「あらあら、可愛らしいこと。でも、この私にはかなわなくってよ!」  
二匹倒してあと一体。控えの仲間もいる。チラチーノは余裕な笑みを浮かべて相手のポケモンにそう言った。  
そして歌を歌い出す。  
「それは可愛さで?強さで?」  
にっこりと微笑むそのポケモンは瞬く間に身代わりを繰り出していた。  
自分の歌をかわされた事を不服に思いながらも以前余裕なチラチーノは、  
あら、以外に素敵な笑顔ね、なんて思いながら答える。  
「そんなの、両方に決まって…!」  
スイープビンタが4回も当たったのに身代わりが解けない。  
「ボクの仲間になって頂いたよ?」  
「!」  
言われて初めて自分の力が変わっていることに気付く。  
そしてうまく道具が使えない。  
「キミはテクニシャン。ボクは不器用。全く正反対だね」  
「そん、な」  
「こんな素敵なお嬢様を傷つけるのは本意ではないけれど」  
肩をすくめるポケモン。形勢はあっという間に逆転していた。  
恐ろしく、美しく、鮮やかに。  
相手は集中力を高めている。やっと身代わりを崩したが、そこには右腕に力を溜めたポケモンが構えている。  
「なにそれ、虫酸が走るわ」  
「ふふ、残念」  
まだ負けないもの。そんな目で強く、そのポケモンを射抜く。  
そのポケモンは少々驚いたような、頬を染めて歓喜するように。  
力強く、チラチーノを殴った。  
 
 
ああ、屈辱ね。  
悔しいわ。  
 
 
 
ポケモンセンターで目覚めて、チラチーノはぼんやりと天上を眺める。  
電脳の世界で戦ったあのポケモンは強かった。驚く程に。  
「落ち込んでいる?」  
語りかけたのは同じ仲間のシャンデラだ。  
「いいえ、思い出していたのよ。あのポケモン、なんて名前なのかしら」  
「……会いたい?」  
「まさか、あんな気障なやつ!!!」  
「怒るなんて珍しい」  
「そ、そうかしら」  
いつも通り、けらけらと笑って見せたがシャンデラは怪訝な顔をして自分を見た。  
「な、何よ」  
「いるよ」  
「へ?」  
シャンデラが炎を揺らす。慌てて振り向いて、チラチーノは思わず自分のスカーフを踏んでしまい足を滑らす。  
「おっと」  
それを受け止めるポケモンがいた。  
「大丈夫かい?」  
「は、あ、あんたぁ!」  
その柔らかな毛並みを押しのいて、チラチーノは一歩下がり指を指す。  
「どうも、先ほどは失礼を。ボクはミミロップ。君たちの仲間となりました。以後お見知りおきを」  
それは優雅なお辞儀だった。  
 
話を聞けば、先ほどの対戦はイッシュ地方で初めて憶えた技のテストを含まれてやっていたらしい。  
元はシンオウから来ていたポケモンで、今回このポケモンを是非ミュージカルに!  
という、ミュージカルをこよなく愛する主人の元に来たらしい。  
「このミミロップはね、シンオウのポケモンコンテストっていうポケモンの魅力を競う大会で、3つもマスターランクを穫っているのよ」  
コンテスト?そんなの聞いた事ない。  
「全部で5つある部門の半分以上なんてすごいじゃない!」  
自分だったら全部とる自信がある。  
「バトルも強いし!」  
実際会ったら50レベルで自分より低いし。  
「凄いわよねー!ミミロップ!」  
すごくない。むかつく。  
 
