カントー地方の田舎町マサラタウン  
ここではポケモン研究所があり、ポケモン研究者の一人オーキドが日々研究に明け暮れている  
そんなある日、オーキドが二人の少年を呼んできた  
オーキドに呼ばれた帽子をかぶる少年サトシとオーキドの孫シゲルが研究所に入ってきた  
「やっと来たか二人共!」  
二人を迎えたのは、年齢に相応しくないエネルギッシュなポケモン研究者オーキド  
彼は知る人ぞ知るポケモン科学の第一人者である研究者だ  
若い頃、数々の偉業を成し遂げたオーキドは出世を嫌い、生まれ故郷のマサラタウンにポケモン研究所を建てて暮らしている  
「やっとポケモンが手に入る… 博士! 早く見せてくださいよ!」  
興奮気味のサトシはポケモンが欲しくてうずうずしている様子だ  
「おいおいサトシ、気持ちは判るが話が早過ぎるだろ。 どっかの漫画じゃあるまいし。」  
呆れ顔で皮肉交じりに言い放つシゲルは、サトシとは対照的に沈着冷静だが  
オーキドの孫であってか、時折嫌味を見せることがある  
オーキドは期待通りといわんばかりに話を進める  
「実はな、お前達二人にポケモンを渡そうと思うてな。 それはここに居る二匹のピカチュウじゃ。」  
 
机の上に座っている二匹のピカチュウ…  
実は、生まれ故郷を追われてからあてもない旅をしている野生のポケモンだった  
二匹共長旅で空腹と疲労が極限に達したある日、通りかかったオーキドが二匹を保護し手当てをしていた  
元気になった二匹はオーキドに懐いてきたものの、オーキドはトレーナーに成り立てのサトシとシゲルに託そうと考えていた  
 
オーキドは続けて話を進める  
「この二匹は頼り甲斐があってな、お前達二人には打って付けのパートナーになれるそうじゃ。  
 まずはサトシ、この二匹のうち一匹を選んでくれい。」  
指名されたサトシは喜んで答える  
「はい! よ〜し!」  
シゲルは予想を裏切られたのか、不満気な顔をする  
「ちぇっ! 爺ちゃんそりゃないぜ。」  
サトシはシゲルをよそに、二匹のピカチュウを見る  
 
左のピカチュウはサトシを気に入ったのか、甘える仕草をしている  
右のピカチュウはサトシとの旅は任せろと言わんばかりに意気込む  
 
ふたつにひとつ…、サトシは慎重に選ぶことにした  
「右か左か…どっちにしようか…」  
サトシは迷っていた  
左は愛嬌たっぷりで懐き易いピカチュウ、右は好戦的でやる気満々のピカチュウ  
どちらを選んでも育て甲斐があるようだ  
初心者と言えども、サトシが迷うのも無理はない  
「う〜む…サトシめ、迷っておるようじゃな。」  
オーキドはそう言いながら内心期待している  
シゲルはそれを知ってか知らずか、何かを伺う  
サトシは腹をくくって左のピカチュウに手を伸ばす  
左のピカチュウは待ちに待ったその手に触れられる…  
「よーし、左のピカチュウ、キミに…」  
 
が、その刹那  
「…あれっ!?」  
「そのピカチュウいっただきーっ!」  
「なっ、シゲルてめえ!」  
なんと! シゲルが割り込んで奪い取った  
当然、シゲルに掴まれた左のピカチュウは嫌がってじたばたする  
それを見たオーキドは、孫の思わぬ行動に焦りの色が混じった怒鳴り声を上げる  
「こらシゲル! ポケモンを取り上げるな! 嫌がっとるではないか!」  
シゲルはそれに構わず手にしたピカチュウをねだる  
「じいちゃん、このピカチュウが欲しい! ぅわっ! こいつっ! じたばたすんなって!」  
「むむむ…仕方ない奴じゃなあ、そんなに欲しければ連れて行くが良かろう!」  
シゲルの狡猾さに呆れるオーキドは仕方なくシゲルに渡す事にした  
結局左のピカチュウはシゲルのパートナーになる事となり、観念したのかがっくりとする  
左のピカチュウに気を遣うサトシはオーキドに言う  
「博士、いいんですか? あのピカチュウは酷く嫌がってたのに。」  
そう聞いてオーキドは言う  
「仕方あるまい。 最初はそうなのかも知れんが、そのうち慣れるじゃろう。」  
そんな時、右のピカチュウはサトシを見つめて呼び掛ける  
「ん? キミは俺と一緒に行きたいのか?」  
右のピカチュウは『そうだよ!』と鳴き声を出して頷く  
「よーし、キミに決めた!」  
サトシは右のピカチュウを両手で掴み、高く上げる  
かくして、右のピカチュウはサトシのパートナーとなった  
それを見届けたオーキドは早速話を進める  
「これでようやく、お前達はポケモンを手にしたようじゃな。  
 そこでじゃ! お前達二人にコーチをつけてやろう。 しかもとびっきりの女の子じゃ!」  
「うそぉ!? 爺ちゃんの研究所に女の子が居たのか!」  
「博士、俺達のコーチになる女の子って、誰ですか?」  
サトシとシゲルの反応はまさしく両極端  
 
サトシはポケモン学に精通する母子家庭で育った男の子だ  
その家庭の影響があってか女の子に興味はなく、ポケモン以外に関心が無い  
一方シゲルはオーキドの孫であって知的センスは抜群で、女の子に人気がある  
反面、何かと祖父を自慢して鼻をかける程高慢チキで、かつ狡猾な性格から男の子に嫌われている  
 
そこでオーキドはサトシの問いに答える  
「ふむ、数日前にここに来たばかりでな、ポケモンに関しては相当な知識を持っておる。  
 なんでも、小さい頃からその知識を身につけるために育てられたそうな。 お前達には打って付けじゃろう。」  
オーキドは後ろを向いて呼ぶ  
「お〜い、サクヤ〜っ!」  
その奥から「は〜い!」と聞こえると、数秒足らずでドアが開き、一人の少女が入ってきた  
 
二人の4つ年上の少女は茶髪の前髪ショートにロング三つ編みおさげ、容姿は全身白色の作業服姿だが…  
程よい胸のふくらみにくびれた腰、ふっくらとした尻にスラっとした脚  
成長期の女性と思われるスタイルが服越しに伝わる程完璧だ  
 
そんな少女をオーキドが紹介する  
「この女の子の名前はサクヤ、ここで働いている研究員の一人じゃ。」  
少女は笑顔で自己紹介する  
「あたしサクヤ、あなた達の名前を教えて。」  
シゲルは得意気に名乗る  
「オレはシゲル、そこに居る爺ちゃんの孫さ!」  
それを聞いて呆れるサトシは気を取り直して自己紹介する  
「俺サトシ、宜しく!」  
二人の名を聞いたサクヤは答える  
「博士の孫シゲルくんにサトシくんね、こちらこそ宜しく!」  
サクヤは微笑んだ、それは言葉に出来ない程眩しい微笑みだ  
それを見たサトシは見惚れてしまったのか、思わず言葉を失う  
「ぉお〜っ! もろオレ好みじゃん!」  
シゲルは興奮の音を上げると、サトシはその声を耳にして我に返った  
そんな時、オーキドはサクヤの服装に気付く  
「ところでサクヤ、何故作業服の格好をしておるんじゃ?」  
オーキドに言われたサクヤは何かを思い出して慌てる  
「ご・ごめんなさい! 例の機械の組み立てをしている途中で…」  
慌てるサクヤにオーキドは静止する  
「まあ落ち着け! 気持ちは判るが、君を無理させる訳にはいかん。  
 こんな事もあろうかと思うて、念入りに他の研究員に言っておいたからな。  
 と言う訳でサクヤ、この二人にトレーナー指南をしてくれい!」  
「は・はい! ありがとうございます!」  
それを聞いた興奮度最高潮のシゲルが相方のピカチュウを左腕で抱え、サクヤの左腕を掴んで引っ張る  
「そうと決まれば特訓開始だ!」  
「ちょ・ちょっとシゲルくん!? 落ち着いてえぇぇぇぇ……」  
疾風の如く走るシゲルに引っ張られるサクヤの声は、外に出るとともに小さくなって消えた  
それを見たサトシはただただ呆然とするだけだった  
更に孫のシゲルに心底呆れるオーキドは愚痴をこぼす  
「シゲルの奴め…余計な下心丸出しにも程があろうに。」  
サトシは彼女についてオーキドに問う  
「博士、あのサクヤって女の子、いつこの研究所に来たんですか?」  
オーキドは深刻な顔をしながら答える  
「う〜む…あの二匹のピカチュウを保護してから数日後の事だが、あの時酷く疲れた顔をしておったのじゃ。  
 何でもあの娘は行くあても無かったと言うてな、わしが雇い入れることにしたのじゃよ。」  
「じゃあ、何か理由でも?」  
「残念じゃが、サクヤは一言も言うてくれんのだ。 おそらく人には言えん何かを抱えておろう。  
 それはそうとサトシ、早く行かぬとまたシゲルに取られるぞ! 何しろあいつの事だからな!」  
「そうだった、早く行かなきゃ! それじゃ博士、行ってきます! 行くぞピカチュウ!」  
サトシは相方のピカチュウとともに外へ出た  
 
