『May Day's Night』  
 
 ブラックがポケモンリーグを制覇してから数ヶ月。  
 ブラックはフキヨセシティでの祭典を見に来ていた。  
 5月1日、メーデーの祭典である。  
「ブラックくん……あぁ、やっぱり! ブラックくんだ!」  
 後ろから声を掛けられ、少し驚くも、すぐに微笑み返した。  
「フウロさん。お久しぶりです」  
 真面目な彼らしい、真面目な挨拶。  
 フウロも笑顔を崩さず、返す。  
「うん、久しぶり。ブラックくんは何しに来たの?」  
「お祭りがある、と聞いたので……少し見に来ました」  
 相変わらず笑顔で答えるブラックに、フウロは少しドキドキしていた。  
 
「フウロさんはこんな所に居て良いんですか? 確か、街の有力者が何人かスピーチをするとか……」  
「あ、ううん。大丈夫! 私は断っちゃったから!」  
「そう、ですか」  
 ブラックが怪訝な顔をした。  
 そんな顔に、またフウロは胸の鼓動が高まるのを感じた。  
「ね、ねぇ、ブラックくん」  
「はい?」  
 ブラックがすぐに微笑を作る。  
 表情豊かだ。  
「ちょっと、一緒に見て回らない?」  
「? どうせ暇ですし、良いですよ」  
 顔が赤くなっていたのだろうか、ブラックは少し不思議そうに首を傾げながら答える。  
 フウロはその表情も可愛く見え、更に胸の鼓動が高まるのを感じた。  
 
 楽しい時間はあっという間に終わり、夕方になった。  
 祭典の片付けをする地元の作業員達が慌ただしく動くのを遠目に見ながら、ブラックとフウロはジムの屋上に座っていた。  
「…聞いた話なんですが、この街のメーデーの祭典は“日本風”なんだそうです」  
 その話はフウロも知っていた。  
「市長がすごい親日家らしくて、日本のお祭りに似せたらしいのですが……フウロさん知ってました?」  
 微笑みながら、語り掛けてくるブラック。  
 口には出さないが、それが愛しくて堪らない。  
 フウロは小さく頷くのみだった。  
「…やっぱり、ジムリーダーってすごく街と親しんでるんですねー」  
 ブラックがごろん、と屋根の上に寝転ぶ。  
 フウロは、膝を抱え、夕陽を見ながら尋ねた。  
「ブラックくんはさ、好きな人って……居る?」  
 夕陽が二人を赤く染める。  
 まるで、フウロの赤面を隠すように。  
 
「好きな人、ですか……」  
「私は、居る」  
 ブラックはすっと起き上がった。  
「それは幸せなことですね。僕で良ければ応援しますよ」  
 ニコリ、と笑うブラック。  
 フウロは心臓が破裂しそうなくらい、ドキドキしているのを感じていた。  
「ブ、ブラックくんには、無理、だと思うよ……?」  
「…? 僕じゃ不足ですか?」  
「そうじゃないの」  
 フウロは不思議そうに自分を見つめるブラックが愛しくて堪らない。  
 しかし、ブラックには、幼なじみの少女が居るのを知っている。  
 恐らく、自分のことなど気にも留めていないだろう。  
 ――罪、よね。  
 フウロはゆっくりと立ち上がり、ブラックに尋ねた。  
「今夜、泊まる所って用意してる?」  
 
 ブラックは、宿を手配していなかった。  
 夕方頃にシンボラーの“そらをとぶ”でカノコの自宅まで帰ろうとしていたのだ。  
 フウロはそれを引き止め、宿を手配する、と言った。  
「…すいません。ご迷惑をお掛けして……」  
「あ、いや、ううん、良いの! うん! 気にしないで!」  
 フウロが言うと、ブラックはまた不思議そうな顔をした。  
「…フウロさん、なんか落ち着きがないですよね?」  
「えっ!? あ、いや、気のせいだよ気のせい!」  
「そうですか? もし体調でも悪ければ、すぐに……」  
「び、病院じゃ無理! 治せないと思う!」  
 静かなジム内にフウロの声が響き渡る。  
 すぐに自分の失言に気付いたが、もう遅かった。  
 ブラックがフウロの手を取る。  
「ど、何処が悪いんです!? そんなに重要なこと、何で……んっ」  
 フウロはブラックを引き寄せ、口付けた。  
 
