こおりの抜け道
ここは氷タイプのポケモン達が跳梁跋扈する魔境、人が通るにはあまりにも険しい天然の抜け道である。
この中に入った生き物は、例外無く寒さに追いやられ、中に住む生き物のテリトリー争いに巻き込まれ、体は凍え、思考は錆び付き、飢えと乾きの中、方向感覚を無くして死ぬまで彷徨う事になる。
この中で生きていけるのは、寒さを常温とし、氷を糧とし、この環境に適応出来る適性を持った生き物だけなのである。
その氷の抜け道を、今まさに一つの地獄が襲っていた。
溶ける筈の無い万年氷が軒並みただの水と化し、絶対零度に守られた岩盤が、氷を剥ぎ取られ岩がむき出しとなっている
この洞窟全体を覆っていた冷気を、熱風が容赦無く剥ぎ取っていたのだ
既に洞窟の普段の面影は無く、無形の氷ポケモンは蒸発し、ウリムーやデリバードは死に体と化している
そして普段は氷の抜け道に入れなかったポケモン達が、この突然の環境変化に乗じて侵入し、弱りきった氷ポケモン達を野生の掟に従って食料に変える
最早この洞窟は二度と元に戻る事は無い。冷気だけが戻ってきたとしても、一度破壊された生態系が元に戻る事は未来永劫あり得ない
フスベシティ
長くて寒い洞窟を抜けて、どうにかここまで辿り着いた
どこにでもある町の居酒屋を目指し、早く凍えた体を温めよう
しかし、フスベシティの中に入って、一番最初に驚いた事は、まず人がいない
人が少ない、更には店が少ない。町全体に活気が無い。これはどういう事だ
暫く考えて、合点がいった
ここは交通の便が悪過ぎるのだ。なので人が集まらず、過疎化が進んでいる地域なのだ
「むぅ、参ったな・・・」
とりあえず暫く歩いて、それらしき店を発見した。ボロボロの居酒屋だ。
店は小さいが、一応活気がある。
「へい、らっしゃい!」
威勢の良い挨拶が飛んでくる
やっぱりこういうトコはどこだって変わらないんだな
しかし、店の中の、客層は異常事態だ
まずどいつもこいつも、濃い、そしてガチムチ、スキンヘッド率高し
どういう事だこれは
とりあえず見ないようにする。目を合わせないで、カウンター席まで向かう
カウンターの向こうのおやっさんから、小さく熱いおしぼりが渡される
「で、お前さん、何にする?」
「焼酎、熱燗で」
「・・・・・・はぁ?」
おやっさんから、疑問を含んだ声が投げかけられる
「いやいや、流石に子供に酒は売れねーよ」
「失礼だな、ハタチだよバカ」
「はぁ!?ハタチって・・・すぐ分かるウソ付いてんじゃねーよ」
「ホントだよ!!ハタチだってば!!酒も煙草も飲めるんだぞ!!」
「ハイハイ、で、お嬢さんは何にするんだい?言っとくが、うちは酒は扱ってないからな」
酒を扱ってない居酒屋って・・・斬新な店もあったもんだな
まぁハタチってのはウソだけど・・・これでも16歳だぞ、なんで一目で子供っつってんだコラ、
「じゃあミルク。ホットで」
「あいよ、ちょっと待ってくれよ」
おやっさんがいそいそと注文の品を準備し始める
「しかしさー、おやっさん、俺もう疲れたよ、この辺泊まれるトコとか無いの?」
「あー、あるぞ、5分くらい歩いたトコに宿がある。」
「あとで道教えてよ」
「おーよ、ほれ、ミルクだ」
「どーも」
熱々の牛乳に口を付ける
現地で飲んだミルタンクの乳より味の薄い、暖かな牛乳の香りが口に広がる
こく、こく、こく
「しかしお前さん、最近この町に来たのか?」
こく、こく、こく
「一体どこから誰に連れてきてもらったんだ?
ここはお前さんみたいなガキが一人で来れるようなトコじゃないんだが」
こく、こく、ぷはぁ
「いや、一人で来たよ、氷の抜け道から」
おやっさんは、少し驚いたような顔をした
「おいおい、またウソかよ、あんな自殺名所みたいなトコに、お譲ちゃんが通れる訳ねーだろ
あそこを死なないで通れるのはうちのジムリーダーみたいな化け物だけだっつの」
カラカラとおやっさんは気持ちよく笑った
「・・・ホントなのに」
「ハイハイ分かったよ、でも何しに来たんだ?親の観光旅行の付き添いか?お譲ちゃん、まさかその年で修行者の仲間入りしたい訳じゃねーだろ?」
「修行者ってどういう事?」
この居酒屋に集まってるガチムチどもと関係あるのかな?
