夏になり陽が沈むのが遅くなったとはいえ、夜は必ずやってくる。それはイッシュ地方のリゾート地、サザナミタウンでも例外ではない。
「それじゃあシロナさん、また今度〜!」
「じゃあねー、シロナおb…シロナさーん!」
夕陽で赤く染まった海の前で、髪をしっとりと濡らした少女たちが別れのあいさつを交わすのを見ながら、僕…カノコタウン出身のトレーナー、トウヤはため息をついた。
女の子が遊んでいるのを覗き見する趣味はないし、かといって海に泳ぎに来たわけでもない。僕がサザナミタウンに来ている理由は、バカンスとは別のところにあった。
「…まだおばさんって言われるような歳じゃないんだけどなぁ…あら?」
困り顔で髪をかきあげている女性が、ため息をついている僕に気づいたらしく、ゆっくりと歩み寄ってきた。
長いブロンドの髪と、夏場にもかかわらず着ている黒いコート。黒と金のコントラストが美しい妙齢の女性。シロナさんだ。
「トウヤ君?」
「シロナさん…」
「どうしたの?覗きはほめられた趣味じゃないわよ?」
シロナさんは笑いながら、僕の頭を帽子越しに撫でた。
「い、いえ…その…ちょっと、その…相談したいことが、あって…」
僕はとぎれとぎれに言った。あまり声を大にして言えるようなことじゃなかった。
「相談?珍しいこともあったものね、私に答えられるかしら…」
「分かりません…けど…」
そうだ。シロナさんは確かに僕よりも年上だし、トレーナーとしての経験も深い人。しかし僕の経験したことを理解してくれるとは限らないのだ。
だが、僕にはもう、頼れる人がシロナさんくらいしかいなかったこともまた事実なのである。
「あの、その…僕の話、聞いてくださいますか?」
「ええ、もちろん。まぁこんなところで夕陽を見ながら立ち話…って気分でもないでしょうし、あがってちょうだい?お茶でも淹れるから」
シロナさんはクスリと笑って、滞在しているカトレアさんの別荘へと歩んでいった。
「で、トウヤ君。何があったのかしら?」
緑色の熱いお茶…シンオウなどではよく飲まれるらしい…をテーブルに置き、シロナさんは僕の真向かいに座る。
「…シロナさん、できればこのことは…」
「ええ、みんなには内緒にしておく」
「…実は…僕、ジャローダを連れているでしょう?」
「ええ、あのメスのジャローダでしょう?驚くくらいよく育てられてるわね、私のミロカロスやシビルドンが何もできなかったもの」
「僕が旅立った時、初めて貰ったポケモンなんです。ずっと一緒に旅してきました」
ジャローダがほめられると、僕はうれしい。それは僕が育ててきたという理由もあるし、僕のパートナーがほめられているからうれしいということもある。
…ただ、今の僕とジャローダの関係は果たして、ただのパートナーという関係で済ませることができるのだろうか。
「もしかして、ジャローダの体調が悪いの?それなら私よりポケモンセンターの方が…」
「いえ、そういうわけじゃなくて…僕、夜寝るときはジャローダと一緒に寝ることにしているんです。あいつがツタージャの頃からそうしてきたんです」
「別にそういうことは恥ずかしいことじゃないと思うわよ?私の知っている人にも、夜寝るときはポケモンと一緒に寝るって人はたくさんいるし…」
「そ、その、そうじゃなくて、その…」
その先を口にするのは、さすがに憚られた。しかしこのまま悩んでいても仕方がないと思ってシロナさんに相談したんじゃないか。
「おとといの夜のことだったんですけど…」
僕は目を伏せ、そして観念して話し始めた。少しでもこの悩みが解決に向かってくれることを祈りながら。
その日は、月がとてもきれいな夜だった。
ポケモンセンターの一室でジャローダの毛づくろいを終えた僕は、大きな欠伸をした。
「よし、ジャローダ。そろそろ寝ようか」
僕は窓から外を眺めているジャローダを呼んだ。
ジャローダは、こちらに一瞥もくれなかった。でも僕はあわてない。こいつはもともと、そういう性格なのである。
ジャローダは気高いポケモンだ。しかも僕のジャローダはかなり意地っ張りな性格らしいから、なおさらのことである。
最初のうちはベルのミジュマルのように甘えてきてくれないことを不満に思ったりもしたけれど、そのうち僕は理解した。
たとえジャローダがべたべた甘えてこなくても、僕とこいつはすごく固いきずなで結ばれているのである。
「それじゃあ、僕はもう寝るよ。お前も早く寝ろよ、おやすみー…」
僕がそう言ってベッドに入ると、ジャローダがこちらににじりよってきた。
「ん、どうしたんだい、ジャローダ。お前のベッドは隣だよ?」
「…」
ジャローダは普段、僕とべったりくっつくことを嫌がっているような節があった。だから僕とジャローダは、少し距離を置いたところで寝るようにしているのだ。
そんなジャローダが、どうしてこんなに近寄ってくるんだろう?
