子供特有の高い笑い声で目が覚めた。
背中に擽ったさを感じて身震いし、伏せていた頭を擡げ後方を振り返る。
案の定俺の体を遊び場にしていたらしいコリンク、ポチエナの二匹と目が合い、
俺は少しばかり片目を眇めて見せた。
叱責される気配が無いと判断した二匹は途端動きを再開し、
翼の下に潜ったり、尾先の炎を物珍し気に眺めたりと好き勝手を始める。
俺は大口を開けて欠伸を零し、小さな炎を二、三個吐き出してから組んだ前足の上へと顎を乗せ再び目を閉じる。
眠りに沈みかけた俺を阻んだのは、小さな放電による背中の痺れと、チビ二匹の言い争う声だった。
「どうした」
二匹が怖がらない様俺は努めて優しい声で問い掛け、眠気を訴える瞼を押し開く。
涙目のコリンクが静電気を纏う毛皮を逆立て威嚇するもポチエナは意に解さず、
寧ろ余裕を見せ付ける様身を低くし、尾を緩やかに振って挑発している。
俺に気付いた二匹は互いから視線を外し、転げ落ちる様背中から降りて俺の顔近くへと駆け寄った。
「ねぇリザードン聞いてよ、コリンクったらねぇ」
「もーいいだろ!あんまり言いふらすと噛み付くぞ!!」
コリンクが牙を剥いて見せるが、数ヶ月年下の異性を舐めきっているポチエナは、小さく鼻を鳴らすだけで流す。
「ふふ、あのね、卵はペリッパーが運んで来るんだー、なんて赤ちゃんみたいなこと言うのよ!」
意地悪そうに眼を細め、ポチエナが囁いた途端コリンクがとびかかった。
ポチエナは短い笑い声を零してそれを避け、それから俺を中心にして二匹で追いかけっこを始める。
見ているこっちの目が回りそうなことをしながら、それでも彼女の口は止まらない。
「そんなことある訳無いじゃない。それが本当だったらぺリッパーは休む暇無く飛んでることになるわ。
卵の作り方を知らないなんてお子様コリンク!」
「うるさい!うるさいうるさい!」
そう言って茶化すポチエナも深くは知らないに違いない。その証拠に、
「ポケモンの卵はねー、ラッキーが持ってるのよ。
ラッキーしか知らない秘密のキャベツ畑があって、そこから採って来てママとパパに渡すの」
その微笑ましさに小さく俺は噴出し、周囲でそれを聞いていた仲間もそれに倣うと彼女は自分の間違いに気付いたらしい。
多少罰が悪そうに動きを止める。
今度はコリンクが馬鹿にした表情で彼女を揶揄り、
取っ組み合いの喧嘩になる前にポチエナの首根を軽く咥えて二匹を引き剥がした。
二匹は暫し不満そうに唸りあい、同時に俺を見上げる。
『じゃあ卵はどうやって出来るの?』
俺は暫く二匹を見下ろし、思案する様双眸を細くする。
卵はたしか――…
「卵はな、ナッシーから?いで来る。仲のいい二匹がナッシーの下でキスをすると四つ目の実がなって、
それが卵になるんだ」
二匹は感心した様な声を上げ、様子を傍観していたナッシーに興味を移しそちらへと駆け寄って行った。
矛先を向けられたナッシーが眼を見張り、落ち着き無く足踏みして頭上の木の葉を揺する。
「冗談がきついぜぇ旦那」
