]]U:式の日取りは何時ですか?
――四月上旬 クチバシティ サントアンヌ号
全国ポケモンリーグ理事会の要人を集めた新年度の壮行会が豪華客船サントアンヌ号で執り行われた。
普通、壮行会は各地方毎に独自の様式で行われるのだが、今回はカントー・ジョウト合同リーグの本格始動の記念式典を兼ねているので、東西南北からかなりの数の人間がカントーの海の玄関に集っていた。
其処には当然、各地方のチャンピオン達も居た。
壮行会の後の船上パーティー会場。屋外テラスの端にある寂れた喫煙所。その一角に柄の悪い一団が集結していた。
片手に煙草、もう片手に酒瓶を持ち一様にヤンキー座りをして話に華を咲かせる野郎三匹と其処からやや離れた場所で関係者に笑顔を振り撒く女郎が一匹。計四匹の集団だった。
「話は大体理解出来たが、お前が繊細な人間だと言う事が先ず信じられん」
「酷いなそれは。これでもガラスのハートで耐久値は2しか無いんだよ?」
ドラゴン使い特有のマントと装束が特徴的な焔色をしたツンツン頭の背の高い男。合同リーグのチャンピオンであるワタルが辛辣な言葉を吐いた。二人はダイゴがチャンプをやっていた時からの縁がある。
色々とあったダイゴとシロナの事情を掻い摘んで聞いたが故の反応ではあるが、当のダイゴは苦笑するだけに留まった。その冗談とも本気とも付かない言葉にお前はヌケニンかと言いたくなったワタルだが、それを言ったら負けな気がして思い止まった。
「まあ、私としてはシロナと復縁してくれて良かったと思っているよ。実際、以前よりもYouの笑い方は自然になった」
「いや、君にも迷惑掛けたよね。腹割って話せる男友達が僕に居て感謝感激だよ」
ミクリ自身としても思う事は多いが、それでも二人が丸く収まったのならばそれ以上何かを言う気は無い。今になってだがそんな彼の心遣いが有難いダイゴは心からの礼を込めてミクリに頭を下げる。
「まあ、自称親友だからな。これ位は朝飯前だ」
「何時か借りは返すよ。だからこれからも宜しく頼むよミクリ」
実際、貧乏籤を引いたとミクリは思っていたが、こうやってダイゴがまともな状態に戻ってくれたのならば世話を焼いた甲斐があったと言うものだ。それに恩を着せる事はしないがそれでもダイゴはミクリを一番の親友だと思っている。
ミクリにはそれだけで良かった。
「ふふ。今のYouを見ていると、シロナの手腕には驚かされるばかりだ。昔はもっと捻くれていて、素直などとは程遠い存在だったのに」
「言うなよ、昔は。黒歴史だよ」
ダークサイドの影すら見えない今のダイゴは本当に憑き物が落ちた様だった。中高と一緒だったミクリはそれはそれは危ない奴だったダイゴを知っているからこそそう言える。
若気の至りを語られるのは流石に恥だったダイゴは嫌そうな顔でミクリに抗議した。
「シロナって言えばなあ」
「うん? どうしたのワタル」
そのやり取りを横目で眺めていたワタルが突然呟いた。それが気になったダイゴが煙草の煙を吐きながらワタルへと顔を向ける。
「いや、あんな顔も出来るんだって、素直に驚いてるよ。初めて会った時はこう、凛々しい印象を受けたけど、あれを見ろよ」
ワタルが指を指す方向にはシロナが居た。関係者と笑顔で会話をしているシロナ。
シロナがチャンプ就任の時にワタルはカントーリーグのチャンプ代理として彼女と会ったのだが、それから何度かリーグの行事で顔を合わせる度に彼の中の彼女のイメージは固まってしまったらしい。しかし、そうでは無かった事に吃驚している素振りだった。
「何て言うか、ほんとどっかの姫さんって感じがするよ」
あんな素敵な笑顔も出来るのだとワタルは思っていなかったのだ。女は化けるモノだと知った様に遠目にシロナを眺めていた。
「僕のだからね? あげないよ」
「要らないし。お互い一筋なんだろ? 其処迄野暮じゃないさ」
途端、ダイゴが冷ややかな言葉を浴びせ掛ける。悪い虫だと思われては堪らないワタルは煙草に火を点しながらそう答える。実際、それを望んだとしても絶対に上手く行かないとワタルは思っている。その心配は無用だった。
