第4話
シッポウジム戦を終えたトウヤは、ポケモンセンターでポケモンを回復させた後に次のジムがあるヒウンシティに向けて出発することにした。
ぽんぽんぽぽぽーん♪(ポケモンセンターで回復する音)
トウヤは回復を終えたので、シッポウシティをたとうとしたその時だ。
「うわ〜ん、まってくれ〜。」
博物館のほうから、男の情けない声がした。
博物館の方角を見ると、一台のトラックが止まっており、その横には声の主と思われる、やはり情けのない男が肩を落としていた。
アロエ「何だい、アンタどうかしたのかい?来訪者に失礼じゃないか。」
博物館の中から、アロエが飛び出してきた。どうやらあれが彼女の夫らしい。猛々しい彼女に似合わない男だ。
アロエ夫「ママ、奇妙な連中に搬送してきた化石が盗まれちゃったよ。」
トウヤは彼の言う「奇妙な連中」という言葉に「ある可能性」を感じ取った。
アロエ「それって、どんな連ちゅ「その人たち、灰色のフードっぽいのかぶってませんでした?」
トウヤがアロエの言葉をさえぎって、アロエの夫に質問した。
アロエ夫「え?そうだよ、なんだかポケモンの化石は人の見世物にするものじゃない、とか言ってたよ。」
間違いない、プラズマ団だ・・・。トウヤの考えていた可能性は見事的中した。
トウヤ「で、やつらはどこへ?」
トウヤは何かを含んだような声で尋ねた。
アロエ夫「え?町の西のほうに、ここから西だとたぶんヤグルマの森になるよ。」
なるほど森なら見つかりにくい、凡愚の割には脳を使っているんだな・・・と、トウヤは黒さを混じりながらそう思った。
トウヤ「ぼくに任せてください。あの連中から化石をとりもどし「待ちなさい君、森には慣れていないんだろう?」
トウヤの言葉をさえぎったのは、一人の青年だった。特徴的な髪形に緑のマントらしきものを羽織っている。なかなか整った顔立ちをしている。
よく見ると、隣はベルがいた。
トウヤ「ベル、その人は?」
トウヤは、なぜベルが見ず知らずの人と一緒にいるのかが少し気になっていた。
ベル「トウヤ、この人知らないの?アーティさんだよ。イッシュでも有名な芸術家でもあり、ヒウンシティのジムリーダーだよぉ。」
アーティという名前を聞いてトウヤは思い出した。ベルが今朝、アーティのアトリエに行くと言ったこと。そしてアーティがヒウンシティのジムリーダーであることを。
アロエ「アーティ、あんたはこの子に付き合ってやりな。素人があの森に行ったら、フシデの毒にでもやられかねないからね。私はその連中が他の化石を盗みにこないか見張ってるから。」
なるほどアーティは虫つかいと聞く。彼は頼もしい存在になるだろう。
アーティ「わかってるよ、姐さん。さぁ、行こう。」
トウヤは「はい!」と、大きな声で反応をした。
「私もいくよぉ!」とベルも付いてきた。
トウヤ、アーティ、ベルの3人はヤグルマの森に向かっていると驚いた顔をしたチェレンがいた。
チェレン「どういうことだ?カラクサで見た連中がヤグルマの森に入っていったぞ。まるで何かから逃げてるように。」
チェレンもプラズマ団を目撃していたらしい。そういえば、この周辺で修業をすると言っていたな、ということをトウヤは思い出した。
トウヤ「あぁ、実際に逃げてるんだよ。あいつら博物館に送られてきた化石を盗んだのさ。僕たちは今それを追っているのさ。チェレン、お前も来るか?」
トウヤがチェレンに説明し、そう質問した。
チェレン「あぁ、面倒なことだが一緒に行く。」
こうして4人はヤグルマの森へと向かっていった。
ヤグルマの森は、かつては現在のライモンシティ周辺まであった巨大の森であり、ライモンシティ東部にある迷いの森はその片割れである。
しかしヒウン、ライモンの開発に伴い多くの木々が伐採された。
ヒウン、ライモン間の4番道路は急速な伐採のため、現在は砂漠化してしまっている。
さらに、森の伐採は多くのポケモンの住処を奪ってしまったため、これに怒ったのが伝説の3体のポケモン「コバルオン」、「テラキオン」、「ビリジオン」と呼ばれている。
しかし一部の歴史書には4体と「もう一匹のポケモン」がいたことを示唆している。
この3体のポケモンは、人間と戦い一時は当時イッシュの首都があったソウリュウシティまで追い込んだが、結局人間側の逆転で敗北した。
その後3体は姿を消し、イッシュは急速な発展を遂げたのであった。
ヤグルマの森に入ると二つの道に分かれていた。
一つはヒウンシティへまっすぐ向かうための舗装された道。もう一つは森を楽しむための舗装されていない自然の道。
普通なら後者の道を選ぶだろう。現に前者の道のほうに立っていたトレーナーによると、フードをかぶった人物は通らなかったと語っている。
アーティ「どうやら、泥棒は森のほうへ逃げたみたいだ。ここで2手に別れよう。森のほうは最終的にはあの出口につながってる。待ち伏せしてれば、必ず捕まるはずだ。挟み撃ちするということさ。」
3人はアーティのいうことに従うことにした。
チェレン「じゃあ、どう別れる「じゃあ、私トウヤと一緒に森の奥に行くよぉ。」
チェレンが言い終わる前に、ベルが即答した。
チェレン「だ、そうだ。トウヤ、いいか?」
チェレンがそう尋ねた。トウヤに異論はなかった。アロエを倒したのだから足を引っ張ることもないだろう。
というわけで、トウヤ&ベルは森の奥へ、チェレン&アーティは出口付近で待機することになった。
トウヤとベルは昼間なのに薄暗い森の中を歩いていた。
森は静かで、小川のせせらぎも聞こえてくる。
ベル「♪〜」
ベルはなぜか嬉しそうだった。おいおい、こいつは今状況がわかってるのか?こんな薄暗い森の中に泥棒がいるんだぞ?、とトウヤは内心思っていた。
とりあえず二人は次々と襲いかかってくるフシデやらホイーガやらクルマユなどを軽く蹴散らして進んでいった。
すると
ベル「トウヤ、せっかくだからポケモン捕まえてみれば?」
こいつはこんな時に何を言ってるんだ?
