季節はもうすぐ冬を迎える。黄や紅に色づいた葉は樹木を離れ、大地の肥しになろうとしていた。  
森に棲むポケモン達も、大多数は冬眠の準備をしているようだ。辺りには一切気配を感じない。  
だから森に響く、枯葉を踏みしめる音は僕だけのもののはずだった。  
ざくざくと、辺りの静寂を破るように紅葉を蹴り散らかしていく。  
僕は不意に踏みだした足を止め、その場に立ち止まった。  
こっちの歩行に合わせていたのか、さっきまでは重なって聞こえなかった足音が聞こえてきた。  
それも二、三歩分聞こえただけですぐに停止する。  
背中からは視線を感じる。ずっと付き纏ってきていて、一定の距離を保ったままそれ以上は近寄ってはこないようだ。  
「付いて、くるなよ……」  
僕は後ろを振り向かず独り言のように呟き、再度前へと歩みを再開する。  
気配から察するに、背後にいるポケモンもまた歩きだしたようだった。僕の拒絶の言葉などまるで意に介さないように。  
再び森林に僕と、そのポケモンの足音のみが静かに響き渡る。  
木々の合間から覗く丁度真上に位置する太陽が、妙に眩しかった。  
 
 
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あのバクフーンとの出来事の後、森を出た僕は周辺の土地を当てもなく彷徨っていた。  
身体の火傷は長い間放置してたせいか、回復技を用いても完全には直らなかった。  
痛々しい痕となって残ってしまい、ドーブルの種族に元々ある、顔の淵模様が増えてしまったかのようだ。  
それに、水辺に映る僕の表情は以前にも増してどこか虚ろで、狂気じみていて。  
誰かに復讐がしたい。もしくは僕をこんなにした、この世界に。  
そう思ってからは、雌雄構わずに気に入らない奴に襲いかかった。  
喧嘩を売ってきた奴、僕を遠巻きに眺めている奴、そして僕の姿を見て息を飲んだ奴。  
僕の能力を駆使して闘えば、大抵のポケモンには勝ち目が無い。  
甚振って、眠らせて、動きを封じて、やりたい放題だ。強姦と言って差し支えないことも数多くした。  
それでも、僕の心が満たされることは無かった。  
行為の最中は支配欲や嗜虐心で気持ちが高揚することはある。だが、それだけだった。  
何かを欲しているはずなのに満たされず、その何かも分からないもどかしさに苛立ちは募るばかり。  
ただ、力を使うようになってからはまだ誰にも負けていなかった。それだけは、空虚な心を満たすに足るものだった。  
 
だだっ広く辺りには何も無い平原に、ぽつんと立っている一本の巨木。葉は既に枯れ落ちて、寒々しい格好を曝け出していた。  
その木の根元に『ひみつのちから』を使って、昨夜からの寝宿にしている。  
元々誰の技かなんて、最早覚えてはいないが便利なものだ。自然の地形にならどこにでも空間を作れるのだから。  
森の外で暮らし始めてからすっかり癖になってしまった浅い睡眠から目覚めて、僕は洞穴のような入口から体を這い出させた。  
想像していたのより冷たい外気に急に触れてしまい、思わず身震いしてしまう。  
まだ早朝のようで、昇りきっていない太陽は雲間に隠れて見えないし、辺りにはこの寒さを示す朝靄がかかっている。  
僕が森を出てからもう数十回も日が昇っては落ち、昇っては落ちを繰り返していた。  
別にあの場所に未練なんて無い。誰かに会いたいといったことも、あるわけが無い。  
それでも時々、ふとあの光景が頭をよぎる。  
黒い毛並みをしたグラエナと、その後ろをぴったりくっついて歩くその子供のポチエナの後ろ姿。  
グラエナがポチエナに対して語りかける、あの姿。  
それを思い出す度に、言い表せない感情が心に渦巻いてくる。  
あのグラエナに対する恨み? 今なら容易くあいつなど倒すことも出来るだろう。  
もしくは、幼いポチエナさえも自分を軽蔑してたであろうという事に対して? それとも―――  
何れにせよ、苛立つ感情なのは間違いなかった。朝からこんな事を考えるものでは無い。  
そういえば今日はどこへ行こうか。といっても、普段から当てがあって彷徨っているわけではないが。  
とりあえず、僕は日のある方角へ向き直りそのまま歩き始めた。  
 
一時間ほど進み続けただろうか。  
誰ともすれ違うこと無く、ただただ平坦な草原をひたすら歩いてきたが、漸くその景色に変化が見られた。  
やや角度のある小高い丘が前方に立ち塞がっている。  
これまで彷徨ってきたところと比べるとこの程度の地形は訳も無いが、疲れることには変わりは無い。  
億劫ながらも長い傾斜を登り、その終わりまで着いたとき目に飛び込んできたのは、  
(ここは……)  
僕が二か月前に飛び出してきた、あの森だった。  
少し前までは枝に綺麗に色づいていた葉が、遠目に見ても分かるぐらい落葉していて、見事に面影が無い。  
森の入口は木々が避けるようにして道が出来ている。ぽっかりと口を開け、来る者を歓迎しているかのようだ。  
各地を歩き回って、知らず知らずの内にここに戻ってきてしまったというのか。  
しかし、初めて外観を眺めてみたが、こんなに広いものだとは思わなかった。  
横幅は遠くからであるこの場所で両腕を伸ばしたより長いし、奥行きもここからでもどの程度なのか判断が付かないほどだ。  
確かに、僕は同じ場所を行き来する日々ばかり送っていたので、この森の事など半分も知らないはずだ。  
自分の育った場所。少しは歩き回るのもいいかもしれない。  
今なら誰に会おうが関係ない。我が物顔で歩いてやろう。気に入らない奴が居ればいつも通りに襲ってやればいい。  
そう心に決めて、生まれ故郷である森林へと足を踏み入れることにした。  
 
