ふわり。夏のひんやりと湿った夜風が頬をなでてジュペッタは目を覚ました。
「なに…?」
誰か出て行ったらしい。それにしてはテントのジッパーを開ける音がしなかった。
ジュペッタは目を擦ってテントの中を見渡した。広い。広い?
「ヨノワールか」
2mの巨体が消えると、テントがぐんと広く感じる。
それに、どうして風しか入らなかったのかわかる。ゴーストは壁を通過できるのだ。
ジュペッタは無防備に腹を上に向けているポチエナを踏まないように出入り口にちかより、
顔だけにゅっと外につきだした。
ヨノワールがいた。木と木の間に入っていく。手にはなにもつかんでいないが…
おみとおしのジュペッタにはモモンのみ数個とポフィンがヨノワールの身体を透かして見えた。
勝手に持ち出した主人のアイテムをヨノワールは腹の中に隠してどこへ行くのだろう。
楽しそうな様子だ。
ジュペッタはそのままテントをすりぬけ、ヨノワールのあとをつけていくことにした。
主人がテントを張った場所と同じような開けた場所に、
あまいかおりの木がいっぽんだけぽつんと立っている。
木が見えると前を行くヨノワールの浮かれた雰囲気が丸出しになった。
ジュペッタはその木のしたに誰かがいることに気づいた。
白い身体に緑の頭。赤いツノ。
「キルリアだ…」
ヨノワールがキルリアに軽くお辞儀をしてその隣に腰を下ろした。
キルリアが口元を押さえて高い声で笑った。
なんだかいい雰囲気である。ジュペッタはのどに何かがせりあがってくるような気がした。
これ以上ここにいてはいけない。
ジュペッタは草むらが音を立てるのもかまわず来た道を駆け戻りテントに逃げ帰った。
ヨノワールとはヨマワルとカゲボウズだったころからの仲だ。
いまの主人におくりびやまで同時に捕まえられてからは、
ダブルバトル好きな主人によってコンビを組まされることが多く、
二匹の関係は確固たるものになっていった。
ジュペッタが攻撃をし、サマヨールが手助けをする。
サマヨールはうたれづよかったけれど、ジュペッタにとっては泣き虫な弟分だった。
ジュペッタはそんなサマヨールをなるべく傷つけたくなくて、
相手を一撃で落とせるように急所を狙う練習をしてみたり、
苦手タイプの仲間に挑んだりして主人に笑われたこともあった。
「懐かしい……はあ〜」
ジュペッタは主人の足元で転がりながら悶々としていた。
シンオウ地方にきてすぐにサマヨールはヨノワールに進化した。
もともと大きいやつだったが、進化してさらに身長差が開いた。
そのうえ攻撃力がほとんどかわらなくなってしまった。
ヨノワールは主人のメインアタッカーになり、ジュペッタはあまり戦闘に参加しなくなった。
日常で使えるアイテムを野生ポケモンから奪う役になった。
たまにバトルにかりだされたかと思えば、今度はヨノワールに守ってもらうばかり。
「あのころに戻りたい…」
背後できゃーきゃー言っていたサマヨールが、
今では完全にジュペッタの庇護から抜けてコンビ解消…。
いつまでも自分のものだと思っていたのに。
しかもヨノワールには恋人までできたようではないか。
ジュペッタは嫉妬でくらくらした。
またテントのなかに冷たい風が入ってきた。
まったく眠れなかったジュペッタは帰ってきたヨノワールをじろじろ見た。
前よりつややかになっている気がする。気のせいか。
ヨノワールはジュペッタの視線に気づくことなく、定位置に戻り丸まった。
「おい」
ジュペッタはヨノワールに声をかけた。ヨノワールの肩が跳ねる。
「わあ!」
「大声出すなよ。どこに行ってた?」
「え…、ちょっとトイレに…」
「それにしては長かった」
ジュペッタは主人や他のポケモンを起こさないよう
慎重に足場を選びながらヨノワールに近づいていった。
「とぼけるなよ。外に恋人なんかつくりやがって」
「見てたの?失礼だな…恋人なんかじゃないよ」
「ふていけい同士どうしだしぴったりじゃねーか」
ジュペッタは口元のジッパーを開けた。
「だから違うったら。キルリアさんは…ひっ」
ヨノワールは首筋に濡れた生暖かい何かが走るのを感じて身をすくめた。
