第7話
チェレン「ベル、教えてほしいことがあるんだ。」
チェレンは夜、ヒウン観光を終えたベルとポケモンセンターのレストランで合流した。
ベル「ふぇ?あぁに?しぇれん?」
ベルは食べ物を口に含みながら、チェレンの言葉に反応した。
チェレン「質問してる時ぐらいは食べるのやめろよ・・・。・・・ヤグルマの森で一体何があったんだい?」
チェレンがその質問をするとベルの表情が凍りついた。
あぁ、やはり何かあったんだな、とチェレンはやっぱりなというような顔をした。
チェレン「一体何があったんだい?君に何かあったのか?それともトウヤに何かあったのかい?」
しかしベルは答えない。うつむいたままだった。
チェレン「僕は友達として君たちを助けたい。人に教えられないことも僕なら何か役に立てるかもしれない。教えてくれないか?」
チェレンはやさしい声でベルを諭す。
ベル「チェレン・・・実はね、」
それからベルはチェレンにヤグルマの森のことを話した。夢の跡地の連中が自分たちの前に現れたことや彼らの幹部がトウヤの動き方によって、彼に危害を与えるかもしれないこと。
チェレンは少し顔をゆがめた。ベルの言った話の内容もそうだが、プラズマ団の行動に疑問を覚えたのだ。
チェレン「わからないな・・・。街頭演説やテレビCMであれほどポケモン解放を謳っていた団体が、いくらポケモンのためとは言ってポケモンを蹴りつけるとは。
かといって、ヤグルマの森は全く逆でこれは完全にポケモン解放が目的だ・・・。行動が全く不規則だ・・・。」
チェレンの言うとおり、プラズマ団の行動はベルが見ても不規則だと感じられるような行動ばかりだ。
ベル「あはは・・・、ごめんねチェレン心配させて。先に部屋へ戻るね。」
ベルは立ちあがって部屋へ戻ろうとする。
チェレン「あぁ、今日はもうゆっくり休みな。」
チェレンもやさしく彼女を見送った。
ベルは風呂に入って、とりあえず早く寝ようとベッドに籠ったが結局眠れなかった。
ベル「ちょっと外に出てみようかな・・・。」
ベルは少し夜風に当たるために外へ出ることにした。
彼女が眠れない原因としてはやはりプラズマ団の言葉が一因でもあるが、ポケモンセンターにトウヤの姿が見えないこともあった。
もしかしたら、トウヤは今頃プラズマ団の連中に襲われているかもしれないという不安感があったのだ。
ベルはそういうことを考えながら立っていた。自分の影から迫る存在にも気付かず・・・。
トウヤは走っていたプラズマ団を追おうとしたが、自分の後ろから聞いた泣き声に気付き、後ろの角を見てみた。
そこにはベルが丸くなって泣いていた。
トウヤ「おい!ベルどうしたんだ?やつらに何かされたのか!?」
トウヤは泣いているベルに尋ねた。
ベル「ふぇぇん・・・。ポケモンが私のポケモンが盗まれちゃった・・・・。」
トウヤはその言葉を聞いて、凍りついた。やつらはついに人のポケモンを盗むまでになってしまったのだ。トウヤの拳は怒りで震えていた。
トウヤ「プラズマ団!!!!!」
トウヤは怒声で彼らの名を叫びながら、プラズマ団の逃げた方向に走って行こうとしたが、
トウヤ「ベル!!すぐに警察に連絡してくれ!!他にもポケモンを盗まれた人がいるかもしれない!!」
そう言って、トウヤはヒウンの摩天楼の闇の中に消えていった。
トウヤはプラズマ団を探しながら、考えた。
トウヤ「もしやつらが他の人のポケモンも盗んだのなら、他にもいるはずだ。やつを追いかけるより、他の団員を探して追って行ったほうが手っ取り早い。」
そういいトウヤはベルのポケモンを盗んだプラズマ団の追跡を諦め、他のプラズマ団を探すことにした。
トウヤが裏路地を中心に探していると、プラズマ団の一人を発見した。トウヤは彼の後を気付かれぬように慎重に追っていった。
最終的にトウヤがたどり着いたのはヒウンジムの前にあるビルだった。
トウヤ「灯台もと暗し・・って、やつだ。」
トウヤはアーティに応援を願おうとしたが、ジムは暗いため、今はいないと判断。
結局トウヤは自分一人で突入することに腹を決めたその時だった。
「ねぇ?あなた何やってんの?」
トウヤの前に立ってのはポニーテールが特徴的でノースリーブシャツを着て、かなり短いジーパンを履いた自分と同じくらいの女の子だった。
トウヤ「そういう君は一体何やってんだ?」
トウヤが質問を返す。