 
森の中は静かだった。  
春や夏、秋初めや中頃まではやかましい程に楽しそうな声が響いていたのに、今は誰もいないんじゃないかと思わせられる。  
現に数分歩いてみたが、姿はおろか、ポケモンの鳴き声すら耳に入ってこない。  
残り少なくなった葉を落葉し続ける木々の間を通り抜ける、自分の歩く音だけがやけに騒々しく聞こえた。  
静かなほうが好きといえばそうなのだが、ここまで気配が無いと逆に気味が悪い。  
狐につままれたような気分、というのはこのような感じなのだろうか。  
そんな事を考えながらぼーっと彷徨っていると、突然視界に光が飛び込んできた気がした。  
意識をすぐに集中させ、光源と思われる足元の地面を見やると、細い物体が目に入る。  
前方を向いて足元になど無意識だったのに、それでも気づくほどのもの。  
屈んで見てみると、それは金色に輝く長い一本の毛だった。  
周りには黄色の葉もあり目立たないはずなのに、それでもなお日光を受けてキラキラと主張している。  
……周囲にポケモンがいる、ということか。  
 
立ち上がってぐるりと見回すと、来た道を左に逸れた方向にも同じ毛が落ちているのを見つけた。  
少なくとも、僕がこの森にいた頃には金色の毛を持つポケモンなど会った事が無い。  
別に興味があるわけでも無いし、会ってどうこうしようという気も今は無い。  
それでも、どういうわけか僕の足は、毛が点在している方向へと向かってしまっていた。  
 
 
何者かがいるならば足音は立ててはならない。  
葉っぱがいくら落ちていようとも、音を出さずに歩くことなどもう慣れたものだ。  
薄氷の上を渡るように慎重に忍び足で歩き、そのポケモンの軌跡を辿る。  
やがて木々がまばらになっていき、落ちてる毛も見当たらなくなる。  
邪魔となっていた木が無くなり視界が開けてきたので、目を凝らして遠くを見つめようとした時、  
―――ぱしゃっ  
と、突然水が跳ねる音が前方から聞こえてきた。僕はとっさに近くの大木に隠れる。  
(誰か、いる……)  
姿は確認出来なかったが、音と気配で分かる。  
それにちらっと見えたが、あのまま先に進んだ所に泉のようなところがあった。  
通って来たところに水を得られる場所は無かったので、おそらくはあそこが水飲み場なのだろう。  
すぐに行動を起こせるように尾筆を右手に握りしめ、そっと木陰から前を覗きこむ。  
依然としてそのポケモンは見えないが、泉までの距離はそう遠くは無い。イワークを数体並べたぐらいの長さだ。  
このまま気付かれないように、ゆっくりと近づいていこう。  
さっと木から飛び出して、すぐ近くにある木へと再び身体を隠す。  
二、三度それを繰り返し、ついに毛の持ち主であるポケモンが視界に映った。  
全身が先程見た金色の毛で覆われている狐が、太陽の光を浴び燦然と輝いている。  
また、遠くから見ても目立つ赤い双眸はまるで綺麗な宝珠のようだ。  
身体の中で一番目立つ九本の尾を揺らしながら、泉へと首を伸ばしている最中だった。  
(キュウコン……ッ!)  
木陰にいる自分にはまるで気づいていない様子の、のんびりとしたキュウコンとは裏腹に、僕の心拍は一気に赤く燃え上がった。  
あの出来事以来、炎ポケモンを見かけると冷静ではいられなくなってしまった。  
他のポケモンは程々で解放することが多いが、炎ポケモンだけは話が別だ。  
自分をこんな目に合わせた炎ポケモン。許してはおけない。  
気付かれない内に、いつものように眠らせてやろう。甚振るのはそれからだ。  
 
