草むらに伏せ、息をひそめる。 
 絶対にバレちゃいけない。 
 黒くてふさふさの尻尾がぴんと張る。 
 俺の緊張感をよそに、午後の柔らかい日差しは能天気に森へと降り注いでいた。 
 土と木の匂いが混じる暖かい春風が頬の毛を揺らした。 
 迷いの森と、物騒な名前が付いてはいる。 
 だが、ここは平和を絵に描いたような風景をしている。 
 
 耳をすますと、ゆっくりと草を踏みしめる音が、近づいて来るのがわかった。 
 その足音からは重量を感じない。 
 恐らくは、小型のポケモン。オレとあまり、大きさは変わらないはず。 
 
 こっそりと草の間から、覗き見る。 
 オレの予想は当たっていた。 
 赤茶色のちんまい毛玉みたいなポケモンが見えた。 
 疲れているようで、足取りは重い。 
 アレが今日のターゲットだ。 
 
 小動物は、基本的に臆病な性格をしている。 
 自分より大きい相手から身を守るためだ。 
 あの毛玉も、多分そうだ。 
 よし、今回は絶対に失敗しない。何がなんでも”化かし”てやる! 
 
 静かに決意を固め、精神を集中する。 
 オレにとって、最も怖いモノを強くイメージする。 
 目に力を入れて、ゆっくりと自分の体を見る。 
 すると、淡い紫色の光が体じゅうから立ち上ってきた。 
 幻影がオレを包む。 
 これがオレの力。ゾロアの力――イリュージョンだ。 
 そうこうしているうちに、ターゲットとは目と鼻の先になっている。 
 さあ、いよいよ本番だ。 
 恐れさせ、おびえさせ、震えあがらせてやる! 
 オレは真黒な影を身にまとったまま、草むらから一息に飛び出した。 
 
「ばああああああ! おばけだぞー!」 
 そう、おばけだ。 
 どす黒い霧状の体に白い空白で目と口を描いた姿。 
 これほどまでに分かりやすい幽霊の姿なら、誰だって怖がるはず。 
 さて、ターゲットの反応は…… 
 
「…………」 
 無言。 
 円らな瞳でぼんやりとこちらを見たまま固まって動かない。 
 お互いに押し黙ったせいで、木の葉が風でこすれる音がやたらと耳につく。 
(やっぱり今回も失敗か……) 
 そう思ったその時。 
 
 オレンジ色の体躯が音も立てずに綺麗に横倒しになった。 
 これって、失神する程びっくりしたってことだよな? 
「やったあ!」 
 大成功だ! 初めて成功した。 
 これでオレも一人前のゾロアだ。 
 集中力を失って、幻影が晴れる。 
 歓喜にうち震えていると…… 
 
 ……ぐぅ 
 倒れている毛玉が、可愛らしい外見に似合わず、間抜けな音をたてた。 
「ん、何だこの音?」 
 不審に思っていると、倒れている毛玉はもぞもぞと動きながら、 
またしても似つかわしくない音を発した。 
「お……な、か…………すい……た」 
「へ?」 
 こいつ……食いしん坊キャラなのか? 
 
「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」 
 俺が差し入れしたオボンの実が、物凄い勢いで食べられていく。 
 いくら腹ペコだったからって、がっつき良すぎだろ…… 
 それに倒れたのは、びっくりしたからじゃなくて、飢えていたからか。 
 ああ、早く上手く化かせるようになりたい。 
「……ふう、ごちそうさまでした」 
「速っ!」 
「ええ、お腹が空いていましたから。恥ずかしい所を見せてしまいましたね……」 
 赤茶色のポケモンは顔を赤くしながら、恥ずかしそうに言った。 
 さっきまで、木の実にがっついていたとは思えない、可憐さだ。 
「でも、本当に助かりました。ありがとうございます!」 
 こっちの心まで明るくなるような素晴らしい笑顔を浮かべた後、 
 ぺこりと頭を下げると、頭の巻き毛が揺れた。 
「お、おう……」 
 なんだか、照れ臭い。 
 
「あ、自己紹介がまだでしたね。わたし、ロコンっていいます」 
 自分のことを”わたし”と呼んでいるから、女の子なのだろう。 
 毛玉もとい、ロコンは笑顔を絶やさない。 
「オレはゾロア。ここでポケモンとかニンゲンを化かしてるんだ」 
「はあ……”化かしてる”ですか……」 
 ダークブラウンの瞳が上を向く。 
「もしかして、あのおばけってゾロアさんだったんですか?」 
「そうだ。悪い事をしたな。怖かっただろ?」  
「えっと……まあ、それはそれとして……」 
 話を逸らされる。 
 あまり怖くなかったようだ。もっと修行しなきゃなあ…… 
 
「この森の出口って教えてもらえませんか?」 
「ああ、構わないぜ。あっちをまっすぐ行けば良いんだ」 
 鼻先で方向を示す。 
「何が何まで本当にありがとうございます!」 
「あとな、ここは……」 
「じゃあ、わたし行きますね!」 
 重そうな六本の尻尾をこちらに向けると同時に、ロコンは駆け出した。 
「え、ちょっと待っ……」 
 ちゃんと最後まで言い切る前に、ロコンは行ってしまった。 
 すっかり小さくなった後ろ姿をぼんやりと見送る。 
 なんだか急に、静かになった気がする。 
 風は少し冷たくなっていた。 
 気がつくと陽が大分傾いている。 
 木々が夕焼け色に染まる。 
 
「何だか、変な子だったな……」 
 ぽつりと独り言を漏らす。 
 どこに住んでいるのか聞いておけば良かったな。 
 そうしとけば、後でまた会えたかもしれないし。 
 でも、それももう遅い。彼女は行ってしまった。 
 
「よし、帰るか」 
 周囲はもう暗くなりかかっている。 
 本物のおばけが出る前に、住み家に帰らないと…… 
 家路につこうとした、その時だった。 
 聞き覚えのある足音が聞こえた。 
 どんどん近付いて来る。 
「まさか……」 
 そのまさかだった。 
 
「あれ? こんな所で何やってるんですか、ゾロアさん」 
「それは、オレのセリフだよ……」 
 ロコンは首をかしげる。 
「え? さっきの所で別れた所から追いかけて、先回りしたんですよね?」 
「違えよ。オレは動いてない。お前が同じ所をぐるりと回ってスタート地点に戻ってきただけだ」 
 のどかな雰囲気とはいえ、ここは迷いの森。 
 不思議なことに、大して入り組んでいないのに、何故か迷ってしまうのだ。 
 このことを伝えると、ロコンは黙り込んだ。 
 険しい表情をしたまま、しばらく地面をじっと見つめる。 
 今日の太陽は死に、夜が地上を支配し始める。  
 
「そ……そうだったんですね。わたしったら、本当にどんくさい…… 
ハハ、笑っちゃいますよね……」 
 ぎこちない表情と不自然に明るい声。 
 ロコンは無理矢理笑顔を作っているようだ。 
「……なあお前、大丈夫なのか?」 
「えっと……大丈夫って、何が?」 
「色々あるけどさ。とりあえず泊まる所とか」 
 ロコンは首を回して真っ暗な森を見る。 
 少し黙った後。 
「だだだ、大丈夫! わたしは大丈夫! 全然平気!」 
 引きつったような笑顔を浮かべながら、喋った。 
 ――”大丈夫”、か。 
 食いものが無くてぶっ倒れる。道に迷って同じ所をぐるぐる。 
 泊まる場所も無い。 
 それで、”大丈夫”か。 
 ……ああ、めんどくせえ。 
 
「迷惑かけちゃいましたね。ごめんなさい。それじゃわたし……」 
「あのさあー!」 
 大声を出して、話をさえぎる。 
「行く所が無いなら、オレのトコ来るか?」 
 我ながら大胆な事を言っていると思う。 
 だが、放ってはおけない。そう思った。 
 
「え、でも……そんなことしたら、ゾロアさんにまた迷惑を……」 
 突然の申し出にロコンは困惑しているようだ。 
「そりゃあ、会ったばかりの男の所に泊まるのが嫌なのは分かるけどさ」 
「いいえ! 嫌だなんてそんなことは無いんですよ。気持ちはすごく嬉しいんです。でも……」 
「じゃあどうするんだ? また道のど真ん中で寝るのか? 今度こそ本物のおばけにやられるぞ」 
 なぜか、ロコンがきょとんとした顔をした。 
「おばけ……ですか?」 
「そうだ。夜になったら出るんだぞ。言っておくが、怖いぞ」 
「ゴーストタイプのポケモンのことですか?」 
「あいつら、タマゴから普通に産まれてくるし、普通に食事してるじゃないか。 
そういうのじゃなくて、正真正銘、本物のおばけだ」 
 ロコンは押し黙る。彼女なりに色々と考えているようだ。 
「ゾロアさんは、良いポケモンですね」 
「は? オレは純度100%完全無欠のあくタイプだぞ」 
「あくタイプで、おばけが怖いんだ……やっぱりゾロアさんは良いポケモンです」 
 なんだか舐められている気がする。 
「やめろ、うぜぇ。で、どうすんだ?」 
「はい、では。お世話になります。よろしくお願いしますね」 
 丁寧におじぎをした。 
  
「よし、話は決まりだな。さっさと行くぞ」 
 寝床に向かって早足で歩き出す。 
「あ、待ってください!」 
 ロコンが慌てて付いて来て横に並んだ。 
「くそ、暗いな……」 
 今日は月も出ていない、闇夜だ。 
 暗いのは怖い。 
「あ、ごめんなさい。気がつかなくて。今、明かりを付けますね」 
 そう言うと、ロコンは口を小さく開け、空中に紫色の光を吐き出した。 
「おにび、って言うんですよ、これ。やけどするから触らないよう気をつけてくださいね」 
「……ああ、分かった」 
 おにびはロコンの顔の前に浮かびながら、あやしい光を放っている。 
 彼女には悪いが、はっきり言って不気味だ。 
「おい、もっと普通の色の光は無いのかよ?」 
「普通の光っていうと、赤い火ですね。残念ですけど無理です。山火事になっちゃいますよ」 
「この、おにびって奴は平気なのか?」 
「これは物を燃やす力は無いんですよ」 
「へえ、そりゃ安全だ」 
 薄気味悪いけど、とは言わないでおいた。 
 