チラチーノはミュージカルホールで主人と並んで、ミミロップの演技を見ている。  
参考になるだろうと、主人がそう言ってここにいる。  
演目は男性向けのもので自分が苦手としているものだった。  
頭には白いハット、白いマントに薔薇とステッキを持って、大きな耳をふわりと揺らしながら踊っている。  
なによ、すかした顔しちゃってさ、場慣れしすぎよ。  
チラチーノは思う。音楽に合わせてステッキを振るタイミングも完璧だ。  
どんな歓声にも怯まず、堂々としている。  
演技も終盤。いつ、薔薇を投げるのか。  
抱きとめられた時思ったけれど、ミミロップの毛並みは美しい。  
それはシンオウにあるポケモンの菓子、ポフィンによるものだと言っていた。  
見ていて綺麗だ、うっとりしてしまう。目が離せない。  
ふと、踊っていたミミロップと目線があう。  
いや、そんなの嘘だ。こんな大勢の観客の中自分を見つけられるはずがない。  
そう思うが、ミミロップは目線を外さないままそれは極上の笑みを浮かべた。  
チラチーノは全身が熱くなる。  
赤い薔薇が放たれる。大きな歓声にミミロップは一つウインクをして、高らかにジャンプしポーズを決めた。  
「ばっかじゃないの!」  
憤慨する。チラチーノの手にはたった今投げられた薔薇があった。  
舞台裏に戻ると主人や他に演技した人達と主催者が話していたので、渋々ミミロップを迎える。  
「お疲れさま」  
「ありがとう、どうだった?」  
「どうもこうもないわ。完璧よ」  
「キミにそう言って貰えるのが一番嬉しいな」  
「そんな歯の浮くような台詞言わないでくれる?」  
「酷いな。傷つくよ」  
本当に傷ついたような、困った顔を浮かべたミミロップにチラチーノは心が軋んだ。  
一方的に罵っているのは自分だ。ミミロップは確かに、何も悪い事はしていないのだから。  
「……そうね、ごめんなさい。私あなたに嫉妬してるんだわ」  
「嫉妬?」  
「ええ、強くて、ミュージカルも完璧。余裕たっぷりで、私の自信が崩されてくのよ」  
正直な心。  
「そうかな。キミにはそう見えるかもしれないけれど、余裕なんてないんだよ?」  
これも、正直な心。  
「どうかしらね?」  
そう言ってチラチーノはニヤリと笑ってミミロップに薔薇を差し出す。  
「酷いな」  
ミミロップは肩をすくめてそれを受け取った。  
今度は笑っていた。それが嬉しくてチラチーノも笑った。  
 
それから暫く時間が過ぎて。ミュージカルホールの試着室。  
「んーんー決まらないなー」  
主人が目をこすりながら衣装と睨めっこしている。こんな状態がもう二時間は続いているのだ。  
時計の針はもう夜の11時を回る頃で。辺りに人はいない。  
24時間開いているホールとはいえ、こんな時間に開催されるわけもなく貸し切り状態だ。  
しかし、チラチーノとミミロップは主人とは反対に衣装選びに熱心に取り組んでいて、主人は置き去りに二匹で話を進めている。  
「んー、まだ?」  
「まだです」  
「まだよ」  
言葉はわからないが首を振ることで主人には伝わる。  
「…あのさ、私、エントランスで仮眠するから。二人ともさ、貸し切り状態だし、好きなだけやっててよ」  
「そうね、主人は休んだ方がいいわ」  
「わかりました」  
二匹は頷く。主人はジャローダを出す。  
「添い寝よろしく」  
主人がジャローダに言う。  
「あ、いつも私の役なのに、ごめんジャローダ」  
「構わん、いつもお前に頼ってばかりだ。時々は好きな事をするのもよいだろう」  
「ありがとう」  
そうして一人と一匹はその場を後にする。  
「…いつも添い寝を?」  
「ええ、私の毛並みいいでしょ?主人、毛布蹴っちゃうのよ。毛布変わりね。ジャローダのベットはゆったり眠れるとも言ってたわ」  
「もしかして、ボクたち寝具?」  
「あんたもその毛並みなら一回添い寝したら毛布決定よ」  
「あ、でも、ボクは基本ボックスだし」  
「私も最近ボックスにいる事が増えたわ。電車に乗るにはいろんな種類のポケモンがいるみたいね」  
「乗ったよ。あそこ強いポケモン多いね。やけに苦手なの出てくるし。ボックス、寂しくないかい?」  
「ほら、あたし達ミュージカルの担当で、基本セットみたいじゃん?」  
「うん?」  
「だから、寂しくないわよ」  
淡々と、意識はアクセサリーだったから。  
気付いて、顔を上げた時自分は全身熱くて、ミミロップは微笑んでいた。  
「嬉しいよ」  
「は、いや、これは」  
「はい」  
そう言って渡されたのは赤い薔薇で。  
「このキザロップ」  
チラチーノは一人ごちった。  
 