必死に一旦頭を冷やして、必要な技をゆっくりと思い浮かべる。  
右手に握っていた筆先の色を淡い緑色へと変化させ、それを口元へと持っていく。  
勢いよく息を吹きかけると無数の細かい粒子が拡散された。  
この森にいたパラセクトが使っていた『キノコのほうし』だ。少しでも吸い込めばすぐに効果を発揮する。  
(……いけっ!)  
尻尾で起こした弱い『かぜおこし』に乗って、胞子がキュウコン目掛けて飛んでいく。  
丁度水を飲み終えたらしいキュウコンだったが、それに気づくのが一歩遅かったようだ。  
顔を上げたところに胞子が降り注ぎ、泉の横へゆっくりと倒れ込んだ。  
遠巻きに眺めている分には眠りに落ちた、と言えるだろう。ぴくりとも動かない。  
だけど眠ったと見せかけた芝居かもしれない。過去にはそういうことがあったから、警戒心も働く。  
それでも一向に動く気配が無いのでそっと木陰から抜けだし、眠っているキュウコンへと近づいていった。  
地面に落ちている葉を踏む音程度で起きる訳が無いが、一応忍び足はやめずに。  
キュウコンの真横まで来ると、寝顔がよく見える。  
安らかに眠るその顔がこれから苦痛と恥辱で歪むかと思うと、さっきまで落ち付かなかった頭も冷静さを取り戻した。  
さて、どこで事を成そうか。とは言っても、どこだろうと『ひみつのちから』で場所を作れば済むことではあるが。  
ある程度広い所でないと十分な広さのある空間は作れないため、場所を探す必要があった。  
この辺りに手頃な場所はないだろうか、と周囲を見回す。  
その瞬間。  
背後からひゅっと風切り音が聞こえる。  
しまった、と振り返ったが一歩遅かった。  
「かはっ……!」  
眼前に迫る二本の前脚が僕の身体を地面へと押し倒していた。  
背中から勢いよく叩きつけられて、思い切り息を吐いてしまう。  
見上げると、僕の鳩尾を踏み付けた状態で薄く笑みを浮かべるキュウコンの顔があった。  
確かに胞子を吸い込んで倒れたはずなのに、どうして。  
「出会い頭で眠らせるとは、中々いい趣味じゃの」  
柔らかい声音で語りかけるキュウコンであったが、僕の耳には入らない。  
今考えるべきは、自分の持つ技でいかにこの状況を切り抜けるか。こんな炎ポケモン一匹に僕が負けるはずがない。  
まずは相手の技を封じることが先決だ。どんな技であろうと僕なら大抵は封じられるはず。  
尻尾に軽く触れ、心の中で念じて『ふういん』を使う。  
が、何故か技が発動した気配が無かった。どういうことだ。  
 
こちらの思惑が伝わったのか、キュウコンは唇を軽く釣り上げる。  
「『ふういん』かの? 使えないじゃろう。早い者勝ちじゃ」  
その言葉ではっと気付く。キュウコンは進化前に『ふういん』を覚えられたはずだ。  
確かに自身の持ち技を全て使えなくする『ふういん』は便利だが、その技自体を使えなくされてはどうしようもない。  
完全に眠らせたと思っていたので、油断して『ふういん』をかけるのを怠ってしまっていた。  
自分の詰めの甘さに腹が立つが、それならもう一度眠らせればいい。『キノコのほうし』なんて覚えているはずが無い。  
再び尾先を変色させ、身体の下敷きになっている尻尾をかろうじて動かし、キュウコンへと胞子を飛ばす。  
キュウコンは特に警戒すること無く胞子を浴びた。これで再び眠りに落ちるだろう。  
だが、今度はそれらを吸い込んでもキュウコンが昏倒することは無かった。  
「なんで……だよっ……!」  
思い通りにいかない苛立ちから、思わず口走ってしまう。  
「眠らないようにする技など、いくらでもある。『しんぴのまもり』が珍しいかの?」  
「……最初から使ってたのか」  
「いや? こういう輩がたまに居るから、ラムの実を持っていただけじゃ」  
落ち付いた雰囲気を崩さないキュウコンに、ぎりりと唇を噛み締める。  
技を封じられない。状態異常にすることも出来ない。こんな状況は初めてだった。  
こうなると一気に不利になる。いくら技が豊富だろうと、自分の素の能力が高くないのは自分が一番よく知っていた。  
例え弱点の水や地面技を使ったとしても、自分より格上の相手には気休め程度のダメージしか与えられないだろう。  
自分の弱さを露呈されたかのような、嫌な感覚だった。  
「さて」  
キュウコンは一人ごちて、ぐっと前脚にかける力を強めたようだ。  
体重は僕の半分以下なはず。なのに、その力は僕の対抗出来るようなものでは無かった。  
肺から空気が抜け出て、苦しさに呻き声を上げてしまう。  
「止めといくかの」  
そう言うと、キュウコンは大きく口を開いた。  
喉奥に真っ赤に燃え盛る炎が覗いて見える。『だいもんじ』だろう。まだ放たれてもいないのに、圧倒的な熱さが伝わってくる。  
もう僕の力ではどうする事も出来ない。そもそも、負けてしまった僕なんか既に無価値だ。消し去ってくれるのなら手間が省ける。  
ゆっくりと目を閉じて、技が放たれるのを、自分の身体が一瞬で燃え尽きるのを待つ。  
色々思い出すことはあるけど、もうそんなことはどうでもよかった。  
碌な事の無かった世界に、早く別れを告げたかった。  
 
だが、いつまで経っても火炎が僕の身を襲うことは無かった。身体に感じていた熱もいつの間にか消え去っている。  
目を開くと、口を閉じ火炎を収めたキュウコンが先程と同じ顔で僕を見つめていた。  
踏みつけていた脚をゆっくりと離し、地面に転がっている僕の真横に降り立つ。  
「……なんての。私はそんな趣味は無いんじゃ。何処へでも行くがよい」  
ふい、とあらぬ方向を見つめてキュウコンは言った。  
生かされたのか。こんな雌に。こんな炎ポケモンに。  
少し前なら、ここで怒りを覚え、必死に反撃しようと躍起になったはずだ。  
だけど、今はとてもそんな気になれなかった。  
唯一の支えであった、誰にも負けないという自信が砕かれた今、僕の心は空虚だった。  
何処へでも行け? 僕には殺されるよりよほど辛い言葉だ。  
それでも、キュウコンは動く素振りも見せないから本気なのだろう。  
もう生きる気力も無い。これから一体どうすればいいのか。  
ゆっくりと立ち上がった僕は、ふらふらと森の奥へと歩いて行った。  
 