 
かくして、サクヤの指導による特訓が始まった  
サトシとシゲルは初めて手にしたポケモンの扱いに散々手間取ったが、サクヤのアドバイスを受けてコツを掴み始めた  
マサラタウン付近の草むらに潜む野生のポケモンとの戦い…1対1の野良バトル…  
二人はそれを何度も繰り返すうちに上達してゆく  
 
気が付けば既に夕方となり、サトシとシゲルや二匹のピカチュウは既に疲労困憊となった  
サクヤは二人を称えるように呼び掛ける  
「お疲れ様、今日の特訓はここまで!」  
サトシとシゲルは息を切らし、二匹のピカチュウは仰向けに転がっていた  
何とか息を整ったシゲルはサトシに文句を言い放つ  
「サトシお前、ちょっと飛ばし過ぎじゃないのか!?」  
サトシはシゲルに文句を言い返す  
「そう言うお前こそ最初から飛ばしたんだろ!」  
言い返されたシゲルは毒を突いてやろうと思ったが、それすら言えるだけの元気がない  
それはサトシも同じ、どちらも目の前のライバルに差をつけなければ気が済まないからだ  
そんなやり取りにサクヤは静止する  
「はいはいいがみ合いもその位にして、ゆっくり休んで頂戴。」  
シゲルは素直に聞いて笑顔で答える  
「は〜い。」  
それとは対照的に、サトシは欲求不満か渋々答える  
「判ったよ…」  
そんなサトシにサクヤは説教する  
「サトシくん、そんな事言っちゃ駄目。 あなたのポケモンだって、もう疲れ切ってるわよ。  
 いい? いいトレーナーはポケモンに無理をさせないことよ。」  
説教されるサトシは『本当なのか?』と納得しなかった  
既にすやすやと眠っている相棒を抱えるシゲルはサトシに言い放つ  
「そうだぞサトシ! サクヤの言う通りだ!」  
図に乗るシゲルにサトシは怒鳴る  
「お前が言うな白髪助平小僧!!」  
そこから疲労感を感じさせない程の罵言暴言の嵐…  
両者の懲りないやり取りに、サクヤは思いっ切り怒鳴り声を上げる  
「二人共いい加減にしなさい!!」  
その怒鳴り声に両者は思わず押し黙る、溜息をついたサクヤは言う  
「全くもう…あなた達のいがみ合いに振り回されるあたしの身になってよね。  
 元気なのはまだいいけど、今は喧嘩なんてやってる場合じゃないから。  
 もし今度いがみ合ったら、あたしは即コーチを破棄するから、そのつもりでね!」  
一喝されたサトシとシゲルは叱られた子供のように返事をする  
「「は〜い…」」  
二人の返事にサクヤは微笑む  
「判ればよろしっ!」  
サトシのピカチュウは『やれやれ』と呆れていた  
丸く収まったところでサクヤは次の日の予定を話す  
「じゃあ明日の9時に同じ場所に集合ね、その時は予定を話すわ。 と言う訳で解散!」  
たった三人と二匹にもかかわらずノリノリのサクヤ、シゲルはそれに釣られるかのように走り去る  
「じゃあなサトシ! おやすみサクヤ!」  
何処から力が湧いてきたのか、シゲルは実家に向かって全力疾走する  
「へへへ、サクヤ♪ サクヤ♪」  
シゲルに抱えられたピカチュウは既に目を覚ましたが、風に当たって気持ち良さそうだ  
それを見届けたサトシはただただ苦笑いするしかなかった  
「はは…これじゃ博士が愚痴をこぼすのも無理ないな。」  
サクヤはサトシの左肩をポンと叩いて言う  
「サトシくんも早くお帰り。 お母さんが心配にならないうちにね。」  
サトシはサクヤに笑顔で答える  
「ああ、おやすみサクヤ。 行こうかピカチュウ。」  
そう言うと、サトシはピカチュウとともに実家に帰った  
 
…と思いきや、ピカチュウは数十歩で立ち止まり、サクヤの後姿を見てサトシを呼び止める  
ピカチュウの異変に気付いたサトシは足を止め、ピカチュウに向く  
「どうした、ピカチュウ?」  
ピカチュウは『サクヤはまだ立ち止まってる』と鳴く  
サトシはその方向に向くと、それは夕焼けに染まるサクヤの後姿だった  
この時、サトシとピカチュウはどうしたんだと思った  
後姿では判らないサクヤの表情は悲しく、そして切ない  
そんな表情で夕日を見つめるサクヤは、あの忌まわしい事件を鮮明に思い出す  
幸せだった日々、大切なもの、何もかもが炎の中に消えていったあの事件…  
 
 
   御主人様… みんな…  
 
   どうしてあたしを残して逝ったの…  
 
 
「……ャ …クヤ… サクヤ!」  
「!!?」  
何者かに呼び掛けられたサクヤは我に返った  
「サクヤ、どうしたんだよ? さっきからボーッと立ってて。」  
声の主は実家に帰った筈のサトシだった  
サクヤは無意識に泣いている事に気付き、慌てて涙を拭う  
「サ・サトシくん? ごめんなさい、嫌な過去を思い出しちゃった。」  
そんなサクヤにサトシは言う  
「何があったか知らないけど、ちっともサクヤらしくないじゃないか。  
 あれ程俺を厳しく指導したくせに。」  
サクヤはそんな自分が情けなく思い、悲しく笑う  
「そうよね、あたしらしくないね。 ここに来てからいつの間にか、心の隙間を埋めるのに躍起になったもの。」  
それから二人はしばらく沈黙する…  
 
そよ風が二人に語り掛けるように吹き、遠くにある草むらがあおられて微かな音を立てる  
夕日は沈み始める時、サトシは意を決するかのように言う  
「なあ…サクヤ。」  
「ん? なあに?」  
「俺…サクヤにどうしてやればいいか判らないし、何が出来るか判らないんだ。  
 だけど、俺はサクヤの悲しい顔なんてもう見たくないんだ! 俺はサクヤの力になりたいんだ!」  
サトシがそう叫ぶと、サクヤはそっと両手を伸ばし抱きしめる  
同時に、サトシの帽子が地面に落ちた  
「もういいの! サトシくん、ありがとう。」  
サクヤの両腕に抱かれたサトシの顔は柔らかい胸に押し付けられ、ほのかに香る女の匂いが鼻を刺激する  
「サ…サクヤ???」  
この時サトシは何が起きたのか全く判らないようだ  
サクヤは抱擁を解き、サトシの肩を両手で触れて言う  
「でもね、何が出来るか、どうしてやればいいか判らずに大見得を切っちゃ駄目よ。  
 自分の可能性さえも判らないまま言うのはね、自分から言う人にとって良くない事なの。  
 例え小さな事でもこつこつと積み重ねていけば、自分の可能性が見えて来るわ。  
 それまでは無理せずに積み重ねていって、ね。」  
あれ程悲しい顔をしていたサクヤに笑顔が戻った、サトシはそれを見てほっとした  
「ああ! 良かったぜ…」  
そう言ったサトシの頬を、サクヤはそっと両手で触れると  
「これはほんのお礼よ。」  
サクヤの艶やかな唇がサトシの唇に触れる  
(えぇ? え?? ぇええっ?!?)  
サトシは頭が混乱して赤面する  
数十秒後、サクヤはゆっくりと唇を放す  
「サ…サクヤ…んむっ?」  
サトシは震えながら言うが、サクヤの人差し指に唇を触れられ静止される  
それを間近で見るサクヤはクスッと笑う  
「何も言わなくていいの、あなたのおかげで救われた気がするわ。」  
まだ顔が赤いサトシは恥ずかしげに俯き、押し黙っていた  
そんなサトシの仕草にサクヤは微笑む  
「さ、そろそろ日が沈むから帰りましょ。」  
「う・うん…」  
サトシの帽子を拾ったピカチュウは『隅に置けないねぇ〜』とニヤニヤしていた  
 
