俺は、この女が嫌いだ。
栗色の髪に、すらりと伸びた手足。整った顔立ち。多分、「かわいい女の子」の部類に入る容姿。
表情は顔にあまり出さず、いつも平静を保っている。それがまた不思議な雰囲気を醸し出している。
で、何故か、俺の家へ居候している、この女。
兄貴は行方不明、母親は気を病んじまった。父親の事情は俺も知らないが――――
まぁ、そんなカワイソウな境遇に陥っちまったこの女を、うちのじいちゃんが哀れんで、
俺の家に居候させているわけだ。
正直、すっげぇ迷惑だ。
風呂入るにもトイレ入るにもいちいち気を遣わなきゃいけねぇし、
何より、愛嬌がないし、喋らないし、何を考えてるのか、全く見当がつかないほど無表情だし。
皮肉を言っても、泣きも怒りもせず、眉ひとつ動かさねぇし。
それだけならまだしも、夜中にどこかふらっと出かけて、朝方にまたふらっと帰ってくる。
深夜に一体何をしているんだ、この女は。
ここがド田舎といえど、女が深夜にふらふらするもんじゃねぇだろ。
そんな珍妙な素行をするもんだから、町の若い奴らが下世話な噂をする。
「援交やってる」だの、「アイツは誰とでも寝る」とか。
あの女が何言われようが関係ない。どうでもいいことだ。
だけど、最近では俺にも飛び火しているらしい。
「グリーンはリーフとヤッてる」とか。
そんな馬鹿げた発言をする奴らはボコボコにしてやったが。バトルじゃなくて、拳で。
誰があんな貧相な体……ではないけど、結構、胸はあったけど。あんな無表情な女に欲情するもんか。
小学生じゃねぇんだから、そろそろあの女も自分の行動にセキニンっつーもんを持つべきなんだよ。
俺にまで迷惑かかるじゃねぇか。
ジムに行く気分にもなれず、俺はモンスターボールからピジョットを出した。
日も西に傾き、界隈が赤く染まる頃、ピジョットの背に乗って、カントーを空から一望する。
空から見る町の情景は、中々悪くない。
そして、どうしても、視界に入ってくる、一際白く輝く山。一年中、雪に覆われた山。
……レッドが、行方知れずになった、山。
ピジョットが翼を翻し、グレンタウンの堅い岩肌に着地する。
「……お前の所為だからな」
恨み言をひとつ、ここへはいないレッドへ漏らす。
「お前の母ちゃんが気を病んだのも、それで、お前の妹が暗くなったのも、全部、お前の所為だ」
語尾が力なく掠れた。そんな主人の様子に、ピジョットは喉を鳴らし、顔をグリーンの頭に寄せてくる。
その首あたりをグリーンは撫でてやりながら、物憂げに、瞼を伏せた。
やり切れない気分のまま帰宅し、ずかずかと階段を踏み鳴らして、自分の部屋へ入る。
姉ちゃんが、「ご飯はどうするのー?」と暢気な声をかけたが、無視。
眉間に皺を寄せたまま、溜め息を吐いた。
と、違和感を察知し、視線を上げる。
本棚の前に佇むリーフの姿。俺は唖然として、リーフの横顔を見据えた。
この女は、何をやっているんだ。俺の部屋で。
「おい、何してんだよ」
「……見れば分かるでしょ。本、読んでる」
リーフの手元には、かわいいポケモンという表題の雑誌が握られていた。エロ本より見られたくない俺の本だ。
顔に熱がたまっていく。俺はその雑誌をリーフからぶん取った。
「つーか、何、勝手に人の部屋入ってんだよ、アホ! 誰の許可もらって入ってんだ!」
「……ナナミさんに、本が読みたいって言ったら、グリーンの部屋にあるから取ってきていいよって……」
「本人の許可を取れバカ!!」
きょとん、と目を丸め、リーフは無言のままマイペースに本棚に雑誌を戻し、俺の横を通り過ぎようとした。