 
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まだ、後ろにいる。  
何のつもりなのか。何処へでも行けと言い、それなのにずっと付き纏ってくる。  
もう、放っておいて欲しいのに。  
「……付いてくるなって言ってるだろ!」  
足を止め今度は振り返り、声を荒らげて叫ぶ。  
僕の怒声を聞いても、それでもキュウコンの赤い瞳は微塵も揺るがなかった。  
澄まし顔を崩さずに、真っ直ぐにこちらを見つめている。  
「ふふ、可笑しなことを言う。何をしようと勝者の勝手であろう?」  
勝者の勝手。まるでこれまでの自分の所業を見透かされたかのような錯覚を覚える言い方だった。実際は今、この状況のことを言っているのだろうが。  
このままでは埒が明かない。  
「何で、付いてくるんだよ……」  
つい、口から出てしまったのはそんな言葉だった。  
「ふむ……」  
これまで何をしようと動じなかったキュウコンが、初めて何かを言い淀む素振りを見せる。  
そんなに言いづらい理由でもあるのだろうか。僕にとどめを刺さず、後を付けてくる理由が。  
視線を森の木々へと移して、遠くを見るように目を泳がせていた。  
わざとらしいそんな仕草を見ているのも辛いが、何なのだろうと気にはなる。  
日光を受け、燦然と輝く尻尾をぱたりと振って佇んでいたが、再び僕の方へと向きあうとゆっくりと口を開いた。  
「そなたは」  
と、首を擡げて。  
「寂しそうな目をしておる」  
一瞬、何を言われたのか分からなかった。  
あまりにも率直で、あまりにも突然すぎるその言葉。  
それを耳に入れ、それを脳が理解するまでの瞬時の出来事が、随分と長く感じた。  
 
「な、なに、ふざけたこと言ってんだよ……」  
大声で反論したつもりが、口から発せられた言葉は意に反する震えた、とても小さい声になってしまった。  
キュウコンはそんな僕を蔑むものでもなく、同情するでもない視線を向け、僕を見つめている。  
「助けて欲しいと、許して欲しいと、瞳がそう言うておる」  
「ふ、ふざけ―――」  
るな、と最後まで言う事が出来なかった。数歩分離れた所にいたキュウコンの姿が突然消え去る。  
どこだ、と探す間も無く、次の瞬間には目の前に現れていた。  
僕の肩に、その顎を乗せて。  
「……どけよ」  
「どかぬ」  
炎ポケモン特有の暖かさが肌を通じて伝わってきた。  
春先に生る木の実のようなほのかに甘い香りも鼻をくすぐる。  
「何なんだよ……! 何でこんな事するんだよ……っ!」  
感情の波と共に、それまで長い間我慢していたものが決壊した。  
僕の頬を伝ってキュウコンの身体へと雫が流れる。  
「愛しき者の傍に居たい。ただ、それだけじゃ」  
出会って間も無い相手に、そんな言葉を向けられる。  
馬鹿げたことだ。まるで信じられない。何を企んでいるんだ。  
頭の中では全力で否定していた。ただ、それでも。  
「…………っ!」  
暫く僕の涙が止まる事は無かった。  
 
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「ほう、実際に見るのは初めてじゃが便利な技じゃの」  
僕が落ち着くのを待って、キュウコンはどこかゆっくり出来る場所はないか、と提案してきた。  
僕も疲れてしまっていたので特に何も考えずに、そんなのすぐに作れる、と返す。  
適当に歩いて見つけた、丁度いい広さが確保出来そうな岩壁に向かって『ひみつのちから』を使った。  
見るからに硬そうな岩が、何かが溶けるような蒸発音と共に消えていき、奥深い洞窟のような空間の出来あがりだ。  
その様子を見て、キュウコンは感嘆の声を上げたようだった。  
「……別にお前の事、信用したわけじゃないからな」  
振り向いて、四つ足で座っているキュウコンを睨みつける。  
そう、僕は誰も心から信じたことなんて無い。  
少し仲良くなったと思ったら都合良く利用される。こちらが寄せていた信頼も悉く裏切られる。  
このキュウコンだってどうせ同じだ。言葉でいいように操ってわるだくみをしているんだ。  
だけど、少しだけ、本当に少しだけ他のポケモンとは違うように思えた。  
今まで他のポケモンに涙を見せた事が無かった。  
いや、苛められて辛い目に合わされた時なんかは泣いてしまったかもしれない。  
だけど、さっきのように誰かに泣きつく事は初めてだった。  
 