  
「おい、着いたぞ」 
 高い崖の根元。 
 そこに苦労して掘った巣穴が有る。  
「狭いけど我慢しろよ」 
「はい!」 
 ロコンは四本の足でぷるぷると震えながら踏ん張っている。 
「何だ、それは?」 
「がまんです! 受けたダメージを返す技ですよ」 
「そっちの、がまんじゃねえよ。はあ……まじ、お前疲れるわ」 
 もういいや、さっさと寝よう。 
 オレ達は巣穴の中に入る。 
 
 
 土の匂いが心地良い。やっぱり我が家は落ち着く。 
 当然だが、明かりは無く視界は零。 
 初めての一人暮らしと、張り切って掘ったので、余分なスペースがある。 
 オレとロコンの二匹位なら収まるだろう。 
  
「こっちだ」 
 オレは巣穴の中央に敷き詰めたわらの寝床にロコンを案内した。 
「こっちてどっちですか?」 
 そうか、オレは自分の家だから、暗くても何となく位置を覚えてるが、ロコンは違う。 
「しょうがないな、ホラ」 
 ロコンの頬に尾っぽを当てる。 
「オレのしっぽから離れるなよ」 
「う……あ、はい、わかりました」 
 彼女はオレのしっぽから離れないようぴったりとくっついて来ている。 
「ゾロアさんのしっぽって、ふかふかで気持ち良いですね」 
「つまらんお世辞はよせ。あと頬ずりするな」 
 そこは敏感な所なんだよ。 
 イリュージョンの最中につかまれたら変身が解けちまう。 
 
 ようやく寝床にたどりつく。 
 わらの上で伏せうつぶせになり、しっぽを顔の前に持ってきて丸くなる。 
 あくびが出てしまう。 
「ふあ……おやすみ」 
「……おやすみなさい」 
 オレは目をつぶった 
 そのまま心地良い眠りに落ちていく。 
 
 ……一つ重要な事を忘れていた。 
 オレが男で、あいつが女だってこと。 
 しかも、都合が良い……いや都合が悪いことに、あいつは結構可愛い。 
 って、何考えてるんだオレ。でも、意識するなっていう方が無理だよな。 
 オレだって、もう体は大人なんだし。 
 
(うう……眠れねえ) 
 目がさえてしまった。どうしよう。 
 一度意識すると、胸がどきどきする。 
 それに、何だか知らないがロコンは良いにおいをさせている。 
 ほんのりと甘いような香り。 
(女の子って、こういうにおいするんだな。もっと近くで嗅ぎてえなあ……) 
 ゾロアは嗅覚が優れている種。だから、この匂い攻撃はたまらないものがある。 
 無意識に息が荒くなる。 
 まぶたの裏にはロコンの姿が浮かぶ。 
 オレより少しだけ小さくて可愛くて、ふかふかで柔らかそうで…… 
 そんなことを考えるべきではなかった。 
 後ろ足の間のオレの分身が変化を始めた。 
 かむった皮の中で、存在感を増していく。 
(落ちつけ、落ちつけ大丈夫だ、ここは暗い。ロコンには絶対にばれない) 
 必死に気持ちを落ちつけようとする。 
 だが、妄想はさらに加速する。 
 ロコンがお尻突き出し、ふりふりとしっぽを振る。 
 しっぽの根元付近にはお尻の穴と、それと……それと女の子の大事な…… 
(うわああ! ダメだ、ダメだ、ダメだ! これ以上考えるな、オレ!) 
 顔を振って、いやらしい考えを散らそうとする。 
 だが、陰茎は頭の指令を無視して皮に埋まったまま持ち上がり、欲情を高々と主張している。 
 どうするよ、こいつ。 
 用を足すふりして外で抜いてしまおうか? 
 悶々としてうちに、事態は更に悪化する。 
 
「ねえ、ゾロアさん?」 
「うわ! お前、寝てなかったのか!?」 
 まずい、バレたか? 
 どうしよう……もうオレ、生きていけない。 
 
「わたし、大丈夫ですよ。わたし……平気です」 
 背中に感じるロコンの体温。とても熱く感じる。 
 それは、彼女の体質のせいなのか、それともオレが緊張しているせいなのか。 
「あ?」 
「木の実を分けてもらって、泊まる場所まで用意してくれて…… 
そこまでしてもらったのに、わたしだけ何もしてあげないなんて……そんなのダメですよね?」 
 ロコンが耳元でささやく。耳に息がかかり、その刺激に一瞬体が震える。 
「いや……その、オ、オレは別にそういうことを期待してお前を助けたわけじゃ」 
「あのままだったら、わたし、きっと死んでました。だから、良いんですよ」 
 ロコンは前足で背中をゆっくりとなでる。 
「良いって……何が?」 
「わたしを好きにしても」 
「……!!」 
 理性がぶっ壊れそうになる。だが、壊れている場合ではない。 
 このおいしい状況に対応しなくては。 
 いや違う、おいしいとかオレは考えてない。大体、まだ会ったばっかりだし。 
 いやいや、おいしいだろ。男として一皮剥ける良いチャンスじゃないか。 
 理性と本能。頭の中で相反する思考が堂々巡りする。 
 
「ゾロアさん……」 
「はヒィ!」 
 声のする方に顔を向ける。すると、何か柔らかいモノが鼻に当たった。  
 何だこれは。湿っていて……あと、生ぬるい空気の流れを感じる。 
 そうだ。多分、ロコンの鼻だ。 
 オレ達は鼻をくっつけあってキスしているのだ。 
「どうします?」 
 最後通牒だった。 
 ここまで来たら、どんな理屈も通用しない。 
 心のまま、行動するしかない。 
「お……お、お……お前なんかに、オレの童貞はやらあああああん!!」 
「え?」 
「もう寝る! っていうか寝てる! もう何も聞かないぞ!」 
 出来る限り小さく縮こまり、ロコンを拒む。 
 しばらくそうしていると、彼女の静かな寝息が聞こえて来た。 
 どういう神経しているんだと思う。だが、昼間の事を思うと疲れていたんだろう。 
 オレは……眠れそうにない。  
  
「おはようございます。えっと……昨日はその」 
「やめろ! 昨晩はオレは寝ていた。何もおきてない。それで良いな!」 
 昨日の事を思い出すと、本当はあのまま先へ進んでいた方が良かったのではないかとか 
無意味な思考が湧く。思い出したくない。 
 
 ロコンがオレの目を覗き込んでくる。 
「おい、近いぞ」 
「ゾロアさんの瞳って昨日は水色でしたよね? 赤いですよ。大丈夫ですか?」 
「大丈夫、もんだ……」 
「言わせませんよ」 
 ロコンがにっこりと笑う。 
 何だろう。その笑顔から、うすら寒いものを感じる。 
 まあ考えていてもしかたない。やることはやらなくては。 
「どこ行くんですか?」 
「メシを取りに行く。夕方には帰るから、大人しくニートしてろ」 
「ニートって……」 
「家事手伝いでも良いぞ」 
「それ、同じじゃないですか。私も行きます」 
「げ、来るのか?」 
 嫌な顔をしてしまう。 
 だが、ロコンは気にせず話を続ける。 
「はい。わたし、昨日は何もできなかったから、何かお手伝いしたいんです」 
「昨日の話はやめろ」 
「ごめんなさい……。えっと、ご迷惑ですか?」 
「フン! 勝手にしろ」 
 話を一方的に切り上げ、足早に歩き出す。木の実は早い者勝ち。 
 ちんたらやってる暇は無い。 
 さっき、オレが言った通り、ロコンは勝手にトコトコとついて来る。 
 だが、遅い。互いの歩調が合わないせいで、じわじわと距離が広がる。 
 もう一度言う。ちんたらやってる暇は無い。  
 だけど……あーもう、めんどくせえ。 
 
「お前、遅いんだよ」 
 文句を言いながら、ロコンを待つ。 
「ありがとうございます。やっぱり、ゾロアさんは優しいですね」 
 追いついてきたロコンに歩調を合わせて一緒に歩く。 
「優しいとか言うな。うぜえ」 
「はい、わかりました。うふふ……」 
 太陽のようにまぶしい笑顔だった。 
「何がおかしい?」 
「はい。ゾロアさんのことが少し理解できた気がして、それが嬉しいんです」 
 一体、こいつにオレの何がわかると言うんだ。 
「はあ……やっぱお前うざいわ」 
 そんな他愛の無い会話をしているうちに、目的地に着く。 
 そこには大樹が有る。どっしりとした太い幹。見上げても頂上が見えない程大きい。 
 大きく広げた枝には、豊かな葉の中にたくさんの木の実が隠れている。 
 オレは、良くここに食糧を調達しに来る。 
 
 問い。ノロマのロコンに合わせてノロノロ歩いたおばかなゾロアさんはどんな目にあうでしょうか? 
 答え。おいしい木の実を他のポケモンに全部とられてしまう。 
 オレンやオボンといった、甘くておいしい木の実は一つも残っていない。 
 残っているのは、黄色いボディーに緑色のしましま。バンジの実だ。 
 強烈な苦みを持つ。毒は無いが、オレの大嫌いなモノである。 
 まずいが、他に食糧が無い今の状況ではそれを食べるしかない。  
 
「アレを取れば良いんですね。わたしに、任せてください!」 
「よし、ロコン、かえんほうしゃだ!」 
 ニンゲンみたいに命令してみる。 
 一回やってみたかったんだ。 
「山火事になっちゃいますよ。別の技をつかいます」 
 あっさりと命令を却下された。 
 ノリが悪いなあと内心思う。まあノリで火事起こされても困るか…… 
 
 ロコンの顔が真剣になり、バンジの実を鋭い目で睨んだ。 
 すると、風もないのに枝が揺れる。 
 程なく、ぷちっと実がもぎとられる音がした。 
 そのままバンジの実が自然落下して、地面を転がっていく。 
 幸い、落ちた衝撃で実が崩れることは無かった。 
「”じんつうりき”っていうんです。寝転がりながら物を取ることができるんで便利なんですよ」 
「そういうだらし無い事はやめろ」 
「どうぞ、召し上がってください」 
「いや、オレは遠慮する。ロコンが取ったのだから、それはお前の獲物だ」 
 バンジの実は嫌いだ。 
「オボンの実を頂いたお返しをしたいんです。あの……迷惑ですか?」 
 ロコンは泣きそうな顔をしている。 
「やめろ、そんな顔で見るな。食べるよ、食べれば良いんだろ!」 
 バンジの実を口の中に放り込み、できるだけ舌に当たらないように噛む。 
 食べるというより、飲みこむという表現が正しいか。 
「おいしいですか?」 
 不安げに聞いて来る。 
「ぐ……ふふふ……おいしいかだと? ああ、もちろん……」 
 飲みこみ切れなかった果汁が舌を覆う。 
 バンジの実の味が伝わって来る。 
 ひどい苦みが口内を満たす。 
 まるで、口の中に雑草を突っ込まれたようだ。 
 猛烈な吐き気。もう……限界だ。 
「苦い、苦い、にがああああいい!」 
 あまりのまずさにパニックに陥り、わめきながら走り出す。 
 そのまま、どしんと大樹にぶつかってしまう。 
 
