散らかった洗濯物。部屋に充満するアルコール臭。下半身剥き出しのダゲキ。ダゲキを見上げる少女。  
全国民の殆どがセックスに勤しむ性夜、こんなシュールな光景が繰り広げられる家庭はいったい幾つぐらいあるのだろう?  
 
 
「だ……ダゲキ?」  
 
 
無言のままのダゲキを心配して、チヒロが立ち上がった。  
やりすぎただろうか。  
いつもお堅くて偉そうなダゲキをからかおうとしただけなのに、わたしに翻弄されて恥じらうダゲキがなんだか可愛くて…ついこんなことを……。  
 
ひょっとしてわたしは、酒の勢いに任せてとんでもないことを……してしまったの…かな…?  
 
あれ? ひょっとしてひょっとして、これって『ポケモン虐待』……?  
 
 
酔った頭が一つの単語を叩き出したとき、すっと背筋に冷たいものが走る。  
今のチヒロには怒りのオーラを纏って立ち尽くすダゲキがこの世で一番恐ろしいもののように思えた。  
 
自分がされて嫌なことは人にしちゃいけない。そんなことは基本だ。  
よく考えたらろくに同意もとっていなかった!力で勝てる相手に逆らえないという屈辱を、誇り高いダゲキに与えてしまった!  
 
 
「ダゲキ、ごめんね!わたしなんてこと…! なんでもする、なんでもするから許してっ……!」  
 
罪の意識にとらわれたチヒロは、ダゲキの手をとってぺこぺこ頭を下げる。酔っているだけに自分の感情には素直でいられた。  
 
だがもう遅い。酔っ払いの良心が帰ってきた瞬間、すでにダゲキの良心はどこか彼方に吹き飛んでいたからだ。  
 
取られた手を取り返す。一秒。  
チヒロを背後のソファーに突き飛ばす。二秒。  
組み敷いてのしかかり、足を割ってその間に体を差し込む。三秒。  
 
 
「ダゲダーゲ……ゲダゲダー(そんなに見境なくオス漁りがしてーならやってやるよ)」  
「え」  
 
 
あっけにとられたチヒロのTシャツとカーディガンを左右に引きちぎる。四秒。  
自分の胴着も脱いで投げ捨て、部屋の隅に放る。  
 
ここまででわずか五秒。  
普段穏やかな心を持ちながらも、激しい怒りによって目覚めた今のダゲキには造作もないことだ。  
今のダゲキは自分の欲求に素直になった怪物だった。  
 
ようやく頭の処理が追いついたのか、チヒロがダゲキの頭やら背中をぽかぽか殴って抵抗するが、衣服の残骸がまとわりついてうまく動けない。  
そもそも人間の細腕でそんな抵抗をされても鍛えられた筋肉には何の痛痒も与えなかった。  
 
「やっ、やだ! やめてダゲキ! 確かにわたし何でもするって言ったけど、こんなの……」  
「……ダゲ、ダゲエ(浮足立ちやがって。いざという時脱がされてもいいようにこんなモン付けてたのか?)」  
「あっ!」  
 
どうせ通じあえない滑稽さを堪えながら、あえてポケモンの言葉で嘲笑う。  
露わになった下着を隠そうとしたチヒロの両手を、ダゲキは片手で難なく押さえつけた。  
 
洗濯を任されていたダゲキですら今まで見たことのない、黒いレースと美しい銀色の刺繍をふんだんにあしらったその下着は、おそらく今日のためにわざわざチヒロが用意したものだろう。  
どうせ今日だけでそこまで深い関係になるわけもないのに馬鹿な奴だ。  
白い肌によく映えるその黒も、今や自分しか見るものがいないのだから、本当に残念だとしか言いようがない。  
 
 
「ふっ……やあっ……」  
 
さしたる感慨もなくダゲキはブラジャーを押し上げて、ぷるんと飛び出してきた両の乳房に遠慮なくむしゃぶりついた。  
同居して一月ぐらい経ったころには分かっていたことだが、チヒロは細い体のわりにそこそこ大きな胸を持っていた。  
 
