「温泉だー」
スズナは体にタオルだけをまいて、たたたと走っていく。
「あ、危ないですよ。スズナさん」
「へーき、へーき」
少し遅れてきた小柄の少女の名前はスモモという。彼女はスズナとは対照的にゆっくりと歩いていた。
「うひゃー」
スズナは湯船に駆け寄って、近くにあった桶で体に湯をかけた。
ここはフエンタウンの山奥。温泉街として名高い街のさらに穴場と言っていいほど山の奥にある温泉宿にスズナといスモモは来ていた。
彼女たちは世に言う「ジムリーダー」である。そうでもなければ多少の整備はされていても野生のポケモンの出る山道を超えることはできなかっただろう。
現に二人以外、温泉にはいなかった。
「星がすごいね。スモモちゃん」
星の天蓋。そういいたくなるほど空には無数の星が輝いている。
「……綺麗」
スモモはやはりゆったりとした動作で湯船に浸かる。頭には折りたたんだタオルを乗せていた。
静かな夜。山から聞こえてくるのは控えめなポケモンたちの声。
「ふぃー」
スズナはそう息を吐くと、緩んだ顔で縁石にもたれかかった。普段は結んでいる髪が湯につかり黒く光っている。
「ルカリオたちとも入れればよかったのですけどね……」
「仕方ないでしょ、ポケモン用のお風呂はほかにあるんだし」
ルカリオとはスモモのエースポケモンのことだ。だが、ここはあくまで人間用の風呂だった。
ちゃぷ。と音を出してスズナは自分の髪を弄る。とろんとした目が少しだけ「色」を彼女に付けている。
「ん……」
スモモは自分の胸に何かついていることに気が付いた。胸に手を当ててとってみるとただの葉っぱだった。温泉の熱気に当てられて柔らかくなっている。
スモモはその葉っぱを湯船から出そうとして体をひねった。
「な、なんですか」
スズナと目が合う。彼女はにやにやとスモモを見ていた。
「なんですか」
スモモは何となく気恥ずかしさを覚えて横を向いた。頬は温泉の熱気でだろうか、わずかに赤い。
「スモモちゃんも、そーゆうこと気にするお年頃なのかなー」
スズナはにやけた顔でスモモ近付いた。
「そーゆうこと?スズナさんなにいっているのですか」
スモモはスズナの近付いた半分だけ体を離した。
「だーかーらー。こーいうこと」
「ちょ、ちょっと」
スズナはスモモに飛びついた。そしてすぐに後ろに回り手をスモモの胸に当てる。
「にゃ」
スモモの体が跳ねあがる。全く予想してなかったスズナの動きに湯をざばざばとかき乱す。
「さっき、胸に手を当ててたでしょー。大丈夫だって、なんたってスモモちゃんは育ちざかりなんだから」
おもちゃを手に入れた子供のようにスズナはいたずらっぽく笑う。
「なんの話ですかー」
「照れちゃってー」
手の中でスモモが暴れることがスズナには面白かった。実際は単なる勘違いだが、スモモの少女らしい「悩み」も愛らしい。
「ちが、そうじゃなくて葉っぱ。葉っぱですよ」
スモモにとつてはいい迷惑ではある。
「なーんだ。つまらないのー」
誤解の解けたスズナは少し不機嫌そうに言った。スモモは自分の体を抱くように両肩を掴む。息は多少荒い、先ほど暴れたせいだろうか。
「つまらないって。びっくりしたんですからね」
スモモは抗議の声を出すがスズナは涼しい顔で言った。
「だって、スモモちゃんが可愛かったもん」
「かかか可愛いって。そ、そんな」
スズナはスモモのあわてる姿に新しい「趣向」を見出した。
「スモモちゃんってさー。体ちっさいし、すごく痩せてるしさー。絶対おしゃれすればもてると思うんだよねぇー」
少し語尾を伸ばした言葉は、本気が八分のいたずら二分。スズナは澄ました顔で空を見上げたようなふりをして、ちらちらとスモモを見る。
「あがが……」
顔を赤く染めてスモモは口を開けたまま言葉にならない声を出す。うろたえていることが傍目にもわかった。
スズナは面白くてたまらない。笑いが顔に出ないように、声にならないように必死にかみ殺す。スズナの肩はわずかに震えていた。
「う、うわああ」
立って逃げようとするスモモの肩にスズナは手をまわして阻止する。まだ、終わらせたくはない。
「それにさあ……」
とスズナはスモモの長所を「あげつらう」。
スモモの顔がすぐ近くにあった。スズナはその小さな耳に息を吹きかけながら「甘言」を小さく呟く。
スモモは元々ポケモン修行三昧の毎日がたたり、ほめ言葉や自分の容姿に対する言葉への耐性が全くと言っていいほどなかった。その点スズナとは天と地の差がある。
だからスモモはスズナの言葉にどう返せばいいのかわからない。顔を赤らめるのは単なる生理的現象、スモモはスズナの言葉に「打ちのめされる」ように湯船に肩を沈めて言った。
復讐してやる。
スモモは堅く誓った。「復讐」などと言っても考えていることは子供らしい仕返しである。やられたことをそのままやり返してやる。スモモの「復讐」とはその程度の物だった。
スズナは少し前にスモモを開放すると、湯船を上がって備え付けのシャンプーで髪を洗っていた。愉快そうに鼻歌を歌っている。
「ふふふ」
スモモは不敵に笑う。彼女は音を出さないように、湯船を上がるとゆっくりとスズナに近づく。
スモモは体にいちまいの葉っぱすらつけていない、来るときはタオルを巻いていたがもはやそこまで頭が回らないらしい。
すこし火照った体でスズナに近づく。
「……」
