「それじゃ……サヨナラ……!」
そういって彼女と別れてからあっという間に3年の月日が流れた。
あれから、イッシュを離れて様々な土地をまわってみた。
カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、様々な地域で、人とポケモンはお互いに支えあって生きていた。
まあ、多少はポケモンのことを悪用しようとする人たちもいたけど。
でも、それでも、ポケモンと真面目に向き合って生きている人もたくさんいた。
楽しいことばかりではない旅だったけど、人とポケモンのつながりをたくさん見ることができた。
少しでも、彼女が見ていた世界に近づくことができたのだろうか?
ふと、空を見上げた。
今、彼女がどこで、何をしているのかも全く見当もつかないけど、少なくとも、同じ空の下にいる。
そう思うと、少し気持ちがはずんだ。
『うぅ…。さっきのやつに毒をうけたかなぁ。ちょっとツライ…。』
すっと心に声が飛び込んでくる。
まわりを見渡すと、つらそうな顔をしているラッタをつれた短パン小僧がいた。
ああ、彼の声だったのか。
「あの、キミ!その、君のラッタ、毒をうけたんじゃないかい?辛そうだけど。」
正直言うと人と会話するのはいまだに苦手だ。
それでも、目の前に苦しんでいるポケモンがいるのに何もしないなんてできるわけがない。
「…は?いや、誰だよ、アンタ。これでいいんだよ。根性発動させるんだから。」
本当に頼むから、そういう冷たい反応を返さないでくれ。
会話を拒否されてしまうと、ボクにはもうどうしていいかわからなくなるんだから。
「え、ええと、その、でも、君のラッタがつらいって…言ってる…んだけど。」
「はぁ!?ポケモンがしゃべるわけないだろ!?アンタ、頭大丈夫か?こいつやべーよ。関わりたくねえ!ラッタ、さっさと来い!次の町に行くぞ!」
……あ、行っちゃった。ラッタ、大丈夫かなぁ…。
確か、あっちのほうにはモモンの木があったから、すぐに対処はできるはずだ。
「………はぁ…。やっぱり人間って難しいなぁ…。ポケモンとなら、まだ仲良くなれるのに。」
大きく息を吐いて草原に倒れこむ。
草の感触が気持ちいい。
目をつむればそのまま眠ってしまいそうだ。
やわらかいひざし、草のベッド、ここまで条件が揃ってしまえば、睡魔に抗えるはずもなかった。
―――――人のこころを持たぬバケモノです!
――――ポケモンと話ができるって?人をからかうんじゃないよ。
―――アアア、熱いなァ……。青年の肌を汗が伝っているぞ……。
――ポケモンの声が聞こえる?未来が見える?何いってんの、この厨二病!キモーイ!
―ハァ?アンタ、頭大丈夫か?こいつやべーよ。
ああ、これは、夢。
ポケモンの話がわかることを伝えると、皆、残念なものを見るような目で見てくるんだ。
誰も、信じてくれなかった。
―――ポケモンとお話できるの!?すごい!私もポケモンと話したいなぁ。
あぁ、一人だけ、目を輝かせて聞いてくれた子がいたっけ。
「トウコ……!」
彼女の名前を呼び、目をさました。
ここはイッシュから遠く離れた土地。
彼女がいるはずもないのに、無性に彼女に会いたくなった。
草むらに横たわったまま空を見つめる。彼女と同じ空の下にいるのだ。
空を駆けて、会いに行くことはできる。それでも、自分の信念のために、彼女を巻き込み、傷つけてしまったボクが、彼女に会う資格なんてあるのだろうか?
今までも、そうやって、彼女と向き合うことを先のばしにしていた。
でも、今はそれ以上に…
「……会いたい。」
気が付くと、ボクは、イッシュのライモンシティの遊園地にいた。
ふと我に返り赤くなる。
何を考えているんだボクはーー!?
確かに彼女に会いたいと思ったさ。そこは否定しないし否定できないよ!?
だからって、ボクのわがままで、こんな遠いイッシュまでゼクロムを飛ばせるなんて…!
これは、ポケモンのこと道具としか見てない人たちと同じじゃないか!
ああもう、ボクのバカ!
ゼクロムは『気にしなくてもいい』って言ってくれてるけどそれでもやっぱりボクが許せない!
