濃い朝靄のかかった平原に、一匹の甲高いポケモンの鳴き声が響く。  
先が二又に割れた長い尾に、着物の如き長い振り袖のようなものが付いている腕。  
これまた二又に割れた髭に、赤い瞳が特徴的な、白と紫を基調としたポケモン、コジョンドだ。  
二足歩行に適した、しなやかそうだがしっかりとした足で、すとーん、すとーんと軽く跳ねて、近場にある巨木との距離を調整しているらしい。  
歩幅にして十歩分ほど離れて、姿勢を低く取る。腰を屈めて、右足を立ち膝に、もう片足を背後に伸ばす。  
地面についた両手にぐっと力を込め、一気に駆け出すと、勢いを殺さずに目標へと『とびひざげり』を叩きこんだ。  
朝に立てる音に相応しくない雷が落ちたかのような衝撃音が辺りに鳴り響き、留まっていた小さなマメパトが数匹、慌ただしく空の彼方へと消えていった。  
技をくらった、自分の身体の数倍の太さはあろうかという木はゆさゆさと揺れて、枝が地面へと無数の葉を落とす。  
コジョンドは自分の放った技の威力が確かなものであることを得意げに眺めていた。  
ここまでは普段通り。だが、このコジョンドは特殊系の技が大の苦手だった。  
この種族は特殊攻撃もそれなりに得意としていて、コジョンドも威力にはあった。  
しかし、生来の性格から集中力を保つのが苦手だったため、技の発動がうまく決まらないことがしばしば。  
戦いにおいて苦手だのと言っていると直接生命の危機に関わるので、いつもこうして朝の訓練に精を出しているのである。  
今日こそはうまく行くように、とコジョンドは祈りつつ、目を瞑り集中力を高めた。  
体内を巡る「波導」と呼ばれる生命力の流れを一箇所に集めるイメージで身体に力を込める。  
すると、両手の間に青白い光弾がぼうっと浮き出てきて、圧迫されるような確かな存在感を手中に感じる。  
うまくいった、と胸中で両手を上げつつ、集中を切らさずにそのままの姿勢を保つ。  
さらに力を込め続けると、徐々に輝きを増し、大きさもマルマイン大に膨らんだ。  
そして、かっと目を見開き、無人の湖の方向に『はどうだん』を放つ。  
威力と速度を保ったまま、青い球体が、霞む湖面へと吸い込まれていく。そして。  
「あ、れ……?」  
コジョンドは間の抜けた声を上げる。  
何故か自分の放った『はどうだん』が何かに命中し、彼方から炸裂音が響いて来たのだ。  
何も見当たらない湖の、しかも上方向に放ったのだから、誰かに当たるはずはないと思っていたのだが。  
鳥ポケモンにでも当たったのだろうか。何せ靄が濃くてよく周囲が見えない。  
タイプ的な問題で鳥ポケモンはなるべく相手にしたくない。が、好奇心が勝って、湖へと自然に足が動く。  
そろり、そろりとつま先立ちで歩を進める。朝の冷たい空気が、緊張感をさらに煽りたてる。  
 
湖面に自分の顔が見えるぐらいの距離まで来ると、コジョンドは漸くその姿を目にする事が出来た。  
と同時に、自分の好奇心を今後は滅しよう、とすぐに後悔した。  
靄の中から、空を見上げるほど背の高い、蛇や龍にも似た蒼い身体がぬっと現れる。  
きょうあくポケモンのギャラドスだった。  
丸太数本を束ねたよりも太い胴体に、何でも丸呑みに出来そうな口には鈍く光る白い牙。そして自分と同じ赤い色ながらも写っている感情がまるで異なる瞳。  
全身のどこを見ても凶器になりそうなその体躯に加えて、鬼神の如く怒りに燃えている顔には若干焦げたような痕が付いていた。  
もしかして、いや、もしかしなくても自分の仕業だろう、とコジョンドは顔を青ざめさせる。  
タイプの相性問題だけではなく、絶対に勝てない相手だろうと瞬時に判断出来た。  
今すぐ逃げなければ、と思っていたが、憤怒の化身のようなギャラドスの瞳に射すくめられて、足が動いてくれない。  
影が自分に落ちてくるほど近くまでくると、ギャラドスが口を開く。  
「おい、どういうつもりだ? 朝から気持ちよく寝てるってのによお……」  
低い、湖の底から響いてくるような声に、頭の中はパニック寸前だった。  
尻尾は地にぺたりとくっついてしまっているし、腕や髭が震えて落ち着かなかった。  