怪しく笑い。手をわきわきと動かし女の後ろに立つ姿はまさに不審者。元来真面目な彼女はそもそも自分の姿を客観的にみることが苦手だった。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、スズナは自らの黒い髪を丹念に洗っている。スモモはその様子を見て少しだけうらやましさを感じた。
「えい」
「うわ」
スモモがスズナに飛びついて胸に手を回す。
「えっ?」
声を上げたのはスモモだった。
手に弾力を感じた。スモモの手には入りきれない大きなものがあった。
「ちょ、スモモちゃん。今、か、髪を洗っているから目が開けれないんだって」
少しあわてた声をスズナは上げる。
スモモはその声にわずかに満足したが、まだ足りないような気がする。
「さっ、さっきの仕返しですよ」
スモモの声も震えていた。何となく恥ずかしい気持ちとなれないぎこちなさがスモモの声に現れていた。
彼女には余裕がない。スズナがスモモにやったことはあくまで年下を可愛がるものだったが、スモモにはそのような気持ちがない。
「やめ、スモモちゃ、」
そのまま、スモモはスズナの背中に乗るように体を預けて、スズナの胸をもむ。
「しっ、仕返しです」
さっきとあまり変わらない言葉をだしてスモモはスズナを抱きしめるように体を押し当てた。手は変わらずに胸を掴んでいる。
無意識にスモモは楽しんでいた。仕返しできたこともあるが、自分にはない張りのあるスズナの「胸」は彼女の好奇心をくすぶった。
優しく手加減して。無意識に力を入れて。スモモはスズナの胸を揉み続ける。
「あっ」
スズナは小さな声を上げた。普段より高い押し殺した声。
スズナは目が見えていない。暗闇の中で何も知らない無邪気な子供が与えてくる「刺激」を何とか押し殺そうとしている。
スズナは嫌がるように腰をひねった。スモモはいつも闊達なスズナがそんな弱気を見せたことが面白かった。彼女はトレーナーとしての手練れかもしれないが、子供である。
自分の行動がスズナになにをもたらすか知らない。
「だめですよ。スズナさん、さっきのおしおきです」
耳元でささやく声が息とともにスズナに届く。ドキリと心臓が跳ねる。
「だ、だめ、だめ」
スズナは自分の理性を保とうと、口に出した。
スモモが乳首に触れる。
「きゃ?」
「……」
大人になればこうなるのかとスモモは乳首を捏ねるように、親指で押したり引いたりと「動かしてみる」。スズナは大人ではない、スモモから見た「年上」でしかない。
だから体が未熟なのも情事に「慣れてない」のも当然だった。
「……」
スズナはスモモの両手を掴んだ。
「スズナさん……?」
スモモは急に引っ張られてスズナに抱き着かれる。スモモは体重が軽い、比較的非力なはずのスズナにも難なく捕まえられた。
「す、スズナさん」
スズナはスモモの体を自分に押し付けるように抱く。スズナは何も言わない、荒い息がスモモには聞こえた。
スズナの手がスモモの秘所に触れる。
「?!」
スモモは身をひねろうとしたが、スズナは許さない。スモモに体重を乗せてゆっくりと倒れこむ。スモモを押し倒した形になった。
スズナの手が中に入っていく。
「やめ、やめて。ごめんなさい、ごめんなさい」
今まで感じたことのない感触を感じてスモモは必死に謝った、スズナが怒っている、そう思った。
だが、違う。もはやスズナの行動は理性的なものでなく、ぼんやりとした頭で「したいこと」をしているだけなのだ。だからスモモの声を聴いているが、理解してない。
中で広げるように手を膨らませたり、爪で優しく掻くように動かす。
「……」
スモモは歯を食いしばって耐えた。痛いわけではない、何か別の感触を感じる。それを感じてしまったらダメなようなそんな気がする。
スズナは顔を下げてスモモの胸を口に咥えた。
「スズナさん!」
吸ったり、なめたりとスズナはスモモの乳首を弄ぶ。これは復讐だろうか、いやスズナはむしろ楽しんでいた、スモモは暖かい、温泉に入っていたからだろうか。
「ぴい」
スモモが変な声を出した。スズナが手を秘所から抜いたのだ。
スモモの息もスズナと同じように荒く乱れてきた。スズナはスモモの胸から口に糸を引きながら離す。
すこし、スズナは体をずらしてスモモにまたがった。そのまま顔を近づける。
怯えたスモモの顔。薄く笑うスズナの顔。共通点は赤らんでいることぐらいだろう。
スズナはスモモの両手を地面に抑えつけた。そして見つめあう。
(ばからしい)
スモモは思った。スズナに対してではない自分に対してである。目の前にあるスズナの顔。笑った顔。それがどうしてもスモモには敵意が湧かない。
スズナである。目の前の人は。
いままで何度会い、何度手合せしただろう。今更スズナがスモモに害を加えるだろうか、スモモには考えるのも「ばからしい」。
どうせいつものようにスズナはいたずらの気分でやっているのだろう。実際、スモモにはスズナが何をやっているのかはわからないが自分に危害を加えるとは思えない。
ここに至ってスモモはスズナを受け入れた。
やんわりとスモモの表情が緩む。それに合わせたようにスズナの顔が近付く。
温泉の流れる音と暖かい湯気の中で二人は唇を合わせた。
舌を絡ませるほどに深くはない、子供のそれのように短くはない。優しさにみちた甘い重なり。
スモモは柔らかい。そう思った。
おわり