拾捌:原点にして頂点  
 
 
――夕刻 マサラタウン 釣り場  
「あ、居た。兄貴〜!」  
 町の南に位置する21番水道前の岸辺。その畔が兄が何時も釣りをする場所だ。妹はポツンと一人で釣り糸を垂れている兄を直ぐに見つけると、大声で呼んで手を振った。  
 それに気付いたレッドが片手で答えた。  
「釣れてますか?」  
「ぼちぼちだ」  
 駆け寄って成果を尋ねるとレッドは顎でバケツを指し示す。十匹には届かない数の小魚がバケツの中で狭そうに泳いでいた。  
「あ、グリーンからこれ預かったよ」  
 先程、グリーンに預かった電番の紙切れを思い出し、リーフが兄に手渡す。  
「ありがとよ」  
 レッドは妹からそれを受け取ると、直ぐにポケットに捻じ込んだ。  
 
 照り付ける西日が周りを仄赤く染めている。耳に届く潮騒はざあざあとノイズの様に絶え間無い。だが、それが不快とは思わなかった。  
「あのさ」  
 冷たさの混じる潮風がリーフの前髪を軽く浚う。自分の言いたい言葉を喉に溜めて、それを伝えようとする。  
 些かの間を置いて決心する様にリーフが唾を飲むとそれを言った。  
「あたし、やっぱりこの前の戦「……リベンジすんぞ」……は?」  
 どうしても腹が癒えないので借りを返したい。そう伝えたかったのだが、レッドがその旨を掻き消した。  
 一体どう言う心境の変化だとリーフは怪訝な表情でレッドの横顔を見る。何時もの仏頂面だった。  
「グリーンに泣き付かれてな」  
「グリーン……だから、そのお礼参りの代行?」  
 その理由とやらがレッドから語られる。そんな醜態をグリーンが兄相手に晒すとは思えないのだが、兄が嘘を言う必要性は感じなかった。  
 だが、そう頼まれたから雪辱戦に臨むのだろうか? 少なくとも、今のリーフにとってそんな戦いに意味も価値も無かった。  
「いいや、違う。切欠はそうだけどさ」  
 だが、やはり兄貴は妹を裏切らない。ちゃんと自分の本心に素直に従った故の決定だった。  
「俺自身、どっか未だ燃え尽きてない部分が在ったんだと思う。そいつがどうにも気持ち悪くてな」  
「あたしも……実はそう。だから、兄貴を誘おうと思ったんだけどさ」  
 理由は己の精神衛生。消し切れない胸の痞えを解消する為に戦いたい。リーフも似た物を抱えていたので、それを口実に兄を誘おうとした。先に言われてしまったが。  
 
「何だ。俺を逢引に誘おうって思ってくれたのか」  
「あ、逢引って! っ……まあ、違わないかな//////」  
 リベンジをデートと言うのは少し違うと思うが、まあ二人で行動する以上は結局それと同じだとリーフは気付いた。  
 軽口の様に言ったレッドだが、硬かった筈の表情はとても穏やかで口元には僅かな笑みが浮かんでいた。それを見たリーフは途端に頬へ紅葉を散らす。こんな自然な笑みを見たのは何年振りだろうか。だからだろうか、胸の動悸が一気に高まった。  
「悪い。気を遣わせた」  
「ううん? そんな……」  
 すると、今度は一転した様にレッドの表情が沈む。要らん世話を焼かせた事を悔いている様だった。それに慌てた様にリーフが首を振る。そんな事を気にして等居なかったのだ。  
「それにあいつ等は最強、なんだろう? なら、挑戦者が出てくるのは当然だよな」  
「だね。逆にあたし達が挑んだって良いのよね」  
 ニヤリ、と笑いレッドがリーフに自分達の正当性を尋ねる。リーフは頷く。  
 負けて悔しいから、再挑戦する。挑戦者として挑む以上、向こうは拒む事が出来ない。  
 トレーナーとしておかしい事は何一つ無かった。  
「そ。大人気無いって言われても良いさ。今度は端から全力全開で行く。それ位の余力は残ってたろ、お前だってさ」  
「そりゃ勿論。心のどっかで遠慮してたのかもね。でも、やっぱり」  
 最後にヒビキ達を勝たせる為に、手持ち選びの段階から気後れしてしまった事は否めない。決して、戦いの最中は油断せず、手を抜いたつもりも無い。  
 だが、お互いにそれを面に出した以上、もう一度戦いたいと言う欲求を引っ込める事は出来なかった。  
「ああ。もう余計な枷は要らない。そんなもの無視してさ」  
「思いっ切り、ぶつかりたいよ。……兄貴と」  
 課せられた役目はとうに果たしたのだ。後はもう自分達の好きにして良いだろうと半ば開き直りに近い覚悟もあった。脚本に従わない者を世界は有無を言わさず消去するかも知れない。  
 だが、それでも。もう目に見えない何かに縛られるのは厭だったのだ。  
 