そうして、また、もくもくとアクセサリーの組み合わせを選ぶ作業に戻ったのだが。  
「………」  
気まずい。気恥ずかしい。なんであんなことを言っちゃったんだよ。  
全然手が動かないチラチーノにミミロップが言う。  
「魔法が解ける前に寝る?」  
「え?」  
「ほら、もう12時回っちゃうから」  
「なんで、魔法…」  
「だって、今日のチラチーノは一段と可愛いだろう?ボクに魔法をかけたんだろう?」  
「はぁ?」  
なに言ってんだこいつ。  
なんで嬉しいんだ私。  
 
「あんたのために、ガラスの靴なんか落とさないわよ」  
「じゃあ逃げないでよ」  
「解けるわよ?魔法」  
「構わないよ」  
暫く間があった。少し考えて、ミミロップはチラチーノに言う。  
「キスしていい?」  
「嫌」  
「じゃあ、抱きしめさせて」  
「嫌」  
「そのスカーフに触るのは?」  
「…仕方ないわね」  
そうして近寄ったら、スカーフに触られて、抱きしめられて、キスをされた。  
触れるだけの、優しいものだ。  
「魔法、解けないよ」  
「一生かかってれば?」  
「残酷だなぁ…抵抗しないの?」  
「私はそんなに馬鹿じゃないのよ、坊や」  
余裕たっぷりに微笑んで見せる。すると面食らったようにミミロップは硬直した。  
「あんたのそんな顔が見れるなんてね」  
けらけら笑う。すると力任せに押し倒される。背に衣類系のアクセサリーが積み重なっていて、痛くはない。  
「うん。そうだよ。ボクは言った。はじめから余裕なんてないんだよ」  
「はじめ?」  
「キミと、会って、ボクを射抜いたあの時から。ボクはキミに必死だよ?」  
「…あんた、クドいのよ。それに軽く見えるわ。あんなにキザで完璧にやってると、女は信用できないのよ」  
「どうすればいい?」  
「今のでちょうどいいわ。あんたの素を、ちょうだい」  
ミミロップを抱きしめる。優しい口づけ。  
12時はとうに過ぎていた。  
 
キスは、優しい物から、激しいものへと変わって行った。  
唇を啄んでいたものが口を開き、舌をお互いに少しだけ触れさせて、そしたら片方が容赦なく侵入して。  
歯の裏を舐めて、逃げる舌を追いかけて、動く頭を抑えて、口からよだれが流れて、吐息だけが大きくなって。  
その濃厚で痺れるような感覚に、チラチーノは酔う。  
ああ、今から、このひとに抱かれるんだ。そう思うと途端に恥ずかしくなって力が入った。  
「さっきまであんなに余裕だったのに」  
ミミロップがチラチーノの体を撫でる。キスで火照った体にそれは甘く響いた。  
「ん、しょうがないでしょ…はじめて、なんだから」  
「え?そうなの?」  
ものすごく嬉しそうなミミロップが憎たらしくて、悪態をつく。  
「ばーか!うそ!!うそだからひゃんっ」  
その途中で尻を撫でられた。  
「ボクは今世界で一番の幸せ者だね」  
「あんた馬鹿よね、ぜっ…」  
唇を指で軽く叩かれた。  
「ボクも初めてだから、でも、優しくするから。少し、黙って?」  
そう言われて唇を重ねた。そのまま、舌が再び侵入してくる。  
あの、甘い感覚はだめだ、なんだか知らないけど。おかしくなる。  
しかし、今度はそれと同時に背中を触られる。  
キスと相まってぞわりとした。  
なんだこの腰に響く感覚は。わからないまま、唇が解放されて、必死で空気を体内に取り込む。  
ミミロップの顔が今度は首の方に移動して、スカーフに隠れた首筋を舐められる。  
すると口からは空気を入れるより言葉にならない音を発する仕事を始めた。  
「ん、なに…?これぁん」  
執拗に攻められ、チラチーノは体を強張らせる。  
「可愛いよ」  
欲しい答えではなかったけれど、その声色と甘さで、とろけてしまいそうだ。  
ミミロップはそのまま、チラチーノの毛で隠れた乳首をまさぐる。  
固くなって主張するそれは簡単に見つけることが出来た。  
上の歯と舌ではさんで、下からぺろりと何度も舐める。チラチーノはその度に切ない声を出して鳴いた。  
開いてる方は手で摘む。優しくするより、指で弾いた方が反応が良い。  
体は熱くて、なぜだかもどかしい。中心が濡れているのがわかって、チラチーノは羞恥でさらに気分が上がる。  
気付かれたくない。気付いて欲しい。そんな想いの中、ミミロップが胸を解放した。  
そして、チラチーノをうつ伏せにし、体をずらした時に右足が股に当たる。  
べっとりと、快楽で溢れたそこに触れたミミロップはとても嬉しそうに、そしていやらしく微笑む。  
チラチーノにはミミロップの表情は分らない。けれど気配は感じる。尻に固いものが当たってドキリとした。  
「あ…やだ……よ」  
「怖い?」  
「じゃ、なくて…」  
「これが、入るんだよ?」  
「そんなこと、いうもんじゃないわよぉ」  
「ふふ、可愛い」  
「…あなた、私で興奮してるの?」  
「キミの、今の声を思い出すだけでいけるよ。それに」  
右手が下に降りていく。  
触られると身構えたが、ミミロップは溢れ出しているそれを絡めながら、中心の周囲を撫でた。  
 
