拾:憎悪の終焉  
 
 
 ……一週間後  
――グレンタウン ポケモン屋敷  
 グレンタウンの名所とも言える巨大な廃屋。嘗てのフジ老人達の研究拠点であり、恐らくはミュウツーが生み出された場所。  
 今は訪れる者は少なく、肝試しの子供やはぐれ研究員が立ち寄る位だ。昔は火事場泥棒の隠れ家としても機能していたが、治安維持の名目でガサ入れが行われ、めっきり姿を見なくなった。  
 時と共に朽ちて行くこの廃屋にジョウトからロケット団の増員がやってくるとの情報を得たレッドとリーフは綿密な作戦を立てて今日に望んだ。  
――ドンッ!  
「ぎゃああああああああ!!!!」  
 爆発音と共にロケット団員の断末魔が響く。屋敷全体に張り巡らされたトラップに面白い様に掛かっていく。最早、ポケモンでどうにか出来る状況を超えていた。  
「糞ッ! またやられた! こっちに来てくれ!」  
「一体全体どうなってる!? 敵は何処だ!」  
 パニックになり右往左往する男達。最初は七人近く居た団員も今やたった二人だけだ。  
 この屋敷にはスイッチによって開閉するシャッターが彼方此方に仕掛けられている。その切り替えとC4やクレイモアによるトラップは絶大な効果を上げていた。  
『こいつ等はもう瀕死だ。一気に畳み掛ける』  
『WILCO(了解遂行)。じゃあ、シャッター開けるわね』  
 無線で連絡を取りつつ、絶妙なコンビネーションを発揮する兄妹。  
――ガラガラガラ……  
 シャッターが上に開いていく。  
「あ、開いた! に、逃げるぞ!」  
「あ、おい待て! 危ない!」  
 団員の一人が焦りながらシャッターに飛び込もうとする。それに罠の臭いを感じたもう一人が必死にそれを止めようとする。だが、遅かった。  
「おおおおおおおおお――っ!!」  
 シャッターが開き切ると同時にレッドが突っ込んだ。  
「がっ!」  
 半ば焼け糞気味にショットガンを突き出して、銃口を男にぶち当てた。それに一瞬よろける男に向かいレッドは引き金を引く。  
――ダァン!  
 ガンスティンガーだ。近距離からの散弾銃をモロに喰らい、男は吹っ飛びながら絶命した。  
 
「ひっ」  
 その様子を間近に見てしまった最後の一人がビクリと身を硬くし、次の瞬間にはレッドに背を向けて逃げ出した。通路に逃げ込もうして……  
――パララララッ!  
「ぐわあ!」  
 脚へ弾が当り、男はそのまま転んで倒れる。銃口を向けるリーフが佇んでいた。  
 ……逃げる方向にこそ罠や追っ手を配置するモノだ。時には真っ向から勝負した方が結果的に生き残れると言うのは良くある事だ。そう言う意味では、確かにこのロケット団は策を誤ったのだ。  
「さて……」  
 最後に残った団員に近付いていくレッド。前回と同じ様に尋問を行う腹積もりだった。リーフも構えを崩さないで、ゆっくり男に歩み寄る。その男はどう見ても自分達より年下だった。  
「喋って貰おうかな」  
「ぐうう……貴様等か! お月見山の仲間を殺ったのは!」  
 脚を抑えながら何とか身体を起こしたロケット団が憎々しげに二人を睨む。  
「・・・」  
――どすっ  
「ぐげっ」  
 その顔が気に入らなかったリーフ。その爪先が男の腹に突き刺さった。  
 自分達は殺される覚悟を以って復讐に望んでいる。だが、そんなロケット団は殺される覚悟を以って悪事に望んでいるのかが、どうにも伝わらない。  
 只、上の指示を受けて、責任の所在を曖昧にしロボットの様に命令を遂行しているだけでは無いのだろうか。  
 悪の組織を名乗る位ならば、死の覚悟程度は済ませて置いて欲しいと常々兄妹は思っていた。  
「質問はこちらがする。貴様は聞かれた事以外喋るな」  
 普段のリーフとは違う、低い男前な声で警告を発する。  
「わ、分かった……言う通りに、する」  
 腹を抱えて苦しそうにしながら男は頭を振った。  
 ……こうやって、銃で脅せば容易くこいつ等は命を惜しむ。全く、この世の必要悪足り得ない情け無さだと、思わず呆れてしまった。  
 