こういう時は、ひたすら謝るに限る。  
「ご、ごめんなさい! でも、わざとじゃないんだ! そ、それに、タイプ相性的にもそこまで効いてな……」  
と、そこまで言ってしまって自分の失言に気付く。  
その一言が、よほどギャラドスの逆鱗に触れたらしい。  
ギャラドスは、自分の髭の震えとは性質が真逆の震えを起こして、蒼い顔にはまさしく青筋を浮かべていた。  
「ふざけてんのかてめぇ! 生きて住処に帰れると思うなよ!」  
湖面に波紋が立つほどの咆哮を上げて、ギャラドスが水面から身を乗り出させる。  
耳がビリビリと揺れるほどの轟音に、思わず両手で耳を覆ってしまう。  
こうなってしまってはもう説得も無駄だし、逃げることもおそらく叶わないだろう。  
観念したコジョンドは震える身体に鞭を入れて、腰を深く落とし、腕を前に突き出した。  
「一丁前に構えなんて取りやがって、俺に敵うと思ってんのか!」  
ギャラドスは吠えると同時に、大きく開けた口から『ハイドロポンプ』を放つ。  
水流はコジョンドの身体よりも太かったが、幸いスピードは目で余裕を持って追えるほどのものだった。  
素早さに自信のあるコジョンドは地面を軽く蹴って後退し、それを難なくかわした。  
命中した地面の草は抉り取られ、その威力の程が十二分に判断出来る。  
「そんなスピードじゃ、いくら撃っても当たらないよ!」  
それでも、今の攻撃が予想より大したことが無かったのか、コジョンドは若干の余裕を持ってギャラドスを見上げる。  
 
対するギャラドスは、無礼なコジョンドに既に怒りの臨界点を通り越していたのか、  
「そうか、もっと早い攻撃がお望みか……」  
と、にぃっと音がするぐらいに不気味な笑みを浮かべコジョンドから視線を外し、そのまま天を仰ぐ。  
戦いの合間にそっぽを向くとは何事だとコジョンドが訝しげに見ていると、ギャラドスは胴体から尾びれまで、身体全体を湖から浮かび上がらせた。  
一瞬コジョンドへと視線を投げかけて自信ありげに笑うと、ぐねぐねと8の字を書くように空中で身体をうねらせ始める。  
まるで何かの舞を踊っているかのような複雑なその動きに、コジョンドは一瞬戦いも忘れて見入ってしまう。  
『りゅうのまい』と呼ばれる、自身の速力と筋力を同時に上げる技である。  
コジョンドはしかし、技の知識に乏しかったので、これをただの攻撃のチャンスとしか見ていなかった。  
両腕を軽く引き、先刻と同じように技の構えを取る。先程成功した『はどうだん』を、今度は加減せずに撃ち込もうとしている。  
数秒の精神集中の後、波導を帯びた光がコジョンドの手中に装填される。  
未だに踊り続けているギャラドスの存在を波導の力で感じ取りながら、その気配へ向かって渾身の力で撃ち出した。  
例え空中にいようと靄に隠れていようと、『はどうだん』は決してその狙いを誤らない。意思を持っているかのように弧を描き、そのまま長い胴体部分へと命中した。  
青い爆発が巻き起こり、ギャラドスの姿が煙で一瞬隠される。  
コジョンド渾身の出来栄えだったので、風穴の一つでも空いているかも、と期待を込めていた。  
やがて、もくもくと立ち込めた煙が引くとギャラドスは再び姿を見せる。  
「そんなっ……!」  
風穴どころか、今度は焦げ跡すらついてない。さっきはあの程度でも当たり所が良かったというのか。  
心底馬鹿にしたような表情でコジョンドを見下し、ギャラドスは空に浮かんでいる。  
「相性も分からない馬鹿には、ちぃっと躾してやらねえとなあっ……!」  
そう言うが早いか、蛇のようにしなる胴を真っ直ぐに伸ばしてコジョンドへと襲いかかる。大口を開き、白く光る牙に冷気を纏わせる『こおりのキバ』。  
早い。素早さではギャラドスを一回りも上回るコジョンドだが、気が付いた時には深い喉の奥が覗けるほど恐ろしい顔が目前に迫っていた。  
考える間も無く両足に力を込め、だんっと地を蹴りあげ空中に身体を逃げ出させる。  
そのまま数メートルほど飛び上がったが、ギャラドスは跳躍を読んでいたらしい。  
コジョンドの眼前に白と青の尾先が先回りして退路を阻んでいた。  