 
やがて夜になり、研究所は全てのガラス窓から灯りが点いていた  
研究員達が黙々と研究を続けている中、オーキドとサクヤは休憩室でコーヒーを飲んでいた  
休憩室と言っても接客用テーブルとそれの両端にある本革3人掛けソファー  
その隣には従業員用のテーブルに人数分もある椅子がある  
如何にも休憩と接客を兼ねた不思議な空間とも言える一室だ  
 
ソファーに腰を掛ける二人は、束の間の休憩での会話を楽しんでいた  
「サクヤよ、あの二人はポケモンの扱いに慣れてきたかね?」  
サクヤはオーキドから尋ねて来た今日の経緯について直ぐに答える  
「はい、手応えは十分でした。 明日になれば確実になる筈です。」  
それを聞いて安心したオーキドは言う  
「そうか! それなら安心して旅をさせられるな。  
 何しろ、あの二人は大物のトレーナーになっても不思議ではないからのう。」  
不思議に思ったサクヤはオーキドに聞く  
「ところで博士、孫のシゲルくんの事を気に掛けないのですか?」  
「うん? シゲルならば心配など無かろうて。  
 あいつは念願のトレーナーになったら自分の頭脳を試したいと意気込みおってな。  
 もっとも、何が起きようが転んでもただでは起きぬからのう。」  
サクヤはクスッと笑う  
「博士は相当の自信家なんですね。」  
「いやいや、シゲルには到底敵わんよ!」  
そこでオーキドは、サクヤにサトシの事を尋ねる  
「それとサクヤ、君はサトシの事をどう思うかね?」  
その言葉にサクヤは一瞬ドキッとした  
「は・はい! サトシくんは腕白で勢いさえ有り余っていますが、優しくて力強く、誠実さをも備えています。」  
それを聞いたオーキドは感心する  
「なるほどな! あの時サトシは二匹のピカチュウと初対面にもかかわらず、えらく好かれよった。  
 わしの目に狂いは無ければ、トレーナーとしての素質を秘めておるやも知れん。」  
サクヤは思わず頷く、と同時に頬を少し赤くした  
勿論それを見逃すオーキドではなかった  
「もしや…君はサトシに惚れたのではあるまいな?」  
「は・博士!? …冗談は、やめて下さい…」  
サクヤは恥ずかしげに言う、その表情は既に一目瞭然  
それは夕方の時、自分を慰めてくれたサトシに好意を抱いていたからだ  
オーキドはゆっくりと立ち上がり、一室のガラス窓の前に歩む  
「のうサクヤ。 そろそろ自分の足で一歩踏み出してはどうかね?」  
「え…?」  
オーキドの言葉にサクヤは理解出来なかったが、それでもオーキドは続けて言う  
「わしはのう、君の尽力に心から感謝しておる。  
 じゃが、君が心の隙間を埋めるのに躍起になっているようでは、わしとて心苦しい。」  
オーキドは研究員として働くサクヤの心境を密かに見抜いていた  
そこでサクヤに二人のコーチを任せた事を機に、サクヤに自分の足で一歩踏み出すチャンスを与えようと画策した  
オーキドはサクヤに顔を向けて言う  
「サクヤよ。 心の隙間を埋めるため、背負い続ける心に決着をつけるために人生を賭ける覚悟はあるか?」  
サクヤは少し俯き、深く考えた  
それは自分の人生を決定付けるもの…背負い続ける心に決着をつけるため…  
やがてサクヤは立ち上がり返事をする  
「はい!!」  
単純な一言ではあるが、サクヤの答えは明白である  
それを聞いて確信したのか、オーキドは笑顔で言う  
「よし! 決まりじゃな。 明後日の出発まで存分に打ち明けるが良いぞ!」  
「はい! ありがとうございます!」  
サクヤはオーキドに頭を下げる  
 
 
その頃、ここはサトシの実家  
「へっくしゅ!」  
くしゃみをしていたのは、ベッドの布団で寝るパジャマ姿のサトシだった  
この自室は健全な学生によくあるきちんとした部屋だ  
ピカチュウはデスクの上にある座布団の上ですやすやと眠っている、余程寝心地がよかったのだろう  
サトシは天井に目を向けながら右人差し指を唇に当てて、甘い一時をふと思い出す  
(そう言えばサクヤの口…やわらかかったな…)  
ファーストキス…サトシにとって、衝撃の体験そのものだった  
普段は女の子に興味はなかった健全な男の子であるサトシでさえ心が揺れる  
(サクヤは一体、何者だろうか?)  
サトシは夕方までの経緯を振り返り、考える  
あの涙は何かを悔やみ、悲しむ時に流した涙だろうか?  
いずれにしても、サトシでさえ判らない事が余りにも大きい事は確かだ  
(何考えてんだ俺は…明日に向けて早く寝よう。)  
サトシは考えるのをやめて寝ることにした  
 
 
翌日の午前9時、サトシとピカチュウは集合場所に着いた  
シゲルはとにかく、肝心のサクヤはまだ来てないようだ  
「そろそろサクヤはもう来てもいい頃なんだが。」  
サトシはそう呟くと、後ろからサクヤの声が聞こえた  
「おはようサトシくん! 早かったね!」  
サトシはサクヤの方向に向くと  
 
モンスターボールに見立てた絵を描かれた銀色のTシャツ、その上に着る空色の薄いデニムシャツ  
脚線美を演出するセクシーデニムズボン、防水と機動性に優れたアウトドアシューズ  
一見シンプルな服装だが、完璧なスタイルがはっきりする分昨日の作業服姿とは段違いだ  
 
そんなサクヤの姿に、サトシは見惚れそうになった  
「お・おはようサクヤ! 随分と似合ってるじゃないか!」  
少し照れくさそうに褒めるサトシにサクヤは微笑む  
「ふふっ、ありがとう♪ サトシくんに気に入ってもらえるかなって。」  
サクヤの私服は派手さがないものの、年端も行かぬ少女に相応しくない魅力的なスタイルを一層引き立てる  
勿論普段は女の子に関心がないサトシを惹きつけるには十分だった  
そんな時、サトシの横から突然ピカチュウが抱きついてきた  
「うわっ! ピカチュウ!??」  
なんと、甘えんぼうのシゲルのピカチュウだった  
いきなり抱きつかれたサトシは思わず尻餅をつく、どうやらシゲルのピカチュウはサトシと触れ合いたかったようだ  
サトシはまだ甘えるシゲルのピカチュウを撫でながら言う  
「おいおい、君はシゲルと一緒じゃなかったのか?」  
そこへシゲルが走って来た  
「当たり前だろう! こいつと外に出るまではな!」  
立ち止まったシゲルは息を切らしながら苦言する  
「それに、せっかくもらったポケモンをサトシに取られちゃ元も子もないからな!」  
シゲルはそう言うとサトシにくっ付くピカチュウを両手でひょいっと抱える  
サトシのピカチュウは『もとはと言えばお前が取り上げたんだろ』と内心呆れる  
そんな事もお構いなくシゲルはサクヤに挨拶をする  
「おはようサクヤ! 今日は一段と綺麗だな!」  
サクヤは笑顔で答える  
「ありがとうシゲルくん。  
 それじゃ、予定通りに集合したところで…今日は、野生のコラッタを懲らしめにいくの。」  
それを聞いたサトシは  
「それって確か、平野の農園を荒らし回る野生のコラッタの群れのことだよな?」  
 
1番道路沿いの東側にある平野の農園は、マサラタウンからそれほど遠くはないところにある  
ここ最近収穫期のみならず、保存庫まで荒らされる被害を受けている  
コラッタの群れは常に集団行動をするため、1番道路に潜む野性のコラッタと比べて凶暴かつ用心深い  
サトシとシゲルを試すには打って付けだが、ポケモンの扱いに慣れ始めたばかりの二人にとっては危険過ぎる  
ただ、二匹のピカチュウが居れば話が変わるとも言えようか  
 
