ジムリーダーにはもう一つの顔がある。  
 ブリーダー。軍人。研究者。時には悪の首領。ポケモンのエキスパートたる彼らとて一人一人が人生を持ち、苦悩し、努力しつづけている。  
 セキチクのジムリーダーたるアンズもその一人だった。彼女は幼いころより父から厳しい修行を課せられたことにより、ある一つの技能を身に付けていた。  
忍者。それが彼女の持つもう一つの顔だった。  
 
 闇から闇へと飛ぶ。  
 アンズはあるクライアントより頼まれた尾行を行っていた。ターゲットは一人。闇夜を一人歩く金髪の男だ。  
 夜ゆえだろうかあたりには人がいない。男は何をしているのかただ一人街中を歩いている。アンズは細心の注意を払いつつ尾行を続けた。  
 実のところアンズは男の正体も目的も知らなかった。昔からのクライアントに「つけてくれ」と頼まれたのだ。だがアンズにとってそんなことはどうでもよかった。忍者に思想信条は必要ない。父から教えられたことだ。  
ただ仕事をすればいい。そうアンズは思っていた。  
「……」  
 だがいささか今回の仕事は退屈だった。男はだらだらと街中を何度も周回するだけで、特に何をするでもなく歩いている。尾行を警戒している様子もなく。ともすれば散歩に見えないこともない。  
 だがえらく時間が長い。アンズは尾行を夕方から行い、今、夜の12時を過ぎようとしていた。もちろんその間、男は歩き続けたわけではなく。たまに公園のベンチに座り込んだりカフェに入ったりもした。  
 だが何もない。何もしないのだ。  
「……?」  
 さすがのアンズにも疑問符が頭に浮かんだ。一瞬、尾行対象自体を間違えたのかと思ってしまったほどだ。  
彼女は油断していた。足元でパキリと小さな音が鳴った。単に小枝を踏んだだけである。  
その「単に」は大きくつくことになるがアンズは音に気付きつつも無視した。  
 
 午前1時。相変わらず男はぐるぐると街中を回っている。アンズの心は徒労感でいっぱいになっていた。もういいかな。そんな忍者にあるまじき言葉まで生まれている。  
急に男が道を変えた。それは男がいままで行かなかった道だった。  
アンズは喜悦した。やっと進展がみられそうである。  
男はゆっくりとした足取りで街中を歩いて行った。時には自販機でおいしい水を買って立ち止まり。アンズをいらいらさせた。  
 彼女は己が喜悦たり苛々したりしていることを「あたりまえ」に受け止めていた。疲労と自分の行動の意義が分からない徒労感からくる  
一種の思考停止と言っていいだろう。もちろん彼女は思考していると思っている。  
だが自分の行動を客観的にみられないのはもはや「思考している」とはいえない、ただ感じているだけだ。  
 やっと男が歩き出す。それに合わせてアンズも動く。すでにアンズに行動の主導権はない。彼女も気づかない。  
 男がある廃工場の前で立ち止まり、これ見よがしにあたりを確認すると。警戒しながら中に入って行った。  
アンズも後を追う、しばらく廃工場の入り口を観察してその屋根に飛び乗った。  
見事と言っていい。トタン屋根が音ひとつ立てず彼女を受け入れたのだから。  
アンズはボロボロのトタン屋根に穴がないか探した、中をのぞくためだ。しかし、以外にも穴はない。  
 代わりに一つ窓があった。ガラスはなく縁は錆びついている。  
アンズはそこから中を覗いた。薄暗い工場の中に一点だけ明るい区画があった。  
あそこに男がいる。姿は見えないが、アンズそう確信した。  
アンズは音を立てないよう注意しながらも、窓から侵入した。  
   