「……苦いのお嫌いでしたか? ごめんなさい……わたし、気がつかなくて」 
 ロコンの耳が申し訳なさそうにと垂れる。 
「気にするな。他に食いものが無いからな。いずれ食わなくてはならない運命なのさ」 
 冷静さを装っているが、頭にはこぶができていて痛い。泣きそうになるがなんとか堪える。 
「……そうですね。わたしに一つ考えがあります」 
「考え?」 
「はい。お役に立てると思いますよ」 
 ロコンは自信ありげに微笑んだ。 
 また、じんつうりきでバンジの実を取り足元に置く。 
 そして口を大きく開き…… 
「はあ!」 
 真っ赤な熱と光の塊を吐いた。 
 木の実は炎に包まれる。 
 熱気がこちらにも伝わって来ていた。 
「なにしてやがる! 食べ物を大事にしない奴なんて大嫌いだ!」 
 いくらまずいとはいえ、大切な食糧なのだ。 
「ふう……。これで大丈夫です。ゾロアさん食べてみてください」 
 焦げたバンジの実を差し出される。 
「え、だってこれ黒焦げ……」 
「あ……やっぱりご迷惑でしたか?」 
 また、ロコンが泣きそうな顔をする。 
「ぐ……わかったよ、食うよ」 
「ありがとうございます」 
 ロコンの顔が一瞬で明るくなる。 
 こいつ、計算ずくでやっているんじゃないか? 
 
 恐る恐る、実を少しだけかじる。 
 もろくなっているのか、果肉は柔らかく、炎の熱で温かい。 
「ん?」 
 あれ、おかしいぞ? 
 まったく苦みを感じない。 
 それどころか…… 
「……甘い?」 
 苦味は消え失せ、舌触りの良いとろりとした甘さが口の中に広がる。 
 うまい。好みの味だ。 
 オレはあっという間に、大嫌いだったバンジの実をたいらげてしまった。 
「でも、なんでだ?」 
「食べ物に火を通すと、味が変化することが有るんです」 
 ロコンは得意げに言った。 
「お前、スゲエな。何でこんなこと知ってるんだ?」 
「えっと、それは……」 
 ロコンの表情が何故か曇る。 
 聞いちゃいけないことだったのだろうか? 
「あ、はい。ニンゲンが良くやるんです。それを見たことが有って」 
「へえ、ニンゲンってそんな事するのか。まあ、あいつらなら何やっても驚かないけど」 
 ニンゲンとはこの地上で最も妙ちきりんな生き物だ。 
 ボールの中に隠れることができないし、オレ達の言葉もわからない。 
 だが、変な道具を作ったり、自分と関係ないはずのポケモンを育てたりと、 
常識外れの習性を持っている。 
 
「えっと……ゾロアさん。一つお願いしても良いですか?」 
 ロコンの耳は垂れ、弱弱しい目をしている。 
「何だ?」 
「できたら……できたらですよ……その。今夜も……」 
 泊まる場所の相談か。 
 毎回そんな申し訳なさそうな顔されたらたまらないな。 
「今夜だけじゃなくて、好きなだけ泊まっていけば良い。どうせ、場所は余ってるしな」 
「あ、ありがとうございます。……ごめんなさい、迷惑かけて」 
「別に迷惑とか思ってねーし。気にすんな」 
「はい……」 
 ロコンは相変わらず、申し訳なさそうに耳を下に向けている。 
 他人の世話になるというのは、案外気を使うものなのかもしれない。 
 迷惑じゃない、気にするなと言ってもロコンの遠慮はなくならないだろう。 
 ……ああ、めんどくせえ。 
「まあ、あれだ……お前が居たら色々と助かるしな」 
「え?」 
 ロコンの目が大きく見開かれる。 
「今日みたいにバンジの実を焼いてくれれば助かるし」 
 ロコンがやってくれたことは大きな意味が有る。 
 他のポケモンがあまり食べないバンジの実を苦もなく食べられるようになったのだ。 
 食糧事情は大きく改善される。 
「あと、おにびだっけ? アレが有れば夜でも明るいし怖くないしな」 
 気色悪いけど、とは言わないでおいた。 
「でも、ゾロアさん……」 
 ロコンが口を挟んでくるが、強引に話を進める。 
「つ・ま・り・だ。オレもお前に助けられてんだ。わかったな? わかったら堂々としてろバカ」 
 オレは何だか恥ずかしくなってそっぽをむいた。 
「……」 
 ロコンはきょとんとした顔をしている。 
 沈黙とかやめろよな。 
 うう……気まずい。 
「っぷ、ふふふ!」 
 ロコンは顔をほころばせにっこりとほほ笑んだ。 
 初めて本当の笑顔を見せてくれた気がする。   
 それを見てると、陽だまりの中に居るみたいに心が温かくなってくる。 
 
「ありがとうございます! やっぱりゾロアさんは優しいですね」 
「だから! うざいから、優しいとか言うなっつーの!」 
「でも、本当にゾロアさんは優しいと思いますよ。だって……」 
「うわああああ、やめろ! それ以上言うな! あくタイプとしてのアイデンティティが崩壊する!」 
 ロコンの”優しい”攻撃はしばらく続いた。 
 その日も、迷いの森は相変わらず平和だった。 
 
 それから、オレとロコンの共同生活が始まった。 
 毎日、木の実を採って、ポケモンやニンゲンを化かそうとしては失敗する生活。 
 やっている事は大して変わらない。 
 だけど、ロコンが隣に居てくれるおかげで、そんな普通の日常は何倍も楽しくなった。 
 一緒に食事をとってくれる。足が届かない痒いところをかいてくれる。 
 化かすのに失敗した時、慰めてくれる。 
 そんな存在が、一緒に居てくれることが、いつしか当たり前だと思うようになっていた。 
 
(よし、今回は絶対に失敗しない。何がなんでも”化かし”てやる!) 
 草むらに隠れて、ターゲットを待つ。 
 ぬるりと生暖かい夜風が頬を撫でる。 
 最近は大分、暑くなってきた。 
 春ももう終わりだな。 
「今度こそ、上手く化かせると良いですね」 
 隣で同じように伏せているロコンが言う。 
「シッ! 静かにしてろ!」 
「ゾロアさんの方がうるさいですよ」 
「くっ……」 
 あの時、「堂々としてろ」とは言ったけど、堂々とし過ぎだろこれ…… 
 近頃は、尻に敷かれて……いや、認めん! 尻に敷かれてなど断じてない。 
 
「来ましたよ。ニンゲン……みたいですね」 
 草の隙間から覗き見ると、なるほど二本足で立つひょろりとしたフォルムが。 
 食糧事情が悪いのか、とても痩せていて、目玉にガラスの板がくっついている。――メガネって言うんだっけ? 
 重たそうな大きな袋を背負ったメガネニンゲンは、だるそうにだらだらと歩いていた。 
 
「あ、あのヒト……」 
 ロコンの表情が厳しくなる。 
「なんだ? 知ってんのか?」 
「いえ、なんでもありません」 
 そうは言ったが、ロコンの様子は尋常じゃない。 
 口を固く引き結び、射るような視線で地面をにらんでいる。 
 冷たく固まった表情からは、感情が読み取れない。 
「お、おいロコン……」 
 声をかける。 
 だが、話をさえぎられる。 
「今日は、わたしもお手伝いさせてもらいます」 
 その口調は静かだが、妙に迫力が有る。 
 絶対に拒否は許さない。そんな気持ちがこもっているような気がする。 
「良いですよね?」 
「え、ああ、うん」 
 ロコンの静かな迫力に圧倒され、同意してしまう。 
 でも、手伝うだなんて妙だな? 
 化かすのはゾロアだけの習性。 
 今までだって、ロコンは近くで見ているだけだったのに…… 
 
「では、わたしは後ろへ回ります。ゾロアさんはこのままで」 
「おい、お前どうしたんだ?」 
 ロコンは無視して話を続ける。 
「ゾロアさんが飛び出した後、わたしも行きます。はさみ打ちですね。 
最初のタイミングはゾロアさんに任せます」 
 必要最小限のことだけ話して、ロコンは行ってしまった。 
 夜の闇に赤茶色の姿が消える。 
「なんだよアイツ……」 
 いつもニコニコしていて、優しいロコンの面影は全くなかった。 
 オレ、何かまずいこと言った? 
 ひょっとして、乙女の日? 
 うーん、女心とか全然分かんねえや。 
 
「っと。そんな事考えてる場合じゃなかった」 
 メガネニンゲンはもう目と鼻の先。 
 オレは急いで精神を集中させて、おばけの映像をイメージする。 
 すぐに現実に幻影が表れ、オレを包む。 
 例の真っ黒な、分かりやすいおばけだ。 
 ロコンには進歩が無いと言われている。 
(よし……行くぞ!) 
 意を決して、草むらから飛び出した。 
「ばああああああ! おばけだぞー!」 
 ニンゲンにはポケモンの言葉は分からないので、『ワンワン!』としか聞こえないだろう。 
 これでは迫力が半減だが、仕方が無い。 
 さて、メガネニンゲンの反応は…… 
 
