「…………また、来たんだ」  
「また来ちゃいました」  
「……飽きない、ね。君も」  
 
 振り返りながら、いつも通りの無表情で呟く。  
 雪がふぶく音だけのシロガネ山の山頂では、その低い声がよく通る。心地よく響いて、少女の鼓膜を震わせる。  
 赤い服に赤い帽子を被った青年は、レッドといった。  
 
 無口で無表情な彼だが、感情がないということはなく。  
 少女――コトネは、何度もここに通い詰めるうちに、彼が会話を交わす数少ない人物となっていた。  
 
「いつまで来るつもり?」  
「そりゃあもちろん、レッドさんに勝つまでです」  
 
 何度もここに来るコトネではあったが、彼女はレッドに一度も勝ったことがなかった。  
 ジョウトのジム、四天王、チャンピオン・ワタル。そしてさらなる高みを目指して、カントーのジム。  
 それらすべてを制覇し、挙げ句の果てには道端でしかけられる勝負という勝負は一人も断らずに受けて、勝ってきた。  
 コトネには自分の強さに対する自負があった。悪く言えば、自惚れていた。  
 しかしそれはこのシロガネ山の山頂にいるレッドに負けたことで、一瞬にして崩れ去った。  
 
 悔しかった。バトルでは負けなしだった自分が、負けた。  
 コトネは悔しかった。しかしそれと同時に、自惚れていた自分が恥ずかしくなった。  
 悔しさと、恥ずかしさと。  
 他にもいろいろな感情が渦巻き、結果として涙が溢れた。  
 
 目の前が真っ暗になったかのような錯覚を覚えて、そして――  
 
「コトネ?」  
 
 かけられた声にはっとして、コトネは慌てて俯いていた顔を上げた。  
 
「な、なんですか?」  
「……ぼうっとしていたみたいだったから」  
「あ、ごめんなさい、なんでもないんです。……ただ、レッドさんと初めて戦った日のことを、思い出しちゃって」  
「……そう」  
「あの時……レッドさんに負けたからって、ぼろぼろ泣いちゃって恥ずかしかったなぁ、って」  
 
 さぞ困ったことだろう。  
 自分が負かした相手に泣かれては、寝覚めが悪いというものだ。  
 ――それは、かつて自分が負かしたジムリーダー、アカネに泣かれた経験からして。  
 
 けれど彼は、そんなコトネを迷惑がることはなかった。  
 それどころか、泣いている彼女の目元を優しく拭い、麓のポケモンセンターまで一緒に付いていった。  
 結局、その日の彼は一度も言葉を発することなく、コトネを送り届けたあとですぐにいなくなってしまったが。  
 
「……いいことだよ」  
「え?」  
 
 とん、と雪の積もった段差から飛び降りて、レッドはコトネを見据えた。  
 
「負けて泣けるのは、悔しいって思える、また戦いたいって思える、証拠」  
「確かにそうでした。私……」  
 
 レッドに負けたあとの感情は悔しさと、恥ずかしさと。  
 そして、もう一度……いや、何度でも彼と戦いたい。そして彼に、勝ちたい。  
 
「俺はその感情を、今まで過去にとらわれて無くしていたから」  
「……無くして、いた?」  
「コトネのおかげなんだ。少し、昔の自分に戻れた気がする」  
「私、レッドさんに勝てたこと無いのに?」  
「俺が勝っても、また戦いたいって思ったのは……あいつ――グリーンと、コトネだけだよ」  
「レッドさん……」  
「俺は……君と対等になりたい。だから」  
 
 ベルトのホルダーからボールを取り出して、彼は言う。  
 
「俺を……倒して欲しい。それまで、何度でも向かって来て欲しい」  
「……迷惑じゃ、ない、ですか?」  
「君を迷惑だと思ったことは、一度もないよ。……それに、迷惑だって言ってもコトネは来るってわかってるから」  
「……そうですよ。私は、レッドさんに勝てるまで何度だってここに来ます!」  
「うん。知ってる」  
「でも、今日勝つことだってあり得るんですよ!」  
「……手加減はしないよ」  
 