そこでシゲルが言う  
「それなら天才のオレに任せてくれ! 自慢の頭脳にかかれば、あんな奴等お茶の子サイドンさ!!」  
それを聞いて呆れるサトシは低い声で言い放つ  
「おいおい…そんなに大見得を切って大丈夫かよ…」  
サトシのピカチュウは『本当の天才なら自分を自慢しないだろ』と突っ込む  
シゲルに抱えられているシゲルのピカチュウは『ホントに天才なの?』と首をかしげる  
サクヤはそんな状況を気にせずに言う  
「それじゃあ、平野の農園に行きましょう。」  
「おーし! いっちょうやるか!!」  
意気込むサトシに続いて二匹のピカチュウが『おーっ!!』と拳を上げる  
そんな時、ふと気付いたサトシはサクヤに言う  
「そう言えばサクヤ、自分のポケモンを持ってなかった?」  
サクヤは微笑みながら手持ちのモンスターボールを取り出す  
「勿論持ってるわ。 パウワウ、出ておいで!」  
サクヤはモンスターボールのスイッチを押すと、開かれたボールから光とともにパウワウが現れた  
パウワウはサクヤに近付くと、サクヤはしゃがんで頭を撫でる  
「この子はね、あたしがトレーナーに成り立てた頃からのパートナーよ。  
 こう見えても頼り甲斐があってね、どんな時でもずっと一緒だったの。」  
サクヤの言葉通り、パウワウは生まれた時から苦楽を共にしたポケモンだ  
トレーナーに成り立てた頃のサクヤは数々の苦労の末、本当の親さえ知らないパウワウを立派に育て上げた  
今や彼女の努力の結晶とも言うべき存在だ  
サトシは初めて見るポケモンに興味が湧く  
「へぇ〜、このポケモンはパウワウって言うのか。」  
パウワウはサトシに興味を持ったのか、『ナデナデして』と近付く  
「ははは、可愛いな。 宜しくな、パウワウ。」  
サトシはパウワウに頭を撫でると、パウワウは『よろしくね』と喜ぶ  
「サトシくんって、ポケモンに好かれるタイプなのね。」  
「そうかなあ? 教科書やテレビでよく見るけど、生で見るのは初めてだからな。」  
「そっか、サトシくんも初めてだよね。 それはそうと、そろそろ出発するからこの子を戻すね。  
 パウワウ、お戻り!」  
サクヤが呼び掛けると、パウワウは光になってボールに戻った  
「予定よりだいぶ遅れちゃったから、平野の農園までかけっこしましょう。」  
「そうだな、少しでも遅れを取り戻さないとな! 行くぞピカチュウ!」  
サトシとピカチュウが一足先に走り出す、サクヤはそれに負けじと追いかける  
「よーし! 負けないわよ!」  
その後ろには、何時の間にやら置いてけぼりを食らったシゲルが嫉妬にも似た怒りに震えていた  
「うぐぐ…サトシの奴…サクヤと仲良くなりやがって…畜生! 待ちやがれーっ!!」  
シゲルは叫びながら二人を追いかけた  
まだ抱えられているシゲルのピカチュウは『ホントに懲りない人だねえ』と呆れていた  
 
 
ようやく平野の農園に着いたサトシ達は、野生のコラッタの群れについて訊ねたところ  
数年前の異常繁殖が原因ではないかと思われたが、それだけでは済まされるものではなかった  
増え過ぎたためか、過剰な木の実狩りが多発し、幾つもの山や森林の木の実が食い尽くされてしまう  
挙げ句木の実をめぐる争いが生じ、追い払われた多くの野生のポケモンは群れを成し、農園などを襲ってきた  
野生のコラッタの群れはその一部に過ぎないが、強いポケモンを持たない付近の農園にとっては脅威とも言える  
サトシ達は二匹のピカチュウを頼りに、野生のコラッタの群れの居場所を割り当てることにした  
住み処に辿り着いたサトシ達は、野生のコラッタの群れとの死闘を繰り広げ、ついに群れのリーダーのラッタを懲らしめた  
どうやらラッタとコラッタ達は、それぞれの住み処を追われ、空腹に耐えかねて農園を襲ったようだ  
そこでサクヤは、手持ちのモンスターボールでラッタとコラッタ達を保護し、研究所に預けることにした  
カントー地方の何処かに居る有能なトレーナーに、彼等をいつでも譲って貰うようにと考えたからだ  
サトシ達は平野の農園に戻り、農園職人の中にトレーナーが居るかと訊ねると、案の定数人居た  
その職人達はまだ駆け出しだったためか、快く受け取った  
将来のガード役を手に入れた職人達やそのポケモンの活躍が楽しみだ  
一段落したサトシ達は平野の農園をあとにし、マサラタウンに帰っていった  
 
 
それから夜になり、サトシは実家のリビングで母親のハナコと会話していた  
「へぇ〜、サクヤちゃんはよく出来た子なのね。」  
とハナコは感心する、サトシはテーブルの上に座るピカチュウと一緒にジュースを飲んでいた  
「うん。 昨日のコーチ役もそうだけど、今日の野生のポケモン退治の時だっていい腕前だったよ!  
 相棒のパウワウだって結構強かったしな。」  
ハナコはサトシの話を聞きながらコーヒーカップに入ったポタージュを口に運ぶ  
ポタージュをすすったハナコはコーヒーカップを置くと、なにやら真面目そうに語る  
「最近の女の子はね…着飾りとか、度が過ぎたメイクとか、何かと気取ることが多いし、  
 何よりも社会的モラルが欠如する事が多いわよねえ。  
 親の躾の悪さとかも考えられるけど、ああ言う時こそ少しでも真面目にやろうと言う気持ちはないのかしら。」  
それを聞いたサトシはただただ言葉を失う、ハナコの言葉には社会の深刻さを物語っていた  
 
都会でよく見るなんとかギャルだとか、モラルの欠片も無い不良女子学生が時折見かける事が多い  
ただ愛情と信頼こそがモノを言うポケモンの世界において、トレーナーの戦略性とポケモンの実力がすべてだ  
そのためか、誰彼構わず勝負を仕掛ける不良グループほど実力はおろか、度胸さえ持ち合わせていない  
カントー地方政府はそんな女子学生を社会問題視し、それ等を徹底的に更正せんとする政策を進めていた  
しかし、いつもにも増して暗中飛躍する悪徳組織ロケット団に悩まされ、その政策を断念せざるを得なかった  
 
だが、そんな内政事情をサトシとハナコには知られていないようだ  
ハナコは表情を変えてサトシに聞く  
「話が変わるけど、サトシはサクヤちゃんの事、気になる?」  
サトシは何事も無かったように考える  
「う〜ん…昨日から出会ったばかりだからなんとも…。」  
と言ったものの、少々気になるようだ  
ハナコはそんなサトシを見透かしているかのように微笑みかける  
「そうよね、そんなに経ってないもの。」  
そんな時、玄関からチャイムが鳴る  
「はーい!」  
ハナコは呼び掛けながら席を立ち、玄関に向かうと  
「こんばんは、おば様。」  
玄関のドアを開けて挨拶してきたのは、今朝見せた身軽な服装のサクヤだった  
「あらサクヤちゃん、いらっしゃい!」  
ハナコは意外にもサクヤとは面識があったようだ、そんな母親の横に出てきたサトシは何か矛盾があるのではと思った  
「ママ、サクヤといつ知り合ったの?」  
「ええ。 ほんの数日前、研究所に寄ったらたまたまサクヤちゃんと会ったのよ。」  
「それでか…。」  
サトシが今まで知らなかったのも無理はない、サクヤが研究所に来た当初からあまり知られていなかったからだ  
 