「何も知らねーで来たのか」
知らなくて悪かったな
「ここの町はな、古くから代々伝わる竜使いの里なんだ
その最強種を操る強さを求めて、修行者が集まってくるんだ」
ま、そのせいで商売ガタキがいないから商売しやすくていいや、とおやっさんは笑った
「つまりは最強目指すけど真っ当に働きたくない犯罪者予備軍の集まり、か・・・(ボソボソ)」
「ん、お譲ちゃん何か言ったかい?」
「いや別に、それよりおっちゃん、この里で一番強い人って誰?」
「お?そりゃーやっぱりイブキ様だろ」
おっちゃんは何故か誇らしげに胸を反らした。というかまぁ、知ってるけどね
ジムリーダー目当てにこんな辺境くんだりまで来たんだし
「その人ってホントに強いの?」
「ハッハッハ、何でお前さんみたいなのがそんなこと気にするんだ?」
「だって、ここにいる人達ってみんな強そうじゃない、その人達より強いフブキって人が想像出来なくて」
酒場に集まってるガチムチの何人かが、それを聞いて楽しげに笑う
情報収集の為におべっか使ってみたけど、ごめん、多分あんたらより俺のが強い
「まーそりゃー気になるわな、フブキ様がどれだけつえーかってーと・・・」
「うんうん!」
「待て、三郎、それより先は言わなくていい」
突然、何も無かったはずの空間から、マントを脱ぐようにして女が出現した
近くにいたガチムチどもの目が見開かれ、酒場の時が止まる。
「私がフスベシティジムリーダー、イブキだ」
「わっ、おねーさん凄い!今のどうやったの!?」
一応驚いたようなポーズをとっておく。んー・・・これは、神秘のベールの応用かな
光の屈折とかを利用したのかな、とりあえず派手好きなのは理解した
「ふふん、ネコを被らなくてもいいぞ、このタヌキが」
「・・・・・・?」
「お前の目の奥に理解の色があった、大方油断させる為の演技か?そんな芝居は好かん」
ほー、満更馬鹿じゃあなさそうだ
でも、馬鹿じゃないならそれなりに、いくらかやりようもあるってもんさ
「ところでイブキおねーさん?ちょっと聞きたい事が・・・」
「黙れ」
「・・・え?」
「今は私の用事が先だ、貴様の話はその後だ」
・・・・・・は?何人の話遮ってくれてんのこの人、うわむかつくー
そんな俺の心情を無視して、イブキが口を開き、高圧的に問いかけてくる
「先ほど、氷の洞窟が、滅茶苦茶に荒らされているという報告があった。あれはお前か?」
「・・・・・・何の話かな?」
ごめん、多分それ俺、寒かったから、ついやっちゃった
「私も報告を受けて行ってみたが、あの惨状は酷かった。
氷の洞窟は非常に希少な生物達が集まる自然界の宝物庫だ。人間の手で修復は効かん」
イブキが、手に持った短い鞭をこちらに突きつける
「それを滅茶苦茶にしたのは、貴様かと聞いているッッ!!!」
おーこえぇこえぇ、イイ気合の入った目ぇしてんなー
「えー、多分違う人だよー、あたしが通った時にはなんかもうあったたかったしー、あそこって普段からあんな感じじゃないのー?」
「・・・ふん、あくまでシラを切るか・・・まぁいい、後でいくらでも調べてやろう」
捨て台詞を言い放ったイブキが、踵を返して酒場の入り口へと向かう。
このまま出てく気か、俺の話聞くんじゃなかったのか