 奇襲。突如アンズの顔に粉が降りかかってきた。毒、そうアンズは判断した。  
 アンズは素早く奥歯に仕込んだ「なんでもなおし」の効果を持つ解毒薬のカプセルを噛む。タイムラグはない。瞬間、神速の速さで体制を建て直し。視界の端にいる「男」を確認する。  
「きさまあああああああああああああ」  
 アンズは咆哮し男に殴りかかった。心の底から「いかり」が湧いてくる。  
 アンズは男の前で何かに阻まれた、じたばたと体を動かすが「何か」がさらに強く彼女を束縛する。  
「はなせえ。はなせえええ」  
「聞くでしょ?『いかりのこな』は、効かないもんねぇ薬。自分から『クモの巣』に向かってくる程度にはさ」  
 
 話を聞く様子のないアンズに男は語りかけた。傍らには「いかりのこな」の技主だろうかワタッコがいた。男は独り言のように続ける。  
「疲れたでしょ。7時間くらいの尾行はさ。君全然休まないからびっくりしたよ、ついさっき小枝折ってくれた時はうれしかった。やっと油断してくれたんだってさ」  
「な、なにお」  
 いかりの形相でアンズは男を睨んだ。だが顔の端に不安がにじんでいた。この男は最初から気づいていたのだ。あの長い尾行も自分を疲れさせるものだったという。事実アンズは男の術中にはまった。  
 カサリと音が鳴る。アンズが上を見るとクモの糸の先にイトマルがいた。アンズは必死に悲鳴をかみ殺した。腰にポケモンのボールはあるが、取り出せそうにはない。すでに「いかり」はとけている。  
「イトマル。両手足を念入りに縛れ」  
 イトマルは男の声に呼応して動き。アンズの片手片手を念入りに「クモの巣」に括り付ける。両足も同様だった。アンズの心に焦燥が生まれた。  
「俺、君とポケモンバトルしても勝てそうにないから。没収ね」  
 男はアンズの帯に括り付けたモンスターボールをひょいひょいと取り上げて。ワタッコの口に入れると、ワタッコをボールに戻した。鍛え上げたポケモンたちもこうなっては手も足も出ない。  
「ちょっと多いけどワタッコの『持ち物』をボールにしてみたよ。ん?意外に平気そうな顔してるね、君」  
 どうしよう、どうしよう。と少女らしい迷いを飲み込んで、精一杯平静「そう」に顔色を保った。  
「あたいはなにもしゃべらないよ」  
 不安を押し隠しアンズは男の目を見て言い切る。男の顔は柔和そのもので、口の端に出ている笑みはいやらしいというより自然といっていい。少なくともアンズにはそう見えた。  
「そ」  
 男は笑顔のまま。アンズの帯を掴んで、一気に引き抜く。  
「……?」  
 当然、アンズの袴は支えを失ってずり落ちる。イトマルの糸で多少開脚した格好のためか膝の上で止まった。白い腿とピンク色のパンツが露わになる。「忍者」とするには少々、綺麗すぎるほど傷一つない肢体。  
多少のフリルをあしらったパンツ。男は笑みを崩すことなく、いや一切の表情を変えることなくそれを見た。  
 アンズは恥ずかしさで腰をくねらせる。いつの間にか泣き出しそう顔をしていた。だがイトマルの糸が下半身を隠すことを許さない。むしろ膝の上で止まっていた袴がわずかに下へ落ちた。  
 結局のところ彼女は未熟だった。男の策略の感知も、自己の精神支配もできないほどに。  
「おかしいなあ」  
 男は頭をかいてまじまじとアンズの下半身を見た。むにと腿を掴む。そのままなぞるように指を這わせる。  
「ぃゃ」  
 アンズは顔を赤くして、反射的に声を出した。男の指は冷たく、不快感が彼女を襲う。男はアンズの顔をじっと見つめた。  
 男はアンズの袴の縁に手をかけて足首までずりおろす。無理に下した為、びりびりと音を立てて袴は破れた。着ているというよりひっかかっているといっていい。  
忍者という職業柄、日に当たっていないからか、彼女の白雪のような肌が月明かりに映える。  
「あーなるほど。ここにいれていたんだね」  
 男はアンズ自身よりアンズの着ていた袴の残骸に興味を示した。袴の裏側にはクナイや「道具」が仕込んであった。男は手早くそれらを回収すると。自分のコートにしまった。男の目的はそれだった。  
 アンズはこの期に及んでまだ目の前の現実が信じることができない。簡単と高をくくっていた依頼に失敗し、しかもいとも簡単に捕まってしまった。屈辱感と羞恥心の綯交ぜになった心を制御できず、彼女の目から大粒の涙が流れた。  
 アンズのパンツの中に男の手が入る。  
「やめて!」  
 男はひとしきりパンツの中を探った後。彼女の「中に」手を入れてきた。後ろも前もである。男は「中で」指をくねらせ、折り曲げ、刺激する。  
「ゃあ」  
 ビクンとアンズの体が跳ね、口から色っぽい声を出した。男の手はひんやりしてる。男はそんなアンズを無視しつつ「行為」をつづけた。アンズのパンツがじんわりと湿る。男は気にしない、存外に優しい手付きではある。  
「ここには仕掛けなしか……」  
 
