プチッ…プチッ…
芳醇に実った青い木の実をもぎ取るピンク色…それにクリーム色の手袋をはめたような小さな手。
「これは今日の晩ゴハン…こっちは明日の朝ゴハン。」
クリーム色…それにピンクのカーディガンを羽織ったようなそのポケモンは、青い大きな目を細めてにっこりと笑う。
日も傾き、ちょうどあたりががオレンジ色に染まるころだった…
突然、そのピンクのポケモンを囲むように草地が真っ赤に燃え上がる。
燃えるような夕日が見せる景色とは異なり、肌に感じるその熱量…草木の焼けるにおい…
「これでランプラーになれるな。」
声の先には、ひとりの人間と青い炎をともした大きなロウソクのようなポケモンの姿があった。
ピンクのポケモンはその場にペタリと座り込む…
その大きな瞳に涙を浮かべて…一人と一匹をじっと見つめるだけであった…
「耳をふさいでっ! ギュッとっ! 早くっ!」
ゴゥゴゥと猛る炎、パチパチと草木が燃える音に混じって、そんな声がかすかに聞こえた…ような気がした。
「もうだめだ…」という絶望感のなか、そのピンクのポケモンは大きな耳を抑えて塞ぎこんだ………
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………
………
………
ぽんぽんっと何かが頭に触れる。
そっと顔をあげると、ゆらゆらゆれる灰色の尻尾が目の前にあった。
「今のうちに逃げようっ。」
何が起こったかはっきりとしない…けど…
「あの…助け…てくれて…あ…あ…りがとうございます…」
「いいから急いでっ! あのコたちが目を覚ます前に安全なところに…」
灰色の尻尾の持ち主に連れられて、焼けた草地を後にする………
………
………
………
大きな耳と大きな尻尾を持つ灰色のポケモンに連れられて、着いた先は一軒の人間の家…?
といっても家そのものにあがりこむわけではなく、背の高い壁によって区切られた庭の内部に侵入した…
開いている門の正面から…堂々と…
「あっ…チラーミィちゃん帰ってきたの………お友達も一緒……?」
先刻人間のポケモンに襲われた恐怖がよみがえる…
「キミって…タブンネ…だよ…ね? …身体が真っ黒になってるけどどうしたの?」
逃げ出そうにも足が動かない…
「可愛いピンクのお洋服が台無しだね…ちょっと冷たいけど我慢してくれるかな?」
そう言って、その人間はみずでっぽうを放った。
冷たい………、怖い………
「ちょっと待っててね…」
放水を終えた人間は家の中に引っ込む。
寒い………、怖い………
俯いて小さくなったまま何も出来ないでいると不意に…
「じっとしててね。」
優しい感触に全身を包まれた。
身体の表面に滴る水分が吸い取られていくのがわかる。
自身の震える身体から伝わったのか…その人間はこう言った…
「何か怖い目にあったの…かな? …でも此処は私の家のお庭だから…安心だよ…」
「…ねっ…チラーミィ。」
灰色のポケモンにウインクを送ってその人間は言葉を続けた…
「…また、お庭がにぎやかになるね…」
………
………
………
「っ…こ…こんにちは………、タブンネ…です…」
昨晩は軒先を借りた…、家の中にあがるようにとすすめてもらったけど…
玄関先以上は足がすくんで、ドアより内側には立ち入れなかった…
そのような状況にあってこの家の人間は使い古した毛布を一枚与えてくれた。
「タブンネちゃんかぁ…可愛いなぁ…」
新しくこの庭の住人になった…ことになっているらしく…
先の住人のみんなの前で簡単な自己紹介をする…
昨日助けてくれたポケモン…チラーミィがみんなに事情を話してくれていたみたいで、
「大変だったらしいけど、元気だしなよ」というような励ましの言葉をみんなからもらった。
「そういうことで…タブンネちゃんは、しばらくはボクと一緒に行動しますっ!」
「えっ…そうなの?」
突然のチラーミィの宣言は本当はすごくうれしかった…
「よろしくねっ!」
チラーミィがパチリと片目を閉じて微笑む。
その笑顔にドキッと…胸が大きく弾んだのがわかった…
………ぐぅぅぅぅぅ…
「あっ…」
安心したのか何なのか…このタイミングで空腹感が襲ってくるなんて…
「ハイっ!これどうぞっ」
チラーミィが差し出した手にはふたつの青い木の実が…
思い出した…オレンの実…昨日食べれなかったんだ…