武骨な手で片方を激しく揉みしだく傍ら、もう片方の乳首には吸いついて、淡く色づいた乳輪を舌でなぞってやる。  
チヒロは面白いぐらいにあられもない声を上げ、その度息を詰めて「やめて」を繰り返した。  
 
 
「ダゲ?(オレがそう言ったらお前はやめてくれたか?)」  
「っうー……ダゲキ…ごめ……」  
「ダーゲッ(やめなかっただろう?気持ち良さそうだからって理由で、こんな風に続けたはずだ)」  
「痛ッ!ぁあ……」  
 
舐められてツンと立ちあがった乳首をつねる。チヒロは痛みに顔を歪ませたが、上げられた小さな悲鳴の裏に快感が滲んでいることをダゲキは知っていた。  
乳房を搾るように強く掴む。  
目を潤ませてもがくチヒロの首筋を舐め、胸や背中を撫でさする。  
性感帯をなぞられて仰け反る喉に食らいつく。  
 
チヒロが感情を高ぶらせているときの上ずった声で嬌声をあげるものだから、まるで泣かせているようで居心地が悪い。  
なに構うものか、こっちはもっとひどいことをされてんだ。  
 
みぞおちから臍の下までわざとらしく手で撫でながら下っていくと、チヒロは必死になってオレの腕を止めようとした。  
体が密着すると、未だ収まらないままの一物がチヒロの太ももや腹、衣服を隔てた性器にごつごつ当たるものだから、どうしてもこの行為の続きを連想するんだろう。  
 
まだ下半身にはスカートと黒いパンストが残っていたが、ひらひらしたスカートは腹までめくれあがり、薄いストッキングからは中に穿いたパンツがうっすら透けてる。  
 
こんな情けない格好で、いまさら何を守れるって?  
 
 
「きゃ…………!」  
 
チヒロが叫んだがダゲキは無視し、両足の太ももを持ちあげて足を頭側に倒す。そうすれば望む体勢の出来上がりだった。  
体重が頭側に移動したからもう簡単には起き上がれない。  
その上脚を大きく開かされ、チヒロは股間をさらけ出すしかない。  
自分の足と足の間から顔を出しているのがあまりに無様だったので、ダゲキは思わず吹き出してしまった。  
 
 
「ちょっと、なに笑ってるのよ! 元に戻して!」  
「ダゲダゲー、ダゲキ? (この格好何て言うんだったかな、まんぐり返しか?)」  
「え?何? ちょっ、ダゲキ、何しようとしてるのー!?」  
「……… (黙ってろこのアマ)」  
 
「ちょっと、無視しないで!!ダゲキったらあぁ!!   
 ひっ?! い、嫌!顔近付けないで!におい嗅がないでぇ! う、うぁああ……やだぁ…」  
 
 
鼻をくっつけて嗅いだチヒロの股間は、蒸れた汗の匂いに混ざって甘酸っぱいメスの匂いがした。  
少し窪んだ部分の湿り気が二枚の布越しにでもわかって、それを見られたと悟るや否やチヒロは顔をクリムガンのように真っ赤にして暴れる。  
 
割れ目をなぞるように指を往復させてやると煩い声はすぐに止んだ。手はダゲキの行為を止めることを諦め、嬌声を上げる自分の口を塞いでいた。  
それだけでほとんど勝ったような気分になるが、仕返しはまだまだこれからだ。  
 
 
ダゲキはチヒロのストッキングに爪を立て、左右に引っ張って引き裂いた。  
大事な場所を守るものがまた一つ失われる恐怖にチヒロは震えたが、ダゲキは当然お構いなしだ。  
チヒロが勃たせた股間の凶器はまだ反り返っていたし、ここでやめたら一連の作業を何のために行ってきたのかわからない。  
 
ふと、チヒロが恐る恐る目を開けた。ストッキングをぶちぶちと引き裂く音は聞こえたが、肝心の陵辱が一向にやってこないから不思議に思ったのだ。  
そしてチヒロはダゲキの方を見やり…自分の身に起きている惨状を目の当たりにした。  
 
 
「ちょっと……それって…」  
 
軽い眩暈を起こしながらダゲキに尋ねる。答えは返ってこずとも尋ねずにはいられなかった。  
チヒロの黒いストッキングは股から尻に当たる箇所だけが引き裂かれており、内股とお尻の素肌を外にさらけ出していた。  
ブラジャーと揃いの黒いパンツ一枚を残して大切な個所は守られてはいるが、それも割れ目に食い込んでいるからほとんどお尻は丸見えだ。  
薄ピンクの性器の色までもが横から少しはみだしていて、思わず目をそむけたくなる。  
 
そこに穴さえあればいい。  
獣の欲求を体現したような破かれ方は、チヒロの目にはひどくマニアックに写った。  
 
 
(どこで覚えたのよっ…!?)  
 