 男は手を抜くと笑顔のまま、つまらなそうに言った。アンズは肩を上下させて、まるで愛玩動物のような目で男を見た。敵意は彼女のなかにある、だがそれをみせることに彼女は怯えていた。それが表情に現れたのだ。  
 アンズのころころ変わる表情と対照的に男の笑顔は変わらない。  
「……じゃあ、そろそろ君の依頼者について話してもらおうかな」  
「あ、あたいはしゃべらない。ぜ、ぜったいしゃべるもんか」  
 アンズは目をつむり声を張り上げる。まさに「必死」であった。  
「そ」  
 男が言い、手を上げると。イトマルが糸を切った。  
「いた」  
 拘束を解かれアンズは地面にしりもちをつく。壁との接点をイトマルに切られた糸はアンズを自由にしたが、かといって粘着力を失ったわけではなくアンズの足に絡まった糸はいまだ彼女の行動を阻害している。  
「ひっ」  
 イトマルがアンズの前に降りた。彼女には対抗する力がない。ポケモンも道具も男に奪われていた。かつてない危機、それが今の状況である。  
 イトマルがアンズにとびかかり押し倒す。アンズは小さく悲鳴を上げ仰向けに倒された。  
 そのままイトマルはアンズの右腕を糸で括り横に広げる。  
「じゃ、左手もね」  
 男は腰からモンスターボールを取り出して開閉する。一瞬の光からもう一匹のイトマルが姿を現す。もう一匹のイトマルは右腕と同じように左腕を拘束して横に広げる。  
 ちょうどはりつけにされたようにアンズはなった。男はアンズの腿に腰を落として、両足の動きを封じる。  
 アンズはもはや思考すら組み立てることができない。危機。それだけはわかる。  
「……おとなしく口を割ってくれたらいいと思うけど」  
「やだ、絶対しゃべらない」  
 男は奥に表情を変えることなく。つまり笑顔のままでクナイを取り出した。先ほどアンズから取り上げたものである。  
「……ああ……」  
 ここで終わるのか。アンズは自分のクナイの放つ鈍い光を絶望とともに見た。謝りたい、謝ればこの男は許してくれるかもしれない。しゃべりたい、クライアントを明かせば自分に価値はない。助かるかもしれない。  
 だが彼女はそれを許容しない。それをすれば彼女は二度と「彼女」足りえない。修行で培った倫理が誇り高い父の姿が彼女の最後の砦だった。  
「や……やりぇ」  
 恐怖で喉が引きつる。「やれ」の一言すら満足にいえない。だが彼女は言った。最後の矜持、誇りそれを心の葛藤から守りきった。滂沱の涙を流す両目には強い光があった。  
 しかし、男はそんなアンズの決意をあざ笑うかのようにアンズの黒のシャツにクナイを入れる。  
「なっ」  
 アンズは男の行動に狼狽した。男は手慣れた様子でクナイを彼女の首元まで走らせてクナイを仕舞う。さらに服の切れ目に手を入れて男は服を広げた。中には少しほつれた網のシャツとかわいらしいリボンのついたブラジャーが見えた。  
 男はまたクナイを取り出した。仮にアンズに何らかの反撃の手段がありクナイを取り返されたら面倒だった。ゆえに男は油断なく奪われないように心を砕きいちいちアンズの手の範囲の外にしまったのだ。男はその表情とは違い一切の驕りを持っていない。  
 男は網シャツの上からブラジャーの接合部分をつまんで持ち上げた。  
「しゃべった方がいいよ」  
 アンズは顔をぶんぶんと横に振り拒否する。  
 男は接合部分にクナイを入れて切り裂く。同時に網シャツも切り裂いた。  
 ポンとブラジャーが左右に開かれた。同時にアンズの両胸も圧迫を失い、わずかに振れて露わになった。まんじゅうのように小ぶりの乳房にピンク色の突起。  
「そろそろ、しゃべりたいんじゃないか」  
 