「朝一番で採ってきたんだよ。今日の朝ゴハンって決めてたんでしょ?」
チラーミィ…聞いてたんだ…
そんなところから知られていたと思うと急に顔が熱くなって…
大きく弾んだ胸の奥…そこに何かがつっかえるような不思議な感覚…
次第に呼吸が苦しくなって、そのまま地面に塞ぎこんだ………
………
………
………
優しい感触が頬に触れる…
「気がついた?」
ゆっくりと開いた目に心配そうなチラーミィの顔が映る。
「大丈夫?」
気がつくと木陰に横たわっていた。
チラーミィはぷにぷにとした小さな手で頬を撫で、それと同時にふわふわの尻尾で胸をさすってくれる。
「まだ疲れてるんじゃないかな?…しばらくはゆっくり休んで…」
無言でうなづくと、チラーミィは優しく頬を撫で続けてくれた。
チラーミィの大きな目をじっと見つめる………
……不意に目が合う……
不自然に視線をそらせる……
チラーミィはにこりと微笑み、知らない顔をしてくれた。
どうしよう…また胸がドキドキしてくる…
…以前草原の仲間に聞いたんだ…
チラーミィってポケモンはメロメロボディの特性を持っていて…
異性を惹きつける効果があるんだっ…たかな?
これがメロメロボディの効果なのかな…?
…ぼーっとしながらそんなことを思い出しているうちに、またまぶたが重くなる…
チラーミィの優しい手つきに誘われるようにそのまま眠りの世界に………
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「あの仔はどうしたの?」
「あの仔って…?」
「ほら…昨日君が連れてきた…」
「あっ…タブンネだね…?」
庭の住人であるドッコラーがボクに尋ねる。
「トレーナーに襲われてたから…」
「…そっかぁ…大変だったんだね。」
ドッコラーは「うんうん」とうなづきながら言葉をつなぐ…
「タブンネちゃん…あんなに可愛いのになぁ…」
「可愛いから狙われちゃうのかもねっ。」
ボクは落ち込んだ空気を払拭するためにニヤリとした笑みを浮かべてそういった。
「イヤイヤイヤイヤ…チラーミィちゃんのほうが可愛い…イヤ…でも…タブンネちゃんも新鮮で…」
「ふーん…そうなんだ…」
ドッコラーもボクの冗談を理解してくれたみたいで…
「チラーミィちゃん最近冷たいからなぁ…お庭の新しいアイドルはタブンネちゃんに期待しちゃおっかなぁ…」
「なにそれひどいっ。」
ちょっとだけ頬を膨らまして言ってみる。
「ウソウソ…オレはチラーミィちゃん一筋だからね。」
「どっちにしてもボクは格闘ポケモンには興味ないからっ!」
「なにそれひどい。」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
「それじゃ、あの仔の朝ごはんを採りに行って来るねっ。」
「はいはい、気をつけてね。」
ボクは尻尾を振って別れを告げる………
…その後…振り返って、
「ドッコラーっ!………ありがとうっ!」
彼はこちらを振り返らずに、ただボクによく見えるようまっすぐに伸ばした右手の親指を立てた。
…オレンの実はボクも好きだから、少し多めにもって帰ろう…
気が向いたらドッコラーにも分けてあげよう…
そんなことを考えながら木の元へ向かう。
昨日のトレーナーが居ないか警戒しながら草地を分けて進む。
タブンネを逃す失敗をしたばかりで、昨日の今日で同じ場所に舞い戻ってくるほど、あの人間は馬鹿ではかったのか、
ボクの心配ごとは杞憂に終わる。
ちょうどその草地に住むポケモンがオレンの実をつぎつぎに収穫していく姿がみえた。
「そういえば…あの仔には群れの仲間はいなかったのかな…」
「また時間を置いて聞いてみよう…それまでは、ボクがあの仔と一緒に居ようっ…」
現地のポケモンに混じり、オレンの実を数個もぎ取り、ボクは足早にもと来た道を引き返した。
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「食べる?」
目を覚ましたのは太陽が空高くのぼりきった後の時間だった…
「ありがとうございます。」
チラーミィから手渡されたオレンの実をひとくちかじる。
程よい酸味が口に広がり、重い頭がすっきりとするような気がした。
「お昼ごはんになっちゃったねっ」
チラーミィが笑いながらそう言った。
…もうお昼なの?