「俺も。リーフと一緒に弾けたいんだ。他ならぬ、お前とさ」  
 
 だから、レッドはそうするのだ。惚れた女と共に。  
 
「――」  
 その言葉が胸を射抜く様だった。まるで昔に戻った様に、感情豊かにコロコロと表情を変えるレッド。もう見れないかと思っていたお兄ちゃんの顔。  
 それは妹にとって強烈な破壊力を秘めたモノで、更にそんな事を言われれば、ときめくなと言う方が無理だった。  
「何よそれ。殺し文句って奴?」  
 バクバクと脈打つ心臓。それによって覚醒した乙女回路を悟られない様にリーフは顔色を余り変えずに軽口を吐いた。  
「そう思ってくれて良いさ」  
「え」  
 だが、今のレッドに敵は無い。最後のフラグを回収するみたいに振舞うレッドがとんでもない色男に見えたリーフ。母音を口走る事が精一杯で、思考が付いて来なかった。  
 
「なあ、リーフ」  
「あに……レッド?」  
 自分の目に刺さる、兄の真摯な空色の視線。リーフは兄と呼ぶ事を放棄し、名前を呼ぶ。今は一人の女として、レッドと向き合いたかった。  
「旅に出ないか、また」  
「旅?」  
 何とも唐突なお誘いに流石のリーフも戸惑う。バトルの話からどうしてそんな方向に行くのかを聞かねばならなかった。  
「ずっと考えてたよ。復讐を終えた後の生き方。行き先とか人生設計とかも考えて無いけどさ、それが落とし処しては妥当かなってさ」  
「妥当って、それ本気で言ってる?」  
 レッドが何時も考えていた事だ。もう終わった事に心を砕くのは馬鹿らしいし、振り向きたくも無い。そして、それが復讐を駆け抜けた自分達が歩む新たな旅路。  
 先送りにしていた答えをやっと見出せた様なレッドの顔は明るかったが、リーフはどうもそれが行き当たりばったりに感じられてしまう。だから聞いた。  
 冗談だよな? と。  
「至極、大真面目だぜ!」  
 レッドの答えには迷いが無かった。それは既に決定事項で、また誇っている様な満足気な顔だった。何故其処迄自信たっぷりなのか、リーフは一寸不安になってきた。  
「も、目的は何さ!」  
 だから、一言言ってやらねばならなかった。……の、筈なのにリーフはそれしか言えなかった。  
 
「それを探す為、かな」  
「はあ?」  
 リーフも開いた口が塞げなかった。  
 何なんだ、それは。つまり、目的は無い、と言う事だろうか。  
 だとしたら、流石に付き合い切れない。冒険が嫌いな訳じゃないが、自分達は良い大人だ。夢見がちな餓鬼では居られない。そう昔に語ったのは他ならぬレッドなのだ。  
 が、次のレッドも言葉でリーフの心にある虚妄や迷妄は跡形も無く吹っ飛んだ。  
「もう俺達を縛るモノは無いんだ。それならさ、新しく始めたいんだ」  
 
『俺と、お前で』  
 
「っ!」  
 耳元で甘く囁かれた気がした。  
 目的の為に行くのではない。行く事それ自体が目的である。その果てに何らかの価値を見出せるならそれで御の字だと。  
 それが罪からの逃避だと、自分探しの下らない旅だと、言いたい奴には言わせて置けば良い。一つ所に留まるよりは飛び回っている方が自分達の性に合っている。そして、何時かは終の塒を見つけ、裁きの時を待つ。それこそがレッドの望み。  
「そいつを叶える為にもさ。俺とお前でシナリオをぶっちぎる。それで消えるって言うのなら、それも良いさ」  
 ……筋書きの無い、自分達が主役の物語。  
 ずっと、そんな生き方を求めていたのかも知れない。それを手にする過程で斃れ、また消滅したとしても、それもまた一興。決して振り向く事はしない。  
 だから、その幕開けとして自分達を縛り続けた糞っ垂な運命……否、脚本の鼻っ端を圧し折る。そうしたかったのだ。己が見定めた人生の相棒、リーフと一緒に今を駆け抜けたかった。  
 