ごめんの一言もなく。いい加減にムカついた俺は、リーフの腕を引っ掴んで、顔を突き合わせた。
「謝ることも出来ねぇのかてめぇは!!」
「……じゃあ、ごめん」
さらりと言い、リーフは払いのけるように俺の手から逃れた。
俺は益々ムカつき、壁際にリーフの体を押し付けてやった。
放して、と抵抗する腕を押さえ込み、ずい、と顔を近づける。
「もう、勝手に俺の部屋に入ったのはどうでもいい。ただ、深夜にうろちょろするのはやめろ。俺にまで変な噂が立つんだよ」
「……何で?」
「察しろよ、アホ!!」
俺の怒鳴り声に、リーフはうるさそうに耳を塞ぐ。
「……やましいことがなければ、そんな噂、気にしなければいいじゃん」
ぽつり、と彼女は呟く。反論に詰まる俺を更に追い詰めるように、リーフは更に続ける。
「グリーンって、下品。うるさいし、粗暴だし。いっつも怒って、何をそんなに苛々してるの?」
予想しなかったリーフの言葉に、俺は頭に血が一気に上った。
怒らせているのは誰だ。そう思った瞬間、理性が抑制する前に、手を振り上げて、リーフの頬を思い切り叩いていた。
リーフの華奢な体が弾けるようにして、壁に叩きつけられた。
赤くなった頬を押さえ、リーフは驚きに目を丸くして、俺を見据えた。そして、じわりと滲む涙。
俺を押し退け、リーフは階段をいつもより足早に駆け下りていった。
咄嗟に俺はリーフを呼び止める。
「おい、夜中にうろちょろするなって、さっき言っただろ!」
くるり、とリーフがいつになく苛立った面持ちで、振り向き、そして呪いの言葉を吐き捨てた。
「しね」
ガチャガチャ、バタン、とドアが乱暴に閉まる音。
……あまりにもショッキングな言葉に、俺は言葉も表情も失った。
ポケモンの状態でいうなら、こんらん。
頭をメガトンパンチで叩きつけられたみたいだ。
しねって……しねって……死ね……だよな……
騒ぎを聞きつけた姉ちゃんが、忙しなく階段を駆け上ってきた。
「グリーン、リーフちゃんと喧嘩したの? またどうせ、アンタがちょっかい出したんでしょう」
憤然として、姉ちゃんは俺に非があることを前提に説教をかましてくる。
でも、流石にさっきの行動は悪いことをした、という自覚が俺にもあったから、
今日は大人しく姉ちゃんの説教を聞いていた。
しゃがみこみ、頭を膝に押し付ける。ああ、くそ、あの兄妹には振り回されてばかりだ。
リーフから言われた悪罵が脳内をぐるぐるとめぐる。下品で、粗暴。初めて言われたぞ、そんな言葉。
終いには……しね。
窓を開け、暗い闇に飲まれていくリーフの姿を見つめる。
さっき注意したばかりなのに、またアイツは外をうろちょろしてやがる。
後ろ姿からではよく分からないが、リーフは泣いているようだった。時折、涙を拭う動作をしている。
良心の呵責を覚え、追いかけようかと逡巡したが、それもまた振り回されているようでムカつく。
ちら、と横目でリーフの腰にモンスターボールが携帯してあることを確認し、俺は窓を勢いよく閉めた。
知るか、あんな奴のことなんか。
悶々としたまま寝床に入ったが、いつの間にやら眠っていたようで、カーテンの隙間から日光が差していた。
寝惚け眼のまま、カーテンを開け、窓を開ける。冷たい風が吹き込んできた。
身震いをしながら窓を閉めようとしたが、窓越しの光景に、俺は寒さも忘れて硬直した。
……リーフが、男と並んで歩いている。
勢いよく身を乗り出した所為で、窓ガラスが額に直撃したが、気にしない。
ピジョットをモンスターボールから出し、背中に飛び乗った。
感情任せに走り出したはいいが、二人の前に飛び出てどうするんだ?