「全く質問は質問で返すなって、学校で教わらなかったの?まぁ、いいわ。私トウコっていうのよろしくね。」
その少女はどこかで聞いたことのある台詞を吐いて、自己紹介をした。
トウヤ「僕はトウヤだ。今、泥棒の後を追ってこの建物に来たんだよ。」
するとトウコは少し驚いた顔をした。
トウコ「へ、へぇ・・・。泥棒を追ってきたんだ〜。ねぇ、私にも手伝わせてくれない?」
遊びじゃないんだぞ、とトウヤは思いながら
トウヤ「お前、トレーナー?トレーナーなら敵は複数だからいるとありがたい。」
トウヤにとって、多勢に無勢という言葉もあるから、一人でも味方が多ければありがたかった。
トウコ「まっかせっなさーい♪このバッジ4個のトウコさまがいれば百人力よ。」
バッジ4個と聞いて安心したが、他方少し悔しさがトウヤの中で滲み出た。
二人がプラズマ団のアジトと思しき場所に突入したが、一階には誰もいなかった。
しかし突き当りにはエレベーターがあった。おそらくこの上だろ。
二人はとりあえずエレベーターに入る。エレベーターのボタンは22階しか光がともっていなかった。
とりあえず22階にボタンを押し、エレベーターは上昇し始めた。
トウコはエレベーターが上がっている間、なぜかトウヤのことを後ろから凝視ばかりしていた。
エレベーターが22階に着こうとしている・・・。
トウヤ「トウコ、準備はいいか?」
トウコに確認をとる。
トウコ「え!?あ、うん、準備万端よ!」
エレベーターの扉が開く。
道は2つに分かれていた。
トウヤはトウコと行動するか、別れて行動するか考えた末
トウヤ「別々に行こう。そっちのほうが早い。」
トウコ「ラジャ♪」
トウコは陽気に反応した。あまりことの重要さをわかっていないようだ。
結局トウヤが左、トウコが右の方向に行くことにした。
まずトウヤは一番奥の部屋に行くことにした。なぜ奥の部屋に行くことにしたのか、トウヤにもわからなかった。誰もが手前の部屋にいくはずなのに、トウヤはひきつけられるように奥の部屋から探索をすることにしたのだ。
トウヤは静かにドアノブをまわし、部屋に突入した。
社長室のような広々とした部屋だった。
床は大理石でできており、壁にはメブキジカのはく製にマンムーの牙。換算したら相当な額になるものだろう。
そしてトウヤの目の前には長いテーブルに後ろを向いた肘掛椅子が置いてある。
「そうか、君がアスラの言っていたトウヤとかいう少年だね・・・。」
後ろ向きの肘掛椅子がこちらを向いた。風格からして、プラズマ団の幹部に間違いないだろう。
男はかなり重みのある声でトウヤに言葉を投げかけた。
ロット「私の名前はロット。プラズマ団の七賢人のひとりだ。」
まぁ、簡潔な自己紹介だ。
ロット「君の名はわがプラズマ団ではなかなかの有名人でね・・・。夢の跡地に、ヤグルマの森のこと。
君はわがプラズマ団の大望を果たす障害になるかもしれないね。ここで消えてもらうとするか。」
そう言うと、ロットはポケットからモンスターボールを出した。
トウヤはそれを見ると、彼も身構えた。
ロット「いけ!レパルダス!」
トウヤ「いけ!ボン!」
ほぼ同時にポケモンを繰り出した。
その後、二人はにらみ合ったまま均衡を続けたが、それを先に破ったのが・・・
トウヤ「ボン!つばさでうつ!」
トウヤだった。ワシボンがレパルダスに突っ込む。
ロット「ねこだまし!」
レパルダスが目にも見えぬ速さでワシボンを攻撃。ワシボンはひるんでしまった。
トウヤ「もう一度、つばさでうつだ!」
もう一度、ワシボンが突撃するが、
ロット「ふいうちだ!」
レパルダスがワシボンの内側からかみついた。
ボン「わしゃー!!」
ワシボンはレパルダスに一歩も手を出せずに倒れてしまった。
ロット「ふはははは!!!」
トウヤはロットのなすがままにされていた。
トウヤはワシボンを戻すと、次に出したのは
トウヤ「頼むぞ!チュリネ!メガドレ・・・」
トウヤはメガドレインを命じようとしたがやめた。またふいうちをされるのを恐れたからだ。
トウヤ「ねむりごな!」
トウヤはねむりごなに攻撃を転換。レパルダスにねむりごなが降りかかる。
が!レパルダスはそれを察知していたのかあっさりとかわしてしまった。
ロット「おやおや・・・。くくくく・・・。」
ロットはトウヤを嘲笑していた。
ロット「レパルダス!かみくだく!」
レパルダスがチュリネに噛みつこうと突進してきた!