「ああ。文字通り僕の、なんだよな」
「ったく、惚気やがって。大事さが身に沁みたなら、もう放すなよな」
「それに付いては大丈夫。買約済みだし」
こんな場面で惚気られては堪らないワタルはダイゴの顔にやっかみ混じりの煙草の煙を吐き掛けるが、ダイゴには全く効果が無かった。
「へーへー。ってか、お前何で居るんだよ。もうリーグとは無関係だろ」
「シロナの付き添いだよ。後はデボンの代表代理。こっちは親父に代わって貰ったんだけどさ」
もうぽんぽんぱんぱんになりそうだったワタルは或る意味最初に出るであろう質問をダイゴにぶつける。元チャンプではあっても、ミクリにその座を譲ったダイゴが今更会合に呼ばれる事は在り得ないと思ったのだ。
それに対するダイゴの答えはデボンの人間として出席しているとの事。ホウエンリーグの大口スポンサーならばそりゃ呼ばれるだろう。
そして、もう一つがシロナの最後の仕事の付き添いだ。この会合を最後にシロナはシンオウリーグとの縁が完全に切れる。因みに、彼女の後任にはクロツグの息子であるジュンが指名されている。コウキとヒカリは結局それを辞退したので彼にお鉢が回ったのだ。
「継ぐ決心が付いた、と言う事か?」
「いや、その気は全く無いよ。でも、逃げたってどうにもならんから、精々自分のやり方でコネを作って置こうってさ」
態々親の代わりに出席するとは見上げた根性だ。昔のダイゴならばそんな真似は絶対にしないとミクリは思っていた。敢てそうしたと言うのはその覚悟が出来たのかと考えたのだが、それは少しだけ違うらしい。
ダイゴは決心等全くしていない。だが、その可能性もあるので心構えだけはして置きたい。シロナのエスコート序にそうしただけだったのだ。
「下心全開か。ま、ダイゴらしいっちゃらしいか」
「らしいらしくないじゃないさ。只、今はそれで良いって思うんだよね」
ワタルの意見は半分正しい。確かに打算はあるが、ダイゴは只自分の胸の声に正直に行動しただけだ。それは誰かの頭にあるイメージでは無い、紛れも無い本当のダイゴの姿だった。
「シロナとの今後の為にもさ」
「リア充乙」「爆発爆発」
「君らねえ……」
未来の嫁さんの為に自分の人生を拓く。ダイゴは格好良く決めようと思ったが、どうやら二人には臭い台詞にしか聞こえなかったらしい。リア充は死ねと暗に言われた気がしたダイゴは顔を引き攣らせた。
「あらあら、何の算段よ?」
関係者との雑談が終ったのだろう。シロナが煙草とワイングラスを手に持って野郎の群れに混ざって来た。
「別に? パンツはブリーフかトランクスか話していただけだよ」
「ボクサーパンツはどっち?」
取り分け面白い話をしていた訳では無いので、ダイゴは全くしてもいない話をしていたとシロナに言う。それにわざと乗っかったシロナの問いに対して野郎三人は揃って同じ言葉で返した。
「「「トランクス型のブリーフ」」」
正解だ。馬鹿丸出しだが。
「はいはい。お馬鹿な返答有難う。……ダイゴ、シルフの広報さん、呼んでるわよ?」
「ふう……。あの人苦手だけど、行くか。二人の相手を宜しくね」
付き合うのはこれ位にしたシロナはダイゴに持っていた用件を告げると、ダイゴは非常に面倒臭そうな顔をして目当ての人物を目指して歩いて行く。
「はーいはい。行ってらっしゃい」
バトンタッチを受けたシロナはダイゴの背中に一声だけ掛けてそれを見送った。
「んで? 実際何話してたの?」
さて。旦那は居なくなったので、本当の話題に付いてシロナは訊いてみる。ダイゴが居る状態では適当にはぐらかされるのは判っているから、訊くなら今しかなかった。
「Youですよ、You」
「あたし?」
「君が天使だって話さ」
二人は特に隠す気は無いのか、シロナに指を指して言ってやった。
「天使って……やだ! モテ期到来!?」