「だまれ」
「ジュペッタ」
ジュペッタはヨノワールの弾力のある頬に吸い付いた。
一方で片腕を伸ばして胸の突起に触れる。
ヨノワールがびくりと反応すると、肩に乗っているジュペッタの身体も揺れた。
「やあ、あ…なに…変だよ…なにしてんの…」
「ラルトスのタマゴなんか持ってかえって来たらぶっ殺すぞ」
「だから違うって…んん…やめてよ、…振り払うよ」
ヨノワールの腕が大きく持ち上がり、ジュペッタはバランスを崩した。
ずり落ちる前にジュペッタは咄嗟に“みやぶる”をヨノワールに当て、続けてわざを放った。
「かなしばり」
「ぎゃっ」
「動けないだろ?」
ジュペッタは背筋を伸ばし腕が中途半端に上がったまま固まったヨノワールに軽く口付けた。
ヨノワールの目だけがぐるんと動いてジュペッタを捕らえる。
「動けないけど…大声出せば皆おきるよ」
「別にいい。オレもうバトルしないし、チームワークとか関係ない」
「……」
ヨノワールの赤い目がすっと逸らされる。
「もう…好きにすれば…」
「あっそ」
ジュペッタはヨノワールの下腹部に腕を伸ばした。
タマゴグループ―――そのなかでふていけいグループは、
陸上やひとがた、かいじゅうグループのようなポケモンと違って、明確な♂♀の性器を持たない。
ゆえに、体液の交換でタマゴができる他の大多数のグループをは違い、“つがい”になり、
タマゴをつくるためには、♂と♀であることと、
もうひとつ…精神の繋がりが必要なのだった。
タマゴをつくらない快感を得るためだけの行為であってもそれは同じだった。
ジュペッタはかけていたかなしばりを解いて、
ポチエナのとなりにヨノワールに背を向けて横になった。
ヨノワールの小さなしゃくりあげる声が聞こえた。
(進化はしたところで中身はなんにもかわってない泣き虫のサマヨールだ)
ジュペッタにはヨノワールをふみにじった罪悪感だけが残り、なんの充足も得られなかった。
眠れない二匹はテントの端と端に分かれてじっと息をひそめていた。
その夜から、ジュペッタはヨノワールを明らかに避けるようになり、
それは周囲のポケモンにも伝染した。パーティの雰囲気があきらかにぎくしゃくしている。
「ねえ、あんたたち何があったの?」
主人はジュペッタとヨノワールを目の前に並べて言った。
ヨノワールは礼儀正しく主人に顔を向けているが、
ジュペッタは口をへの字に曲げて真横を向いている。
「こうもイヤな雰囲気まきちらされるとみんな迷惑なのよ」
「…!…!」
ヨノワールはブンブンと主人の前で手を振った。
自分のせいじゃないといいたいのだろう。
ジュペッタは自分がすべて悪いことはわかっていたけれど、
猛烈に否定するヨノワールを見てより不機嫌になり、より目つきが悪くなった。
主人はためいきをついた。腕を組み、口元をもてあそびながら、
しばらく二匹の前で考え込んで、突然ぱっと顔をあげた。
「わかった!またあんたたちで組んでダブルバトルしようよ!」
ジュペッタは意味が分からないといったふうに主人を一瞥した。
いまのジュペッタはただのアイテム要員ではないか。
しかし主人はこれ以上の名案はないといわんばかりに浮かれながら地図を広げた。
「あのね、ずーっとやってみたかった戦法があるんだあ〜。まずはわざマシンゲットしよ!」
ダブルバトル。相手はエスパー使いのようだ。
パーティにはアーマルドやジバコイルなど重戦車系が控えている。
ジュペッタとヨノワールは先鋒に駆り出された。
「ヨノワール!トリックルーム!」
時空がゆがんだ瞬間、ジュペッタは間髪いれずに相手のフーディンをシャドークローで切り裂いた。
一発で撃墜。そしてサーナイトのサイコキネシス。
ヨノワールはこのぐらいのダメージなら余裕だ。
入れ替わりにドータクンがやってくる。
(きついか?いけるか?!)
ジュペッタはヨノワールのてだすけを受けてもう一度シャドークロー。
しかしドータクンはギリギリで耐えた。
「うわー…サーナイト狙ってたほうがよかったかな?」主人が緊迫した声を漏らす。
(いや…そんなことよりも!いまのてだすけ…ああ!)