そうやって一人で悶々と考え込んでいると観覧車のほうから大声が聞こえてきた。
「よう、おねーちゃん。俺と観覧車のって楽しいコトしない―?」
「なんなら、俺様に乗ってみるか―?ぎゃはは!」
「ンだよ?おまえ酔ってんのかぁ、酒くせーぞ!」
「それはお前もだろぉ。へへ。なぁ、おねーちゃん、遊ぼうぜぇ!」
どうやらナンパらしい。
ガラの悪そうな男たちが4人と、ここからだと後ろ姿しか見えないが、髪の長い、スカートをはいた女性だ。
「……悪いけど、つれがいるので、これで…。」
「つれねーこというなよ、楽しくやろうぜ!」
「痛っ!!」
男たちが無理やり彼女の手を取る。
まさか?と思った疑念は彼女の声を聞いてふっとんでいった。
「やめろ!彼女は嫌がっているだろう!?その手をはなすんだ!」
「あぁん?なんだお前は?」
「俺たちのお楽しみの邪魔すんなよ、優男。」
「おうち帰ってママのおっぱいでも吸ってな!ひゃはは!」
あぁ、イライラする。
こんな感情が自分にもあったのか。
小声で指示をだし、二つのボールを開いた。
出てきたアーケオスとアバゴーラは男たちに唸り声をあげながら、野次馬を追い払っていく。
「彼女から、その汚い手をはなせ。ゲス。」
そう言って、彼女の手をつかんでいた男の腕をひねりあげる。
「い、いたいいたい!おれ、折れる!」
「二度と彼女に関わるな。わかったな?」
すっかり酔いもとんだ男たちは涙目で走り去った。
アーケオスとアバゴーラもギャラリーを追い払ってくれたようで、嬉しそうに戻ってきた。
彼らの頭を撫でながら、男たちに絡まれていた女性を見つめる。
焦げ茶色の髪をおろし、長袖にロングスカートをはいた彼女の姿は、記憶しているものと全く違っていたが、その目の輝きだけは昔のままだった。
「……大人っぽくなったね。トウコ。」
トウコと呼ばれた女性は泣きそうな顔をした。
「もう、ばか!おかえり!N!」
トウコがぎゅっと抱きついてきた。
あぁ、野次馬、追っ払っておいてよかった。
人がいたら、彼女を抱き締め返すことなんてできなかっただろうから。
いい匂いのする髪、女性としての丸みをおびた身体、なんだか、彼女が急に遠く感じてしまう。
そうか、彼女だってオンナノヒトなんだ。
つい抱き締めかえしてしまったけど、本当ならいけないことだったんじゃないか?
何でボクは、そういうことに気付けなかったんだろう。
そうだよ、トウコだってつれがいるって言っていたじゃないか。
「と、トウコ?あ、あの、もうはなれた方が、いいんじゃない?つれの人もいるんだろう?」
トウコはほほを膨らませてボクを見上げた。
「もう、本当にバカなんだから!そういうのはナンパを断る際の常套手段よ。それとも、私とこうしているのはいや?」
「そ、そんなことない!ボクは、トウコに会いたくて…!!あっ…。」
すっかりトウコのペースに乗せられてしまったボクは本音を隠すことすらできなかった。
ボクの発言がまずかったのだろうか。
トウコはボクの胸板を押して多少強引にボクから距離を取る。
「と、トウコ…?あ、あの、ご、ごめんね。ボク、また君を傷つけるようなことを…。」
トウコはうつむいたままだ。せめて、顔を上げてほしい。
また怒られるかもしれないと思いながらも、そっとトウコのおとがいに手をかける。
「トウ…!?」
ああ、ボクは、大馬鹿だ。
なんで気づいてあげられなかったんだろう。
顔を真っ赤にしたトウコが唇の動きだけでボクの名前を呼ぶ。
「うん、トウコ、先に謝っておくよ。ゴメンね。」
そっと彼女を抱き寄せる。
ボクの腕の中でさらに顔を真っ赤にしたトウコが何かを言いたげに口をパクパクさせていたがあきらめたのかおとなしくなった。
「これなら、誰にも見られないから。トウコのそんなかわいい顔誰にも見せてあげない。」
そういったら、トウコに足を踏まれたけど。
10分ほどだろうか。
彼女に足を踏まれながら、それでも、彼女を抱きしめ続けていた。
トウコの顔はまだ少し赤かったけど、ずいぶん落ち着いてきたようでちらちらとボクのほうを見上げる。
「……はなしたほうがいい?」
そう聞くと彼女は首を横に振る。
「……ずっとこうしてる?」
ちょっと意地悪なことを聞いたと反省しながらも続けて聞いてみる。
また足を踏まれるのかなと思いながら彼女を見つめていると彼女は小さな声でぼそぼそと話した。
「……はなしたら、Nがまたどこかにいっちゃいそうで怖い…。」
そんなことを言われるとは思ってもいなかった。
今度はボクの顔が赤くなる。
「え、なぁ…!?と、トウコ、ぼ、ボクは…。」
「ふふ、N、真っ赤になっちゃって、かーわいい。」
彼女の笑顔を見てすっかり毒気を抜かれてしまった。
「トウコ、ボクのこと、からかってるでしょ?」
「ちょっとだけね?でも、Nがいなくなるのが嫌なのはほんとだから。」
「まったくもう。これなら、いい?」
そういってボクはトウコと手をつないだ。
今は彼女と敵対するのではなく、彼女の隣に立てることが言いようもなく嬉しい。
「……Nはずるいよ…。」
彼女の手から伝わる体温が少し上がった気がした。
そういうボクも、いつもより心臓が早く脈打っている感じがする。
緊張している自分自身をごまかすために何か落ち着くことがしたい。
素数でもかぞえようかな?