 男は優しい声でアンズに言った。アンズは顔を真っ赤にして男をみた。しゃべりたい、許しを請いたい、もう帰りたい。  
(こ、こんなの嘘だ。夢、夢がいい、夢がいい。覚めて、覚めてええ)  
 男はアンズの胸を掴んで揉んだ。  
「意外に固いなあ」  
 優しげな手つきで、男は揉む。ちょうど男の手のひらに入る程度の大きさだった。  
 アンズは黙って顔を背けて。歯を食いしばる。  
 男は気にせずに揉み続け。時には乳首を刺激した。だんだんとアンズの胸の「固さ」が取れて柔らかになる、ピクンとアンズの体が反応し始めた。  
「こんなもんかな……」  
 男はアンズの胸から手を離した。はあはあとアンズは息をして、うつろな目で男を見る。両腕は変わらずイトマルに拘束されている。  
「アンズちゃん。これ見てみて」  
 男の両手には一つづつモンスタボールが握られていた、「なに?」とアンズは疑問を浮かべる、男が「アンズ」と言ったことには疑問も浮かべない。  
 男がボールを開閉すると二匹のケムッソが現れた。くりりとした大きな目が特徴的なムシポケモンだ。  
「こいつにアンズちゃんの胸をしゃぶらせようとおもんだけど」  
「!!!!!」  
 アンズは男の思いがけない言動に耳を疑った。目を見開いて、死んだようになった感情がよみがえる。  
「まあ、二匹だから。片方ずつね」  
「や……やああああ」  
 アンズは体を抑えられつつも全力で暴れた。しかし、無意味と言っていい。ポケモンのない彼女は「女の子」でしかない。暴れた拍子に胸が揺れる  
 男は笑顔でケムッソを二匹掴んで、ゆっくりとアンズの胸に近づけた。  
「いや、やめて」  
 半狂乱になって暴れたアンズだったが、大した効果もなく無事にケムッソのお口にアンズの乳首が入った。  
 ざらりとした口内の突起がアンズの乳首を刺激する。男はニコニコとアンズを見つつもケムッソが振り落とされないように、アンズの重心を抑える。くびれのついた細い腰をしっかり地面に押し付ける。  
 かわいらしい下級ポケモンがかわいらしい少女の胸を容赦なく凌辱する。ケムッソの唾液がアンズの胸を濡らす。口内に「囚われた」乳首に至っては言うに及ばない。葉っぱを咀嚼する臼歯が原始的な舌がアンズを「可愛がる」。  
「ひゃ、あっ」  
 
