突如鳴ったライブキャスター。受話器越しに、幼馴染の女の子の慌てふためいた様子が伝わってくる。  
「わかったッ!ポケウッドスタジオだな。すぐ行くから待ってろッ!」  
具体的な状況は何一つわからない。それでも自分を支え助けてくれた大切な人―――メイのピンチに、ヒュウが向かわないわけがなかった。  
 
 
ヒュウがポケウッドに来たのは久しぶり、かつ片手で数えられる程度だ。強いトレーナーや珍しいポケモンがいるわけでもなく、プラズマ団の情報も集まらない場所だったからだ。  
スタジオ受付で呼び止められ、メイの名前を告げると受付嬢は確認いたします、と内線電話をかけた。  
「メイさん、お客様が…。はい、そうです。…了解です、お通しします」  
教えられた通りにメイの「楽屋」へ急ぐ。  
 
『ポケウッドの新進気鋭女優』というメイの肩書は、本人や周りから聞いたことがあるが、まさか個別の楽屋を持つまでとは知らなかった。その楽屋の前に着いた。一呼吸ついて、ノックと共に声をかける。  
「メイッ!オレだ、入るぞ!」  
「あ!ヒュウ!!もう来たの?」  
先程の電話とうって変わって、やや落ち着いた声と共にドアが開く。少し冷静になったようだ。  
「…来たの、とか何だよ」  
「ゴメン…こんなに早いとか思ってなくて…」  
入って、と促され入ったそこは、ヒュウが思っていたより広く、贈り物の花やきらびやかな衣装、本棚にぎっしり詰まった台本と、まさに「違う世界」を感じさせた。  
「まさかオマエがスターとはな…」  
「うーん、気付いたらこんなことに、って感じ?運がよかったんだよ。でも…」  
メイがちらりとテーブルに視線を落とす。一冊の本―おそらく台本だろう―がある。  
「ついに来る時が来た…のかな?」  
「詳しいこと聞いてなかったが、コレに何かあるのか?」  
「…うん…ついさっきスタジオに置いてあったのを持ってきたんだけど…」  
問題のページを開いて見せた。  
「…ッ!?こ、これって…えッ!?」  
いわゆる、ラブシーン、ベッドシーンが載っていた。TV放映されたら一瞬でお茶の間がフリーズボルトコールドフレアするレベルの。  
 
ヒュウは台本とメイとを見比べる。映画の主演を張れる程度のかわいらしい顔立ち。年相応に発育しつつ、普段トレーナーとして歩き回っているため華奢な身体。普段はほんわかした、だがいざという時はポケモンを守り戦い抜く気迫。  
こんな女の子が、そんなシーンを、どんな大スクリーンで。  
「(観たい…じゃないッ!)だ、ダメだダメッ!オマエこんなの、出演する気あるのかッ!?」  
お兄ちゃんは許しません!とヒュウが詰め寄るが、メイは煮え切らない様子だ。  
「でも…せっかく『ピッタリの台本が出来た』ってウッドウさんが言うし、あ、ウッドウさんていうのはポケウッドのオーナーで…  
じゃなくて、何より映画って色んな人が協力して精一杯作り上げてるんだよ。あたし一人のワガママで撮影出来ないなんて申し訳ないよ…」  
「……」  
つい最近までうらやましそうに、一足先にポケモントレーナーになったヒュウを見つめていたメイではない。  
彼女はすでに「ポケウッド女優」なのだ。  
 
「でも、あたしやっぱり…あんまり知らない人と、その、こういうこと…そもそもやったこと、無いし!」  
「…知ってるヤツなら、いいのか?」  
「え?」  
「穴開けるわけにいかないって言うなら、オレが練習相手になってやるよ」  
「ええっ!!?」  
誰とも知らない男が、メイに触れるなんて怒りすらこみ上げてくる。  
「う〜ん…わかった。プラズマ団の事件の時も『助けろよなッ!』って言ってあたしに頼ってばっかだったもんね。『おんがえし』ってワケね」  
「え、いや…そういう意味じゃ…」  
「よし!リハーサルよ!」  
どうしてこんな天然がチャンピオンだの女優だの何だのやれるんだろう。伝説に認められる人間は何か違うということだろうか。  
 