いやだめだ、いきなり数をかぞえはじめたら、トウコがびっくりするにきまってる。
だったら…。
「と、トウコ!!観覧車に乗らないか!?」
言ってから、自分の言ったことに気がつき赤面してしまう。
観覧車といえば、ボクにとっては大好きな場所だけど、トウコにとってはそうだとは限らないじゃないか。
だってボクはあの観覧車でトウコに…あんなことを言ってしまったのだから。
『ボクがプラズマ団の王様』だなんて。
ああ、もう、ボクのバカ!本当にバカ!三年前のボク死ねばいいのに!
そんなことを考えているとトウコに腕を引かれる。
「……どうしたのN?のるんでしょ?観覧車。」
あぁ、よかった。彼女は観覧車に対してそれほどいやな感情を抱いていないみたいだ。
本当に良かった。
ここで、いやだなんて言われたら、ボクはどうしていいのかわからなくなってしまうもの。
トウコと二人で、観覧車に乗る。
あ、あれ?少しでも落ち着こうと思って観覧車に誘ったけど、これ、状況悪化してない?
ああ、気がついてしまうともうだめだ。
顔が熱くて、彼女のほうを見ることすらできない。
「ねえ、Nって、この3年間どこで何してたの?」
「はぃい!?」
彼女からの突然の問いかけに思わず顔を上げる。
「いや、そんなに驚かなくても…。なんて言うかなぁ、もっとNのことを知りたくて…。」
そういう彼女も心なしかほほが赤い。
自分だけではないのだと思うとずいぶん気持ちが軽くなった。
「フウン。いいけど、君の3年間も教えてね。だってそうじゃなきゃフェアじゃないでしょ?」
にっこりと笑顔を作って問いかける。
言わなくてもわかっていると思うけど、余裕を取りつくろっているのは表情だけ。
膝の上で握りしめた手は手汗でじっとりしている。
そんなこと、彼女にはばれないようにしなくちゃ。
「ええと、ボクはね、あの後あちこちを旅してまわったんだ。本当に、いろいろな人間に、ポケモンに会ったよ。
人と、ポケモンは、一緒に生きることができるんだね。君たちの言っていたことがやっとわかった気がするよ。君は?あの後どうしたの?」
「え、私は、その、育て屋さんで心に傷を負ったポケモンたちの世話をしてたの。少しでも、Nの目線にたちたくて…。
Nみたいにはうまくいかないことも多いけど。なかなか心を開いてくれなかったしね。」
そういって照れくさそうに微笑む彼女がとてもまぶしく見えて…。
「え、N!!?」
気がつけば彼女を抱きしめていた。
「ゴメン、もう少し、こうさせて。」
彼女に抱くこの感情がなんなのか、答えは出ない。
でも、彼女のことを思うと胸が温かくなるのだから、きっと悪い感情ではないのだろう。
結局観覧車が一周するまで、彼女を抱いていた。
「……あの、トウコ、ごめん…。なんか、ボクばっかり楽しんじゃって…。ボクがその、ああしてたから、外の景色も見られなかったでしょ?本当にごめんね。」
「そ、そんな…、気にしてないし…むしろ…その…!?」
ピロリローンピロリロリーという音にトウコの声はかき消されてしまった。
その…のあとが少し気になったのに。残念。
「え、あ、ご、ごめんライブキャスターが…!!」
「急ぎの用事かもしれないし、出たほうがいいよ。」
「…うぅ、ごめんN。ちょっとだけ待っててね!」
そういってトウコは通話ボタンを押した。
『トウコーーーー!!ベルに変な入れ知恵をしたのは君かーー!?』
「う、わっわぁ!!?チェレン声おっきい!!」
『ベルが、差し入れを持ってきてくれたんだけどね。なんで僕がこんなに怒ってるかわかるよね?』
「あーー、その、まさか本気にするとは思わなくて…。」
『持ってきてくれた弁当の具は海藻ばかりだし、発毛剤なんか持ってくるし…。
言っておくけど、父さんのあれは、そ、剃っているだけなんだからね!!べ、別に、頭髪が薄い家系とかそういうのではないんだよ!わかってる!?トウコ!』
「……あーでもチェレンのおでこ…いや、なんでもないよ。」
『トウコ!!!』
「……うん、ごめん。チェレン。ベルには私から謝っておくから。」
『もう、次やったら絶交だからね!』
「ホント悪かったてばチェレン!機嫌なおしてよー。」
『まったく、君は…。もう怒ってないよ。それじゃ、また。』
チェレン…って、ああ、理想を求めていた人だ。
トウコのトモダチの、男の人。
トウコと、仲のいい、オトコ…?
なんでだろう?胸がざわめく。
ボクには関係ないことのはずなのに、なんだかイライラするんだ。
この感情は、ナニ?