「そうかの。私はそなたの事、信じておるんじゃが」  
このキュウコンは歯に毛皮を着せる事を知らないらしい。  
こんな物言いを正面からされるとこっちが恥ずかしくなる。  
僕はキュウコンを無視して、そのまま洞窟へと足を向けた。  
ふふ、と小さな声で後ろから笑う声が聞こえ、キュウコンも付いてくる。  
内部は外からの光を遮断するにも関わらず薄明るくなっている。どういう構造なのかは技を使った僕も知らないが。  
それにしても、僕がこいつにそこまで言われる理由が分からない。  
出会ってから今まで、まだ数十分しか経っていない。  
その間の出来事は、僕が襲いかかろうとして、ねじ伏せられて、後を付けられて。そんなものだ。  
出来たての洞窟を進みながら思考を巡らせていると、キュウコンが突然口を開いた。  
「長く生きておるとの、妙な巡り合わせもあるものじゃ」  
声色や先の戦闘での力強さからてっきり若いものだと思っていたので、その口ぶりが引っかかった。  
だけど、キュウコンという種族は千年生きると聞いた事がある。  
一体何歳なのだろうと思いつつも、話が続く気配がしたので耳を傾ける。  
「そなたは、幼い頃の記憶がないであろう?」  
キュウコンの言っている事は正しい。  
確かに、ずっと一人でこの森に住んでいたけど、両親の顔も覚えていないし、暮らすようになった経緯も覚えて無い。  
だけどそれをどうしてこいつが。  
「……だったら何だよ」  
「昔話になる。そなたの父、ウインディはとても凶暴なポケモンであった。以前ここに居たバクフーンとは比較にならぬほどにの」  
思わず胸の辺りをぐっと抑えてしまう。  
自分の父親が誰であるか漸く分かったというのに、自分にそんな血が流れていると思うだけで、これまでの所業も相まって自分が嫌で仕方が無くなる。  
「番であるドーブル、そなたの母は、森の木々を焼き尽くす夫に何度もやめて、やめてと懇願したのじゃ。その度に傷つき、罵倒され、時には強引に犯されたり、の」  
「そうして出来た子が、そなたなのじゃ」  
視界が俄かに曇った。  
まだ見ぬ可哀そうな母と、母に暴力を振るった炎ポケモン、ウインディ。  
そして、強姦されて出来た子供が僕。  
望まれて生まれてこなかったであろう僕。  
泣きたくて仕方が無かった。  
「だがの、そなたの母は生まれてきたそなたを、精一杯愛しこそすれ、疎ましく思うたり、番の血が流れている穢れた子、などと一切思うていなかった」  
「え……?」  
「実に大切に育てられていた。火傷で爛れた身体を引きずり木の実を取り、与え、痛む傷跡を隠しながら、それでも笑顔を絶やさずに、そなたを育てた」  
複雑な気分だった。  
感謝すればいいのか、悔めばいいのか。こんな風になってしまった自分にそこまで尽くしてくれた母に。  
 
しかし、それなら当然疑問に思うことがある。  
「それなら……どうして僕を置いてったんだよ」  
「殺されたんじゃ、そなたの父に」  
「―――!」  
「父から見れば癪だったんじゃろう。自業自得とは言え、自分に向けられない愛情が息子に注がれるのが」  
動悸が途端に激しくなった。  
優しくて、自分を愛してくれた母はもう居ない。  
自分が生まれたせい所為で母は。  
我知らず荒くなっていた呼吸が落ち着くと、キュウコンは言葉を続けた。  
「……自分の死期を悟ったのであろう。そなたの母は命を落とす前、酷い火傷を負った姿で私の前に現れた。頼みごとがある、とな」  
「『この子供を一週間だけ預かってほしい。そして、記憶を消してこの森で暮らしていけるようにしてほしい』そう、懇願してきた」  
「それじゃあ、お前は」  
震える声を絞り出す。  
「僅かの時ではあったが、そなたと暮らした事がある」  
「そ、そんな……」  
信じられなかった。  
生まれた時から捨てられて、誰にも愛されて来なかったと思っていたのに。  
自分には母が居て、そしてキュウコンにも育てられて。  
「そう言って、そなたの母は私にそなたを預け、事切れた。私も、それを引き受けることにしたのじゃ。雌として、この森に住む者として、許せない事もあったしの」  
「そなたの父は勿論後を追って来て、私と対峙した。強敵じゃったが、何とか退けた。次にそなたの噂を聞き付けたら今度こそ命を奪う、と脅しつけてな」  
「逃がした、のか……?」  
風の噂によると結局あのバクフーンは生きているらしい。  
僕は見逃すつもりなんて無かったけど、結果的にはこのキュウコンと同じ事をしたのか。  
「ああ、何処ぞで生きているやもしれぬな。だが、何も音沙汰無いということは改心したのかもしれぬ」  
自分の母親を殺した父が未だ生を保っているかもしれない。  
それを嬉しい、とは勿論思わなかった。だけど不思議と、憎い、ともさほど思わなかった。  
「そうして、そなたの母との誓い通り、私は一週間だけ面倒を見たのじゃ。そうは言っても、両親を一気に失ったそなたは、まるで抜け殻じゃった」  
記憶に無いのだから実感などあるわけない。  
しかし、その時の情景は思い浮かべるだけで可哀そうで、辛くて。  
「そのような状態のそなたを置き去りにして気がかりではなかった、と言えば嘘になる。されど、約束は約束。『さいみんじゅつ』で記憶を消して、森に投げ出したのじゃ」  
「……それで、お前は」  
「私は、もう忘れようと思うていた。罪悪感から逃れるために。勝手な情を抱いてそなたに声などかけてしまわぬように。しかし、あの日見かけてしまった」  
あの日。忘れもしない。  
僕が森を飛び出すことになった、あの日。あの出来事。  
 