「そりゃ俺ら見てるだけで世話しなかったけどよー」
「こう言うのは苦手なんだよ。無茶振りしねぇで助けてくれよー」
俺は聞こえないふりで顔を背け、畳んだ翼を広げ大きく伸びをした。
肩甲骨の間を竦ませる事で鳴らし、寝心地のいい姿勢を探す。
『旦那ー!!』
横目でナッシーを一瞥し、ふと沸いた疑問を零す。
「そう言えばお前、育て屋に行か無くていいのか?そろそろだろう?」
俺は答えを待たず、睡魔に身を任せ瞼を閉じた。
その後ナッシーは散々な目にあったらしい。
夕食頃になってようやく目覚めた俺に、散々不満不平を垂れ流した。
「ったく旦那もポケモンが悪いったら」
「あの後チビ二匹がうるさいのなんの」
「いっそ俺らは本当のこと教えてやろうかってどんだけ思ったか」
今日のポケモンフードは若干湿気ている。
俺は少し顔を顰め、尾先の炎で軽く炙って水気を飛ばした。
「あの後二匹揃って、なぁ?」
「何時育て屋に行くの?卵がなる場所が見たい!」
「大事な儀式だから、他人が見ちゃいけないんだって言い聞かせるのにどんだけかかったか」
かりっとした触感に満足し、口の中でほどけるフードの味を楽しむ。
俺は口に含んだそれを飲み下してから、感慨深気に頷いた。
「――…そうか。それは知らなかった。
何時か見てみたいと思ってたんだが、残念だ」
今迄思いの侭食事の時間を過ごしていた仲間が、一斉にこちらを向く。
仲間達もフードを炙って欲しいんだろうか。
チビ二匹の世話を終えた主人が顔を出し、この光景を俺と同じ様不思議そうに見守る。
俺は何か変なことを言ったんだろうと、遅まきながらに理解する。
あの時のポチエナの気持ちが、何だかわかる様な気がした。
人語を解す仲間が主人に事情を話した途端主人は顔を赤らめ、その後一気に青褪めた。
「ごめんなリザードン、そこまで気遣ってやれなくて」
「グォ?」
俺は事態を把握出来ず、困惑して首を傾げる。
一層涙目になる主人の頬へ顔を寄せ、擦り寄ると何時もの様に顎先を擽って貰えた。
その一方で、主人はポケギアへと手を伸ばし、慣れた様子で通話ボタンを押す。
「もしもし、兄ちゃん?あのさー、リザードンの相手探して…
違う、バトルじゃ無くて。それに兄ちゃん強いからやだよ。
うん、今度で…本当?丁度卵を産ませたいのがいる?
リザードンは雄…いや、どっちでもいいって兄ちゃん」
「ギャゥ…」
「うんうん、リザードンは何も心配しなくていいから。
そうだよな、思えば火も上手に吐けないヒトカゲの頃からずーっと一緒にいたんだもんなぁ…」
通話を切った後主人は俺へと向き直り、何処か懐かしそうに眼を細める。
長く撓る首筋を丁寧な手つきで撫で下ろされ、俺は小さく鼻を鳴らした。
「リザードン、卵はナッシーからとれるんじゃ無いんだよ。
ペリッパーが運んでも、ラッキーがキャベツ畑から持って来るでも無い」
…。主人は何を言ってるんだろうか。
ならどうやって卵は作られるんだろう。
店や自販機で売っているのか?