きゃっ☆ ……小娘宜しく可愛らしいポーズを取るシロナの不気味さは慣れない人間にとっては見ていられない程痛々しい。もう良い歳の筈なのにそんな似合わない仕草をされてワタルもミクリも背筋に寒気が奔ったのが判った。
一応、今年でシロナは24歳で未だ若いが、無理してる感が否めないのはそれはつまり似合わないと言う事なのだろう。
「「いやいやいやダイゴの」」
それを止めさせる為に二人は手をぶんぶんと振ってきっぱりすっぱり言ってやる。お願いですから無理しないで下さい。二人の共通の見解だった。
「ああ。なら、当然ね」
「その自信は何処から?」
途端に通常運転に戻ったシロナは次の瞬間には胸を張ってそう言い切った。その根拠が何なのか訊いてみたかったミクリが尋ねると、またもシロナはきっぱりと言った。
「決まってる。築いて来た絆の重みよ」
「言い切るな。いや、純粋に感心してるよ」
それだけシロナの中で迷いの無い気持ちなのだろう。これだけ自信満々に言えると言うのは余程の事だ。ワタルもそれには驚いた様だった。
「信じてるから、ね」
「ダイゴを?」
強い決意に裏打ちされた言葉。訊かなくて良い筈なのにワタルはつい訊いてしまった。
「ええ。そして、ダイゴを愛してるあたし自身を」
そして、明確な好意の言葉。それを口に出来るだけの深い想いがシロナにはある。ダイゴを愛している己にシロナはきっと誇りを持っているのだろう。
「別に自惚れじゃない。愛されてるって判れば、どんなキツイ境遇でも相手の為に歯を食い縛れる。
だから、あたしはこれからもダイゴを、ダイゴの人生を愛していくのよ。それは結局、半分あたしの人生だからさ」
恋は一過性の病かも知れないが、愛はその熱さや想いを日常的に持ち続けてより強いモノに育む事だ。冷める事はあるだろうが、好きの感情は絶えず燃やさなければならない。
そして、シロナはきっとそうするのだろう。ダイゴと共に歩む限りはずっと。
「「・・・」」
ミクリもワタルも互いに顔を見合う。そして思っている事は同じだと直ぐに判った。
あのダイゴが石以上に愛している女だ。どれ程のモノかと思っていたが、確かにこれはダイゴでなくとも惚れてしまうだろう。こいつは極上だ。
「天使……否。そんなレベルじゃないな」
「こう言うのはきっと女神って言うんだろうな」
ダイゴの女を見る目は確かだったのだ。今迄は色々と不遇だったのだろうが、これ程の良い女の心を掴むと言うのはそのマイナスを補って余りある。その自信と愛に満ちた横顔は本当に綺麗でドギマギさせられる。
考えてはいけないのだろうが、ほんの少し……否、かなりダイゴが羨ましい二人だった。
「もう! さっきから何!? やっかむ位ならアンタ達も相手探して付き合えば良いでしょうに!」
どうやら二人の呟きは本人にとってはからかい半分の言葉に聞こえた様だ。羨ましいのだったらさっさと女を作れとシロナは声高に叫んだ。
「……俺、もう今年で25だ。考えた方が良いかもな」
「私も24。しかしそれは……むう」
二人にはその言葉は耳に痛かったらしい。本当にそろそろ真剣に相手を探す冪かと考えるワタル。そして、相手は居るが今以上の関係に踏み込めないミクリ。二人の表情はズンと重たかった。
「うわ、やだ。あたしとタメ? こっちに寄んないで。自分の歳を認識しちゃうから」
「何だそりゃ」
「女は何時までも若々しくありたいと願うからって事で」
ミクリの年齢を聞いたシロナはミクリを手で追っ払う仕草をする。
クリスマスを過ぎれば売れ残りと言うのは古い考えかも知れないが、案外シロナも自分の年齢に付いては気にしているのだろう。同じ年齢ってだけでこの扱いとは、ミクリは納得が行かなかった。
「ミクリ、そうだったのか? いや、噂では三十路と聞いたが」
「それは別の私だ! と言うか、そんな事を此処で言うな!」
年齢に驚いたのはワタルも一緒。聞いた話で34歳と言うのがミクリの年齢だと思っていたのだ。しかし、噂は噂であってアニメのミクリさんとは別人なのでこのミクリは二十台半ばで間違いは無い。それに踊らされているワタルに怒った様にミクリは叫んだ。