「あの…ゴメンナサイ、チラーミィさんがせっかく朝ごはんに用意してくれてたのに…」
「えっ?…いやっ…別にそんなつもりで言ったわけじゃっ…」
チラーミィが頭をかきながら申し訳なさそうな顔をする。
ふたりの間に一瞬の静寂が訪れる…
…とはいってもほんの些細なことで、すぐにチラーミィが口を開いてこう言った。
「あのねっ…チラーミィ さん っていうのはやめてもらえる?何かくすぐったくなっちゃうっ」
「え…でも…」
「チラーミィって呼び捨ててもらったほうがいいなっ!」
「え…と…」
「じゃあボクはキミのこと馴れ馴れしくタブンネちゃんってよぶからっ…いいよねっ?タブンネちゃん?」
急な提案にどう返していいのか…
「じゃ…じゃあ僕もあなたのこ…と、チ…チラーミィちゃんって呼びまっ…すっ…」
「いいよっ?…いつもみんなからそう呼ばれてるし、そっちのほうが慣れてるからねっ」
自分でも何を言ってるのかちょっとわからなかった。
でも、チラーミィは快い返事を返してくれた。
「よろしくねっ!タブンネちゃんっ」
「…こちらこそ…よろしくお願いします…チラーミィ…ちゃん…」
このときは気恥ずかしさでいっぱいで、チラーミィの目を見ないようにワザと視線をそらしてそう答えた。
………
………
………
「できたできた…」
「タブンネちゃんおいでー!」
遠くで人間の呼び声が聞こえた…
僕はチラーミィに引っ張られ、その声の元に向かう。
「来た来た…あのね、君がお家にあがろうとしないから…これ作ったよ。」
昨日まで庭の大きな木の根元にあったはずのベンチが軒先に移動していた。
さらにその上には…
「これね、古いマットを敷き詰めてベッドみたいにしてみたんだよ。」
その人は目の前でベンチのベッドに横たわる…
「うーんと…意外と寝心地よさそう?」
「タブンネちゃん良かったら使ってみてね。」
そう言ってベッドから立ち上がり…
「本当はもっとお姫様のベッドみたいにしてあげたいなぁ…」
彼女は口を閉じてフフフと笑って、家のドアを開けた。
「いいなぁタブンネちゃん…」
遠くでチラーミィの呟きが聞こえたようだった…まさに心此処にあらずという状態で…そのままベッドにうつぶせに倒れこむ。
「バフン…」という乾いた空気が押し出される音…
目を閉じるとまたそのまま眠りの世界に誘われるようだった。
「ホント…よく眠れそうだよねっ」
チラーミィがベッドに腰掛けたのを横目でとらえ、身体を起こしてその隣に座る。
「これ…使わせてもらってもいいのでしょうか…?」
「いいんじゃない?…だって、タブンネちゃんのために作ってくれたみたいだよっ」
「うん…でも…何か特別扱いしてもらってるみたいで…」
新参者の僕がこんなによくしてもらってもいいのかな…?