俺の様に卵の時代から人間の飼育下にあるポケモンが、そう言ったことを知らないのは珍しいことでは無い。
そう慰められても、俺の心は晴れないままだった。
リザード時代、ゴーストに教わったことを今の今迄信じ込んでいたのだ。
馬鹿にも程がある。チビ二匹のことを欠片も笑えない。
あの後首を傾げる俺に主人はうにゃむにゃとした口調でオシベやらメシベやらの関係を説明してくれた。
しかし主人は照れ過ぎて最後まで説明出来ず、結局ポケモンセンターのジョーイさんに事情を話して泣きついた。
そして俺はセンター勤めのラッキーから、ビデオ教材を用いての性教育を受けることになった。
事務的ではあるが親切且つ丁寧、解かり易い講義の後、
笑みを浮かべたラッキーが最後に先程の言葉で俺を慰めてくれたと言う訳だ。
「もう少しで兄ちゃん来るってさ、リザードン。
…兄ちゃんのポケモン、お前と相性が合えばいいんだけどなぁ」
「ギャウ」
俺の首筋を掻きながら、主人が呟く。
どうにも頭の整理が追いつかず、俺は曖昧な鳴き声を上げた。
昨夜知識を取り込んで今日すぐ実践と言うのはどうなんだろうか。
別に興味が無い訳では無いけれど、初めて事に挑むにあたり心の準備をする時間を儲けてもらってもいいのでは。
俺は人語を喋れないし、また主人の好意を無碍にするのも何だったので、小さな溜息を零した後覚悟を決めて顔を上げる。
雲ひとつ無い青空に、ぽつりとした黒い染みが見えるのに眼を眇めた。
徐々に接近するその黒影こそが、カイリューに抱かれた主人の兄だった。
「悪い、ちょっと時間がかかったわ」
言葉に反して然程悪びれる様子も無く地面に降り立つ青年は、成る程主人とよく似た匂いがする。
人間の顔の構造と言うのは俺にとって余り理解が出来ぬので、
似てるかどうかと問われてもよく分からないと言うのが正直なところだ。
「いや、何時もと比べれば全然だよ。そのカイリューがリザードンの?」
主人の言葉に反応し、目の前で佇むカイリューを見遣る。
「グォッ!!」「ギャルルル…」
俺でも解る。相手はどう見ても雄だ。
青年は笑って否定し、その後に「それはそれで面白いけどな」と冗談とも本気ともつかぬ声で呟く。
俺とカイリューが顔を顰めるのは同時だった。
青年はバックから一つのボールを取り出し、無造作に地面へと抛る。
軽い音を立てて出て来たそのポケモンは、俺とご主人の想像を絶する物だった。
「一ヵ月後には様子見に顔を出す。何かあったらメールくれ。じゃ、俺は忙しいから、後頼んだぜ」
用件だけ告げてカイリューへと攀じ登り、伸ばした片手で主人の頭をぞんざいに撫でて掻き乱す。
「ちょっと兄ちゃん…!」
言うが早いか早々に立ち去る青年に主人は何とも言えない表情を浮かべ、軽く肩を竦めた。
そして改めて、広げていた翼を畳み、静かに俺と主人を見つめていたポケモンを見遣る。
「…。ねぇリザードン。俺このポケモン昔話の絵本で見たことあるよ」
太陽の光を受けて輝く七色の羽。
金色の鶏冠は強烈ながら品の良い光沢を纏い、全身から放つ威圧感に反し瞳に宿す光は慈愛に満ちている。
「…どうしようか」
それはこちらの台詞であった。
「キュールォウ」
小さな鳴き声に主人共々飛び上がる。そんな俺と主人を、さも愉快そうにホウオウは眺めていた。
あの青年と主人は兄弟だとしみじみ実感した。
心地よい熱風を頬に受け、狭間に苔に似た植物が申し訳程度に生えているだけの岩肌へと腰を落ち着ける。