「お月見山もそうだったが、ここも拠点として使うつもりだったのか?」  
「そうだ。今や我々はジョウトの組織。カントー再進出の橋頭堡は欲しい」  
 前と同じ状況だ。どうやら、完全に拠点を西に移してしまった様だ。以前はカントーで幅を利かせていたのに、解散の煽りで動き難くなった故の苦渋の決断の名残だろう。  
 しかし、ロケット団への逆風が未だに根強いカントーで今更彼らに何が出来るのかと言う疑問が二人の頭には当然の様にある。復活したと言っても以前の様な力は取り戻しても居ないのにだ。  
 それはロケット団では無い二人が考えても仕方無い事だった。  
 
「お前達の他に来ている奴等は? 今後の予定でも良いが」  
 一番聞きたい、今の二人の生命線とも言える情報。是が非でも聞き出さねばならない事柄だが、吐かれた言葉は二人の期待を裏切った。  
「残念だが、俺は知らん。何も聞いていない」  
「嘘を吐くと苦痛が増すわよ?」  
 殺人上等、撃つ気満々と言った具合でリーフが団員の鼻先に銃口を突き付ける。焦った様に団員が叫んだ。  
「本当だ! 俺は知らない!」  
 その顔と声は嘘を吐いている様には見えなかった。男は尚も叫ぶ。  
「俺達もお月見山を襲撃した奴等を捜せと直前に命令を受けていたんだ! 上層部はカントーが危険だと認識していた!」  
 どうやら幹部達は送る直前になって、お月見山での一件を知ったのだろう。今回の増員には追跡部隊としての任も付加していた辺り、ロケット団上層部はカントーへの派兵の危険性を肝に刻んだのかも知れない。今後の決定に慎重にならざるを得ない程に、だ。  
「……やり過ぎちまったか。やれやれ」  
「と言う事は、暫く団員の到着は無い……?」  
「判らないが、そうなんじゃないのか? 送った仲間が皆殺される場所にしつこく部下を送り続ける程、幹部様だって鬼じゃねえさ」  
 だとすれば、そうなる可能性が高まる。追跡部隊の筈なのに、武器は無く、錬度も相変わらず低いのは人材難以前に財政難である可能性が高い。人材育成も武器調達も金が必要になるからだ。  
 そして、人員を容易く使い捨てる組織にはどんな悪党だって付いて来ない事位、幹部達は判っているだろう。カントーを押さえるメリットがあるなら、多少は強引に派兵する筈だが、そうでない場合は此処でそれが途絶える事も在り得た。  
 
「そうね。じゃあ、あなたの辿る道も当然判ってるわね?」  
「なっ、や、止め「ストップだ」  
 苛立った様にリーフが男の眉間に照準を合わせた。だが、レッドの声がそれを止めた。  
「……殺さないの?」  
「そのつもりだったが止めた。こいつには働いて貰おう」  
 てっきり始末してしまうと思ったのに、それを止めた兄が妹には意外に見えた。だが、レッドにはしっかり考えがあった。生かす事でこの下っ端に仕事をさせようとしていた。  
「お前、死にたくないんだよな?」  
 銃口をチラ付かせて、威嚇する。男が今は自分達の支配化にある事を念入りにアピールする様に、バレルで男の頬を叩くレッド。  
「あ、当たり前だろ! この殺人鬼が!」  
「――」  
 侮蔑の言葉と共に、べっ、と頬に唾を吐き掛けられた。  
 ……良い度胸をしている。  
――バキッ  
「ぎゃ!」  
 頬の汚れを腕のリストバンドで拭い、レッドは男の鼻っ面にパンチを叩き込んだ。  
 鼻が折れる様な事は無かったが、それでも、男の鼻頭は赤く染まり、鼻血も滴っていた。  
「良いか、良く聞け糞餓鬼。一回だけだ」  
 勇ましいのは結構だが、自分の立場を弁えないのは滑稽以前に憐れだ。  
 グイっと胸倉掴んで、レッドが男の耳元で呟く。最後通牒だ。  
 コクコク。男は何度も頷いた。そうしなければ殺されると思ったのだ。  
「送り込む度に鏖殺するってアポロに伝えろ。アジトを見つけたら真っ先に殺しに行くともな」  
 レッドはこの下っ端をメッセンジャーとして使う事にしたのだ。命を奪わない代わりに言葉を届けさせる。レッドは男に言葉を託した。  
「それが厭なら組織の全力を以ってあたし達を潰してみなさい」  
 リーフもそれに続いた。それは事実上の宣戦布告だった。  
「俺はレッド」「あたしはリーフ」  
 