うれしい半面、心の奥に罪悪感が芽生え、素直に受け入れることが出来なかった。
「…気にしないでいいのになぁ…」
「…あっ!じゃあボクもこのベッド使わせてもらうねっ?」
「え?…ええ!?」
チラーミィの突飛な発言には毎回驚かされる。
「いいじゃない、タブンネちゃんひとりには大きすぎるし………」
「………それに…一緒に居れば…安心できるでしょ?」
確かにそのとおりだった…でも…
「返事がないのは了解の合図だね?じゃあ今夜から一緒に寝ようねっ、タブンネちゃん。」
いいのかな…、こんな可愛い♀の仔とひとつのベッドで一緒に眠るの…?
僕はチラーミィとなるべく目を合わせないように、俯いたまま頭を縦に二回振った。
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その日は夜が来るのが待ちどおしかった。
日が傾き、ベンチのベッドにふたり並んでそれぞれに残っていたオレンの実を齧る。
もともとおしゃべりではないらしいタブンネだけど、日が落ちるにつれ口数が少なくなっていくのがわかった。
…理由はわかるんだけどね…ボクもちょっと軽率な発言しちゃったかなぁ…
実際は昨日出会ったばかりなのに、同じベッドで一緒に眠ろうなんて…
普通の野生のポケモンは警戒するよね…?
ボクはこのお庭で生まれ育ったみたいなもんだから、もうトレーナーポケモンと同じ感覚になってるのかなぁ…
でも、誰かと一緒に眠ることなんて滅多にないから…ホントはちょっと楽しみなんだけど…
そんなことを考えながら、タブンネの顔色をうかがう…
タブンネはまるでピンクの部分が拡がってきたかのように、頬をほんのりとした薄紅色に染めていた。
「可愛い…」
不意に気持ちが言葉になって飛び出した。
本当に小さなつぶやき程度だったからばれてないよね…
そうは思うけど、ボクはその場を取り繕うためこう言った。
「ちょっと明日の朝ごはんを採ってくるねっ。」
そのままタブンネの返事も聞かずにベッドから立ち上がり庭を飛び出した。
………タブンネっていくつぐらいなんだろう…?
ボクよりも年上なのかなぁ?
身体の大きさはボクの倍ぐらいあるけど…見た目、話した印象からするとボクと同じぐらいなんだけどなぁ…
でも…もしタブンネがボクより年上だったら…?
…どうしよう…年上の♀なんて、あまり接したことがないから…
…お庭の仲間のレパルダスさんはボクよりずっと大人だし……でもおばさんって言うと怒るけど…
今まで閉鎖空間で育ってきたせいか…へんな苦手意識があることに初めて気づく。
結局、庭の周りを何週かしただけで、何も収穫しないで帰ってきた。
「何かね、ポケモンがいっぱいでね、木の実採れなかったんだ…ゴメンネ。」
こんなウソをついたボクに対し、タブンネはにこりと笑って迎えてくれた。
「おかえりなさい。」
ボクは恥ずかしくなって…
「ちょっと疲れたから今日はもう寝ちゃうね…オヤスミっ。」
そう言って、ベッドの隅っこで丸くなる。
………
………
………
意外にもすんなりと眠りに入れたみたい…
でも早い時間に床についてしまったからかなぁ?
月明かりと軒先の電灯の光の下、目を覚ました。
あっ…タブンネは…?
身体を起こそうと手を伸ばすが、不思議な浮遊感に阻まれる。
なんとか身体を翻すとボクの目に、大きく見開いた青い瞳が飛び込んだ。
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………
………
………
チラーミィは帰ってきたと思ったら、本当にすぐ寝ちゃったみたい。
ほっとしたけど少し残念だった。
安堵の気持ちが強かったのか、チラーミィの後を追うように僕も眠ってしまっていた。
でもこの眠りを持続させるのは難しかった…昨日からずっと眠ってばかりいる。
「寝顔…可愛い…」
チラーミィが無防備な寝姿を見せてくれる。
警戒心がないのかな?