「よしッ、シーン1…キスシーンか」  
「ヒロインから激しいキスを…え!?あたしから!!?」  
思わず顔を見合わせるメイとヒュウ。  
「女優から、か。仕方ない、来いよ」  
「うっ……」  
さすがにシーンの頭から自慢のアドリブを飛ばす訳にはいかない。  
しばらく逡巡したメイは、ためらいがちにヒュウへ顔を近付け、一瞬だけ唇を合わせる。  
 
「ッ…!」  
「んっ!?…ふっ、んうっ!」  
ただ触れただけのキスに我慢が出来なくなったヒュウは、 舌をメイの口内に滑り込ませる。  
初めての柔らかさと暖かさに、夢中で掻き回した。  
「んーっ!んんーっ!」  
苦しそうな声と引き剥がそうとハリーセン頭をつかむ手で、ヒュウはようやく顔を離す。  
「悪い…いきなりこんな…」  
「うう…びっくりしたぁ…今の、何…?」  
息を荒く吐きながら、唇の端からこぼれた唾液を拭うメイ。涙目の姿に欲望が煽られる。  
 
「…激しいキスってのは今みたいのを言うんだ。ほら、お手本示したんだからやってみろよ」  
「え!?今のを!!?」  
「オマエが気持ちいいようにすれば大丈夫だろ」  
「うー…」  
よくわからない、と言いながらメイは優しく唇を寄せる。  
ゆっくりと舌が絡み合った。  
「ん…ふう、あ、ん…」  
「…ん、ッ…」  
鼻から抜ける息が、段々甘い声に変わる。  
「は……」  
唇を離した瞬間漏れた息が、どちらのものかもわからない。  
 
「メイ、オマエ上手いな…ホントに初めてか?」  
「初めてだよ!…ヒュウがアドバイスくれたから、かな?」  
メイは恥ずかしそうに身体を離し、再び台本を見る。  
「次いこ!シーン2、『ベッドで…?…ぎ声?を上げるヒロイン』」  
「読めないのかよッ」  
喘ぎ声、だった。  
「あえ、ぎ…?」  
「…つまり、エロい声だ」  
メイの顔が驚愕に揺れる。  
「だ、出せないよそんなの!」  
「じゃ出させてやるッ!」  
「ぎゃー!痛い痛い!」  
さっきまでの甘い空気はどこへやら、服の上から胸をまさぐるとメイは悲鳴を上げた。  
「もっと色気のある声が出せないのかッ!?」  
「だって…膨らみかけだから、痛いの…」  
「そ、そうなのか。じゃあ」  
ヒュウが黄色いキュロットに手を潜り込ませた。レギンスごしに撫でさする。  
「いやぁ!!ヒュウのエッチスケベ変態チカン犯罪者ぁー!!」  
「こっちはオマエのためにやってるんだッ!おとなしくしてろッ!」  
「だって…あ、う」  
ぎゅっと目をつぶって耐える。さっきのキスから違和感を感じている場所を執拗に触られ、頭がぼんやりしてくる。  
 
「んん…やぁ…そこ、もうダメぇ…」  
「ほら、そういう声だよ」  
「くっ…」  
自分が『声』を出しているのが信じられなくて恥ずかしくて、メイは唇を噛み締め我慢する。  
「練習にならねーだろ」  
一瞬手が引き抜かれ、再びキュロットの中に消える。今度はレギンスごしでない、肌と下着の間だ。  
「きゃあっ!あ、あっ?」  
「…はは、濡れてる」  
「ち、違うもん!これは…汗だよ!…多分。」  
とっさに否定したが、汗とは違う熱く湿った感覚はわかっていた。  
「ふーん、そっか、タブンネか」  
いたずらな手は止まらない。ずっと敏感な部分を弄り続ける。メイはただヒュウにしがみつき、未知の感覚と戦うしかなかった。  
 