――嘗て貴様等を滅ぼした者だ  
 
 そして最後に自分達の名前を記憶させる。古株の団員にこの名前は効果があるからだ。  
「お、お前達がサカキ様を倒した伝説の……!」  
 どうやら、この下っ端は少なくとも二人の名前を知っている様だった。  
「頼んだぜ」  
「わ、判った。確かに、伝える」  
 男の肩を掌で軽く叩き、銃を仕舞って背を向ける。背中に聞こえる男の声に頷いてレッドはリーフに撤収を促した。  
「帰るぞ、リーフ」  
「はーいはい」  
「ま、待てよ! おい!」  
 人間用の救急キットを男に放り投げる。被弾した脚では帰還は困難だろうと判断したレッドの慈悲だ。背中越しの下っ端の声を無視して二人は屋敷を後にした。  
 
 その数日後。グレン島の火山が噴火。島の大部分は溶岩に飲み込まれ、彼等が闘った痕跡は完全に消去される。……実に危ないタイミングだったのだ。  
 
 ……其処からぱったりとロケット団のカントー侵攻は止まってしまう。  
 数ヶ月毎に小規模な部隊が送られて来る事はあったが、年が明ける頃にはそれすらも無くなってしまった。二人が本気で組織に喧嘩を売った事に、幹部達が恐れを生したかの様な反応だった。  
 それに業を煮やした二人はジョウトのアジトを何とか突き止めようと方々手を尽くし、現地に飛んでみたりもしたが、ロケット団に遭遇する事すら出来なかった。まるで意図的に避けられている様に。  
 ……今迄、踏み付けにしていた者達から、殺意を向けられ、逆襲を受ける。様々な悪行を行って来た彼等がその覚悟をしていないとは思えない。だが、実際にロケット団はたった二人だけの処刑人を恐れ、何も出来ないで居る。  
 悪を名乗るならば、最後迄卑劣、且つ極悪非道。掲げる悪の理想を貫き、歩む悪の道に殉じて欲しいモノだが、どうやら今の彼等にはそれだけの度胸すら無いらしい。  
 そんな半端で脆弱な覚悟の組織が長い命の筈が無かった。  
 
 
 ……そうして、また月日は巡り、夏。  
 彼等が最初に旅立ってから三年が経過していた。  
 レッドとグリーンは大学を卒業。レッドはフリーランスで何かの仕事を始め、グリーンはオーキド研究所の見習い研究員をしながらトキワジムのリーダーも兼任していた。  
 
――八月の終わり  
 彼等の復讐が唐突に終わりを告げた。  
 
――レッド宅 二階  
 その日、レッドは家で仕事の書類を纏めていた。リーフは大学の研究室だった。  
 西日が目に沁みる夕刻。自分のデスクでコーヒーを啜り、キーボードを操って書類を作成するレッド。もう昼間からずっとこうしている。  
 地味だが意外と重要な仕事だった。目が疲れる作業を長時間休まず続けるレッドの集中力はかなりのものだった。  
 すると……  
 
 YOU ARE NOW ENTERING COMPLETELY DARKNESS ……  
 
 レッドのギアから着信音。一時手を止めて、ギアを取る。発信者はグリーンだった。  
「あいあい。こちらレッド。ボンジュールってな」  
 昔の幼馴染の傷を抉る挨拶だった。  
『嘗めた口利いてんじゃねえぞシスコン。って言うか、お前その様子じゃテレビ見てねえな』  
「テレビ? サカキの旦那が逮捕でもされたか?」  
 やや憤慨しながらグリーンが語尾を荒くする。テレビがどうとか言っているが、こちらは一日缶詰状態だ。そんな暇は無い。  
凡そ在りもしない事を口走ってみるも、一転してグリーンの口調はシリアスだった。  
『……そっちの方が良かったかも知れねえ』  
「え?」  
 何だろう? シリアスな抑揚の中に若干の焦りが見える様だった。  
『良いか? 兎に角、テレビを付けろ。ちゃんと伝えたぜ』  
――ピッ! ツー、ツー……  
「……なんだありゃ」  
 こちらが何かを言う前にグリーンは電話を切ってしまった。どうにも幼馴染の動向が不明瞭なレッドだった。  
「……この辺にするか」  
 まあ折角教えてくれたのだからそれに肖らなければ不義理と言うものだ。レッドは首をゴキゴキ鳴らすと、今日の作業を切り上げて下に降りて行った。  
 