ともあれ、サトシはリビングで実家にお邪魔してきたサクヤと会話していた  
当然何事もなかったかのように、二人の会話が弾んでいる  
その隣の居間には、ピカチュウとパウワウがじゃれ合って遊んでいる  
サトシとサクヤはポケモントレーナーに関するモノについて会話している  
「要するに、トレーナーとポケモンのコンビネーションが肝心ってこと。  
 それは人間のコンビやチームに通じる事があるけど、トレーナーが如何にポケモンの能力を引き出せるかにかかってるの。  
 ポケモン全ての能力を知るのは至難だけど、ある程度知っておけば育て易くなるからね。」  
「それって、サクヤが言ってたトレーナーの知識と経験が重要って奴だよな。  
 でもトレーナーの個性は千差万別になるんじゃ?」  
「う〜ん…それはトレーナーの個性によって、手持ちに反映するんじゃないかと思うわ。  
 よく見かける一般トレーナーがその典型ね。」  
「じゃあジムリーダーは基本的に個性派揃いだけど、エリートやベテランの場合は?」  
「ごめんなさい、あたしも流石に判らないわ。」  
「そうだよな。 世の中には凄腕のトレーナーが何処かに居るかもしれないからな。」  
そんな中、ハナコがリビングに入ってきてサトシに呼び掛ける  
「サトシ、お風呂が沸いたわよ。 すぐに入ってらっしゃい。」  
「はーい。 ごめんサクヤ、また明日にしようぜ。」  
サクヤは席に立つサトシに言う  
「ううん、お話に付き合ってくれてありがとう。」  
「ああ、おやすみサクヤ。」  
そう言って風呂場に向かうサトシにハナコが呼び止める  
「それからサトシ、ママはすぐに出かけるからあとは宜しく。」  
「…?」  
サトシは首をかしげながら風呂場に向かった  
息子を見送ったハナコはサクヤに振り向く  
「サクヤちゃん、よかったら一晩泊まっていかない?」  
この時サクヤは、遂にこの時が来たかと内心腹をくくってきた  
「い・いいんですか? おば様…」  
そんなサクヤにハナコは微笑む  
「いいのいいの! 遠慮しないでサトシと付き合いなさい。  
 その代わり、あの子はちょっとやそっとじゃ意識してくれないわよ。 じゃ、頑張ってね!」  
ハナコはそう言ってリビングを出た  
しばらくしてからサクヤは深呼吸をしている  
恋心が芽生えたばかりの一人の少女が愛するべく一人の少年に、今こそ全てを打ち明けるために  
「…よしっ!」  
意を決したサクヤは席を立ち、風呂場へと向かう  
一方居間に居るピカチュウとパウワウは、まわりを気にせずにじゃれ合っていた  
 
所変わってサトシの実家の風呂場、必要最低限の洗面器具や石鹸の他にシャンプーやボディソープなどがある  
浴槽は勿論、風呂場の床幅も大人二人までが入れる必要最低限の広さになっている  
浴槽にはお湯を沸かしてあり、そこから湯気が立つ  
裸になったサトシは風呂場椅子に座って頭を洗っているところだ  
「それにしても驚いたぜ。 サクヤはママとの顔見知りだったなんて。」  
心地よく頭を洗うサトシはどこか名残惜しく言う  
「出来ることならサクヤともっと話がしたかったな。 それにサクヤの事を色々と…」  
サトシは何を想像したのか、頭を洗う手が止まる  
「っと! 何考えてんだか…」  
不意にいやらしいコトを思いついてしまい、恥ずかしくなったサトシは再び手を動かして頭を洗う  
シャワーを浴びて頭を洗い流しながらサトシは思い浮かべる  
(そう言えば昨日の夕方、『ここに来てからいつの間にか、心の隙間を埋めるのに躍起になった』って言ったよな…  
 それにあの涙は…いや、やっぱやめとこ。 明日は旅に出る日だからな。)  
そう考えるとサトシはシャワーを止める  
「憧れのポケモンマスターになるために!」  
そう意気込むとすぐに風呂に入る  
普通に入ると言ってもすばやく入るのでお湯が波立つ、サトシはそれを楽しみながら肩まで浸かる  
「はぁ〜っ、いつもながらいい湯加減だ。」  
くつろぐサトシは風呂場の天井を見上げ、ひと時の静寂を楽しむ  
 
明日の旅立ちを控え、一日が繰り返される生活と住み慣れた実家を離れる事になる  
旅先で出会うポケモン達、しのぎを削る数々のライバル、待ち構える幾つもの難関…  
憧れのポケモンマスターを志すサトシは、好奇心と期待が不安に勝る程心が躍る  
 
サトシはひと時の静寂を打ち破るように意気込む  
「よーし! 第一目標はポケモンマスターだ!」  
その時、風呂場のドアが開く  
「サトシくん、入るね。」  
なんと、サトシが帰ったと思ったサクヤが一糸纏わぬ姿で入ってきた  
先程まではロング三つ編みおさげだった後ろ髪はほどかれて、滑らかなロングヘアになっている  
「さ・サクヤ!?」  
サトシは慌てて背中を向けるが、サクヤは構わずドアを閉めて風呂場を眺める  
(な・なんでサクヤが入ってきたんだ??? もう帰ったと思ったのに…)  
頭の中でつぶやくサトシは酷く赤面する  
「素敵な風呂場だね、あたしはこれを見るの初めて。」  
「えっ???」  
サトシは不思議に思ったが、サクヤの裸体から目を逸らそうと固まっている様子だ  
その後ろからサクヤがシャワーを浴びる音が響く  
想像よりも実物を見たほうが恥ずかしくなるのはよくある事だが、反応は人それぞれであると言うまでもない  
勿論普段は女の子を意識しなかったサトシも例外ではない  
 
サクヤはシャワーを止め、ゆっくりと風呂に入る  
「!!!」  
サトシは不意にサクヤの美脚が目に入り、慌てて体ごと目を逸らす  
先程赤面した顔は既に湯気が立つほどに熱を帯びている  
そんなサトシの後ろ姿を見つめるように、ゆっくりと入ってきたサクヤはふっくらと膨れた胸まで浸かる  
浴槽からゆっくりとお湯が溢れ出す中、サクヤは後ろ姿のサトシに言う  
「サトシくんって、女の子に興味ある?」  
サトシは何とか落ち着かせて言う  
「え…? う、う〜ん…ママので見慣れてるから。」  
とぼけるサトシは少女のを間近で見るのが初めてだ、しかもサトシが微かに意識しはじめたサクヤの美しい裸体  
その一糸纏わぬ姿を見て照れない、恥ずかしくならないと言えば嘘になるだろう  
ゆっくりと近づくサクヤはサトシに問い詰める  
「じゃあ、あたしの体を見ても?」  
サトシはドキッとした、こんな状況下では口が裂けても言えない  
身軽な服装はまだしも、彼女の裸体を直視する事が出来ずに居る  
サクヤは後ろ向きに固まっているサトシを抱擁する  
それに驚くサトシは震えた声で言い放つ  
「!! サクヤ…?」  
サトシの背中にサクヤの美乳が密着し、服越しとは比べ物にならない程の胸のやわらかさが直に伝わる  
頬をうっすらと赤くするサクヤは微笑む  
「魅せてあげるよ、サトシくんなら。」  
「な、なんで???」  
サトシは不思議に思った、何故知り合ったばかりの少女と裸の付き合いをしなければならないのか  
今まで色恋沙汰を知らないばかりか、恋などに興味を持たないサトシはまだ気付いていない  
それでもまだ艶やかな微笑みを絶やさないサクヤは、そんなサトシを惹き付けようとしている  
サクヤは抱擁を解き、少し離れる  
「女の子の体を見るの…怖い?」  
「…怖いって言うより……恥ずかしい………」  
「じゃあ…目を瞑らないでこっちむいて。」  
サトシは微かな勇気を振り絞り、体をゆっくりとサクヤの前に向ける  
その正面から、サクヤの美しい裸体が目に映る  
ゆっくりと波立つお湯から見える美乳、お湯に浮かぶ滑らかな髪…  
サトシは今まで見たことがない美しいものに見惚れてしまった  
「き…綺麗だ…」  
サクヤは既に釘付けになったサトシを見てクスッと笑う  
「サトシくんは女の子の体を見るの…あたしで初めてだよね。」  
「…サクヤ……」  
目の前の少女の名を呟くサトシの心は既に怖がりや恥じる気持ちはなく、高まる鼓動とともに興奮が湧き上がる  
「キ、キス…しようか…?」  
「うん、しよ…」  
二人はゆっくりと顔を寄せ、目を閉じて、そっと唇を重ねる  
 