半野生のようなこの庭での生活に慣れてしまうと僕もきっとこうなるんだろう。
現に昨日ずっと眠ってしまっていたことを思い出す。
「でも…それでもいいかな…」
チラーミィの寝姿を見て、ため息交じりの声をあげ、そして無意識のまま、眠るチラーミィの頬を撫でていた。
「あ…ごめんなさい…」
ふと我に返り謝罪の言葉を発するも、チラーミィは夢の中…
…だけど…可愛い寝姿と反比例するかのようにチラーミィは寝てる間もよく動く…
たしかベッドの隅っこで寝てたはずなのに…
このままではいつかベッドから落下してしまう…そう思うと本当に不安だった。
だからといって、この幸せそうな寝顔を前に、起こしてしまうのは忍びない。
そんな中にあって、ボクがこの結論に至ったのは当然の結果だった…
…眠るチラーミィをそっと抱きかかえた。
間近で見る他者の身体…僕は自然と観察者の目を持つポケモンになる…
ふわふわとした細かく柔らかい毛に特徴的な大きな耳。
今はぴったり閉じてはいるが吸い込まれるような魅力的な大きな瞳を持っている。
スースーと寝息を立てる小さな鼻、つぶらな口…
小動物ポケモンの可愛らしさをすべて詰め込んだようなその造形美に僕は目を奪われる。
その甘美な愛らしさに陶酔する僕の手の内で、柔らかな毛が大きく震えた。
「起こしちゃったかな…」
僕は息を呑んで目を見開いた…
身体を反転させたチラーミィはその大きな瞳で僕の顔を見上げる。
「あ…あ…っと…」
起こしちゃったこと謝らなくちゃ…
そう思った瞬間チラーミィが叫んだ…
「離してっ!」
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………
不思議な浮遊感の正体はタブンネだった。
タブンネに優しく抱きかかえられていた安堵感と心地ちよさは言い表せない。
このまま甘えちゃおうかなぁ…そう思った瞬間だった…
「離してっ!」
ボクはタブンネの手を振り払い、一目散に駆け出した。
タブンネの目の届かないところまで…
「危なかった…」
その理由は♂特有の生理現象…
朝起きたときにおちんちんが大きくなっちゃう…
まだ夜なのに…そういう融通は利かないみたい…
普段は毛の中に隠れてるためよく見ないとわかりにくいボクのおちんちんも、この時ばかりは簡単に目視することができる。
タブンネにはあまり見てもらいたくないモノだったから…
「でも、タブンネになんて言い訳しよう…?」
あまりにも不自然に飛び出してきたため、次に顔を合わせるときどう言えばいいのか…答えはまったくでないまま…
でもあまり長い時間を空けちゃうと、かえって心配させちゃうよね?
「よし…戻ろうっ。」
もしも名案が浮かばなかったら正直に話そう…
ボクは自分に言い聞かせるように大きくうなづいて、タブンネの元に向かう…
………
タブンネは今にも泣きだしそうな顔でベンチにひとり座っていた。
「タブンネちゃん…ただいま…?」
そんなタブンネを目の当たりにして…ボクが何とか発した言葉は、まったく空気の読めないセリフだった。
でも次の瞬間、タブンネはボクを抱き寄せいつになく速い口調でこう言った。
「…ゴメンナサイ…ゴメンナサイ…も…う…帰ってきてくれないか…と…思いました…」
タブンネはそのまま言葉を続ける…
「…ただチラーミィさんがベッドから落ちそうな気がして…」
それで抱きかかえてくれてたんだ…?