目の前には、上昇気流を翼に受け舞い上がるホウオウの姿。
物珍し気に周囲を飛び回り、ようやくに満足したか俺から距離を取った所に舞い降り、
それから鳥類特有の跳ねる様な足取りでこちらに近付く。
一度ダイレクトに舞い降りた際、風圧で俺がよろけたのを見て以来ホウオウはそうして俺に近付く様になった。
近くで改めて見ると矢張りでかい。主竜形類の俺よりも巨大な鳥。
当初こそ若干の屈辱と嫉妬を覚えていたが、それすらも見透かした様ホウオウが笑うので、徐々にどうでもよくなった。
―…結局、俺とホウオウは育て屋に預けられた。
「リザードンとホウオウの子供だったらきっと強いポケモンになるだろうなぁ」
散々心配していた主人は預ける際、そんな事迄零していた始末である。
初めての相手が神話レベルのポケモンとは一体どう言うことだろう。
ハードルが若干、否、かなり高過ぎやしないだろうか。
あの時はカイリューに同情したが、俺の主人も結構似たり寄ったりかも知れない。
そもそもこいつは雌なのだろうか。雌なんだろう。多分。
俺は不安になって、相手に聞いてみることにした。
ホウオウは翼を繕う嘴を一旦休め、頚を傾げる。
「…我はその様な事柄を超越した存在故、雌雄と言う概念自体が無い」
落ち着いた声音は涼やかで、俺の枯れたしゃがれ声とは対極にある様だ。
聞き惚れる一方で、初めてが超越した存在と言う予想外の難関に思わず空を仰ぐ。
俺は青空の彼方、朗らかに微笑むラッキーの面影に助けを求めるも、
別に死んだ訳でも何でも無いラッキーは微笑むばかりで何も答えてはくれない。
「……すまぬ」
俺の狼狽が伝わったのか、静かにホウオウは呟く。
「…、アンタ…いや、…貴方が、嫌だと言う訳では無い、です。俺は―…」
呼称や口調を改める俺にホウオウは笑い、頭を緩く左右に振る。
「普段通りでよい。今、主と我はツガイじゃ。そうであろう?」
口許にホウオウの羽根先が軽く宛がわれ、独特の質感が口許を撫ぜる。
こうされると俺の鼓動は、妙に落ち着かず弾むのでどうにも苦手だった。
動揺した俺の吐息は軽く発火する程であったがホウオウは熱がる様子も無く、
その七色の羽毛の中へと取り込む様沈めてしまった。
「なれば、遠慮は無用じゃ。主の良い様に。…主が望むのならば、我を雌として扱うが良い」
恐らく相手は何気無く言ったのだろう言葉に、何故か俺の方が照れて膚を火照らせる。
初日から今日まで終始こんな状況で、相手とは大分打ち解けたとは思うのだが、
相変わらず俺は落ち着けないままでいる。
その間もホウオウの羽根は俺の鱗上を滑り、柔らかなタッチで輪郭をなぞる。
主人に触れられるのとは微妙に異なる心地よさに、思わず尾の付け根が震えた。
「我相手では、その気も起きぬか」
顎下を擽る動きに、意味も無く指の開閉を繰り返してしまう。
膨らんだ咽喉に炎と唸りを篭らせ、鼻腔から火薬に似た匂いの吐息を零す。
「―…う、では。無い。…、ホウオウ、少し、待ってくれ。
…落ち着かない」
瞬きの回数が自然と大きくなり、先程済ませたばかりだと言うのに排泄感に似た感覚が俺の股間を疼かせる。
思わず鼻梁へと皺を刻み、懇願するもホウオウは何処吹く風で笑うばかりだ。
「ならば、何故じゃ?」
ホウオウは首を傾ぎ、静かに俺を見据える。
炎の様に赤い双眸は、相変わらず優しい光を燈していた。
俺は口篭り、暫く意味の無い呻きを零す。
今迄なら、そこで終わっていた筈だった。
