「うっ…ぐすっ…。ひっく…」  
 
昼さがりのライモンシティ、涼しい風が吹き通るライモンジム近くのベンチで涙を流す少女がいた。  
そしてその隣には、その少女をどうしたものかとあたふたする青い服の少年が、焦った顔で少女をなだめていた。  
 
「め、メイちゃん、そろそろ泣きやんでよ」  
 
「ぐすっ。だって、ひどいよ……せっかくもう少しで本気のサブウェイマスターと戦えるってところまで連勝を重ねたのに、先制の爪絶対零度三縦なんて……うぅぅ」  
 
「……そ、それは気の毒だとは思うけど」  
 
メイと呼ばれた頭にあんぱんを乗っけたような髪型の少女はキョウヘイの胸元に顔をうずめ、悲嘆に暮れていた。  
キョウヘイにはメイの気持ちはよく分かっている。彼は若いがイッシュ地方のジムを制覇し、チャンピオンリーグを勝ち抜いた歴戦のトレーナーだ。  
だが勝ち続ければ勝ち続けるほど、「ここぞ!」という場面で予想にもつかない展開を迎えることは戦いの常である。  
幾度となく勝ち続けたトレーナーも、大事な一戦に限って落としてしまうかもしれないし、下馬評を覆すような世紀の大博打に勝ったトレーナーだからといって、再び同じことができるかというとそうではない。  
メイを慰めているキョウヘイもまた、バトルサブウェイで相性の悪い相手とカチあって連勝を止められたばかりであった。  
 
相手の大爆発でこちらは手持ちを1体失ったものの、流れそのものは順調だった。  
こちらの手持ちは2体。相手は残り1体。追いつめたつもりだったし、負けるとはこれっぽっちも思っていなかった。  
……が、そこからがいけなかった。相手のラストはマッギョ。地面と電気という固有タイプを持つポケモンなのだが、こちらの手持ちはダメージソースが飛行技と怪しい光しかない手負いのクロバット、そして電気技と鋼技のジバコイル。  
結局有効打を与えられず、一方的に攻め切られたというわけだ。  
そういうわけで、死んだコイキングのような目をして地下鉄を出ようとしたキョウヘイなのだが、何の偶然か同じ時分に同じ目をした少女とばったり出くわした。  
その少女はよく見るとキョウヘイ初めてライモンシティを訪れた時にタッグを組んで戦ったトレーナーだったのだから、声をかけずにはいられなかった。  
そして現在に至る……  
 
 
「ひっく、うわあああん」  
 
(ううう…僕だって泣きたいのに、女の子に泣かれちゃってそういうわけにもいかない……)  
 
胸板にメイに頭を押し付けられ、わき腹あたりの服を掴まれているので、逃げるわけにもいかない。  
どんな思い入れがあるのかは知らないがメイはバトルサブウェイの攻略に精を入れており、何度も挑戦しては敗退してきたのだろう。  
それで目標手前で理不尽な敗れ方をすれば、泣きなくなるのも分からなくはない……のだが、ライモンジムの近くには、ピカチュウバルーンや観覧車がある。この時間帯の人通りは少なくないとはいえ、大声で泣かれてはさすがに人目につく。  
実際、通りすがった何人かが奇異の目でふたりを見ていたものだ。  
 
ママーアノオネェチャンナイテルヨー  
シッ、ユビサシチャイケマセン  
ヒューヒュー、オンナノコナカセテルゼ、ヤルナァアノワカイノ  
リアジュウバクハツシロ!  
 
(し、視線が痛いぞ)  
 
「ぐすっ、あんなの卑怯だよ。せっかく、せっかく、うわあああん」  
 
「そ、それは……」  
 
泣きじゃくっているメイの言葉に、ふと、あたまの中にある男の言葉が甦った。  
 
 
『最強のポケモンなどいないし、ベストな組み合わせもない。それゆえ勝ち続けることは難しい』  
 
かつてイッシュ地方の頂点に立つ四天王のひとりが口にしていた。  
100%勝つ方法などない。だからどんなに確率の高い戦術を考えても、99%勝てるように準備をしても、戦い続ければいずれその1%や2%を引いてしまうということを、キョウヘイもPWTやトレインでこの上ないほど痛感したものだ。  
 