ギャラドスはそのまま尾をコジョンドの足元に滑り込ませ、ぐるりと身体を一周させる。  
空中にいて身動きが取れないコジョンドは成す術も無く、そのまま全身を蒼い胴体に巻き付かれてしまう。  
水中で暮らすギャラドスの胴体はぬるぬるとしていて、濡れた鱗からは生臭い匂いがした。  
コジョンドはそれらを我慢しながら必死に逃れようと、絡みつかれている腕や足をばたつかせようと抵抗する。  
が、微塵もギャラドスの身体を動かすことが出来ず、むしろさらに動きが制限されていくようだった。  
地に足が付いていない状態では力が入れ辛く、滑る体表がさらにそれを助長している。  
コジョンドは元々ギャラドスと同程度の攻撃力を持っているが、『りゅうのまい』で攻撃を上げているギャラドスにはさすがに敵わない。  
そして、敵を委縮させる特性『いかく』の効果でさらに攻撃力には差が開いていた。  
総じて、この状況から脱出することは不可能だった。  
力を込めても無駄と悟ったコジョンドの表情に疲労と諦めの色が浮かぶ。  
そんなコジョンドを巻き付けたまま、ギャラドスは表情がよく見えるように尾を目の前まで持ってくる。  
 
「スピードと力が自慢のポケモンが捕まるたぁ、情けねえなあ、おい?」  
「うるさい、不細工な蛇!」  
ぎりっと唇を噛みしめ、勝手に口が開いてしまう。絶望的な状況でも、自分の誇りを馬鹿にされたら堪らない。  
しかし、野生で長く生き残るにはとことん不向きな性格であった。  
「そこまで言うからには覚悟出来てんだろうなあっ……!」  
ギャラドスが全身の筋肉に力を込めると、コジョンドの身体が一斉に悲鳴を上げた。  
万力のような太い胴体がわずかに軋むたびに、想像を絶する痛みが襲いかかってくる。  
本気を出せば一瞬で全身の骨を砕くことが出来るが、その程度では腹の虫が収まらないのかゆっくりと甚振るように締め上げている。  
コジョンドは骨が折れるか折れないかの境目の激痛に声を上げずに耐えている。白い息が断続的に口から漏れ出ては朝靄と同化していく。  
ギャラドスは、コジョンドが呼吸をする度にそれに合わせて徐々に締め付けを強め、肺の空気を絞り出しにかかった。  
呼吸をしているのに逆に苦しくなって、赤い瞳が混乱に染まりせわしなく動き回る。  
コジョンドの表情から急速に生気が抜け落ちていき、ギャラドスの蒼さが伝染ったかのようだ。  
もう、ダメ、だ、と、ふっと意識を手放す寸前に、不意に拘束が緩まり全身に酸素が回る。  
「…………?」  
息も絶え絶えにコジョンドが無言でギャラドスを見上げた。  
「声を押し殺して耐えてるのもいいけどよお、やっぱり悲鳴も聞きてえんだよなぁ」  
ひぃっ、と小さく悲鳴を上げ身体を強張らせる。  
ギャラドスはその表情を見届けると、巻き付いている箇所より上の身体をぴんと真っ直ぐ伸ばし、天を仰ぐ。  
そして盛大に吼え猛ると、持てる力の全てを出して締め上げた。  
「うあ、あああああっ!」  
先程の呼吸を封じるものとは違う、骨を砕く締め付けに、コジョンドはついに悲痛の叫びを上げる。  
細い胴体、手足のコジョンドの身体が耐えきれなくなるのに長い時間はかからない。  
みし、みしと鈍い音が辺りに響くたび、コジョンドは身体の一部が再起不能になるのを感じた。  
呻き声を上げると同時に、喉奥から鮮血がこみ上げて来て湖を赤く染める。  
やがてギャラドスは、平時なら容易に逃げ出されるほどにまで力を抜く。  
しかし、巻きこまれた胴体にいるのは、足が不自然な方向に折れ曲がり、腕は力無く垂れ下った状態のコジョンドだった。  
身体に残る太い間隔の痣が、締め付けられた力の強さを物語っている。  
ギャラドスの顔が上から降りてきて、コジョンドの身体を嘗め回すように眺める。  
「おい、生きてるか?」  
伝わってくる体温や鼓動からそれぐらい判るはずだが、弄ぶように言葉を投げかけ、身体を軽く揺すった。  
「うぅ……」  
「よく見りゃ可愛い顔してるじゃねえか。 んん?」  
尾先のヒレで頬を軽くなぞる。  
「こんな醜態晒しちまったついでに、もう一恥かかせてやるよ」  
 
