コトネがちょうどエンジュシティのポケモンセンターに寄った際、たまたまシルバーと出くわしたのがことの始まりだった。
「あ、シルバーじゃん」
「……お前は!」
両手に数個のモンスターボールを抱える見知った赤い頭を見つけて背後から話しかけると、異常なまでに肩をびくつかせ、シルバーはそのまま数歩退いた。
ポケモンを常に卑下していたシルバーだったが、ヒビキやコトネと戦っていくうちにポケモンを無意識の内に労わるようになり、
ここ最近はこまめにポケモンセンターに寄るようになった。
しかしそれを誰かに見られるのは…ましてやその2人に知られるとなると恥ずかしさと情けなさが頂点に達するようである。
シルバーが声を荒げるとそのうち2人の間で言い争いが始まったが、しばらくするとまたもや偶然、舞妓さんがポケモンセンターに入ってきた。
「あ!舞妓さん!」
「あらコトネはんやないの、お久し振りやなぁ」
コトネを見つけるや否やその透き通るような白い顔はほころび、隣でふてくされているシルバーの存在にも気付くとさらに笑顔を浮かべてコトネと見比べる。
すると唐突に、そうだ!と思いついたように両手を合わせ、今夜はうちで食事をしないかと2人に誘ってきた。
「いいんですか!?」
目を輝かせたコトネは大きく頷き、豪華であろう料理達に想いを馳せ始めた。
一方シルバーは馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てて帰ろうとしたが、歩き出す前にコトネに腕を掴まれ有無を言わさず強制的に連れて行かれた、という訳である。
案の定出された料理の豪華さと絶品さはシルバーも唖然とするほどで、野宿続きだった二人に多大な満足感を与えた。
…が、しかし。一緒に振る舞われた飲み物の中に酒が混ざっていたらしく、うっかりそれを口にしたシルバーはすっかり出来上がってしまい、
酔っ払ったシルバーをコトネがポケモンセンターまで連れてかえることになったのだ。
***
「ちょっと、ちゃんと歩いてよぉ〜」
「ー…」
「もー、なんで私がこんなこと…」
壁に寄りかかり、今にも寝そうなシルバーの腕を必死に引いて前へ進ませる。
酒に口をつけていなかったコトネは素面の状態だったため、ぶつぶつと文句を言いながらシルバーの腰を支えるように腕を回し、
壁にもたれて座り込みそうになっているのをどうにか起こして引きずるように歩きだす。
いつもより二割増しくらいににこにこした舞妓さんたちが、「コトネちゃん頑張ってね」と言っていたのを思い出し、はぁ、と深いため息をついた。
(舞妓さんたちが皆で運んでくれれば良かったのに)
いくら凄腕トレーナーとは言え、コトネは普通の女の子なのだ。
ましてや、シルバーは男でその分体重がある。今はまだ自分の意思で歩いているからいいけれど、このまま寝込まれたら最悪、放置するしかない。
さすがのコトネもそこまで鬼ではないし、口で言うほど嫌なわけでも…
というか正直、密着する意外に体が男らしく、恥ずかしくて仕方ないので、一刻も早く部屋へ連れて行こうと奮闘しているのだった。
「お部屋、着いたよ」
「ん…」
「…もー、勝手に入るよ…」
ようやくたどり着いた、シルバーが泊まっている部屋のドアを開け、一応後ろ手で閉める。
シルバーに肩を貸したままよろよろとベッドまで連れて行くと、ぼふんと一緒になって倒れ込んだ。
「ふぅ…はあ…し、しんど…」
「…あちぃ…」
「あーはいはいわかったわよ。出てくからおとなしく寝てよね」
もぞもぞと寝たまま靴を脱ぐシルバーにお礼くらい言えないわけ?と呆れた目を向けながら、両手をついて起き上がりそのまま立とうとするとがしりと手を捕まれた。
「…なに」
「……」
「え、なんなの?」
問いにも答えずシルバーは無言でコトネを見つめている。
さすがに変だと思って捕まれた腕を引こうとするがシルバーの手はびくともしない。
「シ…シル、バー?」