「メイちゃん……それは、違うと思うよ」  
 
「ひっく……え?」  
 
「確かに運に頼った戦い方は、それまで積み重ねたものを一瞬にしてひっくり返すものだけど、そのぶんリスクは大きい。そういう戦い方をするには勇気と、どんな結果になってもそれを受け入れる覚悟が必要なんだ。それは決して卑怯なことじゃないし、理不尽なことじゃない」  
 
「それは、そう、だけど……」  
 
「だから、一度失敗したからって泣いてちゃだめだ。何度だってチャレンジしないと」  
 
キョウヘイの口調はキッパリと力強かった。  
メイはそんなキョウヘイをしばし無言で見つめていた。  
 
(そうだよ、僕だって何回も運や読みに嫌われたことがあった。それ全部を含めて今の実力なんだ)  
 
日射しから目を守るためにサンバイザーを傾けたが、目に意思の光が宿っていた。  
それを見たメイの嗚咽は止まっていたが、今度はキョウヘイをジト…と音が聞こえてきそうな目つきで睨んでいた。  
 
「……キョウヘイくん」  
 
「な、なに?」  
 
「私のこと慰めてくれてたんじゃないの? そんな厳しいこと言って、ちょっと酷くない?」  
 
「うっ、ご、ゴメン……」  
 
「まぁ、いいけど。真っ直ぐに次のこと考えてる君のこと見てたら、いつまでも泣いてるわけにもいかないしね……」  
 
「もう大丈夫なの?」  
 
「そう思うんだったら、もう少し泣かせてくれればよかったのに」  
 
メイはそう言って、手で涙を拭う。  
 
「ご、ごめんってば……」  
 
本音を言えば、もう少し浸っていたかったし、愚痴を聞いて貰いたかった。甘えていたかった。  
それでも彼女はトレーナーのはしくれ。前を見据える同じトレーナーが目の前に居るのに、いつまでも愚図っているわけにはいかない。  
これでも一応、プライドくらいは持っている。  
彼とサブウェイで会った時、やはり自分と同じくらい沈んでいるように見えた。キョウヘイも何かしらの理由で途中で負けてしまったのだろう。  
それなのに、話を聞いて慰めてくれたのだから、優しい性格なのだろう。  
メイは自分の胸の中に温かいものが宿ったような気がして、幾分か心が晴れてきた。  
 
(あ……服、汚しちゃったな)  
 
ふと、キョウヘイを見ると、青い服の胸元が濃く染みになっている。メイが泣いた時の涙が付着してしまったのだろう。わき腹辺りが皺になっているのも、強く握ってしまったせいだ。  
 
(んー……)  
 
「えっと、大丈夫なら僕はこれで……」  
 
しゅんと申し訳なさそうにしているキョウヘイをみて、メイはなんだか大胆で意地悪な気分になっているのを感じた。  
 
 
 
「よし、気持ちの切り替えは大事よね。私はこれで終わり。次は君の番!」  
 
「えっ、僕?」  
 
「キョウヘイくんも何か予想外のことがあって、うまく勝てなかったんでしょ?」  
 
「そうだけど……」  
 
「私の話聞いてくれたから、今度は私が君の話を聞いてあげるよ。ほら、観覧車に行こっ! 綺麗な景色が見れるよ」  
 
「わわっ、急に引っ張るなよ!」  
 
 
古びた観覧車がゆっくりと昇ってゆく。  
金属が軋みが響く密室のゴンドラの窓からは、ヤグルマの森一面に紅葉した木々が見える。風に乗って運ばれる金色の葉が、何ともいえぬ風情を醸し出している。  
夏は暑くてとても乗れたものではないこの観覧車も、秋になれば風は涼しく、そこから覗く景色もなんとなく哀愁を誘うものがある。  
 
「わー、景色が綺麗だね!」  
 
「そうだね」  
 
「スカイアローブリッジだ! あっちのはネジ山かな?」  
 
「そういえばネジ山にはまだ行ってなかったな。ネジ山を越えるとセッカシティか……」  
 
キョウヘイとメイが乗ったゴンドラは、頂上付近にあった。  
狭い密室で男女がふたりきりだというのに、メイはまるで気負った様子もなく、窓の景色に目を輝かせている。  
キョウヘイは彼女のパワーになんとなく気疲れを感じながらも、同じように景色に目をやっていた。  
 
(そういえば、ヒュウのやつどこに居るんだろうな。チョロネコを取り戻すって目的も果たしたし、これから何かすること考えてるのかな……)  
 
