ガチャリ、とドアが開いて部屋に明かりがともった。
一人の男と、一匹のザングース。
そのうち、ザングースが部屋の中に入って行った。
「今日はよろしく頼むな」
男がザングースに声をかけた。「初仕事になるけど、気楽にすればいいから」
「大丈夫ですよ、マスター。俺に任せてください!」
ザングースがハキハキとした声で応えた。男はその返事に安心したのか、笑顔でドアを閉めて出て行った。
部屋の広さはおよそ10畳くらいだろうか。はっきりとはわからないが、圧迫感はない。
窓も大きく取ってあり、ごくごく普通の部屋。エアコン完備、シンプルなベッドにシンプルなテーブル。
テーブルには「ワセリン」と書かれたボトルと、ティッシュ、消毒液、そして紙製の箱。
ベッドはシンプルではあるが、ダブルベッドの大きさである。
ベッドに腰掛ける。試しに上で激しく揺らしてみるが、別段きしむ音はしなかった。
これなら気を使わずに動けるな。
そう思って安心すると、ザングースは頭の中で、これからのことを整理し始めた。
ここは、いわゆる更正施設。特に野生の性的に罪を犯した、或いは未遂にまで及んだポケモンたちを更正させるところだ。
といっても調教するわけではない。
その犯してしまったポケモンの相談を行い、その内容に適応したケアの仕方を検討する。
つまり「調教」ではなく「提案・協力」していくのである。
・・・なぜこのような回りくどいことをするのか?
今までこのようなポケモンたちは警察の手によって強制的に去勢されていた。
去勢・・・確かに、それを行えば性的な犯罪は起きない。
しかし、それは同時にそのポケモンの子孫繁栄の可能性も奪うのだ。
トレーナーの持ちポケモンであれば、その道もあるかもしれない。
しかし、野生のポケモンにこれを行って、解放されたところで未来はない。
たとえ守るべきものが現れても、野生の世界では「子孫繁栄」つながらなければ、結婚は成立しない。
そこで先ほどのトレーナーが提案したのが、この更正施設である。
このトレーナー、ポケモンリーグでも何度も優勝しており、さらにその実力を生かして様々な犯罪事件の解決に手を貸してきた実力者である。
それほどまでに貢献してきたのだから、警察も試験的にではあるが、この更正施設の提案に賛成してくれた。
「・・・今日がその初回かぁ」
ザングースが天井を見上げてため息をついた。
この初回の実績次第で、この更正施設が今後公的に認められるかどうかが決まる。
失敗しても食っていくことに困るわけではないのだが、あのトレーナーは「どうしても成立させたい」と言っていた。
「野生のモンスターにまで人間の意思を強制する必要はない」と。
ザングースも同じ思いだった。なぜなら、自分こそがそのトレーナーによって「人間の意思の強制」から逃れられたのだから。
コンコン。
ドアのノック音に、我に返ったザングースは慌ててドアに駆け寄った。
「何ですか?」
「今夜のお客様を連れてきた」
来た。ザングースはドアから数歩離れて、どうぞ、といった。
ドアを開けて、目に入ってきたのが紫色の怪獣・・・ニドキングだった。
少々うつむいていて元気がなく、トレーナーが頭をなでてなだめている。まぁ、元気がない理由は分かっている。
「お疲れ様。とりあえず、中に入りなよ。」
そう言って、ザングースはニドキングを部屋に引き入れた。すると、意外にも抵抗なく部屋に引き込まれていった。
あとはよろしく、とトレーナーが笑顔を送るとドアは静かにしまった。