「……」 
 くそ! ビクともしねえ。今日も失敗だ。 
 いつになったら、一人前に化かせるようになるんだろう…… 
 メガネごしに極めて冷静な視線でこちらを見下ろしている。 
 近づいてから初めて気がついた。 
 このニンゲンは腰にモンスターボールを六個も付けている。 
(やべえ……こいつ、トレーナーだ!) 
 ニンゲンに育てられたポケモンは野生とは比べ物にならない戦闘力を持つ。 
 何とか一匹は倒せたとしても、数で押し負ける。 
 まともに戦ったら勝ち目は無い。 
 早く逃げないと……いや、ロコンを残してはいけない。 
 アイツが逃げる時間を稼がないと。 
 イリュージョンを解いて、戦闘態勢を取る。 
 姿勢を低く取り、ぐっとニンゲンをにらむ。 
 万が一、ゲットされたらロコンとは二度と会えない。 
 はっきり言って、絶望的な戦いだ。 
 それでも、逃げるわけにはいかなかった。 
 メガネニンゲンがモンスターボールに手を伸ばす。 
 その時だった。 
 
 燃えた。ニンゲンの両手が紫色の炎に包まれていた。 
 ニンゲンは決死の表情で炎に包まれた両手をぶんぶん振り回した。 
 これでは、モンスターボールを出すことはできまい。 
 オレはアレには見覚えがある。 
 あの気色の悪い炎は――おにびだ。 
「ロコン!」 
 オレの声に反応したのか、ニンゲンも振り向きロコンの方を見る。 
 ロコンは目を鋭くし、犬歯を剥きだしにしてうなっている。 
 普段の様子とは全然違う、恐ろしい獣そのものだ。 
 やっぱり、乙女の日なのか? 
 ロコンの口から真紅の炎が漏れた。 
 
「……!」 
 ニンゲンは手を押さえたまま逃げだした。 
 無理もない。あいつらは一人だと草むらに出ることすらできない。 
 慌てているのか、足がもつれる。 
「……っ!!」 
 あ、こけた。 
 背負っていた袋から、薄くて丸い何かが転げ落ちる。 
 だが、ニンゲンはそれどころじゃないらしい。 
 落し物には目もくれず、すぐに起きて必死に走り去って行った。 
 ……とりあえず、ロコンのおかげで助かったみたいだな。 
 
「何やってんだ、ロコン! 相手にケガさせたら、化かすどころじゃないだろ!」 
 お礼も言わず、ロコンを責めてしまう。 
 女の子に助けられたのが照れくさいとか、そういう下らない理由だ。  
 化かす相手を傷つけてはいけないというのは、一応本当だが。 
「え? ああ、ごめんなさい……」 
 気の無い返事。 
 ロコンは心ここにあらずという感じで、ぼんやりとしている。 
「もー、何なんだよお前! 元々変な奴だけど、あのニンゲンを見てからますます変だぞ」 
「……」 
 ロコンは押し黙っている。 
 無視か。無視なのか。 
 はあ、わけわかんねえ…… 
 オレはロコンの相手をするのを一旦やめ、今日の戦利品を取りに行く。 
 戦利品――ニンゲンが落とした薄くて丸いモノだ。 
 
「なんだこれ?」 
 土の上に放り出された戦利品をまじまじと見る。 
 真ん中に穴が開いた、オレンジ色の円盤だ。 
 ニンゲンの道具だろうか? 
「わざマシンです」 
「うわ! いきなり話しかけるなよ」 
 びっくりして、尻尾を上げてしまったじゃねえか。 
「で、何なんだ? そのわざマシンていうのは?」 
「新しい技を覚えられる道具です。ディスクを頭にくっつけて使うんですよ」 
 ロコンはすらすらと説明する。 
 こいつ……解説キャラか? 
「お前、良く知ってんな」 
「一回使った事ありますから。がまんって技ですけど」 
「そういやそんな技使えたっけ。そうか、新しい技か……」 
 
 新しい技。素晴らしい響きだ。 
 そこには男の夢とロマンが詰まっている。 
「よし、じゃあ使ってみるか!」 
「待って下さい。何の技が入ってるのかわかりませんし、そもそも使えるのかどうかも……」 
「止めるなロコン! 夢とロマンの為だ」 
「……わけがわかりません」 
 ロコンの制止も聞かず、オレは地面に落ちてる技マシンに、頭をくっつけた。 
 しばらくの後…… 
「!?」 
 情報が頭の中に流れ込んできた。 
 頭の中に直接、言葉を焼きつけられる。 
『炎……火……焼き……』 
 頭に穴をあけられて、水を注ぎ込まれるような感覚。 
 正直言って、かなり気持ち悪い。 
 あまり長く続かないのが不幸中の幸いだった。 
 
「うう……頭が重い」 
 オレはわざマシンから頭を離した。 
「大丈夫ですか?」 
 ロコンは心配してくれているようだ。 
「大丈夫だ、問題……」 
「言わせませんよ」 
「言わせろよ!」 
 
 ……とにもかくにも、新技を手に入れたのだ。 
 早速、試してみるしかないよな。 
「危ないから離れてろよロコン。スゲー技が出るからな」 
「はい、わかりました」 
 ロコンはオレから距離をとった。 
 さて、新技のおひろめだ。 
 頭の中の言葉に従い、技を繰り出す体勢を取る。 
 四本の足をしっかりと地面につけ、深く息を吸う。 
 胸ではなく腹に空気を溜めるような感覚だ。 
 その間に、イリュージョンの時と同じようにイメージする。 
 赤を、光を、そして熱を……。 
 そして、やけどしないように口を大きくあけて息を一気に吐き出した。 
 吐息は炎となり、一瞬だけ小さく燃えてすぐに消えた。 
 あきらかに火力不足。 
 
「やっぱ、ちゃんと練習しないと駄目かあ……」 
 自然とため息が出た。世の中そんなに甘くない。  
「あ、さっきのって炎タイプの技……」 
 ロコンが話しかけてきた。 
「ああ、まだお前みたいに上手くできないけどな」 
 練習は必要だが、炎技を習得できたのは良かった。 
 ロコンに会ってから気付いたのだが、火というのは非常に便利だ。 
 木の実を焼いたり、夜の明かりになったり、外敵を退けたり。 
 今までは、火を使いたい時は、ロコンにやってもらっていた。 
 だが…… 
「これでもう、お前に頼らなくても火を使えるようになるな」 
 そうだ、いちいちロコンの手を煩わせる必要はなくなったのだ。 
 それって、良いことだろ? 
「え?……はい、そうですね、わたしが居なくても……火を……」 
 ロコンの言葉が細く弱くなっていく。 
 最後の方はほとんど聞こえなかった。 
 ……やっぱり、ロコンの様子はおかしい。 
 詳しいことはわからないけど、まあ寝れば治るだろう。 
 
「じゃあ、今日はもう帰ろうぜ。おばけが出るしな」 
「ええ……そうですね」 
 巣に帰り、寝床で丸くなる。 
 何事も無かったように、一日が終わる。 
(明日は、炎技の練習をしよう。ロコンに教えてもらった方が上達が早いかも……) 
 そんなことを考えながら、心地良い眠りに落ちていった。 
 
 朝。太陽の光が巣の中に差し込み、眠りを払っていく。 
「ふああ……ロコンおはよう……」 
 返事が無い。いつもはロコンが先に起きているのだが。 
「珍しいな、お前が寝坊とか……」 
 寝ぼけまなこで、巣の中を見る。 
 居ない。 
 今日は、技の練習に付き合ってもらう予定なのに。 
「おーい、ロコン! どこだー!」 
 巣から出て呼びかける。 
 やはり、返事が無い。 
「まったく、どこ行ったんだロコンは。昨日から変な感じだしよ」 
 ……言葉に出して気付く。 
 そうだ、ロコンは昨日から変だった。 
 ぼんやりしていて、元気がなくて…… 
 オレのうなじの毛が逆立った。嫌な予感がするといつもこうなる。 
 これは、やばいかもしれない。 
「とりあえず、ロコンを見つけねえと……!」 
 やみくもに探しても、埒が明かない。 
「何か手掛かりは……あった!」 
 オレは巣の中に有った”手掛かり”を使ってロコンの追跡を開始した。 
 全速力で森の中を駆け抜ける。 
 何が起こっているか、正直さっぱりわからない。 
 だけど、ロコンに会えば全てわかるはずだ。 
 
 手掛かりが導いたのは、迷いの森の出口のすぐ近く。 
 多くのポケモンとニンゲンが踏みしめた太い道。 
 道の先は木立が途切れ、陽光がまぶしく照り入っている。 
 この先は知らない土地だ。 
 オレの生存圏、ギリギリ内側。 
 ロコンはそこに居た。  
 重そうに、尻尾を引きずって歩く赤茶色の毛玉に必死に追いすがる。 
 
「はあ、はあ……! ちょっ……待てよ!」 
 息が切れの苦しさも構わず、大声を出す。 
 すると、六本の尻尾の動きが止まる。  
 だが、こちらを振り返ることはなかった。 
 オレは回り込んで、ロコンの前に立ちはだかった。 
「お前、マジ……ふざけんなよ!」 
 こちらの言葉にも無反応。ロコンは下を向いたまま動かなかった。 
 生暖かく泡立った唾液が、口の中に溜まって気持ち悪い。 
 体毛が集中している首回りが暑い。 
 舌を出し、せわしなく呼吸して、体温を下げる。 
 ようやく息が整い普通に会話できるようになった。 
「……どうして、ここに居るってわかったんですか?」 
「匂いだよ」 
 ゾロアは鼻がきくのだ。 
「そう……ですか。ゾロアさんはやっぱり凄いですね」 
 ロコンは力無く笑った。 
 彼女は、何も楽しいことが無いのに、笑う。 
 中身が無いその笑顔を見てると悲しくなる。 
 
「とりあえず、帰るぞ!」 
「ごめんなさい。それは、できません」 
「は、何で?」 
「それは……」 
 ロコンが言葉に詰まる。 
 ……オレ、何かロコンを怒らせる事をしちゃったのか? 
 昨日ロコンがニンゲンから助けたのに、怒鳴りつけたのがまずかったか? 
 いや、それ以前にも『うぜえ』とか『バカ』とか言っちゃたし…… 
 やべえ、心当たりだらけだ。 
 
「オレに悪い所があったら、あやまるし、直すように努力するからさ……」 
「ゾロアさんって、純度100%のあくタイプの割に、すごく良い子ですね。でも、ゾロアさんは全然悪く無いんです」 
「へ? じゃあ何で出て行ったんだよ。ますますわけわかんねえ」 
 ロコンは空を少しだけ見上げた後、ゆっくりと話し始めた。 
 これはきっと、大切な話だ。ロコンの様子からそれは何となくわかる。 
 オレは耳をピンと立て、真剣に聞く。 
 