揶揄う様にホウオウが嘴同士を摺り寄せ、満足すれば身を離し傍らで寛ぐ。
時折ホウオウは思い出したかの様に過去を語り、俺はそれに応えて仲間の話や主人との旅の話をした。
俺は此処に預けられた目的から故意的に意識を逸らしていた。
卵を作る気配も無い、寧ろホウオウが身を寄せる度妙に気構えて体を硬くしていた俺に、
ホウオウは今迄気を使ってくれていたのだろうと思う。
自分の経験が無いことが、酷く恥ずかしい様に思えて、俺はホウオウにその事実を告げたくなかったのだ。
妙に乾いた口中を湿らせ、拳を握り締め意を決して口を開く。
「俺は……。その、…は、初めて、なんだ。
だからよく、…色々と…特に…アンタみたいなのと、その、どう…卵を作ったらいいのかが」
俺に汗腺があったなら、この体は相当湿っている筈だろうと思う。
「愛い奴」
ホウオウは何もかも見透かした様に笑い、徐に羽を広げる。
七色の光が輝き、ホウオウの体を一際大きく見せた。
風圧で傾いだ俺の体をホウオウは足で軽く押し遣り、白色の爪を俺の腹部へと軽く埋める。
仰向けになった俺に圧し掛かったホウオウに、獲物を掴む様握り込まれ、思わず頚を逸らした。
白色の柔毛が擽る様腹部に押し当てられ、そしてその接触は徐々に下方へと下がる。
接触の前、若干硬い尾羽が尾の付け根を弄り、その刺激に俺のスリットから赤紫の肉錘が顔を覗かせていた。
排尿感に似た違和感は一層強くなり、心臓が下腹部に移ったのでは無いかと思う程の脈動に応じ熱が篭る。
尾の先に燈した炎は興奮によって一層膨らみ、地面を黒く焼き焦がしていた。
柔らかく温かい羽毛の感触から一転し、ぬるりとした粘膜がペニスの先端を撫ぜる。
俺のそれと同様、触れる粘膜は熱い。ホウオウも興奮しているのだと思うと、一層下腹部に熱が集中した。
「知らぬと言うならば教えてやろう。何も怖がる必要は無い」
ホウオウが羽ばたく都度振動が伝わり、濡れた粘膜同士がくちくちと言う淫音を立てる。
淡い接触に焦れながらも俺は何をしたらいいのか、この熱を解消するにはどうしたらいいのか解らず歯噛みした。
ホウオウが身を乗り出し、掛かる体重に思わず俺が息を吐き出す。
先端から徐々に熱くぬめる粘膜で飲み込まれ、付け根が竦む様な快楽が俺を襲った。
ホウオウが身を揺らす都度細かな溝が震えながら蠢き、肉環が窄んで締め付ける。
短い腰の跳ね上げもホウオウに抑え込まれて儘ならず、俺は情けない呻きを零した。
蕩けた粘膜が先端に口付け、舐り、かと思えば酷くヌメヌメとした全体で雄を包み込む。
頭の中で疑問符が弾け、ホウオウが短く息を漏らすか漏らさぬかと言った所で、込み上げる何かの衝動に気付いた。
その衝動の儘腰を震わせ、ホウオウの内部で俺は精液を吐き出した。
「――…は」
どぶ。ぷ。びゅぶっ。
内部で砲身が脈動する都度、先から精液が溢れ出る。
ホウオウの孔は内部の柔らかさに反して狭く、
俺のペニスがみっちりと嵌まり込んで蓋をしているため精液が毀れることは無い。
ホウオウが浅く腰を持ち上げ、砲身を半ば抜き出す事で、ペニスに絡まっていた精液が掻き出され捲れた淵周りを汚す。
「ホウオウ」
快楽に戦慄く俺の声に応え、ホウオウは長い頚を巡らせ俺の首に軽く擦り寄る。
羽毛が柔らかく鱗を逆撫でし、違和感と共に言い様の無い熱を覚え震えた。
堪らず口吻を寄せるも、嘴の先同士がかち合い、軽い衝撃を受けて弾かれるばかりで色気から程遠い行為となる。
構造上キスが出来ずとも仕方無いのかも知れないと俺が諦め掛けたその時、