「ハハハ、どうしたんだよジャローダ。らしくないぞ?」
「しゅぅ…」
ジャローダは低く唸り、僕の横に寄り添おうとする。
「じゃ、ジャローダ…?」
様子がおかしいと気づいた時には、すでにジャローダの蔦が、僕の腕をがっちりと絞めつけており。
「どうしたんだよ、いったい…」
僕はその場から逃げることもかなわず、ただジャローダの眼光に射すくめられるしかなかった。
ジャローダの鋭い眼はとろんとしており、頬は少し上気しているように思えた。熱に浮かされた表情、とでもいうのだろうか。
こんなこと、初めてだ。もしかして体調が悪いのを僕に訴えているのだろうか?だったら話は早い。幸いここはポケモンセンター、急患扱いで診てもらえば…
「ジャローダ、調子が悪いなら今から見てもらおうよ」
僕がそう言うと、ジャローダはおずおずと、僕の顔に頬ずりをしはじめた。
「じゃ、ジャローダ…」
僕は素直に驚いていた。このジャローダが僕にこんなに甘えてくるなんて、初めてのことだった。
こいつはツタージャの頃から、決して僕に甘えようとはしなかったのだ。バトルで勝った時も、ポケモンミュージカルに初めて出たときも、僕に擦り寄ることすらしなかったのに。
それがどうして、頬ずりなんて…?
「きゅぅ…」
熱に浮かされたような声と甘い吐息で、ジャローダは僕に擦り寄る。
「お、落ちつけ、ジャローダ、な?」
僕が言っても、ジャローダは聞きもしなかった。それどころかジャローダは、僕の股間に、いとおしげに頬ずりを始めたのだ。
「ジャローダ、いい加減にしないと僕も怒るぞ!」
さすがに看過するわけにはいかず、僕は声を荒げる。しかしジャローダは僕をキッと睨みつけた。
「キィッ!」
「わっ!」
ジャローダにすごまれ、僕は思わず体を硬くする。ジャローダは僕のかぶっている布団をどかし、僕の上へとのしかかってきた。
「や、やめっ…うぐっ」
ジャローダの尾っぽが、僕の胸を押さえつける。押さえつける力はあまりにも強く、僕は体を動かすことすらできない。
そのままジャローダは、伸ばした蔦と口を器用に使い、僕のズボンを乱暴に脱がせてゆく。
「は、はぁ…ダメだよ、ジャローダ、こんなこと…っ!」
抵抗しようにも、腕は尾っぽで押さえつけられ、足をばたつかせることもかなわない。ほどなくして僕の下半身は、夜の冷たい外気にさらされることとなった。
「きゅぅん…」
そしてジャローダは媚びるように鳴くと、その口で、僕の下半身にあるシンボルを咥えたのだ。
「わうっ!!」
初めての感覚に、僕は思わず情けない声をあげてしまった。
おぼろげに思っていたけれど、真剣に考えたことなんてなかった。まぁすごく失礼な話なんだけど、バトルタワーで会ったあの女の子とかと、付き合えたらいいかな、なんて、おぼろげに思っていたのだ。
それが今僕は、ともに旅をしてきた、種族のまるで違ったパートナーに、こんなことをされてしまっている。
「や、やめてっ…!」
僕は口ではそう言ったが、抵抗はできなかった。いや、本当は抵抗できたのかもしれないが、抵抗しなかった。本当は続けてほしかったのかもしれなかった。
ジャローダの決して軽くはない体重が、僕の体を押さえつけるのが、気持ちよかった。ジャローダの冷たい舌で僕の分身が刺激されるのが、この上なく気持ちよかった。
「はぁん…」
チロチロとのぞく先割れした舌が、僕のそれを、ぎこちない動作で舐める。
しかしそんなことをされること自体が初めての僕には、強烈な刺激になった。
どこでこんなこと、覚えてきたんだろう。旅のせいで色々とご無沙汰だった僕には、それはあまりにも強すぎる刺激。
ほどなくして、僕の逸物は硬さを得、天を指すようにいきり立った。
「は、やめ、やめっ…!」
「きゅうん…」
ジャローダは熱に浮かされた表情のまま、僕にその長い体を巻きつけていく。
「ぐっ…!は、はぁっ…!」
そのまま僕は、絞めつけられた。足を、腰を、腕を巻きつけられ、身動きがまったく取れなかった。