わからないことだらけだ。
「…ぬ、N!!どうしたの?ボーっとしちゃって?」
「あ、ああ、ごめん少し考え事をしていたんだ。」
不覚…。トウコがあんなに近づくまで気がつかなかったなんて…。
こんなところゲーチスやダークトリニティに見られたら『王としてもっと危機感を持ってください!』とかお説教されちゃうよ…。
長時間の正座、つらかったなぁ…。
「それでね、チェレンがね…!……でね、……。N、聞いてる?」
なんでだろう、彼女の口から別の男の名が出るだけでイラついている自分がいる。
なぜ?なぜなんだ?
「N…?どうしたの?顔色悪いけど?もしかして、具合が悪い?」
「うん…。なんだかわからないけど、胸が痛いんだ。今までこんなことなかったのに…。」
なぜ、こんなにも胸が締め付けられるんだ?
本当にだめだ。
今日はわからないことばかりだ。
「N、無理しちゃだめだよ。ゆっくり休んだほうがいいよ。」
「………宿、とってない。ボク、こっちじゃプラズマ団の王様だから。指名手配されてるでしょ?」
彼女と再会した時、まわりのギャラリーを追い払ったのはそのためでもある。
旅の最中でも国際警察を名乗る人たちに追われたりもしたっけ。
そんなわけで、どこからあしがつくかわからないから、旅の間ももっぱら野宿だった。
そりゃ野宿は体が痛くなったり、火の番が大変だったりといろいろあるけど、小さい頃からベッドもないあの部屋で生活してきたのだ。
野宿に対してはそれほど抵抗はなかった。
「うーん、じゃあ、カノコに…って少し遠いわよねぇ。」
「迷いの森…。あそこ、ボクのゾロアークのふるさとなんだ。あそこなら、人もめったに来ないし、詳しいことはゾロアークが知ってるから。」
「わかった。おくるわ。」
迷いの森の奥にあるキャンピングカー。
そこがゾロアークがねぐらに使っていた場所だった。
「げほ、ちょっとホコリっぽいねぇ。」
「お掃除してからのほうがいいわね。どれくらい使ってなかったのかしら?」
「うん、窓開けてくる。」
換気をしたり、掃除をしているうちに埃っぽさもなくなってきた。
「フウ、きれいになった。ありがとう、トウコ。」
「どういたしまして。N、お願いだからちゃんと休んでね。…その、明日、また来るから…いなくならないでね!」
そういってボクの服の裾をぎゅうっとつかむトウコをなんだか、とても守ってあげたくなって…。
「ふふ、誓うよ。君の前からもう消えたりしないって。」
彼女の髪を一束つまみ、キスをした。
プラズマ団にいたころ、王に敬意を…なんたら…いう人たちが、手や足にキスをしたがっていた。
七賢人たちが言うには、キスは「絶対にあなたのことを裏切らない」という証らしい。
だから、トウコに、信じてほしくて、キスをしたんだけど…。
どうもトウコの反応がおかしい。
顔を真っ赤にして、あいた口がふさがらないようでぽかんと口を開けている。
「え、と、トウコ!?」
もしかしなくてもまたボクはまずいことをしてしまったんだろうか?
「え、え、え、Nの馬鹿ーーーー!!この天然スケコマシーー!」
そういってトウコは走り去ってしまった。
どうしよう、もしかしなくてもトウコを怒らせちゃったよね。
もうトモダチやめるなんて言われたらどうしたらいいんだろう。
どうしようどうしよう本当にどうしよう。
思考回路がくるったみたいだ。
頭の中を同じ言葉がぐるぐるとまわってばかりで、どうしたらいいのか答えが出ない。
『おい、N。少し落ち着いたらどうだ。お前がそれではまわりのものが落ち着かぬ。』
そういって声をかけてきたのはゾロアークだ。
ボクが一番初めてトモダチになったポケモン。
ゾロアのころからずっと一緒にいたから、ほかの誰よりもボクの境遇を知っている。
「ぞ、ゾロアークぅ、でも、もし、トモダチやめるなんて言われたらボクどうしよう。と、トウコ怒ってたよね?」
『N、お前は、実に馬鹿だな。トウコがそれくらいで友を捨てるような女だったか?それはお前がよく知っているはずだ。』
そういってゾロアークは小さく鼻を鳴らした。
ゾロアークの自信ありげな様子を見て少し安心した。
ポケモンは、うそをつかないから。
少なくともゾロアークは、本気でトウコと友達でいれると信じてくれているんだ。
「う、うん!ゾロアークありがとー!!そっかトウコならきっと許してくれるよね!!そっか、そっか!よかったー!」
『……答えは出たようだな?しかし…Nは、トウコと『トモダチ』になりたいのか?』
「え?どういうこと?」
ゾロアークの目つきがいつもより少し鋭くなった。
昔、その悪人面何とかならないの?と聞いて、本気で怒られて、かみつかれたことがあったけ。