刹那、身体を縛っていたものが解かれ、コジョンドは空中へと投げ出された。  
自由にはなったが、身に降りかかる重力だけで折れた全身を鈍痛が走った。  
そのまま湖へと落下していくコジョンドを巨体に似合わぬ速度でギャラドスが追いかける。  
あわや水面に届くかというところで再びギャラドスの身体がコジョンドを捕らえ、一周、二周と巻き付ける。  
胸と、口元が胴で塞がれて本能的に引きはがそうとするが、腕が言うことを聞かない。  
鼻はかろうじて無事だったので、何とか呼吸は出来るものの、声を上げることも出来ない。  
自分の血の匂いと、ギャラドスの体臭が鼻孔を付く。  
「お前、全身ばらっばらだなぁ。 せいぜい楽しませてくれよ」  
「……っ!」  
自由が利かない視線を少しだけ下の方へと傾けると、思わず声にならない悲鳴を上げる。  
ギャラドスの胴部分にある割れ目から雄の象徴が滾っていた。湖の水質とは異なる独特のぬめりを湛え、蒼い身体から主張するように突き出している。  
巨体に相応しい大きさで、今か今かと獲物を待ちわびるかのように血の通ったそれを震わしていた。  
コジョンドは必死に拒絶の声を上げようとするが、くぐもった声は早朝の静かな湖畔にすらまるで響かない。  
痛みを我慢しながら身体をよじったりしている内に、視界に入っている物が段々と自分の近くに迫ってくる。  
ギャラドスが巻き付けた胴体ごと下へと降ろしているのか、滾る一物をコジョンドへと近づけているのか、その両方か。  
頭上からは下卑た笑い声と共に、涎が顔へと垂れてくる。  
こんな奴に身体をへし折られ、挙句の果てに好き勝手にされるなんて。  
腕も足も動かせない。声も出せない。この状況から抜け出すことは出来ない。  
コジョンドが鼻をすすり、湖へと水滴を落とすも、ギャラドスを一層煽る材料にしかならない。  
ぴた、と本来の用途から外れた自らの穴へとギャラドスの雄がぶつかった。  
前後に軽く揺れ、粘質のある液体が周囲へと塗りたくられる。  
「初めてだろうからサービスだぜ……。 にしても入るのか、これ?」  
ゆらゆらとしていた一物がぴたりと止まり、そのまま一気にコジョンドの肛門へと突っ込んだ。  
「んぅっ!」  
びくんと身体が震え、全身が揺さぶられた感覚と共に、許容外のものを受け入れた激痛が襲う。  
すぐに耐えきれなくなった秘所からは血と先走りの混じった薄桃色の体液が零れ落ちる。  
再び湖が赤く染まるのをギャラドスは満足そうに見て、ゆっくりと奥底まで突き入れていく。  
骨が砕かれた時の激しさとはまた別の、じんじんと身体の芯まで響いてくるような痛み。  
さらなる苦痛を歯を食いしばってコジョンドが我慢していると、自分の身体がふと目に入る。  
巻き付かれていない下腹部が、長い蛇でも入りこんだかのように膨らんでいた。  
「へっ、ちゃんと収まるじゃねえか。 壊れても構わねえし好き勝手やらせてもらうぜ、つってももうほとんど壊れかけか」  
ギャラドスが身体を揺らして嗤う。それだけで振動が伝わり、内部の敏感な器官が刺激される。  
赤く血が滴る雄槍を入れた時と同じく少しずつ、反応を楽しみながら引き抜いていく。  
「――っ!」  
再度、腸内を擦れる感触が襲うが、今度は不思議と物足りないような虚無感があった。  
その感覚も一瞬だけで、直ぐに最奥まで満たされる。  
そこからはギャラドスは容赦が無かった。強化されたスピードとパワーでがつがつと貪るようにコジョンドの身体を弄んだ。  
痛みは耐えがたい。しかし、激しく突かれていく内に痛みとは別の、脳を直接刺激する快楽に似た感覚が生まれ始めていた。  
ギャラドスの一物から発せられる濃い雄の匂いもコジョンドの思考を徐々に奪っていく。  
何も出来ず、何も考えられず、唯々ひたすらに揺さぶられる。  
こんなことも悪くないな―――とありえない気持ちさえ頭の片隅に浮かびかけていた。  
「ぎゃぅおおおぉ!」  
そんなコジョンドの思考は、ギャラドスのひと際盛大な尾を引く吼え声ではっと霧散する。  
限界に達したギャラドスの性器がびくびくと動く度に、体内に熱い液体が注がれていく。  
