブイが、遂に物欲しそうな顔をして近づいてきた。  
女は大粒の葡萄にフォークを突き刺す。  
その目を向けていたタルトのすぐ横にイーブイの健気な目が見えた。  
女は葡萄を口に放り込むと同時に、運んだ軌跡をイーブイの目は追いかけていた。  
目の動きと一緒に首も動いているのが女には可笑しかった。  
女は次に苺を突き刺し、苺の刺さったフォークをイーブイの目の前まで持ってきた。  
「あーん……」  
イーブイは大きく口を開け、目の前の苺を食らおうとした瞬間、苺は突如軌道を変え女の口へと吸い込まれてしまった。  
「うーん、美味しい美味しい」  
女はいやらしい目つきで目をやると、イーブイは呆然とする一方で段々と怒りが湧いてきているようだった。  
 
女はそうしてイーブイの顔色を窺いながら桃にフォークを突き刺した。  
――あのね、この子は桃が大好きなんだよ〜!  
以前にこのポケモンの飼い主に聞いた話だが、このほんのりピンク色の白桃はイーブイの好物であるらしい。  
「きゅん!きゅいー!」  
とうとうイーブイは女の体に抱き付き、何としてもそれを食べようとする。  
女はそれを見計らって桃を口へと放り込んだ。  
「きゅっ、きゅー!きゅー!」  
イーブイは涙目になりながらその悲惨な光景を眺めるしかなかった。  
女は桃を口に含みながら薄ら笑いを浮かべていた、が、  
「むきゅ、むきゅー!」  
ムキになったイーブイはそれを奪おうとしたのだろう、女の口を必死になってちゅうちゅうと吸い始めたのだ。  
女は目を丸くし、呆気にとられ閉じていた口を解放する。  
落ちそうな桃をイーブイは舌を伸ばして救出し、自分の口へと入れた。  
女は残りのタルトを皿ごとイーブイの目の前へ置いた。  
イーブイは一心不乱にそれをがつがつと食べ進めた。  
 
まさか菓子のためだけに自分に口を付けるとは、女にとってあの行動は想定外だった。  
そしてケーキにあそこまで執着するイーブイを哀れだとさえ思った。  
「イーブイ」  
女が呼びかけると、イーブイははっとしたように女を見た。  
口の周りにはカスタードが多く付着しており、床にはタルトのくずが散らばっている。  
皿の上にはまだタルトが残っているが、食べ終えるのを待たずに、女はイーブイに飛びかかった。  
「ぶい!!」  
イーブイは逃げようとしたが、女に後ろ足を掴まれて前のめりに転倒してしまった。  
女はイーブイを引き摺り自分に引き寄せ、昨日と同じように寝転ばせようとした――が、  
「あ……っ」  
指に鋭い痛みが走り、咄嗟に女はイーブイを払い除けた。  
女の人差し指には小さくはあるが深い穴が一つ開いていた。  
イーブイの歯型である。  
一瞬の静寂の後、傷口からは血が出てきた。  
決して重大な怪我ではなく、血は傷口の上で丸く膨らんだ状態になっていた程度だったが、傷口が酷く疼いた。  
「きゅ……」  
イーブイは急にしおれると女の手へと近づき、女の傷口を舐めた。  
イーブイは負い目を感じたのか、だが明らかに自分に非があったと認めた女には理解出来なかった。  
「もういいわ。ありがと」  
女は手を引っ込める。  
痛みはまだあるものの、血はあれだけしか出なかったようであり、またイーブイに舐められているのも落ち着かなかった。  
 