 と言葉にならない情動が喉を通って出る。アンズはわずかに残した理性で抵抗しようと体を動かすが、体を動かすたびケムッソの中で乳首も動く。そのたびに声が出た。かといって動かなければケムッソはさらに念入りにアンズの乳首を「教育」した。  
 クチャクチャ  
 音を立ててケムッソがアンズの胸を引っ張り、食み、吸う。  
「クライアントは誰だい。アンズちゃん」  
「だ、だれぎゃ、あっ、い、いゆもんか」  
 最早単なる反射である。アンズはさっき決めたことをただ機械的にかいしているだけだった。  
「そっかあ」  
 男は二匹のケムッソの背を掴んでゆっくりとアンズから剥がす。ケムッソはおいしいのか訓練しているのか、アンズの胸をなかなか離さず剥がすときにざらりとした口内で乳首を「擦る」ことになった。アンズの口から嬌声が上がる。  
「はあ、はあ、はあ。あたいじぇったいしゃ、しゃべらない」  
 回らない呂律を無理やり回し、アンズは抵抗する。男は最初からそうだったがそんなアンズを気にしない。無視していると言っていい。主導権を握っているうちに「少女の戯言」を聞いてやる意味はない。  
 男はコートの中から黄色い液の入った瓶を取り出した。  
「ねえ、アンズちゃんこれなんだかわかるかな」  
「……?」  
「これね『あまいみつ』。ケムッソの好物」  
 即座に意味を理解したアンズは今までにないほど暴れた。じたばたと無駄な抵抗をして叫ぶ。  
「いやああ。そ、そんなのダメ。そ、そんなことしたらほんとに、ほんとに……あたい」  
 言葉が続かない。言うべき語彙を彼女は知らない。  
「大丈夫。大丈夫。少し媚薬も入れてるしね。はい胸出して」  
 男はアンズの右胸を抑えて瓶をひっくり返す。ねっとりした冷たい液体が彼女の乳首を甘くコーティングする。男は瓶をはなしてからなじませるように胸をもむ。乳首を捏ねる。  
「ギ!!!!!」  
 アンズの体が跳ねあがる。今までとは比べ物にならないほどの快感。いや、表す言葉があるのだろうか。少なくともアンズの人生にはなかった。さっきまでの話だが。  
 アンズは「空気を感じた」。そこにあることが分かる。アンズは舌を出して犬のように息をした。思考ができない、自分が認識できない。  
「はい、こっちもね」  
 男は左胸も比喩ではなくおいしく調理した。ただ蜜を塗り染み込ませるだけだが。  
「ふふふーん」  
「ああああああああああああああああああああああああああ」  
 楽しげに鼻歌を歌う男とは対照的に、恥も外聞もなくアンズは泣き叫ぶ。泣かないと、叫ばないと、暴れないと意識が持っていかれそうだった。勝者と敗者その姿がそこにあった。  
 ケムッソがにじり寄った。アンズは涙を流して意味のない懇願をする。  
「こないでえええええ。あたい、むり、あたい、おいしくないからああ」  
 ケムッソにとってはご馳走である。蜜がキラキラとアンズの胸を照らす。甘いにおいがあたりを包む。  
 