あの時ヒヒダルマがオレンの実をわけてくれたっけ…。あのオレンの実、おいしかったなぁ。
って、今は、昔のことよりも目の前のゾロアークだ。
たまにゾロアークは難しいことを言い出すんだ。
ゾロアークの納得のいく答えを出さないと機嫌が悪くなるしなぁ。
『Nは、トウコと『トモダチ』で終わるつもりなのかと聞いているのだ。トウコのことがスキなのだろう?』
「……うん。トウコもゾロアークも大事なトモダチだもの。スキだよ?それがどうかしたの?」
キョトンと首をかしげるNにゾロアークは大きなため息をついた。
『N、スキには種類があるのだ。『like』と『love』。この二つは似ているようだが、全く異なるものなのだ。Nが我々ポケモンに抱いてくれている感情は『like』のスキだろう?』
「ボクの全身からあふれるトモダチへのラブ!見せてあげるよ!ってことじゃないの?」
『ラブ』、『スキ』、大切な、本当に大切なトモダチにむける言葉なのだと教わった。
ボクに『ラブ』の意味を教えてくれたのは誰だったか…。
あぁ、ピンクの体に青い目をしたあの子だ。
傷が深すぎて、助けることができなかった。
それでも、最後の力を振り絞って、ボクに『スキ』と、『大切なトモダチ』だと伝えてくれたあの子。
今のボクでも、あの子は『スキ』だといってくれるだろうか。
ポケモンの解放という信念もなくし、新たな夢を見つけることすらできないボクでも。
『ふざけるのはやめんか。お前も、うすうすわかってはいるのだろう?お前は『ヒト』なのだ。同種の雌に惹かれるのはごく自然なこと。自らを偽る必要はない。』
「………???ゾロアーク?ゴメン全然わからない。何言いたいの?」
本当は、考え事に夢中になっていて全然ゾロアークの話聞いていなかったんだけどそれを言うとたぶんゾロアークは拗ねてしまう。
前にも何度かやらかしてしまったことがあって一週間は口をきいてもらえなかったのだ。
たぶん馬鹿にされると思うけど、わからなかったことにしたほうがいい。
『このどあほうめが。お前が、我々に抱いてる気持ちと彼女に抱いている気持ちでは種類が違うのだ!わかるか?』
「ポケモンへのラブ?ってことじゃないの?」
『本当にお前は、頭がいいのか、大馬鹿者なのかわからないやつだな。我々と、お前はトモダチだろう?トモダチ同士なら『like』のスキなのだ。』
「えぇ?じゃあ、ボクは全身からあふれるトモダチへのライク!って言わなきゃだったの?なんだかかっこ悪いよー。」
トモダチへのラブ!のほうが、口に出した時の語感もいいと思うのだが、意味が異なるというなら変えざるを得ないのかもしれない。
もう少し、言いやすくて聞く人の心を打つ言い回しはないものかな…。
顎に手を当て、真剣に悩み始めたNを見てゾロアークはこぶしを握った。
『……N、歯ぁくいしばれ…!』
「ええっ!?ぞ、ゾロアークどうしたの?殴るのはいやだよ!痛いもの!」
あちこちを旅している間、ゾロアークはボクの知らないところでバトルを繰り返したようで、彼がボクのトモダチたちのレベルの平均値を底上げしているのだ。
ボクも、城の中にこもっていた頃よりは体力はついたと思うけど、ゾロアークの攻撃に耐えられるほどではない。
何としても攻撃を避けなくては。
指名手配されている以上、ボクは病院には行けないんだから。
『ならば、聞くが、お前の眼には、トウコがどう映っている?』
「どうって…?ヒヒダルマみたい?」
彼女がボクをプラズマ団から解放してくれたあの戦いのとき、彼女のあの眼差しが忘れられない。
優しく、そして、どこか、さみしそうな瞳。
小さい頃一緒だったヒヒダルマとよく似た目をしていた。
そうおもったからそういったのに、ゾロアークは地面に落としたヒウンアイスを見るかのような目つきでボクを見てきた。
『本人に聞かれたら絶交されても文句はいえんぞ。それは。……まぁ、お前は、ヒヒダルマにいろいろと世話を焼いてもらっていたからな。
彼女に母性を感じるということなんだろうが…。こいつは頭の固さよりも先に言語力の少なさを何とかすべきであったな。』
「よくわからないけど、君に馬鹿にされているのだけはわかったよ。ゾロアーク。」
『そうか。それは結構。俺もお前がとことん甲斐性のない奴だということはわかったよ。いいか、N、とりあえずお前の今後のために教えておくがな、女性をヒヒダルマに例えるのはやめろ!
トウコなら笑って済ませるかもしれないが、基本的にそんなことを言っては侮辱ととられることも多いのだぞ!!まったくこれだから、厨ニ病は…。常識がないから困る。そもそもだな……』
ゾロアークはいったいどこでそういう言葉を覚えてくるのだろう?
