朝から捕獲に精を出して、昼過ぎに疲れて帰宅した。  
部屋へ行く途中、母が食事を取るよう勧めたが丁寧に断った。  
2階にある自分の部屋に戻り、そのままベットに斃れ込む。  
「ん・・・」  
気付けば眠っていたようだった。  
窓は開け放していたため部屋は少し冷え、  
その窓からは目を見張るような紅い色が部屋に差し込んでいる。  
 
そんな夕焼けとは裏腹に、微睡みの後のためか私の意識は覚束無い。  
そんなときふと彼のことが脳裏を過る。  
 
お互い正反対の性格のためか、開口一番こそ会話が弾むけれど、  
ふとしたこと - 大抵は彼の悪い冗談 - から口論になってしまう。  
彼に何を言っても暖簾に腕押しで、私の気は全く収らない。  
いい加減疲れて私が押し黙ると、彼は見計らったように独特の笑みを投げかける。  
私はいつもこの笑みに勝てず、何事もなかったかのように微笑み返してしまう。  
けれど、と思い耽る。  
これは比興だ。  
私は彼の言動を真に受け憤慨してしまう一方で、  
彼は口論の最中でもそんな私を一瞥し、興ずるようだ。  
彼はいつでも余裕綽綽だ。その上見事な肩透かしを食らわしてくれる。  
 
揶揄されてる…  
それでも彼との会話を楽しみにしてしまうのは…  
思考を巡らせると、身体全体が火照ってくるのを感じる。  
 
また始まってしまった。  
 
そう思った刹那、自ら左手が胸に触れる。  
無意識のうちに彼の名を呟く。  
 
「ゴールド・・・」  
 
彼のことを考えると屡こうなる。  
火照りを冷ますため、また自身を慰めるため  
敷布に潜り、独り事に及ぶ。  
或は、と思う。  
私は彼の所為にしているのかもしれない。  
恥ずべき行為を自ら進んで行うのではないと。  
不意に自嘲してまう。私の方がよほど比興。  
普段は着飾ったような真摯な態度で彼の言動を窘めている。  
真摯な態度は自ら創った後天的な性質で、これが無いと居た堪れない。  
その理由が、体裁だけ良く整える私の悪い癖なのは判っている。  
 
露に出来ない一面と着飾った自分に思い悩みつつも、事を進め果てようとする。  
不意に何かの視線を感じた。  
血の気が引くような感覚と共に冷静になる。  
 
手持ちの6匹はボールに入れ別の部屋に置いた。家には母しかいない。  
彼女の性格なら独特の語尾と共に勢い良く部屋に入ってくるだろう。  
もし私への来客なら、母が私を呼びに来る筈だ。  
暫し逡巡したが気の所為と思い、躊躇いがちに右手を腹部の更に下へ這わせる。  
良い気持ち。認めたくないけれど・・・  
 
ほとの辺りは既に濡れていた。  
スパッツの上から優しく撫ぜると、指の動きに併せるように嬌声が漏れる。  
階下にいる母親の耳には届かないが、口からそれ漏れるのを必死で堪えようとする。  
節操のない行為をしつつ、愚かな抗いとも思える。  
 
「んっ…」  
 
愈愈果てそうになったが、不意に風が通ったように感じた。  
その瞬間青ざめて、敷布から火照ったままの顔を覗かせ、扉に視軸を向ける。  
 
「よう」  
声と共に彼の姿を認める。  
いつもは逢いたい人だけれど、今この状況では遭いたくない。  
「なーにしてんだ」  
衣服は身に着けたままだけれど、とても面と向かえる状態ではなかった。  
彼とは反対の窓を見据えて、努めて平静を装い答える。  
「別に、何も」  
「へー…」  
如何にも不審に思っているように彼は言った。  
なんとか彼の詮索を中断させようと試みる。  
「あ、貴方こそ何… してるのよ。勝手に上がって来て…」  
少し動悸がする所為か、声が不安定になってしまう。  
「勝手にって、ノックくらいはしたぜ。まあもっとも返事がなかったけどな。」  
彼は続けた。  
「それに、お前の母親が上がって良いって言ってたしよー」  
それを聞いて唖然とする。  
なんて母親だろう。年端の行かぬ娘ではないのに  
同年代の、しかも男性を娘の部屋に勝手に通すなんて。  
半ば呆れたようにしていると、構わず彼は続けた。  
「それよりお前、俺の質問に答えてねぇぞ。何してたんだ。」  
余裕綽綽で、しかもどこか意地悪な笑みを浮かべて彼が問う。  
状況を打開しようと、彼を軽く睨み答える。  
「べ、別に… ちょっと横になってただけで何もしてないわよ。  
それより、私今から着替えるから部屋から出てってよ。」  
姑息な言い訳になってしまった。彼はそれを見透かしたようにして捲くし立てた。  
「なんで? 汗掻くほど暑いわけでもねぇし  
さっきまで横になってたんだろ」  
言い返す余地もなく私は押し黙る。彼は勝ち誇ったようにして私に近付いて来た。  
「そういえば顔が赤いみてぇだけど、やっぱり何かしてたか?」  
私の顔を覗き込むようにして言ったのに対し、夕日の所為じゃない?  
と誤魔化そうとすると、彼はベッドに上がってきて私を押し倒した。  
「ちょ、ちょっとなにす… っあ…」  
 