「でも可愛いな…って思ってたのは事実です………でも抱っこした以上は何もしてない…です…」
変な誤解を与えちゃったみたいだ…
震える身体からタブンネの気持ちが伝わってきた…やっぱりホントのことを話さないといけない…
「…ボクのほうこそゴメンナサイ…タブンネさんが悪いんじゃなくて…その…」
………
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………
………
「チラーミィさんって♂の仔だったんですか!?」
気持ちが落ち着かない状態に突然の告白…すぐにはいそうですかというわけにはいかなかった…
「…ちょっと見せてもらっていいですか?」
割と大胆なことを平然と言ったことに気がついたのは後の話だった。
チラーミィは軽くうなづくと恥ずかしそうな表情を浮かべ仰向けに寝転がる。
足をそっと広げて自分で毛を掻き分けて…その♂の仔の証を見せてくれた…
「本当についてる…」
チラーミィのその恥ずかしそうで可愛いしぐさに心惹かれ、僕は無意識のうちにチラーミィの♂の仔の証を両手で握りこんでいた…
小さなおちんちんとふにふにしたタマタマは、本当に小動物特有の可愛らしさを表現しているようだった。
「ちょ…ちょっと…」
「あ…ごめんなさい…」
僕はすぐに両手を離す。
チラーミィは頬を真っ赤にして唇を噛締め、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「♀の仔に…見られて…触られちゃうなんて…もう…」
チラーミィが悲痛な声でつぶやいたのを僕は聞き逃さなかった…
………どういうことだろう………?
………
………
もしかして…♀って僕のことかな…?
…確かに…さっき、僕の手を振り払ってどこかに駆けていったのも…♂特有の生理現象を僕に見せたくなかったからだって…
ひょっとしてチラーミィも僕と一緒で勘違いをしてる?
…じゃあ僕もきちんと伝えてあげないとフェアじゃないかな?
「えーとね…実は…ね…僕…もね…同じの…が…ね…ついて…いるん…です…」
恥ずかしさから本当に不自然な言い方をしちゃったと思う。
そしてチラーミィからは当然の答えが…
………
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………
………
「タブンネさんが♂の仔っ!?」
信じられない…、ボクに気遣って言ってくれてるのかな…
でもこの目で確認しないことには…よし…
「じゃあ…見せてもらってもいいかなぁ?」
何か意地悪なことを言っちゃった気がする…、でもさっきボクも見せてあげたしいいよね………?
そんなことを考えているとタブンネは一度だけ頭を縦に振り、足を大きく開いてぺたりと座り込む。
そしてさっきボクがしたように自分でその部分の毛を掻き分けて…
「あっ…」
タブンネのそこにもボクと同じ♂の仔の証がついていた…
食い入るように見つめるボクに、タブンネは…
「あの…そんなにじっと見ないでください…」
そう言って足を閉じて座りなおした。
………
少しの沈黙の後…
ふたりは顔を見合わせて吹き出す。
「フフフ…」
「クス…クス…」
「結局♂の仔同士だったんですね…」
タブンネの言葉には恥じらいよりも安堵の気持ちがこめられていることがよくわかった。
「そうだね…」
ボクもタブンネと一緒の気持ちだった…
「んーっと…タブンネさん?…タブンネくん?…タブンネちゃん…うん?」
「…チラーミィさん…?」
「いやぁ…やっぱりタブンネちゃんがイチバン似合ってるかなぁと思って…」
「そういえば…チラーミィちゃんって呼ばないといけなかったですね…」
「そうだよっ!あと改まった口調もやめてねっ?…あっ」
そう言ってボクは口を手でふさいだ…自分のことを棚にあげて…とはこのことだった。
ボクもさっきまで緊張のあまりタブンネにつられて改まった口調を使っていたことを思い出す。
そんな自分をごまかすようにボクは言葉を重ねた…
「タブンネちゃん…決めたっ!ボクこれからもキミのことそう呼ぶからね…」
「じゃあ僕もチラーミィちゃんって呼びま…あっ…、呼ぶから…ね。」
途中から口調を訂正したタブンネには触れないように、ボクはあどけて見せた。
「ありがとうっ…でもおちんちんついてるけどねっ。」
先ほどの行為を思い出したのか、タブンネは頬を紅潮させてこう言った。
「僕もついてるから…」
そしてニコリと微笑む。
…可愛い…
その笑顔に重ねるようにさっきの光景を思い出す…
タブンネのおなかの下にあった、あの♂の仔の証…、体格差もあって、ボクのよりは大きかったけど…
もっと集中して見ておけばよかったかなぁ…、今になって残念な気持ちになった…
自分も♂の仔だから同じものがついているはずなのに…、なんでだろう…自分のものとは違ってタブンネは特別な気がした。
「もう一度見たい…」
うん…無意識のうちに口走った言葉を実現するためにボクは無茶なことを言い出した。
「ねぇタブンネちゃん…さっきのね…続きなんだけどね…」
「続きって…?」
「さっき、タブンネちゃんはボクのおちんちん触った…でしょ?」
「ボクは触らせてもらってないんだけどなぁ…」
「…え…え……」
タブンネの顔のピンクの部分がさらに広範囲に拡がった。
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「タブンネちゃんのおちんちん触りたいっ」
…チラーミィの言ってることを端的に解釈するとこうなる…
無意識とはいえ、さっき僕もしっかりチラーミィのを触ってしまった。
それでも♂の仔同士で触りあう必要はあるのかな…?