 そうして、今日もバトルの幕が開く。  
 
「あうう……また負けちゃった……」  
 
 相変わらず、レッドは反則的なまでに強い。  
 表面上はクールな彼だが、その内面では灼熱の炎が静かに燃えている。  
 かといって激しく責め立てる事はなく、相手の攻撃を受け流しつつ、強烈な一撃を繰り出してくる。  
 ポケモン個々の鍛え方も恐ろしく上級で、ポケモンのポテンシャルを最大限引き出している感じだ。  
 
 いつになったら、自分は彼と対等になれるのだろうか。  
 ここまで力量差を見せつけられては、落ち込みもするというもの。  
 今日の彼は、今までになく強かった。つまり、今までは手加減をされていたということなのだろう。  
 その事実が、より落胆を深くさせる。俯き、足元の雪を見つめる。  
 涙が、零れてしまいそうだった。  
 
「……コトネ」  
 
 だから、いつの間にか近寄ってきていた彼に気付かなくて、名前を呼ばれて初めて、自分の目の前に立つ彼に気付いた。  
 
「コトネは頑張ってる。今日もまた、強くなってた。……俺を倒すのも、近いかもしれない」  
「レッド、さん」  
「だから、そんな顔をしないで欲しい」  
 
 頭に手が乗せられて、自分より頭一つ大きい彼を見上げる。  
 普段は帽子に隠れてあまり見えない、端整な顔が、この位置からだとよく見える。  
 そして、普段無表情な彼の、優しげな、少し困ったような頬笑みが。  
 
「――!」  
 
 それはコトネの顔を、一瞬で茹でだこのように赤くするのに十分な威力をもっていた。  
 
「……コトネ」  
「ひゃいっ」  
「……君は、可愛いな」  
「な、なな――」  
 
 ちゅ、と。そんなかわいらしい音が響き、コトネの思考は停止する。  
 Q.今、何をされた?  
 ヒント・近すぎるレッドの顔。額に残る感触。リップノイズ。  
 A.キス。  
 そんな馬鹿らしい自問自答をやり終えてしまうくらいに混乱に陥っていたコトネは、その答えを得ると同時に――  
 
「……きゅぅ」  
 
 ――気を失ってしまっていた。  
 
 レッドという青年に、コトネが抱く感情は憧れだった。  
 一人でロケット団を壊滅させた英雄。最年少ポケモンリーグチャンピオン。  
 
 初めて彼に出会った時の衝撃は忘れられない。生涯忘れることはないだろう。  
 テレビ越しにみた姿より、一回り成長した姿。けれど、そのパートナーであるピカチュウと、その伝説の強さは変わってなどいなかった。  
 
 憧れだったからこそ、超えたいと思った。  
 超えたいと、思っていたはずなのに。  
 いつからだろう、それだけではなくなったのは。  
 
『レッドさん、今日もお手合わせお願いします!』  
『…………また、来たんだ』  
『えっ!?』  
『…………』  
『今!今、喋りましたよね!』  
『…………』  
『やったぁ!初めてレッドさんに話しかけてもらえました!』  
『…………』  
 
 これが、初めてレッドと交わした会話だった。  
 それ以来、コトネはほぼ毎日レッドと会うようになった。  
 まるで学校のように、シロガネ山へと通いつめた。  
 
『レッドさーん』  
『…………』  
『レッドさ〜ん』  
『…………』  
『レッドさんってば!』  
『……聞こえてる』  
『聞こえてるなら返事してください!』  
『…………』  
 
 レッドは、不思議でならなかった。何故この少女は、わざわざここまで負けにくるのか。  
 たまに、ここには人が辿り着く。それこそ以前のレッドのように。  
 その度に叩き潰して、また勝って、勝って、勝ちまくって、そしてまた一人で過ごして。  
 
 そんな毎日が、彼女によって変わった。  
 
『レッドさん!また来ちゃいました!』  
『…………………』  
 
 レッドは考えた。考えても分からなかった。  
 何故彼女はここにくるのか。何故、会うたびに笑っているのか。  
 
『…………どうして』  
『え?レッドさんとバトルしたいからです!』  
 
 純粋な、人の笑顔を最後に見たのはいつだっただろう。  
 ましてや、ポケモントレーナー。  
 自分と戦って笑ったトレーナーなんて、両手で数えるくらいしかいないのに。  
 