 
今にも自らのポケモンに突っ込まれそうになっているというのに、彼女はツッコまずにはいられなかった。  
自分のあられもない下半身の向こう側で、ダゲキがふんと鼻で笑う。  
 
……あとでボールに入れたままサザナミ湾に沈めてやる。  
チヒロは強く心に誓う。苦しい体勢で深呼吸し、どうにか精神の安定をはかった。それが今の自分に必要なことだった。  
 
 
 
 
 
「ひぁあ?! …だめ…ダ…ゲキ……!そこ、はぁっ…」  
 
 
突っ張った生地が柔らかく敏感な場所に食い込み、下着の染みはますます大きくなる。  
ダゲキが下着の上からぷっくり膨らんだ突起を引っ掻くと、チヒロは不自由な体勢で嫌々をするように首を振った。  
 
初めてこの体勢の意味、恐ろしさを理解できた。  
クリトリスを弄られて摘ままれる所も、下着の上から湿り気の源泉を舐め上げられるところもチヒロには全部見えてしまう。  
触れられているところを見るたびに、快感に加え自らの痴態を思い知って、ぐちゅぐちゅに濡れてしまう悪循環だ。  
 
チヒロが目を閉じ顔をそむけてもダゲキは容赦がない。  
見なければ見ないで、下着の間から差し込まれた指が一本膣に入り込み、中から愛液を掻き出す。  
いやらしい音を立て、チヒロが『何をされているか』を嫌でも実感させるのだ。  
 
 
「いひぃいん!!……っ、あああっ、あっ!」  
 
チヒロが『いや』だとか『だめ』を言うと、すぐさまお仕置きをされた。  
黒い下着がダゲキの手で引っ張り上げられ、割れ目にがっちりと食い込む。  
食い込んだところを左右に動かされると目の前に星が散って、ほとんどチヒロは叫ぶように喘いでいた。  
 
限界まで愛液を吸い取った下着は熱く湿って、ダゲキがお仕置きをするたび割れ目の周囲にトリトドンの這った後のようなぬるぬるが広がった。  
 
 
「うっ……ん、ふぁあ……」  
 
肉に食い込んだ下着が、中心に黒い縦線で処理を入れたように穴二つを隠しているが、ささやかに生えた性毛と擦られてじんじんする粘膜はほとんど丸見えだ。  
チヒロの秘所は度重なる責めを受けておかしくなったように愛液が湧きだしていた。  
 
今まで感じたこともないような疼きが、心臓の鼓動と連動したように襲ってくる。  
哀れなチヒロは自らの充血した性器をぴちゃぴちゃと舐めるダゲキをぼうっと眺め、くすぐったさとこみあげてくる快感の両方に堪えることしかできなかった。  
 
肺が圧迫されてくらくらする。口の端から涎が出ているし、中途半端に脱げた服の下に汗をかいているので気持ち悪い。  
 とっくに準備が整った膣に愛撫を加えられるのは苦痛以外の何物でもなかった。  
 
「うぇ………くふっ、はぁっ!」  
 
中に指を深々と埋めてかき回されると、どこか遠くへ飛んでしまいそうだった意識が戻ってきた。  
一体何本入れられているのだろう?  
人間のそれより少ない本数でも、ずっと太さのある指が拡張するように中で円を描く。  
 