自問自答するが、結論が出るに、俺は既に二人の前に立ちはだかっていた。
突然、ピジョットの背中に乗って、目の前に現れた俺に、リーフと隣にいる男は呆然としていた。
まぁ、俺が逆の立場でもだいぶ驚くと思うが。
「リーフ、お前、何やってんだよ」
「グリーンには関係ないでしょ」
ぷい、とそっぽを向き、リーフは男の後ろに隠れる。
腕を組む形で引っ付いた、リーフと男の距離の無さに、俺は苛立ちを覚えた。
リーフにしがみ付かれた男は、俺とリーフと交互に見つめ、困ったように頭を掻いていた。
男の目に、優越感が見え隠れしているのを、俺は目敏く気付いた。
苛立ちが募っていく。
「なんだよ、コイツ」
「……昨日の夜、一緒にいたの」
一瞬、思考が停止し、体中の血液が冷えた気がした。それは、どういう意味だ?
俺は出来るだけ動揺を抑え、冷静に訊いた。
「……どういう意味だよ」
「この人の家に泊めてもらっただけ。グリーンの家に帰りたくなかったし、だけど、野宿ってわけにもいかないしね」
リーフが言い終える前に、俺は目の前の男を殴り飛ばした。男の体が弾けるようにして、地面へと倒れこむ。
俺は自分も驚くくらいに激昂していたらしく、荒い息を抑えられない。
男の頬を殴った拳が、軋むように痛んだ。俺は、リーフの腕を引っ掴んで、ピジョットの背へと乗り込んでいた。
「グリーン、痛い、痛いってば」
こんな状況でも、感情の起伏が見られないリーフの声に、俺は無性に腹がたった。
「いたっ」
軽く突き飛ばすと、リーフの体は反動なく、床へと尻もちをついた。
眉に皺を寄せて、彼女をこの上なく煩わしそうに、乱れた長い髪をだるそうに掻き揚げた。
「男の家に泊まるのが、どういう意味が分かってんのかお前は」
リーフの華奢な腕を掴み、グリーンは顔を突き合わせた。
「知ってるよ。セックスするってことでしょ?」
露骨な言葉もさらりと彼女は吐き捨てた。途端、リーフの表情が皮肉めいた笑いを湛えたものになる。
グリーンは怒りが込み上げ、叫ぶように吐き出す。
「お前がそんなんだから、街の奴らにあることないことを噂されんだよ!!」
「知ってるよ。だから、試してみたの」
勝ち誇ったように口角を持ち上げ、リーフは言う。
「あの女ならヤれる、とか下世話な噂をするくせに。いざとなれば、何にも出来ない、情けない男たち」
――――頭の中のどこかが、ぶつんと音を立てて弾けた気がした。
伴って、激昂していた感情が途端に冷えていった。
床に座り込んでいたリーフの華奢な腕を掴み、ベッドへと突き飛ばす。
衝撃に、ベッドのスプリングが軋んだ。
リーフが抗議する前に、グリーンは彼女をベッドへと組み敷いた。
唐突な展開に、リーフはまだ状況が飲み込めていないらしく、無垢に目を丸めたままだった。
「お前が悪い」
表情を崩さず、グリーンは酷薄な声で言い放つ。
真っ白なリーフの腕は、彼の無骨な指に掴まれ、乱暴にベッドへ縫い付けられた。
やっと状況を飲み込んだリーフは、威嚇するように彼を睨みつけた。
「……何をするのよ」
目は鋭かったが、声には震えが滲んでいた。
その声を無視し、グリーンは黙ったまま、彼女の細い首に顔をうずめた。
顔や首に当たる髪の感触に、リーフは不愉快そうに眉を顰めた。
ただの脅しだろう、と高を括って、リーフはじっと黙っていたが、
服に手をかけられたところで、頭の中で警醒が鳴った。
「ちょっと……」
グリーンの腕の中に納まりながらも、リーフは身悶えをして、その手から逃れようとした。
冷たい手が衣服の中を這い回り、下着に手がかかる。びくりと背を震わせて、リーフはその手を掴んだ。