『……今日は、しない』  
『えーっ! どうしてですか!?』  
『…………』  
『むー。じゃあいいです。でも……折角来たんだから、しばらくここにいます』  
 
 バトルしないと言えば帰るだろうか、そう思って言ってみた。  
 けれどどうやら見当違いだったようで、思わず溜息がこぼれた。  
 
『……あ。もしかしてレッドさん』  
 
 そうしてだんまりを決め込んでいると、ふと少女が顔を覗きこんできた。  
 近い。そう思って口に出そうとしたが、それも億劫なので黙っていた。  
 
『体調、悪いんですか……?』  
『…………え』  
『そうですよね!? だってこんな場所でいつも半袖ですし! さては風邪ひきましたね!?』  
 
 コトネは返事をしないレッドの顔色を見ようと、顔を更に近づけた。  
 そして、間近で見たレッドの顔に、逆に顔を真っ赤にする。  
 とりあえずレッドは首を横に振った。  
 
『え、違うんですか?』  
 
 今度は頷く。  
 
『そう、ですか……。よかったぁ……』  
『…………!』  
 
 それは、本当に突然だった。  
 心底ほっとしたかのような、柔らかい笑顔。  
 
『……レッドさん?』  
 
 やっぱり体調悪いんじゃないですか?  
 そう言って、少女はレッドの額に手をあてた。  
 その手の温もりは、レッドが久しく忘れていたものだった。  
 
『…………大丈夫。……ありがとう。…………コトネ』  
『え』  
『……ここにいたら、君が風邪をひく。今日は帰るんだ』  
『え、え、今、』  
『……帰るんだ』  
『うぇ、れ、レッドさん!』  
 
 待って、ぎぶみーこーるみーわんすもあ!  
 などと、合っているようで間違っている言葉を吐いていたが、その日は強制的にコトネを送り返し。  
 レッドは、その日は一日、ずっと額に手をあてていた。  
 
 また来るだろうか、とか、笑顔が可愛いとポケモン以外に思ったのは初めてだ、とか。  
 そんな事を思いながら、レッドは寒さを凌ぐためにいつもの拠点へと戻っていった。  
 
 
「ん……」  
 
 うっすらとコトネが目を開けると、つぶらな瞳と目が合った。  
 黄色い毛並みと、赤いほっぺ。つんとした耳。  
 それは紛れもなく、レッドの。  
 
「ピカ、チュウ?」  
 
 コトネの顔を覗きこんでいたピカチュウは、彼女が起きたのを確認すると、ピカ、と後ろに向かって鳴いた。  
 おそらく主人を呼んだのだろう。案の定、今度はレッドがコトネの顔を覗きこんだ。  
 
「……気分は、どう?」  
「あ、あの。……大丈夫です」  
 
 意識を失う直前のことを思い、再び赤面するが、彼はそう、と一言呟いただけだった。  
 表情は、いつも冷淡にさえ見える無表情のままである。他人から見れば無愛想な無表情にしか映らないだろう。  
 しかし、コトネは気付いた。すこし、彼の顔に安堵の色が浮かんだことに。  
 
「あの……ここは?」  
「……俺の秘密基地」  
「え」  
 
 “秘密基地”。その単語と、レッドの無表情とのギャップに、固まる。  
 
「シロガネ山の横穴に、作ったんだ」  
「……もしかして、いつもの場所に近いから、ですか?」  
「……そう」  
 
 こっくりと頷く。  
 よくよく周りを見回すと、壁は確かに土の色をしている。  
 しかし床には丸太が敷かれ、コトネが横になっているベッドはよく見れば木製の、自然を生かした高級そうなものだ。  
 丸太の上にはカーペットが敷かれ、その上にはテーブルと椅子。これも木製だ。本棚や食器棚、人形まである。  
 シロガネ山の内部だと言うが、まったく寒さを感じさせない。  
 
「これ……どうしたんですか?」  
「……グリーンに、ちょっと」  
 
 ホウエンまで、とさらりと言ってのけた。  
 どうやって生活しているんだろう、と前々から疑問だった。が、目の前の現実は想像の斜め上を行っていた。  
 しかし、ある意味らしいといえばらしいのか。  
 コトネがレッドに苦笑していると、彼は不意に、気まずそうに顔を逸らした。  
 