「やだぁ…やめて」  
チラーミィは言うが止める気配がない。  
「これで、興奮しない奴はいないよ」  
ぬぷり、と指が侵入した。  
「あ、ああっ」  
そのままくいっと、間接を曲げる。  
「ん、あ」  
曲げた指を戻して引き抜く。  
「あんっ!」  
ミミロップは満足そうに微笑むともう一度指を押し入れて、今度は容赦なく中に刺激を与えた。  
出し入れをしては溢れ出る液体とひくりと動くそこに、自分が絡みとられているのだと理解する。  
…ここに欲望を押し入れたらどうなるのか。  
そう思った瞬間に、衝動が走って押さえられない。こんなにうずくものなのか。  
ぐちゅりという音と共に引き抜かれた指。  
チラチーノはただ、体が熱い。こんなに自分が熱望されていること等、知らない。  
「入れたい」  
「…うん」  
互いに余裕はなかった。ミミロップは自身のそれをあてがう。  
「いいかな?」  
チラチーノは答えず、しかし、小さく頷いた。  
そうして入ってくる、指とは比べ物にならない異物。  
痛みと、彼を思う心が平行する。思わず苦痛の声を漏らしたら、後ろから包まれるように抱きしめられ、背中にキスを落とされた。  
そうやってゆっくりと進み、気付けばチラチーノのそこはミミロップの欲を全て飲み込んでいた。  
それからはあっという間だ。引き抜き、打ち付けられる。それの繰り返し。  
うねるように欲はチラチーノの中をかき乱し、チラチーノは悦びで声を上げる。  
中から溢れる液体は止まることを知らないまま白く泡立ち糸を引く。  
腹が、自分のものではないみたいだ。突かれる度にごぽりと音がなる。  
ぬちゅぬちゅと粘りある水音。音にまで犯されるなんて知らなかった。  
でも、自分が獣で良かったと心底思う。後ろから貫かれるから。  
「よ、かった…」  
「ん?」  
「この、たい、せい…あん、なら」  
「なんだい?」  
「かお、みられ、なあぁ」  
ああ、快楽に溺れた表情を見せたくないのか。  
ミミロップは理解する。  
必死過ぎる彼女には見えていないのだろう。  
試着室であるこの場に。  
自分の前方に見える大きな鏡を。  
「そうだね。残念」  
 
