ポケモンリーグの四天王の一室で、激しい轟音と共にキリキザンが床に叩きつけられた。
格闘タイプの強力な物理技、アームハンマーを喰らって再び立ち上がれる悪タイプのポケモンはいないだろう。ましてやキリキザンは鋼タイプも有している。
技を放ったメタグロスはボールへ悠々と納まり、持ち主の下へ帰っていく。主である少女、トウコも満足げにボールへ目線を送り、バッグにボールを戻した。
「相変わらず強いね。ホレボレするよ。」
四天王の一角をここまで言わせるほどにトウコは成長していた。イッシュでは珍しい、新しいポケモンを従えて。
褒め言葉を受け取ったトウコはにっこりと笑って、まだまだこんなもんじゃないですよ、と返した。
「私、これからもっと強くなる予定ですから!あ、そうそう、賭けですけど、私の圧勝ですよね?」
トウコはこの四天王と戦う際は必ず賭けをする。今まではアイスを奢れだの、ポケモンを少し貸してほしいだの、それぐらいの可愛らしいものだった。
「……ああ、そう…だな……いいさ、好きに言いなよ。」
しかし今日は違った。
「……はい!じゃあ好きにさせてもらいますね!」
今日はトウコが「何でも言うことを聞いてもらう」などという、いささか無茶な賭けをしてきたのだ。面倒だったが、しかし引き受けた。
勝つ自信があったのと、所詮子供の考えることだ、一日振り回されるぐらいどうってことはないと思っていた。
しかし、彼は思わぬ誤算をする。トウコが、本当に純粋な子供であると踏んでいたことだ。
トウコはギーマにつかつかと歩み寄ると、その逞しい足で思い切り彼の胴を蹴り飛ばした。
「ぐふぅッ!!」
思いがけない攻撃に、吹き飛ぶことはしなかったものの、よろめいた彼にさらに追い討ちがかかる。
自分の手持ちであるはずのレパルダスがこちらへ突進し、襲い掛かってきたのだ。
「……おいよせ!この……」
普段体を鍛えこんでいるレンブならともかく、そうでない彼がポケモンの力に敵うはずもなく、完全に押さえ込まれてしまった。
グルル、と唸り声を立てて喉に食いつかんとレパルダスが恐ろしい形相で主を睨みつける。ありえない状況が、彼の冷静な思考を乱れさせた。
「……一体どうしたというんだ……!」
その有様を見て、トウコはふふふ、と笑った。恐ろしい笑いだった。いつもの明るく快活な彼女とは違う、不気味で冷たい笑い方だ。
「どうです?年はもいかない女の子に蹴り入れられて、飼いならした自分のポケモンに襲われるっていうの。」
まるで虫けらを見るかのような目でトウコはギーマを見下ろした。その表情には怒りと憎しみが込められており、今にも彼を殺してしまいそうだった。
しかし、襲われた当人にはその表情が何故自分に向けられているのか、まるでわかっていない。まず、彼女の機嫌を損ねた記憶はない。
むしろ勝負に勝てば彼女の望むものを与え、ご機嫌を取ってきたようなものだ。
「まるで自分がどうして私にこんなことされるかわかってないって顔、してますよね?じゃ、教えてあげますよ。お馬鹿な勝負師さん。」
トウコはギーマに近づくと、レパルダスを押しのけ、彼の鳩尾に思い切り足を乗せ、踏みつけた。
「うごあッ!!」
「ギーマさん、シキミさんに酷いことしましたよね?知ってるんですよ?ねえ?……この変態野郎!!」
痛みに呻く男に対し、トウコはブーツのヒールに全体重を掛け、ぐりぐりとねじ込んでいく。
「私が何も知らなかったとでも思ってたんですか?……鍵かかってて、閉じこもってるのに貴方がシキミさんの日程知ってるなんて、おかしいですよね?