もうジュペッタには主人の指示を聞いている余裕がない。
ジュペッタはサーナイトを道連れに前線をひいた。
あとはヨノワールや後発のポケモンが片付けてくれるだろう。
「はじめての戦略だったけど、上々だわ!おつかれさまー!!」
主人はその試合があった夜、手持ちのポケモンたちにめずらしいきのみを大盤振る舞いした。
結局ジュペッタが退場したあと、アーマルドとヨノワールがきれいに仕事をしたらしい。
「トリックルーム・タイムが切れちゃったときは焦ったけど、
そのときはもう残り一体だったし、結構余裕だったかも♪」
ジュペッタはチイラのみをかじった。硬い…甘辛い。うまい!
「ジュペッタ、おつかれ!またヨノワールとコンビくんで、よろしく頼むわ!」
ジュペッタは木の下で食後の眠気に身を任せていた。
半分とじた視界にさっと大きな影が横切り、ジュペッタの隣に腰をおろした。
「…ヨノワール?」
「…隣座るね」
「…ああ…」
ジュペッタは何をしゃべればいいかわからずに黙っていた。
バトル中のつながりが夢だったかのようにきまづい雰囲気だ。
沈黙に耐え切れずにヨノワールがさきに口を開いた。
「…えっと…今日はおつかれさま」
「おまえもそれなの?聞き飽きたね」
「いいじゃない。本当に今日はよくできたと思うし」
「まあな。あ、…あのさ、オマエがてだすけしてくれたときさ…」
「うん」
「オマエの気持ちが伝わってきた」
「…うん」
(またダブルで組めてうれしい)
(ジュペッタと仲直りしたい)
(ジュペッタが隣にいなくてさみしかった)
「ごめんな」
ジュペッタはヨノワールの視線を感じながらも、
いじっぱりな性格が災いしてちゃんと謝ることができなかった。
「おわ!」
ヨノワールは顔をあさっての方向に向けているジュペッタの肩をわしづかみにしてしゃんとさせた。
「ちゃんと謝って」
「……」
「ほら」
笑っている。
「ごめんなさい…」
「えらいえらい」
ヨノワールはジュペッタの頭をまるで犬をほめるかのようにわしわし撫でた。
ジュペッタは憤慨してヨノワールにとびかかり、
丸い腹の上に馬乗りになり、ぺらぺらの拳で胸をぽかぽか殴りつけた。
ヨノワールはもう一度、こんどは優しく指先でジュペッタの頬を愛撫した。
柔らかな感触にジュペッタの目がすこしだけとろん、ととろける。
ジュペッタはヨノワールの身体に突っ伏した。
「ねえジュペッタ」
「なんだよ」
「ぼく、きみが好きだな」
その声が本当に優しくて、ジュペッタの捨てられたぬいぐるみだったころの本能に甘く響く。
「ずっとずっと昔、ヨマワルだったころから、きみの背中ばかり見てたよ」
身体の芯から暖かく、熱く疼いていく。
「オレも…」
ジュペッタはヨノワールの胸に耳を当てた。
心臓の音。この世に在るという証。
「愛してる」
ヨノワールは向かい合ったジュペッタを膝の上に乗せ、自身は木にもたれかかっていた。
「だ、だれかこないかな…?」
「こないこない」
ジュペッタはヨノワールの足の上に立って腹部を愛撫していた。
円やかな肌に舌を這わせると、ヨノワールがちいさく息を呑んだ。
「さっきのメシにねむりごな混ぜといた」
「ちょ…大丈夫なの?そんなことして」
「みんなバトルして疲れてるし生理現象だと思うだろ」
「そうかなあ……、…っ、あ」
ジュペッタが手を伸ばして胸の飾りを弄びはじめた。
ジュペッタに触られている場所からしびれるような感覚がヨノワールの身体を走り抜ける。
ヨノワールは目をぎゅっとつぶり、声をあげてしまいそうになるのをこらえていた。
「だ…だめだよそこはあ…」
「気持ちよさそうだけど」
「…やあ…あー…、ん、ん」
「なんか足元が濡れてきた」
「うわ!!」
びっくりしたヨノワールがジュペッタの脇に手を入れて持ち上げると、
ジュペッタの足先にきらきら光る粘液がまとわりついている。
「ご、ごめん…」
「なにすんだよバーカ」
「だって…汚いでしょ」
「なわけないだろ」
ジュペッタが降ろせ降ろせとせがむので、仕方なくヨノワールはジュペッタを戻してやった。
「おい、キス!」
「う、うん」