彼の目は、ひどく冷静で、無機質だった。背筋に冷たいものが走る。
いや、と震えた声でリーフは頭を横に振った。
グリーンは何も答えず、やや乱暴な所作でリーフの上着を捲り上げた。
下着が露にされ、リーフの表情に戸惑いが浮かぶ。
両手で胸を隠そうとしたが、グリーンの手がそれを許さなかった。
体をぐるりと反転させられ、手を後ろでねじり上げられる。
痛みに呻いたのも束の間、両手首をタオルで拘束された。
「やっ、やだ……!!」
どうにか拘束を解こうとするが、固く結ばれているらしく、びくともしない。
流石に恐怖を覚えたリーフは、大声をあげようとするが、グリーンの無骨な手が彼女の口を塞いでしまった。
「喚くなよ」
その彼の声は、今までに聞いたことがないくらいに冷たかった。
手は無遠慮にリーフの肌に触れていき、柔らかい曲線を描く胸に到達した。
指が先端を掠めるたび、リーフは甘く、泣きそうな声を唇から漏らした。
「んっ……」
人差し指と親指で桃色の先端を掴み、くにくにと動かす。
そこを刺激されると、呼応するように下半身が疼く。リーフは唇を噛み締めて、その刺激に耐える。
すっかり立ち上がったそこを、グリーンは唇で挟めた。
予想もしていなかった彼の行動に、リーフは目を見開き、じたばたと足を動かした。
「何してんのっ! やめてってば、変態!!」
リーフの悪態に、意地悪い気分になり、口に含んだ先端に少し歯を立ててやった。
悲鳴のような嬌声をあげ、リーフは必死に頭を振る。
触れ合う肌の体温が、際限なく高まっていく。
いつしか呼吸が激しくなっていることに気付き、グリーンは口に溜まった固唾を飲み込んだ。
幼いが、妙な色気を醸し出す彼女の姿態に、熱に浮かされたように頭が眩む。
ぼんやりと夢心地のまま、彼女の首や胸や、柔らかい太腿にグリーンは触れていたが、
不意に脇腹へ入った蹴りに、現実に引き戻された。
「やめろって言ってんでしょ!!」
涙を目一杯に湛えて、リーフは叫ぶ。
蹴り自体は大した痛みではなかったが、唐突に反撃された怒りがグリーンの理性を更に壊していく。
「……っ、この……バカ女!!」
「っ、い、いや!」
ぐい、とグリーンは無理やり、彼女の白い膝裏を持ち上げた。
突然、不安定な体勢を強いられたリーフは、抵抗を一層激しいものにする。
ばたつくリーフの脚の間に体をねじ込み、グリーンは完全にリーフの動きを制した。
しばらく、荒い息の音が二人の間に流れる。
「やめてよ……」
潤んだ瞳で、リーフは懇願するように彼を見上げた。
ずく、と下半身が疼く。その表情に、グリーンの嗜虐欲は更に煽られる。
激しい感情が使嗾するままに、グリーンはリーフの内腿をさすり、そしてその奥へと触れた。
「やだっ、やだってば……!!」
下着越しに指が敏感な部分に触れる。その指はリーフの拒絶の言葉も聞かず、更に奥へと進んでゆく。
「……お前が、悪い」
荒い息の隙間、グリーンはぽつりと呟く。
指は下着の中に入り込み、彼女の敏感なところへ直に触れた。リーフが甲高い悲鳴を上げる。
ぬるりとした液体が指に絡みついた。揶揄めいた笑いを浮かべ、グリーンは皮肉たらしく言う。
「なんだよ、濡れてんじゃん」
濡れた入り口に人差し指を浅く入れ、少しだけ動かしてみる。
くちゅくちゅと卑猥な音が立ち、リーフは思わず顔を朱に染める。
グリーンはその柔らかく温かい部分の感触に夢中になって、指を前後に動かした。
彼女は唇を噛み締めて、なんとか声を出さないようにしているらしかった。
その姿が意地らしくて、瞼や頬に口付ける。
「……声、出さないとつらいだろ」