「チラーミィちゃんも♂の仔じゃない…?」
「タブンネちゃんのがいいのっ!」
なるほど…
さっき僕もチラーミィのおちんちんを触っていて感じた。
普段見慣れている自分のものからは、一度も感じたことのない感情…
なぜかチラーミィのそこは愛らしく、いつまでも触れていたいと思った。
どうせならもう一度…
「ちょっと恥ずかしいけどね…いいよ…でもせっかくだからね…」
そう言って僕はその場に仰向けになり上半身だけ起こした。
「僕のほうが大きいからね…チラーミィちゃんは僕の上に乗って…」
言うと同時にチラーミィを抱きかかえる。
僕はこんなにずる賢いポケモンだったのかな…?
チラーミィの下腹部にあるぷくっとした部分、僕の下腹部にあるちょっとだけ盛り上がった部分、
そう、ふたりのタマタマとおちんちんが合わさるように、僕の身体の上にチラーミィを降ろす…
僕の身体の一番柔らかい部分からチラーミィの身体で一番柔らかい部分のふわふわとした感触が伝わる。
「柔らかい…」
チラーミィがそう言った。
きっと僕と同じ感触を味わっているに違いない。
僕はそのまま両手でふたりのおちんちんを重ねて握りこむ。
ぷにぷにとした感触を手のひらで感じる…
「タブンネちゃんずるいっ」
「え…」
「今度はボクの番だったよね?」
そういえば…
僕の返事を待たずに、チラーミィは小さな左手に自身のおちんちんを、右手に僕のおちんちんを…。
さらにチラーミィは右手の二本の指だけを小刻みに動かす。
「ぷるぷるぷるぷるんっ」
チラーミィがうれしそうに恥ずかしい擬音を発する…
「タブンネちゃんのおちんちん可愛いねっ!」
チラーミィのほうが可愛いと思うんだけど…
僕はチラーミィの左手を払いのけ、その可愛いおちんちんに手を伸ばす…
「チラーミィちゃんのも可愛いから…、ぷるぷるしてあげる。」
そう言って僕は指先でチラーミィのおちんちんをはじいた。
二本並んでぷるぷると震える可愛いおちんちん…その光景にふたりの視線は釘付けになった。
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目の前でぷるぷる揺れるおちんちん…次第に硬度を増し、揺れの幅が狭くなる。
ボクの手の内にあるタブンネのおちんちんは、いつの間にか大きくくっきりとした形状に姿を変えていた。
当然ボクのおちんちんもタブンネの手の中でその形を変化させている。
「次はボクに任せてほしいなっ」
そう言って今度はボクがタブンネの手を払いのける。
自身のおちんちんを左手に、右手にタブンネのおちんちんを掴み、二本のおちんちんを擦り合わせる。
共に分厚い皮に保護されたままのおちんちんは、きゅっと絞った口を先端に構え独特の肌触りを演出する。
ボクはお互いのおちんちんの先っぽを使い、くちゅくちゅとした音を立てながら、交互に刺激を与え続ける。
タマタマの裏からおちんちんの先端までスススーっと撫で上げたり、時には先っぽ同士をくっつけあったり…
ボクは手先の器用さに関してはちょっとだけ自信があった。
こんな形で役に立つとは思ってもなかったけど…
「どうっ?気持ちいい…?」
「…うん…」
タブンネも自分で弄ったことあったのかな…?