「わー怖い怖い・・・・・・こんな辺鄙な村の長をやってると、こんなくだらない事にも気合が入っちゃうんだねー」
再び、酒場の時が止まる。
立ち止まったイブキに、更に追い討ちをかけてみる
「こんな生産性の無い村で、どんどん人がいなくなって過疎ってる理由は、村のてっぺんが脳味噌筋肉で何も考えてないからって聞いたけど
やっぱりホントみたいだねー、犯人探しなんてヒマな事やってる暇があったら、もっと別にやるべき事があるんじゃないかなー」
背中を向けたイブキから、怒りのオーラが放出される。
それを感じたガチムチやおやっさんが俺から距離を取る。
「ふん、自分の実力を過信した小娘が・・・随分と調子に乗った台詞を吐くものだ・・・一度吐いたツバは飲み込めんぞ・・・」
「そのせりふー、そっくりそのままかえしてやるぞー」
ピキッ
「今日はもう遅い、明日迎えを寄越す。逃げるなよ」
「はーい、イブキおねーさまは夜更かしするとすぐ肌荒れしちゃうんですよねー、分かりましたー、明日の朝にしますー」
「・・・・・・ッッ!!」
相手しても無駄だと思ったのか、イブキはそのまま居酒屋の暖簾をくぐり、夜の闇へと消えていった
その後俺は、居酒屋のおやっさんとガチムチから腫れ物のように見られ、なんとなく居心地が悪くなったので居酒屋を出る事にした。
そして、宿屋の場所を聞き忘れた事に気付いたのはその五分後だった。
仕方が無いので、屋根付きの布団は諦めて、今日は野宿することにした
フスベシティポケモンジム
「よく臆せずにここまで来たな」
そりゃー来るよ、あたしが欲しいのはジムバッジなんだから
「挑戦者よ、名前を言うがいい」
「田中花子α」
「・・・・・・ハ?」
「別に、そんな感じの名前でもいいよね?」
「キサマ・・・」
「まぁいいんじゃない?他のジムでも田中花子αで通してるしさ、ポケモンリーグも田中花子って・・・」
「ふざけるなぁっっ!!!」
気迫で何かがビリビリきたよ、うおっ、こえー・・・
「ふー・・・ふー・・・」
イイカンジで頭に血が上ってんねー、これならいけるかなー
「ねーねーイブキおねーたまー、花子ねー、ちょっと相談があるんだけどー、いいかなぁー」
「黙れッ、早く対戦位置に着けッッ!!」
「そんなこと言わないでさー、ちょっと聞いてよイブキたーん」
「・・・・・・ッッ!!(ビキッビキビキッ)」
うわー怒ってんなー、挑発し過ぎたかなー
「あのさー、イブキおねーたまあたしの事キライでしょー?」
まぁ公衆の面前であれだけからかえばなー
「だからさー、この試合だけ、ちょっとルール変更しない?って事なんだけどさー」
「ルール変更・・・だと?」
「うんうん、あのさー、ポケモンで勝ち負けが着いても、ポケモンを休ませてから、片方が負けを認めるまで、何回でも繰り返すのー
で、負けを認めて、ギブアップする時は、土下座して相手の靴を舐めながら、『参りました、もう許してください』って言うのー
それをするまで、何度でも、何度でも、勝負して、負けて、を繰り返すのー」
この条件を呑ませる為に、今までわざわざ挑発してきたんだから、ここで変な慎重さは見せんなよー・・・
「どう?素敵じゃないですかー?