「……成る程ね、」  
 リーフは納得した様に頷いた。決して、迎合した訳ではない。情に絆されて渋々承諾した訳でもなかった。  
「好きに生きて、好きに駆けて、好きに死ぬか。……良いわね、そう言うの」  
 縛られない生き方。それを望む人間は居るだろうが、実践は茨の道だ。自由の主張には相応の重たい責任が付き纏うし、そう生きる事は、又野垂れ死ぬ自由と隣り合わせでもある。  
 ……だが、そんなスリリングな生き方も悪くない。とても魅力的で、粋。格好良く映る。  
 どうせ、お天道様の下をまともに歩けない碌でも無い事もしてきたのだ。自分達にはお似合いな末路だし、それに憧れて実践するのに何の憚りがあろうか。  
 そして何よりも……  
「一緒に来てくれる?」  
「何を今更。一緒に死ぬんでしょ? あたし達はさ」  
 迷い無い、自分の意志で大好きな人と一緒に居られる。  
 理由としてはそれだけで十分だった。  
「そうだったな。じゃあ、いっそ駆け落ちでもかますかよ」  
「何言ってんのさ! こちとら、生まれた瞬間とっくに籍入れ済んでるっての!」  
――あたしも結局、馬鹿なままね  
 最早、リーフは動揺すらしない。完全に覚悟が入った女の顔だった。  
 潮の香が乗った海風が祝福する様に二人の頬を撫でる。  
――惚れた男を支え、守り通す  
 そして、最後には奪って逃げて添い遂げる。それこそが、彼女の原動力。自分と言う存在に今度こそ自分自身で課したリーフの生きる意味。  
 どん、と胸を張るリーフは夕日に染まり、この世の何よりも綺麗に見えた。  
レッドが惚れない要素は何処にも無かった。  
 
 二人の腹は決まった。  
 
 
――数日後 ワカバタウン ヒビキ宅二階 ヒビキの部屋  
「ねえ、ヒビキ君」  
「何?」  
 お隣さんのコトネがベッドの上に寝転がり、漫画の単行本を読んでいる。  
 幼馴染の言葉に学校の宿題を片付けていたヒビキが顔だけをその方向に目をやる。  
「あたしのマリル、除けて。雑巾臭くて敵わないのよ」  
「自分で除けてよ。俺だって触りたくないし」  
 コトネの直ぐ近くで寝ているのは彼女の相棒だ。相変わらず悪臭の特性を発揮しているらしい。触れれば手から臭いが取れない事を知っているので断固としてヒビキはその要求を突っ撥ねた。きっと、ベッドもとうに雑巾臭くなっているのだろう。  
「ええ? ……やだ。動くの面倒臭い。今良い場面なのよ」  
「……こいつは」  
 動きたいのではなくて、自分も触りたくない事は明白だった。漫画に視線を移した彼女の顔に汗が張り付いているのをヒビキはちゃんと見ていた。  
 自分が嫌な事を他人任せにするとはどんな根性なのだとそのケツを引っ叩いてやりたい気分に襲われた。  
 
『ヒビキ〜! ちょっと〜!』  
 
「母さんが呼んでる。じゃあ、俺はこれで」  
「あっ! ……逃げられた」  
 良いタイミングで下から母が呼んで来た。離脱のチャンスを逃さぬ様に、ヒビキは直ぐに立ち上がると階段を下りて行く。コトネは逃げたヒビキの背中を見送るしかなかった。  
 
――ヒビキ宅 居間  
「何、母さん」  
 降りると母親が郵便物を整理しているのが見えた。公共料金請求書、保険の資料、永代墓地のパンフレットその他諸々がテーブルに重なっていた。  
「あなた宛に手紙来てるわよ」  
「俺に?」  
 珍しい事もあるとヒビキはそれを受け取る。手書きの文字で自分の宛名と郵便番号が記されていた。ポケモンに持たせるなら未だしも、電子メールが主流のこのご時勢に何とも古風だと、現代っ子代表のヒビキはそう思った。  
「差出人は……知らないな」  
 封筒の裏をひっくり返して差出人を確認した。  
 漢字で書かれた差出人の名。……聞いた事の無い名前だった。  
「何々……」  
 兎に角、ヒビキは封を破ってその中身を取り出し、読んでみた。それを読み進める裡にヒビキの顔色が変わった。  
 
「――こ、これって!」  
 
 
――ヒビキ宅 二階  
「何だったの? って言うかマリルを「コトネ」  
「な、なに? どうしたの?」  
 帰って来たヒビキに尚もマリルを退かせようとするコトネ。だが、今はそんな横着を聴いている暇は無い。青い顔をしてヒビキがコトネの眼前に手紙を突き付けた。  
「果たし状だ。レッドさん達からの」  
「っ!」  
 コトネの表情もまた驚愕に染まった。  
 