「まて、ケムッソ」  
 男がケムッソ達を静止する。そしてアンズ目を向けて言う。  
「クライアントは誰だ?言えばやめるよ」  
 天啓。そう言っていいほどアンズには男が優しく見えた。哀れな顔で口をパクパクと動かして男に何か伝えようとした。  
「い、いヴもんかあ」  
 言ってからアンズは後悔する。やだ、もうやだと心が絶叫する。誇りを保つこと。その意味を、辛さを、身を以てアンズは知った。  
 ケムッソが近付く。アンズが悲鳴を上げる。アンズは男に目で懇願する。  
(もう一度、もう一度聞いて)  
 次は言う絶対言う。そう念じる。  
「まて。まだだ、ケムッソ」  
 アンズの心に喜悦が広がった。聞いてくれる。そう思った。  
 男はアンズのボロボロになった服を掴んでさらに広げた。白い肩とうっすら肉のついた鎖骨が見えた。  
「えっ」  
 自然、アンズは声を出した。そもそもこの「男」が彼女の思い通りに動いたことなどない。妙な言い方だがアンズにとって信頼できる相手ではない。  
「これで舐めやすいでしょ。ところでアンズちゃん。ケムッソってさもう一匹いるんだよね」  
 パンツが下された。男の影で見えないが確実にアンズの下半身は完全に露わになっている。そして、局所に「ざらり」とした感触。アンズは知っている、身をもって知っている。  
 見えないもう一匹のケムッソ。アンズの恐怖を新しく上書きする。  
「ゆ、ゆるして。もうしませんから……」  
「いいよ。ケムッソ」  
 待ってましたとばかりにケムッソ達がアンズに食らいつく。  
「ひゃああああ!!やめでえええええやめでえええええたしゅけてちゅて。おとうああああん。おとうさああああああああああ」  
 美味し、旨しとアンズの両胸はケムッソの舌が溺愛する。やさしく、激しく。文字通り「餌食」にする。  
蜜とケムッソの唾液が混ざる。ハムハムといつの間にか張っていたアンズの胸をほぐす。だがケムッソが舐めるほど、  
噛むほどにアンズの乳首はケムッソの口内で反りあがった。ざらざらとした口内の壁に打ち付けられた乳首がアンズの敏感にされた神経を通りアンズの体をびくびくと跳ねあげる。  
 両の胸がケムッソのおやつにされていたとき。アンズの秘所にもう一匹のケムッソが口を開けてアンズの自前で出した「蜜」を舐める。  
「おかわりだよ」  
 もう一瓶男は取り出してアンズの胸に塗りたくる。ケムッソは狂喜してこの目の前に転がった甘い「ご馳走」を堪能する。ケムッソにとってアンズはその程度の認識でしかない。ポケモンリーグ公認のジムリーダーとは思えないほどに威厳なく。力もない。  
 そこにはアンズという女の子がいた。  
 忍者として、セキチクノジムリーダーとしての「アンズ」と同姓同名の女の子。  
「ひああああああああああああ」  
 ただ生理的な現象で支配され。ケムッソのような下級なポケモンにすら「甘い餌」でしかない。  
「あだい、あだいもうやべ、やべ、ひっ……ああいやあ」  
 プライドはボロボロ。心は空っぽ。  
「イトマル達も食べていいよ」  
 もう手足の拘束すらする必要がない。男はアンズのお尻は局所にも蜜を塗る。  
 夜が明けるまでまだ遠い。  
 
 
 
 10分ほどが過ぎた。わずかな時間、と言えばそのとおりである。しかし、ムシポケモンに凌辱され続けたアンズには途方もなく長い時間だった。  
 今、彼女の体には一匹のムシポケモンもいなかった。ただ「食べ残し」と「体液」が付着しているだけだった。男が頃合いを見てポケモンをボールに戻したのだ。  
「ひっく、ひっく……」  
 アンズの手足に拘束はない。男が逃がすかは別として逃げることはできた。だがアンズは両手を顔に当ててすすり泣くだけだった。  
 今アンズを尋問すれば何でもしゃべるだろう。それほどまでに彼女の精神は打撃を受けていた。  
「アンズちゃんさあ。さっき『お父さんに』助けを求めたよねえ」  
 アンズは体をビクリとさせた。「男」は自分よりも立場が上だと身を以て思い知らされたのだ。アンズは男の「言葉」に反応しているのではない、「声」に反応していた。  
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」  
 口から出る謝罪の言葉は意味を持たない。反射的に許しを乞いている。  
 男はアンズが聞いていないことが分かったのか。アンズの手を取って無理やり顔を出させた。  
アンズの目に怯えの色しか残っていなかった。最初に男の尋問を撥ねつけた「目」とは天と地の差があるほどに弱々しく惨めである。  
反面。男はニコニコしている。  
「ご……さい」  
 アンズは恐怖で顔を引きつらせて口をぱくぱくと動かして、聞こえないほどか細い声で何かを呟く。男はそんなアンズをまた無視して言った。  
 