ボクには理解できない言葉を使うのはやめてほしい。
「ゾロアークが意地悪ばっかりいうよー。もう、今日は早く寝ちゃおうよ。バイバニラ、添い寝して。」
ゾロアークがまだ話し終わっていないというのにNはベッドへと足を向けた。
『まだ話は終わってな……ってか、待てN!バイバニラと添い寝したら、風邪ひくぞ!そしてバイバニラも!了承しない!とけても知らんからな!』
「おやすみー。」
『ぞろあーく、おやすみー。』
『あ、N!?バイバニラ!?』
バイバニラはまだバニプッチのころNに拾われた。
なんでも、トレーナーの『厳選』から、もれて野生に返されたらしい。
レベル1の赤ん坊が野生で生き延びれるわけもなくボロボロになっていたのを通りかかったNが助けた。
それからは『NがみんなをかいほうするまででいいからNといっしょにいたい』と言って、ずっとNについてきたのだ。
Nのもとで経験を積んで立派なバイバニラとなったが、なにぶんまだ幼いため世間知らずなところも多い。
というより、Nと同じ環境で育ったため、非常にピュアでイノセントなのだ。
そのため、バイバニラの世界は非常に偏っている。
この旅のあいだに、多少は改善されたが、今でもN二世のあだ名は現役である。
ゾロアークが必死にバイバニラを止めようとしたが、その甲斐もなく、二人仲良く夢の世界へと旅立っていった。
Nが寝付いたあと、ゾロアーク、アバゴーラ、アーケオス、ギギギアルが涙ながらに語り合っていた。
え?ゼクロム?あんなでっかい奴をこんなところで出せるわけないだろう。
もともと、目立ちすぎるのでゼクロムは基本ボールの中だ。
Nはゼクロムも連れ歩こうとしていたが、ゼクロム自らが、何とかNを説得したらしい。
なんだかんだで狭いキャンピングカーの中、ゼクロムとバイバニラを除く4体のポケモンたちが声をひそめて相談をかさねる。
『泣くんじゃないべ、ゾロアーク、お前は頑張っただよ。』
そういってゾロアークの肩を抱いたのはアバゴーラ。
田舎で発掘された化石から復活させられ、見世物にされていたところを、Nが引き取ったのだ。
言葉のアクセントの違いや、なまりが強く、ときおり意思疎通に問題が起こることもあるが、非常に面倒見がよく、さっぱりとした性格をしているため、付き合いやすい男だ。
『いったい、どうすればNはわかってくれるのだろう。やりたくはなかったが、奥の手を使うしかないのか…?』
『なんというか、Nは、あれだから、ピュアでイノセントだから、そっち方面わかってないと、思うのです。』
自信なさそうにぼそぼそとしゃべったのは、アーケオス。
特性が『よわき』だからなのか、常に自信がなさそうでもじもじしている。
しゃべるまえに、大きく深呼吸してからはなすその姿はどこか滑稽で、守ってやりたくなる。
『………恐らく、今でも、タマゴはデリバードが運んでくると思っているな。あいつ。』
『……救いようがねえべ。』
救いようがないというよりも…本当に、あいつは無知すぎるのだ。
以前、Nに聞いたことがある。
あいつがどこまでわかっているのか探りを入れようとある意味恒例のあの質問『赤ちゃんはどこから来るの?』をしたことがあるのだ。
しかし、あのピュアグリーンことNは、動じることなく「デリバードが運んでくるんでしょ?」と返してきた。
『そのデリバードのタマゴはどこから来るのか』と問えば、「ペリッパーが運んでくるよ?」と、ごく当たり前のことのように答えた。
さらに『ではそのペリッパーのタマゴは?』と問いかけても「デリバードが運んでくるよ!!!」と自信満々に答え、間違いを指摘しようとすると「ゲーチスがそう言っていたんだもん!間違いないよ!」と瞳をキラキ
ラさせながら見つめてくるNにそれ以上何も言えなかったのだ。
せめて、あの時、Nのピュアピュアビームにひるまずに本当のことを伝えられていたら、今こんなにも頭を抱えなくともよかったのかもしれない。
『Nノスキナスウシキデセツメイスルノハ?』
カチカチと歯車の音をさせながら声を発したのはギギギアルだ。
Nと『数式』『力学』『円運動』などの話で意気投合したらしく、Nについてきたギアルが進化したものである。
数学の方向に暴走したNに付き合って知恵熱を起こさないのだから、頭はいいらしい。
普段はそんな頭の良さを全く感じさせないが。
本人いわく脳あるムクホークは爪を隠すらしい。
爪を隠しっぱなしでは、意味はないと思うのだが。
『ギギギアル、どうやって説明するだ?それにこういうのは知識だけじゃうまくはいかんべ…。』
『と、いうか、その、僕がNのこと、ちゃんと見ていなかっただけかもしれませんが、あの、N、旅の間、ぬいたりとか、処理してませんでしたよね?精通しているんでしょうか?』
アーケオスの疑問はもっともだ。
Nと長いこと一緒にいるが、そのような行為をしているのを見たことはない。
普通なら、不能なのではないかと考えてもしょうがないだろう。