「そなたの瞳は憎悪以上に、悲哀と、空虚と、寂しさに溢れていた。声をかけようか、と逡巡している内に、そなたは行ってしまった」  
キュウコンはそこで大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。  
後が続く様子がないところを見ると、長い告白は終わったようだ。  
僕はあの時どうして欲しかったんだろう。  
確かに何もかもめちゃくちゃにしたい、そう思って森を出た。  
でも今思うと誰かに止めて欲しかったのかもしれない。  
自分の面倒を見てたというこのキュウコンに、自分の行いを許して欲しかったのかもしれない。  
「じゃが、今はそなたが無事で生きていてくれたことが、この森に戻ってきてくれたのが、嬉しいのじゃ」  
ぴた、と立ち止まってしまったのは決してキュウコンの言葉に対して、では無い。丁度そこで洞窟が行き止まりになっていたから。  
後ろを振り返るとキュウコンは相変わらず、九本の尾を陽炎のようにゆらゆらと揺らしながら佇んでいた。  
「僕は、炎ポケモンが本当に嫌いなんだ」  
「そうかの」  
「この消えない火傷の傷も、この性格も、そして……母さんも。全部、全部炎ポケモンのせいだ」  
薄暗いこの場所でも、キュウコンの身体は仄かに輝いている。  
生々しい火傷痕が残る自分の身体と比べてみると、身体の端から毛の一本一本に至るまで、綺麗な見た目をしていた。  
「だから、これからすることは……」  
お互い真っ直ぐにしていると、背の高さがほぼ同じなので目線がぴたりと合う。  
歪んでしまった僕とは違う、柔和な光を秘めた瞳。  
そこへと吸い込まれるように、キュウコンへと近づいていく。  
毛先が触れ合うぐらいの距離まで来て、足を止めた。  
「変な勘違いするなよ」  
キュウコンの顔を強引に自分の方へと引き寄せる。  
そのまま顔を右に傾がせて強引に唇を奪った。  
「んむっ……」  
さすがのキュウコンも突然の行動に目を丸くしていた。ちらりと見ると、瞳にははっきりと動揺が見て取れる。  
内心では気弱で情けない雄、とでも思っていたのだろう。その考えは正してやらないといけない。  
重ねた口元をこじ開けるように舌を侵入させていく。  
炎ポケモン独特の、高い体温を持つねっとりとした口内に赤い肉を這わせる。  
顔が火照ったように熱い。熱が舌を通じて僕の身体を侵食するような錯覚に陥る。  
燃えるような粘膜の中、キュウコンの長い舌に触れ合い、それに絡めるように自分の舌を密着させる。  
互いの唾液が口内で絡み合って、舌での愛撫を潤滑にする。  
まさに目と鼻の先にあるキュウコンの頬は、金色に若干の朱を溶かしたような色合いになっている。  
これまでは強姦まがいの事ばかりしてきたため、相手が嫌がらずに行為をするという経験は初めてだった。  
 
うっすらと目を細くし、顔を紅潮させて口づけをしている相手が少しだけ愛らしく見えた。  
暫く舌を絡め合って、ゆっくりと顔を、身体に回していた両腕を離す。  
二匹の口を結ぶ唾液の橋が地面へと垂れていった。  
「ふふ……そなたも意外と積極的じゃ」  
舌先で自分の口元をぺろりと舐め、キュウコンが笑いかけてくる。  
「……いつまでも余裕ぶってられると思うなよ」  
「それは、楽しみじゃの」  
僕も右手で濡れた口吻を拭って、軽く一睨み。  
まだその落ち付いた雰囲気を崩そうとしないキュウコンだが、多少息遣いが乱れてる。  
もっと、もっと乱れるところが見てみたい、と自分でも不思議な感覚を覚えた。  
「…………」  
無言でキュウコンの胸にある立派な毛を両手で掴み、後ろへと体重をかける。  
先程の力強さを発揮されたらどうにもならないが、元々体重は僕のほうが上。  
抵抗されることも無く、キュウコンをゆっくりと仰向けにさせる。  
背は地面には付いていない。九本の尾があるため、それらに寄りかかるような体勢だ。  
顎を引いてじっとこちらを見ているキュウコンをよそに、僕は抑えていた身体を放す。  
前脚を掴んで軽く左右に開かせ、胸元へと顔を埋めた。  
「ふっ……んふっ……!」  
うっすらと膨らんでいるキュウコンの胸部に、まだ熱の残っている舌を巡らす。  
柔らかで弾力のある胸だ。モモンの実のような感触のそこを丹念に舐め上げる。  
キュウコンは堪らずくすぐったさと色の付いたのが混ざったような声を上げている。  
いい気味だ。そう思うのと同時に、この声をもっと聞きたい、とも思ってしまった。  
キュウコンの両前脚から手を放して、足の付け根までを撫で下ろす。  
身体を、特にどの辺りを弄ると効果的かはだいたい知っている。  
キュウコンもその知識の例外には居ないようで、先程から上げている声を若干強める。  
そのまま背中、脇腹、柔らかなお腹、下肢へと指を這わせる。  
「かっ、加減無い、のぅ……」  
我慢出来ない、といった感じでキュウコンは言葉を吐く。  
一旦舌と手の愛撫をやめ、ちらりと赤らんだ顔を見た。  
「楽しみ、なんだろ?」  
「……ふ、ふっ……」  
笑いながら、微かに震える前脚を伸ばして僕の耳を軽く動かしてくる。  
何だかむず痒さを覚えて、少し俯いてしまう。  
その拍子に、下腹部よりさらに下、キュウコンの秘部が視界に入る。  
先程までの行為が刺激となり、順応に反応したそこは炎の輝きを反射して妖艶な滑りを湛えていた。  
どくん、と自分の鼓動が一つ大きくなるのを感じる。  
視線に気付いたのか、キュウコンが少し恥ずかしげに呟く。  
「久々、じゃからの……。刺激に弱うなっておるのかもしれぬ」  
 