ここで気まずくなったところであるので、女が止めるか、と言えばそうではなかった。  
女はイーブイの前で衣類を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となった。  
そして女は食べかけのタルトのカスタードを指で掬い、自分の乳首、腹、下腹部にそれを塗った。  
「指はもういいけど、こっちも綺麗にするのよ」  
と女は寝転がりながら言った。  
イーブイは固まっていたが、やがて女に歩みより、カスタードの付いた胸をおずおずと舐め始める。  
柔らかく十分に湿った舌がカスタードを舐め、女の胸を撫でていく。  
「はぁっ……」  
丁寧に舐めようとする舌が隅々まで行き渡り、女は溜息を漏らした。  
事実女は自分以外にこう曝け出したことも、愛撫されることも経験がなかった。  
自分でするのとは全く違う感覚に戸惑い、徐々に蕩けていく。  
体が唾液でべとべとにされていくのと共に、女の中では僅かではあるが快感が堆く積もっていく。  
 
「っく、あ!」  
イーブイに下腹部を舐められ思わず嬌声が上がる。  
くちゅくちゅと粘っこい音を立てながら進もうとするイーブイを止めようとしたが、足に力が入らない。  
女の小刻みに震える太腿、そこにイーブイが割り入るのは容易だった。  
自慰では決して得られない、女はそれに興奮し益々欲しくなったのだが、どこか違和感を感じた。  
そう、やはり――  
「きゅ!?」  
女はイーブイの体を掴み、形勢逆転、押し倒した。  
「きゅい!?きゅーいー!」  
昨日のように顕になった性器を手で刺激し、その後お返しと言わんばかりに舌で舐めしゃぶる。  
「きゅあ!きゅうう!」  
舌の運動を速めると、それに連動してイーブイの体が跳ね続ける。  
やはりこうでないと。  
イーブイに攻められるよりも、自分がイーブイを虐げる方がずっと興奮する。  
溢れる愛液を音を立て啜る。  
見ると、小さく息を呑んだイーブイは次にされる行為に怯えているところだった。  
どんな刺激を与えればどんな表情をするか、女はそれを確かめてみようと、強く刺激を与えてみる。  
「ひきぃいぃ!きゅっ、きゅっ、ぶぃぃ……」  
苦痛と快楽のジレンマで歪む顔、女はそれを見るのが楽しかった。  
この行為は毎晩行われることとなった。  
 
 
「ココアちゃあああん!会いたかったよぉ……!」  
「きゅーいー!」  
このイーブイにはれっきとした『ココア』という名前があった。  
女には知ったことではなかったが、とにかく、数日後の朝、イーブイの飼い主の女はようやくイーブイを迎えに来たのだ。  
久しぶりに飼い主に会えてイーブイも嬉しそうだ。  
それ以上に、女から解放されたことが大部分を占めるだろうが。  
無責任女からイーブイを預けた理由は旅行に行っていたからと聞いて女は呆れた。  
寂しいなら今度はポケモン連れてってやりなさい、女はそう窘めたが、お土産の菓子だけは文句なしに貰っておいた。  
「じゃあ、バイバイ。ありがとねー」  
イーブイを抱えた飼い主は帰ろうとした時、女とイーブイは視線が合った。  
イーブイが視線を逸らす前に女は口を開いた。  
「また来なさいよ」  
そう言った瞬間に、イーブイの瞳は震えたが、そのことに飼い主の女は気が付かなかった。  
「うん、また来るねー!」  
「あんたは来なくていいです」  
「そんなこと言わないでよ〜。今度来る時にケーキ持って来るからさぁ!」  
飼い主が言ったケーキにイーブイは、目で見て分かるほどに体を震わせた。  
その反応に飼い主もさすがに気が付いたものの、言及はしなかった。  
「バイバーイ」  
飼い主の女がイーブイを連れて帰っていく。  
 
 
部屋には数日前の静けさが戻っていた。  
目には入った残されたエサとトイレのシートに、少しだけ女は侘しさを覚える。  
どうせあいつのことだからまたイーブイを連れてちょくちょく家に来るだろう、何も心配はないのだ。  
……だが、今度あのイーブイを虐めることが出来るのは何時だろうか。  
自分にはポケモンを飼うつもりはない。  
だがもう構ってやれないと思うと少しだけ女は、あの無責任女にいつも以上の嫌悪を感じた。  
 
 
――end  
 

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