葉が黄金色に染まり、樹木には色とりどりの木の実がたわわに実る季節、この森林にもいつもと変わらない朝がやってきた。  
まだ空を駆る鳥ポケモンのさえざりや、地を行くポケモンが落葉を踏む小気味よい音すらしない早朝だ。  
人間が開拓していないこの場所には、様々な天然の名所がある。  
森の最奥部にある巨大な滝もその一つで、ここに巣食う生物や植物に潤いを与えている。  
その滝壺の近く、何の変哲も無いごつごつとした岩壁から、不意に淡黄色の手足がにゅっと生えた。  
『ひみつのちから』で作られた、外部からは感知できない洞窟から一匹のポケモンが現れる。  
そのポケモンは視線を忙しなく左右へと動かして慎重そうに辺りを見回し、誰もいないことを確かめる。  
確認を終えるとほっと胸を撫で下ろし、滝の終着点まで行き朝の渇きを癒した。  
ひとしきり飲み終えると、水面の波が収まるのを待ち、腰をかがめて顔を覗き込む。  
水辺に映る自分の顔は、前日に炎ポケモンに付けられた火傷で爛れている。昨夜確かめた時は全て直したと思っていたのに。  
そのポケモンは少しの間何かを思い出す素振りをし、数瞬の後、『リフレッシュ』を発動させる。  
その途端、患部を柔らかな光が包み込み、赤い傷跡へと収束する。  
再度、鏡のようなそこが自身を写しだす。どうやら使い慣れたこの技は、きちんとした効果をもたらしてくれたようだ。  
『いやしのすず』も彼は使うことが出来たが、わずかな音を立てることさえ、最早許容しがたい恐怖となっていた。  
とにかく、誰にも会わないうちに。特に昨日、自分へと怪我を負わせた張本人に会わないうちに、出来るだけ食料を集めておきたい。  
意を決し、自らの足音をなるべく殺し、森の内部へと歩を進めた。  
 
 
自分の種族が嫌でしょうがなかった。  
いや、正確には嫌でしょうがなくなった。  
かつてはみんなに持て囃された。色々出来るんだね、羨ましいな、と。  
その時は悪い気はしなかった。自分は何でも出来る、誇れる能力なんだ、と。  
しかしそれも長くは続かない。  
周りからの尊敬と羨望の視線は、いつからか軽蔑と嫉妬へと変わっていった。  
それも無理はないだろう、と彼は今は思う。  
必死に修行し汗水流してようやく会得した技を、一瞬でコピーされていい気がする者などそうはいない。  
しかし、この種族に生まれた以上は他者の真似をする生き方以外には許されなかった。  
そういうわけで、自分の種族が嫌で、本当に嫌でしょうがなかった。  
 