そんなことを考えていたキョウヘイは、それまではしゃいでいたメイが静かになっていることに気付いた。  
 
「……?」  
 
「…………………よしっ」  
 
「えっと……何?」  
 
「……あのさ。さっきは、慰めてくれてありがとう」  
 
「ん、どういたしまして。でも同じトレーナーなんだから、お互い様」  
 
「うん。……だから、ね。その……」  
 
急にもじもじしながら、何かを言いにくそうに口を開くメイ。  
心なしか頬が赤い。  
そしてすっとメイの手がキョウヘイの顔の横に伸びてきた。  
 
 
 
「お互い様だからね。私も、君のこと慰めてあげようと思って」  
 
「へっ……?」  
 
 
ぎゅむ!  
 
「………!!!?!!???!」  
 
次の瞬間、メイはキョウヘイの顔に触れたかと思うと、思いっきり抱き寄せた。  
そして、年齢の割には豊かな胸の間に力をこめて押し寄せた。  
 
「な……あ、えっ……」  
 
「えへへ……さっき私も胸を貸してもらったから、お返し」  
 
 
「はぅ……ん……ぁっ…」  
 
観覧車が頂点に達したころ――  
 
結局、抗いがたい触感を振りほどける筈もないキョウヘイは服の上からでもはっきりと存在を主張しているマシュマロのような胸に顔をうずめたまま、女性特有のいい匂いと柔らかさを堪能するかのように、遠慮がちながらもゆっくりと首を動かしていた。  
くすぐったいのか恥ずかしいのか、メイは艶っぽい息を漏らした。しかしその原因であるキョウヘイを咎める様子はなく、左手を背中にまわして抱き寄せ、頭に回した右手は後頭部をゆったりとしたリズムで撫でている。  
 
(なんかいいなぁ、こういうの……)  
 
メイはそのままゴンドラの座椅子に身体を、キョウヘイごと引き倒した。  
くすぐったさに時折身を捩りながら、真っ赤になった顔を逸らして虚空を見上げていた。  
行きずりの男の子の顔に、誰にも触らせたことのなかったおっぱい無理矢理押し付けている。本当は物凄く恥ずかしいのに、好奇心と人肌恋しさが上回って大胆なことをしてしまった。  
胸の鼓動が速まっているのが聞かれているだろうか。  
キョウヘイの顔の動きが激しくなって、興奮に漏れる息遣いが聞えきた。  
 
「柔らかくて、いい匂い……」  
 
「あぅぅ……」  
 
キョウヘイが顔を離すと、メイは羞恥で赤くなった顔を見られないように腕を乗せて目元を隠す。  
そんなことは意に介さないように、触れるたびに形をかえる柔らかなふくらみが愛おしくて、すぐさま再び顔をこすりつける。その度に心地よい弾力に包まれて、それ以外のことがまるで頭にない。  
 
(キョウヘイくん、赤ちゃんみたい……んんっ)  
 
自分の胸に夢中になっている少年にそんな感想を抱いたメイだが、しかし実際は同年齢で、自分よりもやや背が高い。  
そして子供っぽいがどこか凛々しく芯の強さを秘めた顔立ちで、その実彼はイッシュ地方のジムとチャンピオンリーグの激戦を潜り抜けた、まごうことなき英雄なのだ。  
自分の胸の中にいる人間がそんな男の子なのだと認識すると、改めて恥ずかしくなってきた。  
同時に、臍の下の奥のほうから熱い痺れがこみ上げてくるような感覚に襲われ、無意識にレギンスに覆われた内股を擦らせる。  
 
「あっ……」  
 
再びキョウヘイが顔を離したとき、メイは思わず名残惜しいような切ない声を上げてしまった。  
そして見つめ合うふたり。  
一瞬の沈黙。そして……  
 
「触っていい?」  
 
「―――っ」  
 
とうとう来た――  
そんな言葉が頭の中を駆け巡って、急に息がつまった。  
誘ったのは自分だったが、いざその時になってみるとなんだか物凄いことをしているような気がして怖気づいてしまう。  
 