部屋に響く水音を聞いていると腰から痺れるような感覚が登ってきて、  
投げ出されたチヒロの脚がひくひく痙攣し、爪先が宙を掻いた。  
 
 
なにかがくる。あと少しでそこに行ける。  
直感だったが、これがいわゆる『絶頂』であることはチヒロにもうっすら心当たりがあった。  
 
 
「ダゲキぃっ……わたしっ……もう……」  
 
ふと、チヒロは自分の心臓が凍りついた気がした。  
 
 
もう?  
懇願して一体何になるというのだろう。  
 
ダゲキは自分を嬲って楽しむためだけにこんなことをしてるんだ。  
わたしを辱めたいから、わたしが散々もてあそんだアレを静めたいから…  
それだけの理由でわたしにこんなことをしてるんだ。  
 
本当は人間なんて相手にしたくないのに、わたしが腹立たしくて、もう収まりがつかなくなったから…こんなことをしなくちゃいけないんだ。  
 
わたしの言うことを聞く必要なんてないし、入れたければ入れるし、わたしをイカせてやる義務なんてないんだ。  
 
それをとっくに悟っていながら、つい懇願を口にしてしまったチヒロは、大声で泣き出したい気分になった。  
『自業自得』という言葉が頭をめぐって、ぼろぼろと涙が勝手に流れる。鼻の奥がつんと痛む。  
 
未知の快感に体を食い荒らされたチヒロには、煽りに煽られた情欲をどう静めていいのかがわからない。  
 
ただ、この疼きがダゲキ以外では満たされないということ。それだけを本能でわかっていた。  
 
ダゲキに抱きしめられて、舌を貪りあってキスしたい。硬くて大きいダゲキのものでめちゃくちゃにされたい。  
ポケモンと人間の壁なんてもうとっくにチヒロの中では壊れていて、それだけにダゲキと通じあえないことがとても悲しかった。  
静かな部屋の中にチヒロの涙声が響く。  
 
 
「ダゲキ……ひどいことして…ごめんなさい」  
 
許しを請うて見返りを求めるわけではないが、謝らずにはいられない。  
きっとダゲキは許してくれないだろう。このまま自分は人形みたいに犯されておしまい。  
そこに愛なんてあるはずがない。これからもずっと、永遠に軽蔑されたまま。  
 
 
「もう家事もやらせないよ、やつあたりもしない。…………わたしのお守りなんて、…やめていいからっ……」  
 
苦しい体勢で言葉をつなぐと息が詰まって咳き込んでしまう。  
チヒロは手の甲で乱暴に涙をぬぐい、そのまま消えそうな声で哀願した。  
 
 
「だからわたしのこと、嫌いにならないで……」  
 
 
返事はないまま、ダゲキが泣くチヒロの体の上にのしかかる。  
チヒロの体勢はいくぶん楽になったが、一人と一匹の重なり合う格好は正常位のそれだ。  
華奢な体にダゲキのずっしりとした重みと熱が伝わり、下腹部に湿った雄の象徴が当たる。  
『ああ入れられてしまうんだ』と実感がわいた。  
でもこの行為でダゲキの気が済むなら…チヒロはどこか安堵のようなものすら感じていた。  
 
ダゲキがチヒロの腕を掴んで頭側へ上げさせる。  
抵抗されたら困るからだろうか?目を覆っていた手を持っていかれることに、チヒロは特に何の抵抗もしなかった。  
泣き腫らしたまぶたが外気に触れてスースーする。  
 
 
「…………んっ……」  
 
 
そっと口に何かが触れ、そのままぐいと押しつけられた。  
唇を割り開いてぬるぬるするものが入り込んでくる。チヒロは驚いて目を開けた。  
 
照明がまぶしくて何度か瞬きをした目に飛び込んできたのは、ダゲキが真面目くさった顔をしてチヒロにキスをしている光景だった。  
 
チヒロと目が合うとダゲキはばつが悪そうに目をそむけ、閉じて、より深くチヒロの口に吸いついた。  
一度離れて大きく息を吸ったチヒロが、恐る恐る尋ねた。  
 
 
「……許して……くれるの?」  
「ダーゲ(調子に乗った小娘には、刺激が強すぎたみたいだからな)」  
 
 
その言葉に頷いて、ダゲキはチヒロの涙の粒を拭ってやる。  
花がほころぶようにチヒロが笑う。泣いたり笑ったり忙しいやつだ、とダゲキは思った。  
 
顎を捉われて上向きにされ、見かけより器用な舌で口内をなぞられる。  
慣れないディープキスに翻弄され、ダゲキにされるがままになっていたチヒロだったが、  
やがてコツのようなものを掴んだのかダゲキに倣うようにお返しをしはじめる。  
くちゅくちゅと音を立てて舌が絡まり、息継ぎをしに離れても、どちらともなくまたくっ付いた。  
 