急に怖くなって後ずさろうとした瞬間、強く引かれて体勢を崩す。その衝撃で被っていたリボン付きの帽子がはたり、床に落ちる。
ベッドに沈み込んだ体を起き上がらせようとする前にシルバーの手がコトネの手首をつかんでシーツに縫い止めた。
「な…!?ちょ、ちょっと!なんの冗談!!?」
「…冗談?」
見下ろしてくるシルバーの瞳は普段よりも熱っぽく、コトネは視線を外せなくなる。
こく、と喉が鳴ったのを合図にシルバー顔が近づいてきた。
「っ…!シルバー!だ、だめっ…」
「だめじゃない」
すぐに顔を背けたが、抵抗もむなしくシルバーの唇がコトネのそれに乱暴なキスをする。
息が止まりそうになるほど長く塞がれ、離れたと思ったら噛みつかれ、思わずうめくとそこから舌を捩じ込まれる。
「んっ…ふ、は…ぁ、」
上顎を舐められて、歯列をなぞられて、舌先を吸われて、背筋に甘い痺れが走る。
必死に振り払おうとするのに押さえ込まれた体は言うことを聞いてくれない。
酸欠なのと与えられる刺激が甘美すぎるのとで溶けかけていたコトネの意識は、オーバーオールのヒモがするり、肩から落ちた感覚で急に現実に立ち戻った。
「っ…!!? む、んぐっ」
「…なんだよ」
「ふはっ、…な、なんだよじゃない!」
驚いてもがいたコトネに気分が削がれたのか、やや眉をしかめながらシルバーは唇を解放する。
薄めの唇が互いの唾液で濡れているのを見てコトネはじわり、顔が熱くなるのを感じた。
「自分が今何してんのかわかってる!?正気に戻ってよ!!」
「俺は至って正常だ」
「正常なアンタが私にこんなことするわけないでしょ〜っ」
舞妓さんだったらともかく。と言いかけて自分で傷つく。脳裏で晴れやかな姿の、ヤマトナデシコのような彼女達の顔が浮かんだ。
(そういえば、ポケモンセンターでもやけに舞妓さんから目、逸らしてたし。照れてたのかな…。)
常日頃から自分は女としての扱いを受けていないのだから、こうなるのはおかしい。
だから傷つくなんて今更だ、と言い訳をしていると、一度は止まったシルバーの手がまた動きだし、コトネの服を造作もなく脱がしてゆく。
「な、ななななにしてるのよ!」
「何って、見てわかんねぇのか。脱がしてんだよ」
「脱がしてるのはわかるけど!?そうじゃなくてっ…」
「…少し黙ってろ」
真っ赤になって怒鳴るコトネの声が途切れる。
もが、と目を白黒させれば、柔らかく息すら絡めとるようにシルバーの唇が、舌がコトネの口を塞いでいた。
いつの間にか解放されていた両手でのし掛かるシルバーの体を押し返そうとしてもまったく意に介さず、
するりと赤と黒の二重シャツを上に引き上げられると、コトネの体を隠すのは下着のみになってしまった。
「ちょ…っ、やだ…!」
口付けをやめたシルバーの顔がコトネの首に寄せられ、ぬるりとした感触に肩が震える。
それがシルバーの舌だと気付く前に長い指が下着の下へ潜ると、コトネのささやかな胸を柔らかく揉んだ。
「や、しるば…っ」
「嫌そうには見えねぇけど」
つ、と首筋に舌を這わせながらシルバーが笑う。
かかる息さえ敏感に感じ取ってしまって、びくりと身をすくめると気をよくしたのか手の動きが大胆になる。
手のひらにおさまるそれを包みこみ、やわく揉んだかと思えば頂きを摘まんでくいくいと弄ぶ。
他人からも、自分ですらそんな風に触ったことがない。
もたらされる甘い疼きに、火照ってゆく体に、コトネはただ声を噛み殺して必死に意識を保つことしかできずにいた。
「声我慢すんなよ」
「っ、べつに…してな、…んっぁ!」
先端を強く摘まれて小さく悲鳴を上げる。
涙の溜まった瞳でシルバーを睨めば、楽しそうに目を細めている。
「我慢してんじゃねーか」
「し、てない…も…っ」
「どうだか」
それでも強がって唇を噛むコトネに頬をゆるめると、シルバーは先ほどまでいじっていた頂きを口に含んだ。
「やっぁ…!?」
「…やっぱ我慢してたんじゃねぇか」
「う、しゃ…しゃべるなぁっ…!」