 ……二日後、ウツギ研究所にて待つ。  
 用件は前回の逆襲。約定違えずに必ず来られたし。  
 しっかりとした筆跡で簡潔にそんな事が書かれていた。  
「どうするの?」  
「どうするも、受けるしかないだろ」  
 手紙から目を放し、コトネがヒビキの顔を見る。其処には戸惑いが浮かんでいた。  
 正直、ヒビキは逃げ出したい気分だった。勝ったとは言っても、それは確率の悪戯であってもう一度やって今度も幸運を掴めるとは限らない。寧ろ、負ける可能性が圧倒的に高い。  
 何とか話し合って激突を回避しようと思い馳せるも、こうして態々書状を送り付けて来た相手がそれを呑むとは思えない。そして、きっと逃げてしまえば、レッド達は自分達を軽蔑するだろう。そんな無様な姿は見せたくは無い。  
 ヒビキ達は彼等の挑戦を受けざるを得なかった。  
「まさか雪辱戦なんて」  
「ああ。……時間が無いな。うかうかしてられないぞ」  
 時間が圧倒的に足りなかった。放って置いても彼等は来る。このままでは恐らく勝てない。ヒビキもコトネもそれは判っている。  
「だね。……厭な予感がする。マリル、おいで」  
「何処に?」  
 寝ていたマリルを叩き起こし、コトネが壁に掛けられていたキャスケットに手を伸ばし、被る。外出する気の様だった。  
「準備よ! ヒビキ君も来て」  
「判ったよ」  
 聞く必要も無い事だった。ヒビキがコトネ後を追い、対決の準備に取り掛かる。  
 
――二日後 ウツギ研究所  
「やあ、来たね。二人とも」  
 約束の刻限きっかりに、ヒビキ達が研究所の敷居を跨いだ。待っていた様にウツギ博士が出迎えてくれた。  
「博士」「あの、師匠達は?」  
 此処を戦いの舞台に選ぶ以上、ウツギ博士もそれには賛成なのだろう。二人はレッド達は何処だと訊く。  
「奥に居るよ。さ、彼等は待っているよ」  
 後は自分で確かめろ。ウツギ博士は何も言わず、只手で奥へ行けと指し示した。  
 
 How much do you hate me now?  
 But not enough.I fuxked too.  
 We`ll back to fxck again soon……  
 
「来てくれた、か」「態々、悪いわね」  
 二人は長年の友人を迎える様な気さくな顔で待っていた。  
 そして、彼等の前に再び帰って来た。今度は頂点としてではない。挑戦者として。  
 
「「!」」  
「「どうした(の)?」」  
 レッドとリーフの姿を見て、二人の動きが止まる。それが気になった兄妹は変な部分でもあるのかと自分達の装いをチェックしつつ二人に尋ねた。  
 ヒビキ達の戸惑いの理由。それは単に以前の戦いの時との彼等の服装の違いだった。先ず、レッドの帽子が違う。野球帽ではなく、後ろがメッシュになったトラッカーキャップ。リーフに至っては被ってすらいない。  
 レッドのジャケットも細部や配色がやや違う。リーフはミニスカとノースリーブは着ておらず、黒いやや裾の長いワンピースを着用している。  
 そして、手に着用されたレッドの黒い穴開きグローブとリーフの白い手袋。リストバンドも無い。足はランニングシューズではなく、揃いの編み上げブーツ。  
 それだけの違いがあった。同じ部分と言えば鱗の首飾りとブレスレット位なものだった。  
 そして、服装以外にも異なっている部分があった。  
「いえ、その髪の毛は」  
「ああ。こいつが地毛だ。染め直したんだよ」  
 レッドとリーフの髪の毛の色。以前の栗色ではなく、艶のある漆黒の髪。  
「そ、それにその目は……カラーコンタクト、ですか?」  
「逆よ。これも本当のあたし達の色。今迄はコンタクトしてたけど、それを止めただけ」  
 最も目を引くのがその瞳の色。人間離れした紅蓮の瞳。以前の空色のそれとは与える心理的な効果が全く違った。  
「小学校入った位に、周りの子達に恐がられた」  
「吸血鬼みたいだって。だから、その時からああだったのよ」  
 嫌でも目が引き付けられる妖しい色気に満ちる兄妹。確かに、子供ならそれに恐怖を覚えても仕方が無いが、ヒビキ達は違う。魅了されそうだった。  
「何で、今回は?」  
「本気の証、かな」「または覚悟、かしらね」  
 だが、どうして自分達にそんな姿を晒すのかがヒビキには判らなかった。  
「今迄ずっと偽ってた。もう、そう言うのは止めにしたいのさ」  
「だから、その第一歩としての秘密公開かな。恥ずかしい話だけど」  
 これが、俺達の、あたし達の本当の姿。正体を明かした二人から迸るプレッシャー。もうこの時点でヒビキとコトネは帰りたくなった。  
 