自分のブランク、ということであくまで僕を認めるということはしないらしい。  
身体を少し後ろに下げ、眼前に雌の生殖器が来るようにする。  
「弱いところ、ちゃんと見せろよ」  
キュウコンが小さく笑うのに構わずに、鼻をスンと鳴らす。  
頭がぼうっとしてしまう薄い雌の匂い。  
本能を抑えることをせず、そのまま濡れた割れ目を舐め上げる。  
ビクン、と痙攣したかのようにキュウコンの身体が揺れた。撫でていた前脚も虚空を掻き空振りする。  
先程までの余裕は何処へやら。ここまで敏感だとは思わなかった。  
反応を窺うべく、わざと舌を鳴らして水音を立てる。  
「こ、これっ……!」  
羞恥で耳まで朱を帯び始めたキュウコンが制止の声を上げる。  
周りに誰もいないというのに変な所で弱いんだな。  
そろそろいいだろう。僕も我慢が出来ない。  
舌での愛撫をやめてその場に立ち上がる。  
キュウコンは息を整えていたが、ゆっくりとこちらを見ると、  
「中々、立派じゃの?」  
「……うるさいな」  
いつもの茶化すような声に戻っていた。  
先程までの前戯で、既に僕の一物は真っ直ぐに天井を指している。  
根元が太く、先に行くほど細く尖った犬科特有の形状。  
認めたくは無いけど、身体つきは適度に柔らかく、欲望をかき立てる甘い声が耳に残って離れない。  
「優しく、の」  
キュウコンは自分の尾に寄りかかったまま後脚を軽く持ち上げ、誘うような格好を取っている。  
その脚を両手で掴み、ぐいっと左右に開く。  
露わになったひくひくと誘うように動く肉壁に自身の肉棒をぴた、と宛がう。  
間から覗いて見える表情はどこかくすぐったそうな、照れくさそうな。  
自分の面倒を見ててくれたというキュウコンと今こうして交わっている。  
おかしな関係だが、不思議と悪い気はしなかった。  
「いくぞ」  
キュウコンがこくりと頷く。  
ゆっくりと腰を前に突き出し、怒張した先端を膣口に沈みこませる。  
「ん、んぅっ……!」  
くちゅっと水音を立てて挿入されたペニスは、じっとりと濡れた膣壁に抵抗無く飲み込まれていく。  
キュウコンは口元をだらしなく開いて苦悶とも快感とも取れる表情を浮かべている。  
「あっつ……」  
雄を包み込む熱さに自然と声が出てしまう。  
炎ポケモンだけあって他の種族とは比べ物にならない程温かく、経験もあまり無いのか締まりの良い体内だ。  
ずっ、ずっ、と少しずつ身体を前に押し込んでいき、肉同士が擦れる感触を味わう。  
その度にキュウコンの口から堪え切れないのか嗚咽に似た甘い声が漏れ出てくる。  
「ひうぅ!」  
根元が埋まるか埋まらないかのところで先端が行き止まりにぶつかった。  
軽くとんと突かれただけなのに、キュウコンはこれまでと反応を異にして高い声を上げる。  
 
「随分敏感なんだな、経験豊富そうなのに」  
自分の顔が上気づいているのを感じる。  
このままだとすぐ果ててしまいそうだから、休みがてら言葉を投げかける。  
「そ、そう見えるだけじゃろう。そなたと違ってこういう経験は少ないんじゃ」  
老獪そうなこの女狐は意外と初心だったということか。  
それならもっと攻めて、攻めてやりたい。  
バトルで勝てなかった分の誇りをここで取り返してやろう。  
「ならもっと激しくしてやるよ」  
「や、優しくと言うた……ひゃうんっ!」  
キュウコンの懇願は途中で悲鳴に変わった。  
最奥まで挿れられた肉棒を一気に引き抜き、体外に露出させる。  
拍子に先走りとも愛液とも付かない粘質の液体が秘部を伝って地面を濡らす。  
洞窟のひんやりとした外気が一物に纏わりついてくるが、キュウコンの熱はその程度で冷めるものではない。  
再度狙いを定めて肉茎を押し当てると、遠慮なく一気に奥まで貫いた。  
甲高い声が耳を通り抜け、下半身から伝わってくる感覚と共に脳を痺れさせていく。  
相手から伝わってくる体温も、鼓動も、感じられる。  
再度腰を引いて、また打ちつけて、その度に淫猥な音とキュウコンの声と僕の息遣いが混じり合う。  
不意に視界が霞んだ。  
それでも腰を前後させる動きは止まらない。  
「はっ、んぅっ……! そ、そなた、泣いて、おるのか……?」  
「……うる、さい」  
泣いてなんかいるわけない。  
ただ良く分からない思いが胸に渦巻いているだけだ。  
その思いを振り払うべく、さらに動きを早めてキュウコンを責め立てる。  
「んああぁっ! も、もう……!」  
限界が近いのか小刻みに震える振動が伝ってくる。  
僕の雄槍も今か今かと吐精をせがんで先走りを流し続けていた。  
とどめとばかりに腰を打ちつける音を辺りに響かせ、肉棒と膣内を刺激する。  
キュウコンは、はあはあと息を小刻みに切らせ口からは涎がつつと垂れていた。  
瞳はどこか虚空を眺めているようにも見える。  
現実に戻してやるべく、今相手をしているのは僕なんだと思い知らせるべく、最も敏感な箇所を突き上げた。  
 