「……ダゲキってキスうまいんだね」  
「(お前が下手糞なだけだ)」  
「ふふ、わたしダゲキには全然適わないや。 ……ねえ、もっとしてくれる?」  
 
 
聞くまでもないことだった。  
ダゲキが覆いかぶさるようにしてキスをしてやると、チヒロの腕がダゲキの逞しい背に縋りついてそれに応えた。  
 
 
 
 
 
「なんかそれ……すごくつらそう」  
「ダゲ(ああ、もう限界だ。これ以上どうにもできん)」  
「でも……それ、入るのかなあ……」  
 
 
しばらくダゲキと睦みあっていたチヒロが、ふと思い出したように零した。  
それ、とは言うまでもなくダゲキの股間のアレのことである。  
 
攻撃種族値125の荒ぶる青い凶器。長さは20センチ弱。  
太さはチヒロが人差し指と親指で作った輪よりも若干太いくらいのものだ。  
表面には血管が禍々しく浮かび上がっており、それ自体も筋肉によって構成されているのではないかと疑うほどの逸物だ。  
 
 
酔いもだいぶ醒めてきたチヒロは、長い間お預けをくっても変わらずいきり立っているそれを見ていまさら恐れをなしたのか  
途方に暮れたような表情でダゲキの表情と股間を交互に窺っている。  
その様子がなんだか緊張したミネズミのようで、ダゲキは愛しく思って額を撫でてやる。  
 
 
 人と体格もあまり変わらないダゲキの生殖器のサイズは、全ポケモンの中では至って標準、中の中くらいの位置に属している。  
これなんかとは比べ物にならない、化け物サイズの巨根を持つポケモンが山ほどいるのだと教えて勇気づけてやりたかった。  
それに比べればマシだと。  
だからこんなものを入れるくらい、どうってことないのだと。…………多分、大丈夫だと。  
 
 
ダゲキの根拠のない自信をよそに、チヒロは何度か深呼吸すると  
意を決したように「よし」と呟き、まっすぐな眼差しでダゲキに言った。  
 
 
「ダゲキ、入れて。こんなに濡れてるんだもん、きっと入るよ!」  
 
 
何の色気もない許可を貰い、ダゲキの体を脱力感が襲った。  
ダゲキの根拠のない自信よりはるかに説得力のある言葉だったが、人間とポケモンの壁を超える覚悟の一言が果たしてそれでいいのか。  
 
チヒロがこのまま『やめる』と言いだしやしないかわずかに期待していたことを、同意を得た今になってダゲキは悟った。  
本当にいいのかという気持ちがある。ここまでチヒロを誘導したのが、他ならぬ自分のような気がするせいかもしれない。  
もしくは所詮は酒の勢いだという後ろめたさがあるからかもしれ……  
 
「こら」  
 
考え込むダゲキの額をチヒロがぺしりと叩いた。  
 
「わたしがいいって言ってるんだからいいの。誰にも言わないし、痛くても怒ったりしないから」  
「ダゲ…………」  
「それとも、ダゲキはわたしのことが嫌い?」  
 
首を横に振る。  
チヒロが頷いて笑い、ダゲキを裸の胸に抱きしめた。  
自分が暴いたふくらみに顔を埋めることになり、ダゲキは目を白黒させた。  
 
 
「ダゲキが人間相手で嫌じゃないなら、わたしもしたいよ。酔ってるからってこんなこと言わない。  
実はね、さっきから我慢できないの。なんていうか……」  
 
囁き声でそう告げるチヒロの表情は見えない。  
 
 
「…わたしを、……ダゲキのでめちゃくちゃに、してほしくて……」  
 
 
その言葉が引き金になった。  
ダゲキはチヒロの胸から勢いよく顔を上げ、頬を染めたチヒロに熱烈なキスを贈った。  
 
「んんんー!!」  
 
押し倒され、後頭部を打ったらしいチヒロが何やら口の中で文句を言う。  
それをよそに、ダゲキはチヒロの腰を浮かせ、食い込んだままだったパンツとストッキングを一緒に取り払い局部をあらわにした。  
 