巨木のある所ではそれの後ろに隠れながら。  
そうでない所では出来るだけ早足で、目的の木の実を探す。  
本当なら堂々とこの森を歩きたい。ポケモン達と仲良く会話もしたい。  
自分の姿を曝け出す日光も、隠れずにいつまでも浴びていたい。  
ただ、そうするには自分の精神は些か傷つきすぎていたし、環境がそれを許してはくれない。  
ああ、また悪い癖が出てしまった。このような事は幾度となく考え、その都度後悔していたというのに。  
考え事をしていたせいや、慎重に歩いていたこともあって、かなり時間が経ってしまった。  
もう他のポケモンが起き始める頃だろう。急がないと。  
そうして歩くうちに、漸く探していた樹木を見つけた。  
見上げると、紅葉に混じり、目立つピンク色の丸い実が枝を撓らせている。モモンの実だ。  
食事として食べるには中身が少なく物足りないが、とても甘い。  
自分の住処からは遠い場所に生る、この木の実を取りに来るのは危険が伴うが、たまには贅沢がしたい。  
美味しそうなその形に思わず涎が出てしまう。このような所で喜んでしまう程度には、まだ心が残っていた。  
早速、誰も来ないうちに木の実の回収に取り掛かる。  
自身の尻尾を手に握り、それで素早く複数の葉を宙に描き、『はっぱカッター』を対象へと飛ばす。  
昔は慣れずに木の実へとぶつけて、中身をばら撒ませてしまうことがしばしばあったが、現在は慣れたものだ。  
正確に枝と実を結ぶ点へ命中させ、地面へと数個、木の実が落下する。  
一つ、落下の衝撃に耐えられずに潰れてしまったが他は無事だ。  
いつもは遠くて危険なので両手に二個しか持って帰らないのだが、今日は欲張って両腕に抱えるようにして五個ほど持つ。  
もうここには用は無い。さっさと洞窟に戻って食事を楽しむとしよう。  
そう思った矢先、先程の道程で通ってきた木陰で何やら小さなものが動いて見えた。  
ここからは距離があるので目を凝らすと、一匹のポチエナが居た。  
まだ子供なのか、こちらの視線に気づくと身を竦ませている。  
だが、その場から離れようとしないということは、狙いは明白だ。  
「怖くないよ。木の実が欲しいんだろう?」  
顔に、最後にしたのは何時か忘れたぐらい久しい笑顔を張り付けて、ポチエナへと呼びかけた。  
ポチエナは多少戸惑いながらも、彼の元へと足を進める。  
「ほら」  
「ありがとう、ございます」  
モモンの実を一つ、足元へと転がしてやると、ポチエナは礼を言いそれを咥える。  
幼いとはいえ、ポケモンとこうして普通に会話をするのも久しぶりだし、さらに礼を言われることなんて記憶の片隅にしかなかった気がする。  
とことこと歩きその場を去ろうとするポチエナの背を、そんなことを思いながら見送っていると、突如後ろから怒気を孕んだ唸り声が聞こえてきた。  
ばっと振りかえると、姿勢を低く構え、今にも飛びかかって来そうな、漆黒の毛並みをしたグラエナがそこに居た。  
「てめえ……俺の子に何の用だっ!」  
ポチエナがさっと走り、グラエナの後ろへと隠れる。  
このグラエナとは何度か遭遇したことがある。  
例に漏れず、自分の種族に対して悪意を持っており、何度か酷い言葉も浴びせられた。  
ただ、子供がいることは知らなかった。あの幼なさからして、生まれたてだったのだろう。  
「い、いや……、モモンの実を欲しがってたからあげただけだよ……」  
「……そうなのか?」  
グラエナは背後に居るポチエナへと向き返り、問いかける。  
「うん、あのおにーさんがくれたんだよ!」  
聞いた途端、信じられない、といった表情をするが、子供が木の実を持っているのは事実で、それをまだ一人では取れないのも事実だ。  
グラエナは再度、彼の方へと振り返り、忌々しげに吐き捨てる。  
「ちっ、今回は見逃してやるが……いいか。今度近づいたらただじゃおかねーぞ!」  
「わ、わかったよう……」  
鼻を鳴らし、ポチエナを引き連れて森の奥へと歩いて行く。  
ポチエナは不思議そうにこちらを見ているが、グラエナが何事かを囁きそれを制止する。  
どうせまた自分の悪口だろう。こうして悪評が広がっていってしまう。  
最早慣れたと思っていたその反応も、やはり実際に目の当たりにすると心が抉られるようだ。  
深く溜息をついて、彼は住処へ戻るべく来た道を戻った。  
 
 
このドーブルは所謂、捨て子だった。  
親に捨てられ、気が付いたときにはこの場所で独りぼっちだった。  
森から出たことのない彼にとって、世界はこの場所以外に無く、また他に生きる術も知らない。  
だから、どんなに疎まれようと彼にはここで暮らすしか道はなかった。  
 