トウヤは怪訝な顔をした。
しかし、トウヤはベルに少々空気の読めない性格を知っていたので、適当に捕まえることにした。
トウヤはさっそく何を捕まえるか探しみると・・・
ガサッ
草むらが揺れた。飛び出してきたポケモンは・・・綿のようなポケモンのモンメンだ。トウヤは適当にボールを投げたらあっさり捕まった。
トウヤ「草タイプか。まだいないタイプのパーティを加えることができたな。」
トウヤが満足していると
ベル「ね、ねぇ、トウヤ。そのポケモンと私のポケモンを交換してみない?同じ草タイプのチュリネってポケモンなんだけど・・・。」
トウヤはマメパトが豆鉄砲を食らったような顔で
トウヤ「別にいいが、どうして?」
トウヤは普通の質問を尋ねたつもりだが
ベル「ふぇ?そ、それは・・・えっと・・その・・・。」
なぜか慌てていた。
ベル「あ、私まだモンメン持ってなくて、たまたまチュリネを二体捕まえていたからその一体と交換してほしいな〜、って思ったのよ。」
至極よくある理由なのに、そこまで慌てるのはなぜだ?
トウヤ「わかった、じゃあさっそく交換を開始しよう。」
するとベルは満面の笑みを浮かべ
ベル「うん、やったー!!」
と森に響き渡るほどの声で叫んだ。
チェレン「ん?今、ベルの声しませんでした?」
チェレンはそんな気がしたので、アーティに尋ねたが
アーティ「?僕は聞こえなかったけどなぁ。」
どうやらアーティは聞こえなかったらしい。
一方トウヤとベルは交換を終えていた。
トウヤ「よろしくな、チュリネ。」
そういうと、ベルの方向を見た。ベルは相変わらず嬉しそうだ。モンメンの出現率はそれほど低くないはずなのに、それほど嬉しいのだろうか?
ガサッ
突然また草むらから音がした。これはポケモンが出てくるときのような音じゃない。この乱暴の音・・・これは・・・
「ちくしょー!!ここまで追ってきやがったか!!」
やはりプラズマ団だ。2人いる。
プラズマ団A「この化石を追ってきたんだろう!だが渡さないぞ!」
プラズマ団B「俺たちの相手になったのを覚悟するんだな。」
この2人は強がりを言っているが、出すポケモンはどうせ・・・
プラズマ団A「いけ、ミネズミ!」
プラズマ団B「いけ、チョロネコ!」
所詮はしたっぱ。使えるポケモンなんてたかが知れてる。
トウヤ「ベル、準備はいいか?こいつらを片づけるぞ。いけ、チュリネ!」
トウヤはベルに問う。
ベル「もちろんだよぉ、トウヤ。あんたたち、この間のムンナの痛みを思い知らせてやろうよ。がんばって、モンメン。」
トウヤたちは先ほど交換したばかりのポケモンを初実戦させることにした。したっぱのレベルなど彼らにとっては、演習レベルなのだろう。
ベル「モンメン、しびれごな!」
ベルのモンメンが敵のミネズミにしびれごなを的中させた。
トウヤ「チュリネ、ねむりごな!」
トウヤもベルに続き、敵のチョロネコにねむりごなを的中。チョロネコはあっさり眠ってしまった。
プラズマ団B「お前ら、卑怯だぞ!」
プラズマ団は作戦も無しに、ただ力押しをする凡愚らしい。
トウヤ「お前らの化石を盗むことは、それ以上に卑怯だぞ。言動と行動が釣り合わない凡愚め!消え失せろ!チュリネ、メガドレイン!」
チュリネはチョロネコにメガドレインを当て、チョロネコを打ち負かした。
トウヤ「どうした、ベル。お前も攻撃しなよ。」
トウヤはベルに攻撃を促す。
ベル「ふぇ?あ、うん。モンメン、はっぱカッター!」
ベルはこの時二つのことに心を奪われていた。
一つは戦うときのトウヤの表情。とても雄々しく、凛とした表情に心を奪われていた。
もう一つはトウヤから感じる目の前のプラズマ団に対する嫌悪感、殺気らしきものに夢の跡地と同じく恐怖感を感じていた。
ベルはこの時、適当にはっぱカッターを命じていたが気付くと敵のミネズミは戦闘不能に陥っていた。
トウヤ「もう終わりか?ならば、さっさと化石を返してもらおうか。」