「あ、あのね。少しだけ待っ……」  
 
「……ごめん。今さら我慢できそうにない」  
 
「え、ちょっ、待っ………やぁっ…んんっ!」  
 
 
返事を待たず、メイの豊かな胸を鷲掴みにした。  
 
「ふぁっ……やっ、んぁ……」  
 
「…………すごい、大きくて、すべすべで……服の上からでも先っぽが立ってるのが分かる…」  
 
「やぁっ……言わないでぇ…」  
 
むにむに むにむにむに……  
キョウヘイは無言でメイのふくらみを捏ねまわした。  
時に無造作に感触を楽しみ、ときに壊れ物を扱うかのように丁寧になぞる。  
頂点の突起を人差し指で小刻みにはじくと、息が切なくなり、強く摘むと痙攣したかのように身体がビクリと反応した。  
そんなメイの反応が楽しくて、一心不乱に弄り続けた。  
 
「き、キョウヘイくん……」  
 
泣きそうな声で名前を呼ぶ。  
返事の代わりに、乳首を摘んだ。  
 
「ふっ…んん! あっ、あっ……キョウヘイくん! ……服、しわになっちゃうよ……ひゃっ!」  
 
「なら、直接触るよ」  
 
「やっ、だめっ!」  
 
メイは必死で制止するも、言葉虚しく服を捲くりあげられてしまう。  
 
「……っ!」  
 
「すごい、きれいだ……」  
 
――露わになった少女の肌は白雪のように美しく、陶磁器のような艶があった。  
すらっとした臍のラインは細いくびれを際立たせて瑕疵は無い。  
そしてそびえたつ双子の山は、絶妙ともいえるバランスで少女の可憐さを醸し出す。  
風に吹かれればたやすく揺れそうなほど柔らかい平均より大きいはずのそれは、血色のよさとハリのよさによって全く下品さを感じることはない。  
むしろ少女本来の健康的な明るさと生命力を集約したかのようで、見ているだけで眩しさを覚える。  
 
「ひうっ!?」  
 
キョウヘイは淀みのない動きで顔を乳房に近付けると、躊躇うことなくサクランボのような突起を口に含んだ。  
そして乳を吸う赤子のように、硬くなった乳首を口の中でいじくりまわした。  
 
「ちゅぱ、ちゅっ……」  
 
「あっ…んんっ! あああっ」  
 
「メイのおっぱい、美味しいよ」  
 
「ふああっ! 吸っちゃだめ…! あっ……舌でぐりぐりするのもだめぇっ!」  
 
いつの間にか呼び捨てになっていることにも気付かず、メイはただ喘ぐほかなかった。  
わざらざらとした舌の表面の柔らかさと温かさが胸先を這うごとに、くすぐったさ以上の感覚が込みあがってくる。  
反射的にキョウヘイの頭を押さえつけるが、それでも引き離すことは躊躇われて、最初と同じように頭を胸に押し付けるような構図になってしまった。  
 
(うう……なんでだろう。おっぱい吸われてすごくくすぐったいし恥ずかしいのに……なんだか嬉しくて、安心する…)  
 
そう感じるのがいずれ授乳するであろう女性に備わった本能なのかメイの性癖なのかは定かではない。  
そんなメイの心情を知ってか知らずか、キョウヘイはひたすら胸を吸い続けた。  
胸は甘い味がすると書かれていた大人の雑誌を目にしたことがあったが、実際は汗の味でしょっぱく感じる。それでもこの夢のような膨らみを口にすることは、キョウヘイが今まで感じた何よりも甘美な体験だった。  
 
(甘い――うん、本当に甘いんだ。ずっとこうしていたい――)  
 
勢いは激しくなり、胸を吸う音も徐々に大きくなる。  
それがメイの羞恥心を余計に煽り、恥ずかしくて何も考えられなくなる。  
ちゅぱ、ちゅぱと恥ずかしい水音が、狭いゴンドラ内に響く。  
ふたりはもはや言葉を発することはなく、ただ蜜のように甘い時間が流れていた。  
 
長い沈黙、時折発せられる喘ぎ声、そして――  
 
「………あっ…」  
 
それまでメイの胸を愛撫していたキョウヘイの手が、膝のあたりにあてがわれた。  
レギンス越しに感じる、男の硬い手の感触。だがメイはびくりと身体を震わせた以外に、なんの拒絶も示さなかった。  
瑞々しい眼はトロンと恍惚しており、息は荒い。口元に流れた涎にすら気が回らない。  
下半身に感じるキョウヘイの手に、期待と好奇心が恐怖心を上回った。  
這わされた手が太ももの内側に入り込み、閉じられた脚を割るように、腰の方へゆっくりと上昇してきた。  
メイにとってその時間は、スローモーションに思えるほど長く感じた。  
 