両手に桃色の実を抱えた状態では、とても速くは移動できない。  
また、その姿は遠くからでもとても目立つ。  
自分でも迂闊だと思ったが、時すでに遅し。  
住処まであと少し、というところで、突然巨木の上から薄黄色と紺の毛皮を持つポケモンが飛び降りてきた。  
一瞬、森が揺れるような感覚がして、大きな着地音がする。  
そのポケモンは彼の姿を認めると、口元を吊り上げて笑う。  
「あれぇー、両手にモモンの実抱えて誰かと思ったら、ドーブルちゃんじゃねえか」  
「バクフーン……」  
よく響く低音の声で、馬鹿にしたように語りかけるバクフーン。  
ドーブルが一番出会いたくなかった相手と出会ってしまった。  
こいつが昨日、自分へと火傷を負わせた張本人である。  
本来、炎ポケモンは火事を引き起こすため森に居てはならない。  
だがこいつは、最近森の外からやってきて勝手に住まいだした。  
たちの悪いことに、自分の気に食わないことがあると炎技を使って森を燃やそうとする。  
相性的に不利なポケモンが多く、彼に太刀打ち出来るポケモンがいないのでやりたい放題だ。  
そして、暗く陰気に見えるドーブルなどは、バクフーンの格好の苛め相手であった。  
「バクフーン、さん……だろ!」  
呼び捨てで呼ばれたことに不満を感じたのか、背中から炎を噴きだし、『ひのこ』を放出した。  
吐き出された火の粉は眼前に無数の紅い粒子として襲いかかってくる。  
ドーブルは持っていた木の実を投げ出し、間一髪でそれらを避ける。  
背後は小さな池で樹木などがないため、火災になることもないだろう。  
避けられると思っていなかったらしいバクフーンは、一瞬驚きの表情をするが、すぐにそれを消す。  
そして、再び歪んだ笑みを顔に張り付けて言葉を続ける。  
「へぇー、てめえがそんなに素早く動けるとはな。やるじゃねえか」  
「ば、バクフーン、この森から出て行ってよ……!」  
いい思い出がさほど無いとはいえ、仮にも育った場所である。  
その森をふらっとやってきた乱暴者に壊されて堪るものか。  
勇気を振り絞ってバクフーンへと意見するが、それは一笑に伏される。  
「あぁ? 震えた声でナニ言ってんだ? そういう馬鹿げたセリフはなぁっ……」  
息継ぎと同時にバクフーンの背の火炎が勢いを増した。  
危険を察知したドーブルは次に来るであろう攻撃に身構える。  
「俺を倒してから吐くんだなっ!」  
言い終えると同時に口から猛烈な『かえんほうしゃ』を放つ。  
凄まじい速度で迫る熱線は、このままだと避けようがない。  
うまく使えるか自信が無かったが、この技ならあるいは。  
咄嗟に、以前見た『でんこうせっか』で左横へと跳躍する。  
少し掠ってしまい肌がじゅっと音を立てるが、初めて使う技にしては上出来だった。  
間一髪横を通り抜け、対象を失った熱量は、後方の池水へとぶつかり蒸発した。  
傷口が気になるものの、バクフーンから目を逸らさずに対峙する。  
 
「ふん、誰の技だか知らねえが『でんこうせっか』まで使えんのか。だがよお……」  
と、一瞬でバクフーンの姿が視界から消え失せる。  
どこへ行った。視界を左右へ動かしても影も形もない。  
不意に、背後に気配を感じ取り、振り返ろうとする。  
しかし次の瞬間には、がっちりと両腕で羽交い締めにされていた。  
「てめえの見た奴は、ずいぶん遅せえ使い手だったみてえだな」  
「うっ、く……っ!」  
必死にバクフーンから逃れようともがくが、身体に全く力が入らなかった。  
締めあげる腕力の強さに、苦悶の表情を隠せない。  
「ははぁっ! 所詮てめえはその程度なんだよ。ドーブル、ちゃん」  
「ううっ……」  
悔しい。力が無いことではなく、それを行使出来ない自分の心の弱さが。  
茶色く縁取られた眼から悲しみの雫が落ちるが、それもバクフーンの残虐性を満足させるだけであった。  
「昨日つけてやった傷は浅かったのか? 聞きわけの無い奴には、もっとおしおきしてやらねえと……なあ!」  
背中の火を一気に強め、バクフーン自身を炎が包み込む。『かえんぐるま』の技だ。  
「うあああああっ!」  
当然使用者は一切ダメージを負わないが、密着してるドーブルはその熱さに耐えきれず悲痛な叫びを上げる。  
クリーム色の肌が次々と焼け爛れ、痛々しい姿へと変わっていく。  
何で自分ばかりこんな目に合わないといけないのか。僕が一体何をしたというのか。  
これ以上やると命の危険があると判断したのか、ようやくバクフーンは技を解除する。  
拘束を解き、思い切り蹴飛ばして地面へとドーブルを転がした。  
「二度とふざけた口聞くんじゃねーぞ、この猿真似野郎が」  
倒れているドーブルへと唾を吐きかけ、その場を去ろうとする。  
―――最も聞きたくない言葉を、最悪な状況で聞いてしまった。  
日に二度も、彼の心は酷く傷付けられた。  
その瞬間、長年ドーブルの精神を繋ぎ止めていた何かが切れる。  
ゆらりと立ち上がり、震える手で尾の絵筆を掴んだ。  
「待……てよ……」  
「あん?」  
まさか起き上がるとは思っていなかったらしいバクフーンは、予想していなかった言葉に振り向く。  
すると、辺りを先程までは存在していなかった緑色の細かい粒子が浮遊していた。  
「なん、の、つ、もり……」  
だ、と言おうとしてバクフーンは昏倒しその場に倒れる。  
一人残されたドーブルは火傷した顔に狂気の表情を浮かべ、バクフーンの身体をずるずると引き摺っていった。  
 