「……んっ、う、ぅ……」
「出せよ」
ちゅ、と音を立てて、指が離れた。
苦しそうに息を吐くリーフの頭を撫でてやりながら、グリーンは固く結ばれたタオルを解いた。
ぐったりとリーフは肢体をベッドに投げ出している。もう、抵抗する気力すらなさそうだった。
「グリーンなんか嫌い……」
「…………」
「大嫌い……」
弱々しい声で、リーフは涙に震えた声で言う。
そうかよ、とグリーンは吐き捨て、再びリーフの敏感な箇所に触れた。
前後に動かして指を馴染ませていたが、しばらくすると彼女の反応が強いところに気付く。
陰唇をそっと押し開き、少し上のあたりを指で探ってみる。指先に突起が触れた。
弾かれたように、リーフは体を痙攣させる。
「やっ、やだ、そこ、触らないで……!!」
グリーンの手を掴み、リーフは首を横に振る。弱点を見つけたグリーンはそこを重点的に責め始めた。
優しく包皮を剥き、指先で少しだけ圧迫する。
「あ、あう、やだっ、いやぁ……」
蜜口からは更に粘液が溢れ、グリーンの指先を濡らしてゆく。
それを掬い上げ、陰核へ擦り付ける。指から逃げるようにそれは動き、その度にリーフは苦しそうに喘ぐ。
甘い痺れが全身を苛み、喉から迫りあがる声が抑えきれない。
「グリーンっ、やめてってば、グリーン!!」
快楽に押し流されそうになる理性をなんとか保ち、リーフは泣きながら、彼に懇願する。
ぞくりと背筋に走るものを感じ、グリーンは無言で、リーフの濡れた唇に顔を寄せた。
唇が触れ合おうとしたその刹那、ばしん、と音を立てて、グリーンの横っ面に張り手が食らわされた。
「いい加減にして!!」
憎しみをこめた瞳で、リーフはグリーンを睨みつけ、鋭い声で吐き捨てた。
しばらくグリーンは唖然としていたが、殴られた頬がじわじわと痛み出すと同時に、完全に頭に血が昇った。
「……っ、この!!」
片手でリーフの頬を乱暴に掴み上げると、噛み付く勢いでグリーンは彼女の唇を塞いだ。
手首をしっかりと押さえつけ、息つく暇も与えないように、角度を変えて、啄ばむ。
苦しそうに開いた唇に舌を突っ込み、口内を余すことなく蹂躙する。
「ん、んぐっ、うむ、ん、ん!!」
彼女の唇を塞いだまま、グリーンはズボンのジッパーを忙しなく下ろした。
自身を取り出し、すっかり濡れそぼったリーフの入り口に擦り付ける。
その感触に驚いたのか、リーフは瞠目し、必死に頭を振って、腰を引く。
浅く出し入れをした後、グリーンは熱っぽい吐息を嘯き、腰をゆっくりと進めた。
引きつった悲鳴がリーフの唇から零れる。怯えきった彼女は、幼い子供のように頭を振り、泣きじゃくる。
「っ、いた、いたい、グリーン、やだぁ……」
彼女の目から涙が溢れる。頬を両手で優しく包み、グリーンは柔らかい瞼や頬に口付けを落とす。
シーツを固く掴むリーフの手を取り、グリーンは自らの背に回させた。
リーフはただ必死で、その背中を掻き抱いて、爪を立てた。
しばらくじっと動かずに、リーフの汗で張り付いた髪を払ってやっていたが、
限界を感じ、ゆっくりと抽送を開始した。痛みの所為か、彼女の中がきゅっと窄まった。
リーフがやめて、と泣き叫ぶのも構わず、半ば無理やりに全て押し込んだ。
今まで使ったことのなかった器官は、無理やりこじ開けられた所為か、血が微かに滲んでいた。
その赤い筋を見て、グリーンは暗い悦びを覚える。
「やめて、痛い、いたいの、いや、痛いっ!」
リーフの額に汗が浮かぶ。相当痛いらしく、呼吸をするのも苦しそうだった。
少しでも破瓜の痛みを和らげてやりたくて、グリーンは指先を彼女の下腹部へ持っていった。