「俺が君のお父さんに頼まれた。と言ったら君は信じるかな」  
 
「は?」  
 アンズの顔から恐怖が消えた。いや、すべての感情が消し飛びただ呆然と男の顔を見た。  
 男はかまわず続ける、  
「だから、今日のことは君のお父さんの依頼だってことだよ」  
「は?」  
 アンズは同じ反応を繰り返す。頭の処理が追いつかない。  
「ほらほらしっかりして」  
 気付けのつもりか男はペチペチとアンズの顔を叩いた。  
 男の行動に多少現実に引き戻されたアンズは、ぼんやりとした頭で必死に男の言葉を「曲解」しようとした。  
 
(ありえない。ありえない。そんなこと父上がするはずがない。そうだよ。あたいにそんなことしても意味ない。ありえない。そうか、こいつが言ってることは嘘だ)  
「はは、ははは嘘だ。あはは嘘だ。あはははははははははははははは」  
 涙のあとが線を作った顔で、アンズは笑った。おかしいのではない。男の言ったことがアンズにとってあまりにも残酷で冷酷でばかばかしいと「笑わなければ」いけなかった。  
「あはははははははははははははははははははははははは」  
 憑かれたようにアンズは笑う。本当に楽しそうに、嬉しそうに涙を流して、今の自分の惨めな姿すら忘れて彼女は笑った。工場内は彼女の笑い声で満ち溢れている。  
「あははは」  
 男も笑顔だ。二人は仲の良い友達のようニコニコと笑いあった。  
「それが冗談じゃないんだよ」  
 愉快そうに男がアンズの耳元でささやく。  
「君のことを知ったのも。君の『クライアントさん』に協力を取り付けて尾行『させるよう』にしむけたのも、情報の提供者がいないと無理だろう。僕があまりに手際がいいと思わなかったかい」  
「あははははははははははははあはっはっはははっはははははっははははっははっはは」  
 アンズは聞くのを断るようにさらに大きく笑った。男は声を落として続ける。  
「もう一度言うけど首謀者は君のお父さんだよ」  
 男は声を落としたはずである、なのにアンズの耳に鮮明に聞こえた。アンズの笑い声も意味をなさない。  
男は人間にとって最も聞きやすい低さで話している。  
「あはは、あは……あははは」  
 少しずつアンズの声が小さくなっていく。笑い声と引き換えにアンズの心に深い絶望が生まれていく。  
 今回の依頼には最初から疑念があった。ただ付ける。目的もわからない任務に何の意味があるだろう。まるで足りないパズルのようにもやもやとした気持ちがアンズにはあった。  
 だが男の言葉が本当ならば、全て腑に落ちる。最初から目的は自分なのだ。獲物に「つかまえますよ」と教えるハンターはいない。今いる工場もあの尾行も全部自分の為に用意された罠だったのだ。全てグルだった。  
 アンズは疑問が氷解していくことが怖かった。男の言ったことは信じれない、だが辻褄が合っている。父親への信頼と目の前の現実がアンズの心の中でせめぎあい、嘘だ、ほんとだと葛藤する。  
「……な、んで」  
 笑い終わったアンズの言葉はそれだった。父親の動機。それが納得できなければアンズの「都合のいい」ように現実を曲解できる。いやしなければならない。  
 
