傷つけられた。
酷い具合に彼にやられた。でもその時の記憶が無い。
彼の、私への思いが理性を流し、私を壊していった。
最後に彼の顔を見たときは、彼は薄ら笑っていた。
そして私はそのままゆっくりと瞼を閉じた。
彼の顔が、見えなくなっていった。
短く切った、紅い髪。虚ろで、無気力な目。
鏡を見つめてもそんな「サファイア」しか映らない。
そんな私が嫌になったから、服を脱いで風呂に入る事にした。
彼に教えられたことを洗い流そう。
体を洗い終え、浴槽に浸かりながら考えていた。
今後の自分について、生活について、いろいろ考えたが
結局は一時的な彼への回避行為でしかなく、
行き着くところは彼でしかなかった。
体は洗えても、心までは洗い流せない。こういうことか。
暫くこの堂堂巡りをした後、風呂から出ることにした。
風呂から出るのと同時に、急に強い眩暈に襲われた。
目の前が暗くなり、意識が朦朧とする。
バランスを失い、そのまま前へ倒れた。
「痛っ……」
鼻に鋭い痛みが走っている。
気にせずタオルで体を洗っていると、
タオルに血がついていた。鼻血だった。
止まらない。止まる気配を見せず血は流れつづけた。
逆上せたのかいつも以上に鼻血の勢いは凄かった。
鼻の頭を押さえつつ、体をタオルで包み鏡の前へ立つ。
顔のいたるところに少量の血痕。そして左の首にある紫色の痣。
この痣は勿論彼の付けたものだった。
綺麗に体を洗ったつもりだったのに、まだ残っていた愛の印。
彼が求めているのはこんな私なのか?
頭の中でまた思考が始まり、それと共に吐き気も催した。
そして、嘔吐した。
目の前がクラクラした。
視界のおかしな鏡に、私と彼の姿が映っていた。
幻を見ているのか?すぐに私の視界は滲み始め
その後の記憶も良くわからないような状態になった。
ただ、最後に何かに包まれる感じがした。
暖かくも冷たい、細い腕に。
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さて、「私は誰でしょう?」と質問するような没趣味は
持ち合わせたくはないので、あえて貴方にお聞きします。
私は誰でしょう?
私が誰なのか、知っているつもりなのですか?
御存じなのでしょうか?
御存じだとしても、それでも貴方は其処を動きませんか?
私の事を捨てるつもりはありませんか?
柔なハートが痺れる、心地よい愛の刺激