「はぁ……」  
 
エンジュシティのとある民宿。  
乳白色のお湯にとっぷりと使って、私は大きなため息を吐いた。  
マツバさんとお付き合いすることになってからはや2ヶ月。  
今までマツバさんはまだ子どもの私に合わせて、少しずつ少しずつ関係を進めてくれた。  
マツバさんは私なんかよりもずっと大人で、だから、男女交際の最終地点にあるものがちゃんとわかっているわけで。  
私もそのことを理解していたはずなのに、今日、それを拒んでしまった。  
お湯の中で、まだお世辞にも大きいとはいえない膨らみを、そっと手で包む。  
「触られ、ちゃった……」  
私をいつもよりもぎゅっと抱きしめて、受け止めたキス。いつもとは違う、深いキスだった。  
ぬるっとしたマツバさんの舌が、私の口の中へ入ってきて、満遍なく嘗め回してきて……  
私はその息苦しさや、何故かうずくおなかの辺りの違和感と必死に戦っていた。  
そして、私の腰で組まれた手は、なでつけながら上のほうへ伸びていって……  
「!! いやぁっ!!」  
服の上から、左胸をやんわりと刺激したマツバさんの手を、私は思い切り跳ね除けてしまった。  
その瞬間、私たちの周りだけを包んだ妙な気まずさに耐えかねて、私はそのまま何も言わずに走り去ってしまったのだ。  
「あの時のマツバさん……、悲しそうな顔してたな……」  
好きな女の子に触れたいと思うのは、男性としては当然の欲求であって、女の子は当然、いつかはそれを受け入れなければならない。  
だけど、今の私にはそんな覚悟は無かった。それに、マツバさんを満足させる自信がない。  
「でも、いつかはしなきゃいけないんだよね」  
私は空を見上げた。湯煙にぼやけて見える月はとても綺麗だ。  
静粛な時間が流れ、その間悶々とマツバさんのことを思い浮かべる。  
胸に添えられた手。私のが小さすぎて、がっかりしてしまっただろうか。  
「アカネちゃんやイブキお姉さんみたいに、おっぱいが大きかったらなぁ」  
そう呟いた瞬間、静粛を切り裂いて、脱衣所の扉が開く。  
もしかして清掃員さんだろうか? だが、その直後、ちゃぽん、とお湯に入る音がした。  
そちらのほうを見ると、そこにいたのは、なんと、マツバさんだった。  
「きゃあっ!!? ま、ま、まま、まマツバ、さん!!?」  
「コトネちゃん!? な、何でここに……!?」  
「それはこっちの台詞ですよ! ここ、女湯ですよ!?」  
「おかしいな。俺は確かに男湯から……」  
はっと思い出した。そういえば、ここの入り口に、22時以降は混浴になります、って書いてあったっけ。  
なんて迂闊だったんだろう。こんなことになるのなら、地下の大浴場に行けばよかった。  
さっきの言葉を聞かれてないか不安になりつつ、岩場の陰に身を隠した。  
お湯が白いせいで、裸を見られる心配はないけれど…。私の目には、一瞬だけ見えたマツバさんの体が焼きついてしまった。  
普段はバンダナ巻いたり、マフラー巻いたりしてるけど、それをすべて取り払ったマツバさんは、意外なほどにがっしりしていた。  
その事実が余計私をそちらの方向へ意識させてしまう。  
(マツバさんは、ちゃんと、男の人なのに。私は……)  
自分の体を抱きしめた。やっぱり私は、マツバさんを満足させることなんて出来そうにない。  
「ねぇ、コトネちゃん」 しばらくして、岩場の向こうからマツバさんの声がした。  
背を向けたまま、「はい」と返事すると、向こうから、ちゃぷん、とお湯の音がする。  
 
「今日は…ごめん。その、君もまだ心の準備が出来てなかったのに……」  
「あ、いえ、いいんです。私こそ…ごめんなさい。」  
「なんでコトネちゃんが謝るんだい?」  
「だって……マツバさんをがっかりちゃったし……」  
今なら何でも話せるような気がした。それは、お湯に使っているせいかもしれない。裸であるせいかもしれないけれど。  
一通り自分の気持ちを彼に伝えた後、何故か気持ちが楽になった。  
「マツバさんは……、私に触りたいですか?」  
「え?」  
「その、私と、そういうこと、したいですか?」  
背後でざばん、と音がする。振り替える間もなく、逞しい腕が私をすっぽりと包んでいた。  
「したいに決まってる。だけど…君は……」  
体がかぁっと熱くなるのを感じた。回された腕にそっと触れる。  
「マツバさん……私………」  
どうしてだろう。さっきまで悩んでいたはずなのに。今は、ものすごく、そういうことがしたい。  
「マツバさん、私、なんだか―――」  
ほぼ無意識のうちに、マツバさんの手を、自分の胸へ導く。決して大きいとはいえないそこに。  
「こ、コトネちゃん……」  
「マツバさん、お願い。…して、ください――」  
体が熱い。お腹の方―――ううん、もっと下のほうがうずいている。きっと、私は、マツバさんを欲しがってるんだ。  
「いい、のか?」  
マツバさんの問いにゆっくりと頷く。マツバさんの手がぴくり、と反応し、私の小さな胸を撫ではじめる。  
 