「わたし、もうゾロアさんの役に立てません。だから、もうここには居られません」 
 役に立たないって……。 
 ロコンはまだ、自分が何かをしてあげる見返りに、寝床を提供されていると思っていたようだ。 
 オレは別にそんなつもりで、ロコンと一緒に居たわけじゃないのに。 
 ほのおタイプのくせに水臭い奴だ。 
 とりあえず、説得しないと。 
「そんなことは無い! ロコンが居てくれて、とても助かってるぞ。火を使うのが上手いからな」 
「でも、ゾロアさんは自分で火を使えるようになりましたよね」 
「あ……」 
 ここで黙っちゃ駄目だろ! 何やってんだオレ。 
 とにかく反論するんだ。 
「えっと……ああ、そうだ、毛づくろい!」 
「一匹だけでもできます」 
「うーん……あ、メシの調達!」 
「二匹で沢山木の実をとっても、食べる量が増えてるから意味がありません」 
「くっ!」 
 こっちが必死に、ロコンの役に立っている所を探しているのに。 
 ほのおタイプのくせに何て暗い奴なんだ。 
「うるせえ! 役に立つとか立たないとかどうでも良いじゃねえか!」 
「どうでも良くないです!」 
 ロコンが大声をあげるのは珍しい。 
 驚いてしまい、毛が逆立つ。 
 
「ちゃんと、役に立たないと……また、捨てられちゃう」 
 搾り出すような声だった。 
 その一言で、色々なことが分かった気がする。 
 ロコンが腹を空かして倒れていた理由。 
 何かとオレの役に立とうとしていた理由。 
 そして今、彼女が去ろうとしている理由。 
 ロコンは重たい荷物を抱えているようだ。 
「あー、なんだ。何があったか話してみろよ、な? オレ、聞くからさ」 
 触れない方が良い話題かもしれない。 
 でも、オレは踏み込んだ。 
 独りで抱え込んでロコンが苦しんでいるように見えたからだ。 
 ロコンはしばらく目を伏せて押し黙る。 
 やっぱり、話してくれないか…… 
 オレが諦めかけた時、ロコンの口が開いた。 
  
「ゾロアさんが、昨日化かしたニンゲン。あのヒト、わたしのトレーナーなんです」 
「トレーナー?」 
 あのメガネニンゲンがロコンのトレーナー? 
「”元”トレーナーですけどね。しばらく一緒に旅をしてたんですよ。 
でも、地下鉄っていう所で才能無いって言われれちゃって……それで……それで……」 
 その先は、辛くて言えないのだろう。 
 言葉が途切れる。 
 一回ため息をつくと、ようやく話し始めた。   
 
「ゾロアさんと一緒に暮らしてた時は、本当に楽しくて、あのヒトの顔忘れてたんです。 
でも、昨日あのヒトの顔を見たら、色々と思い出しちゃって……」 
「それで仕返しを?」 
「はい。でも、全然スッキリしないんです。復讐は何も生まないって本当ですね」 
 ロコンの目は焦点があってない。 
 目を開いているが、何も見ていないような虚ろな瞳。 
「でも、皮肉ですよね。わたしがあのヒトに仕返ししたから、ゾロアさんが炎を使えるようになって、 
わたしはまた、役立たずに……。きっと復讐なんてしたから、バチが当たったんですね」 
 オレは別に復讐が悪いとは思わない。 
 嫌なことをされて、そのまま我慢しなきゃいけない道理はどこにもないと思う。 
 だが、今は口を挟まないで聞き役に徹する。そうしなきゃいけない気がしたから。 
 
「もう、誰かに要らないって言われるのは嫌なんです。だから、そうなる前に…… 
ゾロアさんが起きる前に……」 
 出て行ったというわけか。 
 大体の事情は飲み込めた。 
 捨てられた過去。それが今もロコンを苦しめ、不幸にしている。 
 
 それで、オレはどうすれば良い? 
 ロコンに同情して慰めれば良いのか? 
『お前の気持ちはわかる』って。 
 それは違う。ロコンの辛さ、苦しさはロコンにしかわからない。 
 
 あのメガネニンゲンを探し出して、こっぴどく化かしてやれば良いのか? 
 それも違う。どんなに復讐してもロコンの気は晴れない。 
 
『お前は役立たずなんかじゃない』。 
 いや、それも違う。その議論はロコンの暗黒理論によって既に打ち砕かれた。 
 いかん、手詰まりだ。何も思いつかない。 
 まずい、まずい、まずい……! このままだと、ロコンは…… 
 
「ごめんなさい、長々と話してしまって……今まで本当に、ありがとうございました」 
 もう話は終わったというような口調。実際話は済んでいる。 
 ロコンは既に事情を話し終え、オレが彼女に何もしてやれないのがわかってしまった。 
 オレがロコンにしてやれることなんて一つも無い。無力感がオレの心をしぼませていく。 
 ――オレも役立たずなのか?  
 そうだよな。オレ、ゾロアのくせに化かすのだって一人前にできないし…… 
 でも…… 
「さよなら」 
 ロコンがオレの体を避けて一歩踏み出した。 
 
 オレは役立たずかもしれない。だけど、このままは嫌だ! 
 
「ロコン! 行くな!」 
 我ながら単純な発言だと思う。 
 もっと、頭が良かったら気のきいたこと言えたのかなあ…… 
「でも……」 
「うるせえ! 行くなっつてんだよ! つーか行かないでくれ頼む!」 
「ゾロアさん?」 
 ロコンは戸惑って立ち止った。 
 引かれたかもしれない。でも、オレはこのまま行く。 
 思考も計算ももう、無理だ。 
 オレは心の中に有る言葉を、そのままロコンにぶつける。 
「オレはあ! ロコンのことが好きなんだよ! 好きだから、側に居てほしいんだよ!」 
 自己嫌悪も羞恥も忘れて、叫ぶ。 
「オレにはお前が必要なんだ! だから、行くな!」 
 うわ、恥ずかしい。朝っぱら大声で何言ってんのオレ……   
 ロコンは目を丸くして、硬直している。 
 駄目だ。絶対、引かれた。 
 大体、いきなり何、告白してんの?って話だよなあ…… 
 時間差で襲って来た恥ずかしさで、胸が破裂して死にそうだ。 
 深緑に色づいた森のさざめきがやけに耳についた。 
 あまりにも長く思えた沈黙の後、ロコンは歩み出した。 
 オレの方へ……。オレの首元の毛の密集地帯に顔を埋めてきた。 
  
「ろ、ロコン?」 
 いきなりの行動に驚き、呼びかけると。 
「うっ……うっ……うわあああああ!」 
 ロコンは大きく声をあげて泣きだした。 
 爆発するような泣き方というのだろうか。 
 涙、鼻水、よだれを垂れ流し、力の限りに泣き叫ぶ。 
 オレは、何も言えなかった。 
 
「ヒック……ヒック……ウゥ……ヒック」 
 ようやく泣きやんだ。 
 泣きすぎたせいで、息が切れている。 
「ゾロア……さん……ごめ……ごめなさ」 
「もう良い。無理に喋るな」 
 ロコンはこくりと首を縦に振った。 
 目は赤い。自分で出した液体で顔はぐちゃぐちゃだ。 
 
 さて、オレの体はどうなっているかというと…… 
 ロコンの涙、鼻水、よだれで首元のタテガミがべたべたになっている。 
 好きな子のモノなら汚く無い! 
「ロコン、水浴びしようか」 
 でも、綺麗にしておこう。 
「……水は嫌いです」 
 ほのおタイプだからだろうか。 
「でも汚いままだとさ、汚ギャルになっちゃうぜ」 
「うっ……汚ギャルは嫌です」 
「よし、決まりだな」 
 オレ達は近くの川へ行き、涙を洗い流した。 
 ついでに水遊びしたり、木の実を調達したり…… 
 夜になり寝床に帰る頃には、ロコンはすっかりいつもの様子に戻ったようだった。 
 色々有ったが、これで何もかも解決だ。 
 
「今日は疲れただろ? もう寝ようぜ」 
 空には大きな満月が一つ。月が明るく輝いているせいで星は見えない。 
 巣の出口から月光が入ってきていた。 
「あ、待って下さい。寝る前にちょっとお話が……」 
「ん、何だ?」 
「わたし、まだ返事していません。その……朝の……」 
 ああそうだ。告白したけど、泣きだしちゃって、うやむやになっていたな。 
 今思い出してもアレは恥ずかしい。 
「べ、別に、急いで返事しなくて良いぜ」 
「いえ。こういうのって、ちゃんと言わなきゃいけないと思うんです」 
 しっかりとした口調でロコンは言った。 
 目をつぶって、息を深く吸う。 
 そして、オレの目をみながら口を開く。 
「わたしも、ゾロアさんのことが、好き……です」 
「え、ああ、うん。そうか……ありがとな」 
 まあ、まだ一緒に居るんだし、そういうことになるよな。 
 そうか、お互いに、好き同士か。 
「へへへ……なんだか照れくさいな」 
「ええ……そう、ですね」 
 しばらく無言で見つめ合う。 
 改めて見たが、ロコンはやっぱり可愛い。 
 ちょこんとお座りする姿勢。 
 アーモンドのようなダークブラウンの丸い瞳。 
 短いマズルに小さくて可愛らしい口。 
 ふわふわの毛並み。 
 頭のオレンジ色の巻き毛は彼女を可憐に飾る。 
 茶褐色の毛皮はふわふわしていて、温かそうだ。 
 そして、先端が見事にカールした六本の尻尾。 
 とびきりに柔らかそうな毛がたっぷりと生えた尻尾はきっと極上の触り心地だろう。 
  
