「ひゃあ…」  
窓の外に降る雨を見つめながら、赤髪の少女―フウロは間の抜けた声を上げた。  
黒い雲におおわれた空から降る重たい雨水はこのフキヨセシティの滑走路を濡らしながら、同時にこの町に退屈をもたらす。  
「これじゃ今日は挑戦者も来そうにありませんね、フウロさん」  
「うん…うー…風も吹いてきたからフライトもできない…ですよね?」  
「ハハ…」  
退屈そうに身体を伸ばしながら応えるフウロの姿に、話掛けた機長の顔にも困ったような笑顔が浮かぶ。  
山のなかに囲まれたこの小さな町は娯楽も少なくて、こんな日は世界から切り取られてしまったかのようにゆっくりと時間が流れる。  
いつもは天真爛漫な笑顔を見せる彼女も、今日は曇り掛かったような顔をして窓の外を見つめるだけだ。  
「あ、雷…」  
不意に空から零れた一筋の光を、フウロの声が追い掛けた。  
山の天気は変わりやすい、そしてこの時期の雷はその後に来る激しい雷雨を予想させるものだ。  
「雷ですか、ライモンシティは雨でも賑やかなんでしょうなぁ…スタジアムに遊園地、ポケモンミュージアムまでありますからね…一つくらい我が町にも分けてほしいぐらいです」  
(…!!)  
憂鬱な空気を少しでも和らげようとした機長の言葉に、フウロは胸の奥が熱くなる。  
「フウロさん?」  
まばゆい光が再び空を切り裂き、それが彼女の姿と重なる。  
(カミツレさん…)  
「…どうかしましたか?」「…え!?」  
「いや、顔が真っ赤なもので…何かありました?」  
「そ…そんなことない!な、何も考えてないよ!」  
パタパタと手を振りながら慌てる姿に、機長も思わず笑みを浮かべる。  
ジムリーダーといってもまだまだ遊び盛りの女の子、都会の喧騒を想像していたのだろう―と。  
「あ、あの…機長さん?」  
「何か?」  
「今日はもうみんな仕事終わったみたいだし…挑戦者もこないから…終わりにしませんか?  
大丈夫です、何かあったらいけないので私がジムには残っていますから!ね?」  
 
◇◆◇  
 
「機長のせいで、思い出しちゃった…」  
誰もいないジムの中、フウロは椅子に腰掛けながら一人ごちた。  
―機長さんはアタシがライモンシティに遊びに行きたいと思ってたのかな…  
「違うの…」  
外に降る雷の音に、身体が震える。  
怖いわけじゃない、思い出してしまうだけ。  
アタシを大人の女の子にしてくれた、愛しい人を。  
「カミツレさん…!」  
知らずに胸をまさぐるアタシの手。  
他の娘より大きくてずっと恥ずかしかったアタシの胸を、カミツレさんは綺麗って言ってくれた。  
ずっとずっと嫌で嫌でたまらなかったけど、カミツレさんが好きって言ってくれたから、アタシも自分のことが少しだけ好きになれたの。  
「あっ…はぁ…っ!」  
別人みたいな声が、誰もいないジムに響く。  
もし今カミツレさんが傍にいたら、このもどかしい気持ちを掬いとってくれるのに…  
愛しくて、切なくて、心と身体が芯から濡れてくる感覚。  
(もう…ダメ…!)  
激しい雷雨とリンクするように、アタシの身体にも情欲の嵐が降注ぐ。  
ホットパンツの下のショーツはもう役目を果たさないほどに濡れていて、内から溢れるアタシの熱の所為で下半身が酷く疼いた。  
「ぁ…ッ!!」  
湿った生地の上から指を滑らせただけで、全身に甘い痺れが走る。  
シュルシュルと微かに響く卑猥な衣擦れの音が、雨音と交じって消えていく。  
お尻を突き出すような恥ずかしい姿、頬に当たる冷たくて硬いコンクリートの感触と、指先に感じる柔らかくて熱いソコの感触。  
冷たい理性と熱い本能が、アタシの心を狂わせていく。  
「あっ…あんっ…!気持ちイイ…!カミツレさぁん…!!」  
本当にカミツレさんに愛撫されているような感覚…堪らず漏れる嬌声と熱い吐息に後押しされて、そのまま指を秘所に沈めていく。  
「ふああぁん…!」  
ナカが満たされていく感覚に身震いしてしまう。  
同時に零れだすアタシの蜜が、指先に絡まってピチャリと水音を奏でた。  
気を失いそうな快感、それでも構わず指をばらばらと動かしていく。  
「やっ…!!あんっ…!はぁ、ああぁっ…!」  
胸を弄っていた左手も、いつの間にか下着越しに赤く疼く突起を扱き始める。  
指先でねぶる度に身体に電気が奔るようにビクビクと反応する。  
「ぁん、あぁ、あっ…!…カミツレ、さん…!カミツレさん…好き…大好き…!!」  
雨音と交じって溶けていくくぐもった水音。  
心と身体が真っ白く染まっていくような感覚と、奥底から沸き上がる真っ黒い衝動に、世界が、アタシが溶けていく…  
「ん、はぁ…!あっ…ダメ…!も、もう…イッちゃう…!カミツレさ…ああぁぁっ!!」  
霞み掛かったように全身の感覚がぼやけた。  
同時にアタシのナカがキュウ、と切なく物欲しげに指を締め付けた。  
蜜が太ももを伝う感触が遠い世界の出来事みたいになって、アタシの身体は、糸の切れた人形見たいに崩れ落ちていく。  
「…晴れたらカミツレさんに…逢いに行きたいな…」  
身体中が絶頂の余韻に浸りながら震えている。それでもやっぱり、アタシの心は満たされなかった。  
この鳥籠みたいな長い雨が降り止んだら、あの人の許に行こう…  
そのときは晴れた大空の下、笑顔であなたに逢えますように。  
 

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