「師匠……どうして師匠達が」  
「可笑しい?」  
 もう手を選んでいる暇は無いと、ヒビキは無駄と知りつつも説得を試みる。  
「そうは言いませんが! でも、先輩達が来るなんて、俺達は微塵も」  
 戦う覚悟等全く決まっていない。だから、今は手を引いてください、と懇願する様な目で先輩二人に訴えるヒビキ。  
「「甘い!」」  
 当然、そんな要求は通らない。バッサリ一刀両断された。  
「お前達が最強だ。為らば挑戦者が現れるのは必定。覚悟していなかった訳でもあるまい」  
「あなた達の好き嫌いは関係無い。そもそもそんなモノは選べない。甘えるな」  
 此処に自分達が居る時点でそんな選択肢は無い。最強の看板を背負うなら、そんな個人的な感傷は許されないとレッド達は一喝した。  
「それで納得しろって! そんな大人の都合で!」  
 コトネが食い下がった。それは大人では無くトレーナーの都合なので年齢などは当然関係無い事だ。それでも聞き入れて欲しかったのだ。もう戦いたくないと言う事を。  
「違うな」  
 レッドがそれにゆっくりと首を振った。  
「新たな王を創り上げた責務だ」「それが、理由よ」  
「何ですって?」  
 レッド達が戦うのはそのどれでも無い自分達の都合の為だったのだ。  
「頂点と言うのは本来、孤独な場所だ」  
「あなた達の場合は一組だけどね」  
 最強の名を戴く事の重圧と徒労感。そして、運命。嘗ての二人はそうだった。そして今はヒビキ達がそれを背負っている。  
「其処に座る者は例外無く義務を負う。現れる挑戦者と戦い続ける義務だ」  
「勝利を以って相手を愛するか。敗北を以って逆に愛されるか。それがずっと続くのよ」  
――だから、今度は俺達がお前達の孤独を癒す  
 新たな物語の先触れとして、レッド達は頂点への帰還を望む。  
 理由はそれだけ十分だ。与えられた役割だから戦うのでは無い。……己の意志で!  
 レッドとリーフの赤い瞳が如実にそれを語っていた。  
 
「「受けてくれるな?」」  
 
「やろう、コトネ」  
「ヒビキ君」  
 是非も無い事だった。予測は可能。だが、回避は不可能。そんな事はとうに判っていた。だが、認めたくなかった。今はそれに真っ向から対峙しなくてはならない。  
「先輩達の言う通りだ。俺達は甘かったよ。今やトージョー圏のトレーナー全てが敵なんだ」  
「それが、義務。……重過ぎるよ、そんなの」  
 最強と言うネームバリューの重み。戦い続ける修羅の道。そんな糞みたいな荷物は今の自分達には重過ぎる物だ。出来るなら、熨斗を付けて叩き返したかった。  
「ウツギ博士!」「お願いします!」  
 その言葉が訊きたかった。為らば、後は審判の指示を仰げば良い。前回は僻地故に居なかったが、今回は違う。完全に決着を付ける為にこの場所を選んだのだ。  
「やっと出番だね。では、ジャッジは僕が引き受けるよ」  
 影の様に出番を控えていたウツギ博士がそう宣言した。果たし状を送る前に既に博士の了承は得ていた。それがレッドの考えた筋書き。  
 衆人環視の下、完膚無き迄叩きのめす。言い訳等はさせない様に。  
「表に出ようか。ここは些か狭い」  
 だが、屋内でバトルを始めるには問題がある。研究所と言っても内部が狭く、高価な研究機材が沢山ある。壊されては商売上がったりなので、ウツギ博士は四人を外に案内した。  
 
「お前達の張りぼての王冠、俺が食ってやるよ」  
「此処を、新たな王の墓場とする」  
 移動の際に、レッドとリーフにそう言われる。ヒビキ達は覚悟を決めた。  
――Now,it`s payback time!  
 
 レッドとリーフ(本気)に喧嘩を売られた!  
 
 

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