含んだまましゃべられると歯や唇が当たってくすぐったい。
いやいやをするように頭を振るがシルバーは低く笑うだけで、吸い付くのをやめない。
だんだん身体の奥に溜まってゆく熱がもどかしくて無意識に膝を擦り合わせると、
それに気付いたシルバーの手が胸、腹、腿をなぞりコトネの内股にたどり着き、下着の上から秘部を撫でる。
途端にコトネの身体はびくんと強ばった。
「!?や、だ…っ!!そこは絶対だめっ!!」
「何がダメなんだよ」
「だだだダメなものはダメなの!」
「…こっちは触って欲しそうだけどな」
「ひああっ!」
ぐっと下着を押し込むようにして布地の上から入り口に触れれば悲鳴のような声が上がる。
指先がしっとりと濡れるのを感じてシルバーは笑う。
「…濡れてる」
「っ!!」
かああっと首まで赤くなったコトネが文句を言う前に下着をずり下ろすと、迷わず淡い栗色の茂みの奥へ指を這わせる。
「や、あぁっ!」
あわてて両足を閉じようとしても遅く、つぷりと埋められた指がひどい異物感をもたらし、コトネは眉を寄せる。
なかを探るように動くのをリアルに感じ、あまりの気持ち悪さにさきほどまでの熱が急激にさめてゆく。
「や…だ…!きもちわるいよぉ…」
「……」
ぐすぐすと涙声のコトネにシルバーは一旦なかで指を動かすのをやめ、かわりに親指で隠れていた突起を探り出すと強く押した。
途端に身体中に走る電流のような快感。
「ふあっ!?や、なに…っア、」
びく、びくと爪先が震える。
突起をいじられながらまたシルバーがなかで指の動きを再開すると、今までの気持ち悪さが段々違うものへ変わってゆく。
息を乱し涙を流しながら切れ切れに喘ぐコトネの秘部は、いつの間にかシルバーの指を3本くわえこんでいた。
「あ、や…ぅ、っシルバー…!も、やめ…っ」
シルバーの指が抜き差しされるたびにぐち、と耳を覆いたくなるようなやらしい水音が響く。
自分がその音を出しているのだ、そう思うとコトネは恥ずかしくてしょうがなかった。
こんな風に自分を乱しているのがあのシルバーなんだと思うと余計に。
見上げれば、こちらを見つめるのは熱を宿す紅の双眸。
それに見入られるように息を詰めれば、ゆっくり顔が寄せられて唇が触れる。
「ん、」
「…悪ぃ、もう止めらんねぇよ」
「あっ…!?」
ずる、と指が引き抜かれ、コトネの心中とはうらはらに秘部は喪失感にひくひくと震える。
それに誘われたようにシルバーは余裕のない乱暴な手付きでズボンの前をくつろげると、白い両膝を抱えて熱くなった自身をコトネのそこへ押し当てた。
「っや、ちょ…タンマ!」
「……無理」
何をされるか理解した瞬間、押し入ってきた指よりも太いそれに、コトネは悲鳴を上げた。
「やああ!!!いたいっ…やだ、やだぁ!」
「っく、バカ…力抜け…っ」
「ひ、いぁ…っ」
痛みに脂汗が浮いてくる。
思わずシルバーの腕に爪を立てると、そのまま抱き込まれて肩口に顔を埋める体勢になる。
耳元でシルバーが低く唸る声が聞こえて胸がぎゅう、と痺れた。
「う…ぁ、むり…っおっきい…!」
「…っお前、そういうこと言うな…っ」
じりじりと腰を進めながら歯を食いしばるシルバーの額にも汗が浮かんでいる。
苦しそうに顔をしかめるのを涙で歪んだ視界で見ていると噛みつくように口づけられた。
下腹部に感じる痛みとは違うひたすら甘い熱を与えるそれに意識が逸れると、
ふっと力が抜けてその瞬間シルバーが腰を押し付け、なかを満たす圧迫感に口付けられているせいでくぐもった叫び声を上げる。
「く…っ入った、な」
「…っくるし…、」
「少し我慢しろ」
シルバーはコトネの耳に唇を這わせると、耐えるように眉をひそめながらゆっくりと浅く抜き差しをはじめる。
異物感が出たり入ったりするのに吐き気を覚えるが、
シルバーが胸や首にキスをしたりふれる度に段々とむず痒いような感覚が訪れるようになってコトネは困惑した。
「あ…っや、なんかへん、…っ」