その後シキミさんに私が会ったとき、元気がなかったことぐらいわかってるんですよ?第一……」
ブーツを一旦離し、解放したと見せかけてトウコは思い切りかかと落しを相手の腹に打ち込んだ。
「シキミさんの声聞いたらなあ、何されてるかぐらいわかんだよこのクソ野郎!あとシキミさんの部屋で何でレパルダスの毛が落ちてんだ?あ?」
少女のものとは思えない言葉が次々とトウコの口から飛び出す。あまりの痛みに仰け反り、丸まってゲホゲホと咳き込み転がるギーマに、トウコはさらに追い討ちをかけた。
「許さない……シキミさんにあんなことして、よくものうのうと……シキミさんよりもずっとずーっと、酷い目に遭ってもらうんだからね……」
怒りを通り越して、トウコの目は狂気すら宿していた。そして、その恐ろしい彼女の後ろから、もっと恐ろしいものが現れた。
オーベム。確かこのポケモンはポケモンや人の脳へ干渉し、操ってしまい、記憶まで改竄できるという恐ろしいポケモンだ。
まさか。レパルダスは……このポケモンに操られて……とそこまで考えたところで、彼の背筋に寒気が走った。
先程まで倒れこんでいたキリキザンが、ゆらりと立ち上がり、こちらへ向かってくる
「私一人でたっぷり甚振るのももいいんだけど、やっぱり一人じゃ疲れちゃいますし、貴方のポケモンにも少し手伝ってもらいますね。だって私か弱いし〜。」
隙を見て、彼女を力でねじ伏せようと考えていた彼の希望は一瞬にして消え去った。一対一ならば、こんな少女に成人した男が力で敵わないはずがない……
そう考え、甘く見ていたのが悪かった。オーベムは使ってこなかった……そのために手持ちに入っていたことを考えていなかった。
レパルダスも、何かのポケモンで混乱させた程度だと考えていた……
「あはは、凄い凄い。そんなに追い詰められた顔、初めて見ましたよ〜。ギーマさんでも焦る時ってあるんですね〜。」
いつもの口調と可愛らしい表情で残酷なことを言ってのけるトウコは、悪魔の化身に見えた。とても先程の少女と同一人物だとは思えない。
レパルダスが再び自分を押さえ込み、キバを喉元に立てる。キリキザンがその鋭い刃で自慢のオーダーメイドのスーツを無残な形に変形させ、主に刃を向ける。
年はもいかない少女にこれから逆レイプされるのだと思い知り、ゾッとする。そんな趣味は自分にはない。むしろ、女性に主導権を握られたことなど一度もない。
この上ない屈辱に、ギリギリと歯を噛み締める。
「よくもこの小娘が……って言いたそうですけど……その小娘に貴方は今から犯されるんですよ〜!あっは!よかったですね〜!これからの人生で経験できないことですよ〜!」
これが世界を救ったトレーナーの言葉だろうか。よもや、友情からくる恨みとは恐ろしいものである。
トウコはブーツを脱ぎ捨てると、床に這い蹲らされた彼の顔面に素足を突き出した。汗の臭いが鼻をつき、顔を顰めるとトウコは容赦なく口に足をねじ込んだ。
「ほ〜ら、舐めて下さい。……おい、嫌な顔すんじゃねえよ!あんたの靴でムレた足よか何百倍も清潔だろうが!」
「うごッ!」
トウコがちらりとキリキザンを見ると、キリキザンは主であるはずの足をねじ込まれた哀れな男の喉元に刃物を食い込ませた。痛みと共に、ジワジワと血が滲む。
……殺される!トウコの狂気が本気であると確信した四天王であるはずの男は、トウコのムレた足に舌を這わせた。不潔な味と屈辱に、吐気がする。
「ホラ、もっと丁寧に舐めろよ!この下手糞!」
罵声と共に、トウコが足で口内を蹴り上げる。唇の端が切れ、血が滲んだ。思わず目の前の残酷な少女を睨みつけると、トウコはにっこりと笑いながら足を引っ込める。
しかしその笑いは決して満足した笑いではない。
「……ほんっと、下手糞ですね。レパルダスの方が随分とマシですよ?それと、そんな反抗的な目をしちゃ、いけないんですよ?」
そう言ってトウコは逞しい太ももでギーマの顔を挟み、捻り上げる。酸素が供給されなくなったために、全身が悲鳴を上げた。
「シキミさんのこと、反省してるんですか〜?今のところ反省の色ナシって、感じですよねえ〜?」
トウコがにたりと笑い、さらに太ももに力が入っていく。少女とはいえ、女性の香りが否応なしに送り込まれる。男性としての本能が、脳とは無関係に働いてしまう。
「……あれ〜?」
トウコがその兆しを見つけるのはいとも容易かった。顔から立ち退くと、トウコは下半身へと移動し、キリキザンに命令してもはや布切れと化した衣服を切り裂かせる。
「あはははは!反省の色全くなさそう!何反応してるんですか?これ?」
笑いながらトウコは反応し、勃ち上がった男のモノを足蹴にした。ウッ、と呻いた声がしたが、そんなものはトウコの耳には入っていなかった。
「そんな悪い子は、御仕置きしなきゃ駄目ですよね〜!」
そう言いながらトウコは足で弄ぶ。こんな惨めな状況でも、されることをされれば自然に反応し、勃つし硬くもなる。
しばらくして生理的に滲んだ体液に、トウコは足をさらに滑らせ、根元を足で挟んで焦らせた。
「ふふふっ!出させて欲しいですか?ねえ?もっと踏んで欲しいんですか?」
楽しそうに見下すトウコに、惨めさとコケにされた怒りでぶるぶると体を震わせる。
「……いい加減にしないか……!さもないと……」
「さもないと?この状況でどうなるんでしょうね?」
再びキリキザンの刃が食い込む。今度は顔に。頬に傷が走り、ポタリと床に血が落ちた。レパルダスの牙が首に食い込むおまけつきだ。
「この状況って、誰かに見られてもオーベムちゃんで弄っちゃえばギーマさんが悪者になるんだし〜、
それに私に抵抗したらそのご自慢の綺麗〜なお顔にツギハギが出来ちゃいますよお〜?二度と女の子に振り向いてもらえないかも?それもいっか♪」
「……」
トウコは言葉を一旦切ると、再び彼を弄び始めた。果てるか果てないかの瀬戸際を幾度も幾度も彷徨わせて。時々呻く声はトウコにとってはもはや喜ばせるものでしかない。
「あは!はははは!恥ずかしくないんですかねえ?こんな、年はもいかない小娘にボロボロにされたあげくおっ勃てちゃって!変態以外の何者でもないですねえ!