ぬるま湯を目一杯注がれたような感覚と共に、下腹部がゆるやかな曲線を描く。  
身体は異物だと判断しているが、心ではそれを受け入れている不思議な感覚。  
幾度と無く脈動し子種を吐き出してコジョンドの腸内を満たし、ようやく中で暴れ回る一物が動きを止める。  
 
「ふうぅー……。小っせえ身体の割には気持ちよかったぜ」  
ギャラドスは終わりを惜しむかのように重力に任せて静かに下半身を引きぬいた。  
封を失い、待っていたかのようにどろりとした白濁液が流れ出て、湖へ音を立て落ちていく。  
コジョンドの肛門は広がったまま物欲しそうにして閉まらず、周りは体液で生々しく濡れていた。  
「どんな顔してんのかよく見てやるよ」  
ギャラドスは拘束を一段階解き、コジョンドの首から上を自由にする。  
行為の余韻に浸り、また肉体も疲れきっているのか、焦点があまり定まっていない様子のコジョンドを見下ろす。  
さっきまでの痛みは何処に行ったんだ、とでも言いたげな視線だった。  
「さて、と。しっかり味付けも済んだことだし、そろそろいただくとするか」  
「え……?」  
惚けた頭では何を言っているのかすぐには理解出来なかった。  
「朝っぱらから動いたから腹が減ったっつってんだよ」  
コジョンドは即座に反応してびくっと身を竦ませる。  
真っ赤な舌で舌舐めずりをしつつ何かを含んだ表情。  
これだけ痛めつけられ、穢され、もう解放してくれるのでは、と淡い期待を抱いていた矢先の絶望を投げつけるような言葉だった。  
「ゃ、や、やめ、やめて……よ」  
がくがくと唇が震え、中々言葉にならないが必死に声を絞り出す。  
まだ死にたくない。こんな所で誰にも気付かれずに喰われて死ぬなんて、絶対に嫌だ。  
「ああ、今日一番良い顔してるぜ……。寂しくないように下から喰ってやるよ」  
聞く耳を持たないギャラドスは、巻き付けたまま首を伸ばしてコジョンドの足元へと口を近づける。  
珠のような雫が頭上から降り注ぎ、ギャラドスの顔を濡らした。  
悲しみの結晶であるそれは、捕食者にとって単なる塩辛い味付けに過ぎない。  
自分が放った精と獲物の流す涙を味わいながら、ギャラドスは大口を開け最初の一口目を頬張った。  
コジョンドの足元がぬるっとした暖かい粘液にすっぽりと包み込まれる。まるで底なし沼に足を踏み入れたような感触。  
くちゃ、くちゃと唾液が立てる音が自分の身体から伝わってきて、少しずつ、少しずつ、身体が喉へと収まっていく。  
予め折られている足ではばたついて抵抗することも出来ず、ただ闇の中へ落ちていくのを待つだけである。  
刃の如き鋭利な白い牙が戯れにと太腿に三日月模様の傷を付けるが、身体の痛みは極度のショックで既に感覚外の出来事になっていた。  
飲みこまれてもすぐに死ぬわけではないが、この後体内で徐々に溶かされていく苦痛があるのをコジョンドは知っていた。  
そんな残酷な最期があるだろうか。いっその事さっき締め殺してくれたほうがましだったのに。  
胸の辺りまで中に収まり、泣きじゃくるコジョンドの目線がつとギャラドスと合った。  
敵を傷付け屠ることに一切躊躇しない目。敵を貶めて弄ることに喜びを覚える目。眼前の自分を食物として見ている捕食者の目。  
冷徹でありながら燃え盛る狂気を具現化した赤い瞳にはそれら全てが内包されていた。  
どうしてこんな相手の喧嘩を買ってしまったんだ。最初から敵う立場の相手では無かったんだ。  
唾液はとうとう首まで侵食し、あとひと押しで完全にギャラドスの胃袋へと直行するだろう。  
生温かい液体に包まれているせいか妙に眠たい。懸命にそれに抗い、コジョンドは最後の気力を振り絞ってもう一度ギャラドスの瞳に目を向ける。  
こいつの顔だけは絶対忘れない。いつか絶対、来世でもなんでもいいから復讐してやると強く心に誓いながら。  
そうして最後に現世で見たポケモンの顔は、やはり自分を嗤っていた。  
 
 
 

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