 
誰も傷つけない。  
この力が使えると知った時に自分に誓った言葉だ。  
この力は悪用すればいくらでも使い道がある。  
人の技を借りるという後ろめたさに対する、せめてもの誓いだったのかもしれない。  
それとも、人を傷つけることが出来ない臆病心から来るものだったのかもしれない。  
だが、もうそんなことはどうでもよくなった。  
そう、もうどうでもいい……。  
 
洞窟の天井から滴る水滴が顔に当たり、仰向けの体勢で寝ていたバクフーンは目を覚ました。  
あれから何が起こったんだ。あの弱々しいドーブルを痛めつけて、それから―――。  
そうだ、あいつが起き上がって振り向いたら急に意識を失ってしまったんだ。  
となると、この薄暗い洞窟にはあいつに連れて来られたのか。  
あんな奴に眠らされた挙句、勝手に連れ回されていたのかと考えると怒りがこみ上げてくる。  
さっさとこんな所は出よう。そしてあいつを見つけたらもっと酷い目に合わせてやろう。  
そう思い、身体を起こそうと腕に力を込める。  
しかし、何やら粘つく感触が腕を覆っていて、身動きが取れない。  
腕だけではない。四肢全体に同じ白い糸のようなものが何重にも巻かれ、それらは周囲の岩壁と結び付けられていた。  
「な、んだよ、これ……っ!」  
必死にもがいても、粘性の強いそれは切れはしない。そして、  
「無駄だよ……」  
わずかに見える視界の端に。  
先程、自分が痛めつけたドーブルとはまるで同一のポケモンとは思えないドーブルが立っていた。  
「よう、ドーブルちゃん。無駄って、このか細い糸のことか?」  
顔や、全身に火傷の痕が残っているままのドーブルの姿に多少たじろぐものの、まだ余裕を持った表情でバクフーンは問いかける。  
「ああ。取れないんだろ?」  
さも当然のように言うドーブルに、思わず鼻で笑ってしまう。  
こいつは、怪我で自分が何タイプなのかも忘れてしまったというのか。  
「馬鹿かてめえ? こんなもん、手足で取れなくても、一瞬で焼き切れるんだよ」  
「じゃあ、やってみなよ」  
ドーブルはあくまでもこの拘束が解けないと思ってるらしい。  
望み通りこの糸を消し去ってやろうと、背の噴出口に力を込める。  
しかし、何故か火は熾らなかった。  
おかしい。『ひのこ』も『かえんほうしゃ』も、『かえんぐるま』さえも出すことが出来ない。  
「て、てめぇ……っ!」  
「僕さ、昔はラルトスとも仲、良かったんだ」  
「……『ふういん』かよ、くそっ」  
『ふういん』は、自分の持ち技と同じ技を全て使えなくする効果がある。  
ドーブルは一度見た技なら何でも我が物と出来る。  
そのため、先程見たバクフーンの技は全て自分の技となり、『ふういん』の対象となるのだ。  
炎技の全てを封じられたバクフーンは、自力でここから脱出出来ない。  
加えて、目の前には火傷の傷すら治そうとしないドーブル。  
改めて自分の置かれた状況を把握し、バクフーンは本能的に身震いしてしまった。  
 