先ほど散々ダゲキに苛められたところは、食い込みから解放されると布地と割れ目の間に銀色の糸を引き、チヒロの言葉通りもう待ちきれない様子でひくついていた。  
 
見られて興奮しているのか、長いお預けにも関わらず濃いピンクの花弁は開ききり、たっぷり蜜をたたえてダゲキを誘っている。  
完全に露わになったチヒロの秘所は、その全貌をほとんど見ていたはずのダゲキに今までにない興奮を与える。  
思わずごくりと喉を鳴らすと、ようやく口を解放されたチヒロが息も絶え絶えに  
「やだぁ…そんな、まじまじ見ないで……」と洩らした。  
 
チヒロのブラジャーは押し上げたままだし、ストッキングも完全に脱がせてはいない。  
腹にはまだスカートが巻きついていて、何とも中途半端な格好だった。  
全部を脱がせてやるにはもはや一秒一秒が惜しいというのもあったが、その乱れた衣服が不思議とダゲキの欲を刺激した。  
 
天を仰ぐ自身の先端をあてがって、チヒロの割れ目を往復させる。  
チヒロは今まさに他者が自分の中に入ってこようとしているのを不思議そうな目つきで見つめていたが、  
照準を見定めているダゲキが誤ってクリトリスを擦り上げると甲高い声で啼いた。  
ぬるつく粘膜と粘膜が擦れあう。それだけで擬似的な挿入感を味わえたが、勿論両者がそれだけで満足できるはずもない。  
 
ダゲキはチヒロの様子を窺いながら、ゆっくりと腰を進めた。  
チヒロの小さな秘所がいっぱいに拡がって、人外の青色のそれを咥えこむのはどこか淫靡な光景だった。  
 
 
「ふぁあ、あっ……」  
 
 
こんなに濡れているからきっと入る。  
まるで当てにならないと思っていたチヒロの推測は半分正解で、半分外れだった。  
 
  潤滑は十分に湧き出ているのだが、何しろチヒロは力を抜くやり方を知らない。  
最初こそチヒロはそれが痛みから逃れられる唯一の方法だとでも言うように、  
唸り声を上げてダゲキの背中に爪を立て、腰に足を回してしがみついていた。  
 
ダゲキの方も圧迫感に堪えながら割り開いていくが、まだ三分の一にも満たないところからどうにも先に進めないものだから、これは中断するしかないかとチヒロの方を向く。  
しかしダゲキの視線に気づいたチヒロは大きく首を横に振り、「やめないで」と懇願した。  
 
 
「全然痛くないから、平気だから……」  
「ダゲッ、ダゲェ(嘘をつくな)」  
「……ごめんね、ほんとはちょっと痛い。でも思ってたほどじゃないよ。だから続けて」  
 
 
ダゲキに叱られたチヒロはばつが悪そうに謝った。  
苦痛を感じるようなことをさせたくないとは思っても、チヒロが恥を忍んで頼んできたことを思うとすぐに引き抜くわけにもいかない。  
雁首までを収めてしばらくじっとしながら、少しでも楽にしてやれないかと乳首を転がしたり、結合部のすぐ上の肉芽を弄ったりと愛撫を続ける。  
 
チヒロはダゲキの動きひとつひとつに素直に反応し、ダゲキの筋骨隆々な体を抱きしめて「もっと」とせがんだ。  
チヒロが甘えた顔で頼みごとをしてくると、どうにもダゲキは断りづらいのだ。  
 
 
どれくらいそうしていただろうか。  
そのうちチヒロの痛みにこわばっていた体が緩み、表情がとろけてきた。  
 
 
「ね、もう動いても……だいじょうぶ」  
 
まさかと思いつつ浅く抽送するとさっきよりも滑りが良くなり、奥にもゆとりが生まれたようだった。  
まるでチヒロが自分の形に合わせて身を割ったように思え、たまらない愛しさを覚える。  
 
この少女の素肌の白さを知るのは、甘い声を知るのは、なかの狭さを知っているのは自分だけなのだ。  
 
 
(もし今夜チヒロが、他の誰かとつがっていたら?)  
 