 口を離したとき、流石にブラックも赤面していた。  
 フウロは少し上目遣い気味にブラックを見つめ、言った。  
「恋の病……だよ……」  
「ふぇっ!?」  
 ブラックがベルのような声をあげるのと同時に、フウロはぎゅっとブラックを抱き締めた。  
「ごめんね……ブラックくんには、ベルちゃんが居るのに……ごめんね……」  
 フウロの目に涙が浮かぶ。  
 ブラックはあたふたするばかり。  
「それでも、私はブラックくんのことが……好き」  
 ブラックはあからさまに驚いた様子を見せる。  
 しかし、すぐに言葉を返した。  
「僕も……フウロさんのこと、好きです……」  
「え……?」  
「ですから、……僕も、フウロさんのことが好きですっ!」  
 ブラックが叫ぶ。  
 フウロはゆっくりと、ブラックを離した。  
 
 ブラックはフウロを見つめている。  
 それが、妙に恥ずかしくなって、また口付けた。  
「んちゅ……んっ、はぁ……ん」  
 フウロの舌がブラックの口内に進入し、互いに舌を絡め合う。  
 薄暗いジム内は静かな為、小さなキスの音がよく聞こえた。  
 
 次の日、紹介された宿でぐっすり眠ったブラックは、宿から出た瞬間、フウロに捕まった。  
「私達、もう恋人なんだし、デートくらいしても良いよね!」  
「は、はあ……」  
「さ、行こうか、ブラックくん!」  
 フウロに手を引かれ、戸惑いながら着いていくブラック。  
 昨日の照れようは何処に行ったのか、フウロはとても積極的だった。  
 ジムもパイロットの仕事も、休みだと言って、ライモンまで行くことになった。  
 ライモンでは、ミュージカルを見たり、フウロをナンパした男を軽く捻り潰したり、カミツレとのトークに花を咲かせたりと、一日を楽しんだ。  
 
 そして、夕暮れ時。  
 二人は、観覧車に乗った。  
 狭い密室、昼間の明るく、積極的なフウロは、いつの間にか昨日の初々しいフウロに戻っていた。  
 二人が向かい合って座る、ゴンドラの中には沈黙が流れていた。  
「あの、さ……」  
「うん?」  
 ブラックは不意に話しかけられ、少し驚きながらも、返事をする。  
「キス、しよっか……」  
 フウロの提案に、ブラックは少し躊躇った。  
 しかし、フウロがすぐ隣に座り、顔を目の前まで近づけて目を閉じると、すっと唇を重ねた。  
「んっ……ちゅ、ん……」  
「あっ、ん……んぅ……」  
 静かなゴンドラ内に、二人が口付け、互いに舌を絡め合う音だけが響く。  
 
 
 観覧車を降りた後、夕陽に照らされながら、二人はフキヨセまで戻った。  
 流石にフキヨセに着く頃には辺りは真っ暗だったのだが。  
 仕方なく、昨日と同じ宿に泊まることにした。  
 一つ、違うのはフウロが同室で泊まることになった、ということで……。  
「…自分の家がある街に、わざわざ宿に泊まることもないと思いますが……」  
「良いの! 今夜はそういう気分なの!」  
「はあ……」  
 そのまま、フウロは入浴することになった。  
 
「そういえば」  
 ブラックはライブキャスターでベルとチェレンに連絡を試みた。  
 チェレンはすぐに出たが、ベルには繋がらない。  
 この時、ベルが何をしていたかは、別のお話。  
 チェレンも、出た直後、「メーデー、メーデー、君の話を聞いてる暇はない」と言って切ってしまった。  
 ブラックは、ただただ、疑問符を浮かべるのみ。  
 その間に入浴を済ませたフウロは、後ろからブラックに抱き付き、驚かせて楽しんだ。  
 観覧車の中ではあれだけ初々しかったフウロが、昼間のフウロに逆戻りだ。  
 ――女って難しい。  
 そう、ブラックは心に刻み込んだ。  
 
 
 

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