「…変?なにがだ?」
「わかんな……ひ、ぁ!」
ぐり、と急に深く突き立てられて身体が仰け反る。
それは痛みではなくもっと未知な、頭の中が真っ白になる感じ。
それが強すぎる快感なんだと悟るまえに、シルバーが更に腰を動かしてきたせいで思考が一気に吹き飛んだ。
「あっあ、あ!や…し…るばぁ…っ」
「ん…」
「ひああっ!やだ、やっ…おかしくなっちゃ、ふあっ」
「…おかしくなっちまえよ」
息もつけないほどの快感と、激しい律動に喘ぐコトネの白い喉にさながら獣のようにシルバーは噛みついて低く言う。
それすらも刺激になって、コトネは弱々しく鳴きながらシルバーの背中にすがりついた。
もう限界が近いのか、きゅうとシルバーを締め付けるなかに小さくうめくと、より奥を目指して動きを早める。
シルバーが奥を突くたび、コトネの華奢な身体はびくんびくんと震えて足先が宙を蹴った。
「ああっ!や、ん……しる、…ばっ」
「コトネ」
熱を帯びた声が鼓膜を、コトネの心を揺さぶる。
ぁ、と小さな声を上げたコトネの目尻に口付けると、シルバーは自身をぎりぎりまで引き抜き、勢いよくなかへ突き立てた。
「ひあっ…あああああっ!!」
身体をしならせて達っしたコトネが息つく暇もなく、繋がったまま身体を引き起こされる。
向かい合ってシルバーの膝の上に跨がるような体勢になると、さっきよりも深くにそれを感じてコトネは震えた。
初めて達した衝撃すらやり過ごせていないのに、新たな刺激を与えられて息も絶え絶えになる。
両肩に手を置いてぎゅっと目を閉じるコトネの紅潮した頬に、シルバーは徐に口付けるとゆるゆると揺さぶりはじめた。
「あっ…!やだ、もうむり…っ」
「っ、悪……止まんねぇ…」
「ばか!!…っあ!や、」
ぎゅ、とシルバーの首に抱き着けば、下からの突き上げが激しくなる。
ガクガクと揺られて呼吸すら困難なほどの快感が脳を刺激する。
結合部からずちゃ、と卑猥な音が聞こえるのが羞恥心を煽り立て、しゃくりあげながら喘ぐコトネの様子にシルバーはひどく興奮した。
次第に早まる律動に、熱を増すシルバーのそれに追いたてられるように2度目の絶頂を感じたコトネは、シルバーの肩口に顔をうずめるとひときわ高い嬌声をあげた。
「やああああっ!!」
「っ…!」
蠢き締め付けるコトネのなかから硬度を保ったままの自身をずるりと引き抜くと、シルバーも欲を吐き出す。
「ぁ…は、あ…」
ぐったりと弛緩した身体をシルバーに預け、焦点の定まらない瞳で中空を見つめる。
ひどい倦怠感に浅い呼吸を繰り返しながら目を閉じると、コトネは腹の上にかかった白濁が腿へ伝い落ちるのを感じながら意識を手放した。
***
「…ほんとに…すまなかった」
「……」
床で正座し、頭を下げるシルバーにコトネはつん、とむくれて枕に顔を埋める。
室内には朝日が射し込んでおり、気を失ってそのまま寝てしまっていたコトネが目を覚ますと青い顔をしたシルバーがいた。
どうやら昨夜のことは覚えているようで、コトネが起きる前に一応身体を拭いたりはしてくれたらしい。
しかし、無理矢理"はじめて"を奪っていったシルバーにかける言葉も無く、コトネは冷たい視線のみを送った。
「腰痛い」
「わ…悪い…」
「…はじめてだったんだけど」
「………悪い…」
コトネの言葉にシルバーはどんどん顔を青くする。
心なしか、頭のてっぺんの赤い毛先がいつもよりしんなりしているようだ。
コトネははぁ、とため息をつくと「もういいよ」と呟いた。
「…そんなに謝られるとこっちが悪いことしたような気分になるでしょ」
「…悪い」
「だからもういいってばぁ」
痛む身体に眉をひそめながら起き上がると、何も身に纏っていなかったことを思い出してシーツを手繰り寄せる。
途端にシルバーが気まずそうにふと目を逸らした。
「……昨日はやだって言っても脱がせたくせに…」
「は!?あ…、あれは、そのだな…」
「はいはい」
コトネの言葉に過剰に反応するシルバーに小さく息をついてもぞもぞとシーツにくるまる。