想像するだけで腹が立ち、眉間に皺が寄ってしまう。  
人間だろうとポケモンだろうと関係ない。もう誰かに渡すことなど考えられなかった。  
 
急に湧きあがったその感情がポケモンの雄としての本能だったのか、ずっと眠っていたダゲキの本心だったかは誰にもわからない。  
ただ……もともと禁欲は得意だったとはいえ……  
なぜ一年も一つ屋根の下で過ごしておきながら、チヒロに何の欲も抱かなかったのか。  
なぜ今になって欲が爆発したのかが不可解だった。  
 
チヒロが自分を誘ってくれなければ、この想いにも一生気づかないままだったのだろうか。だとしたらそんな勿体ない事はない。  
 
 
「ダゲ、ダーゲキ(酒に感謝しないとな)」  
 「え?…………ひぅっ!!」  
 
 
呟きと共にゆっくりと押し進めていったダゲキのペニスが、チヒロの行き止まりにごつんと突き当たった。  
チヒロには大きすぎるそれをすべて収めるのは無理だと悟ったダゲキは、大体の深さを測るため一度限界まで挿入することにしたのだった。  
 
今開かれたばかりの胎内の最奥。  
そこを急に突かれたチヒロは、たまらず小さな悲鳴を上げる。  
だがダゲキのものに纏わりついて離れない壁を引き連れて、行きと同じようにゆっくり抜き出すと、チヒロは熱いため息を漏らして天井を仰いだ。  
 
それを幾度か繰り返すうち往復は速まって、結合部からじゅぷじゅぷと水音が上がった。  
ようやく挿入の快感を受容できるようになったチヒロの口からは、もはや悦びの声しか上がらない。  
 
 
「あ、あ、あ! やああ、……ひっ、ああぁん……!!」  
 
だんだんチヒロは大胆になって、ダゲキが抜き出すタイミングに合わせて腰を引き、より奥に当たるよう動きだした。  
どうやらチヒロにとって一番の難所だった雁首もいい具合に膣内を擦り、たまらない快感を与えているらしい。  
 
言葉が通じない上、ものも言えないほど乱れているチヒロに感想を訊くことはできない。  
だがダゲキは満足していた。  
愛液でぬめった青い肉棒、断続的にきつく締まる中とがチヒロの快感を代弁している。  
 
―――今はまだ半分くらいが限界だが、この様子じゃいずれすべてを受け入れてくれるようになるかもしれない。  
 
内心に浮かんだ期待を今は心に秘めて、ダゲキはチヒロの脚を抱え上げた。  
とりあえず今はチヒロの限界に合わせてやるとしよう。  
 
 
根元まで挿入しなくとも、抜き差しを早めていけば吐精感が強まっていく。  
深ささえ見極めてしまえばあとはその範疇でいくら動いても大丈夫だろう。  
 
もの欲しげに開かれたチヒロの口に、ダゲキは無意識のうちに吸い寄せられていた。  
ほとんど無我夢中で口づけあう間、荒々しい抽送に両の乳房がふるんふるん揺れる。  
チヒロは酸素を求めてダゲキより早く口を離したが、突き出た舌と舌の間には銀色の糸が繋がっている。  
自分とチヒロの汗、チヒロの愛液が混じり合い、むせ返るような性の匂いが充満していた。  
 
ふとダゲキは、チヒロが発する言葉にならない嬌声の中に、自分の名前が目立ちはじめたことに気付いた。  
 
 
「んぁあ、ダゲキッ、ダゲキ……」  
「ダゲッ…………!(何だッ……)」  
「っあっ、すき、……大好きぃっ……!」  
 
そんなことは知っている。  
 
だがこんなにも切ない表情で言われると、その分自分の言葉が完全には通じないことが惜しい。  
人の言葉で返してやりたいことが、伝えたいことが山ほどあった。  
家事をオレに押し付けるなと、すぐへそを曲げるなと、  
……お前がこんなに可愛いとは思わなかったと。  
 