「さっきは、ごめん」  
「え……」  
「コトネの気持ちも考えずに、自分勝手だった。……ごめん」  
 
 彼は淡白にそういうが、声色がどこか強張っていた。  
 
「あの、レッドさん。私……」  
「……?」  
「……嫌じゃ、なかったです」  
 
 顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にして、レッドの腕を掴む。  
 じっと、目を見つめたまま離さないように力を込める。  
 心臓が一気に早く波立ち、身体が震える。  
 逸らしてしまいそうになる視線を精一杯保ちながら。  
 
「だから。……その」  
 
 コトネは、震える声を必死に絞り出して、その思いを口にしていた。  
 
「もう一度……ちゃんと、してもらえますか?」  
「……コトネ。それは」  
「私、レッドさんが好きなんです」  
 
 躊躇うようなレッドの声を遮り、続ける。  
 ――いつから、と考えると、いくつか候補は上がる。  
 初めて彼が会話を交わしてくれた時。初めて名前を呼ばれた時。初めて頭を撫でられた時。  
 しかしそのどれもが、いまひとつ違っている気がするのだから――おそらく、はじめて会った時から、なのだろう。  
 
 コトネが何度も、足しげくレッドのもとに向かうのも。  
 彼と戦いたいと思うのも。  
 彼に会いたいと思うのも。  
 
「好きだから」  
 
 だから自分は、彼にこれほどまでに胸を熱くさせている。  
 だから四六時中、彼の事が頭から離れない。  
 だからいい加減に、この気持ちに――  
 
「白黒つけたいです」  
「…………」  
 
 レッドは、コトネの言葉を黙って聞いていた。  
 どれ程の時間が経ったか、極度の緊張状態にあったコトネには判然としない。  
 しかし、おもむろにレッドがボールを取り出し、ピカチュウをその中に戻した。  
 
「……コトネの気持ちは、嬉しい」  
「レッドさん……」  
「俺も……コトネが好きだ」  
「え……」  
 
 そして次の瞬間には、コトネを自分の腕の中に収めていた。  
 
「多分、コトネと同じ意味で」  
「レッド、さん」  
「俺は……そうか、俺は」  
 
 ――寂しかったのか。  
 長年の疑問が氷解したかのように、レッドが呟いた。  
 
「寂しい、って。そんなこと、普通はすぐに気付くんじゃないんですか?」  
「…………そうかな」  
「……今は、寂しくないですか?」  
「コトネのおかげだ」  
「私の?」  
「……ありがとう」  
 
 俺に、何度もぶつかってきてくれて。  
 コトネが思い出させてくれた。  
 ここにはポケモンはいるが、人はいない。  
 それを寂しいとは思わなかった俺が、寂しいと感じるようになったのは、コトネが、いつも俺の心を埋めるから。  
 思うに俺は、コトネに出会う為に、ずっとシロガネ山にいたのだろう。  
 
「俺は、多分。……コトネがいないと、ダメになる」  
「れ、レッドさん!?」  
「コトネ」  
 
 囁くような声色が耳元で響いて、それだけでコトネの身体は弛緩した。  
 するとコトネの唇がレッドの唇で覆われて、次いで彼の唇はコトネの顔の至る所に触れていく。  
 唇の端、頬、目元、額。そしてまた唇に戻って、今度は舌がコトネの唇を撫でた。  
 
「んむっ……れ、レッド、さん……っ」  
 
 ほんの少しの間の出来事なのに、甘く痺れる感覚がコトネをとろけさせた。  
 みるみるうちにコトネの表情が、幼い少女から女に変わっていく。  
 心臓の鼓動が、収まるどころか加速して、自分でも分かるくらいに身体中が熱を帯びていく。  
 