「…心配しなくてもいいよ。…正直アンタの方が可哀相かもしれないし。」
「……?」
「私みたいな貧相な体の女、抱いてて辛かったでしょ?やっぱり、シルバーも舞妓さんみたいな大人の人がタイプ?美人だもんね」
「…、何言ってんだ」
沈み込みそうになる気持ちを誤魔化すように、場に不釣り合いなほど明るい口調で捲し立てればシルバーが不意に低い声を出す。
びくりとして少しだけ視線を泳がすと険しい表情がこちらを見据えていた。
「な…なんでって、誰でもよかったんでしょ?だからたまたま傍にいた私を、」
「…誰がそんなこと言った?」
「え、」
明らかに苛立っているような様子のシルバーに戸惑っていると、シルバーは額に手をやって考え込む。
「…お前は俺が舞妓さんみたいな女を好きだって思ってたわけか?」
「そうだけど…」
「……なんでだよ…」
「は?」
はあ、と頭を抱えたシルバーに「なんなの」とコトネが片眉をはねあげて怪訝な顔をすると、ぐしゃりと後ろ頭をかいてシルバーは顔をあげた。
「……いくら酒が入ってたからって、気のない相手に手を出すほど無節操じゃねー」
「…え?」
何か信じられないようなことを聞いたような気がして目をぱちくりとさせる。
シルバーはすっと視線を逸らし、目もとを赤くした。
「あー、だから…酒の勢いってだけじゃなくて」
「…じゃなくて…?」
「酔って理性がとんじまったというか」
「それってやっぱ勢いじゃない」
「ち、ちがう!…前々から、そーいうことをしたいと…」
「へ」
「…だから!ずっとお前に触りたいと思ってたんだよ!」
「え……!?」
「なのに俺が酔っ払ってお前が部屋まで送ってくれた時…すげぇ、密着してきただろ!」
我慢できなくなったんだよ、と半ばヤケになって言い切ったシルバーにコトネはぽかんと目を丸くした。
もしや夢でも見ているのか。あの口を開けば嫌味しか言わないシルバーからそんな言葉が出てくる訳がない、とすら思う。
しかし下腹部に残る生々しい鈍痛も、素肌に触れるシーツの感触も限りなく現実だ。
言葉を失うコトネに向き直り、目を合わせるとシルバーはそっと手を伸ばす。
指先が髪に触れた。
「最初は死ぬほど嫌いだった。女の癖に俺より強いし、ポケモンいじめるなとか説教かましてくるし。
…けど戦ってくうちに…。その、ポケモンとの絆の大事さ教えてくれたのも、お前だし…。」
「……」
「お前が嫌いじゃない」
「………」
「す…、………好き、だ」
僅かに髪を揺らしただけで離れた指先に気付かないくらい、シルバーの視線に囚われていた。
未だ呆然としているコトネにシルバーは言葉を探すように目線をさ迷わせると口を開いた。
「…責任とらせろよ。こんなんで許されるとは思ってないけど、」
「うれしかったんだ」
「…は?」
シルバーの言葉を遮ってぽつりと呟く。はっとコトネの方へ視線を向けると、茶色の大きな瞳からぼろりと涙がこぼれた。
ぎょっとするシルバーの目の前でコトネは涙を拭うこともせずにただぼろぼろと泣いている。
「…うれしかったんだ、シルバーに触れられて…。私もずっと前から、シルバーの事……」
震える肩から、とっくにほどけていた栗色の髪がこぼれ落ちる。
儚く見えるその様子に腕を伸ばしたくなるのをこらえてシルバーは一瞬躊躇う。
「…っだ、大体、ほんとに嫌だったら殴るなり蹴るなりするわよ!そんなこともわかんないの!?」
「……コトネ」
「責任…とってよね…!」
シルバーが言ったんだから、と言うコトネを今度こそシルバーの腕が捕らえた。
「すっごく痛かったし、すっごく怖かったんだから!」
「…ほんとに、悪かった」
「つ……次は許さないからね!」
ぎゅ、と細い腕が背中に回されるのを感じてシルバーは口元をゆるめた。
「次はとびきり優しくしてやる」
「……ん、」
触れ合う唇が痺れるくらいの幸福感を呼び覚ます。シーツに落ちる影はいつまでも寄り添った、まま。