真っ赤に充血した陰核に触れる。人差し指と親指の間に小さなそれを挟みこみ、少し強めに押し潰す。
くぐもった泣き声がリーフの唇を濡らす。
「ふ、う、うっ、あう……」
先程よりも固さを持ったそれを指先で弾き、小刻みに動かす。
涙と汗で濡れたリーフの頬を、もう片方の手で拭う。
「くるし、もう、いや、いやぁ、やだ、」
許容しきれない快楽に、リーフは限界を感じた。
蜜口からとめどなく愛液が溢れ、接合部分が滑らかになってゆく。
高まっていく熱に逆らうことが出来ず、リーフは甲高い声を上げて、絶頂に達した。
「あっ、や、あ、あ……」
「……っ」
激しい締め付けに射精感に襲われたが、グリーンはぐっと歯を食いしばって堪えた。
絶頂の余韻にびくびくと体を痙攣させるリーフの体を持ち上げ、体位を変える。
放心状態で、体の力が抜け切っている状態のリーフは、抗うことが出来ない。
後背位になり、更に挿入が深いものになる。
無遠慮に体の奥まで入ってきた熱いものに、リーフの背が撓る。
「やめ、やめて、もう、許して、いやぁ、壊れちゃう……!!」
グリーンは無言のまま、彼女の内側を叩くようにして、律動を始める。
「お願い、いや、やめて、許してぇ……許して……」
舌足らずに喘ぎ、泣きながら懇願するリーフの声に、益々劣情が焚きつけられる。
限界が近づき、グリーンは更に激しい律動を刻んだ。
汗がリーフの白い肌に落ちる。自分の必死さがおかしくて、思わず失笑が漏れた。
リーフはもう、泣きも抵抗もしない。ただ、空虚な瞳をどこか遠くへやっていた。
「……っ、くそ……!!」
華奢な腰を後ろから抱きすくめ、彼女の中へ欲望を注ぎ込んだ。あまりの快感に、体が震える。
繋がったまま、二人の肢体はベッドへ沈み込む。荒い息の音だけが、部屋の壁を反響する。
しばらく、二人はぐったりとして動かなかったが、稍あって、グリーンが体を起こした。
伴って、彼女の体の中に入ったものが粘着質な音を立てて、抜けた。
背中に痛みを覚え、指でなぞってみる。リーフの爪の痕が傷として刻まれていた。
沈黙したままのリーフに、おい、とぞんざいな声を投げる。
彼女はその声も耳に入っていない様子で、どこか遠くを見つめている。
リーフの剥き出しの白い肌には、体液があちこちに付着していた。太腿には褐せた血の色も見える。
取り敢えず、汚れた体を拭いてやろうと思い、グリーンは近くにあったタオルを手繰り寄せた。
彼女の裸体を拭き清めながら、どう声をかけるべきかと、冷静を取り戻した頭を回転させる。
(……謝るべきだよな……)
プライドが人一倍高い彼も、この状況は流石に謝らなければならない状況だと判断した。
悪かった、と口を開きかけたところで、リーフがぽつりと漏らす。
「……さむい」
「……あ?」
色を失った唇で、リーフは言う。言葉の意味を図りかね、グリーンはもう一度聞き返す。
「だから、寒いんだってば……」
「あ、ああ、悪い……」
グリーンは近くにあったTシャツを渡してやり、自分も脱ぎ散らかした下着とズボンだけを身に着けた。
鈍い動作でTシャツを頭から被るリーフをちらりと一瞥する。別段、怒っている様子はない。
「寒い」
また、彼女がそう漏らす。
グリーンは気怠そうに立ち上がり、上着をタンスから引き出した。
膝を抱えるリーフの肩に、厚手の上着をかけ、無造作に彼女の隣に腰を下ろした。
「怒ってないのかよ」
朝の眩しい陽光が差す窓の方を見据えながら、グリーンは言った。
「…………」
「……おい、なんとか言えよ」
「…………」
「無視すんなって」
黙ったまま、膝に頭を乗せるリーフの顔を持ち上げ、視線を合わせる。