「……コトネは、可愛い」  
「あ、ぅ……」  
 
 単刀直入な言葉が、コトネの胸に突き刺さる。ぎゅうっと胸が締め付けられる感じがして、動機が荒くなる。  
 けれどそれは決して不愉快なものではなく。  
 
「コトネ」  
「な、なんですか……?」  
「君に触れたい」  
「え、う、ぁ」  
「もっと沢山、他の誰でもない、コトネに」  
   
 淡々とした言葉が、今ほど最高な口説き文句になったことはない。  
 
「ん、ふ、ぁ……っ……」  
 
 纏う服を全て剥がされ、あらわになった素肌の上を、レッドの手が腰から胸へと這い上がる。  
 そのくすぐったさに、たまらず吐息を漏らし、シーツをきつく握り締める。  
 
「コトネ……」  
 
 レッドの声とともに、唇にふわりと柔らかい温もりと感触。コトネの強張った唇をはみ、ちゅうっと音を立てて吸う。  
 
「んっ……んん……」  
 
 その感覚に戸惑いながらも、くぐもった声が溢れてくる。  
 恥ずかしさに泣きそうになるが、レッドは涼しげな目を細めて、愛おしげにコトネを撫で続けた。  
 
「んぅ……なんか、レッドさんの手つき……慣れてませんか……」  
「……よく、ポケモンの毛づくろいをしてるから」  
 
 教わったんだ。言いながら、レッドはコトネの太股を撫で上げる。  
 首筋を舐められて、ぞくぞくとした感覚が背筋を上ってくるのを感じながら、コトネは未知の感覚に戸惑っていた。  
 首筋から鎖骨へ、そして胸へ。ゆっくりと降下してきた舌が、胸の頂きをなぞった。  
 
「ひゃあぁっ……」  
 
 その瞬間、駆け巡る痺れ。今までのぞくぞくした感覚とは違う痺れに、たまらず悲鳴に似た声が溢れる。  
 
「……今の声、すごく可愛かった」  
「やぁあ……」  
「もっと……聞かせて」  
 
 レッドの指がコトネの未発達な乳房を撫でる。  
 ときおり捏ねるような動きを加えつつ、片方の乳首を口に含んで吸い上げた。  
 
「ひ、ぁっ……やぁ、やめて、それだめ、だめなのぉ……」  
「……どうして?」  
「どうしてっ、て……」  
 
 レッドは顔をあげると、コトネの唇を塞いだ。  
 そうしておきながら、コトネの口内へと舌を伸ばす。  
 
「んむぅっ!? んー……!」  
 
 戸惑うコトネの舌を舐めると、ざらついた感触がした。  
 何度もそれを繰り返すうち、コトネもレッドの舌に吸いつくように唇をすぼめ、ちゅ、ちゅと音をたてる。  
 それからも絡みつかせるような動きでコトネの舌を嬲り続け、レッドが顔を離した時には、コトネは蕩け切っていた。  
 
「れっど、さぁん……」  
 
 ぼうっとした表情で彼の名を呼び、寒さに凍えるようにレッドの身体にすり寄ってくる。  
 レッドはそんなコトネの頬を撫でると、おもむろに人差し指を彼女の口の前に差し出す。  
 案の定、コトネはレッドの指にまるで赤子のように吸いついた。  
 両手でレッドの腕を掴み、一心不乱に指を舐め続けるコトネを見て、膨れ上がる欲望を我慢できるはずもなく。  
 
 レッドはコトネに腕を離させると、湿った指でコトネの秘所に触れた。  
 
「あぁっ、ダメ……です、そこ、はぁっ……」  
 
 じっとりと熱を持った花弁は、既にほんのりと湿っていた。  
 
「……キス、気持ちよかった?」  
「……はぃ……」  
 
 両手で顔を覆い、コトネは消え入りそうな声で肯定する。  
 レッドはそんなコトネがどうしようもなく愛しくなり、彼女の身体を引き寄せて抱きしめた。  
 丁度口のあたりに来た耳に舌を這わせる。  
 
「……大丈夫」  
「はぅ、ぁ、んん……」  
 
 ゆっくりとレッドの指が秘所を撫で上げ、幼い花弁を散らさないように丁寧に、優しく触れる。  
 暖かいなにかが溢れて、尻へと伝うのをコトネは感じ、そして。  
 
「きゃ、あんっ!?」  
 
 ぐんっ、と腰を持ち上げると同時に、レッドは膝立ちになって身を屈めた。  
 彼の端整な顔が、コトネにとって恥ずかしいまでに濡れたそこに近づく。  
 
「まっ、て、レッドさん……まさか……」  
 
 ぷちゅ、と粘着質な音を立てて、レッドの唇が秘所に吸いついた。  
 
「っやぁ、ァ……っん……?!」  
 
 舌先で花弁をなぞり、分け入るように割れ目に舌を伸ばす。  
 駆け巡ってくるたまらない程の痺れが、羞恥と恐怖を煽った。  
 
「だめ、だめぇっ……! レッドさ、んっ……!」  
 
 蕩けるように、うわごとのように繰り返される声色は官能的だった。  
 震える太股と腰をぐっと掴んで、ぽたぽたととめどなく溢れる蜜を啜りながら、丹念にそこをほぐすように愛撫する。  
 