 
一方、研究所の休憩室では  
「サクヤちゃんが某豪邸爆破事件唯一の生き残りだったなんて…。」  
驚きを隠しきれないハナコにオーキドは言う  
「いや、まだ確証したわけではないが、これはあくまでわしの予想じゃ。  
 こないだたまたまニュースを観たんじゃが…あれはロケット団めのグループが逮捕された時の事じゃ。」  
 
オーキドの話では、テレビに映るグループのリーダーが悔し紛れに暴言を吐いた  
『豪邸の奴等が我々の要求を頑なに拒んだから爆破してやったのよ!!  
 それに紛れて豪邸のポケモンやメイド共を奪おうとしたが、たまたまガスが引火しちまったせいで奪い損ねた!  
 ただ一人逃げ延びたガキをとっ捕まえてやりたかったが、貴様等政府の犬風情のせいで何もかも水の泡だ!!』  
いかにも胸糞悪い台詞…反省ばかりか、人やポケモンをなんとも思わない悪党の吐き捨てそのものだった  
それを観たサクヤはほっとするどころか、涙を流していた  
 
「それでサクヤに声をかけるとな、慌てて拭いておったんじゃ。」  
オーキドの話を聞いたハナコは  
「それって、サクヤちゃんは某豪邸に育てられた子じゃ…?」  
それを聞いたオーキドは言う  
「その可能性は否定出来ん。 それにサクヤは、いつまでも研究所に居られる子ではないのでな。  
 サクヤが自分の足で一歩踏み出すためには…ハナコさん、貴方の息子が必要なのじゃ。」  
ハナコはオーキドに協力したとはいえ、純粋な一人息子と一人の少女が釣り合うか、不安になるのも無理はない  
「勿論最悪の結果になる事を、覚悟していましたわ。 でも…」  
不安げに言うハナコにオーキドは笑顔で答える  
「ハナコさんや…貴方がサトシを信じるように、わしはサクヤを信じておるのじゃ。  
 今わし等に出来る事は、他にあるまい。」  
 
 
同じ頃、サトシの実家の自室、カーテンを開いた窓から月明かりを照らす  
一糸纏わぬ姿になっているサトシとサクヤは、ベッドの上に座った状態でディープキスをしている  
サトシは両手でサクヤの美乳を揉み、後ろ髪ロングヘアのままのサクヤは唇を離れないようにサトシの頭を両手で抱える  
「んむっ…んふ…ん…ふぅ…むぅ…」  
「…ぁはぁ…ぁんっ…ん…んぅうん…」  
二人は甘い息をしながらぴちゃっ、ぴちゃっと微かな音を立て、何度も唇を重ねながら舌を絡ませる  
塗れて湿った唇からよだれが糸状になって伝うように流れ落ちる  
最初はぎこちなかったが、何度もしているうちに舌使いが滑らかになり、病み付きになっていた  
「…ふっ…ん……んむぅ…」  
(こうすると、サクヤはちょっと痛くなるかな…?)  
悪戯を思いついたのか、サトシは少しずつ両手の揉む力を強くしながら小刻みに円を描く  
「…ぅんっ!? ふぁっ…っんん…!」  
(きゃっ! サトシくん? やっ、む・胸っ…!)  
一瞬ビクッとしたサクヤの両手が緩くなってきた、それはわずかな痛みと同時に性感に襲われたからだ  
サトシはサクヤの反応を愉しむかのように、美乳を揉む  
「んん…むぅ…ふぅ…」  
(サクヤってあんな風に反応するのか…)  
サクヤは胸を強く、かつ優しくも激しく揉まれる度に電撃のようにほどばしる性感に襲われる  
「ふぁっ…はぁぁあ…ぁあっ…んぁぁあっ…!」  
(嫌…もうやめて…っ! い、いっちゃう…!)  
ディープキスを解いてしまう程の激しい性感に耐えるサクヤの美乳を、サトシは容赦なく揉み続ける  
同時に、サトシはディープキスで追い討ちをかけるように攻める  
やがてサクヤは唇を放し、絶頂を向かえる  
「ふっ…ふぁっ、っぁぁあああぁぁっ!!」  
サクヤは背中を逸らして絶頂した、それとともに唇から垂れてきた透明の粘液が散らばる  
胸の谷間を押し付けられたサトシは美乳から両手を放し、両腕でサクヤを抱擁し、倒れるのを阻止した  
サトシに支えられたサクヤはそのまま上半身を起こし、抱擁を解く  
サトシも抱擁を解き、絶頂したサクヤを気に掛ける  
「ごめんサクヤ、ちょっとやりすぎたかな…」  
放心しているサクヤはサトシの言葉を気にする様子はなく、絶頂に導いた快感が静まり、乱れた息を整える  
愛する男の手に美乳を揉まれるのが余程心地良かっただろう  
「うふふ…いっちゃった。 サトシくんのえっちぃ♪」  
サクヤはそう言うと、サトシにそっとキスをする  
ゆっくりと放した唇から粘液が糸状になり、やがて垂れて消える  
サクヤは妖艶な眼差しで微笑みながら、サトシのイチモツに触れる  
「!?」  
サトシは気付かぬうちに起っている自分のイチモツを触れられ、思わずビクつく  
それを優しく撫でるサクヤは見た目の年に相応しくない立派なモノに興味津々だ  
「ね、あたしにも気持ちよくさせて?」  
「う…うん…」  
サクヤはサトシの脚を開かせてから、両肘を立てる四つん這いの姿勢をとる  
その状態でサトシのイチモツを両手で触れる  
どう言うわけか既に皮を剥いており、立派な亀頭が露出する  
 
「あたし、こう言うのはじめてだから…頑張るね。」  
サクヤはサトシのイチモツを両手で撫でながらそっと亀頭を舐め回す  
「うっ…サクヤ…?」  
サクヤが初めて挑戦するフェラチオに加え、両手の愛撫でサトシを快感へと誘う  
フェラされるサトシは初めての快感に震えている  
サクヤの舌使いはややぎこちないが、未経験のサトシを感じさせるには十分とも言える  
サトシはこの性感に堪えているうちに、自分のイチモツが大きくなるのを感じていた  
まるで自分のとは思えない程長くて太い立派な陰茎へと変貌する  
「す・凄い…! コレがサトシくんの…」  
サクヤは逞しいモノを目の当たりにして息を呑む  
(それに…御主人様のより…大きい…)  
ふと昔を思い出したサクヤは立派な陰茎から両手を放し、両手をつける四つん這いの姿勢で顔を上げ、サトシの顔に近付く  
妖艶な眼差しで見つめるサクヤは甘い声で言う  
「そろそろ…あたしの中に…挿れてみない?」  
「え…? …で、でも…どうやって?」  
初めて聞くサトシは戸惑っていた、ナニをナニに入れると言われても判るはずがない  
 
十代の若者は、トレーナーになれば大人の仲間入りを果たす  
反面、その殆どが性知識など微塵もないのはよくある事  
 
そんなサトシにサクヤは仰向けになって開脚すると、閉じられた桃色が口を開く  
「この口にね…あなたの立派なモノを挿れるの…」  
上の口よりも小さい口…、そこから月明かりを浴びて光る半透明の粘液を垂らしている  
サトシは決して見ることが出来ない艶やかな女のモノを見ると、湧き上がる興奮とともに己の欲望が爆発寸前になる  
サクヤは愛する男と結ばれる期待と未知の体験への不安を抱きながら、両手を差し伸べてサトシを誘う  
「…きて、サトシくん… 一緒に気持ちよくなろっ♪」  
「…っ!!!」  
この一言で、サトシは高鳴る鼓動とともに静かなる獣と化した  
サトシは膝を着いたままサクヤの両脚の間に入る  
そこから脈を打ってそそり立つ凶暴な陰茎の角度を片手で調節し、愛液に塗れる桃色の口に亀頭の先をあてがう  
そしてそのまま腰を前進させ、桃色の口の中へと侵入する  
「んっ! んぅ…っ」  
サクヤは初めて挿入される苦痛と快感に身を震わせて声を漏らす  
しかし、ここからが本番…捧げるべく処女(おとめ)の証が破られる  
「ひっ…ぃいんっ…」  
(あたし、これで…)  
初めて進入を許した桃色の口の膜がゆっくりと引き千切られ…  
「ひぁ…か、ぁあっ…」  
(初めてを…サトシくんに…)  
ギチギチとしながら亀頭を飲み込む…  
「ぁはあぁぁん!!」  
(あげちゃった…)  
サクヤは襲い掛かる激痛に身を悶え震え、両手でシーツを握り締める  
それを示すかのように、結合部から破瓜の血が流れる  
 