生意気な小娘を、何度でもズタボロにして、蹂躙して、泣いて謝るまでボコボコにして、最後には靴を舐めさせて、ステキでしょ?」
好戦的なイブキが、受けようとする心と、自信満々な私に対する警戒と、そのはざまで揺れているのが見て取れる
そして最後に、トドメの言葉を言い放つ
「うーん、やっぱり勝つ自身が無いなら普通に勝負しましょーか
こんな過疎村のお山の大将には、こんなリスキーな勝負はハードル高過ぎたですよね、イブキおねーたま♪」
イブキさんは、快く二つ返事で受けてくれた、怒りが一周回って心地よくなってきたのか、とても良い笑顔で
イブキ
「ハクリューLv37」「ハクリューLv37」「ハクリューLv37」「キングドラLv40」
イブキ手持ちスキル
「でんじは」「なみのり」「たたきつける」「りゅうのいぶき」「10まんボルト」「れいとうビーム」「えんまく」「はかいこうせん」「なみのり」
花子α
「ヌケニンLv18」「ヌケニン」「ヌケニン」「ヌケニン」「ヌケニン」「ヌケニン」
花子α 手持ちスキル
「どくどく」「かげぶんしん」「フラッシュ」「いばる」
さて、イブキおねーさま、勝ちの決まった勝負をしようか
泣いて謝っても許してあげない、プライドの最後の一カケラまで打ち砕いてやる
フスベシティ
フスベシティポケモンジム
ここはジョウト最強のジムのある場所である。
ここまで必死に辿り着いた腕に覚えのあるポケモントレーナーは、例外なくここで夢を打ち砕かれる。
竜使いの一族が鍛え抜いた洗練された技、そしてドラゴン達の凶悪なタフネスと攻撃力。
それらに並のポケモントレーナーでは太刀打ち出来ないのだ
ここは竜使いの里にして、修行者達の最高峰が集い、若人の夢が費える場所。フスベシティ
そのフスベシティポケモンジムに、異常事態が襲っていた
ドラゴン族の異常なタフネスは猛毒に蝕まれていき、一撃当たればどんなポケモンでも焼き払う攻撃は、一度もダメージが通らない
「キングドラ!破壊光線!!」
キングドラの口元にエネルギーが収束し、そして、攻撃力の塊が放出される
ヌケニンへ、0のダメージ▼
「くそっ、くそっ、くそっ、なんで倒れない!?」
イブキたんが悔しそうに地団太を踏む
既に涙が滲んだ目には、諦観、絶望の色がまざまざと浮かんでいる。
当たり前だよ、効果抜群の技を持ってないんだから
俺はゴーストタイプにノーマルの攻撃を必死に繰り出す子供を見るかのような、可哀相なものを見る目で、無知な女に優しく微笑む
これまで何度も繰り返したやりとり。
攻撃して、ヌケニンの特性に防がれ、そしてまた攻撃する。何度繰り返しても、ヌケニンにダメージが通る事は無い。
そしてどくどくの効果で、確実にポケモンを蝕まれ、必死に回復剤を投与するも、確実に戦闘不能に陥る。
これまで何度も何度も飽きるほど繰り返したやり取りだ。
その度に必死で戦う彼女を見ると、腹の奥底から笑いがこみ上げてくる
効果抜群の技を持つポケモンに替えれば、それだけで勝てるというのに、彼女はジムリーダーであるが故に、ジム戦では登録したポケモン以外で戦う事が出来ない。
「さて、これでアタシの17連勝かな」
「ッッ…まだ、勝負は終わってないぞ…!!」
いや、終わりだよ
俺の予想通り、どくどくの効果で、倍増したダメージがキングドラを襲う
キングドラの体が一瞬震え、全身を襲う激痛でキングドラの意識を刈り取る
ドサッ
重い袋が落ちるかのような効果音を立てて、キングドラの全身が闘技場の地面へ倒れ込む。
「キングドラ戦闘不能!よって、田中花子αの勝利!!」
審判の声が無情に響く
いや、審判の声もかすかに掠れている。
フスベシティのジム戦で、こんな異様な事態は遭遇した事が無いのだろう
何度も、勝てる事の無い相手に挑まされたキングドラの横に、目を開いて放心したイブキがへたりこんでいる。
何度も繰り返した絶望的な戦いに、心がブチ折れてしまっているのだろう
そのイブキの横に歩み寄り、手を差し出す
見上げるように、怯えたようにこちらを見るイブキたん
「さて、イブキおねーたま、賞金ちょーだい」
「くっ…待て、もう、持ち合わせが…」
ちょっと挑発してみたら、普通のトレーナー戦のように、負けたら所持金の半分を支払う条件を呑んでくれた
イブキが最初に負けて支払った金額は25000。