「やだ、やだぁ……れっどさぁんっ! 見ないで、見ないでぇ!」  
「……コトネ……っ?」  
 
 ふと顔を上げ、レッドは一旦愛撫を止めた。  
 
「こんな……っ、こん、なの……わ、わたし……っ、私……」  
 
 コトネは顔を両手で隠し、いやいやと首をふる。  
 
「わ、わたし、知らない……っ、しら、ないの、こんな、感覚……っ」  
「コトネ……それは」  
 
 涙で滲む視界には、自分の手しか見えない。けれど。  
 恥ずかしさを耐えてレッドを見ると、彼の嬉しげな顔があった。普段なかなか見れない彼の笑顔に、ドキリと心臓が飛び跳ねる。  
 
「俺がコトネにしてること、……気持ちいいって、感じてくれてるんだと思う」  
「え……っ」  
 
 一瞬理解を越えて呆けるが、すぐに理解する。  
 
「わ、わからない、です、こんな、感覚……っ!? ん、はぁ、あァっ……!」  
 
 レッドが再び顔を下げて、蜜が溢れるそこに吸い付く。  
 音を立てるその舌の動きが、酷く厭らしく思えてくる。  
 だが、絶え間なく送られる強烈な痺れに、そんなことを気にする余裕は吸い取られていく。  
 
「れっど、さ……っ、だめ、わ、たし……っ!」  
「大丈夫。コトネは可愛い」  
 
 率直に呟きながら、レッドはふっと吐息を零す。  
 それから、ぐちゅ、と舌を伸ばして入り口から内側へ侵入してきた。  
 柔らかく、生暖かい感触に、コトネの身体が飛び跳ねる。  
 
「や、やぁ……っ! きたな、い……っ、うぅ……!」  
「汚いわけ、ない……」  
 
 ちゅ、ちゅと厭らしい音が合間に入って、コトネは恥ずかしさでどうにかなりそうだった。  
 膣の浅いところをレッドの舌が往復するたびに駆け巡る甘い痺れが、それが快感なのだとコトネが認識した時、レッドが一際強く蜜を啜りあげた。  
 
「あ、ぁっ……だめ、だめ、だめぇーっ!」  
 
 その瞬間、それまでよりも強い快感がコトネの背筋から脳天まで駆け抜けて、彼女は生まれて初めて、絶頂というものを味わっていた。  
 
「コトネ」  
 
 レッドの声が、耳を舐める。ドクドクと激しい動機が心地よかった。  
 燃え上がるような熱さと気だるさが、ないまぜになってコトネを身動き一つとれなくしていた。  
 秘所にびくびくと震えが走るたびに、快楽の残滓がゆっくりとのぼってくる。  
 
 そして不意に、熱くて硬いものが花弁に触れるのを感じた。  
 
「……レッドさん、これ、って」  
「……コトネ、ここでやめる?」  
 
 レッドの言葉に、コトネは。  
 
「レッド、さん」  
 
 レッドの名を呼び、逡巡し、そして。  
 
「……、続けて、くだ、さい……」  
「…………わかった」  
 
 そうして、見つめ合ったまま、数秒。  
 ゆっくりとレッドが自身をコトネへと沈めていった。  
 
「んん、……いっ、」  
「……っ」  
「いっ、あっ……ぁ、ア……!」  
 
 唇を噛んで、初めての肉体の痛みに耐える。  
 ゆっくり、ゆっくり入れて……半分ほどまで埋まる。コトネはそれでいっぱいいっぱいだった。  
 
「いっ、ぅ……いた、い、いたい、よぉ……」  
 
 苦悶の表情。レッドは躊躇し、腰を引きかける、が――  
 
「っ、だめ……やめない、で……」  
 
 ――それを、コトネが止めた。  
 
「……でも、」  
 
 それは辛いだろう、と思うレッドだが、コトネは首を横に振った。  
 
「ぃい、……いいんです……最後まで、して……レッド、さんも、……気持ちよく、なって」  
「……っ!」  
「好き、大好き、レッドさんっ……!レッドさんと、繋がってるの、わかって……痛い、けど、すごくっ、嬉し、ですっ!」  
 