「あん、やだ、もうこんな、ゆるしあぁっ、はぁん」  
もう立っていられない。メイの身体がずるりと崩れ落ちた。  
「はぁっ…もう、もうムリぃ…」  
「こらッ、しっかりしろ。…今日は、これでカンベンしてやるから」  
ヒュウがすっかり力の抜けたメイのキュロットと下着をずり下げ、床に横たえた。  
 
「んっ、うちゅ、はむっ」  
「はッ、そう、先っぽ吸って…う…」  
二人は横向きに抱き合いながら、お互いの股間に顔をうずめている。  
最後までしてしまったら、メイをただ悲しませるだけな気がした。怖くなって、それでも欲望の収まりがつかないから、こんな形になってしまった。  
「オマエの舌、サイコーだな…ん…」  
「はひぃっ、指、やめてっ!こんなの、台本に…あぁん!」  
「大丈夫、必ず気持ちよくするから。だから、頼むッ…」  
メイの脚と膣内が小刻みに震えている。ヒュウもその姿に限界を迎える。  
「やっ、あっ、ああっ、も、ひぐっ、や、あああーーーっ!」  
「くッ…!あ、は…」  
熱いものが溢れ、お互いの顔を汚した。  
 
 
 
「ん…あれ…?ヒュウ…?」  
「お、起きたか」  
ソファに寝かされていたのに気付き、メイがやや混乱した様子で辺りを見る。  
「…服着ろよ。あと一応拭いといたけど顔洗っとけ」  
「え?ああっ!!」  
上はそのままだし下着は履いているが、レギンスとキュロットは床に投げ出されたままで、さっき起きたことが蘇ってくる。メイは真っ赤な顔で慌てて服をかき集めた。  
「もうっ!ヒュウのバカバカ!最低!エロ魔人!」  
「…いいかげんにしないと、オレは今から怒るぜッ…」  
「あー、もう最後どうなったかわかんないし!」  
「盛大にイってたぜ」  
「…ああそうですー!変態お兄ちゃんにエッチな声言わされてましたー!」  
「そっちの言ったじゃなくてだな…」  
 
逆ギレしながら服を整え、洗顔も終えると、メイが言った。  
「…あたし、この映画出たくない…」  
「は?オマエさっき、出なきゃならないとか何とか」  
「…あんな姿、誰にも見られたくないの…」  
「…ッ!…ごめんな、ムリヤリ、オレ…」  
メイが首を横に振る。  
「ヒュウがキレるとイキオイだけで突っ走るクセ、知ってるもん。さて、台本返してくる!…せめて、このシーンはカットしてもらうよう頼んでくるね!」  
戻るの遅かったら帰っていいから、とやけに明るく言ってメイが楽屋を出ていく。残されたヒュウは、このまま待つことにした。  
(もし、撮影続行なら、このまま抱く)  
 
 
 
思ったよりずっと早く、メイは戻ってきた。移動を考えても10分かかっていない。  
「どうなったッ!」  
「…ゴメン」  
ヒュウの顔から表情が消えた。握りしめた手に汗がにじむ。唾を飲み込み、まずはメイの唇を塞ごうと―――  
「あたし、台本間違えて持ってきてた!」  
「な…ッ?」  
「んーと、あの台本は別の役者さんに渡すためにたまたまスタジオにあって、それをあたしが自分の新作と思って…最初にスタッフに聞かなかったあたしが悪いの!…い、怒って、る?」  
「怒る以前の問題だッ……」  
よくよく冷静になって考えてみたらメイにベッドシーンは年齢的にアウトだ。そんなもの撮影できるわけがない、とスタッフに笑われたと言う  
「やっぱ、冷静さ、大事だな…」  
ヒュウがきれいな抜け殻よりカッスカスになってしまった。膝をついてうなだれる。  
「だ、大丈夫だよ!リハーサルは無事できたわけだから…」  
メイが抱き締めてきた。驚いてヒュウが顔を上げると、唇を舐めるようなキスが来た。  
「…それに、キスって演技じゃなく好きな人とするのがいいと思うの!これからはいつでも、ヒュウとならラブシーンしてあげる!」  
 
 
おしまい。  
 

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