だが、しかし。
『………昔、ゲーチスがNもいい年だからと夜伽の者をつれてきたことがあった。』
『ハツミミ!N、オトナニナッタ?』
『……残念だが、見知らぬ人間と会話するのが怖いと部屋に引きこもってしまった。だが、そのような者をつれてくるということは、すでに身体の準備は整っているということだろう。問題は、中身だ。』
『NらしいっちゃNらしいべな。』
あきれ返ったように肩をすくめるアバゴーラに大きく頷いた。
あの後、部屋の外に出ることすらも拒否し、部屋の隅で震えていたNを慰めるのがどれだけ大変だったか…。
今思い出しても涙が出そうだ。
『あの、ピュアピュアチェリンボボーイを何とかしてやらねば。あいつ、顔だけはいいから、変な女に騙される前に、中身も年相応になってもらわねば、困る。』
ゾロアークはちらりとNの眠るベッドを見た。
バイバニラはNの体温に耐えきれなかったようで、自らボールに戻っている。
やはり、少しとけたのであろう。
布団が湿っている。
まるでNがおねしょをしたみたいだ。
『まったく、こんな姿、誰にも見せられんな。』
そう言って小さく息をはいた。
『ゾロアーク、オカアサンミタイ。セワヤキニョウボウ?』
『誰が、お母さんだ!俺は♂だと言ってるだろうが!この馬鹿ギギギアル!錆びてしまえ!』
『キャー、ゾロアーク、オコッター!』
『まったく、お前たちがそれでは、俺が安心してNから離れられんではないか。』
『え?ぞ、ゾロアーク、どこかに、行くの?Nと、離れるって……?』
『俺は、あいつのガキの頃からの知り合いだからな。いつまでも、俺と一緒にいたら、あいつは過去を捨てられんだろう。あいつが過去を捨て前に進むためには、俺はいない方がいい。』
『まぁ、今のところNの手綱を握ってるのはゾロアークだけだっぺ。Nが自分で自分をコントロールできるようになってからの話だべな?』
『そう…だな。』
表面上はそう取り繕ったが、内心では、もうすでに答えは出ていた。
「……ぅう…。」
Nは小さくうめき声を上げた。
今自分が夢の中にいるのだと感じた。
ヒトならざる者と話せたり、未来を見ることができるハルモニアの能力とも関係があるのかもしれない。
ときおり、このように、未来を予知夢という形で見ることができるのだ。
今回の夢の舞台は…
「……ボクの、城…?」
あたりを見渡してみると、見覚えのある廊下だった。
今では瓦礫となってしまったNの城の回廊だ。
「……こっちのほうはあまり来たことがないな…。確か、ポケモンを傷つける罪人に反省を促すための部屋があるってゲーチスが言っていたっけ。」
Nは好奇心に駆られ、より暗いほうへと足を進めた。
廊下の突き当たりにあった扉を開ける、いや、夢の中では実体がないのでそのまますり抜けてしまった。
開けてはいないが、その瞬間Nは閉じられた戸をあけてしまったことを後悔した。
そこには、焦げ茶色の髪をポニーテールにした、見覚えある服装の女の子がいた。
ちょうど、あの英雄同士対立したころのトウコと同じくらいの身長だろうか。
トウコと、同じ色の髪、あのころのトウコと同じ見ているこちらが寒くなるような薄着。
ある一部を除いて、目の前にいる彼女は、Nのよく知るトウコとそっくりだった。
あの、すべてをいつくしむような瞳に光がなくなっていたこと以外は。
それだけなのに、こうも感じる印象が変わるのかとNは愕然とした。
「……トウコ…なの?」
Nの疑問は扉を開ける音にかき消された。
「トウコ、待たせたね。」
そういってはいってきたのは緑の髪の背の高い男。
こちらも目に光がなく、よどんだ沼のような眼をしている。
「………ボ、ク?」
あまり身だしなみとかに気を付けてはこなかったけど、それでも鏡くらい見たことはある。
扉を開けたその男は、ボクにそっくりだった。
「N、お願い、今日はやめて。危ない日なの。」
トウコにそっくりの少女が入ってきた男の、ボクの、ボクじゃないボクの名前を呼んだ。
何が危ないのか、何をやめてほしいのかわからなかったが、やはり目の前の男はボクらしいことはわかった。
「…キミはボクに負けたんだよ?なんで、キミの言うこと聞かないといけないの?ボクに負けた、英雄さん?」
ボクではないボクの言葉にトウコは唇をかむ。
もしかすると、この世界はボクがあの戦いでトウコに勝ったというifが成立してしまったパラレルワールドのようなものなのかもしれない。
つまりは、プラズマ団の、目標とした世界。
人からポケモンが解放された世界。
ちょっとだけ興味をひかれたのは否定できないが、今のボクは、もっと広い世界で、人とポケモンが助け合って暮らしていることを知っているので、思っていたほど、動揺しなくてすんだ。
人とポケモンは、共存できるんだ。
人とポケモンを無理やり引き離す必要はない。
そう、トウコが教えてくれたんだ。
だから、何も動揺する必要なんかな…っ!!!!?
