一通りの行為を終え、2人の熱気が漂う、ダイゴの自室にて。  
ヒーターなど不要なほど温かい部屋の中、先ほどまで熱に浮かされていたハルカはすくっと立ち上がり、窓際へ歩み寄る。  
一糸纏わぬ姿のままでは何なので、手元にあったカーディガンを素肌に羽織って。  
今宵は満月だった。  
「綺麗……」  
思わず感嘆の声を上げるほど、今宵の月は美しかった。もしかしたら、歓喜に酔ったハルカの心が、月を美しく見せているのかもしれない。  
今日晴れて、愛する人と正式に結ばれることが出来たのだから。  
 
「何をしているんだい?」  
窓辺に佇むハルカに、晴れて夫となったその人が優しく声をかける。  
風呂上りのため、体からはほんのりと蒸気が上がり、彼もまた、ハルカのように腰にバスタオルを巻いただけの姿だった。  
先ほどまであの体が、あの手が、自分に覆いかぶさり、自分と重なり合っていたのかと思うと、なんだか気恥ずかしくなり、慌てて視線を月に戻す。  
そんな彼女の仕草を見て、ダイゴはくつくつと笑った。なんて彼女は可愛らしいのだろう。  
彼女の元へ歩み寄り、華奢な肩を抱き寄せる。そして、同じように月を見上げた。  
「今日は満月だったのか。」  
「はい。綺麗ですよね。」  
「昔、とある小説家がね、I love you.を『月が綺麗ですね』と訳したそうだよ」  
「そうなんですか。素敵…」  
今宵の月を見ていると、そう思えた。今の自分の気持ちは、月の光によく似ている。  
そのとある小説家というのも、自分と同じ気持ちだったのだろうか。心底穏やかな気持ちで、月を眺める。  
 
どれくらいそうしていただろうか、気がつくと、ダイゴが自分を呼んでいる。  
「はい……?」  
今まで肩を抱いていた手が、体を引き寄せる。そして、瞬く間に唇を奪われた。  
まるでポッポが木の実をついばむかのような、軽い口付け。  
「ダイゴ、さん……」  
「君を妻に出来て、僕はすごく嬉しい」  
耳元でそうささやかれ、全身の力がすっと抜ける。体を覆っていたカーディガンは、いつの間にか床に落ちていた。  
「約束するよ。君を絶対不幸にしたりしない。」  
「ダ、イゴさ……んっ――」  
ダイゴの唇は、耳元から首筋へ伝う。白い首筋を甘噛みし、また一つ、ハルカの肌に赤い痕を作る。  
「ダイゴさんっ…! べ、ベッドで、してくだ――」  
「ダメ。我慢できない。」  
そのまま2人は、絨毯の上へ倒れこんだ。  
 
「んっ……あぁっ……!」  
すっかり組み敷かれてしまったハルカは、ダイゴの行為に甘い声を上げることしか出来なかった。  
抵抗しようにも、やわらかく優しい愛撫により、全身の力が抜けきってしまい、なかなか力が入らない。  
まるで、ふわふわと宙に浮いているかのような気分。先ほど1回やったばかりなのに、まだその感覚には慣れない。  
その間もハルカに構うことなく、ダイゴは次々と赤い痕をつけていく。  
首筋に、二の腕、腋、胸元……。原石を磨くように丁寧かつ慎重に舌で舐め、吸い付く。  
ちらりと双丘の頂に目をやる。薄紅の登頂は恥らうようにぴんと立ち、彼の愛撫を待っていた。  
双丘に手を添える。待っていたかのように、ハルカの体がびくんと反応した。  
「ひゃぁんっ! ま…ダメ……」  
「ふふっ。でも、ここは正直だよ?」  
「あぁっ……! ひゃめ……!!」  
ハルカの胸は常人よりも大きく感度がよい。そして、至高の柔らかさだ。これは、ダイゴのみが知る特権だ。  
持ち主に反して素直なそこを優しく揉み、登頂を指で摘んだり転がしたりを続けると、いい声で啼いてくれる。  
「ああぁん、はぅ…んぁあ……」  
この声ガ聴けるのも、自分だけだ。その特権に酔いしれながら、更に愛撫を続ける。  
「だいご、さぁ……! ああぁぁんっ」  
「そろそろいい頃合かな?」  
「ふぇ…? !! ひゃぁぁぁっ!!」  
ダイゴの微笑を皮切りにハルカが一層大きな声で啼く。  
顔をなでていたはずの左手が、ゆっくりと腰をさすりながら、ハルカの秘部へ潜り込んだのだ。  
「らめですっ……!! あぁぁあぁん……!」  
「濡れてるね。」  
「ふあぁ…い、言わ、な、いでっ……!!」  
くちゅくちゅ…… 粘着質な音がハルカの耳にも届く。恥ずかしくて身をよじろうとするも、ダイゴはそれを許さない。  
もとより、全身の力が抜けているのだから、抵抗することなんてできやしない。為すがままなのだ。  
ハルカの秘密の花弁の奥から、甘い蜜がどんどん溢れ出す。  
 