トウヤは一歩一歩プラズマ団に迫っている。
プラズマ団A「こ、これは自然に還るべきものなのだ。く、来るなぁ・・・。」
化石を奪い返されるのを恐れているのか、それとも殺気だっているトウヤに脅えているのか、プラズマ団の表情は恐怖に歪んでいた。
?「待ちなさい!」
トウヤ達の背後から男の声がした。
プラズマ団A「ア、アスラ様!」
彼らの幹部とみられる男、アスラがこちらに向かって歩いてきた。アスラはトウヤの前に止まると、トウヤの顔をじっと見た。
アスラ「ふむ、なるほど・・・。お前ら、彼に奪った化石を返してやれ。」
アスラは驚くべきことを言った。
プラズマ団B「し、しかしアスラ様!この化石は自然に還るべきものなのでは・・。」
したっぱ共が驚くのは当然だろう。
アスラ「今、シッポウに向かったリョクシ隊も返り討ちにされてしまった。もうこれ以上任務を行うのは難しい。」
アスラがそういうと、したっぱは渋々化石をアスラの手元に渡した。
そしてアスラはその化石をトウヤに渡すと
アスラ「トウヤ君と言ったね?夢の跡地のことを言っていたが、あの作戦を邪魔したのも君だね?今回は我々の負けを認めるが、今後我々の邪魔をすることがあれば容赦はしないよ?」
トウヤは何も言わなかったが、決して怖じた雰囲気を見せなかった。
その顔を見て、アスラは何も言わずしたっぱ二人とともに去って行った・・・。
トウヤとベルは出口に向かっていた。
ベルは心配していた。あのアスラの言っていたことを。トウヤが危険に晒されるであろうことを。
だけど、トウヤは昔から正義感の強い男だったから、あの程度の脅しでは決して怖気づかないだろう。
と、なるとトウヤが危険な身になるのは明らかだった。
ベルがそんなことを考えているうちに、二人はチェレンとアーティの待っている出口へ到着した。
トウヤ「化石取り戻しましたよ。」
トウヤはそう言って、アーティに化石を渡した。
アーティ「すごいじゃないか。まだトレーナーになったばかりなのに!これはジム戦が楽しみだ!ところで何か危険な目にでも遭ったかい?大丈夫だったかい?」
アーティは彼らをほめた後に、そう心配した。
トウヤ「いいえ。なぁ、ベルそんな目に遭わなかったよな?」
トウヤはベルにそう尋ねる。
ベル「ふぇ?う、うん・・・。」
ベルはトウヤの言ったことが嘘だとわかっていたが、そう答えた。
チェレン「・・・・・。」
しかしチェレンはベルの一瞬困った表情を見逃さなかった。その時、チェレンは悟った。2人は何か触れてはいけないようなことに遭ったのを。
アーティ「僕は一回シッポウシティに行って、化石を返してくるよ。ヒウンシティはこの先のスカイアローブリッジを渡ればすぐだよ。じゃあ、ジムでまた会おう。」
アーティはそう言って、シッポウシティに向かって歩いて行った。
トウヤ「じゃあ、チェレン、ベル。俺たちもヒウンシティに向かおう。」
三人はそう言って、ヤグルマの森を後にした。
ベルの予感が当たるのは、もう少し先のお話・・・。
17番水道
潮の流れが激しいこの地は昔から、船が沈没される魔の水域だった。
その原因は潮の流れだけではなく、その海にはプルリル、ブルンゲルがその船を海底に引っ張っていくのも一因であった。
その魔の水域には一つの建物が建っていた。海岸にはとても不釣り合いな研究所のような建物。
入口にはP2ラボと書いてある。
「例の開発は進んでいるか?」
緑の髪をした巨人が研究員に尋ねた。
研究員「ええ、順調です。リゾートデザートで見つけた古代の虫ポケモンの強力な力を数倍以上に高めることに成功しました。
ただ実践的にはまだ先になりそうですが、完成すれば最強のポケモンとなるでしょう。」
緑髪の男「くくく、そうか・・・。こいつさえ完成すれば、わがプラズマ団の大望など簡単に遂行されるだろう。」
緑髪の男の眼下には紫色のポケモンか機械か判別のつきにくいモノが開発されていた・・・・。
続く。