ボクはおちんちんを触ると気持ちよくなるって知ってるんだけど…
たまにおしっこの後なんかにむにむにと自分で弄っちゃう…
でも今日はいつもよりずっと気持ちがいいから…
………
いつもよりずっと長い時間おちんちんを弄っている。
ボクひとりだけじゃなくてタブンネのも一緒にだけど…
誰かとおちんちんを合わせることがこんなに気持ちいいって知らなかった…
ボクは少し力をこめて先っぽ同士を押し付ける…
くにゅっとした感触があって…ボクのおちんちんがタブンネのおちんちんの中に吸い込まれたような気がした…
「ああん…」
突然、タブンネが悩ましげな声を上げる…
その声に不意を突かれたボクはおちんちんを握っていた両手を同時に離してしまう。
二本のおちんちんはぷるんと一度だけ大きく揺れた。
「ごめん…痛かった?」
「ううん…ちょっとだけ…」
タブンネ自身もよくわからないような返事をした。
この快感に身を任せてしまうと、いつまでたってもこの行為を終えることができない気がしていた。
そんな中、突然訪れたアクシデントは、転じて好機となりこの行為の終わりを告げた。
「タブンネちゃんっ、ボク、重くない?」
「ううん…だいじょうぶ。」
長い時間乗っていたにもかかわらず、タブンネはまったく動じていなかった…
逆は無理だなぁ…ボクつぶれちゃう…
タブンネはそのまま身体を起こしてベッドに腰掛ける。
そして、抱きかかえたままのボクをひざの上に降ろした。
故意かどうかは問わなかったけど、その際、タブンネの手がボクのおちんちんをぷるぷると揺らした。
「チラーミィちゃんはテクニシャンなんだね…」
「なにそれ?」
「え………ううん…なんでもない、気持ちよかったよ…」
タブンネはボクを抱いたままベッドに横になった…
ボクはタブンネの柔らかい身体に身をゆだねるようにそっと目を閉じる…
………
………
………
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二匹にそんなことがあってから数日後のこと…
「チラーミィちゃんっ…とっ、タブンネちゃんっ。」
ベッドのベンチに腰掛ける二匹と視線を合わせるようにしゃがみこむ一人の人間。
「ちょっとお願いがあるんだけどねー、聞いてくれるかな?」
ポケモン相手に次々と語りかける…
「えっとね…今すぐってわけじゃないんだけどね…」
「秋になったらね、隣町で一人暮らしをするんだけどね…」
「あっ…街の学校に行くことになってね…………」
「そういうわけでさびしいから一緒に来てくれないかなー?なんて思って…」
「でもね、ひと月に一回は此処に帰ってくるしね…」
二匹は止まらない話に少々呆れ顔…でもその顔を見合わせて…
「そういうわけで私のポケモンになってくれない…かな?」
二匹揃ってゆっくりと頭を大きく縦に振った。
「ありがとうっ」
ぎゅーっと二匹はまとめて抱きしめられ…、その後揃って咳き込んだ。
「じゃあ、すぐに出してあげるから、ちょっとだけボールに入ってもらえるかな?」
その人は二匹に一つずつモンスターボールを手渡す。
赤い光と共に二匹はボールの中に吸い込まれ…、次の瞬間には赤い光に導かれ、元いた場所に腰掛けていた。
「これからもよろしくね…、チラーミィちゃん…タブンネちゃん。」
喜びの奥に安堵の表情を浮かべその人は言った。
二匹のポケモンは応じるように鳴き声をあげる。
「お庭のアイドルをふたりとも連れて行ったら、みんなに怒られちゃうかな?………あれ………えっ!?」
新しく二匹の主人となった人間は、モンスターボールを通して図鑑に書き込まれたデータに瞠目する。
「…ふたりとも…オトコノコだったの!?」
此処にもまた勘違いがひとり…
心地よい初夏の風が吹き抜ける庭での出来事であった…
fin.