リーフの目には涙が浮かんでおり、頬も紅潮していた。
グリーンは苦虫を噛み潰したような表情で、吐き出すように言う。
「……悪かった」
「…………」
「お前が好きなんだよ」
「…………」
「好きなんだって」
涙で潤った瞳をグリーンの方へ向け、リーフは言った。
「7年くらい前から知ってたよ、そんなこと」
彼女の声は明瞭だった。思いもしない彼女の返答に、グリーンは面食らう。
「8歳の時、昼寝していた私にこっそりキスしたのも知ってる。
10歳の時、私にちょっかい出した男の子と喧嘩してたのも知ってる。
12歳の時、私のバレンタインのチョコが欲しくて、お兄ちゃんにくれくれって駄々こねてたことも。
数上げればキリないくらい、知ってる」
グリーンの羞恥のボルテージが最大まで上がっていく。
彼女の饒舌は止まらず、過去の恥ずかしい過去が、次から次へと暴露されていく。
「そう、6歳のときにも……」
「分かった、分かった、俺が悪かった! だからもうやめてくれ!!」
慌てふためくグリーンの姿がおかしかったのか、リーフは微笑した。
その笑顔にほっと安堵し、グリーンは肩の力を抜いた。
「私もグリーン、嫌いじゃないよ」
意味深な言葉に、グリーンは眉を顰める。
「好きか嫌いかで言えば、多分、好き」
自分の言葉を噛み締めるかのように、彼女はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「だけどね、ダメなんだよ」
彼女の視線はどこか遠くにある。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんがいないのに、私だけグリーンと一緒になるなんて、出来ない」
「…………」
「出来ないよ……」
彼女の濡れた眦を拭ってやり、そっとリーフの口を唇で塞いだ。
抵抗するかと思ったが、彼女の体は弛緩し切っており、拒絶する意思は感じられなかった。
壁に寄り掛かり、明るさを増す部屋をぼんやりと眺める。
リーフも同様に、ぼんやりと虚空を見つめている。時折、緩慢な瞬きをしていた。
「……朝っぱらから何やってんだろうな」
「グリーンが勝手に劣情したんでしょ」
無意識に出た呟きに、リーフが憎まれ口を叩く。
言い訳をするのも面倒で、グリーンは彼女の肩を抱き寄せることで誤魔化した。
「お兄ちゃん、元気かな」
「レッドのことだから、案外ピンピンしてんだろ」
「だといいけど……」
こてん、とリーフの小さな頭がグリーンの肩に乗せられる。
珍しく甘えてきているのかと思えば、ただ単に眠かったらしい。
「眠いか」
「うん……昨日から寝てない……」
ハッと忘れかけていた事を思い出し、グリーンはリーフの頭をこつんと小突いた。
「……今度、他の男のところに泊まったら、怒るからな」
「普段から怒ってるじゃん……」
「本気で怒る」
「そう……」
会話は打ち切られ、傍から安らかな寝息が聞こえてきた。
そっと横にさせると、長い彼女の茶髪が白いシーツに散らばった。布団を肩あたりまで掛けてやる。
ふと、既視感を覚える。
幼い頃も、レッドとリーフと、こうして昼寝をしていた。
べたべたとくっついて眠るリーフとレッドに嫉妬し、必死に二人を引き剥がしていた記憶を思い出す。
ただ、幼い頃と違い、今はレッドがいない。
(……明日あたり、シロガネ山に行くか……)
リーフの髪を指先で梳きながら、ちらりと視線を机の上においてあるモンスターボールの方へ向けた。
かたり、とモンスターボールが視線に気付いたように、揺れた。
隣で眠るリーフの寝息は穏やかだった。