 心の中があったかくて、こそばゆい。 
 これが幸せって奴なのかな? 
 頬が緩みっぱなしだ。尻尾が勝手にパタパタ動いた。 
 
「そっち行って良いか?」 
「はい、もちろんです」 
 オレはロコンの隣へと擦り寄った。 
 そして、お座りの姿勢のまま、体をぴたりとつけ、愛おしさを込めて頬ずりする。 
 黒と褐色。お互いの毛皮が重なり合う。 
 頬から伝わって来る、ロコンの体温はとても、あたたかい。 
 ほのおタイプだからだろうか。  
 彼女の体温を求めて、より強く体を擦りつけると、甘く柔らかなロコンの匂いが鼻をくすぐった。 
 しばらくすると、ロコンも少しずつ動き始める。 
 互いの愛情を確かめるように、たっぷりと時間をかけて触れ合った。 
 ロコンの鼻先が、真黒なたてがみが、たっぷり生えている首元に突き入る。 
 鼻面で体毛をかき分け、撫でつける。 
 時折、ロコンの鼻の穴が小さく動き、空気を吸い込む。 
 どうやら、オレの匂いを嗅いでいるようだ。 
「そんなに嗅ぐなよ。臭くないか?」 
 不安になって聞いてみる。 
「そんなことないですよ。わたし、ゾロアさんの匂いって好きです」 
「え?」 
「太陽と森の匂いがします」 
「そ、そうか? なら良いんだけど」 
「わたしの方こそ、臭くないですか?」 
「そんなことないぞ! ロコン、とっても甘くて良い匂いだ」 
「ふふふ、ありがとうございます。でも、ちょっと恥ずかしいですね……」 
 ロコンが頬を染めながら、微笑んだ。 
 ああ、もう可愛いなあクソッ! 
 ロコンに対する愛しさがつのる。 
 
 彼女の顔をじっと見てると、不意に目が合った。 
 黒目がちな瞳に、真面目くさった表情のオレ顔が写り込んでいた。 
「目、閉じて」 
「はい……」 
 言われるまま、ロコンはまぶたを閉じた。 
 オレも目を閉じる。 
 鼻がぶつからないよう顔を少し傾け、口を近づけ、そして…… 
 ロコンの唇を奪った。 
 今まで感じたことのない、柔らかく、ぷるんとした感触が口元に走った。 
 軽く触れるだけの幼い口づけ。 
 だが、それだけでも心の中にしまい切れない程の幸福感が満ちていくのを感じた。 
「へへへ、チューしちゃったな。チュー」 
「え? ああ、うん……そうですね」 
 ロコンは、ぼうっとした顔をしている。 
「どうしたんだ、ロコン?」 
「はい、ゾロアさんにファーストキス奪われちゃったんだなあって……はは、わたし何言ってんだろう……」 
「オレだってさっきのが、ファーストキスだっつーの。文句言うなよな」 
 お互い初めて同士か。へへへ、何だか変な気分だ…… 
 キスを済ませた後も、しばらく体をぴたりと合わせたままお互いに甘え合った。 
 
「あ……あのさあ」 
 オレの方から話を切り出す。 
「どうしました?」 
 ロコンが少し頭を上げてオレを見る。 
「嫌なら、いいんだぞ。本当に少しでも嫌ならそう言って欲しいんだけどさあ……」 
 緊張しているせいで、目が泳ぎ、声が時々うわずる。 
「お、オレと……こ、交尾……してくれないか?」 
「はい」 
 ロコンは、はっきりと答えた。 
 
「え、即答?」 
 割と覚悟の要る発言だったのに…… 
 まあ、断られるよりはずっと良いんだが。 
「わたしも、ずっと前からゾロアさんと……その……そういう事したいなって思ってましたから」 
 ああ、女の子もしたいって思うんだ。まあ、当たり前だよな。 
 男も女も同じ生き物なんだし。 
「あのまま告白もせずにズルズルと共同生活続けていたら、ゾロアさんを襲ってしまう所でした」 
「襲うって……お前、可愛い顔して時々、凄い事言うよな」 
「えへへ……可愛いとか言われるとやっぱり照れちゃいますね」 
 論点はそこじゃないのだが…… 
 まあいっか。オレはロコンのそういう所も好きなわけだし。 
 
「それじゃあ、しようか。嫌だったり、痛かったら言えよ」 
「はい。やっぱりゾロアさんは優しいですね」 
「うう……」 
 優しいとか言うなよな。オレはあくタイプなんだから。 
 よし、ちょっと無理矢理気味にやってやろう。 
 オレは予告も無しにロコンの唇を再び奪う。 
 ロコンの目が大きく見開かれた。 
 今度は、ちょっと大人のキスだ。 
 強く長く唇を押し当てる。 
 舌でロコンの唇をこじあけ、中に侵入する。 
  
「ん……ふ……」 
 ロコンの鼻孔を甘やかな呼気が通り抜けた。 
 してやったりと思ったオレは、更なる攻撃に出る。 
 ロコンの歯列と歯ぐきを、音をたてながら舐めまわす。 
 耐えきれなくなったロコンは更に口を大きく開けてしまう。 
 オレはそれを見逃さない。 
 より深く舌べろを入れる。程なく、ロコンの舌に触れた。 
 彼女の舌もやはり、やけどする程ではないが高い温度を持っていた。 
 オレは誘うように、つんつんと舌先で、ロコンのそれを突いた。 
 刺激に反応して、わずかに持ち上がったロコンの舌が持ち上がる。 
 オレはそのまま、舌を絡め取り、ロコンの熱と味を楽しむ。 
 お互いの唾液が混じり合い、ぐじゅぐじゅと下品な音を立てた。 
 
 一つ誤算があった。ロコンはやられっぱなしじゃなかったのだ。 
 ロコンの舌も明確な意思を持って蠢きだす。 
 絡められるだけだった、ロコンの舌がオレにも快楽を分け与えようとしてきた。 
 オレの舌をいやらしく、べろりと舐めてくる。 
「!?……んぅうう……!」 
 突然の反撃に、鼻を鳴らしてしまう。 
 それでも、押し切られてしまわないように、オレも必死に舌で攻める。 
 互いに相手を求め、口腔内で舌をねっとりと絡ませていく。 
 唇のわずかな隙間から、つばが漏れて雫となって落ちた。 
 欲情した二匹の荒い鼻息とくぐもった喘ぎ。 
 濡れた唇が重なり合うと鳴る小さな破裂音。 
 舌が唾液を塗り合わせるいやらしい水音。 
 どれも自分たちが発しているとは信じられない程、卑猥な音。 
キスってこんなに気持ち良いモノだったんだ……。 
 大好きなロコンとこんな事できるなんて夢みたいだ。 
 だけど、これはそんなに長く続けられるようなモノではなかった。 
 過激な行為の最中に、きちんと呼吸できるほど、オレ達は慣れていない。 
 
「うぅ……もう、駄目……無理」 
 息苦しさに耐えきれなくて、舌をロコンの中から逃がす。 
 ロコンも苦しかったみたいで、顔を赤くしたまま浅い呼吸を何度もしていた。 
 オレたちの舌をつないでいた唾液の橋が限界を超えて伸ばされ、ぷつりと切れる。 
 荒く息をつきながら、オレはその様子をぼんやりと見ていた。 
「ゾロアさん、大丈夫ですか?」 
 先に立ち直ったロコンが話しかけてくる。。 
「うん。鼻で息すりゃ良いってわかってたんだけどなあ……」 
「すごかったですからね……無理もないですよ」 
「そうだよなあ……初めてだし、しょうがないよなあ……」 
 しみじみと語り合った。 
 いや、何落ちついているんだよオレ! 
 オレは頭をぶんぶんと振って、気合を入れなおす。」 
 あれはまだキス。本番はまだまだこれからだろ! 
「ゾロアさん? どうしました?」 
 ロコンが怪訝そうな顔つきで見ているが、気にしている余裕は無い。 
 オレは思考に没頭する。 
 
 えーと、キスの次は……どうするかな? 
 どうすれば、ロコンは気持ち良いんだろう? 
 今更気付いたが、交尾って意外と頭を使う。 
 本能でなんとかなるモノだと思っていた。 
 うんうん、唸りながら無い知恵を絞っていると…… 
「うひゃあ!」 
 頬にぬるりとした感触がいきなり訪れた。 
 ロコンが熱い舌でオレのほっぺを舐めたのだ。 
「何すんだよ。ビックリしたじゃねえか」 
「うふふ、ごめんなさい」 
 ロコンはいたずらが成功した子どもみたいな笑顔を浮かべていた。 
「でも、難しい顔してたらつまんないですよ」 
「まあ、そうなんだけどさあ……あっ!」 
 閃いた。 
 オレもロコンを舐めてやれば良いんだ。 
 いつもやっている毛づくろいをエッチな感じでやれば、大丈夫だろう。 
 
 さて、まずは…… 
 俺は、最初に目に飛び込んだ、ロコンの耳に口を寄せた。 
 小さい三角の可愛らしい耳たぶをぺろりと舐めてやる。 
「きゃっ!」 
 ロコンは体をビクつかせて、短い悲鳴をあげた。 
「へへ、お返し」 
 調子づいたオレは、赤茶色の耳を甘噛みする。 
 痛くないよう、優しく歯で刺激を与えた。 
「ゾロア……さん、ああ!」 
 ロコンは小さく震えながら、目をきゅっとつむっている。 
 その様子は、いじらしい。 
 だけど、オレはそれを突き崩したくなった。 
 前足で、ロコンを軽く押さえつけながら、容赦なく全身を舐めまわしていく。 
 鼻、頬、首筋、背中…… 
 暖色の毛皮を、前足でかき分け、その下の地肌をなめらかな舌が這いずる。 
 ふわふわした綺麗な体毛が、唾液で濡れ、汚れていく。 
 ロコンの体にオレの唾液の臭いが移る。オレはそれがとても嬉しい。 
 ロコンがオレのモノになってくれたみたいで。 
「くぅん……」 
 時折、ロコンは小さく鳴いた。その声がもっと聞きたくて、舌の運動量を増やす。 
 
 お腹のあたりを愛撫している時だった。 
「あっ……」 
 ロコンが耐えきれなくなって、後ろに倒れてしまった。 
 寝藁がクッションとなったので痛みは無いはず。 
 仰向けに寝転がったロコンのお腹は丸見え。 
 四本の足は地面から全部離れたから、満足に身動きもとれないだろう。 
 まるで、降参のポーズを取っているみたいだ。オレは許してやらないけど。 
 ロコンの脇腹の横に前足を着いて、動きを制限する。 
 お腹は白い毛がわさわさと生えていた。 
 マズルを突っ込み、柔らかな毛をしばらくかき分けると、目的のものがあった。 
 普段は豊かな体毛に覆われていて隠れていた、ロコンの腹部にピンク色の小さな乳首が、六つ。 
 未熟な乳房はまったくふくらんでいない。繰り返す、まったくふくらんでいない。 
 