ホウオウは数度俺の口吻を嘴でノックして口を開かせた。
親から餌を強請る雛の様に嘴の先を軽く捩じ込み、舌先を軽く摘んで引き出す。
今度は己も嘴を開き、首を傾ぎ角度付ける事で狭間同士を重ね合わせる。
先端が丸くつるりとした舌先が俺の舌へと触れ、俺は飴玉をしゃぶる様肉厚な舌を懐かせ絡めとる。
構造上深い口付けが叶わないながらも、俺は夢中で差し出された舌先を舐った。
「…リザードン…」
舌を引き抜かれ、思わず不満気な声が零れる。俺から離れたホウオウを追い、首筋を咥え甘噛みすることで引き止めた。
「これ」
叱責すら甘く、喜びを射精しても萎えぬペニスを震わせて表現する。
離す気配が無いと知るとホウオウは羽ばたきを一度休め、全体重を腹部へと掛けて来た。
「ギャウッ!」
流石に辛く、牙を離し背中を丸めた途端ホウオウは羽ばたきを開始する。
その儘総排泄孔より俺のペニスを引き抜き、地面へと涼しい顔で降り立った。
俺の雄の形に拡張され弛んだ肉孔から、ねっとりとした精液が溢れ伝い落ちる。
無造作に背中を向ける相手に遅れ、俺は立ち上がり翼を広げた。
燃え盛る尾の炎を揺らめかせ、本能の儘「雌」に対する求愛を行う。
低い音を膨らむ咽喉で鳴らし、零れる熱を炎に変え、吐息に絡ませて押し出す。
俺はホウオウが欲しかった。一度では到底足りない。今迄知らなかった分、何度でも欲しかった。
この「雌」が俺の子を孕んだと確信出来る迄、何度でも繰り返し中で吐き出したかった。
長くしなやかな首筋へと口吻を摺り寄せ、抵抗が無い事を確認すると前足を掛ける。
ホウオウの腰が小さく震え、金色の尾羽が緩慢に持ち上がった。
「位置はもう、覚えたか?」
刺激的な匂いが俺の鼻腔粘膜を焼き、思考を熱く蕩かせる。
先端を潤む粘膜へと宛がうと、俺は背中の翼を動かして羽ばたき、狭い総排泄膣の入り口を再び抉じ開け砲身を埋める。
背中の揺れで、ホウオウが笑ったのが解った。
「――…我が」
体重を乗せて根元迄埋め、馴染み吸い付く肉を掻いて引き出す。
「…圧し掛かれば、辛かろう」
言葉の合間に吐息が零れ、特に根元迄捩じ込む際は声音が揺れる。
爪先で羽毛を掻き分け、尾羽の付け根を圧迫すると、雄肉を包む膣環がきゅうと窄まった。
「それ、に」
伸びたホウオウの首元がブルブルと戦慄き、根元を縊る淵から、ねっとりとした蜜が湧き出して俺の砲身に絡む。
「雄は、雌を組み敷くもの、であろう」
語尾が持ち上がるも、俺に聞いている訳では無いことは知っていた。
仮にそうだとしても、俺がそんなことを知る筈も無い。
ホウオウに言われ、初めてそんなものなのだと朧ながらに理解するのがやっとだ。
角度が悪いのか二度目は中々根元迄埋まらず、先端で襞を執拗に擦り空間を求める。
引き伸ばされ歪む淵からぐちぐちと粘っこい音が零れた。
肉環の収縮は既に痙攣が伴い、ホウオウの体が苦し気に波打つ。
一瞬本当に苦しいのかと勘違いしかけたが、ホウオウも自分と同じ様快楽を覚えているのだと言うことが解った。
ホウオウの体は規格外の大きさ以外は鳥のそれと変わり無く、板書された物の様複雑な作りでは無い。
俺のペニスを飲み込むこの孔が、全てを兼ねるのだと思うと意味の無い興奮に駆られる。
腰の動きの儘に俺より大きなホウオウの体が揺さぶられ、一際熱い粘膜が震える。
荒い息と微かな唸り声ばかりで嬌声は薄く、切れ切れに呼ぶ声とそれに応える声が混じった。