「君等も未だ若いだろ? 捨てたもんじゃないよ」
ダイゴが帰還した。歳の話に付いて途中から聞いていたのだろう。何の問題も無い様に話に加わって来る。
「あら、お帰りなさい。もう良いの?」
「適当にハッタリかまして逃げたよ。それよりも」
「「?」」
何と無くダイゴの顔には疲れが見えたので心配そうにシロナが訊くと、どうやら苦手と言うだけあってトンズラしてきた様だ。
ダイゴは二人の顔をじっと見詰めると何かを語ろうとする。その内容が気になった二人は少しだけ警戒する。
「ミクリ、ナギとはどうなったのさ」
「え、あー……」
「女居るのかよ。どうせ俺は気侭な独り身さね」
ミクリはヒワマキのリーダーであるナギと昵懇である。しかし、二年前にチャンプ就任のオファーを断った辺りから拗れて冷戦中だったらしい。今はもうダイゴ達と同じく縁りを戻したがミクリは言わなければならない言葉を胸に溜めている様だった。
そんなミクリもまたリア充だった事を知ったワタルがケッと吐き捨てる。悔し紛れか煙草のフィルターを吸うもその姿は格好悪かった。
「ワタル。イブキさんを無視しちゃいけないよ。相当君にお熱って話じゃない?」
「ぶっ! ごほっ、ごほっ……! な、何だと!? 何処からそんな……!」
「デボンの情報網を嘗めないでね」
そして、ワタルもまたダイゴの言葉にやられて途端に咳き込む。
フスベのリーダーで自分の従兄妹。何と無くワタル本人もそう思いながら確証が持てなかった事をずばり言ってきたダイゴに涙目の視線を向ける。
一体どんな筋の情報なのか聞くのが怖かったが、ダイゴはそう言っただけでソースは開示しなかった。
「あたしはもうポストツワブキ=シロナが内定してるから、心配無いのよね〜♪」
勝ち誇る様にシロナは大きなお胸を揺らすと、ダイゴの腕にぎゅっとしがみ付いた。どうだ参ったか。そう言いたそうにシロナの顔は笑っていた。
「勝ち組かよ、畜生。……良く考えれば、金無視しても優良物件だよな」
「僻むなワタル。余計にみっともない」
そのシロナの笑顔がどうにもうざったく思えて再びワタルが吐き捨てる。それを見たミクリは煙草のボックスの封を切りながら冷静にそう促すがその顔は少し羨ましそうだった。
……冷静に考えればそうなのだ。
普段変な方向……取り分け、石方面に向きたがるダイゴの情熱。若しそれが仕事や恋愛等の真っ当なベクトルに向けは、それだけで彼の存在は際立つ。それ程の破格のスペックをダイゴは持っているのだ。
それを持続させるのは骨が折れるだろうが、シロナならばそれが可能。心に壁を持つダイゴがそれを破って迄求めた女だ。その言葉を大事にしない訳が無い。
その深い愛と一途さ故に並の男ならば、その束縛と責任に重みを感じ逃げてたくもなるだろうが、一度愛すると決めた以上、ダイゴがその決定を曲げるとも思えない。
シロナだってそんな彼を愛しているから、気持ちが折れる事は無かったのだ。
柔軟性と硬さの両立は難しいが、二人揃っているのなら、その道は折れず弛まずに何所迄も真っ直ぐに続いて往く。……きっと、そうなのだろう。
「え〜? だから、僕は婿養子希望なんだってば」
「難しいわね〜。お義父さんには息子の嫁に来てくれって言われてるし」
「「はあああ」」
……周囲には馬鹿ップルにしか見えないのが難点だが。
ワタルもミクリもその点では一致しているらしい。二人を見ながら大仰に溜め息を吐いた。
――アサギシティ
船が最初の寄港地に到着する。此処で船に呼ばれた人間の大半は降りてしまう。ワタルとミクリがそうだ。タラップへと降りる階段を前に二人はダイゴ達に別れを告げた。
「じゃ、俺は此処でな。フスベに寄らないといけないし」
「ミクリもかい?」
「ええ。ポケスロン管理事務所に用事がね」
「判ったわ。それじゃ、また近い裡にね」
ダイゴとシロナはこのまま次の寄港地であるミナモ迄優雅な船旅を楽しむ予定だ。人数が減ってしまうのは寂しいが、お互いに用事を抱えているなら仕方が無い。