サトシは暴れたがる自分の分身に驚いたが、それを健気に咥える桃色の口にも驚く  
このままサクヤの太腿を掴み、ピストン運動で腰を動かす  
「ぁあっ…はっ…ぁん…っんぅ…くぅん…」  
サクヤは突かれる度に嬌声を漏らし、熱く湿った膣壁が包み込むように陰茎を締め付ける  
(くぅっ! これはきついな…!)  
サトシは自分の分身が柔肉に締め付けられる性感に堪えながら、奥へと進むようにピストン運動のペースを速める  
「ひぁっ ぁあっ あんっ ぁはぁっ ぃぁあぁっ ぁあんっ っふぅうっ」  
サクヤの嬌声が高まり、突かれるたびに美乳を揺らす  
それを眺めるサトシを更に興奮させる  
サトシはピストン運動のペースが速くなり、息を切らし始める  
「はぁ…サクヤ…君は本当に…可愛いな…」  
「え…」  
サクヤはこの一言に胸が締め付けられてときめく  
すると陰茎を締め付ける膣壁が緩くなり、陰茎が勢い余って滑る  
「うわっ!?」  
「きゃぁっ!?」  
陰茎の勢いで亀頭が子宮口にぶつかり、結合部から愛液が破瓜の血と混ざって勢いよく噴き出す  
この衝撃にびっくりした二人は興奮のあまりに体を振るわせる  
「す、凄い…! これがサクヤの中か…」  
「サトシくんの…あたしの中で脈を打ってる…」  
二人は震えたまま静止して、互いの鼓動を感じ取る  
サトシはこの状態でサクヤに言う  
「…サクヤ、動くよ?」  
「うん…このまま激しく動いて…んぁあ…っ!」  
サクヤの返事に答えるように、サトシは腰を引いて陰茎を膣内の半分まで抜く  
そこから陰茎を一気に侵入させ、子宮口に叩きつける  
「ぁああっ!」  
サクヤはその衝撃で不意に嬌声を上げる  
サトシは再びピストン運動を始め、速く、そして深く突き動かす  
激しく動くたびにベッドからギシッ、ギシッときしむ音が聞こえる  
「あっ! ぁんっ! はぁあっ! ぁあんっ! ぃぁんっ! ふぁっ! ぃゃあぁんっ! ゃんっ! ぁあんっ!」  
(そう言えば…サトシくんに『君』とか『可愛い』って…まだ言われてな……〜っ!)  
サクヤは何度も嬌声を上げながら考えるが、途中で思考が途切れてしまう  
少しずつ痛みから変わる快感の波に押され、頭が回らなくなってきた  
それでもまだサトシの激しい連続突きを受けて何度も嬌声を上げ、喘ぐ  
「あんっ! ぁあっ! やっ! ぃあっ! やんっ! あっ! あん! あんっ! ひぁあっ! ぃやっ!」  
(駄目…っ! もう…考え…られないっ!)  
それを眺めながら息を切らすサトシは、そんなサクヤを愛おしく感じた  
激しく動けば動く程つながった性器と性器が擦れ合い、快楽を貪る  
「サクヤ…サクヤ…っ!」  
「あ…サトシ…くぅん…んっ! も…っと…もっとぉっ!」  
二人は互いに名を呼び、交錯する声が何度も耳元に響かせた  
 
あれから何分経ったのか、月明かりが照らす部屋の中に性の音色が絶えず響き渡る  
ベッドの上に飛び散る汗は、月明かりに照らされ、無数の粒子になって輝く  
二人は疲れてきたのか、交錯する声は徐々に弱くなってきた  
「はっ はっ ふぅっ ふっ はふっ はあっ ふんっ むぅんっ むっ…」  
「あっ あっ ぁんっ ぃやんっ ぁんっ あんっ やっ やぁっ ぁあん…」  
サトシはまだ萎える様子がない己の分身が徐々に膨れ上がり、湧き上がる射精感に襲われる  
「やばい…! 何か…出る…っ!」  
「そ…そのまま…出してっ! あたしも…イクから!」  
サクヤは絶頂寸前になり、膣壁が陰茎を一層締め付ける  
それに耐えるサトシは渾身の力を込めて膣奥にまで突き上げる  
「出…っ! くぅうっ!!」  
「あっ! ぁぁあああぁぁぁぁぁああんっっ!!」  
サクヤは背中を仰け反り、悲鳴にも似た嬌声を上げて震える  
両手で握り締めているシーツを引き千切る程強く引っ張る  
同時にサトシは膣奥に有りっ丈の熱い欲望を放ち、胎内に勢いよく注ぎ込む  
「んぬぅう……っ! ふぅぅぅ……」  
「っはぁあああぁぁん…! サトシくんの…あったかぁい…♪」  
痙攣を起こす膣肉がきゅうっ、きゅうっと陰茎を締め付けて精液を搾り取る  
熱い欲望を出し尽くしたサトシは陰茎をズルズルと引き抜く  
破瓜の血に染まった桃色の膣から白濁が溢れ出し、シーツへと垂れ落ちる  
疲れ果てたサトシはゆっくりと前に倒れ、サクヤの上に覆いかぶさって密着する  
既に息を回復したサクヤは、幸福感に満ちた笑顔でサトシの頭を撫でる  
「ふふっ、お疲れ様。 初めてなのに凄くよかったよ。」  
「ああ…よかったぜ…。」  
サトシは心地良い疲労感を感じ、サクヤのやわらかい美乳の上で眠りについた  
「もう…サトシくんったら。 うふっ♪」  
すやすや眠るサトシにサクヤは微笑む  
 
この夜、サクヤは処女を捧げ、サトシは童貞を捧げた  
 
 
夜が開け、サトシは朝の日差しの光に照らされて目を覚ます  
「ん…ぅう〜ん、もう朝か。」  
気が付くと、サトシは仰向けに寝ていた  
…と同時に、左側に何かやわらかいものと密着しているのを感じた  
腕枕に胸板に当てる左手、左肩に触れる美乳に腹と太腿に密着する脚…  
(まさか…サクヤ?)  
サトシは恐る恐る左に向くと、目の前に右下横寝しているサクヤだった  
しかもサトシと同じく素っ裸だ  
(やっぱり…昨日の夜、サクヤと…)  
この時サトシは顔を赤くするが、目を逸らす様子はない  
それどころか、サクヤの寝顔を愛おしく感じ、見つめていた  
(それにしてもサクヤの寝顔、可愛いな…)  
しばらくしているうちに、サクヤは目を覚ます  
「ん…んぅ〜ん…あ、おはようサトシくん。」  
「ああ、おはようサクヤ。」  
サクヤはサトシとの挨拶を交わすと、密着した体をそっと放して起きる  
「ねえサトシくん、あたしの事…好き?」  
「え…」  
この一言に、サトシは戸惑った  
 
研究所でサクヤと出合い、初めて見る眩しい笑顔に魅せられる…  
その日の夕方、涙を流すサクヤを励まし、笑顔が戻ったサクヤの唇に触れた…  
そして次の日、サクヤとの会話が弾み、その一日が終わろうとした夜…  
サクヤと唇を重ね、体を触れ合い、初めて抱き合った…  
この二日間を振り返り、楽しかったひと時、そして甘いひと時があった  
 
短いようで長い思い出を鮮明に刻まれた心には、これから旅立つサトシにはあまりにも重過ぎる  
色んな意味で仲良くなれたサクヤと、今日から否応なく離れていかなければならなかった  
そう思ったサトシは次第に悲しい顔になる  
そんなサトシの唇に、サクヤは人差し指でそっと触れる  
「サトシくん、あたしに『悲しい顔なんてもう見たくない』って言ったよね。  
 あたしも悲しい顔は見たくないの。 それにあたし、大切な人の悲しい顔、嫌いよ。  
 だから…もう悲しい顔をしないで。」  
サクヤは人差し指を放し、サトシにキスをした  
昨日の夜、沢山キスを交わした二人には少し照れくさいキスだった  
「あなたはまだ口から言わなくても、あたしを意識してくれればいつか『好き』って言えると思うわ。  
 それにあたし…サトシくんの事、好きなの。」  
サトシはサクヤの眩しい笑顔に胸が締め付けられてときめく  
「あ…ああ!」  
「うふふっ」  
サトシは笑顔が戻り、サクヤはクスッと笑った  
 