四天王失格ですよねえ!あ、男としても駄目駄目ですよ〜?ほうら、みんな出しちゃえ!出して自分が変態野郎だって、認めろよ!この淫乱男が!」
トウコの言葉に、彼のプライドがズタズタに引き裂かれる。男としての、四天王としての全てが。たった一人、遊んでしまった女性の為に、ここまでも。
トウコが勢いよく足を刷り上げ、男の欲情を全て吐き出させたその瞬間、哀れな男からは目から光が消え、またプライドも消えてしまっていた。
完全なる敗者が、そこには転がっていた。
「……う……あ……」
「まだまだ、終わらせませんよ〜?最後の仕上げが待ってるんですからね〜?」
足の汚れを踏みつけた男の布切れで拭うと、トウコは己の身に着けている全てを剥ぎ取った。年の割には発育が良く、締まった体。
こんな状況でなければ、美しいと言えるものだろうに。
「ふふふ……じゃあいきましょうか。えい!」
ずぶり、という音と共に、トウコが全身を使ってギーマを締め上げた。
そして、レパルダスに合図をし、彼女に主人の上半身を舐めさせた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!やめさせててくれぇぇぇぇぇッ!!」
「ハアッ…楽に…ハアッさせるとでも思ったんですかあ?どうです?自分のポケモンにされちゃう気分は?
あ、そのこそういえば♀でしたね〜。よかったですね〜♂じゃなくって♪」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!こんな、こんなことがぁぁぁぁぁッ!!!」
声を枯らし、叫ぶ主人の声にレパルダスは全く反応しない。ガラスのような瞳で、ただトウコの言うことを聞くだけだ。
「はあッん……いいですよお、最高です、その絶望に満ちた顔……」
蜜を垂らし、色っぽい声でトウコは腰を振る。慣れた腰つき。どこをどうやって隠していたのだろうか。
卑猥な音はトウコのボルテージを上げ、さらに激しくさせる。
「あはあッ!イイ!ほうら、出しなッ!!バカにしてた小娘に、出して最低って罵られなよッ!!」
「ぐあああああああッ!!」
トウコが身をよじり、渾身の力で締め上げたところで男は全てを失った。プライドも、トレーナーとしての自信も。
無残な姿で転がる男を見下ろし、トウコは体を拭いて身なりを整えていた。
「……シキミさん、仇は取ったからね、だから、明日からずーっと、笑っていられるからね。」
そう言ったトウコの目は未だ狂気が宿っていた。もしかしたら、この先ずっとそうなるのかもしれない。しかし、トウコにも誤算が生じた。
閉じていたはずのドアが開き、そこには喜んでくれるはずの女性が、トウコへ恐怖の眼差しを向けて立っていたからだ。
「……トウコ…ちゃん?何、してる……の?それに……それって……これって……」
がっくりと膝を折って座り込むシキミに、トウコは無邪気な顔で駆け寄る。
「ね、シキミさん、貴女に酷いことした人、もっと酷い目に遭ってもらっちゃった♪これで、シキミさんも心から笑ってくれるよね?」
抱きしめようとしたトウコの手を、シキミは拒絶した。そして、避けるかのように後ずさった。
「嘘……こんな……こんなことって……!」
「あれ?シキミ…さん……?」
トウコは呆気に取られた。喜んでくれると思ったのに。それなのに。
「そんな……じゃあ、シキミさんは、こういうことは、望んでいなかったの……?」
震えてうずくまるシキミの前に、トウコはオーベムを従えて歩み寄った。
「……仕方ないね、シキミさんが望まなかったのなら……」
その後、一瞬の光が部屋中に広がり、シキミの意識も途絶えた。
あれ?私、どうしたんだっけ。そうだ、レンブさんが会議あるからって、それでギーマさんを呼びに行って……
「わ!その服どーしたんですか?!」
「……そうジロジロ見ないでくれるかな。着替えてから行くから、先に行ってくれ。」
「えっ…あの、でも……」
「キリキザンの機嫌をちょっと損ねただけだ!いいか!誰にも言わないでくれよ!」
「え…あ、はい……」
二人の会話に、わだかまりなど全くなかった。それ以前に、わだかまりを生じることなどあっただろうか?
いけない、私が遅刻しちゃう、と会議へ急いで走るシキミを遠くから見ながら、トウコはオーベムをボールに戻した。
「シキミさんに免じて、全部、なかったことにしてあげる。でも、次はないからね。」
ぽつりと呟き、トウコはポケモンリーグを後にした。
二人はこの先、一生思い出すことはないだろう。
トウコが怒りを行使しない限り。