つまり逆算するとイブキの所持金の総額は50000。
どんどん半分にしていくと、倍々ゲームの要領で金が減っていく。
そしてこの前の勝負で支払った金額が1円だった。つまり今回からは、支払う金が無いのである。
「ちょっと、家へ、金を取りに行かせて…くれ…頼む…」
俺に貢ぎ物をする為に金を取りにいこうという健気さにほろりときちゃいましたよ
どんな大金引っ張り出してきたところで、このゲームを繰り返せば大体4〜5回で持ち金の殆どを失うんだが
「ダーメ、イブキおねーたま、家に帰りたいなら、ちゃんとアタシの靴にご挨拶して、参りました、って言ってからにしてよ」
「ぐぅっっ…!!!」
イブキは、それだけは出来ない。
何度も繰り返すこの異様なジム戦はすぐに噂になり、今までイブキに負けた人間や、イブキに親しい人達が観戦に来ているのだ。
その観客の目の前で、靴を舐め、負けを認めるなど、イブキからすれば死んだ方がマシという恥辱だろう
「じゃあさー、イブキおねーさま、まだ持ち物があるじゃないですかぁ」
俺は、そんなイブキに、新しい道を提案してやる。にっこりと、花の咲くような笑顔で。
「支払うお金が無いんだったら、現物払いでいいですよー、そのバッグとか、高そーですよねぇ」
くすくすくす、と笑顔でバッグを賭け代に差し出すように要求する。
イブキは、悔しそうに奥歯を噛み締め、バッグの中から小物を取り出して、差し出した俺の手に叩きつけるように渡す。
ちょっと驚いたような顔を作って、安っぽい櫛を持ち上げてみる。
「あれれー?ポケモンに負けた賞金がこんな櫛一本ですかー?フスベシティのジムリーダーって、案外セコいんですねー」
まぁ勝ち目が無いのを悟ってるんだから、いきなりバッグ全部は期待していないのだが
とりあえず軽く挑発してみる。これで賞金が増えたら嬉しいな
「黙れ下衆が。貴様のようなヤカラには櫛一本ですら勿体無いわ!」
おー、こんだけやられても、まだ心は折れてなかったか
スゴイスゴイ。この気合はどれだけ持つのかな
「じゃ、もう一回やりましょか
大丈夫ですよ、段々惜しくなってきたし、イブキおねーさまなら次くらいには勝てますよー」
イブキの表情がまたも悔しげに歪んだのが分かった。
イブキ自身も分かっている。到底太刀打ち出来ない。かすってすらもいない。勝ち目なんてありはしないんだ、と
そして、フスベジムに、備え付けのポケモン回復マシンの安っぽい音が響く
回復し終わったポケモン達を引き連れ、闘技場の中央に戻る俺とイブキ。
「フスベシティジム戦、第18回戦を行う。始めッッ!」
審判の声が響き、お互いにポケモンを繰り出す。
こちらはヌケニン、あちらはハクリュー。
何度も同じ事を繰り返す。変化の無い単調な繰り返し。
「フスベシティジム戦、第20回戦を行う。始めッッ!」
「フスベシティジム戦、第23回戦を行う。始めッッ!」
「フスベシティジム戦、第28回戦を行う。始めッッ!」
「フスベシティジム戦、第31回戦を行う。始めッッ!」
「フスベシティジム戦、第35回戦を行う。始めッッ!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「ふわぁぁぁ…」
あーねむてー・・・
俺も、この単調な繰り返しにかなり飽きてきている。
どちらかというと、勝ち目の無い戦いに、それでも手抜きをせず全力を尽くすフブキたんを見て愉しんでるだけである。
バッグの中の小物類は全て戦利品としていただいた。
靴、帽子、アクセサリーに至るまで、全て頂いた。
イブキの目からは、既に完全に光が消えてしまっている。
「イブキおねーたま、次は何にします?」
「うっ…うぅっ…くぅぅっ…!!!」
イブキが、震える手で、アクセサリーや、何か小物は無いかと、自分の体をまさぐる。
必死に体中を探し回り、やっと耳についたピアスを発見する。
それをどうにか取り外し、震える手で俺に渡す。
「どーもですー♪」
「キングドラ戦闘不能!よって、田中花子αの勝利!!」
もはやイブキたんには、勝ちッ気というか、覇気が無い。
何度も繰り返され、積もる負けに、イブキの目から涙がしとどに流れ落ちる。
イブキが、悔しそうに唇を噛みながら、震える声を吐き出す。
「も…もう…渡すものが…無い…だ、だから…」
「だから…なんでしょう?もう諦めてアタシの靴にキスしちゃいます?