 
 
(それから……、オレもお前のことが好きだ)  
 
 
「グッ………ッウウッ!!」  
「いっ………ぁぁあああっ!!」  
 
 
通じない言葉の代わりにチヒロの最奥を突いた瞬間、ダゲキの目の前が真っ白に爆ぜた。  
 
抜き出す間もなくチヒロの中に大量の精液を吐き出してしまい、熱い白濁をチヒロの奥の奥まで注ぎ込んでしまったのが分かる。  
しかもチヒロもほぼ同時に達したのか、ダゲキを強く抱きしめて離さない上、膣の方も強くダゲキのものを締めていて、このまま抜くのが名残惜しい。  
 
結局ダゲキの射精が終わるまで、一人と一体は繋がっていた。  
少し硬度の衰え始めたそれが引き抜かれると、白を通り越して黄みがかった精液がどろりとチヒロの膣から零れ落ち、クリーム色のソファーに馴染む。  
チヒロがポケモンだったら間違いなく孕ませていただろう、すさまじい量と濃さ、臭いだった。  
 
呼吸が落ち着くまでの間、自分の出したものを感慨深げに見つめていたダゲキが、ふとチヒロに向き直る。  
満ち足りた表情でダゲキの頬に手を伸ばしたチヒロが、荒げた息の下こう言った。  
 
 
 
「ダゲキ……。やっぱりわたしね、ダゲキ以外に、……なんにもいらない……」  
 
 
 
 
12/25、朝6時。  
ダゲキは盛大な頭痛と吐き気とで目を覚ました。  
 
起き上がるもすぐには状況を理解できずに、寝転がった姿勢のまま周囲を見渡す。  
部屋は散らかり放題で、電気は点きっぱなし。  
アルコールと汗と、…あとどこかで嗅いだ事のある、すさまじい臭いが充満している。  
 
腕の中に重みを感じると思ったら、白い布にくるまり、自分に寄り添って暖を取ったらしいチヒロがすやすや寝息を立てている。  
ダゲキは『またこいつはベッドで寝ないで』と呆れ、風邪を引いてはいけないからと、抱き上げて寝室に運んでやろうとした。  
 
 
よく見ると、自分は胴着を着ていなかった。  
よく見れば、チヒロの包まっている白い布が探していた胴着だった。  
 
どういうわけかチヒロは胴着の下にはなにも着ておらず、下半身のストッキングも無残に引き裂かれていた。着衣は乱れに乱れ、よく見れば下着もどこかへ行っている。  
いくらチヒロがだらしないとは言え、こんな格好で寝るだろうか。  
そもそもどうやったらこんな格好ができるんだろうか……  
 
 
「…………」  
 
頭が覚醒するにつれ、何かとんでもないことをしてしまったという実感が加速してダゲキを追いかけてきた。  
 
まず昨夜起こったことを思い出そう。チヒロがやけ酒飲んで暴れた。  
洗濯物がダメになった。  
自分も頭から酒を浴びて、ものすごく腹が立った。  
それからチヒロが泣いて……。  
 
 
(…………酒?)  
 
その瞬間ダゲキは、昨夜の自分の大胆さと今朝の頭痛の理由を思い知った。  
あの時チヒロの飲み残しを浴びたから……?  
自分はポケモンで、そういう刺激物には弱いから……?  
 
 
クリスマスが終われば、一年の終わりはすぐそこだ。  
 
『お正月は実家に帰ろうと思うの。ダゲキもいっしょだからね!』  
 
その『お正月』は具体的にどんなことをするのか教えてもらってはいないが、実家で待つチヒロの父親と対面するのは明らかだ。  
 
悪い虫をつけるなと頼まれておきながら、自分が手を出してしまった。  
いくら当初の目的が日々遠のいているとはいえ……自分がこの家に住む最大の理由はそれだというのに。  
 
 
(一体どんな顔をして帰ればいいんだ……)  
 
狼狽から頭を抱えたダゲキの胸中など知らず、眠るチヒロがダゲキに擦り寄って幸せそうに笑った。  
起きたらかけがえのないパートナーになんて言おうかと、楽しみに夢に見ながら。  
 
 
 
END  
 
 

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