 アンズは無意識のうちで男の言葉を否定した。まだ男は何も言っていないが何を言おうと絶対に否定してやる。正か非かなんてどうでもいい、否定しなければならなかった。  
「君に立派な忍者になってほしいからだよ」  
「あ……」  
 男の言葉はいつも予想を超えていた。アンズが否定してやると思った言葉の中に今の男の言葉は入っていない。むしろ、否定してはならないものだった。  
 だがわからない。それとこれとの因果関係がアンズにはわからない。アンズは驚愕の目で男を見た。言うべき言葉もなくなすすべも知らない」  
「君は本当に役立たずだよねえ」  
 いきなり男は笑顔のまま毒を吐いた。  
「尾行中に音を出したのも処置なしかい?捕まった後もころころころころと怒ったり泣いたり怯えたり。挙句の果てにそんな軽武装で任務だなんて笑っちゃうよ。ああそうそう君ポケモン6匹しか持ってなかったね。馬鹿じゃないの?」  
 グサリグサリと男の言うことがアンズの心に刺さる。  
「ふ、ふぐぅ……」  
 知らず知らずのうちにアンズの頬を涙が伝う。先ほどまでの涙と意味が違う。侮辱を受けた屈辱感からくるものだ、しかしアンズはそれに言い返せない。  
 侮辱を自らが肯定すること。それは体の痛みより耐えがたものだ。だが男は容赦しない。  
「また泣き出したね。忍者のくせに。ああさっきムシポケモンに嬲られていたときも我慢できずに嬉しそうに鳴いてたねえ。そんなに楽しかった?」  
「あ、あだい嬉じぐなんか……」  
「いちいち挑発に乗っちゃうのも3流の証拠だよね。俺とおしゃべりがしたいのかな。」  
「……」  
 涙声で抗議するアンズ男は鼻で笑う。男はアンズの目を見て言った。  
「闇の世界はそんなに甘いもんじゃないよ」  
「ひっ」  
 男の表情は変わらない。それなのにアンズの体はがたがたと震えた。今までにないほどの恐怖感がアンズを包む。  
「俺ね笑ってるんじゃないんだ。この表情しかできないんだよ」  
 冷たい笑みを浮かべて男は言う。  
「俺は君のお父さんの元部下。つまり忍者だよ」  
 声の調子も変わらない。淡々と口に出す。  
「昔ねちょっとやらかしたことがあってね。今はないけどロケット団とかいうのに捕まってさ。炙り肉にされたことがあるんだ」  
 
 そう笑顔を顔に張り付けた男は言う、あまりに簡単で、あまりに軽い。だが内容はすさまじかった。  
「お肉を焼くとさ、いい匂いがするじゃない?あれって人間でも起こるんだなあってその時知ったよ。でさ、そんな俺を見て『俺を焼いたやつ』はケラケラと笑うの、それこそ楽しそうにね」  
 男はアンズの目から視線を外さない。  
「アンズちゃん」  
「はっ……はい。ま、な、なんでしょうか」」  
 いつの間にかアンズは男に敬語を使っていた。敬意を持ったというよりは話に飲まれたといったほうがいい。男は返事をせずに立ち上がった。  
男はコートを片手だけ脱いで中のシャツをまくる。  
 皮膚がなかった。  
 肌色でおおわれているはずの体がくすんだ赤銅色をはりつけその上を無数の筋肉繊維がはしっている。アンズは吐きそうになる。  
「顔はないと不便だからねえ。とりあえず移植したんだけど、上手く動かなくってさあ。まあ顔色を変えることがないから『便利』なんだけどね」  
 別世界の言葉。アンズにはそうとしか聞こえない、自分は闇の世界の住人だと思っていた自分の滑稽さが彼女にはまざまざと見せつけられた気がした。  
 男は便利という言葉を使った。アンズにそれが使えるだろうか。一語、それが男とアンズの差である。  
「アンズちゃん、忍者は人じゃないんだ。拷問も仲間の死も無表情で横を通りすぎていかないとならない。乗り越えてはだめだ。そんなものはなかったと現実から目を反らないといけない」  
 男は自嘲気味に言った。だがやはり声のトーンはかわらない。  
「常人の倫理の真逆を行く道が『こっち側だ』。アンズちゃん、君のやってきたことはお遊びなんだよ。君のお父さんはそれを俺に教えてくれるように頼んだのさ」  
 男はポンとアンズの体にコートをかけてあげた。アンズはコートを体に巻きつけるように抑え。そして泣いた。世界で一番自分が愚かでどうしようもなく  
「俺は君の道を阻むつもりは全くないよ。だけどよく考えた方がいい。……ひどいことしてごめんね」  
 男はアンズの頭に手を置いて優しくなでた。アンズは男に抱き着いて泣いた。  
 
 彼女が進む道はどちらになるのか。彼女自身まだわからない。  
 
おわり  
 
 
 

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