録画の準備はオッケーですよ。1200万画素の超キレイな奴で余す所無く撮っちゃいますよ♪」
「……ッッ…どうして、キサマは…そう…キサマという奴は…!!」
イブキが、覚悟を決めたかのように、最後の持ち物、イブキの身を包む、タイツのような衣服に手をかける。
先ほどブラもパンティも頂いたので、これを脱げば最後、イブキは完全に生まれたままの姿となる。
今まさにガラス越しにイブキを見つめる観客の、目の前で
「まーまーイブキおねーさま、そんなに深刻そうにしないで」
「……くっ……出来ないと、思うのか……!!」
「いやいやまーまー、落ち着いて、別にそんなにイヤなら無理強いはしませんよー」
「このイブキ、こんな小娘に情けをかけられてたまるか……」
「いやー、そういう事じゃなくてー、ちょっと花子のお願い聞いてくれないかなー、って」
「…………」
「さっきイブキおねーさまからもらったムチがあったでしょー?あの短いヤツー
花子ー、ムチって使った事無いからー、叩くとどうなるのか分からなくてー、ちょっと興味あるなー、っていうかー」
「……この、下衆が……!!」
えーえー下衆ですとも、要するにあたしゃムチで叩かせろ、って言ってるんですよ
いやー、やっと長い長い前戯が終わって本番に入り始めた感じがしますねー、ぞくぞくしてきましたよアタシ
「でもー、勿論イブキおねーさまが痛いのがヤだって言うんならー……」
「好きにするがいい!!後で覚悟しておけ!!」
という訳で、イブキおねーさまとの交渉の結果、イブキおねーさまが正座して、一分間は好きなようにしていい、という事に
「じゃ、行きますよー」
「…………」
正座したまま、微動だにしないイブキたん、涙の滲んだ顔を凛と背筋を伸ばしてるのがカッコいいですねぇ
「えいっ」
「ッ!!」
小さくしなるムチを、イブキたんの背中に打ち付ける。
イブキたんの体がびくっと硬直し、服に小さな裂け目が出来る
「やぁっ!とうっ!えいっ!」
イブキたんの背中に、次々に新しく傷痕が付いていく
「……っ!!」
目を瞑り、唇を噛み締め、根性で声を上げないようにするイブキたん
その必死に我慢してるのがまたそそられるんですが
そうこうしてる内にアラームが鳴り響き、たのしいたのしいお楽しみタイムが中止になってしまう
やっぱり一分じゃ短いな、もっと愉しみたかったんだけど
「はぁ……はぁ……次こそは……」
「うんうん、イブキおねーさまならきっと勝てるよ!頑張って!応援してる!」
イブキが、悔しそうというか、さっきまでと違う、少しだけ光が戻った目になっている
この一連のやり取りで、少しだけ熱を取り戻したんだろうか
心なしか、今までの、格好を気にする余計な部分が消えた気がする。竜使いの一族の末裔は、ここからが本領なのかもしれない
「フスベシティジム戦、第38回戦を行う。始めッッ!」
「キングドラ戦闘不能!よって、田中花子αの勝利!!」
まぁそんなもの、この勝負には1mmも関係ないんですが
「……また……ムチで叩きたいと言い出すのか……?」
俺の笑顔を見て、イブキの方から話を出してくる。
「んー、イブキおねーたまは、ムチで叩かれたいの?」
「そ、そんな事……!!」
「それもいいんだけどー、イブキおねーさま、ムネ、おっきいですよねー」
「えッ?え、あぁ……」
「おっきいムネがどうなってるのか、ちょっと揉んでみていーですかー?」
「別に……構わんが……」
「やったー!」
勘違いしてもらっては困るのだが、別に私には百合とかレズとか、その辺の趣味がある訳ではない。
男だろうと女の子だろうと、可愛い子がいたらちょっとイジメたくなる、ごくごく普通の女の子だ
「じゃ、行きますよー」
「………」
俺の小さい身長だと揉みづらいから、という理由で、イブキにはまたも正座してもらう事にした
「えいっ」
ズボッ、と差し込むように、イブキの背後から、手に力を込めて胸を鷲掴みにする。
「んっ……」
おー、これは中々……
ほどよい弾力感に、この重量、ちょっと手を振るだけで、ゆっさゆっさと乳が揺れる。
もみっ、もみっ、という擬音が付きそうなくらい荒っぽく、力を込めてみる。
「いやー、イブキおねーさま、すごいおっぱいしてますねー」
「(こいつ……見た目は小さい子なのに……力が…以外と、強い…)」
「ここはどーんな感じなのかな、っと」