トウヤ「く、このままでは・・・。」
完全にチュリネはチェックメイト状態だった。
その時だった。
トウコ「トウヤ、これを使って!!」
トウコが部屋に飛び込んできて、何かを投げた。
薄い橙色に輝く石。そう、太陽の石だ。
トウヤ「ありがとう、トウコ!いけ!」
今度はトウヤがチュリネに向かって、太陽の石を投げた。
チュリネ「チュリー!!」
チュリネが石に触れた瞬間、チュリネの体が光り出した。
レパルダス「ニャー!?」
あまりの眩しさに、レパルダスは攻撃を中断してしまった。
チュリネは光の中、どんどん体が大きくなっていっている。
光がおさまると、そこには花飾りをつけた少女のようなポケモンがいた。
ドレディア「ちゅっちゅっ」
ドレディアに進化したのだ。これでチュリネの倍以上の火力を得ることができた。
トウヤは嬉しさを秘めながら、目を鋭くさせ
ドレディア「いけ!ドレディア!メガドレイン!」
ドレディアから離れた緑の光がレパルダスにぶつかる。
レパルダス「ニャー!!ニャ・・・ぁ・・・。」
レパルダスの体力がどんどん吸い取られていっている。緑の光がやむとレパルダスは完全に戦闘不能状態であった。
ロット「・・・・・。」
ロットは何も言わずレパルダスをモンスターボールに戻すと
ロット「これが君とポケモンの力か・・・。なるほど・・・。」
そう言うとロットは肘掛椅子から立てあがり、部屋から出て行こうとしていた。
ロット「モンスターボールならそこのクローゼットにある。勝手に持っていけ!今回は運が良かったが、次はこうはいかない。」
そう言って、ロットは部屋から出て行った。
ロットが出て行ったあと、二人はクローゼットの中から20数個のモンスターボールを見つけた。
トウヤ「助かったよ、トウコ。ありがとう。トウコのところにはプラズマ団はいなかったのか?」
トウヤがモンスターボールを段ボール箱に詰めながら、トウコに尋ねる。
トウコ「一応、5,6人程度のしたっぱどもがいたから、軽く蹴散らしてポケモンのありかを尋ねてきて、この部屋に来たらこうなってたんだ。」
トウコも一緒に詰め込みながらトウヤの問いに淡々と答えた。トウヤは
トウヤ「そうか。やっぱり君は強いトレーナーなんだね。」
と言った。
ボールを詰め終わった二人はとっととこの建物から出ることにした。
トウヤはビルの外で、段ボール箱を持ちながら再びトウコに礼を言った。
トウヤ「君がいなかったら、僕は取り乱して負けてたかもしれない。もっと強くなったら是非手合わせしたい。」
トウヤは毅然とした顔でトウコに向かって言った。
トウコ「ありがとう、お互い強くなったら必ず勝負しようね。じゃあ、またどこかで。」
トウコはトウヤに別れのあいさつをして、ヒウンシティの闇へと消えていった。
トウヤはとりあえず盗まれたポケモンたちを返すため、ヒウンの警察署に向かうことにした。
トウコ「トウヤ・・・、まさか・・・・ね。」
トウコはそう呟きながら、ヒウンシティの闇の中を歩き去って行った。
続く。