「あっ…あああ……」  
 
彼の手がこのまま動きを止めなかったらいずれ、今まで誰も触れたことのない最も秘密の場所へと辿りつくだろう。  
 
(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ―――)  
 
あまりの羞恥心に涙が出そうだった。  
 
(触られちゃうんだ……私の一番恥ずかしい所……)  
 
まだ大人になっていないあの場所を、大人になっていないのに淫やらしい液体で溢れてしまったあの場所を、男の人に触られて、弄られてしまうんだ―――  
それでもキョウヘイの手は止まることなく、ゆっくりと、ゆっくりと……  
 
そして――――  
 
 
「――――――――――」  
 
 
 
 
 
 
がたん!  
 
 
「「……っ!?」」  
 
 
軽い衝撃に、ふたりは一気に現実に引き戻された。  
一瞬頭の中がこんがらがったが、すぐに観覧車が一周してしまったのだということに気付いた。  
 
「……あっ」  
 
「…え、あっ…」  
 
顔を見合わせるふたり。そして  
 
「うわわっ、ごめんっ!」  
 
「う、ううん! こっちこそ……」  
 
 
ふたりは改めて、今まで物凄く恥ずかしいことをしていたという実感に駆られ、それまでとは別の意味で顔を沸騰してしまいそうなバオップ色になっていた。  
メイは急いではだけた服を戻して、観覧車が発車してしまわないように外に飛び出し、キョウヘイもそれに続いた。  
 
 
(搭乗待ちの人がいなくて本っっっ当によかったぁ……!)  
 
キョウヘイは胸をなでおろした。  
もし『その』現場を目撃されていたら、生きていけないかもしれない。  
ましてやこの場所には、チェレンやベルだけでなく幼馴染のヒュウもときたま訪れるのだから、迂闊の極みだった。  
そこから交流関係が広くおしゃべりな母親にでも伝わったりでもしたら――――考えたくもない。  
万が一の事態にならなくてよかったと思うと、安堵のせいかどっと疲れが押し寄せてきた。  
 
 
「はぁ…」  
 
腰を折って街路樹に寄りかかるように一息つくと、メイが勢いよく話しかけてきた。  
 
 
「あ、あの! キョウヘイくん!」  
 
「メイちゃん……えっと、その」  
 
 
言いづらそうにもじもじするメイ。さっきのアレのせいで、かなり気まずい。  
 
 
「あのね。変なコトして、その、ごめんね」  
 
「え、あ。いやいやいや、こっちこそ! なんか途中から、歯止めがきかなくなって」  
 
「ううん、私も気持ち良くなって、頭の中が真っ白になってたから……」  
 
「そ、そうなんだ……」  
 
気持ち良かったんだ――それは良かった。って、いやいやいや  
 
 
「それでね。その……キョウヘイくんのそれ、大丈夫?」  
 
「うっ……」  
 
メイが指差した『それ』とは、キョウヘイのズボンに張ったテントのことである。  
メイの胸も年の割に大きかったが、キョウヘイのそれもなかなかのものだ。  
木に寄りかかって前かがみになっていなかったら、はっきりと分かってしまう。  
 
「時間が経てば、おさまるから……」  
 
「そ、そうなんだ」  
 
女の子相手に何てことを言っているのだろう。  
なぜか暗澹たる心持になってきた。  
しかし次の瞬間、メイが思いがけないことを言い出した。  
 
「でも、すっきりした方がいいんだよね」  
 
「それは、まぁ……」  
 
「だから、その、ね。もしよかったらなんだけど……キョウヘイくんさえよかったら、私がしてあげようかなー……なんて」  
 
「…………いいの?」  
 
「うん……私が誘ったせいだし、ね」  
 
それに、と付け加える  
 
「やっぱり初めては観覧車とかじゃなくて、ちゃんとした場所でしたいし――」  
 
バツが悪そうに、はにかむメイ。  
そして脚をもじもじさせながら、眼を伏せて恥ずかしそうに告白した。  
 
 
「私も、もう我慢できないの――」  
 
潤んだ眼、上気した頬、溢れ出す女の色気と――黒いレギンスの太ももに垂れた、淫らな染み。  
その日、猥雑なライモンシティの繁華街にふたりの男女の影が消えていった……  
 
 

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