全体的な質感を味わったので、次は先端部の突起に手を出してみる
「あっ……おい、こら……」
こりこりこりこり、くりくりくりくり
適当にちまちま弄り回して、引っ張ったり押しつぶしたりしてみると、血液が集まってきたのか、小さく固さを帯びてきたのが分かった。
「んー、もしかして感じてるんですかー?」
「バカな事を言うなッッ!!」
その一言で、イブキたんがキレて立ち上がってしまった為に、お楽しみは中断となってしまった
好きなだけ揉んでいいっていう約束だったのに……
「花子、勝利」
審判の、やる気の無い声が響く
そろそろ審判もだれてきたというか、疲れてきたのだろう
もうイブキも疲れているというか、本当に変化の無い繰り返しに飽きているというか
靴を舐めるのがイヤだから仕方なく続けてる感じがする。
もしかすると、このまま続けてれば有耶無耶というか、無かった事に出来るんじゃ、とか期待してるんだろうか
「……今度は、何だ?」
「え?ひょっとして何かしてもらうのを期待してる?イブキおねーたま」
「…………はぁ?」
うわ、なんかバカを見るような目で見られた
「お前、何言って……」
「んっ」
「んむぅぅっ!?」
小煩い口を俺の口でふさいでみる。
完全に予想外だったのか、なんかパニクってる。可愛い。
「……!?…!?…!!!???」
「今回のはこれでいいよ、ごちそう様♪」
実はこの人、結構ウブなのかな、反応が初々しいといいますか、なんか可愛いなこの人
なんか結構遊んでる風に見えるだけに、予想外なのが楽しいというか、これがギャップ萌って奴なのか?
(省略)
今度のバトルはかなり良いスピードで終わった。
気合が入ってないというか、トレーナーが混乱してるというか、タフネスが売りのドラゴン族があっという間に次々毒で死んだ
「イブキおねーさま、今度は、そっちからキスして」
「……え、えぇっ!?」
「イブキおねーたまの知ってる、とびっきりディープな奴で」
「…………(ごくり)」
あぁ、この人、そんな事やった経験無いんだな
なんか生唾飲み込んでるし、冷や汗出てるし
何かに挑むような顔で、イブキが恐る恐る、俺の目の前に顔を近づけてくる。
「じ、じゃあ…いくぞ…?」
「……」
一応目を閉じて、オーケーですよー、というアピール。
早くしてくんないかな、焦れったいなぁもう
ちゅっ・・・と小さな擬音が聞こえ、キスが始まったのはいい……んだが
動かない。何も変化の無い、事務的なキス。
ただ長い。いつになっても離れない。ちょっ、息が苦しくなってきたんですが
もしかしてディープってただ長くキスする事、って意味に捉えちゃった?
「「ぷはっ」」
お互い苦しくなってきて、自然に顔が離れる。
はぁ、はぁ、と小さく荒い息を吐きながら、顔を赤く染めたイブキが聞いてくる。
「ど、どうだった……?」
「…………」
どうだったもこうだったもねぇよ
俺は、思わず、イブキの襟首に手を回す
気が付いた時には、既に手が動いていた。
「んぐっ……」
咄嗟の事に、逃げようとするイブキを、手で顔を抑えて、逃がさない。
「んっ……んんぅーーーーッッ!!?」
唇の隙間から、舌をねじりこんで、イブキの口内に舌を侵入させる。
突然の事に、パニクって動けないイブキの口の中を、俺の舌が蹂躙していく。
普段のイブキだったら舌を噛み千切られてもおかしくないが、ここまでせっせと心を折ったのが効いてるんだろう
「んむっ・・・んっ・・・んんぐぅっ・・・」
ちゅぽっ、と、イブキの口の中の感触を一通り楽しんで、唇を離す
「はぁ……はぁ……い、いひなり……なな何を……」
イブキたんが慌てすぎて軽くろれつが回ってない。
見るからにふらふらした頭でどうにか抗議してくる。
「これが、大人のキス。ディープキスって奴。分かった?」
荒い息をつきながら、イブキがこくこくこくと頷いている。
むー・・・可愛いな
「あれ?もう6時か」
ポケモンジムの閉館時間である。
勿論ジムリーダーが許可すれば深夜からでもジムを開く事は可能なのだが、残念ながら俺の方がそろそろ飽きた。
「じゃあイブキおねーさま、また明日来るから、続きはその時にやろうねー」
大体これ以上はイブキの方が無理っぽそうだし
放心状態でぽけっとしているイブキたんに背を向けて、宿屋を探しに行く事にする。
あーイブキたん可愛かった。持って帰りたいなぁチクショー