ダイゴの家の近場に住んでいるミクリとはこれから会う事もあるだろうが、トージョウ圏が縄張りのワタルに次に何時会えるかは判らない。まあ、それは神の采配に委ねる冪だろう。
そうして、四人は顔を見合わせると同じタイミングで同じ台詞を口走る。
「「「「お疲れさーん」」」」
全ては流れのままに。また、きっと会える。皆それを信じていた。
――サントアンヌ号 船首甲板 展望デッキ
波に揺られてどんぶらこ。水平線に僅かに見える陸地を眺めながら、人影が疎らなデッキでゆっくりと酒を味わう。ラウンジから持って来たブランデー。強い度数のアルコールが食道を焼いて胃袋に落ちて行く。
「僕って、ほんと運が良いのかもな」
「何よ突然」
潮騒に乗ったキャモメの鳴き声。普通なら喧しいそれも今は何故か心地良く感じられる。まったりとした空気に浸りながらダイゴが零した台詞にシロナは酒を啜りつつ横目でその顔を見た。
「君みたいなひとに巡り合えた事だよ」
「ひょっとして酔ってる?」
何やら恥かしい事を言っている旦那様に嫁さんはそうに違いないと思い、半分呆れた口調で聞き返す。今日一日でかなりの酒をお互いに消費している。少なくともシロナは少しだけ酔っ払っている。
「いや、素面だよ。周りの人達の話し聞いてるとさ」
「ふ、ふーん」
だが、ダイゴは未だ酒量を越えてはいないらしい。じっと海を見詰めるその横顔はやっぱり格好良い。それに見惚れそうになったシロナは視線を外すと、気乗りしない言葉を吐いて強がって見せる。
「……あんま、感心無さそうだね」
「無いわよ。……だって、貴方がもう既にあたしの王子様だからさ//////」
周りがダイゴに何を吹き込んだのかは興味が無い。なのに、そんな残念そうな顔をしてくるのは反則だろう。
あー、可愛いなあ畜生。そんな事を思いながら、シロナは赤くなりながらダイゴに思っている事を告げると、自分の身体をダイゴに預けて寄り掛かる。
「なっ……//////」
身体に掛かるシロナの重み。紡がれた言葉とシロナの見せる女としての表情にダイゴは真っ赤になって慌てる。そいつが大誤算だったダイゴは吹き付ける海風で頭を冷やす事にする。
Coolに……否、Koolになれツワブキ=ダイゴ。心でそう呟きながら心頭滅却する事十数秒。何とかダイゴはクールダウン出来た。
「前から思ってたけど……それは、素でやってる訳じゃないよね?」
「……ゴメン。素なのよね、残念ながら」
どうしても訊かねばならない疑問をダイゴはぶつける。前もそんな事をシロナは口走ったが、その時は冗談だと思い軽口で返した。だが、それも二度目ともなると流石に無視出来ない。
それに対するシロナの答えは演技抜きにマジと言う事だった。シロナ本人とはしてはそれを言う事に抵抗は存在しない。
だから、その辺りの女心を少しは考えて欲しくて触れ合う身体の面積を増やす様に密着する。煙草の臭いと一緒に、シロナ特有の甘い良い匂いがした。
「やっぱり、天使なのかな、うん」
「あー、もう! 連呼されると恥かしいから止めてよもう!」
ダイゴにしてももう掛ける言葉は殆ど無い。それだけ言って、シロナの頭を優しく撫でながら一生大事にしようと強く思ったダイゴだった。
しかし、シロナとしては自分で言うなら未だしも逆に言われる事は恥かしいらしい。照れ隠しの様に叫んでみるが、頭を撫で撫でされている状態では威圧感もへったくれもあったモノでは無かった。
ボーっと船が汽笛を鳴らす。ミナモに着く迄は後数時間以上掛かる。その間、二人の醸し出す桃色の空気は途切れる事が無かった。
――ミナモシティ 民宿ミナモ
一連を話し終えたハルカにユウキはもう砂糖を食って胃もたれした様な顔で焼酎のグラスを呷る。
「……只の惚気話かよ、糞」
「うん。あたしもそう思ったわ途中で」
――ぐびっ。
ハルカとしても同じ思いだった。だから同じくビールのコップを一息に呷り、ゲップを吐きながら二人揃ってこう思った。
『ご馳走様』
そして……