もっと深く、もっと奥で。確実に俺の種がホウオウの胎内に宿る様に、性衝動と本能に導かれ腰を動かす。
腹部を叩き付ける音は羽毛に緩和されるも、粘膜はそうも行かず粘液の飛沫を零しながら水音を零した。
二度目は先程よりも持ち、三度目は更に間が開いた。四度目はもっと長くこの心地良い空間にいられるだろう。
気付けばホウオウの七色に輝く羽根が数枚散って足元に落ち、岩肌に食い込むホウオウの爪先が小刻みに痙攣していた。
嘴の周りを唾液で濡らし、うつろに双眸を細めるホウオウの顔を覗き込むと、俺を飲み込んだ儘微かに笑う。
「良い様に、と言うたであろう」
細く掠れた声音はそれでも涼やかで、胎内に伝わる振動と締め付け、鼓膜を撫ぜる心地良さに俺は低い唸り声を零した。
翼を広げ、青空を優雅に飛ぶホウオウを俺は眺めていた。
「ホウオウ」
一抹の寂しさを覚え鎌首を擡げ呼び掛けると、すぐに反応してホウオウはこちらへと舞い降りる。
「何用か」
弾む様岩肌を歩み、傍らで立ち止まると嘴を寄せて俺の顔を覗き込んだ。
無言で折り畳まれた翼の合間へ顔を寄せ、鼻先で捩じ込む様にして潜り込む。
微かな振動は直接的に、涼やかな笑い声は若干篭って俺に伝わった。
「――…今日で、最後か」
今日で一週間。ホウオウの主人、あの青年が戻る日だ。
鼻先で脇腹を擦り、俺は深く溜息を零す。
「…若し今日、主人が我を連れ帰り、離れることとなっても」
翼から緩慢に頭を抜き、俺はホウオウの瞳を見詰める。
「我は主のことを忘れぬ」
暫し俺達は見詰めあい、どちらともなく首筋を絡ませた。
「…寂しくなる」
ぽつりと零されたその一言で、俺の心はどうしようも無く締め付けられると同時に満たされた。
久方振りの再会に喜ぶ主人に応えて顔を摺り寄せ、横目でホウオウの入ったボールを手に持つ青年を見遣る。
「聞いたら随分相性がよかったみたいじゃないか。そこでだ」
青年は何故か主人で無く俺を見た。
多少の期待を込めてボールへと視線を移すが、ボールはあっさりと鞄の中へと片付けられる。
再び引き抜いた青年の掌の上には、ボールが三つ。
ホウオウの時の様に無造作に地面へと放り投げ、出て来たポケモンを満足気に眺めてから俺へと顔を向けた。
「こいつらとも、仲良くなれるんじゃないかと思ってさー」
軽く周囲を見渡した後、好戦的に俺を睨み付ける獣。
その獰猛さを表す様牙が顔を覗かせ、纏う暗雲に混じった紫電が音を立てる。
こちらに興味が無さそうに顔を背け、暢気に身を撓らせる獣。
三匹の中でも一番大きな体格を持ち、王者の風格が全身から滲み出ている。
もう一匹とは対照的に、俺を静かに見据える獣。
しなやかな体躯に、緩く波打つ鬣が流水を思わせた。
そして三匹に共通するのが、ホウオウにも感じた静かな威圧感。
青年の声に反応して三対の赤い双眸が俺を見据え、同時に同じ疑問を口に出した。
『何故お前からホウオウの匂いがするんだ』
口調は異なるが、その疑問、そしてその言葉の裏に在る三者三様の不快感は共通だった。
「…。ねぇリザードン。俺このポケモン昔話の絵本で見たことあるよ」
その台詞は以前にも聞いた気がする。
これが俗に言うデジャ何とかと言う奴なのかも知れない。
案の定早々に立ち去る青年と、暫し悩んだ末同じ言葉を吐き出す主人を前に、俺は目の前が真っ白になりそうだった。
相変わらず空に浮かぶラッキーは、微笑んだ儘何の解決策も俺に与えてはくれない。
何処か遠くで、ホウオウの笑い声が聞こえた様な気がした。
おわり