ドーブルは、一歩、また一歩とバクフーンの元へと近寄って行く。  
笑っているのか、怒っているのか、何とも形容しがたい形相をしながら。  
「な、なあ。俺が悪かったよ。この森は今日中に出て行くから、な?」  
ドーブルのただならぬ雰囲気を気配で感じ取り、バクフーンは躍起になって説得を試みた。  
聞こえているのかいないのか、大の字に固定されているバクフーンの横をそのまま通り過ぎる。  
そして、その怖気づいた顔立ちがよく見える程度にまで近づくと、右手にそっと尾を取る。  
また何か技を使う気なのか、とバクフーンは息を飲み込んだ。  
だが、何か技を使う素振りは見せず、ただバクフーンの顔や肩などに絵筆を走らせるだけだった。  
ドーブルという種族は、尻尾から分泌される液体を塗りつけて自身の縄張りを主張する。  
お前はここから逃げられない、と無意識の内に考え、行動に至ったのかもしれない。  
ひたすらに塗りたくるその姿を見て、バクフーンに最早先程の余裕は一切無かった。  
「何やってんだよ……? 早く」  
「うるさいなぁ……っ!」  
行為の途中で話しかけられたのが癇に障ったのか、ドーブルは尾で思い切りバクフーンの頬を殴りつける。  
その衝撃で液体が飛び散り、血の気が落ちた顔面をさらに汚す。  
不思議な匂いのする分泌液をまともに浴び、さらに強く打たれたことで、バクフーンの頭は段々とクラクラしてきた。  
筆を握りしめ、肩を上下に揺らし、しばらく叩いたままの姿勢でドーブルは停止している。  
しかし、突然表情を消し、すっとバクフーンの下腹部に目をやった。  
両足を大きく広げ固定されているので、尻や雄の象徴が収まっている部位も丸見えだ。  
ドーブルはゆっくりと顔に凄絶な笑みを浮かべ、視線の先へとにじり寄る。  
先程から理解出来ない行動ばかり続けているドーブルに、バクフーンはもう許してくれ、と言わんばかりの顔だ。  
そして、丁度バクフーンの股座の前まで来ると、そこ目掛けて腕を伸ばした。  
「お、おい、俺にゃそんな趣味―――っ!」  
バクフーンの制止の言葉は、ドーブルの行動によって遮られる。  
ドーブルは右手でバクフーンの竿を、左手で睾丸を掴み、ゆっくりと動かし始めた。  
「あ、っく……!」  
柔らかい手の感触が毛皮の上からでも伝わってきて、バクフーンは思わず嬌声を上げる。  
ころころと両の玉を撫でまわし、毛皮に覆われた筒を慣れた手つきで扱いていく。  
ドーブルの特性も関係しているのか、自分で行うより遥かに気持ちいい。  
その証拠か、既にバクフーンの毛皮に沿って、ねっとりとした液が滴っていた。  
ドーブルは、その惚けた相手の表情を再び無表情で窺いつつ、口を開く。  
「安心して? 僕もこんな趣味はないから……。ただ、さあ」  
と、ドーブルが左右の手の動きに緩急を付け手淫を続ける。  
上下左右に激しく性器を刺激され、それに合わせて喘ぎ声を出してしまう。  
先走りの量も増えていき、筒から睾丸、そして肛門を伝って地面を怪しく濡らす。  
程なくして、包皮から剥け出た立派な一物が顔を出した。  
丁度、赤い雄を挟んで見えるバクフーンは、恥辱や恐怖などが入り混じった複雑な顔つきをしていた。  
「ねえ、気持ちいいの? 今まで、散々、痛めつけてた奴に、こんなことされて、気持ちいいの……?」  
「ううっ……!」  
わざと言葉を切って、相手の反応を見る。  
自身のプライドが最早ズタズタなのか、バクフーンは涙を我慢して震えている。  
自分の思い通りに相手を操れる感覚に、ドーブルの眠っていた嗜虐心が目を覚ましていた。  
今まで我慢していたのが馬鹿のようだ。こんなにも簡単に、誰も敵わないと言われていた奴が手玉に取れてしまう。  
「こんなに先走り流して。雄の僕に手コキされて、感じてるの?」  
さらに追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。  
バクフーンは必死に聞こえない振りをしているが、この狭い洞窟では声が反響して、小声で話そうとも聞こえないはずはない。  
その反応だけでドーブルは満足し、次の行動へと移る。  
「折角だから最後までイかせてあげるよ。でも、ぐちょぐちょして汚いからこれ以上触りたくないんだよね。だからさ」  
再び右手に尾を握り、宙に黒い色彩で何かを描き始める。  
不思議な物を見るかのように、バクフーンは目を奪われていると、徐々にそれはドーブルを模した影へと変化していく。  
そして全身を描き終えると、意思を持ったかのようにその影が動き出す。  
 