な、なんで、ボク、じゃないけどボク、トウコの服脱がせてるの!!?
いったい何しているの!?
これはどどどど動揺してもしょうがないでしょ!!?
待って、やめて、そんなことしちゃダメだよ、ボクじゃないボク!!
ボクじゃないボクを止めようとして、手を伸ばしても、夢の世界では実体のないボクの手は彼の体をすり抜けてしまう。
なんだかちょっぴりゴーストポケモンの気持ちがわかった。
って、ポケモンの気持ちを理解するのは重要だけど、それ以上に、今のボクには彼を止められないっていうことのほうが大事なことなんだ!
「ど、どうしよう!何してるんだよぉ!トウコをいじめちゃダメー!やめたげてよぉ!」
目の前のボクじゃないボクの背をポカポカと殴ってみてもすり抜けてしまってポカポカどころかスカスカだ。
ボクが一生懸命頑張っているのも無視して、彼はあらわになったトウコの肌に口をつける。
え、な、何してるの!?
かみついてるの!?トウコの肌、赤く鬱血しちゃったじゃないか!?
なんでそんなひどいコトするの!?
ってうわぁ、な、なんで、トウコの前で服を脱ぐのボク!?
ゲーチスが『あなたは王なのだから、人前であまり変な行動をしちゃダメですよ!』言っていたでしょ!?
ぱ、ぱ、ぱんつまで脱ぐのは変な行動だよね!?
………あれ?ボクのと、違うような…。
なんて言うか、赤黒くて…ボクのアレよりも、ゲーチスのアレに近いかもしれない。
というか、ボクのより大きいよね?小さい頃に見たきりだけど、ゲーチスのよりも大きくない?
ここがさっきの仮定の通りのパラレルワールドだというのなら、ボクも、あの時トウコに勝っていれば、あんなに大きくなったのかなぁ…?
って、今はそんなことを考えてる場合じゃなくて!!なんで、そのおっきいのをトウコに近づけるの!?
あ、だめだって。そんなの、トウコにくっつけちゃ…!!?
は、入っちゃったよ!?トウコ、苦しそうだけど、ソレ、いれていいの!?
だめだよね!!?そんなの、いれちゃ、だめに決まってるよね!?
トウコ、すごくつらそうだよ。もう、やめてよ!
「っう、え、えぬぅ!!っは、おねが、えぬ、なかは、おねがい、中は…っ!!」
と、トウコのこんな表情、初めて見た。
ボクの知ってるトウコとは全然違うけど、すごく、かわいい。
熱に浮かされた顔、涙で潤んだ瞳、なんだかわからないけど、すごく、抱きしめてあげたい。
ボクじゃないボクは、狩りをするレパルダスのような眼をしてトウコを見つめていた。
彼はボクであってボクじゃないけど、ボクってあんな顔もできるんだ…。
なんて言うんだろう?飢えた獣のような目?っていうのかな?
言い方を変えれば、意地悪そうな目。弱った獲物をいたぶって楽しむ獣の眼だ。
だから、いやな予感がした。
「中は…何?いっぱい、こども、つくろうか、トウコ。」
「ぁあっ!!」
「や、やめてーーー!!」
自分の悲鳴で目が覚めた。
あんな怖い夢、もう見たくない。
ボクが、トウコにあんなひどいことをする夢なんて…。
………バイバニラはボールに戻ったのか。
ちょっと布団が湿ってるんだけど。
下半身がひやひやするのはそのせいかな…。
ふと、そちらのほうを見ると、そこにはまさかの光景があった。
「え、ちょ、ぞ、ゾロアーク、何してるの!?」
ゾロアークが、ボクの、ズボンと、パ、パンツを…。
『あまり大きい声を出すな。ほかのやつらが起きるぞ。』
「んー!?ちょっと、どこ、さわってるの!?そ、そこは…あっ!!」
ゾロアークの手が、ボクをさする。
『……知識はないくせに無駄に敏感なんだな。』
「え、や、やだぁ!そこは、さわっちゃダメ!」
『ならば、この姿なら、どうだ?』
そういって、ゾロアークは自らの特性イリュージョンを発動させた。
ゾロアークはたまにボクやプラズマ団の人に化けていたずらをすることがあったから、きっと今回もその延長線上なんだと思ったのに…。
ボクの目の前にいるのは尻尾をはやした女性。
焦げ茶色の髪をポニーテールにして、ノースリーブにホットパンツの女の子の姿をしたゾロアークだった。
「な、な、なんで、トウコの姿に化けるの!!?」