ミミロップはチラチーノの耳元で言って、更にその大きな耳を甘噛みした。  
そして一気に根元まで自分のそれを突き刺す。  
チラチーノは背を弓なりにし、快楽の悲鳴をあげて、瞳から生理的な涙を零した。  
その必死な様子をしばしじっくりと堪能する。  
そのまま激しく突いていたら、今度は口からだらしなくよだれが垂れた。  
もう一度強く打ち付けたらチラチーノは嬌声を上げ、全身の毛を逆立てる。  
そして、そこは一気に閉まり、白濁色の液体が溢れ出した。  
「うわ…」  
持って行かれそうになる欲望を留めるために、ミミロップは動きを止める。  
「は、あ…」  
チラチーノはぐったりとして動かない。鏡に映る表情は恍惚に満ちていた。  
その様子に満足して、ミミロップはチラチーノに悪魔の囁きを与える。  
「…チラチーノ、見えるかい?」  
「な…に……!?」  
ミミロップに促されて顔を上げたチラチーノは硬直する。  
そして、そこがもう一度閉まり、ひくりと動いて、またじわりとした。  
ミミロップの笑みはしごく極上。  
ああ。  
その表情。  
その反応。  
たまらない。  
 
精神の絶頂を迎えたミミロップはそれを味わいながら体の快楽を貪るように再びチラチーノに欲を打ち付け始めた。  
再会された波にチラチーノは喘ぐ。先ほどよりも体を震わせている。  
でもわかる。それは絶望からではない。快楽からだ。  
理由は簡単。チラチーノの見つめる先は鏡に映し出されたミミロップなのだから。  
鏡を通して互いを見つめながら、鼓動が加速する。  
そして迎える。  
「チラチーノ…」  
「――ん」  
そうして、ドクンと。  
脈。  
ドプリと、そこに注ぎ込まれた欲望。  
受けきれずに溢れてきて、ボタボタと床に垂れた。  
勢い良く引く抜く。そこと、まだ大きなままな自身の先が白濁食の液体で繋がった。  
そして、ごぽ、という音と共にチラチーノのそこからねっとりと欲が溢れ、だらしなく流れる。  
「気持ちよかった?」  
ミミロップはチラチーノを仰向けにして、自分の膝に乗るよう移動させた。  
チラチーノはその体勢のまま顔だけ背け、ミミロップの手を強く、優しく握った。  
 
 
 
 
「……ごめん」  
「…………ま、私も誘いに乗っちゃったし」  
早朝。二匹はホール内にある、人間用のレストルームにいた。  
ミミロップはエプロンを手で洗っている。  
「まさか、あんなにチラチーノが」  
「私じゃなくてあんたが出したもんでしょ!」  
「いや、これは」  
「おだまり!」  
ぴしゃりと言って濡れたアクセサリーをエントランスに持って行く。  
「悪いわね、シャンデラ」  
エンロランスの橋にはロープが吊っていて、白のマントがかかっている。  
その下にはシャンデラがいて、マントを乾かしていた。  
「二枚でいいの?」  
「え、ええ。他は大丈夫だったわ」  
二人は、事情中汚してしまったアクセサリーを洗い、乾かすのをシャンデラに頼んだのだ。  
「………これは君たちの宝物」  
「そうだけど」  
ミミロップがエプロンを干している。  
「白でよかったね」  
二匹はギクリと肩をゆらす。  
「な、なにいってんのよ!ここれは演技の練習中に!!」  
「ぼ、ボク、他のアクセサリーしまってくるよ!」  
「ちょ!あんた!」  
文句を言う前にミミロップは逃げてしまった。チラチーノは仕方なく白いマントを見つめる。  
「チラチーノ」  
「なによ」  
シャンデラの炎は優しく暖かい。  
「よかったね」  
「…………うん」  
日はゆっくりと顔を出している。  
「ね、あの」  
「片付けてきなよ」  
「………うん!ありがと」  
シャンデラにお礼を言って、チラチーノは駆け出した。  
彼の胸元に飛びついてやりたい気分だった。  
抱きしめて、キスをして。  
ちゃんと言葉にして伝てやるんだから。  
光栄に思わないと容赦しないのよ。  
 
 
 
おしまい  
 
 
 

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