「ひゃうううぅん!」  
尾を引く長い嬌声を上げて、キュウコンが絶頂に達したようだ。  
挿入された肉棒の隙間から分泌液が溢れ出て、同時に肉壁が左右から強烈に締め付けてくる。  
一気に圧が押し寄せてきて必死に耐えていた肉茎も我慢をやめたようだ。  
「うっ……! くぅ……っ!」  
封を切ったようにどぷっどぷっと雄の精が注ぎ込まれていく。  
ペニスが脈動がする度に膣壁に刺激を与えて、達した直後で敏感なキュウコンは前脚を震わせている。  
うっすらと目を開いて、胸で息をしているその相手に何か思い違いしてしまいそうなほど、その姿は愛おしかった。  
長く続いた吐精も終着を迎えて、雄も徐々に硬さを失っていく。  
もう少し繋がっていたかったが、今は戦いの後ということもあって限界だった。  
腰を静かに引いて、肉棒を抜き取る。  
二匹の液体が混ざり合った薄い白濁がどろっと秘所から零れ落ちた。  
「全く……少しは加減というものを知らないとじゃろうか……」  
キュウコンが薄く口元に笑みを浮かべて首を傾げる。  
言い返そうと思ったが、意識を保てたのはここまでだった。  
色々ありすぎて心も身体も持たなかったのだろう。  
最後に記憶に残っていたのはキュウコンが心配そうな声を上げたとこまでだった。  
 
 
 
夢を見た。  
そよ風が草原を撫でるその中で、キュウコンとドーブルが並んで遠くを見つめている。  
突然、二匹の間からぴょこんと顔を出すこげ茶色の狐。  
渦を巻くようにカールした六本の朱を帯びている尻尾をわさわさと揺らしながら、無垢な笑みを二匹に向けている。  
ドーブルはその子をひょいと拾い上げると、頭の帽子の上に静かに乗せてやった。  
普段とは違う視界に目を輝かせながら、その幼い狐は隣のキュウコンに何かを口早にまくし立てている。  
金色の狐は口元に優しい微笑を湛えながら、要領を得ない子供のおしゃべりに頷いている。  
そんな、ごく普通の、ポケモン一家の夢だった。  
 
目が覚めると、既に日が沈んで真っ暗だった。  
洞窟にいたのに、外にいるということか。  
ゆっくりと身体を起こすと、目の前に泉があった。  
満月が水底に沈んでいるみたいに、綺麗に水面にうつっている。  
綺麗だな、と不思議と素直に思えた。  
「起きたかの?」  
声がしたので振り返るとキュウコンが座っていた。  
「勝手に連れ出すなよ」  
「仕方ないじゃろう。お互い、身体が汚れたままあの場所に居てものう」  
言われて自分の身体を見ると、行為が幻だったみたいに痕跡が残っていなかった。  
キュウコンも既に身体を洗った後なのか、全身が月明かりを浴びて美しく輝いている。  
「そなたに、この月を見せたくての」  
ふいと上を仰いだキュウコンに釣られて空を見上げる。  
新円を描いた、キュウコンと同じ色の月。  
周囲の木々も崇めるように夜空の道を開けて、その中央に鎮座している。  
「こんな風に空を見上げたのは初めてだ」  
思わずこぼれ出た独り言にキュウコンが優しく笑いかけてくれた。  
もう少し月を見ていたかったけど。  
「あの、さ」  
「何じゃ?」  
雰囲気が後押ししてくれないと、僕の勇気じゃもう二度と言えない気がしたから。  
「もう一度、一緒に、いてくれないか」  
最後のほうは尻すぼみになってキュウコンに聞こえたかどうか分からない。  
だけど、きっと聞こえていたんだと思う。  
キュウコンは柔和な笑みと共に身体の後ろから何かを取り出すと、それをころころと転がしてきた。  
尻尾でそれをぴたりと止めると、言葉を失ってしまった。  
「出来てしまったものはしようがない。責任持って育てないと、のう」  
不思議な模様が描かれた楕円形のそれからは、どくん、どくん、と鼓動が伝わってくる。  
さっきのは夢なのか、未来なのか。  
けど、そんなことはもうどうだってよかった。  
 
 

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