「あまり、見ないで下さい!」 
 不機嫌そうにロコンが言った。 
「何で? 交尾なんだから、相手の体見るの当然じゃん」 
「だって……わたし、小さいし……」 
 そう言うと、ぷいとそっぽを向いてしまった。 
「気にすんなって、小さいのって可愛いじゃん」 
「うう……それフォローになってません!」 
 本心を言ったつもりだが、上手く伝わらなかったみたいだ。 
 なかなか難しいものだなあ。まあ良いや。 
 オレは一番上、右側の乳首に吸いついた。 
「あ……ちょっと、まだ話の……」 
 無視して、赤ん坊の様にちゅうちゅう吸う。 
 唇でしっかり挟み、口の中の空気を抜いて、圧力を与える。 
 他の乳首は前足の肉球押したり、軽くひっかいたり……。 
 思うがまま、ロコンの貧乳を弄ぶ。 
 上から下へ。順番に乳首を口で可愛がってやる。 
 全ての乳首を吸い終わり、更にその下へ向かう…… 
 
「ちょっと……待ってください! 待って!」 
「ん? 何だよ」 
これからクンニしてやろうと思っていたのに…… 
嫌なのだろうか? オレの予想に反して、ロコンは意外な事を言った。 
「わたしも……わたしも、やります!」 
「へ?」 
「わたしも、ゾロアさんを気持ち良くしてあげたいんです!」 
 ロコンは真剣な面持ちだ。 
「お前はそんな事、しなくて良い」 
「へえ……興味無いんですか?」 
「興味って、何にだよ?」 
「……フェラとか」 
「……!?」 
 股間のモノがぴくりと動いた。 
 体は正直だ。 
「べべべべべ、別にそんなことに興味とか……」 
「本当の事を言って下さい」 
「はい、あります」 
 耳を垂れてあっさり降参する。我ながら情けない。 
「じゃあ、やってあげますね。ゾロアさんが寝転がる番ですよ」 
 やばい、このまま行くと主導権を完全に握られてしまう気がする。 
 とにかく、一方的にやられるのはまずい。 
「あ、ちょっと待って!」 
「どうしたんですか? 早く……」 
「えっと、さ……どうせするなら、舐め合いっこしようぜ」 
「舐め合い?」 
「シックスナインって言うんだけどさ、知らない?」 
 ポケモンの間じゃマニアックなプレイだから、ロコンは知らないかもな。 
「知ってますよ」 
「知ってるのかよ!」 
 経験無いくせに、そっち関係の知識は豊富なんだな。 
 オレもロコンの事言えないけど。 
 
「じゃオレが上、ロコンが下な」 
「えー。逆が良いです」 
「何でそんなに攻めたがりなんだよ! オレが上なの!」 
 なんとか主張を押し通せた。 
 仰向けに寝転がっているロコンの顔を跨ぎ、逆向きになるように覆いかぶさる。 
 これからする行為のことを考えれば当然だが、ロコンの顔にオレのおちんちんが上から迫る形になる。 
 そこで、ロコンがとんでも無いことを言い出した。 
「あ、ゾロアさんって包茎なんですね」 
「なっ……!」 
 後ろを振り返ったオレの顔が羞恥と屈辱でかあっと熱くなる。 
 オレの体色と同じ、黒の皮は先っぽまで覆ってしまっている。 
 幸い、勃起したり自分で剥いたりすれば中身が出てくる。 
 それでも、内心コンプレックスに思っていた。  
「気にしなくても良いですよ。皮が被ってるのって可愛いですし」 
 仕返しか? 仕返しなのか? 
 貧乳をからかわれたのを、相当根に持っていたようだ。 
 オレはもう、ロコンの胸の話題には絶対に触れないと固く誓った。  
 
 気を取り直し、視線を前に戻す。 
 ちっこい足の間には、お腹から続く白い体毛が少し深めに茂っている。 
 遠くから見ると何も無いように見える。 
 しかし、今回のように肉薄すると、見えるのだ。縦に走る筋がうっすらと。 
 ここが女の子の大事な所……。こんなに近くで見るのは初めてだ。 
 もっと、良く見たくなって、前足で毛をかき分ける。 
 隠すものが無くなり、ロコンの女性器が露になる。 
 朱色の肉の小さな裂け目。ひだの様な外縁部は、ロコンの呼吸に合わせて誘うように蠢いている。 
 粘性の有る液体の筋を何本も内壁に架けた女穴。 
 男を待ちわびて、口をあけて待っているようなその様子は、少しショッキングだ。 
 試しに、右前足の肉球で周囲の肉ひだを撫でてみる。 
「あ……」 
 ロコンの足がびくりと動いた。どうやら痛くはないみたいだ。 
 未知の器官だから、不安だったのだが、大丈夫そうだ。 
 
 次は舌を使ってみよう。 
 いきなり穴の中に入れるのは怖かったので、外側から攻めていくことにした。 
 肉のびらびらを、毛づくろいするのと同じ要領で舐めてやる。 
「ひぅ……!」 
 ロコンの体がこおばる。無意識なのだろう、ロコンはオレの頭を太ももで挟んで逃がさないようにしてきた。 
 ロコンの肉体に求められることを喜びに思いながら、丁寧に局部を舐める。 
 
「なあロコン。お前も、してくれよ……」 
「う、うん」  
 ロコンは素直にオレの求めに応じた。 
 両前足で陰茎を挟み、固定する。ロコンの肉球の柔らかさが、おちんちんを通して伝わってくる。 
 自分で触るのとは段違いの気持ちよさだ。息を止めて、喘ぎを殺す。 
 ロコンはしばらく躊躇するように、しばらくオレのを凝視したあと、目をつぶり…… 
 恐る恐る、先端をぺろりと舐めた。 
 炎を宿したように熱い舌が、男の一番敏感な部分に襲いかかる。  
 あまりの快楽に腰がひけそうになる。 
「くっ……う、上手過ぎだぞ、ロコン」 
 余裕がないのか、ロコンは返事もせず、なめ続ける。 
 彼女にだけ頑張らせるわけにはいかない。 
 フェラチオがもたらす、震えるような快楽に耐えながら、ロコンの膣に舌を差し入れた。 
 穴の中に溜まっていた、ねとねとした愛液。それを口に含むと奇妙にしょっぱい味が広がる。 
 どぎつい女の味。むせかえる程の女の甘い匂い。 
 頭の中がくらくらしてきそうだ。 
 それでも、オレが頑張って舐め続ける。 
 深くクンニする度に、体の震え、小さな鳴き声、荒い息使いといったロコンの喜びのサインがオレをはげましてくれた。 
 
 ロコン側の行為もエスカレートしていく。 
 唾液の滴る口を大きくあけ、男根を咥えこむ。 
 顔を動かしながら、唇と内頬でおちんちんを揉みほぐす。 
 ロコンの口撫に素直に反応して、オレの雄はぐんぐん体積を増していく。 
 自然に皮がめくれ、隠れていたピンク色の尖りが姿を見せる。 
 刺激に弱い、その部分をロコンはあくまで優しく、舌を絡ませて愛撫してくれた。 
「あぐ……う……ぐぅ」 
 女陰に顔を埋めながら、オレは喘いだ。 
 
 二匹が繰り広げる快楽の応酬。 
 互いに、性器をつばと腺液でべとべとに汚しながら、高めあっていく。 
 息を荒げ、快楽に咽びながら、必死に相手に奉仕する行為は激しさを増す。 
 オレは、穴の端っこに有る、豆のように小さく膨らんだ部位にむしゃぶりついた。 
 そこが、一番女の子が喜ぶ場所だと知っていたから。 
 それは正しかったようで、ロコンの前足がピンと張り、秘所にじゅわりと汁が滲む。 
 
 一方ロコンは、口だけではなく、前足まで使ってくるようになった。 
 ぼってり膨らんだ玉袋がやわやわと揉みしだかれる。 
 その間も、口の愛撫は止まらない。 
 情熱的とも言える舌使いで雄肉を攻め立てていく。 
 技巧だけじゃない。 
 あんなに可憐なロコンが、オレの性器をしゃぶっている。その状況そのものがオレを興奮させた。 
 時折、振り返ってロコンの顔をうかがう。 
 そこには、性に溺れ、とろんとした顔で淫らな行為にふけるメスの獣がそこにいた。 
 先っぽをべろんと、舐められる。 
「くぁあ……!」 
 オレはロコンの口の中に我慢汁をぴゅうっと発射してしまった。 
 ロコンは一瞬顔をしかめたが、何事も無かったかのように、血管の浮いた陰茎に愛撫を続ける。 
 このままでは、オレの方が先にまいってしまいそうだ。 
 
 ロコンを追い詰めるため、陰核への攻めを強める。 
 熱い息を吹きかける。何度もキスをする。舌で舐めまわす。 
 彼女の口淫に必死に耐えながら思いつく限りの技巧を試す。 
 陰核を唇で挟み、舌で強く押すと…… 
「んん!……う……ぅうう!」 
 ロコンはおちんちんを口に含んだまま、弓なりにのけぞり激しく痙攣した。 
 膣口から、ぶしゃっと液液が小さく噴き出す。 
 ……イったな。そう確信したオレは、先に達してしまわなかった事に安堵を覚えた。 
 あんなに積極的にしゃぶっていたのが嘘みたいに、ロコンはぐったりしてしまう。 
 これ以上の口淫は期待できない。 
 オレは男根をロコンの口から引き抜き、シックスナインを解いてやった。 
 
 絶頂の余韻に、顔を赤らめながら息を整えるロコン。 
 大きな瞳を潤ませながらオレをぼんやりと見る。 
 口から垂れたよだれが一筋。可愛らしい顔には不釣り合いで、倒錯的な色っぽさを感じる。 
 普段の様子からは想像もつかない、においたつような艶やかさ。 
 胸が高鳴り、オスとしての本能がざわめく。 
 まだ、達していないおちんちんが、オレを急かした。 
 完全に欲情してしまい、理性的な判断ができない。 
「ロコン……。オレ……オレ!」 
「ゾロア……さん?」 
「オレ、ロコンの中に入れたい!」 
 恥ずかしげもなく、自らの欲望を暴露してしまう。 
 無様だ。とても、格好悪い。 
 でも、ロコンはそんなオレの言葉に、にへらっと笑って答える。 
「うん、いいですよ。一つに、なりましょうか……」 
 シックスナインの後遺症で、力が抜けた体をゆっくりと起きあがらせる。 
 オレの方にぷりっとした尻を向け、寝藁の上に立つ。 
 オレの顔を振り返って見ながら、伏せをする。 
 お尻の位置は下げない。オレの方に、尻をつき出す体勢だ。 
 誘っているかのように、ふりふりとしっぽが揺れ、オレの顔を軽く撫でる。 
 上に持ち上がった、惚れ惚れするほど立派な六本の尻尾。 
 その根元付近には、肛門。そして、オレの口淫をたっぷり受けた膣が。 
 オレの唾液と、ロコンの出した愛液が入り混じるヴァギナ。 
 びちょびちょに濡れ、粘液が何本も糸を引いている。 
 犯されるのを今か今かと待ちわびているように、陰唇がひくついていた。 
 あまりにも。あまりにも扇情的なその様子に、オレは生唾をごくりと飲み込む。 
 
