「ねね、ご主人!一度みんなの所に帰ろ?」
暗い洞窟の中、ポケモンの鳴き声が響く。
ここに来てすでに何ヶ月も・・・いや、下手したら何年も経っているかも知れない。
もっと強くなりたいという願いを叶えるためだけにみんなで山にこもり始め
長い月日がたつうちにあんなに優しかった主人も、あんなに賑やかだった他の仲間たちも皆
いつしかあまり喋らなくなってしまった。
「そ、そりゃあこんなに長い間帰らないでいたんだから怒られるかも知れないけど・・・。
私も一緒に怒られてあげるから・・・ね?」
「・・・・・・・・・・・・」
返事はない。
もう、何もかもに疲れきってて、でも戦うことだけは止めない。
ろくに食事もしなくなりつつあったそんな主人の姿に、
泣きそうになりつつ同意を求めて仲間に声をかけてみるも
「リザードン。久し振りに青空を飛び回りたいよね?」
返事がない。
「ラプラスとカメックスももうこんな洞窟の中飽きちゃったよね?」
返事がない。
「フシギバナとかカビゴンだって久し振りに日光浴したいでしょ?」
返事は、ない。
どうしてこんなことになってしまったんだろう?
チャンピオンになる前のあの頃を思いだすあの頃を思いだす。
あの時は確かワタルのカイリューに皆そろって返り討ちにされちゃって
チャンピオンロードへ修行をし直しに行ったんだっけ?
そこで時間をかけちゃったせいでチャンピオンの座を横取りされちゃったりしたけど
そんな事件も含めたって今より楽しかった気がする・・・。
「もう、ヤダよ・・・。もう私たち強いポケモンもトレーナーさんもいない。それでいいでしょ?」
「・・・・・・それが・・・恐い」
「ご主人!?」
それは本当に久し振りな彼女の声だった。
「俺はね、ピカチュウ。チャンピオンになったことを・・・半分、後悔してるんだ」
「・・・・・・なんで?チャンピオンになるんだ〜!!って初めてあった時から言ってたのに」
一緒に旅をし始めたころはそのテンションの高さがウザくて
それは本当に久し振りな彼の声だった。
「俺はね、ピカチュウ。チャンピオンになったことを・・・半分、後悔してるんだ」
「・・・・・・なんで?チャンピオンになるんだ〜!!って初めてあった時から言ってたのに」
一緒に旅をし始めたころはそのテンションの高さがウザくて
オーキド博士を呪いたい気持ちだったのをよく覚えている。
あんなに叶えたかった夢が叶ったことを後悔していると言わたことに
あまり驚かなかったのは心のどこかで気づいていたからかも知れない。
「夢を見すぎたせい・・・かな?
チャンピオンになって夢が叶ったあとの俺には・・・何も残っていなかった。
やりたいこともなくて、バトルをしても初めての頃の興奮を感じられなくなってしまった。
俺は・・・・・・・その感覚がたまらなく恐かったんだ」
「じゃあ、もっと強くなりたいって言ってたのは・・・嘘?」
「うん、ゴメン。・・・本当は、こんな奴と戦うなんて二度とごめんだって言いたくなるくらい
俺たちが倒せないような強いやつと戦いたかったんだ。
そうすれば、そいつを倒すことを目標にしてきっとまた頑張れると思ったんだ。
でもまさか・・・そんな奴が現れないどころか、お前を泣かせることになるなんてね」
「な、泣いてなんかいません!!雪が体温で溶けただけっていうか・・・、
とにかくそんな感じの奴です!!」
こんな苦しい言い訳をするのも久し振りだ。
いつもならここで堪えきれずに主人が笑いだして、
そのせいでもっと恥ずかしくなってボルテッカーをかまそうとする私を止めようと
慌ててリザードンとかが出てきて・・・ってなるところだが、
今の彼にうかんでいる笑みはいつもの意地の悪い笑みと違って
私のことを本気で心配してくれたいつかと同じ優しい笑顔だったから
何をする気にもなれなかった。
「・・・最期にもう一回だけ、もうすぐここに辿り着くトレーナーを相手にしたら、
勝ち負け関係なしに帰るとするか」
「え・・・?」
温かい主人の手のひらのぬくもりを肌で感じる。
いつの間にか吹雪は止んでいてダイヤモンドダストと呼ばれる
幻想的な光が彼らを包みはじめていた。
「結局いろんな仲間を悲しませただけで何のいい事がないからな。
・・・お前はいつまでたっても俺を名前で呼んでくれないしさ〜」
「それはっ!その・・・・・・」
言ったら最後、自分の中にある彼への想いが誤魔化せなくなるから・・・なんて、
いっても良いのだろうか。
今なら勢いで言えるかも、と覚悟を決めたとき最後のチャレンジャーの姿が目に映った。
なんとタイミングの悪い奴・・・!
「・・・これが終ったら、話します。後腐れないように私がソッコーでケリをつけてやりますから」
レッドも覚悟しててよね?
最後までは言わず最期の戦いに向け意識を集中した。