 そこまで言われては、止めることなどできない。  
 レッドはゆっくりと、少しずつ緩急をつけながらも、今以上の負担をかけないよう最大限配慮して。  
 コトネの奥へと、レッドの身体が侵入していく。  
 
「いあっ、……っ、ん、くぅっ……っあぁ!」  
 
 それでも痛みはある。  
 コトネの口から漏れる噛み殺した息。  
 レッドはコトネの口を塞いで、より深くへと進みながらキスをした。  
 餌を求める雛鳥のように、レッドの舌をコトネが求め、レッドもそれに応えて繋がる。  
 そうやって激しいキスでコトネの意識をずらしつつ、レッドの逸物はついにコトネの深奥に達した。  
 
「んぅっ、ふ、ぁっ……あぁぁ……ぁ」  
 
 未熟な膣内を、レッドの肉体が満たす。  
 はち切れそうな自身を、レッドは自覚していた。  
 それでも、今はコトネの身体を労わる事が最優先で、欲望は胸の奥にしまう。  
 
「れっど、さん……、レッドさんが、私の、一番奥に……キスして、ます」  
「……コトネ」  
「くちにも……もっと、ください、」  
「……うん」  
 
 泣き出しそうな切ない音色が、レッドの耳を擽る。  
 抱き締めるような内壁の締め付けに、背筋が戦慄く。  
 身体を押し付け距離を埋めれば、湿った互いの肌がぴったりと吸い付き合う。  
 上と下と、二つの粘膜で繋がって、触れ合っている部分から火傷みたいな熱と疼きがジンジン響いた。  
 溶けてしまいそうな熱。そんな熱に浮かされた瞳で、コトネはレッドを求め続けた。  
 
「……んちゅ、ぷぁっ……れっどさん、わたし、もう……大丈夫です。……動いて、」  
「…………わかった」  
 
 コトネの言葉に、胸の奥で燻っていた欲望が燃え上がった。  
 それでもレッドは自分を見失うことはしない。  
 未熟な膣内を緩やかに、痛みなどこれ以上感じなくて済むように優しく撫で上げる。  
 
「っあ、! く、ふぅ、は、ァ……あンっ!」  
 
 それなのに、コトネの膣はきゅうきゅうとレッドに吸いつき、絡みついて、すぐにも達しそうな程の快感を与えてくる。  
 息が掛かる距離にまで縮まった互いの身体。  
 視界に広がる、コトネの、普段は絶対に見れない、欲望という熱に浮かされた色っぽい表情。  
 それが、はっきりと見え、はっきりと感じられ、……とても、愛おしく感じる。  
 
「っ、……コト、ネ……」  
「レッドさ、れっどさぁんっ! わたし、へん、ヘンですっ……!」  
「変……?」  
「痛い、のに、いたいはずなのにっ、……ぞくぞくって、きもち、いいのっ……やぁあ……」  
 
 嘘ではないのだろう。事実コトネは、レッドが腰を動かす反復運動を繰り返すたび、熱い蜜をその膣穴から溢れさせている。  
 とろんとした瞳も、上気して赤くなった体も、コトネが感じていることを告げている。  
 時折痛みは走るものの、その合間合間を縫うようにゾクゾクと背筋を震わす熱い感覚が増していく。  
 ベッドの軋む音と厭らしい水音が重なり合って響き、恥ずかしさと戸惑いに揉まれ、シーツをきつく握り、揺さぶられている。  
 そして、普段とは違う自分の精神状態が、味わったことのない感覚が、コトネを不安にさせている。  
 
「……コトネは変じゃない」  
 
 だから、レッドは安心させるための言葉を口にした。  
 ごく自然な囁きだった。呼吸や瞬きと等しく、ごく自然とレッドの唇から零れる。  
 
「ひんっ……あ、ぁぁぁーっ!」  
 
 それまで波打ちながら締め付けてきた膣が、欲望を引き摺り出させるように戦慄いて吸い付いてきた。  
 強烈な快感に、腰が引けそうになりながら、理性が少しづつ擦り切れていくのをレッドは感じていた。  
 膣壁と絡み合い、擦れ合う摩擦がまるでヤスリのように、レッドの理性を削り、欲望を剥き出しにしていく。  
 玉のように汗を浮かばせた裸体は淫らにくねり、互いの限界を早めていく。  
 今までにない力強さで、レッドはコトネの奥を叩いた。  
 コツコツと、ノックするような動きで擦りあげると、コトネは一層激しい声を上げた。  
 