その時、部屋のドアからハナコの声がした  
『サトシ! サクヤちゃん! 起きてらっしゃい!』  
サトシとサクヤは思わずビクつく  
「ま・ママ!?」「お・おば様!!」  
台詞の数は違えど、同時に発音した  
『あらあら、二人共もうシちゃったの?』  
サトシはなんとか弁解しようにも、言葉が見つからずあやふやする  
「ぁあ…いや…その…え〜と…」  
玄関に居るハナコはドア越しに聞こえる息子の声を聞いてからかう  
「まあ! サクヤちゃんとシちゃったんだぁ! 罪な子ねえ♪」  
「〜っ!!!」  
サトシは一瞬ボワッと蒸気を上げて赤面した、まるで某漫画によくあるリアクションだ  
息子の馬鹿正直さに感心するハナコはサクヤに聞く  
「それとサクヤちゃん、サトシと一緒に居てどうだった?」  
サクヤは照れくさそうな顔で返事をする  
「はい、サトシくんの傍に居て幸せです。」  
それを聞いて安心したハナコは祝福する  
「よかったわねえサクヤちゃん! これで安心して息子と一緒に旅に出られるわね!」  
「ぇえっ!?」  
サトシは一瞬耳を疑った  
「そうそう! お風呂はもう沸いてあるから、仲良く入ってらっしゃい。  
 その間にとびっきりのご馳走を作ってあげるわ!」  
ハナコはそう言うとすぐに階段を下りて行った  
その足音がドア越しに聞こえるが、呆然とするサトシの耳には入らなかった  
一方のサクヤは酷く赤面して俯いていた  
いくら既成事実とは言え、あまりにも都合が良過ぎるのではないのだろうか?  
しばらくしてからサトシはサクヤに視線を向ける  
「なあ、サクヤ…」  
「は…はい?」  
「こんな時に言うのもなんだけど…俺、サクヤの事が好きになっちまって。」  
「…サトシくん…」  
「サクヤ…、俺と一緒に行かないか!?」  
サトシの告白に、サクヤの目は感涙に溢れる  
「嬉しい…ありがとう!」  
サクヤは嬉しさのあまり、サトシの唇に飛び込んだ  
 
その後、風呂場に入ったサトシとサクヤは洗いっこしながら談笑していた  
この時サクヤは、幼い頃に住んでいた某豪邸からマサラタウンへ来る経緯をサトシに話した  
サトシは旅立つ決意を新たに、密かに気を引き締めていた  
 
 
出発の予定時間が数十分遅れてしまったが、サトシとサクヤの笑顔が絶えなかった  
二人の服装は昨日と同じだが、サトシは自分のリュックを担いでいる  
後ろに歩くピカチュウは『実に羨ましいなぁ〜』と眺めていた  
マサラタウン出入り口の前に、リュックを手にしたオーキドが待っていた  
「やあおはよう! 一夜で大人になり始めたと見えるわい。」  
「「おはようございます、博士。」」  
サトシとサクヤは息を合わせて挨拶をする  
そんな二人にオーキドは感心する  
「うんうん! 息がぴったりじゃ! それはそうとサクヤ、君に渡さねばならぬ物があってな。  
 それがこのアウトドアリュックじゃ。 君の大事なものが全てこのリュックの中にしまっておる。」  
オーキドが持っているアウトドアリュックは、サクヤのために取り寄せたものだ  
「ありがとうございます、博士!」  
リュックを受け取ったサクヤは早速担ぐ、その大きさはサトシのリュックの三割はある  
「うむ!似合っておるぞサクヤ!」  
「よかったなサクヤ!」  
サクヤは感謝の気持ちでいっぱいだ  
それから何を思ったのか、サトシはオーキドに聞く  
「そう言えば博士、シゲルの奴はどうしたんですか?」  
「うむ、確かシゲルの奴は先程サクヤを一目見ようと研究所に来おってな。  
 わしは『サクヤなら既に朝一番に出発したぞ』と言ったら、もの凄いスピードで走って行きおった!  
 あの時は笑いが止まらんかったわい!」  
「はは…本当に懲りないですね、あいつ。」  
「ふふふ、あたし達を見たらどんな反応をするのかしら。」  
あまり語られてなかったが、シゲルはサクヤに猛アタックを何度も試みたが、いずれも空振りに終わったらしい  
それでも諦め切れないシゲルは、今がチャンスとばかりに追いかけていった  
サクヤは既に、サトシと結ばれているのを知らず…  
もしもシゲルがサクヤと一緒に居るサトシを見かけたら…あまり想像したくはないだろう  
「そうじゃサトシ、君に渡したいものがあっての。 これがポケモン図鑑じゃ!」  
 
オーキドが取り出したのは言わずと知れたポケモン図鑑、持ち主が出会ったポケモンを音声で解説する携帯端末機である  
若い頃、オーキドは大学時代の仲間達とともにポケモン図鑑を開発した  
長年をかけて集めたポケモンのデータをこの図鑑に載っているため、トレーナーにとっては大きな存在となっている  
 
「もし初めて見るポケモンに出会ったら、この図鑑を使ってみるといい。  
 その時図鑑が音声で解説してくれるぞ。」  
「ありがとうございます! これがポケモン図鑑か…」  
受け取ったサトシは初めて手にするポケモン図鑑に興味津々  
 
オーキドは早速二人に言う  
「さて、予定時間が遅れてしまったが…旅先には何が待ち構えているのか判らん。  
 じゃが、これだけは言っておく。 何があっても二人三脚、そしてポケモンと力を合わせて進むのじゃ!」  
「「はい!」」  
サトシとサクヤはまた息を合わせて返事をする、もはや二人には怖いものなどないようだ  
「サクヤ、この先君とてまだ判らぬ事が多い。 例え何が起きようと、サトシの支えになるのじゃぞ!」  
「はい! 博士の恩に報いるために尽力します!」  
「それにサトシよ、ポケモンマスターへの道は遥か遠く、そして長く険しい道じゃ。  
 その道にめげず、真っ直ぐに力強く突き進むがよい!」  
「はい! 絶対にポケモンマスターになってみせます!!」  
オーキドはうんうんと頷く、ピカチュウは『二人共活き活きしてるねぇ』と笑った  
サトシとサクヤはまたまた息を合わせる  
「「それじゃ博士、行ってきます!」」  
続けてピカチュウは『行ってくるね!』と手を振った  
「うむ、気をつけてな!」  
サトシとサクヤ、そしてピカチュウはマサラタウンを出て出発した  
その後姿を見送ったオーキドは  
「二人の活躍が楽しみだわい。 …それにシゲルめ、今頃何処まで行っておるのやら。」  
 
1番道路を歩くサトシ一行は、次の目的地トキワシティを目指して進んでいった  
サトシとサクヤは時折手をつないで歩いていた  
 
 
かくして、サトシ一行の冒険が始まった  
幾多の道を抜け、序盤のジムバッジ獲得のために奮闘した時期があった  
まだ見ぬ野生のポケモンのみならず、途方に暮れたポケモンと出会う  
更には、道中の最中にしのぎを削るライバル達と出会い、互いに高め合っていった  
行く手を阻むかのような事件と度々遭遇するが、それをことごとく解決した  
因縁のロケット団との死闘の末、野望を打ち砕くとともに解散に追い込む  
8つのジムバッジを獲得したサトシ一行は、ポケモンリーグを構えるセキエイ高原を目指す  
年に一度行われるポケモンリーグが開幕し、幾多の兵達がぶつかり合い、死闘を繰り広げた  
幾つもの強敵を打ち負かしたサトシは、ついに決勝リーグへと駒を進める  
決勝リーグのバトルは熾烈を極め、ベスト4へと駒を進めたサトシはシゲルとの死闘を制し  
ついに、決勝戦を制し優勝した  
多くの出会いと別れを繰り返して成長してゆくサトシ一行は、更なる高みを目指し、まだ見ぬ地方へと旅立った  
 
それから数年後、幾つもの主人公の少年達が活躍する中、サトシとともに旅を続けるサクヤはサトシの子を身篭っていた  
サトシとサクヤは子沢山に恵まれた夫婦になるのは、それからの話である  
 
 
   終  
 

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