身体をかがめてキス。100cmの身長差は苦しい。
目を閉じて腕をヨノワールの肩にかけ、
ジュペッタはヨノワールの目の端に浮かぶ涙を味わった。
「んん」
「舌があったほうがよかった?」
「別に?想像つかないから、いまのままでいい」
その体勢のままジュペッタは足先でヨノワールの粘液の源を探り当て、ぐりぐりと刺激した。
「ん!」
ヨノワールが無意識に逃げようとするのを、まわした腕でぎゅっと押さえつける。
密着しているので、ジュペッタにはヨノワールの心臓の音がよく聞こえた。
速い。どんどん加速させてやる。
「オマエさ…っ」
「あ…っあっ!はぅ」
「♂なのっ?♀なのっ?こんなにぐちゃぐちゃにしてさあ」
「んん…もう…わかんないっ…あっ」
ジュペッタはヨノワールの首筋にかみつき、痕跡をつけながら、ソコを強くかき回した。
洪水のようになったソコは、ジュペッタが動くたびにぐちゅぐちゅと音がする。
淫猥な水音にヨノワールの思考が溶けていく。
「イキタイ?イキタイのか?」
「あ…ーっは、…―は…ぁ!」
「答えろよ!」
ジュペッタの額にぽたぽた塩水が落ちてくる。
ヨノワールは身を震わせて小さなジュペッタに懇願した。
「いき…たい…!お願い…っ」
「じゃ、」
そのとたんジュペッタの動きが止まった。
突然激しい刺激がとまった反動でヨノワールはよろけ、
ジュペッタと一緒に草地に横倒しになった。
絶頂の期待で膨らんだ場所が痛いぐらいに刺激を求めて焦がれている。
身体の熱が一点に集まってしまい、熱くて動けない。
「ぷはっ!…はっ!…は!」
「ひゃひゃひゃー。ヨノワールかわいいけどー」
「も…っなんなの…っ酷いよ…」
やっとのことで元の体勢に戻ると、ジュペッタは伸び上がってヨノワールの額にくちづけた。
「オレもいっしょにイキタイ、て思って」
「…そうだね…」
ヨノワールは答えるのがやっとだった。
「どうしよっか…この体格差じゃ繋がるの無理だと思う」
「…うん…」
ジュペッタに悪いと思いつつ、
ヨノワールは頭の中がショートしてほとんど何も考えられなかった。
早くこの熱を発散したい…!
ヨノワールは疼く身体が震え、小刻みに揺れるのをとめられなかった。
あまりの羞恥にヨノワールは片手で顔を覆った。
「しょうがないなあ〜エロいやつ」
「しょうがないでしょ…うう…きみのせいなんだからね」
「顔を隠すのはだめだ。オレだって隠してないんだから」
そういいつつジュペッタはヨノワールの手を降ろし、押さえた。
「はやくイかせてよぉ…」
「そんなに限界なわけ?…“じこあんじ”」
そのとたんジュペッタの身体じゅうをヨノワールが感じている熱がかけめぐった。
「か…は!…っ!ヨノワール!」
ジュペッタはヨノワールのソコをめちゃくちゃに刺激した。
突然の激しい動きにヨノワールの脳裏がスパークし、
それはじこあんじしているジュペッタの身体にも伝播する。
ヨノワールはジュペッタの小さな身体を抱きしめて声にならない叫びをあげた。
そして今までせき止められていたものが濁流のように押し寄せて二匹を押し流した。
「はあー―――!」
「近くに川がある町でよかったね」
「まじまじ。あのままテントに帰ってたらポチエナが卒倒。臭すぎて」
「はは…」
ヨノワールにとって、キルリアは恩人らしい。
ヨノワールがサマヨールだったころ、主人といっしょにホウエンを放浪していたときに出会い、
はぐれてしまったサマヨールをまたパーティに合流できるよう導いてくれたのだそうだ。
「サマヨール時代はテレパシーできなかったけど、
ヨノワールになったら霊界と通信できるようになってさあ」
近くにいるから会おうよ、ってことになったの、とヨノワールは言った。
「彼女はだんなさんも子供もいるんだよ」
ジュペッタは、納得、というふうに肩をすくめた。
ヨノワールは腕の中のジュペッタを見た。身長差は100cm。
「ぼくが好きなのはジュペッタだけだからね」
「おう!当然だろ」
胸を張るジュペッタがおかしくてヨノワールはふきだし、つられてジュペッタもふきだした。
完全にコンビ復活になっちゃったね、と二匹はクスクス笑った。