「『かげうち』で作った影が相手をしてあげる。思う存分、好きなだけ乱れるといいよ……」  
ドーブルは呟くように告げると、洞窟内にある岩へと腰を下ろして静観を決めることにした。  
目の前には表情も言葉も無い、黒いドーブルだけが残される。  
言いようもない不安感にバクフーンは襲われるが、そんなことをゆっくりと感じさせてくれる余裕すらドーブルは与えない。  
影の左手がねっとりと覆うようにそそり立つペニスへと巻きつき、先刻の動きよりさらに激しく上下へと擦る。  
「んっ……!あうっ!」  
加減の無い手つきがバクフーンを責め立てていく。  
弄っている影の手にも粘液が滴り、洞窟内に淫らな水音と艶声が混ざって響き渡る。  
刺激に屈してしまい、バクフーンの雄はびくびくと震え、射精の準備を迎えている。  
もうすぐ達してしまう。目をギュッと瞑った。が、その一歩手前で、唐突に影の動きが止まった。  
寸止めを食らい、肩で息をしつつ、ドーブルへちらりと疑問の視線を投げかける。  
しかし、その疑問はすぐに解消された。  
影の右手が、通常ではありえない長さで伸び、バクフーンの胸元へと指を広げていたのだ。  
「言い忘れてたけど、影はある程度伸縮自在だから。もっと、君の慌てふためくところが見たいんだよ……」  
バクフーンと視線を合わせて、ドーブルがうっすらと笑う。  
「ひっ……!」  
火傷した顔に狂気じみた表情を作っているそのドーブルに、最早恐怖しか覚えない。  
ドーブルは言い終えると、影の右手が両胸の出っ張りへと掴みかかった。  
「ふ、ううんっ!」  
同時に左手の動きも再開し、三か所をばらばらな手つきで黒い影が蠢きまわる。  
一旦萎えかけたバクフーンの雄槍も、再度硬度を得て天井へと向き直る。  
乳首の刺激に慣れていないらしいバクフーンは、先ほどよりも表情が弛緩していた。  
そろそろ限界が近いだろうことを察したドーブルは、影の手つきをさらに早めた。そしてついに、  
「あっ、うあああああ!」  
限界を迎えたバクフーンのペニスが影の手の内で跳ねまわる。  
自身でコントロール出来ない赤い雄は、宙空へと白濁液を飛ばし、そのままバクフーンの身体を白く汚していく。  
寸止めされたせいか量が多く、吐精が終わるまで十数秒もかかった。  
洞穴は一気に性臭で満たされ、行為の余韻を漂わせている。  
「うっ……ふぅっ……」  
興奮を収めようとバクフーンは息を整える。  
自分が達したことにより、ドーブルの目的は果たされたはずだ。  
それなのに、ドーブルは座ったまま身動きをしようとしない。  
「なっ……、なあ、もう、いいだろ? 許して、くれよ……」  
息も絶え絶えに、消え入りそうな声で懇願するバクフーンを見て、ドーブルは口を開いた。  
「まだ一回目で、何を言ってるの。もっと、楽しもうよ……?」  
「えっ……!」  
白い色彩も加わった影が再度ゆるやかに動き出す。  
バクフーンはその時、ようやく悟った。  
自分は、決して触れてはならないものに触れてしまっていたのだ、と―――。  
 
 
あれからどれだけ時間が経っただろう。  
目の前のバクフーンは何度目か忘れるほど吐精し、最早毛皮で白くない部分を探すほうが難しい。  
しかし、そろそろびくびくと震えるだけで何も反応を示さなくなり、つまらなくなってきた。  
ここらが潮時か、と思い、ドーブルは『キノコのほうし』を散布しバクフーンを眠りにつかせる。  
それと同時に、紫色の靄のようなものがバクフーンを覆う。  
『あくむ』は、寝ている最中のポケモンの体力を果てしなく奪っていく。  
既に体力が尽きかけているバクフーンに使えば、どうなるかは分からない。が、そんなことは知ったことではない。  
「誰かが来れば、助かるんじゃないかな。バクフーン、さん……」  
そう言い残し、ドーブルはふらりと洞窟を出る。  
少し歩いて、ああそういえば、とふと思い出す。  
この洞窟は外部からは察知出来ないんだったな、と。  
だが、もうそんなことはどうでもよかった。  
これから何をしてやろうか。  
森で一番危険なそのポケモンは、精神を病んだまま、そのまま何処かへと行ってしまった。  
 

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