息が苦しい。体が冷たい。何が何だか、わからない。
「きゅう…」
ジャローダは甲高い声で鳴き、僕の顔に何度も頬ずりする。
長い胴は僕の足を締め付ける。うろこのあるポケモン特有の、ひんやりとした鱗肌が、僕の逸物をこすった。
「はっ、はっ…ジャローダ、やめよう、こんなこと…!」
「きゅぅん…」
ジャローダは何度も、僕の体に自らの胴をこすりつけた。愛おしげに、さするように。
そしてそれは、不意に訪れた。
ジャローダの胴の下の方、尾っぽとはいえない絶妙な位置に、パッと見ただけでは分からない裂け目があった。こんなものがあったなんて、僕は知らなかった。
いったい何をするための部分なんだろう。そう考えているとジャローダは、その裂け目に僕の分身をあてがい、そしてこすり始めたのだ。
その裂け目がじゅぷ、じゅぷと、僕の分身を飲み込んでいく。
「はっ、はぁっ…!」
そして経験したことのないすさまじい快楽が、僕の脳髄をしびれさせた。
「きゅうっ、きゅう…」
ジャローダは熱に浮かされたように僕の顔に頬ずりを繰り返す。接合部はぬめぬめと妖しくうごめき、僕の分身を包み込み、絶えず刺激を与えてくる。
「は、はっ、はぁん…!」
経験したことのない快楽に、僕はすぐさま、ジャローダに絶頂へと導かれてしまった。
どろりとした白濁を、ジャローダの体内へと吐き出す。あまりにも堪え性がないことが情けなかった。
ジャローダは満足げな表情で、頬ずりを繰り返す。短い腕が僕の細い胴を力強くつかみ、ぶるぶると体を震わせた。
もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。このままされていたいという肯定の気持ちと、相手はポケモンだという否定の気持ちがせめぎあっていた。
しかし今僕が何を思っていようと、逃げられるわけがない。ジャローダは僕の剛直も、体も、締め付けて離そうとしないのだから。
「きゅうん、きゅうん…」
ジャローダは愛しむように僕に巻きつき、そして愛おしげに頬ずりをした。
柔らかな媚肉が、萎れかけている僕の肉棒を刺激し、そして興奮へと導き、再びその硬さを取り戻させる。
「きゅうん」
ジャローダは満足げに笑うと、再び体をくねらせ、僕の分身をしごき始めた。
射精直後の性器に与えられる快楽は重かった。脳みそに直接快楽を与えられているようで、快楽というよりも、もはや拷問と言った方が近いかもしれなかった。
「はっ、はぁっ、はぁ…!」
ジャローダは僕がみっともなく射精するたびに体を震わせ、そして僕の顔に何度も頬ずりをした。
「きゅぅん…きゅぅん…」
ジャローダの愛おしげな鳴き声が、僕の心を震わす。窓からのぞく月が、僕とジャローダの激しい情交を照らしている。
ぼやけつつある視界の中、こんな形で大人の階段を上ってしまった自分に、激しい自己嫌悪を覚えていた。
「じゃ、ジャローダ、もう…」
ああ、ジャローダ。どうして。
「きゅうん、きゅうん、きゅうん…」
どうして、こんなことを…
「はぁっ…はぁっ…」
ベルやトウコちゃんの笑顔が、ふっと頭をよぎる。あの子たちは、こんなことをしている僕を見たら、どう思うんだろう…
「きゅうん、きゅうん…」
締め付けが強くなり、そのまま僕は精をジャローダへと出す。もう何度目になるかもわからなかった。どうしてこんなことになってしまったのかもわからなかった。
「…ジャローダ、どうして…」
僕はそう呟いて、そのまま意識を暗闇の中に落としていった。
翌朝、満足げな表情で眠っているジャローダをモンスターボールに戻し、僕はポケモンセンターを発った。
普段は一緒に朝食を摂るのだが、そんな気分になんてなれなかった。
誰よりも信頼していたパートナーとして築いてきた関係が、一夜にして崩れたのだ。こんな思いを抱えた相手と、どう接すればいいのか、僕にはまったく分からなかった。
