じり、じり。刺さる光の矢が肌を焦がすかのような熱さ。頭に付いているひらひらの青い飾りを揺らしつつ、私は少しずつ後ずさる。
じり、じり。迫り来るのは頭に特徴的な二本の角……いや、斧を持った大きなドラゴンポケモン。
「あ、あの、えっと」
何もしてない。私は何もしてないのに。こんなところで、こんな歳で、こんな風に死んじゃうのかな。
いつもの住処、年中氷に覆われた山からちょっと下りてみたかった。ちょっと別の世界が見たかった。
氷の側で進化して、氷と共に生きてきた私。だからこそ、木々や土埃に憧れて、いつしかそこへ出かけたいと願うようになって。
その好奇心が今はとても憎たらしかった。もしあの時の私に話しかけられるものなら、全力で止めただろう。
「……あーもう我慢できねえ。悪いけど、思う存分やらせてもらうぜ」
出会うなり私を捕まえようと全力で追ってきた彼。ドラゴンタイプは氷が苦手、と聞いていたのに、まさか向こうから来るなんて。
向こうから向かってくるんだから、きっと何か策があってのこと。氷技を繰り出しもせず、私は一目散に逃げてきた。
それでも、地の利は明らかに向こうにある。結局がけの下まで追い詰められて、いよいよ逃げ場も失った。
やらせてもらう、の言葉が気になった。食べられるのかと思っていたけれど、まさか性的な意味で食べられるのかな。
恐怖で足がすくむ。必死で逃げてきたけれど、もう限界だ。嫌だ、やめて、と涙声でか細く叫ぶ。
しかしそんな抵抗も虚しく、彼は小さくにやつくと、私の身体を抱きかかえてそのまま私の大事なところを抉って……は来なかった。
呆気にとられる私を余所に、ぎゅーっと私を抱き締めて気持ちよさそうな声を出す彼。
「うおおおおお涼しいいいいいいいい! あーもう最っ高! ずっとこうしてたい位だ」
満面の笑みで私に頭をなすりつけてくる目の前のドラゴン。まさか、私を使って涼みたかっただけなのか。
斧を擦りつけられていないだけマシだけれども、それでもなんか無性に腹が立つ。今まで必死に逃げてきた私が馬鹿みたいじゃないか。
今度は怒りに震える私の身体。もちろん涼しさにご満悦な彼は気づいていないみたいだけれど。
「……ならさ、もっと涼しくしてあげる」
静かに、ただ静かに放った吹雪が、彼の足下をかちんこちんに凍らせる。ひっ、と小さく悲鳴を上げるこのドラゴンが、急に小さく、可愛く見えてくる。
よく見ればなかなかの顔。ふーん、案外これは良いチャンスかも。暑いみたいだし親切にしてあげるのも悪くはないかな。
「私を追っかけ回した罰は、とりあえずこれで許してあげる。……で、せっかくだし、もっと別な方法で涼しくならない?」
と言っても、相手にとって私はまさに天敵。しかも足下を凍らされた状態で、いきなりこんな提案をしたところで信じて貰えるはずもない。
ま、其の方が楽しみがいがあるかもね。怖がりながらも溺れていく大きなポケモン。んー、こうやって大きな相手を攻めるのって楽しいな。
「あるいは熱いかもしれないけど、我慢しててね? あっという間じゃつまんないし」
その後、彼がその意味を理解して帰る頃には、寧ろ始まりよりも暑そうにしていたんだとか……。