相当な広さのあるダイゴの部屋は、2人の生み出した熱気でいっぱいになっていた。  
熱い、熱い――― 2人の体は、お互いの肌の熱ですっかり紅潮し、全身にじっとりと汗が浮かぶ。  
それ以上に濡れているのは――――――  
「ああぅ! ああぁっぁああぁ!!!!」  
「その声、可愛いよ。もっと、僕に、聴かせて……」  
ハルカの花弁から溢れる蜜が、臙脂の絨毯に染みを創る。翌朝、家政婦がこの染みを見たら、どのように思うだろうか。  
そんな羞恥心は、もはや2人の中にはなかった。  
ハルカは与えられる快楽に身を委ね、ダイゴは愛する人の嬌声に心を酔わせている。  
「はあぁあぁぁ…あうぅっ……! だ、ダイゴ、さぁ…!!」  
秘部の中をかき回す指を、肉壁がひくひくと締め付ける。  
今が丁度いい頃合だ。既に存分に硬くなった自身を取り出し、入り口にあてがうと、そこを何度もこすり付ける。  
「ひゃぅん!! あああぁぁああん!! ダイゴさぁんっ!!!」  
「ハルカちゃん、入れるよ!」  
ハルカが小さく頷くのを確認した後、ゆっくりとそこに腰を沈めた。  
「あああぁぁぁぁぁああ!!!! やああぁぁぁあぁあ!!」  
「ハルカちゃんっ…痛く、ない??」  
「へ、平気、ですっ…!」  
男性に慣れていない彼女の中はまだ窮屈で、自身をきつく締め上げる。いい締まり具合だ。  
だが、一気に彼女を突き上げるわけにいかない。彼女がいいと言うまで、自身は中で静止したままだ。  
「ダイゴさんっ…! ダイゴさんっっ!!」  
「ハルカちゃん……動いても、いいかい?」  
「いい、ですよ……! あぁっ!!」  
いい。この言葉が耳に届いた瞬間、ダイゴは激しく腰を打ちつけた。  
肉のぶつかり合うパンパンという音が、静粛な部屋にリズムを刻み、それに合わせるように彼女が唄うように啼く。  
「あっ、あっ、気持ちいぃっ…! ダイゴさ……も、っと、もっとぉ!!」  
「ハルカっ、ハルカ!!」  
愛を確認するかのごとくお互いの名前を呼び合い、激しく動きあう。  
原始に還った動物のように激しく愛し合い、お互い絶頂を迎えようとしている。  
「ハルカ、もう、出そうだ……!」  
腰を浮かせて自身を抜き取ろうとするダイゴを、ハルカは静止した。  
「ダメですっ…! 中に…出してっっ!! あぁぁん!」  
「でも!」  
一回目の行為では、ハルカの中に出すことは出来なかった。彼女を不安にさせるまい、と。今回だって同じだ。  
だが、今は。彼女は自分の種子を望んでいる。  
「いいのかい…?」  
彼女は潤んだ目で彼を見上げ、大きく頷いた。息遣いが荒くなる。  
「で、でるっ……!!!」  
「ああああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁっ!!!」  
彼女の中に、自分の種子を、確かな楔を打ち込み、二人は果てた。  
 
「うぅ……力が抜けて、立てません……」  
「ご、ごめん。つい、激しくなっちゃって。」  
絨毯の上に寝転んだまま動けない彼女を抱き上げると、ベッドの上へ運んだ。  
この調子じゃ明日も動けそうにないかも、そうポツリと呟く。  
「まぁ、明日は何の予定もないし、ここでゆっくり休んでるといいよ。」  
「えっ!? だ、ダメですよ!!」  
「どうして?」  
「だ、だって…あれ……」  
ハルカが視線を送る先には、汗やら自身の蜜やらで大きな染みのできた絨毯がある。  
「あんなもの見られちゃったら、私、恥ずかしくて……」  
顔を真っ赤にして、枕に顔をうずめる妻を、本当に愛おしく思った。  
彼女を包むように抱きしめ、2人して闇夜に溶けるように、眠りにつく。  
 
翌朝、やはり彼女は立ち上がることすらままならなかった。  
彼が着替える様子を眺めながら、拗ねたように呟く。  
「今度はもっと優しくしてくださいね。」  
「ははは。…努力するよ」  
身支度を整え、普段の姿になったダイゴは、彼女の頬に軽く口付けた。  
「家政婦さんに、この部屋には入らないように言付けておくよ。じゃあ、ハルカちゃん――」  
「違います。ハルカ、です。」  
「え? でも……」  
「昨日は、そう呼んでくれたじゃないですか。」  
昨日、と言うのは、絨毯の上での行為のことだろう。  
彼女に夢中になりすぎて、呼び捨てていたことなど、全く気付かなかった。  
彼女も昨日のことを思い出したらしく、耳まで赤くなって背を向けてしまった。  
やはり、彼女は可愛らしい。そして、とてつもなく愛おしい。  
彼女となら、きっと上手くやっていける。  
「それじゃ、ハルカ。行ってくるよ。」  
彼女からようやく離れ、扉に手をかけたとき、  
「あ、あのっ…!」  
彼女がわずかに上体を起こし、自分を見つめていた。  
「いってらっしゃい。…あ、あなた!」  
思いがけない彼女の言葉に、思わず頬を赤らめた。  
 
 
彼がそそくさと立ち去った後、新妻が密に呟いた言葉は、誰も知らない。  
 
 
 
 
 
「子どもは、ダイゴさん似の男の子がいいな……」  
 
 
 
 
 
 
 
 
END  
 

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