「す、……すごいっ、よぉっ! こ、こんなっ、……だめぇっ……!」  
 
 いやいやと首を振りながらコトネは涙を流す。  
 しかしそれが心からの拒絶ではないことを、レッドはわかっていた。  
 
「れっどさん、れっどさんっ……! はげし、れすっ! いやぁ、きもちい、のが、こわい、こわいの、れっどさぁんっ!」  
「……大丈夫。……俺はここにいる、」  
「ひぁ、っく、うぅっ……離れないでっ、ずっと一緒に、いっしょに……ぃっ!」  
「……ありがとう、コトネ。……大好きだよ」  
「っ……! ぃあ、あ、あ……」  
「……っく!」  
「ぁあぁぁあぁーっ!」  
 
 シーツの上でもがく手をレッドは捕らえ、自らの首へ回した。  
 汗ばむ固い胸に身体を押し付け、がむしゃらにしがみつかせた。  
 その瞬間、コトネの身体が弓なりに反り、火花が散ったように目の前が真っ白になる。  
 ギュウッと収縮した内壁に、レッドは眉を寄せ唇を噛む。断続的に痙攣し締め付けるそこに、激しく自身を擦りつけると、そのまま彼女の中から自身を引き抜いた。  
 白が散って、コトネのほんのり赤く染まった体に降りかかった。  
 
「ぁ、ぁ……」  
 
 ジンジンと断続的に響く絶頂の甘い痺れが、四肢の力を奪い脱力させる。  
 ぐしゃぐしゃなシーツの上で、コトネは胸を上下させぐったりした。  
 時折びくびくと体を震わせ、思考を霞ませる熱に捕らわれて、コトネは深くベッドに身を沈ませる。  
 そして、今にも閉じそうな視界に、レッドの姿を捉えた。  
 
「……」  
 
 しかしもはや喋る気力すらなく、そのままコトネは気を失った。  
 
 
 ……視界の端に何かが光った気がして、コトネは薄く眼を開ける。  
 そこには彼のリザードンが、尻尾の炎を揺らめかせていた。  
 ゆらゆらと立ち上る陽炎に見惚れて、ぼうっとみつめていると、視線に気付いたのかリザードンがコトネを見つめた。  
 
「……おはよう、コトネ」  
「……え?」  
 
 そして、ようやくコトネは、自分がレッドに抱きしめられていた事を知覚した。  
 背後から抱きすくめられたまま耳元で囁かれて、コトネは一気に覚醒する。  
 
「れ、レッドさん!?」  
「……おはよう」  
「あ、……おはよう、ございます」  
「……具合は、どう?」  
「あ……」  
 
 言われてみれば、下腹にはまだジンジンとした痛みが残っていた。  
 
「まだ、ちょっと痛いですけど……大丈夫です」  
「……わかった。なら、マサラに行こう」  
「……え!?」  
「とりあえず風呂に入って、ゆっくり休むといい。……ここじゃ、少し冷えるし」  
「あ、の、そうじゃなくて。……マサラタウンに、帰るんですか?」  
「? ……そう言ってる」  
 
 不思議そうに呟かれたその言葉に、コトネは視界が滲むのを感じた。  
 
「その、後……どうするんですか?」  
「……コトネと一緒にいるよ」  
「ずっと、ですか?」  
「……そう。コトネが望む限り、ずっと」  
「レッド、さん……」  
 
 胸が喜びで痛くて、目頭が異様に熱くて、うまく言葉が続かない。  
 だからコトネは、いま一番言いたいことを、言ってしまうことにした。  
 
「大好き……レッドさん」  
 
 
 その後、彼女達はリザードンの背に乗ってマサラへと帰還し、マサラタウンが引っくり返る程の衝撃をもたらした。  
 レッドの母は彼を叱り、抱きしめた。オーキド博士はコトネに深く感謝した。  
 グリーンは後日、礼の言葉だけを告げる電話をコトネに寄越した。  
 
 そしてその更に後日。  
 コトネと腕を組んで現れた伝説のトレーナーに、ワカバタウンは引っくり返る程の衝撃を受けることになる。  
 
 
おわり。  
 

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