――レッド宅 居間  
「あ、レッド!」  
「何?」  
 降りると同時に母親が血相を変えた様な表情を向けてくる。母がこの様な顔を晒すなど、レッドにも馴染みが無い事だった。  
「テレビ、見てみなさい」  
「?」  
 また、テレビだ。グリーンも母もテレビを見ろと言う。其処に何が映っているのか?  
レッドは画面を網膜に映し、幼馴染の電話と母の表情の意味をやっと理解した。  
「……何、だと?」  
 
『ロケット団が復活宣言!? 多数の団員がコガネラジオ塔を占拠』  
 
 そんな感じのテロップが画面に踊っていた。  
 
――バタン!  
 レッドが状況把握に努めていると、チャイムもノックも無しに凄い勢いで扉が開かれた。  
「はーっ、はーっ」  
 其処には荒い息を吐くリーフが立っていた。  
「リーフ!?」  
「あなた、大学は?」  
「ナツメが電話くれたのよ。こんな時に篭ってられない!」  
 毎度の如く良いタイミングで登場する妹様には些か吃驚な兄貴。母は研究室に居る筈の娘を問い詰めるが、こんな時に研究室に缶詰になっていられないと無理矢理帰って来たみたいだった。  
「兄貴、どうなってる?」  
「判らん。俺も今見たばかりだ」  
 荷物を床に放り投げてソファーに座るレッドの隣に腰を下ろす。リーフも詳しい情報を求めていたが、レッドもそれは知らなかった。  
 
 報道ヘリによる空からの中継が続く。発端になったのはラジオからおかしな放送が聞こえると言う警察への苦情だった。だが、警察がコガネのラジオ塔に連絡をするも音信は不通。これは妙だと警官数名をラジオ塔に派遣して見た所、もう既に手遅れだったのだ。  
 今は膠着状態。武装した警官隊が塔を取り囲んでいるが動き出す気配は無い。内部に大勢の人質を抱えているのだからそれも当然だった。  
 そして、二人はそれを見た。ヘリによる映像がフレームアウトする間際、ラジオ塔の入り口から出て来た人影を確認した。  
「……子供?」  
「人質が自分で逃げたのかな」  
 どうもそれとは違う様だ。誰かに助ける素振りも、慌てた様子も無い。  
 帽子を被った二人の子供。男の子と女の子。小学生……否、背格好から言って恐らく中学生だ。中継が途切れてしまったのでそれ以上は判らなかった。  
 
 陽が落ちて、ヘリは撤収。少し離れた場所からのレポーターによる中継に切り替わった。それを眺めていると、先程映った子供達が大人の制止を振り切って走り去っていく。目指す先は、ラジオ塔の方角だった。  
「あ、さっきの子達、戻って来たよ!?」  
「おいおい、まさか……」  
 どう考えても力がある子供には見えない。しかし、一瞬だけ見えた彼等の顔には或る種の風格が滲んでいた事を兄妹は見逃さない。  
 三年前のシルフカンパニーでの激戦が脳裏を過ぎる。彼等はあの時の自分達と同じ事をしているのだろうか。それは映像だけでは判らなかった。  
 
――そして  
 
 テレビを見始めて数時間後。唐突に動きがあった。  
 内部からロケット団がぞろぞろと出て来て、周囲に配備された警官隊と衝突を始める。その騒ぎに乗じて殆どの団員がバラバラに散って行く。その中には他と明らかに違う服を着た幹部と判る人間達も含まれていた。  
「アポロ……やっぱり、アイツだったか」  
「あの白い奴だね……」  
 ナナシマで闘った幹部と背丈や顔や髪色が一致している男が一人居た。だが、その男もポケモンに乗り、何処かへ去っていった。  
「あいつ等がやったのか」  
「みたい、ね」  
 騒ぎが去った後にこっそりと塔から出てくるさっきの二人。報道陣や警察に囲まれる前にポケモンで何処かに飛んで行った。  
 その少し後に、検挙された団員の証言により今度こそロケット団が解散した事が報じられる。  
「「――――」」  
 レッドとリーフはその映像を呆然とした佇まいで見ていた。  
 