 
「んっ……!」  
乳白色の温泉の中で抱き合い、お互いを撫で回しながら舌を絡める。  
初めてのときより気持ちよく感じた。この気持ちよさをもっと感じようと、夢中でむしゃぶりつく。  
その間、マツバさんの手は私の胸から離れようとはしなかった。  
優しく揉みしだき、乳首を摘んだり、転がしたり。まるで、私の胸で遊んでいるようだ。  
やっとのことで口が離れた後、すぐに唇は胸へ移動し、乳首にしゃぶりつく。  
「はぅっぁ…あぁ……」  
気持ちいい。マツバさんが胸をいじるたびに、あまりの気持ちよさに、色っぽい声が出てくる。  
夕べのように、嫌悪感を感じることもなかった。もっと、もっと―――心の中で、何度もそう繰り返す。  
マツバさんの動きは、私のそれに答えてくれるように、徐々に激しさを増す。  
「気持ちい―――! あぁぁっ、ふぁぁ……」  
「いいよ……もっと感じてくれ……」  
ぼんやりとした熱気の中で聞こえてくるマツバさんの声にすら、私は興奮した。  
もっと、もっと―――繰り返すたび、下がじゅくじゅくとうずいてくる。早く触って欲しい。はやく、早く―――!  
「マツ、バさ……」  
潤んだ目で彼を見つめる。さっきから胸を愛撫する彼と、視線がぶつかった。  
「ん、わかった」  
何も言ってないのに、マツバさんは微笑みながら頷いた。  
左胸をいじっていた手が下へ下へと降り、ちゃぷん、と音がした後、うずいている私のそこに触れた。  
「ひゃぅっ!?」  
「お湯の中なのに、濡れてるのがわかる…。ぬるぬるだね。」  
「そ、そこっ!! そこ、もっと…ぁぁ」  
「もっと、何?」  
「さ、触って―――!!」  
私の返事を待たず、うずくそこに、太い指が滑り込んでくる。その瞬間、体の奥底から快楽がわいてくる。そうだ、私は、これを待ってたんだ―――  
「あんっ、あぁん! まつ、ば、さ……! そこ、いい! いいのぉ!!」  
ずちゅずちゅといやらしい水音が、下から聞こえてくる。  
温泉の熱さもあって、私ははぁはぁと息切れしつつも、マツバさんの動きに合わせて、腰をくねらせた。  
腰を動かしてると、また更に気持ちよくなる。マツバさんは、喜んでくれているだろうか?  
 
「コトネちゃん、俺もそろそろ……」  
「まつば、さんっ、わ、たし―――!」  
おかしくなりそうだった。さらに、体が火照って、熱い。壊れてしまいそうだと思った。  
だけど、それもいい。マツバさんになら、壊されても―――  
私の腰の辺りに、何か硬い棒のようなものが当たった。それは、おしりの割れ目を通って、そこにたどり着くと、そこを何度も行き来し、こすってくる。  
「ああ、ああん! それ、欲し…! それを、く、くだ、さ!! ああんっ!!」  
「…入れるぞ!!」  
棒の先っぽが割れ目の中に入ってくる。腰の動きが一層早くなり、いやらしくなる。  
だけど気持ちよかったのもつかの間。何かが押し広げられていく感覚と、強烈な痛みが私を襲った。  
「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 痛い! いたぁい!!!!!」  
マツバさんの棒は、私の悲鳴に構うことなく突き進んでくる。今までに感じたことないくらい痛い。のに、腰はまた更に動きを増す。  
完全に奥に入り込んだ棒は、一旦停止したかと思うと、出ていったり、また入って来たりを延々と繰り返す。  
汗と同時に、頬を涙が伝った。汗と涙の雫はぽとりとお湯の表面に滲む。そして、そこが赤く染まっていた。  
これは……私の血?  
「あああぁあぁぁぁっぁ!! 痛い、痛いよぉ、マツバさぁん!!」  
痛くてしょうがない。だけどやめて欲しくない。正反対の感情との葛藤に苦しみ、私は悲鳴を上げた。  
完全に奥に入り込んだ棒が脈打ち、お湯よりも熱い何かが注ぎこまれたのと同時に、私の意識は遠のいた。  
 
 
気がつくと、私は布団に寝かされていた。うっすらと目を開けた視線の先に、心配そうなマツバさんの顔がある。  
「気がついた? よかった…」  
「マツバさん……?」  
恐る恐る布団の中を覗くと、私はしっかりと浴衣を着ていた。先ほどまで、お湯の中にいたはずなのに…。  
もしかして、あれは夢だったのだろうか? ゆっくりと起き上がってみると、おなかと、あそこがずきりと痛んだ。  
生理の時とは違う痛みに思わず顔をしかめると、マツバさんが申し訳なさそうな顔になり、深々と頭を下げてきた。  
「ごめん! 俺、夢中で、コトネちゃんのこと気遣えなくて……!」  
「? えっと、何のこと―――」  
「我慢できなくて、中に出してしまって……ごめん! 責任は絶対に取る!!」  
我慢? 責任? 一体何のことだろうか? 疑問を口に出す前に、思い当たる節が頭に浮かび、はっとなった。  
アレは夢ではなくて、現実のことだったのでは……。そして、マツバさんが言う、我慢や責任と言うのは―――  
お腹にそっと手をやる。この中に、マツバさんの熱いものが、注ぎ込まれた…。  
笑ってしまった。だけど、それは決して嫌な笑いではない。  
「責任、本当に取ってくれますか?」  
「もちろん。それでコトネちゃんが許してくれるなら、なんだって――」  
その先を告げようとする唇を塞ぐ。温泉でやったように、彼の舌に、自分の舌を絡めて。  
ようやく離れた舌先を銀の糸が繋ぎ、それがふつりと切れたとき、彼の耳元で、ささやいた。  
「愛し合いませんか? これからも、ずっと。…毎日でもいいですよ。」  
 
 
 
あの温泉に精力増強と誘引効果があることを知ったのは、マツバさんと再び激しく絡み合った翌朝のことだった。  
 
 
 
 
END  
 

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