彼は私の胸を掴んできた。  
突然のことに気が動転して逃げることが出来ず、  
彼が私に圧し掛かる格好になった。  
先程まで私が包まっていた敷布は、彼の手により床へ打ち捨てられていた。  
 
「じ、冗談でしょ… 」  
潤んだ瞳を向けたが彼は気に留めず、そのまま私の胸を揉みしだいた。  
 
「手伝ってやるよ。」  
彼は全て知っているとばかりに呟いた。  
 
「ちょっと、やめなさいよ…こんなっ 」  
言いかけて、涙が頬を伝うのに気付く。  
彼も気付いたようだが、気にも留めず続ける。  
 
私は半ば諦め、事が終わるのを待とうとする。  
そんな私に満足したのか、彼は更に図に乗ったらしく下着の中へ手を這わす。  
嬌声が上がる。  
胸の中心を幾度も刺激され流石に我慢できない。  
 
身を捩って抵抗するも、彼は気にも留めずほとにも手を這わした。  
頭が真白になり、口から漏れる嬌音を堪えるのも忘れていた。  
 
ほとを直接撫ぜられ達してしまいそうになる。  
彼は意図してか緩急をつけ私を弄び、頃合をみて高みに押し上げた。  
 
大きく身を反り果てる。その刹那彼は私から離れた。  
達した女性の反応を直に見るのは初めてのようで、彼は少し駭いたようだ。  
 
私はそんな彼を気にする余裕もなく、激しい動悸を抑えようとする。  
虚ろな状態のまま視軸を彷徨わせ窓の外に投げる。  
もう日は沈み辺りは夕闇が迫っていた。  
 
平静を取り戻しつつあると、服を脱いでいるような音に気付く。  
彼はもう我慢できないという様子で、その先にまで及ぶつもりらしい。  
 
流石に其れは許せないと憤り、彼の腹部を思い切り蹴り飛ばす。  
小気味の良い、砲音にも似た音と共に彼は勢い良くベッドから床に落ちた。  
 
その音で私の母が来ると思ったか、または音の所為で平静を取り戻したか、  
彼は気まずそうに私を一瞥し、俯いた。  
彼は黙々と衣服を整え、神妙な面持ちで何も喋らない。  
いつもとは違う様子に驚きつつも、私はここぞとばかり反撃に転ずる。  
 
「珈琲でも飲む? 私が点ててあげる。」  
 
先程までの行為が虚空であるかのように、しかし凄まじく冷たい表情で  
ベッドの上から彼を蔑み、皮肉のような言葉を掛けた。  
 
彼は肩透かしを食らったように唖然とし、口籠りながらも喋った。  
 
「ク、クリス… その…」  
刹那、私が弁明は許さないとばかりに静かに睨み付けると、  
彼は再び押し黙った。  
 
彼に背を向け、一言付け足し部屋を出る。  
「いいゴールド、ちゃんとそこに居なさいよ。」  
 
独りで珈琲と御茶請の準備をしながら先程の言動を省みる。  
何時も散々からかわれているのだから、この程度の意趣返しなら良いよね。  
そう思いつつも、少し酷なことをしたと感じた。  
 
彼があんな行為に走ったのは、私のを見ていたからだろう。  
彼の行為は許されないけれど、私にも非があるかもしれない。  
 
いつもの自分らしさが戻ってきたようで、安堵する。  
と、同時にやりきれない不安も現れる。  
 
 
サイフォンを手に更に思案する。  
彼の前でなら常らしからぬ私を出せるかもしれない。  
それは気を張り詰め着飾った状態から開放された、  
そう先程の自ら慰めるような、そして意地悪な私。  
 
どちらが本当の私なのか、或はどちらも違うのかは判らない。  
けれど彼にだけは、体裁を整えた私と、唯今垣間見た私の  
両方を見せることが出来そう。  
 
 
さて、今からどんな表情で何を喋ろうか…  
 
外は既に暗闇に支配されていたけれど、  
私の心は透き通る青空のようだった。  
 

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