僕は二日間悩み続けたが、短すぎる人生で浅薄な経験しかしていない僕には、答えなんて当然出るわけもなく。
考えた結果、シロナさんに相談して意見を乞おうと思ったのであった。
「…ふぅん、ジャローダとねぇ」
話を終えたとき、シロナさんはほうとため息をつき、お茶を啜った。
「人間と結婚したポケモンがいた。ポケモンと結婚した人間がいた。昔は人もポケモンも同じだったから普通の事だった」
「…なんですか、それ」
「私の出身地に伝わっている神話よ」
シロナさんはそう言って、空になったティーカップにお茶を注ぐ。
「トウヤ君、ジャローダは嫌い?」
「いえ、そんなことは!」
「だったらそんなに悩むことなんてないんじゃないかしら?」
シロナさんは微笑み、お茶が半分ほど残っている僕のティーカップに、お茶を注いだ。
「ジャローダはあなたを、狂おしいほどに愛してしまった。けれど言葉も伝わらないし、一日の中で会える時間も限られている。だからこんな強硬手段に出たんじゃないかしら?」
「…で、でも…僕はこれから、ジャローダにどうやって接すれば…」
「ジャローダの思いを受け入れたくない、というのであればこれまでと変わらないように接すればいい。その方がお互いにつらくなくて済むからね」
シロナさんはきっぱりと言った。端的に要点だけを述べた言い方が、今の僕にはむしろ嬉しかった。
「でも…もしジャローダの思いを受け入れてあげたいというのであれば、まぁ…毎日お相手してあげたりとか、むしろこっちから激しく愛してあげたりとかすればいいんじゃないかしら」
「あ、あれよりも激しく!?」
「あら、ご存じない?だったら…教えてあげましょうか?私、最近ご無沙汰してたし…」
「だ、だ、大丈夫です!ごちそうさまでした、お茶おいしかったです!」
僕はあわてて立ち上がり、熱いお茶を一気に飲み干した。
「なぁんだ、残念…」
シロナさんがそう呟いていたような気がしたが、僕は聞こえないふりをして、カトレアさんの別荘を後にした。
胸のあたりに熱がこもり、じんじんと痛んだ。
「出て来い、ジャローダ」
サザナミタウンのポケモンセンターで、僕は2日ぶりにジャローダを出した。
「…」
ジャローダは頭をもたげて僕を見つめていたが、僕がジャローダをまっすぐに見据えると、すぐに視線を逸らした。
「ジャローダ、これからいくつか質問をするけど…正直に答えてくれないか」
「きゅうん」
そんなジャローダの顔を、僕はこちらへと向けさせる。大事な話なのだ。これからの僕らの関係を築き上げる上で、本当に大事な話なのだ。
「…僕のことは好きか?」
僕が尋ねると、ジャローダはおずおずと首を縦に振った。
「…きゅうん」
「…そうか」
予想できていた答えだった。それに僕は、内心満足する。
「もうあんなことしないって約束できるか?」
「きゅうん…」
「…そう悲しそうな声を出すなよ。ジャローダ。僕もお前が好きだよ」
「きぃ?」
「だからこそだよ。お互い、まぁその…嫌な思いとか、したくないだろ?」
「きゅうん…」
ジャローダは再びしょげる。そんなジャローダをなでながら、僕は言った。
「でも今夜は寝かせてあげない。覚悟しておけよ」
その言葉を聞いて、ジャローダの顔がぱっと明るくなる。ジャローダは素早く僕ににじりより、そして飛びついてきた。
「きゅうん!きゅうっ、きゅうっ…」
「ははは、よせよせ!」
僕は笑いながら、飛びついてきたジャローダの頭をなでる。
「まったくもう…意外とスケベだったんだなぁ、お前は」
「きゅうっ、きゅぅ…」
少し怒ったような表情で、ジャローダは僕を睨んだ。
片側が少し欠け始めた月が、窓の外から見える。あの月が沈むころ、僕たちはどんな思いで時を過ごしているのか。
そう思いながら僕は、ジャローダの頭を撫でるのであった。
「…そういえば」
誰もいなくなった部屋の中、一人でさもしく料理を食べながら、シロナはつぶやいた。
「…人間って、ポケモンで言うと何グループに入るのかしら?人型?」