「来て……ください」 
「お、おう……」 
 ロコンに促されるまま、オレは彼女に後ろから覆いかぶさった。 
 栗の実のような温かみのある赤茶色のメスに、夜の闇のようなダークグレーのオスがのしかかる。 
 先が赤くなっている前足でロコンの脇腹を持ち、上体を浮かせる。 
 二本の後ろ足だけで立つ為、少しバランスが悪いけど何とかなりそうだ。 
 ふかふかした六本の尻尾が、オレとロコンの胴体の間にはさまる。 
 豊かなボリュームを持ったオレンジ色の尻尾がお腹に当たって、とても心地良い。 
 後背位。オレたち四本足のポケモンにとって、最も一般的な交尾の仕方だ。 
 陰茎と膣はもう、目と鼻の先の距離だ。その距離を更に縮めようと腰を動かす。 
 すると、ぴたりと密着しているロコンの体が、こわばるのがわかった。 
「……怖いのか?」 
 耳元で囁く。 
「少し……。でも、怖い気持ちより、嬉しい気持ちの方が大きいです、だから……」 
 少し間を置いて、ロコンは言った。 
「入れて……ください」 
「うん、わかった」 
 雄の印を入口へ導き、軽く当てた。 
「力抜いて……」 
「はい」 
 未知の行為に対するおびえで震える体で、なんとか力を抜こうとしているのだろう。 
 深く息を吸い、そして吐く。 
 オレを受け入れようとする、そのいじらしさを愛しく思う。 
 
「入れる……ぞ!」 
 ロコンを傷つけぬよう、腰をゆっくりと慎重に突き出す。 
 オレの胴体と柔らかい六本の尻尾が更に密着する。 
 陰唇を割り、おちんちんの先がロコンの中にずぶりと入った。 
「あっ……つー……!」 
 オレとは比べモノにならない体温。 
 ロコンの熱を受けた陰部は、更に興奮し膨らむ。 
「ゾ、ゾロアぁ……!」 
 ロコンの悲鳴。さすがにこの状況ではいつもの敬語口調は崩れてしまうようだ。 
「まだだ……。まだ……」 
 ロコンの尻尾に腹と顔をくすぐられながら、さらに深く犯してゆく。 
 誰も入れたことの無い、狭い肉穴を雄槍が肉壁を押しのけ、まくりあげながらじっくりと進む。 
「ん……んん!」 
「はあ……あと、あと少し……!」 
 相手を気遣う余裕などない。 
 初めて味わう女の肉体。その甘美なる味にオレはひたすら没頭していた。 
 互いの出した粘液の力を借り、ぐじゅり、ぐじゅりと淫靡な音を立てながらより深くより深く……。 
 やがて、淫猥な旅は終り、男根が根元までずっぷりとと差し込まれてしまった。 
「はあ……はあ、やっと最後まで入った」 
 息もたえだえだ。 
 でも、すぐにイッてしまわなくて良かった。 
 そんな事を考えていた時だった。 
 
「う……うっ」 
 嗚咽が聞こえた。 
「ロコン……?」 
 ロコンは、泣いていた。 
 破瓜の苦痛に顔を歪ませ、股から血を流しながら。 
 女の子の初めては、痛いのだ。オレはそれを知っていたのに、自分が気持よくなってばっかりで…… 
 大好きな子を痛めつけてしまった後悔。崖から突き落されるように心が落ちる。 
「あ……ロコン。オレ……オレ……」 
「しょうが……ないよ。最初なんだし……」 
 ロコンはオレを責めなかった。 
 彼女の優しさが何よりも辛かった。 
「でも……でも!」  
「良いんだよ、ゾロア……」 
「え……?」 
 処女を失う痛みにさいなまれながらもロコンは、はっきりと言った。 
「わたしを……好きにして……」 
 その一言は、オレの理性を完膚無きまでに破壊した。 
「うわああああ! ロコン! ロコオオン!」 
 自制を全て取り去り喚きながら、男の純粋な欲望のおもむくまま、濃灰色の金玉袋を揺らしながら激しく腰を振る。 
 経験の薄い膣の締り、まとわりつく腺液と肉。焼けつくような体温。 
 それらが与える極上の快楽に、おちんちんはがまん汁をびゅくびゅくと噴出させて喜ぶ。 
 先っぽがカールした尻尾が激しく揺れ、顔を何度も撫でた。 
 
「ごめ……ロコン! 腰が……! 腰が止まんねえよおおお!」 
 何度も、何度もロコンの秘所を刺し貫く。 
 互いの肌がぶつかってぺちぺちと音をたてた。 
「いった……ひっ……!」 
 当然、この行為はロコンにとって痛みを伴う。 
 痛みに耐える為に、体に力を入れるせいで、突くたびに膣が締まる。 
 体を激しく求められ、ゆすられるロコン。  
 不慣れな性行為のもたらす苦しみに泣きむせぶ。 
 だが、その様子させオレの興奮を更に煽る。 
 女を組み伏せ、痛めつける暗い加虐と征服の快楽。 
 オレはロコンを苦しめて喜んでるんだ。 
 オレは……最低だ。 
 でも、やめられない。もっと交わりたい。もっと肉を混ぜ合わせたい。 
 だって……。だって、オレは…… 
 
「好き……好きだ。大好きだロコン! 大好きなんだよおおおお!」 
 自分ではどうしようもない位大きく膨らんだロコンへの好意を臆面もなくぶちまける。 
 何度もロコンの名を呼び、何度も大好きだと絶叫しながら犯しまくる。 
 顔は真っ赤。よだれは垂れ流し。涙も出てる。すごく格好悪い。 
 童貞と処女の繰り広げる、あまりにも拙い性行為。 
 それも終わりが近いようだ。 
「あ……あ、出る……出ちまう!」 
 陰茎の内部に熱い液がぱんぱんに溜まる。男根が限界まで膨らみロコンの中に存在を刻む。 
 放出に備え玉袋がきゅっと引き締まる。 
 狭い膣の一番深くへ男根を押し込んだ時だった。 
「ロコン……ロコン……! うわあああああん!」 
 六本の尻尾に包まれながら、オレは真っ白な精液をぶっ放した。 
 痛めつけられぐったりしているロコンの柔らかな体に、どろりとした精がなみなみと注がれてゆく。 
 濃く長い放出がもたらす、切ないうずきに体が震えた。 
 それが終わっても、びゅっびゅっと小刻みに何度も、何度も種づけする。 
 頭がおかしくなるほどの、射精感。 
 命の根源がもたらす絶頂快楽にオレは泣き叫ぶことしかできなかった。 
 
「本当に、ごめん……」 
 ロコンの顔をぺろぺろ舐めながら、謝る。 
「しょうがないですよ。気にしないでください」 
 再び皮をかぶり平常モードになったおちんちんを引き抜いた後、 
オレたちは二匹とも地面に伏せてまったりと会話していた。 
 償いをするように、ロコンを毛づくろいする。 
 穏やかな、興奮を伴わない優しい後戯。 
 交尾と眠りの間にある、ゆったりとした時間がそこにあった。 
「えっと……その……たくさんやって、体が慣れてくれば、気持ち良くなると思いますし」 
 ロコンは顔を赤らめ恥ずかしそうに言った。   
「そ、そうか。そう言ってくれると助かるこれからも一杯しような、ロコン」 
「はい……」 
 射精後の脱力感と幸福感に包まれながら、眠りについた。    
  
「よーし、いくぞ!」 
 次の日の朝。わざましんで覚えた炎技でバンジの実を焼いてみる。 
 強くしすぎないように、弱い火を吐いた……つもりだった。 
 炎に包まれた木の実はあっという間に…… 
「ウェルダンてレベルじゃありませんね」 
「くっそー。なんでだよ……」  
 哀れバンジの実は真黒に炭化してしまった。 
 ああ、もったいない。 
「ゾロアさん。食べ物は大事にしないと駄目ですよ」 
「わかってるよ……。おかしいなあ、ちゃんと手加減したのに」 
 どこが悪かったんだろう。 
 火力……はそんなに強くなかった。慣れない技なので、強い火はまだだせないし。 
 うーん、どうしてこうなったのかまるでわからない。 
 オレは思い悩む。 
 この悩みの答えはロコンが知っていた。 
「あ、もしかしたらあの、わざましん、”やきつくす”だったのかもしれませんね」 
「やきつくす?」 
「相手が持ってる木の実を、文字通り焼き尽くして食べられないようにする技です」 
「まじかよ……。それじゃ、木の実焼けねえじゃん」 
 ロコンに頼らなくても良くなると思ったのだが、それは思い違いだった。 
 オレはため息をついた。 
「木の実は今まで通りわたしが焼きますから特に問題は無いでしょう」 
「結局、何もかも元通りか。うわあ、何だか馬鹿っぽい……」 
 この技のせいで、ロコンが出て行ったのに……  
 力が抜ける。何だかすごく間抜けだ。 
「まあ、済んだことは良いじゃないですか。ね?」 
「ん、まあそうだな」 
 色々あったけど、今は隣にロコンが居てくれる。 
 それで、十分だ。 
  
「ゾロアさん、何か聞こえません?」 
 ロコンが耳をぴくぴくさせる。 
 確かに、何者かの足音が風に乗って流れてきていた。 
「誰か来たみたいだな。よーし、今度は絶対化かしてやるからな!」 
 今度のターゲットはどんな奴だろう? 
 どうやって化かそうか? 
 色々考えることは有るけど、とりあえず、ターゲットに近づかないとな。 
「よし、ロコン行こうぜ!」 
「はい!」  
 今日も、太陽はまぶしく照っていた。 
 
          完 
  
     
 

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