とあるポケモンの噂がある。  
 
この世には人の言葉を話すことができるポケモンが存在する。  
ありがちで誰でも思い付くような、そんな噂を僕は耳にした。  
 
確かにポケモンはとても賢い生き物だ。  
だからこそ、はるか昔から変わらず、人間と共に暮らしているのだろう。  
 
そんな彼らだ、一匹や十匹喋れるポケモンが存在していても  
不思議では無いと、そう思った。  
 
喋るポケモンを見てみたい、会って話をしてみたい。  
普段、当たり前のようにそばにいる彼らが、一体何を話すのか。  
僕はそれを知りたくなった。  
 
だがもし存在していても、自分が会える確立は限りなく0に近い。  
世界には何億ものポケモンが暮らしているのだ。  
 
 
だったら、自分で育てることはできないだろうか。  
幼いポケモンに喋れるように育てれば・・・あるいは可能じゃなかろうか。  
それこそ人間の子供のように。  
 
 
自分でも馬鹿げた考えだとは思った。それでも僕はやりたかった。  
 
好奇心のみが先行した。胸の鼓動が早くなる。体が震えている気がする。  
 
どんなポケモンにしようか、どんな方法で言葉を教えようか。  
僕の頭はそんなことでいっぱいになった。  
 
久しぶりに楽しいと思えた。口元が緩む。  
周りから見たら、気持ちの悪い笑顔なのだろうが。  
 
 
僕は雨の降る中、傘を差してマンションの自室を出た。  
向かう先は「ポケモン保険所」。  
捨てられたポケモンや身寄りの無い野生ポケモンを保護している施設だ。  
 
里親になってポケモンを引き取ろうという考えだ。  
 
どんな子がいるか、少し楽しみだ・・・。  
 
 
 
マンションを出てから何分ぐらいで着いたのだろうか。  
自分のポケギアを開いた。十八時三十分ちょうどを示している。  
だいたい四十分程度経っていたみたいだ。  
車ならもっと早いのだろうが、如何せん免許を持ってないので仕方が無い。  
この時間帯はやたらと車が多くなるが、今日はそれが余計に気になった。  
僕はすでにポケモン保険所に到着していた。  
保健所は町のはずれに建っている。  
いかにも、といった感じの外観に少しだけたじろいだ。  
イメージ通り過ぎるのだ。だったらなぜ戸惑った。  
たぶん人間はこういった風景に本能的に動揺するものなんだろう。  
僕はそうおかしな自己完結をしながら、自転車を駐輪場に置いた。  
次は保健所に入る。  
 
保健所の自動ドアを通り中に入る。  
中はごく普通のロビーだった。いや、多少はほこりっぽいが。  
だがその周りよりも何倍も気になるモノがあった。  
臭いだ、ロビー中が不快な臭いに包まれている。  
一言で表すならば・・・獣の臭いと言えばいいのだろうか。  
「何か御用でしょうか?」  
視界の外側から声が聞こえた。  
振り返ると青いつなぎを着た女性が、こちらを見ていた。  
失礼だが、一目でここの作業員だろうと確信した。そうとしか見えなかった。  
「すいません、保健所のホームページを見て来たのですが・・・」  
「なるほど、それでどういったご用件でしょうか?」  
「ポケモンを引き取りたいのですが」  
率直に用件を言う。会話は苦手だ。  
「分かりました、里親希望・・・ということでよろしいでしょうか?」  
「え、えぇ」  
「それでは待合室にて暫くお待ち下さい。あちらになります」  
そう言うと彼女はロビー脇の通路を指差した。  
「あちらの通路の少し奥になります」  
「分かりました」  
僕の返事を聞くと彼女はにっこりと微笑み、指差した方向とは逆の通路に  
向かい、消えた。  
 
待合室には、いくつかのソファと質素な金属テーブルが置かれていた。  
適当なソファに腰掛け、僕は両肘を両膝に合わせ手を組んだ。  
((またぎこちない話し方になってたかな・・・))  
僕は先ほどの会話に思いをめぐらせた。  
昔からどうも顔見知りで、人と話すのは苦手なのだ。  
家族や親戚とは何の問題も無く話せるのだが・・・。  
ただ後悔したが、馬鹿馬鹿しくなってきたので辞めてしまった。  
後悔だけなら数え切れないほどしているのだ。今更考えても仕方ない。  
ただ待つことにする。  
暫くお待ち下さい、というのはおそらく書類の準備が必要だからだろう。  
こういった保健所にはいくつかのポケモン協会とのキマリ事がある。  
その中の一つ、里親として施設からポケモンを引き取る場合は、  
引き取ったポケモンを死ぬまで面倒を見るという契約が必要だ。  
捨てたりした場合は罰金および懲役、交換するにしても交換相手にも責任が転与する。  
また、里親に引き取ったポケモンを問題なく育てていけるかのチェックもある。  
財産面などを調べるらしい。  
渡したポケモンがまた施設に戻ってくることの無いようにこのような契約をするそうだ。  
だがそういった契約のせいか、里親希望者は減少傾向にある。皮肉なものだとは思う。  
 
「お待たせ致しました」  
そう声がすると、先ほどの従業員がドアを開けて立っていた。  
「これから別室で書類による手続きを行いますので、私に付いてきて下さい。ご案内します」  
「分かりました」  
彼女の後を追って待合室を出る。  
その後は通路を奥へ奥へと進んでいった。  
待合室前からはロビーが見えていたが、今は壁以外には何もない。  
照明、雰囲気の両方が暗く重く感じた。  
やはり手続きはそれほど大事だという事なのだろうか。  
「到着致しました、中へお入りください」  
着いた部屋は「契約室」と書かれていた。  
名前の通り、書類契約を行う部屋なのだろう。  
中には待合室の物より明らかに高そうなソファとテーブル。  
しかし後は照明の他は何も無い。  
「不正があると困りますので、こういった部屋になっています」  
彼女がテーブルの上の書類を整理しながらそう言った。  
確かにこれなら不正はやり辛いだろう。自分には関係ないが。  
 
僕は従業員の説明を受けながら、色々な書類を処理していく。  
履歴書や貯蓄など様々なチェックをしたが、問題は無かったらしい。  
働いてなかったら通らなかったのだろうか。  
次、次と契約を進め、ついに最後の書類になった。  
「これで最後になります」  
彼女はややトーンを下げてそう言った。明らかに声が低くなる。  
だが僕は間髪入れずに契約書にサインをした。  
こっちはハナからそのつもりで来たのだ。  
「お疲れ様でした」  
「お疲れ様です」  
これで契約は全て終わったようだ。  
彼女の声も心なしか明るくなったように聞こえる。  
「これより引き取るポケモンを選ぶことになりますが、疲れていましたら休憩なさいますか?」  
「いえ、すぐにお願いします」  
「分かりました」  
ここまできたら一気にいきたい。  
ようやくこの施設のポケモン達に会えるのだ。  
一体どんなポケモンがいるのか分からないが、楽しみな事には変わりない。  
僕は少し鳥肌を出しながら、契約室を後にした。  
 
 
 
 

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