――レッド宅 二階  
「兄貴……」  
「・・・」  
 自室に引っ込んで、ベッド脇に腰掛けて只管に俯く。隣に座るリーフも言葉に困っているみたいだった。  
「解散、しちゃったね」  
「ああ」  
 それ以上に上手い言葉が出ない。リーフのそれにレッドは目を閉じたまま頷いた。  
「どう、しよう。これからさ」  
「これから、か」  
 復讐の為に生きてきた。その為に多くの殺生を重ねた。一度は遂げたと思ったが、またそれに引き摺られて、振り回されて。  
 終わった後の事を考えた事はある。だが、殺生を重ねた自分達がのうのうと平穏を享受する事は許されない。復讐に狂い、身内を犯し、大勢を殺した。それらの咎は決して消えない。  
 だから、決まって何時も何かしらの理由を付けて考える事を放棄していた。だが、今度はそうはいかない。  
「まあ、何にせよ」  
 今だって、どうして良いのか判らない。唯一確かなのは……  
「俺達の戦いは終わったぜ」  
 全て終わった。たったそれだけだ。  
 
「終わった? ……終わった、のかな」  
「ああ。……終止符打ちは、俺達でやりたかったがな」  
 リーフは未だに信じられない様に複雑な顔をしていたが、レッドはもう全てを受け入れていた。  
 今回もまた自分達が終わらせると思っていた復讐を終焉に導いたのは名前も知らない何処かの誰かだったのだ。それを恨む真似はしない。  
 唯、欲を言えば、決着は自分達で付けたかった。しかし、それはもう言っても仕方が無い、過ぎ去った願いだった。  
「……うん。そっか。此処で御仕舞いか。ミロちゃん達も納得してくれるよね」  
「手は尽くしたさ。もう、十分血は流された。これ以上啜る事は無い」  
 リーフもとうとう納得した。自分達に出来る事はやった。望む結果とは違ったが、仇が滅んだ事に変わりは無い。その瞬間は確かに目の当たりにしたのだ。  
 それなら今度こそ、相棒達も笑って逝ってくれるだろうと二人は信じたい。この瞬間を掴む為に兄妹は魂を磨り減らして来たのだから。  
 もう存在しない仇の影を追う事も必要無い。銃を握る事も、殺める事も。  
 解放された二人はもう誰も殺さないだろう。  
「若し、又復活したら?」  
「その時は一緒だ。だが、次は復讐の為じゃない。自分の為にだ」  
 終わったからと言って生き方を変える必要は無い。その時は、残念だが再び銃を取れば良い。それが復讐に取り憑かれた負け犬として生きて来た二人に課せられた栄光ある生き様だ。  
「そうならない事を祈りたいわね」  
「全くだ」  
 出来ればそうなって欲しくは無いと二人は切に願いたかった。  
 だが、今はそんな事を祈るより、勝利を噛み締める為の僅かな平穏が欲しい。  
 巨悪の壊滅に一役買った事は何時かきっと報われる。裁きの刻が来る迄、自分達はその罪を背負って生きれば良い。  
 今はそうしたい。それで良いと思った。  
 
「そう、か。主役はもう、変わっていたのか」  
 呟かれるレッドの科白は全てを見据えたかの様だった。  
 リーフがそうである様に、彼にも世界の理が確かに見えた。  
「新しい物語はとっくに始まってたんだな」  
 主役では無くなった自分。だが、役目を終えた者が舞台を去ると言うのなら、未だに存在している自分には遣るべき事が残されているという事だ。それが何であるか、何となくだがレッドは判っていた。  
「・・・」  
「?」  
 だが、リーフは?   
 自分の写し身。自分の半身。自分のもう一つの可能性。  
消えずに隣に存在している彼女が背負った役目は何なのだろうか。  
 レッドには未だそれが見えなかった。  
 
 
 

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